05 特別区(23区)

【財政分析レポート】江東区:コロナ禍前後の比較分析(令和元年度決算→令和5年度決算)

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目次
  1. はじめに
  2. エグゼクティブサマリー
  3. ①財政指標の状況
  4. ②1人当たり一般財源等と歳出ギャップ
  5. ③義務的経費(人件費・扶助費・公債費)の構造
  6. ④投資的経費の状況と起債発行余力
  7. ⑤性質別構成比のコロナ禍4年間の構造変化(令和元年度→令和5年度)
  8. 総論:規模・人口・財政力ポジション
  9. 歳入構造の特徴
  10. 目的別歳出の主要項目分析
  11. 性質別歳出の主要項目分析
  12. 議会答弁にみる財政運営の論点
  13. 構造的特徴と戦略的示唆
  14. まとめ
  15. 参考資料

はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載数字は普通会計ベースであるほか、数字のチェックは未実施であるため、あくまで傾向分析のレポートである点に留意してください。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。


 江東区は、湾岸エリア(豊洲・有明・東雲)、深川・木場の伝統地区、東京2020大会施設群を擁する人口約53.3万人の特別区です。湾岸タワーマンションによる人口急増(直近5年で約3万人増)と子育て世帯の流入という人口特性、臨海部の物流・データセンター、豊洲市場、五輪レガシー施設という産業特性を持ち、特別区23区の中では「中堅区」グループに位置づけられます。

 本分析は、財政指標・一般財源等のギャップ・義務的経費・投資的経費・コロナ禍4年間の構造変化の5軸で江東区固有の財政運営の現状と中期論点を整理し、区の経営方針との突合、議会・予算編成過程にみる論点整理を経て、戦略的示唆へ接続します。なお、構成比は当該年度の決算総額に占める割合、金額は原則として億円単位(小数第1位まで)に丸めて表記し、構成比の差(ポイント)や変化率は丸め後の表示数値から算出しているため、端数処理の関係で内訳と合計等が一致しない場合があります。マイナスの数値は▲で表記します。また、本分析は令和元年度と令和5年度の両端比較であるため、令和2〜4年度に生じた特別定額給付金・ワクチン接種・検査体制等によるコロナ対応経費のピークとその縮小は捨象されている点に留意が必要です。

エグゼクティブサマリー

 コロナ禍4年間の江東区財政を一言で要約すれば、「高い弾力性と厚い基金を保ちながら、給付・委託・都支出金で歳出を膨らませ、湾岸投資の本格再来を待つ4年間」です。歳出総額は+18.0%(+356億円)拡大しましたが、最も注目すべきは経常収支比率が75.2%→73.1%(▲2.1ポイント)とさらに改善し、コロナ前から23区平均を下回っていた弾力性を一段と高めた点です。積立金フローは9.75%→8.28%(▲1.47ポイント)へ細ったものの、なお特別区平均を2.21ポイント上回る厚みを維持しており、「健全性と余力を保ったままコロナ禍を乗り切った4年間」という評価が妥当です。歳入面では都支出金が+65.7%と急増して構成比10.70%に達し、国・都の制度設計への連動性が一段と高まりました。

 本版で区の公表物と突合すると、この4年間は江東区にとって「投資の谷」に当たります。投資的経費は9.70%→7.48%(▲2.22ポイント)へ低下しましたが、これは需要の消滅ではなく、施設更新の財政負担ピーク(区の公共施設等総合管理計画で令和15〜20年度と予測)と、令和6年11月に工事着手した地下鉄8号線(有楽町線)延伸(豊洲〜住吉)という大型投資を前にした一時的な窪みです。湾岸タワーマンションによる児童数急増は有明・東雲・豊洲地区で学校の新設・増築需要を生み続けており、令和8年度一般会計当初予算は2,927億円(前年度比5.1%増・区制80周年)と過去最大を更新しました。江東区のコロナ後の課題は「健全性の回復」ではなく、「コロナ禍で温存した弾力性と基金を、これから訪れる湾岸投資の山にどう計画的に振り向けるか」という、成長区ならではの資源配分にあります。

①財政指標の状況

 江東区の主要財政指標は、総務省「地方公共団体の主要財政指標一覧」令和元年度・令和5年度版および公益財団法人特別区協議会「特別区の統計」に基づき、特別区23区単純平均と比較すると以下の構造にあります。

財政力指数

 令和元年度0.49→令和5年度0.50(+0.01、23区平均0.581→0.571、▲0.010)です。江東区がわずかに上昇する一方で23区平均は低下しており、相対的な位置は改善方向にあります。人口急増に伴う基準財政需要額の伸びを、湾岸開発を背景とした特別区税・財調収入の伸びがほぼ相殺した構図と読み取れます。

経常収支比率

 75.2%→73.1%(▲2.1ポイント、23区平均78.83%→76.18%、▲2.66ポイント)です。コロナ前から特別区平均を下回っていた弾力性が、4年間でさらに高まりました。平均との乖離は令和元年度の▲3.63ポイントから令和5年度の▲3.08ポイントへと、有利な方向を維持しています。分母となる経常一般財源(特別区税・特別区交付金・地方消費税交付金等)の増加が、扶助費等の経常経費の増加を上回って作用したことが背景にあり、23区でも弾力性の高い部類にある点が江東区財政の強みです。

実質公債費比率

 ▲4.0%→▲2.8%(+1.2ポイント、23区平均▲3.06%→▲2.34%、+0.72ポイント)です。数値上は上昇しましたが、マイナス値は実質的な公債費負担が標準財政規模との対比で事実上ゼロ以下であることを意味し、23区平均も同方向に動いていることから、江東区固有の悪化ではなく算定構造上の共通要因による変動と整理できます。地方財政健全化法の早期健全化基準25%とは比較にならない健全水準が継続しています。

将来負担比率

 地方債残高等の将来負担額を基金等の充当可能財源等が上回っているため、比率が算定されない(公表上「-」表記となる)状況が23区全区でコロナ禍4年間を通じて継続しています。市区町村の早期健全化基準(350%)とは比較にならない健全水準です。

ラスパイレス指数

 99.2→98.5(▲0.7、23区平均99.80→98.63)で、国家公務員給与水準(=100)にわずかに接近しました。ラスパイレス指数は地域手当等を含まない給料ベースの比較である点には留意が必要ですが、23区内では標準的な水準にあります。

②1人当たり一般財源等と歳出ギャップ

 令和5年度の江東区の歳入総額は2,423.2億円、歳出総額は2,331.9億円であり、4年間で歳入は+395億円・+19.5%、歳出は+356億円・+18.0%拡大しました(参考:特別区23区合計では歳入+20.0%・歳出+19.5%)。特別区税構成比25.54%・特別区財政調整交付金構成比28.25%(令和元年度31.75%、▲3.50ポイント)との組み合わせで一般財源を確保する構造です。人口急増を背景に、特別区税は+13.9%(特別区平均+9.9%)と平均を上回る伸びを示した点が、多くの区と異なる江東区の特徴です。

 足元では、令和8年度一般会計当初予算が2,927億円(前年度比142億円・5.1%増)と過去最大を更新しました。区はこれを、区民一人ひとりの「今」に寄り添ったきめ細やかな施策を展開するとともに、区制80周年を迎える節目にこれまでの歩みをさらに先へ進める予算と位置づけ、編成テーマに「一人ひとりの『今』に寄り添い 歩みを進め、笑顔輝く未来へ」を掲げています。子育て支援・超高齢社会への対応・公共施設の維持更新・成長戦略となる社会資本整備など多様な行政需要を抱える中で、先行き不透明な景気動向や国による不合理な税制改正の影響を受け、歳出に対し一般財源等が不足しやすい財政環境の継続が想定されます。歳出と一般財源等のギャップへの対応として、財政基金の戦略的活用と歳入確保策の両面が中期的論点となります。

③義務的経費(人件費・扶助費・公債費)の構造

 義務的経費は人件費・扶助費・公債費の3項目で構成され、江東区の令和5年度実績は人件費257.5億円(構成比11.04%)、扶助費797.5億円(同34.20%)、公債費21.5億円(同0.92%)、合計46.16%の水準です。特別区平均は人件費12.93%・扶助費31.74%・公債費1.27%の合計45.94%であり、江東区の義務的経費合計は特別区平均比+0.22ポイントとほぼ平均並みです。

人件費

 令和元年度12.68%→令和5年度11.04%へ▲1.63ポイント縮小しました。令和2年度の会計年度任用職員制度の導入により非常勤職員の報酬等が物件費から人件費へ編入される押し上げ要因があったにもかかわらず構成比が低下しており、常勤職員ベースの実質的な縮減は表示上の数値より大きいと解釈できます。

扶助費

 33.86%→34.20%へ+0.34ポイント拡大しました。コロナ禍の臨時給付金の多くは補助費等に計上されるため、扶助費の増加は一時要因ではなく、児童福祉・障害福祉・生活保護等の法定扶助の構造的な積み上がりが主因です。

公債費

 1.20%→0.92%へ▲0.28ポイント縮小しました。長年の起債抑制と着実な償還努力の蓄積が、コロナ禍においても将来世代への負担軽減として作用し続け、後述する起債発行余力の源泉となっています。

 義務的経費は法定義務の性格上抑制余地が限定的ですが、人件費は業務量変化に対応した適正水準への調整、扶助費は給付プロセスの効率化(資格審査・AI・RPA活用)が現実的な改善余地となります。

④投資的経費の状況と起債発行余力

 令和5年度の江東区の投資的経費(普通建設事業費+災害復旧事業費)は174.5億円(構成比7.48%)であり、特別区平均比▲5.59ポイントの位置にあり、令和元年度の191.7億円(構成比9.70%)から▲9.0%・▲2.22ポイントと低下しました。平成期からの長期トレンドでは「投資から給付へ」が地方財政の大潮流でしたが、江東区の直近4年間はこれに加えて、次の投資の山を前にした「投資の谷」に当たります。

 今後の投資需要には固有の二面性があります。一方には、高度経済成長期に整備された区有施設の一斉老朽化への対応があり、江東区公共施設等総合管理計画(平成29年3月策定・令和6年度末見直し)では改築・更新による財政負担のピークを令和15〜20年度と予測しています。他方には、湾岸タワーマンションによる児童数急増を受けた有明・東雲・豊洲地区の学校の新設・増築という、23区でも少数派の「増える区」ならではの需要があります。さらに、令和6年11月に工事着手した地下鉄8号線(有楽町線)延伸(豊洲〜住吉)が加わり、施設更新・学校新設・鉄道延伸の三重の投資需要が中期に立ち上がります。

 起債発行余力は十分に温存されています。実質公債費比率▲2.8%・公債費構成比0.92%・地方債構成比1.34%という低水準は、今後の投資の山に対して起債を計画的に活用する余地が大きいことを示します。世代間負担調整の論理に基づく計画的な起債活用を、毎年度の公債費増加が新規事業の一般財源を圧迫しない範囲に収める仕組みとして中期財政運営に組み込むことが、起債活用と財政健全性両立の要諦となります。

⑤性質別構成比のコロナ禍4年間の構造変化(令和元年度→令和5年度)

 江東区の歳出構造は令和元年度から令和5年度の4年間で変容しました。性質別構成比の主要項目を比較すると、以下の通りの変動が見られます。

人件費

 12.68%から11.04%(▲1.63ポイント)へと縮小しました。

物件費

 18.54%から20.23%(+1.70ポイント)へと拡大しました。

扶助費

 33.86%から34.20%(+0.34ポイント)へと拡大しました。

補助費等

 5.50%から9.35%(+3.85ポイント)へと拡大しました。

普通建設事業費

 9.70%から7.48%(▲2.22ポイント)へと縮小しました。

公債費

 1.20%から0.92%(▲0.28ポイント)へと縮小しました。

積立金

 9.75%から8.28%(▲1.47ポイント)へと縮小しました。

 総じて「人件費・公債費・積立金の縮小と、物件費・扶助費・補助費等の拡大」というコロナ禍特有の構造調整パターンを、江東区も特別区共通の傾向に沿って経験しました。目的別では、土木費が4.83%→4.80%、消防費が1.86%→1.76%とほぼ横ばいで推移する一方、教育費が18.87%→17.29%(▲1.58ポイント)と低下し、衛生費が7.21%→9.42%(+2.22ポイント)、民生費が53.12%→54.58%(+1.46ポイント)と上昇しました。「ハードからソフトへ」「投資から給付へ」「人件費から委託料へ」という地方財政の大潮流に、コロナ禍に伴う「衛生・給付への重点シフト」と「都支出金の急拡大による移転財源依存の上昇」が重なって4年間に凝縮して進行した一方、投資的経費と積立金がそろって低下し「谷」を形成した点が、この期間の江東区固有の特徴です。

総論:規模・人口・財政力ポジション

基礎情報と23区内ポジション

 江東区は、湾岸エリア(豊洲・有明・東雲)、深川・木場の伝統地区、東京2020大会施設群を擁する人口約53.3万人の特別区です。区域には、臨海部の物流・データセンター集積、豊洲市場、五輪レガシー施設、内陸の下町住宅市街地が共存し、水彩都市の景観と先端的な湾岸開発が一体となった都市を形成しています。湾岸タワーマンションによる人口急増(直近5年で約3万人増)と子育て世帯の流入が人口動態の特徴です。

 23区内では「中堅区」グループに分類され、財調への依存度が比較的高く、扶助費需要も人口規模に応じて相応に高水準となる財政構造を持つ区に該当します。湾岸開発に伴う行政需要の急増、臨海部の交通・防災インフラ、五輪レガシー施設の活用、児童数急増に対応する学校の新設・増築という固有課題への対応が、江東区の財政運営における最大の中期論点となります。

江東区の経営方針

 江東区の経営方針は、最上位計画である江東区基本構想を頂点に、江東区長期計画(後期:令和7年度〜令和11年度)、江東区長期計画の展開、江東区行財政改革計画、江東区公共施設等総合管理計画(平成29年3月策定・令和6年度末見直し)、江東区職員定数計画等の複数の計画体系で構成されており、これらの一体運用により持続可能な自治体経営の実現を目指しています。

基本構想

 江東区基本構想は、区民生活・まちづくりの最上位指針として将来像を描く長期ビジョンです。掲げる将来像は「みんなでつくる伝統、未来 水彩都市・江東」(平成21年策定、おおむね20年後を展望)であり、湾岸エリア・深川木場の伝統地区・東京2020大会施設群という地域特性を活かしつつ、人口増加と超高齢社会の進展の同時進行を見据えた区政運営の理念を示しています。

基本計画(実施計画を含む)

 江東区長期計画(後期:令和7年度〜令和11年度)は基本構想を実現するための中期的な施策体系を示すもので、政策・施策・事務事業の階層構造で整理され、子育て支援・教育環境整備・福祉・防災・地域経済振興・環境・行政経営の各分野でKGI・KPIを設定しPDCAサイクルによる進捗管理を行う構造です。これを具体化する江東区長期計画の展開が、各年度予算編成と直結する事業ベースの実行計画として機能しています。令和8年度予算における重点施策(全世代対応のきめ細やかな施策、防災・地域活性化・DX、東京辰巳アイスアリーナの活用、臨海部の障害福祉施設整備等)も、長期計画の方針と直結した政策展開です。

行財政改革・経営改革の取組

 江東区は、江東区行財政改革計画を策定し、ICT・RPA・AI活用とフレキシブルな働き方を含む行財政改革を推進しています。コロナ禍はこのDX・業務改革を加速させる契機ともなりました。湾岸タワーマンションによる人口急増、五輪レガシー施設の活用、データセンター集積といった新都市需要という固有特性を踏まえつつ、組織力向上・業務効率化・公共施設マネジメント・財政基盤強化等を柱とした経営改革を進めています。

公共施設の総合的・計画的管理

 江東区も特別区共通の課題として、高度経済成長期に急激な人口増加へ対応するため整備された公共施設の一斉老朽化に直面しており、江東区公共施設等総合管理計画(平成29年3月策定・令和6年度末見直し)に基づき、改築・更新による財政負担のピークを令和15〜20年度と見込んで平準化を進めています。加えて、湾岸部では児童数急増に対応した学校の新設・増築という「増やす」側の需要が並存しており、総量抑制を基調とする多くの区とは異なる施設マネジメントが求められます。

職員定数の管理

 江東区が直面する経営課題の一つが、江東区職員定数計画に基づく職員定数の管理です。多様化・複雑化する行政需要に対応する業務量の増加と、定年退職の増加・採用環境の悪化に伴う職員確保の困難という需給ギャップへの対応が求められています。人口が増える区であることは、需要面で業務量をさらに押し上げる要因となります。

特別区職員採用を巡る環境

 特別区人事委員会が実施するⅠ類採用試験の申込者数・倍率は長期的な低下傾向にあります。平成22年度には申込者19,910人・倍率7.6倍であったものが、令和6年度には申込者5,179人・倍率2.1倍まで低下しており、人材確保の困難さが23区共通の構造的課題となっています。

区の対応と重要性

 これに対し区は、人材確保(採用数の増加・長く働き続けられる環境整備・会計年度任用職員の活用)と業務量最適化(事務事業の見直し・民営化・委託化・DX推進・業務改革)の両面から対応を進めており、財政運営の質を支える「ヒト」という経営資源の確保が、令和9年度以降の予算編成における最重要視点となります。

財政運営の目標値と実績の突合

 本版で新たに、区が公表物・計画で示す考え方とコロナ禍を経た実績を突き合わせます。江東区は数値目標を前面に掲げた中期財政計画を持たないため、ここでは区の公表する方針・実績を「区の物差し」として用います。

財政の弾力性:経常収支比率75.2%→73.1%と一段の改善

 江東区の経常収支比率は、コロナ前の75.2%からコロナ後の73.1%へ▲2.1ポイント改善し、もともと特別区平均を下回っていた弾力性を一段と高めました。歳出が+18.0%拡大する局面でなお弾力性を保った点は、経常一般財源の伸びと人件費・公債費の抑制が同時に効いた結果です。政策的経費に振り向け得る財源の厚みは江東区の明確な強みですが、今後の湾岸投資と給付拡充が並走する令和8年度以降、この弾力性をどの水準で維持するかが前提課題となります。

基金の厚み:積立金フロー9.75%→8.28%と細るも平均超を維持

 積立金フローはコロナ・物価高対応の中で9.75%→8.28%へ▲1.47ポイント細りましたが、なお特別区平均(6.07%)を2.21ポイント上回る厚みを保っています。とりわけ地下鉄8号線の建設と沿線まちづくりの財源に充てる基金は平成22年度から計画的に積み立てられ、令和8年度末には累計約120億円に達する見込みです。フローの細りが続けば湾岸投資ピーク期にストックの優位が侵食されるため、基金積立フローを中期的に再び引き上げることが令和9年度以降の予算編成における重要論点です。

特別区債・起債余力:低水準の温存と湾岸投資への戦略的活用

 実質公債費比率▲2.8%・公債費構成比0.92%・地方債構成比1.34%という低水準は、江東区が長年の起債抑制により発行余力を十分に温存してきたことを示します。コロナ禍4年間で投資的経費が「谷」となった一方、施設更新(令和15〜20年度ピーク)・学校新設・地下鉄8号線という投資の山が控える中、この余力を世代間負担の公平の観点から計画的に活用する局面へ移行するかが実質的な論点です。

行財政改革計画:コロナ禍のDX加速と次期改革への接続

 江東区行財政改革計画は、ICT・RPA・AI活用とフレキシブルな働き方を柱としてきました。コロナ禍は在宅勤務・オンライン化・給付事務のデジタル化を一気に押し進める契機となり、人口増加局面での業務量増を定員を大きく増やさずに吸収する取組が加速しました。計画期間の区切りを迎えるにあたり、扶助費効率化・公共施設マネジメント・基金起債運用・DX推進・人材確保・税源対策を一体的に束ねた次期改革への接続が、中期の重要論点となります。

歳入構造の特徴

 令和5年度の江東区歳入総額2,423.2億円の主要項目を、構成比・特別区平均との差・令和元年度→令和5年度の4年間変化率の3軸で分析します。歳入総額は令和元年度の2,028.1億円から+19.5%増加しました。

特別区税(構成比25.54%・618.8億円)

 特別区税構成比は特別区平均(25.31%)と比較して+0.23ポイントの位置にあり、自主財源基盤を一定程度確保しています。4年間の変化率は+13.9%(特別区平均+9.9%)と平均を上回り、令和元年度の543.5億円から令和5年度の618.8億円へ増加しました。構成比は26.80%→25.54%へ▲1.26ポイント低下しましたが、これは都支出金等の移転財源が急拡大した裏返しであり、実額では人口急増を背景に平均を上回る伸びを確保しています。

特別区財政調整交付金(構成比28.25%・684.6億円)

 特別区財政調整交付金構成比は特別区平均(24.75%)比+3.50ポイントの位置にあり、財調制度の動向が江東区財政に相対的に大きく作用する構造です。4年間の変化率は+6.3%(特別区平均+10.0%)で、令和元年度の644.0億円から令和5年度の684.6億円へ推移しました。制度面では、固定資産税・市町村民税法人分等の調整税等を東京都が都税として徴収し、その一定割合を各区の需要算定に基づき配分する仕組みであり、分析対象の令和5年度時点の配分割合は55.1%でした。その後、児童相談所運営の本格化等を背景とする都区合意により令和7年度から56%へ引き上げられ、併せて特別交付金の割合も5%から6%に変更されており、今後の歳入見通しの重要変数として作用します。

国庫支出金(構成比16.94%・410.4億円)・都支出金(構成比10.70%・259.4億円)

 国庫支出金は令和元年度339.6億円→令和5年度410.4億円へ+20.8%増加し、構成比は16.75%→16.94%へ+0.19ポイント上昇しました。都支出金は令和元年度156.5億円→令和5年度259.4億円へ+65.7%と急増し、構成比は7.72%→10.70%へ+2.99ポイント上昇しています。これは、東京都が広域自治体として実施したコロナ関連支援策・物価高対策・子育て支援策(高校生等医療費助成の開始等)の補助金フローが、区を経由して住民に届けられた構造変化を示しており、コロナ禍4年間で最も大きく動いた歳入項目です。国・都の負担金を伴う法定扶助には区の一般財源負担(裏負担)が組み込まれているため、移転財源の拡大は区の経常負担の拡大と表裏一体である点に留意が必要です。

地方消費税交付金・寄附金・地方債

 地方消費税交付金は令和元年度99.0億円→令和5年度141.3億円へ+42.7%増加し、消費税率10%への引き上げ効果の通年化が歳入を下支えしました。寄附金は令和元年度2.4億円→令和5年度5.6億円で、令和5年度決算時点では小規模ですが、区は令和6年10月から返礼品付きふるさと納税を本格化させ、豊洲市場を背景とする返礼品で令和6年度受入額を約62億円(全国上位20団体)まで急拡大させています。もっとも、住民税控除による流出は湾岸の高所得層を中心に受入を上回る規模で進行しており、法人住民税の一部国税化と合わせた不合理な税源偏在是正措置による一般財源毀損は、特別区共通の中期論点として、特別区長会・東京都との連携による制度抜本見直し要求が継続されています。地方債は令和元年度5.5億円→令和5年度32.5億円へ推移し、構成比は0.27%→1.34%(特別区平均2.05%)の位置にあります。

目的別歳出の主要項目分析

 令和5年度の江東区歳出総額2,331.9億円を目的別に主要項目で分析します。歳出総額は令和元年度の1,975.5億円から+18.0%増加しました。

民生費(構成比54.58%・1272.7億円)

 社会福祉・児童福祉・老人福祉・生活保護等の福祉関連経費で、歳出総額の最大費目であり扶助費の大部分を含みます。令和5年度の構成比54.58%は特別区平均50.79%と比較して+3.79ポイント、4年間の変化率は+21.3%(特別区平均+17.0%)で、令和元年度の1,049.4億円から令和5年度の1,272.7億円へ推移しました。構成比は53.12%→54.58%へ+1.46ポイント上昇しています。湾岸タワーマンションによる人口急増と子育て世帯の流入を反映し、児童福祉費・生活保護費・障害福祉サービス費・児童手当等の法定扶助の累積が民生費全体を押し上げています。

総務費(構成比9.79%・228.3億円)

 内部管理・庁舎管理・人事・徴税・選挙・統計調査・DX投資等を含みます。令和5年度の構成比9.79%は特別区平均13.17%と比較して▲3.38ポイント、4年間の変化率は▲0.4%で、令和元年度の229.1億円から令和5年度の228.3億円へほぼ横ばいです。構成比は11.60%→9.79%へ▲1.81ポイント低下しました。歳出総額が+18.0%拡大する中での総務費横ばいは内部管理コストの抑制を示す一方、DX投資・庁内システム刷新の必要性を考慮すると、戦略的な総務費配分の継続的な見直しが論点となります。

教育費(構成比17.29%・403.3億円)

 学校教育・社会教育・保健体育を含みます。令和5年度の構成比17.29%は特別区平均14.28%と比較して+3.01ポイントと平均を大きく上回り、4年間の変化率は+8.2%(特別区平均+20.9%)で、令和元年度の372.8億円から令和5年度の403.3億円へ推移しました。構成比は18.87%→17.29%へ▲1.58ポイント低下しましたが、これは民生費・衛生費の伸びに構成比を譲ったもので、実額は増加しています。GIGAスクール構想下のICT環境整備、学校改築、給食費無償化に加え、湾岸部の児童数急増に対応した学校の新設・増築需要が、中期的な教育費の増勢を規定します。

衛生費(構成比9.42%・219.8億円)

 保健衛生・環境衛生・清掃・公衆衛生を含みます。令和5年度の構成比9.42%は特別区平均8.10%と比較して+1.32ポイント、4年間の変化率は+54.4%(特別区平均+39.2%)と大きく増加し、令和元年度の142.4億円から令和5年度の219.8億円へ推移しました。構成比は7.21%→9.42%へ+2.22ポイント上昇しており、コロナ禍における保健所機能の強化・予防接種事業の拡大・公衆衛生体制の構築が反映されています。なお令和5年度は5類移行年度であり、両端比較の性質上、令和3〜4年度のピーク時の衛生費はさらに高水準であった点に留意が必要です。

土木費・商工費・消防費・公債費

 土木費(道路・橋りょう・公園・都市計画・住宅)は令和元年度95.5億円→令和5年度112.0億円へ+17.3%増加し、構成比は4.83%→4.80%(特別区平均9.29%)の位置にあります。地下鉄8号線(有楽町線)延伸(豊洲〜住吉)の令和6年11月工事着手により、維持管理フェーズにあった土木費が再び投資局面へ転じる可能性があります。商工費は令和元年度15.1億円→令和5年度23.4億円へ+54.4%増加し、コロナ禍で打撃を受けた中小企業支援・商店街振興施策が反映されています。消防費は令和元年度36.7億円→令和5年度41.0億円へ+11.7%変化しました。公債費は令和元年度23.7億円→令和5年度21.5億円へ▲9.2%減少し、構成比は1.20%→0.92%へ▲0.28ポイント低下、長年にわたる起債抑制と着実な償還努力の継続を反映しています。

性質別歳出の主要項目分析

人件費(構成比11.04%・257.5億円)

 人件費構成比は特別区平均12.93%比▲1.89ポイントです。令和元年度の12.68%から令和5年度の11.04%へ▲1.63ポイント低下し、絶対額は250.4億円→257.5億円(+2.8%)と推移しました。会計年度任用職員制度の導入で非常勤職員の報酬等が物件費から人件費へ編入された押し上げ要因を踏まえると、常勤職員ベースの実質的な縮減はさらに大きいと解釈できます。ラスパイレス指数98.5(4年間で▲0.7)は国家公務員給与水準との対比を示し、職員給与の中期的最適化が論点の一つとなり得ます。

扶助費(構成比34.20%・797.5億円)

 扶助費は特別区平均31.74%を+2.46ポイント上回る位置にあり、絶対額は令和元年度の668.9億円から令和5年度の797.5億円へ+19.2%増加、構成比は33.86%→34.20%へ+0.34ポイント上昇しました。生活保護費・障害福祉サービス費・児童手当・子ども子育て給付等の法定扶助が中心です。コロナ禍の臨時給付の多くは補助費等に計上されたため、この期間の扶助費増加は一時要因ではなく構造的な積み上がりであり、コロナ収束後も水準が戻らない性質のものです。義務的経費として抑制余地は限定的であり、給付プロセスの効率化(資格審査の精度向上、AI・RPAによる事務自動化、自立支援強化)が現実的な改善余地となります。

物件費(構成比20.23%・471.8億円)

 業務委託料・指定管理料・情報システム経費等で構成され、特別区平均18.39%比+1.84ポイントです。令和元年度18.54%→令和5年度20.23%へ+1.70ポイント上昇し、絶対額は366.2億円→471.8億円(+28.8%)と拡大しました。コロナ対応の業務委託費、GIGAスクール関連の運用経費、電力・ガス・燃料費の高騰、各種システム経費の拡大が複合的に作用しています。会計年度任用職員制度による人件費への振替を踏まえると実質的な増勢はさらに強く、物価高騰局面の継続を踏まえると、業務委託の単価・仕様の定期的な見直し、施設運営コストの最適化、周辺自治体との共同調達が中期的な改善余地となります。

公債費・積立金・普通建設・繰出金

 公債費は特別区平均1.27%比▲0.35ポイントで、実質公債費比率▲2.8%は早期健全化基準25%を大幅に下回り、長年の起債抑制と着実な償還努力の蓄積が将来世代への負担軽減に直結しています。積立金構成比は8.28%(特別区平均6.07%比+2.21ポイント)で、令和元年度9.75%→令和5年度8.28%へ▲1.47ポイント低下しました。フローは細ったものの、なお特別区平均を上回る厚みを維持しており、基金積立フローを中期的に再び引き上げる目標化が令和9年度以降の予算編成における重要論点です。普通建設事業費は特別区平均13.07%比▲5.59ポイント、令和元年度9.70%→令和5年度7.48%へ▲2.22ポイント低下し、絶対額は191.6億円→174.5億円(▲8.9%)と「谷」を形成しました。繰出金は国民健康保険・後期高齢者医療・介護保険等の特別会計への繰出が中心で、構成比は7.60%→7.48%(特別区平均7.87%)の位置にあり、高齢化に伴う保険給付の構造増を反映した「第二の義務的経費」として中期財政運営の与件と位置づけるべき費目です。

議会答弁にみる財政運営の論点

 本版で新たに、江東区議会の予算審査特別委員会・区の予算案発表資料等から、財政運営に関する直近の論点を整理します。引用はいずれも要旨であり、正確な内容は区議会の公式会議録および区の公表資料をご確認ください。

論点①:ふるさと納税・税源偏在と「選ばれるまち」戦略

 令和7年度予算審査特別委員会では、ふるさと納税の返礼品を通じて江東区の魅力を全国に発信し、シティブランディングを進めて「選ばれる」まちを目指す方策が取り上げられました。江東区は令和6年10月から返礼品付きふるさと納税を本格化させ、豊洲市場を背景とする食品等の返礼品で令和6年度の受入額を約62億円(全国の受入額上位20団体)まで伸ばしており、23区では受入を積極的に開拓する側に立ちます。もっとも、住民税控除による流出は湾岸の高所得層を中心に受入額を上回る規模で進行しており、法人住民税の一部国税化・地方消費税の清算基準見直しと合わせた不合理な税制改正の影響と併せて、区の一般財源を構造的に毀損しています。受入拡大という「攻め」と、特別区長会「ふるさと納税制度に対する特別区の主張」(令和7年8月)に沿った制度見直し要求という「守り」の両輪をどう進めるかが、議会審議の継続的な論点です。

論点②:予算編成と行財政改革・財政運営の持続可能性

 コロナ後の令和7年度・令和8年度と2年連続で当初予算が過去最大を更新し(令和7年度2,784億円余・約9.5%増、令和8年度2,927億円・5.1%増)、予算特別委員会では今後の財政運営、行財政改革、事務事業評価のあり方が会派を横断して取り上げられました。人口が増える区であるがゆえに歳入も伸びる一方、それを上回る速度で子育て・教育・福祉・防災・湾岸インフラの需要が拡大しており、増収を新規・拡充事業にどこまで振り向け、どこで基金・起債の規律を利かせるかが問われています。コロナ禍で細った積立フロー(9.75%→8.28%)の回復と、経常収支比率73.1%という弾力性の維持が、行財政改革と財政運営の接続点として審議の焦点となります。

論点③:地下鉄8号線(有楽町線)延伸と湾岸まちづくりに伴う財政需要

 地下鉄8号線(有楽町線)の延伸(豊洲〜住吉)は、令和4年3月の鉄道事業許可、令和6年6月の都市計画決定を経て、令和6年11月に工事着手し、2030年代半ばの開業を目指す江東区最大級のプロジェクトです。(仮称)枝川駅・(仮称)千石駅の2つの中間新駅を含む沿線まちづくりと一体で進められ、区は建設・まちづくりの財源に充てる基金を平成22年度から計画的に積み立て、令和8年度末には累計約120億円に達する見込みです。コロナ禍4年間で「谷」となった投資的経費は、この鉄道延伸と施設更新の財政負担ピーク(令和15〜20年度)、湾岸部の学校新設が重なることで、中期に大きな山を迎えます。三つの投資需要をどう重ね合わせ、温存した弾力性・基金・起債余力をどの順序で振り向けるかが、中期財政運営上の最大の焦点となります。

構造的特徴と戦略的示唆

 本分析の総まとめとして、江東区財政の構造的な特徴・構造的な課題・対応の方向性の3軸で論点を整理します。

構造的な特徴

特徴①:主要財政指標の総合評価

 江東区の主要財政指標を総合評価すると、財政力指数0.50(23区平均0.571比▲0.07)・経常収支比率73.1%(23区平均76.18%比▲3.08ポイント)・実質公債費比率▲2.8%(23区平均▲2.34%比▲0.46ポイント)・ラスパイレス指数98.5(23区平均98.63比▲0.13)の組み合わせから、財調依存度は高いものの弾力性は23区上位という江東区固有のポジションが浮かび上がります。コロナ禍4年間で経常収支比率がさらに改善した点が、この期間の最も明確な特徴です。

特徴②:歳入構造とコロナ禍4年間の変化

 江東区の歳入構造は、特別区税構成比25.54%(特別区平均比+0.23ポイント)、特別区財政調整交付金構成比28.25%(同+3.50ポイント)、国庫支出金16.94%・都支出金10.70%の組み合わせで構成されます。コロナ禍4年間で最も顕著な変化は都支出金構成比の上昇(7.72%→10.70%、+2.99ポイント)であり、国・都の制度設計への依存度が高まった点が特徴です。一方、特別区税は+13.9%と平均を上回る伸びを示し、人口急増を背景とした自主財源の成長が確認できます。

特徴③:義務的経費の構造

 令和5年度の義務的経費(人件費・扶助費・公債費の3項目)は合計46.16%であり、特別区平均45.94%とほぼ同水準です。4年間で人件費構成比は▲1.63ポイント、扶助費構成比は+0.34ポイント、公債費構成比は▲0.28ポイント変動し、扶助費が平均を上回る一方で人件費・公債費の低さがこれを相殺する給付重心・低債務型の構造です。

特徴④:投資的経費の動向と起債発行余力

 投資的経費(普通建設事業費+災害復旧事業費)は構成比7.48%(特別区平均13.07%比▲5.59ポイント)で、4年間で9.70%→7.48%へ▲2.22ポイント低下し「谷」を形成しました。実質公債費比率▲2.8%・地方債1.34%の組み合わせは、施設更新・学校新設・地下鉄8号線という投資の山に対する起債発行余力が十分に温存されていることを示します。

特徴⑤:基金のストックとフローの非対称

 積立金フローは9.75%→8.28%へ細りましたが、なお特別区平均を2.21ポイント上回る厚みを維持しています。地下鉄8号線基金(累計約120億円)に代表される目的基金の計画的造成に支えられ、ストックの余力は温存されている一方、フローはコロナ・物価高対応で細ったという非対称が、この期間の江東区財政の姿です。

構造的な課題

課題①:扶助費の継続的増加圧力と財政硬直化

 扶助費構成比34.20%は特別区平均を+2.46ポイント上回り、4年間で絶対額は668.9億円→797.5億円(+19.2%)と拡大しました。生活保護費・障害福祉サービス費・児童手当・子ども子育て給付等の法定扶助の累積増が今後も継続する見込みであり、義務的経費の性格上抑制余地が限定的なため、弾力性を徐々に侵食する財政の硬直化要因となります。

課題②:公共施設老朽化・湾岸新設と投資的経費の本格化

 高度経済成長期に集中整備された区有施設の一斉老朽化が進み、財政負担のピークは令和15〜20年度と見込まれます。加えて湾岸部の学校新設・増築と地下鉄8号線延伸が重なり、コロナ禍で「谷」となった投資的経費は中期に大きな山を迎えます。二方向(更新・新設)の投資需要の重ね合わせと財源計画の規律が中期論点です。

課題③:物件費・補助費等の構造的拡大

 物件費構成比は令和元年度18.54%から令和5年度20.23%へ+1.70ポイント、補助費等構成比は5.50%→9.35%へ+3.85ポイントと拡大しました。コロナ対応・物価高騰局面の継続により、業務委託の長期契約化と合わせて実質的な抑制余地が限定的です。

課題④:ふるさと納税流出と法人住民税国税化による財源毀損

 返礼品による受入開拓(令和6年度約62億円)がある一方、住民税控除による流出は湾岸の高所得層を中心に受入を上回る規模で進行しており、23区全体の流出は令和6年度に初めて1,000億円を超えました。財調依存度の高い江東区には、法人住民税の一部国税化による財調原資の毀損も含めて二重の影響が及ぶため、特別区長会・東京都との連携による制度抜本見直し要求の継続が必要です。

課題⑤:職員定数管理と業務量増加の需給ギャップ

 多様化・複雑化する行政需要に対応する業務量の増加と、定年退職の増加・採用試験倍率の低下(平成22年度7.6倍→令和6年度2.1倍)による職員確保の困難という需給ギャップが、人口が増える江東区では一層深刻に現れます。コロナ禍4年間で人件費が+2.8%にとどまる一方、業務領域は拡大しており、職員一人当たり負担の実質的増加が進行しています。

課題⑥:基金積立フローの細りと財政対応力

 積立金フローは9.75%→8.28%へ細りました。平均超の厚みは保っているものの、施設更新・湾岸新設・鉄道延伸の投資の山に向けて取り崩しが進む局面では、フローの細りがストックの優位を徐々に侵食します。余力があるうちにフローを再び引き上げ、投資ピークを平準化できるかが、成長区としての江東区固有の規律課題です。

対応の方向性(案)

方向性①:扶助費の給付プロセス効率化

 扶助費の給付水準そのものは法定で抑制余地が限定的ですが、資格審査の精度向上による不適正給付の防止、AI・RPAによる事務自動化(申請受付・支給決定・現況確認等)、自立支援の強化、ケースワーカー業務のデジタル化を一体的に進めることで、給付の質を維持しながら事務コストを圧縮する余地があります。

方向性②:基金・起債の戦略的活用と世代間負担調整

 温存された起債発行余力と平均超の基金フローを、施設更新・学校新設・鉄道延伸の三重の投資に計画的に配分することが江東区の要諦です。地下鉄8号線基金のような目的基金の造成を投資分野ごとに拡充し、毎年度の公債費増加が新規事業の一般財源を圧迫しない範囲に収まる発行管理と、基金の取り崩し・再造成ルールの明示により、成長投資と財政健全性の両立を検証可能な形で担保します。

方向性③:公共施設マネジメントの高度化

 江東区公共施設等総合管理計画(平成29年3月策定・令和6年度末見直し)に基づき、長寿命化、複合化・集約化、民間活力の活用、未利用地の利活用を組み合わせた計画的整備・適正配置を推進します。総量抑制(内陸の更新)と湾岸新設という二方向の需要を同時に扱う点が江東区固有の論点です。

方向性④:DX投資による業務改革と人材確保

 コロナ禍で加速したDX・生成AI・RPAによる定型業務の自動化、業務委託の質的見直しと長期契約最適化、複数自治体での共同調達、事業評価に基づく事務事業の見直しを一体的に進めるとともに、処遇改善・職場環境整備・メンタルヘルス対策・育児介護両立支援等のエンプロイヤーブランディング投資により職員確保困難に対応します。

方向性⑤:税源偏在是正措置への対抗

 ふるさと納税流出・法人住民税国税化による一般財源毀損に対しては、特別区長会・東京都と連携した制度抜本見直し要求の継続が不可欠です。同時に、令和6年10月開始の返礼品付きふるさと納税(豊洲市場を背景とする食品等)の深化とシティプロモーションにより、23区では際立つ受入開拓を進めることが、江東区独自の対応策となります。

方向性⑥:行財政改革・経営改革計画の着実な実行

 既に策定済みの江東区行財政改革計画(ICT・RPA・AI活用とフレキシブルな働き方)の着実な実行と次期改革への接続、進捗のモニタリングと外部環境変化への機動的な見直し、計画間の連動性確保が、中期的な経営改革の継続的成果に直結します。

まとめ

 江東区の財政運営は、コロナ禍4年間(令和元年度→令和5年度)で財政力指数0.49→0.50(+0.01)、経常収支比率75.2%→73.1%(▲2.1ポイント)、実質公債費比率▲4.0%→▲2.8%(+1.2ポイント)、ラスパイレス指数99.2→98.5(▲0.7)という主要財政指標の動きを示しました。歳出規模は+18.0%・+356億円拡大し、コロナ対応・物価高対応・社会保障給付の構造的拡大を反映しています。歳入面では都支出金が+65.7%と急増して構成比10.70%に達し、東京都の財政方針・国の制度設計への依存度が高まりました。もっとも、23区上位の弾力性と平均超の基金フローという江東区の強みは、この4年間も維持されています。

 本版の突合で確認した通り、この期間は施設更新・学校新設・地下鉄8号線延伸という投資の山を前にした「投資の谷」に当たり、投資的経費(9.70%→7.48%)と積立金フロー(9.75%→8.28%)がそろって低下しました。ストック(基金残高・起債余力)はなお厚い一方、フローは細ったという非対称の中で、令和8年度予算2,927億円(過去最大・区制80周年)が象徴する成長区ならではの歳出拡大が続きます。温存した余力を、どの順序で湾岸投資と給付増に振り向け、弾力性と基金の優位を保ったまま投資ピークを平準化するかが、中期の分水嶺となります。

 これらの構造的特徴と課題を踏まえると、本稿の「対応の方向性(案)」で整理した6つの戦略軸を、令和9年度以降の予算編成・中期財政運営において一体的に推進することが求められます。

戦略軸の推進と経営改革

効率化によるコスト抑制

 資格審査の精度向上・AIやRPAによる事務自動化・自立支援強化により、法定で抑制余地が限定的な扶助費の質を維持しながら事務コストを圧縮します。

財政運用の平準化

 起債発行余力と平均超の基金フローを、施設更新・学校新設・鉄道延伸の三重の投資に計画的に配分し、基金積立フローの再引き上げと世代間負担調整の考え方とともに中期財政運営に組み込みます。

包括的な資産管理

 江東区公共施設等総合管理計画に基づく長寿命化・複合化・集約化・民間活力活用・未利用地利活用と、湾岸新設を組み合わせた計画的整備・適正配置を推進します。

業務プロセス改革と職場投資

 コロナ禍で加速したDX・生成AI・RPAによる定型業務自動化、業務委託の質的見直し、複数自治体での共同調達、事業評価に基づく事務事業の見直しを一体的に進めるとともに、処遇改善・メンタルヘルス対策・育児介護両立支援等のエンプロイヤーブランディング投資により職員確保困難に対応します。

税源対策の実施

 特別区長会・東京都と連携した制度抜本見直し要求を継続し、同時に返礼品付きふるさと納税の深化とシティプロモーションにより流出抑制と受入拡大を図ります。

行財政改革および経営改革の継続的実行

 江東区行財政改革計画の着実な実行と次期改革への接続、進捗モニタリング、外部環境変化への機動的見直しが、中期的な経営改革の継続的成果に直結します。

「ヒト」という経営資源における深刻な課題

 また、これら戦略軸の実行を支える前提として、経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)の中でも「ヒト」の問題への対応が極めて重要な論点となります。江東区の人件費は令和元年度の250.4億円から令和5年度の257.5億円へ+2.8%にとどまった一方、歳出総額は1,975.5億円から2,331.9億円へ+18.0%拡大しており、職員1人当たりが担う歳出規模の負担はコロナ禍4年間でさらに大きく増しています。人口が増える区であることは、この負担を一段と押し上げます。決算額と業務量は必ずしも比例するものではありませんが、この4年間で職員1人が背負う行政運営の規模感が大幅に増している事実は明白です。職員定数計画が示唆する「業務量が職員定数を上回る転換期」の到来は、財政指標のいずれよりも深刻な構造課題です。

現場職員の負担と組織の持続可能性

 さらに、職員のプライベートな側面についても看過できません。共働き世帯の増加、未就学児を抱える子育て世代の急増、親世代の介護問題の本格化(いわゆるダブルケア・ヤングケアラー問題を含む)等により、職員一人ひとりが家庭で担う負担も従来比で大きく増しています。一人の人間が公務員として担えるキャパシティという観点から見ると、現場はかなり厳しい状況にあるのではないかと推察されます。コロナ禍4年間の対応がこの構造を一段と顕在化させたといえます。メンタル不調による病気休職者の増加傾向が公務職場の課題として指摘される背景には、職場と家庭双方からの過重負荷が複合的に作用している可能性があると考えられます。

自治体経営としての最重要論点

 だからこそ、江東区の自治体経営としては、持続可能な財政運営に加えて「業務量の削減」を経営上の最重要課題として位置づけることが求められます。具体的には、方向性①の扶助費給付プロセス効率化、方向性④のDX・生成AI・RPAによる定型業務自動化と事業評価に基づく事務事業の見直し、複数自治体での共通業務の共同化等を一体的に推進し、限られた人的資源で持続可能な行政サービスを提供できる体制を構築することこそが、令和9年度以降の江東区経営の最重要論点であると結論づけられます。人口成長という追い風を、余力のあるうちに投資・給付・人材の各面で計画的に使い切る規律が、成長区としての江東区の持続可能性を決定づけます。

参考資料

主要なデータ元

 公益財団法人特別区協議会「特別区の統計」令和2年版(令和元年度決算)・令和6年版(令和5年度決算)、総務省「地方公共団体の主要財政指標一覧」令和元年度・令和5年度

国の公開統計情報

 総務省「地方公共団体の主要財政指標一覧」、e-Stat地方財政状況調査(統計コード00200251)、総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果」(令和6年度・令和7年度実施)

外部関係機関資料

 公益財団法人特別区協議会「特別区の統計」「都区財政調整制度のあらまし」、特別区長会「ふるさと納税制度に対する特別区の主張」(令和7年8月)、特別区人事委員会「特別区職員採用試験(選考)実施状況」

区の公式情報および経営計画等

 江東区公式ホームページ「令和8年度当初予算(案)概要」「予算案(プレス発表)」関連資料、江東区基本構想、江東区長期計画(後期:令和7年度〜令和11年度)、江東区長期計画の展開、江東区行財政改革計画、江東区公共施設等総合管理計画(平成29年3月策定・令和6年度末見直し)、江東区職員定数計画、地下鉄8号線(有楽町線)延伸(豊洲〜住吉)関連公表資料・地域公共交通利便増進実施計画

議会関係資料

 江東区議会予算審査特別委員会関連公表資料、江東区議会会議録検索システム・インターネット中継


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