【財政分析レポート】杉並区:約30年間の累年分析(平成5年度決算→令和5年度決算)
はじめに
※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載数字は普通会計ベースであるほか、数字のチェックは未実施であるため、あくまで傾向分析のレポートである点に留意してください。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。
杉並区は、阿佐ヶ谷・荻窪・西荻窪・高円寺といった閑静な山の手住宅地と商店街文化を擁する人口約58.3万人の特別区です。安定的な住宅人口、子育て世帯と高齢者のバランスという人口特性、住宅地中心で阿佐ヶ谷・荻窪等の商店街・文化施設(座・高円寺等)という産業特性を持ち、特別区23区の中では「山の手大規模区」グループに位置づけられます。
本分析は、財政指標・一般財源等のギャップ・義務的経費・投資的経費・約30年間の構造転換の5軸で杉並区固有の財政運営の現状と中期論点を整理し、区の経営方針(新基本構想・総合計画・区政経営改革推進計画・施設マネジメント・職員定数管理等)との突合、議会・予算編成過程にみる論点整理を経て、戦略的示唆へ接続します。なお、構成比は当該年度の決算総額に占める割合、金額は原則として億円単位(小数第1位まで)に丸めて表記しています。構成比の差(ポイント)は丸め後の表示数値から算出しているため、端数処理の関係で内訳と合計等が一致しない場合があります。マイナスの数値は▲で表記します。
エグゼクティブサマリー
杉並区財政を一言で要約すれば、「安定した山の手住宅地を基盤としながら、経常収支の硬直度が高く、住民参加型の区政運営を特徴とする大規模区の財政」です。人口約58.3万人・歳出2,259億円という特別区でも上位の規模を持ち、1人当たり地方税12.3万円(特別区平均の97%)・地方税構成比30.25%(特別区平均比+4.94ポイント)と自主財源基盤は相応に確保されています。一方、経常収支比率80.7%(同+4.52ポイント)は23区でも高い硬直度にあり、扶助費構成比32.71%(同+0.97ポイント)と人件費構成比15.46%(同+2.53ポイント・直営事業比重の高さ)が一般財源の多くを占めます。積立金フロー4.28%(同▲1.79ポイント)とやや薄い基金が、財政運営の余裕の乏しさを示します。
もっとも、杉並区は無借金に近い慎重な起債運営を続けており、公債費1.28%・実質公債費比率▲4.6%と、起債発行余力は温存されています。岸本聡子区長の下、区民投票や各種アンケートを反映した住民参加型の予算編成、区独自の低所得者向け家賃助成といった、住民協働を軸とする区政運営が杉並区の特徴です。令和8年度一般会計当初予算は2,535億円(前年度比3.2%増)と過去最大を更新し、「区民のいのちと暮らしを守る」を編成の基調に据えました。杉並区の中期課題は、経常収支の高い硬直度と薄い基金フローの下で、公共施設の老朽化更新と、約60億円規模に達したふるさと納税流出にどう対処し、直営志向の歳出構造をどう見直すかにあります。
①財政指標の状況
杉並区の主要財政指標は、総務省「令和5年度地方公共団体の主要財政指標一覧」に基づき、特別区23区単純平均と比較すると以下の構造にあります。
財政力指数
0.60(23区平均0.571、+0.03)です。財政力指数は基準財政収入額を基準財政需要額で除した数値の3か年平均であり、杉並区は23区でも中位の財政力を持つ区に該当します。安定した住宅人口を背景とした特別区民税が財政力を支えています。
経常収支比率
80.7%(23区平均76.18%、+4.52ポイント)で、特別区平均を大きく上回る23区でも高い硬直度です。扶助費・繰出金・人件費といった経常的経費が一般財源の大半を占め、政策的経費に振り向け得る財源の余地が乏しい構造的緊張のなかにあります。後述の通りコロナ禍4年間で82.1%→80.7%とわずかに改善したものの、依然として80%台に高止まりしている点が、杉並区財政の最も注意すべき特徴です。
実質公債費比率
▲4.6%(23区平均▲2.34%)です。マイナス値は、元利償還金等から特定財源や基準財政需要額算入額を控除した実質的な公債費負担が、標準財政規模との対比で事実上ゼロ以下であることを意味し、23区共通の健全水準ですが、杉並区はそのなかでもマイナス幅の大きい上位グループに位置します。慎重な起債運営の帰結であり、これが起債発行余力の源泉です。
将来負担比率
23区全区で比率が算定されない(公表上「-」表記となる)状況です。これは、地方債残高等の将来負担額を基金等の充当可能財源等が上回っているためであり、市区町村の早期健全化基準(350%)とは比較にならない健全水準にあります。杉並区も令和5年度決算に基づく健全化判断比率の公表において、各指標が健全な状況にあることを示しています。
ラスパイレス指数
99.0(23区平均98.63、+0.37)で、国家公務員給与水準(=100)とほぼ同等の標準的水準にあります。ラスパイレス指数は地域手当等を含まない給料ベースの比較である点には留意が必要ですが、人件費構成比の高さと併せて、定数管理と職員給与の中期的最適化が論点の一つとなり得ます。
②1人当たり一般財源等と歳出ギャップ
令和5年度の杉並区の歳入総額は2,373億円、歳出総額は2,259億円であり、1人当たり歳入は40.7万円、1人当たり地方税は12.3万円となります(特別区平均はそれぞれ50.2万円・12.7万円)。1人当たり地方税は特別区平均の97%水準とほぼ平均並みで、特別区財政調整交付金(構成比22.11%)との組み合わせで一般財源を確保する構造です。経常収支比率80.7%という硬直度の高さと、ふるさと納税流出(令和7年度約60億円)により、自由に使える財源は中期的に縮小傾向にあります。
足元では、令和8年度一般会計当初予算が2,535億円(前年度比79億円・3.2%増、岸本聡子区長が令和8年2月2日に発表)と過去最大を更新しました。区はこれを「区民のいのちと暮らしを守るための取組に予算を重点的に計上」する予算と位置づけ、子ども・学び、健康・共生社会、防災・みどり・地域といった基本構想の分野に加え、平和関連施策、多文化共生の推進、教育環境の充実、そして区民投票・各種アンケートを反映した住民参加型の予算編成を特徴としています。多様な行政需要を抱える中で、先行き不透明な景気動向や国による不合理な税制改正の影響を受け、歳出に対し一般財源等が不足しやすい財政環境の継続が想定されます。歳出と一般財源等のギャップへの対応として、財政基金の戦略的活用と歳入確保策の両面が中期的論点となります。
③義務的経費(人件費・扶助費・公債費)の構造
義務的経費は人件費・扶助費・公債費の3項目で構成され、杉並区の令和5年度実績は人件費349億円(構成比15.46%)、扶助費739億円(同32.71%)、公債費29億円(同1.28%)、合計49.45%の水準です。特別区平均は人件費12.93%・扶助費31.74%・公債費1.27%の合計45.94%であり、杉並区の義務的経費合計は特別区平均比+3.51ポイントと、23区でも重い部類にあります。
扶助費
特別区平均をわずかに上回る水準(+0.97ポイント)で、子育て世帯と高齢者がバランスする人口構成に応じた需要構造です。絶対額は令和5年度で739億円と特別区でも上位の規模です。
人件費
特別区平均を2.53ポイント上回る水準で、直営で実施する事業の比重が相対的に大きいことを反映しています。平成5年度の30.0%から令和5年度の15.46%へ縮小してきたものの、23区平均を上回る位置が続き、義務的経費合計を平均以上に押し上げる要因となっています。
公債費
特別区平均並みの水準で、慎重な起債運営が継続されています。人件費・扶助費が平均を上回る一方、公債費が抑制されていることが、杉並区の義務的経費構造の特徴です。
義務的経費は法定義務の性格上抑制余地が限定的ですが、杉並区の場合はとりわけ人件費(直営構造)の見直しと、扶助費の給付プロセスの効率化(資格審査・AI・RPA活用)が現実的な改善余地となります。
④投資的経費の状況と起債発行余力
令和5年度の杉並区の投資的経費(普通建設事業費+災害復旧事業費)は235億円(構成比10.42%)であり、特別区平均比▲2.65ポイントと平均を下回ります。近年は投資を相対的に抑制してきましたが、今後は公共施設老朽化対応と学校改築により拡大局面に入ります。
今後の投資需要の中核は、高度経済成長期に整備された公共施設の老朽化対応です。区立小中学校については、杉並区立小中学校老朽改築計画(平成26年策定)に基づき計画的な改築を進めており、住宅地として児童数が比較的安定しているため、抜本的な統廃合よりも改築が中心となります。あわせて、荻窪・阿佐ヶ谷等の駅周辺のまちづくりや区立施設の再編も進行します。
起債発行余力は、公債費1.28%・実質公債費比率▲4.6%という水準に表れる通り、慎重な起債運営により温存されています。もっとも、経常収支比率80.7%という高い硬直度と積立金フロー4.28%という薄い基金の下では、施設更新の財源をどう確保するかが切実な課題です。毎年度の公債費増加が新規事業の一般財源を圧迫しない範囲に抑制しつつ、温存された起債余力と基金を計画的に組み合わせることが、起債活用と財政健全性両立の要諦となります。
⑤性質別構成比の約30年間の構造転換(平成5年度→令和5年度)
杉並区の歳出構造は平成5年度から令和5年度の約30年間で大きく変容しました。性質別構成比の主要項目を比較すると、以下の通りの変動が見られます。
人件費
30.0%から15.46%(▲14.6ポイント)へと縮小しました。
普通建設事業費
21.0%から10.42%(▲10.6ポイント)へと縮小しました。
公債費
6.0%から1.28%(▲4.7ポイント)へと縮小しました。
扶助費
12.1%から32.71%(+20.6ポイント)へと拡大しました。
物件費
15.8%から19.05%(+3.3ポイント)へと拡大しました。
繰出金
3.8%から9.15%(+5.4ポイント)へと拡大しました。
これは「人員と建設投資を圧縮し、義務的な社会保障給付と委託料・特別会計繰出に振り替える」という典型的な構造調整パターンを、杉並区も特別区共通の傾向に沿って経験したものです。目的別では、土木費が13.1%→6.17%、民生費が32.3%→54.96%へと変化しており、「ハードからソフトへ」「投資から給付へ」「人件費から委託料へ」という地方財政の大潮流を、杉並区は繰出金の伸びが大きい(+5.4ポイント)という固有の振れ幅を伴いながら経験しました。もっとも人件費は今なお平均を上回っており、委託化・アウトソーシングの進行が他区より緩やかであった点が杉並区の個性です。
総論:規模・人口・財政力ポジション
基礎情報と23区内ポジション
杉並区は、阿佐ヶ谷・荻窪・西荻窪・高円寺といった閑静な山の手住宅地と商店街文化を擁する人口約58.3万人の特別区です。住宅地が中心で、阿佐ヶ谷・荻窪等の商店街、座・高円寺等の文化施設を基盤とし、安定的な住宅人口と子育て世帯・高齢者のバランスが人口動態の特徴です。
23区内では「山の手大規模区」グループに分類され、財調受給型構造のなかでも中位の財政力を持ちます。岸本聡子区長の下、区独自の低所得者向け家賃助成や区民投票を含む住民参加型の予算編成に取り組んでいる点が、区政運営の特徴です。高齢化の進展、商店街の活性化、首都直下地震対策、公共施設の老朽化という固有課題への対応が、杉並区の財政運営における最大の中期論点となります。
杉並区の経営方針
杉並区の経営方針は、最上位計画である杉並区新基本構想を頂点に、杉並区総合計画(令和6年度〜・29施策)、杉並区実行計画(第2次)、区政経営改革推進計画(第2次・令和6年度〜)、杉並区区立施設マネジメント計画(第1期)・第1次実施プラン、杉並区職員定数計画等の複数の計画体系で構成されており、これらの一体運用により持続可能な自治体経営の実現を目指しています。
基本構想
杉並区新基本構想は、今後10年程度を展望する最上位指針で、将来像として「みどり豊かな住まいのみやこ」(令和3年10月策定)を掲げています。閑静な山の手住宅地と商店街文化という地域特性を活かしつつ、人口構造の変化・超高齢社会の進展を見据えた区政運営の理念を示しています。
基本計画(実施計画を含む)
杉並区総合計画(令和6年度〜・29施策)は基本構想を実現するための中期的な施策体系を示すもので、政策・施策・事務事業の階層構造で整理され、各分野でKGI・KPIを設定しPDCAサイクルによる進捗管理を行う構造です。これを具体化する杉並区実行計画(第2次)が、各年度予算編成と直結する事業ベースの実行計画として機能しています。令和8年度予算における重点施策(区民のいのちと暮らしを守る予算、平和関連施策、多文化共生の推進、教育環境の充実、住民参加型の予算編成)も、基本構想・総合計画の方針と直結した政策展開です。
行財政改革・経営改革の取組
杉並区は、区政経営改革推進計画(第2次・令和6年度〜)を策定し、区政経営改革・協働・デジタル化の3つの基本方針のもと、住民参加型の区政運営を推進しています。区民投票や各種アンケートを反映した予算編成、区独自の低所得者向け家賃助成等、住民協働を軸とする点が杉並区の経営改革の特徴です。硬直度の高い財政の下で、住民参加を通じた事業の優先順位づけと経常経費の見直しをどう両立させるかが、経営改革の焦点となります。
公共施設の総合的・計画的管理
杉並区も特別区共通の課題として、高度経済成長期に整備された公共施設の一斉老朽化に直面しており、杉並区区立施設マネジメント計画(第1期)・第1次実施プランに基づき、区立施設の更新・再編・長寿命化・利活用等を区民と共に考えながら総合的・計画的に推進しています。学校施設の改築需要は今後の投資的経費の中核であり、区立小中学校の計画的な改築(老朽改築計画・平成26年策定)を、児童数が比較的安定していることを踏まえ統廃合よりも改築中心で進めています。
職員定数の管理
杉並区が直面する経営課題の一つが、杉並区職員定数計画に基づく職員定数の管理です。多様化・複雑化する行政需要に対応する業務量の増加と、定年退職の増加・採用環境の悪化に伴う職員確保の困難という需給ギャップへの対応が求められています。人件費構成比が23区平均を上回る杉並区にとって、直営構造の見直しと定数管理は財政運営上とりわけ重い論点です。
特別区職員採用を巡る環境
特別区人事委員会が実施するⅠ類採用試験の申込者数・倍率は長期的な低下傾向にあります。平成22年度には申込者19,910人・倍率7.6倍であったものが、令和6年度には申込者5,179人・倍率2.1倍まで低下しており、人材確保の困難さが23区共通の構造的課題となっています。
区の対応と重要性
これに対し区は、人材確保(採用数の増加・長く働き続けられる環境整備・会計年度任用職員の活用)と業務量最適化(事務事業の見直し・民営化・委託化・DX推進・業務改革)の両面から対応を進めており、財政運営の質を支える「ヒト」という経営資源の確保が、令和9年度以降の予算編成における最重要視点となります。
財政運営の目標値と実績の突合
本版で新たに、区が総合計画・区政経営改革推進計画等で示す考え方と直近の実績を突き合わせます。杉並区は数値目標を前面に掲げた中期財政計画を持たないため、ここでは区の公表する方針・実績を「区の物差し」として用います。
財政の弾力性:経常収支比率80.7%と高い硬直度
杉並区の経常収支比率80.7%は特別区平均(76.18%)を4.52ポイント上回り、一般に望ましいとされる70〜80%の範囲の上限を超える、23区でも高い硬直度です。扶助費・繰出金・人件費という経常的経費が一般財源の大半を占め、政策的経費への配分余地が乏しい構造です。施設更新に伴う経費増と扶助費・繰出金の構造増を織り込むと、硬直度はさらに高まる方向にあり、いかに経常経費の膨張を抑えるかが財政運営の前提課題となります。
住民参加型の財政運営:区民投票と低所得者家賃助成
杉並区は、区民投票や各種アンケートを反映した予算編成、区独自の低所得者向け家賃助成といった、住民協働を軸とする区政運営を特徴とします。これは硬直度の高い財政の下で、限られた政策的経費の配分に住民の意思を反映させる試みであり、事業の優先順位づけの透明性を高める意義を持ちます。同時に、住民ニーズを反映した給付・事業が経常経費を押し上げる面もあるため、参加型のプロセスと財政規律をどう両立させるかが、杉並区固有の論点です。
慎重な起債と薄い基金:実質公債費比率▲4.6%・積立金4.28%
実質公債費比率▲4.6%・公債費1.28%という慎重な起債運営により、起債発行余力は温存されています。一方、積立金フロー4.28%(特別区平均比▲1.79ポイント)とやや薄い基金は、施設更新ピーク期や景気後退局面での財政対応力の制約となります。温存された起債余力を計画的に活用しつつ、基金フローを引き上げることが、硬直度の高い杉並区にとって重要な備えです。
区政経営改革推進計画:協働・デジタル化・住民参加
区政経営改革推進計画(第2次・令和6年度〜)は、区政経営改革・協働・デジタル化の3基本方針を掲げます。硬直度が高く直営志向の強い杉並区にとって、デジタル化による業務効率化と、協働による事業の見直しが、経常経費抑制の鍵となります。計画がどの規模で経常経費を抑制し、直営構造の見直しを進められるかが、経営改革の実効性を測る焦点です。
歳入構造の特徴
令和5年度の杉並区歳入総額2,373億円の主要項目を、構成比・特別区平均との差・約30年間の累年指数の3軸で分析します。
地方税(構成比30.25%・718億円)
地方税構成比は特別区平均より4.94ポイント高く、自主財源基盤を一定程度確保している区です。約30年間の累年指数は1.04倍(特別区平均1.30倍)と伸びは緩やかで、平成5年度の690億円から令和5年度の718億円へ推移しました。安定した住宅人口を背景とする一方、法人集積が限定的で税収の伸びが平均を下回り、ふるさと納税流出(令和7年度約60億円)が伸びをさらに抑制しています。
特別区財政調整交付金(構成比22.11%・525億円)
特別区財政調整交付金の構成比は特別区平均比▲2.64ポイントとほぼ平均並みで、財調制度の動向が杉並区財政に標準的に作用する構造です。約30年間の累年指数は2.88倍(特別区平均1.80倍)と大きく、地方税の伸び悩みを財調制度が補完してきた歴史を示します。制度面では、分析対象の令和5年度時点の配分割合は55.1%でしたが、児童相談所運営の本格化等を背景とする都区合意により令和7年度から56%へ引き上げられ、併せて特別交付金の割合も5%から6%に変更されており、今後の歳入見通しの変数として作用します。
国庫支出金・都支出金(構成比合計27.25%・約646億円)
国庫支出金は構成比15.83%(約376億円)、都支出金は11.42%(約271億円)で、両者を合わせると歳入の4分の1を超えます。子育て世帯と高齢者がバランスする人口構成に応じた法定扶助の負担金が中心であり、これらの給付には区の一般財源負担(いわゆる裏負担)が伴うため、扶助費の増加は移転財源と一般財源の双方を同時に膨張させ、硬直度を高める点に留意が必要です。
寄附金(構成比0.02%・0.4億円)
寄附金の約30年間の累年指数は1.39倍と特別区平均(3.07倍)を下回り、受入は限定的です。一方、ふるさと納税による住民税の流出は令和7年度に約60億円(前年度の約53.3億円を上回る)に達し、区の説明では10年前と比べて約133倍の流出額に膨らんでいます。区は「杉並版ふるさと納税」の取組で受入も進めていますが、流出の規模には遠く及びません。法人住民税の一部国税化と合わせた不合理な税源偏在是正措置による一般財源の毀損は、硬直度の高い杉並区にとってとりわけ痛手であり、特別区長会・東京都との連携による制度の抜本見直し要求が継続されています。
地方債(構成比1.33%・31.6億円)
地方債構成比は特別区平均並みで、慎重かつ標準的な起債運営を継続しています。今後の公共施設更新・学校改築に対しては、温存された発行余力を計画的に活用する局面が想定され、地方債構成比は中期的に上昇へ向かう見通しです。
目的別歳出の主要項目分析
令和5年度の杉並区歳出総額2,259億円を目的別に主要項目で分析します。
民生費(構成比54.96%・1,241.5億円)
社会福祉・児童福祉・老人福祉・生活保護等の福祉関連経費で、歳出総額の最大費目であり扶助費の大部分を含みます。令和5年度の構成比54.96%は特別区平均50.79%と比較して+4.17ポイントと平均を上回り、約30年間の累年指数は3.00倍で、平成5年度の413.4億円から令和5年度の1,241.5億円へ増加しました。子育て世帯と高齢者がバランスする人口構成を反映し、児童福祉費・生活保護費・障害福祉サービス費・児童手当等の法定扶助が民生費全体を押し上げています。
総務費(構成比11.41%・257.8億円)
内部管理・庁舎管理・人事・徴税・選挙・統計調査・DX投資等を含み、経営基盤への投資水準を反映する費目です。令和5年度の構成比11.41%は特別区平均13.17%と比較して▲1.76ポイント、約30年間の累年指数は1.01倍で、平成5年度の256.0億円から令和5年度の257.8億円へほぼ横ばいで推移しました。人件費比重の高い杉並区では、内部管理・直営体制の効率化とDX投資が総務費・人件費の双方に関わる論点です。
教育費(構成比15.51%・350.5億円)
学校教育・社会教育・保健体育を含みます。令和5年度の構成比15.51%は特別区平均14.28%と比較して+1.23ポイントと平均を上回り、約30年間の累年指数は1.30倍で、平成5年度の269.6億円から令和5年度の350.5億円へ推移しました。学校改築・GIGAスクール環境整備・給食費無償化に加え、区立小中学校の計画的な改築(老朽改築計画)が、教育費を中期的に押し上げます。
衛生費(構成比8.67%・195.9億円)
保健衛生・環境衛生・清掃・公衆衛生を含みます。令和5年度の構成比8.67%は特別区平均8.10%と比較して+0.57ポイント、約30年間の累年指数は3.55倍で、平成5年度の55.2億円から令和5年度の195.9億円へ推移しました。清掃事業の都区移管(平成12年度)とコロナ禍のワクチン接種・検査体制の構築が水準を押し上げています。
土木費(構成比6.17%・139.4億円)
道路・橋りょう・公園・都市計画・住宅を含みます。令和5年度の構成比6.17%は特別区平均9.29%と比較して▲3.12ポイントと平均を下回り、約30年間の累年指数は0.83倍で、平成5年度の167.7億円から令和5年度の139.4億円へ縮小しました。都市インフラの整備フェーズが維持管理フェーズへ移行したことを反映しています。荻窪・阿佐ヶ谷等の駅周辺まちづくりの進捗次第で、土木費が再び投資局面を強める可能性があります。
商工費(構成比0.85%・19.2億円)
産業振興・観光振興・中小企業支援を含みます。令和5年度の構成比0.85%は特別区平均1.71%と比較して▲0.86ポイント、約30年間の累年指数は1.25倍で、平成5年度の15.4億円から令和5年度の19.2億円へ推移しました。住宅都市である杉並区は大規模な産業集積を持たず、商店街振興・文化産業支援が中心です。
消防費(構成比0.46%・10.4億円)
消防本体は東京都(東京消防庁)が担うため、区の消防費は消防団運営・地域防災・防災備蓄等が中心です。令和5年度の構成比0.46%は特別区平均0.80%と比較して▲0.34ポイント、約30年間の累年指数は1.13倍で、平成5年度の9.2億円から令和5年度の10.4億円へ推移しました。首都直下地震対策が今後の防災投資の論点です。
公債費(構成比1.28%・28.8億円)
地方債の元利償還費です。令和5年度の構成比1.28%は特別区平均1.28%とほぼ同水準、約30年間の累年指数は0.38倍で、平成5年度の76.5億円から令和5年度の28.8億円へ縮小しました。慎重な起債運営の帰結であり、これが起債発行余力の源泉となっています。
性質別歳出の主要項目分析
人件費(構成比15.46%・349億円)
人件費構成比が特別区平均を2.53ポイント上回るのは、杉並区が直営で実施する事業の比重が大きいことを反映した特徴です。約30年間では平成5年度の30.0%から令和5年度の15.46%へと縮減してきましたが、23区平均を上回る位置が続きます。委託化・業務改革の進行が他区より緩やかであったことの裏返しであり、直営構造の見直しと職員配置の最適化が、財政運営上とりわけ重い中期的検討課題となります。なお令和2年度の会計年度任用職員制度の導入による人件費への編入も、近年の比率に影響しています。
扶助費(構成比32.71%・739億円)
特別区平均31.74%を+0.97ポイント上回る水準で、絶対額は平成5年度の155億円から令和5年度の739億円へ約584億円・約4.8倍という大幅な増加です。生活保護費・障害福祉サービス費・児童手当・子ども子育て給付等の法定扶助が中心で、給付水準は国の制度設計で決まるため義務的経費として抑制余地は限定的です。58万人規模ゆえの絶対額の大きさが、経常収支の硬直度を根底で規定しています。給付プロセスの効率化が現実的な改善余地となります。
物件費(構成比19.05%・430億円)
業務委託料・指定管理料・情報システム経費等で構成され、特別区平均18.39%比+0.66ポイントです。平成5年度の15.8%から令和5年度の19.05%へ拡大し、人件費の減少分を補う形で増加してきた構造です。人件費が平均を上回る杉並区では、直営から委託への転換余地が他区より大きい一方、委託の長期契約化による固定費化に留意が必要です。
公債費(構成比1.28%・28.8億円)
地方債の元利償還費で、特別区平均1.27%とほぼ同水準です。慎重な起債運営の帰結であり、将来世代への負担軽減に直結しています。今後の施設更新に対しては、温存された発行余力を活かした計画的な起債活用への転換が選択肢となります。
積立金(構成比4.28%・97億円)
積立金フローが特別区平均を1.79ポイント下回るのは、経常的経費に追われ将来需要への備えに回す余力がやや薄い財政構造を示します。経常収支比率80.7%という硬直度と合わせ、施設更新ピーク期や景気後退局面での財政対応力の制約となります。基金積立フローを中期的に引き上げることが、令和9年度以降の予算編成における重要論点です。
繰出金(構成比9.15%)
国民健康保険事業・介護保険・後期高齢者医療の各特別会計への繰出金が中心で、構成比は平成5年度の3.8%から令和5年度の9.15%へ大きく拡大し、特別区平均(7.87%)を上回ります。58万人規模の高齢化に伴う保険給付の構造的増加を反映したものであり、区の裁量による抑制余地は限定的な「第二の義務的経費」として、経常収支の硬直度を押し上げる主要因の一つです。
議会答弁にみる財政運営の論点
本版で新たに、杉並区議会の予算特別委員会・区の予算プレス資料・ふるさと納税に関する公表資料等から、財政運営に関する直近の論点を整理します。引用はいずれも要旨であり、正確な内容は区議会の公式会議録および区の公表資料をご確認ください。
論点①:ふるさと納税と不合理な税制改正の影響
杉並区はふるさと納税による住民税の流出が令和7年度に約60億円(前年度の約53.3億円を上回る)に達し、10年前と比べ約133倍に膨らんだことを、区民サービスの低下につながりかねない問題として区民に発信しています。区は「杉並版ふるさと納税」の取組で受入も進めていますが、流出の規模には遠く及びません。硬直度が高く基金フローの薄い杉並区にとって、約60億円規模の流出は一般財源を直接削る深刻な打撃であり、返礼品による受入開拓と、特別区長会「ふるさと納税制度に対する特別区の主張」(令和7年8月)に沿った制度の抜本見直し要求の両立が、議会審議の継続的な論点です。
論点②:住民参加型の予算編成と財政の持続可能性
令和8年度予算(2,535億円・前年度比3.2%増)は「区民のいのちと暮らしを守る」を基調に、区民投票や各種アンケートを反映した住民参加型の予算編成を特徴としました。予算特別委員会では、経常収支比率80.7%という23区でも高い硬直度と積立金フロー4.28%という薄い基金の下で、住民ニーズを反映した給付・事業の拡充と財政規律をどう両立させるか、事務事業評価に基づく歳出精査が論点となります。参加型のプロセスが事業の優先順位づけと経常経費の抑制にどうつながるかが、財政の持続可能性を測る焦点です。
論点③:直営構造の見直しと公共施設老朽化への対応
杉並区は人件費構成比15.46%(特別区平均比+2.53ポイント)という直営志向の強い区であり、これが経常収支の硬直度を押し上げる一因です。あわせて、公共施設の老朽化と区立小中学校の計画的改築(老朽改築計画)が、抑制されてきた投資的経費(10.42%)を今後押し上げます。硬直度が高く基金フローの薄い財政の下で、直営構造の見直しによる経常経費の抑制と、施設更新の財源確保(温存された起債余力と基金の計画的活用)をどう進めるかが、区政経営改革推進計画・区立施設マネジメント計画の実行を通じた中期財政運営の焦点となります。
構造的特徴と戦略的示唆
本分析の総まとめとして、杉並区財政の構造的な特徴・構造的な課題・対応の方向性の3軸で論点を整理します。
構造的な特徴
特徴①:1人当たり財政力ポジション
杉並区の1人当たり地方税は12.3万円で、特別区平均12.7万円の97%水準に位置します。財政力指数0.60(特別区平均0.571、+0.03)と合わせて評価すると、財調受給型構造のなかでも中位の財政力を持つ「山の手大規模区」に該当します。区独自の低所得者向け家賃助成や住民参加型の予算編成が固有特性です。
特徴②:歳入構造のバランス
地方税構成比30.25%(特別区平均比+4.94ポイント)、特別区財政調整交付金構成比22.11%(同▲2.64ポイント)、国庫支出金15.83%・都支出金11.42%の組み合わせが、杉並区の歳入構造を規定しています。自主財源は相応に確保されているものの、約60億円規模のふるさと納税流出がその厚みを削っています。
特徴③:義務的経費の構造
令和5年度の義務的経費(人件費・扶助費・公債費)は合計49.45%(人件費15.46%・扶助費32.71%・公債費1.28%)で、特別区平均45.94%を+3.51ポイント上回る重い構造です。人件費が平均を上回る直営志向と、扶助費の重さが、硬直度の高さの根底にあります。
特徴④:投資的経費と起債発行余力
投資的経費は構成比10.42%(特別区平均13.07%比▲2.65ポイント)と抑制されてきましたが、施設更新・学校改築で拡大へ向かいます。公債費1.28%・実質公債費比率▲4.6%の慎重な起債運営は、発行余力が温存されていることを示します。
特徴⑤:基金フローと将来投資余力
積立金構成比4.28%(特別区平均6.07%比▲1.79ポイント)とやや薄い基金フローは、経常収支比率80.7%という高い硬直度と合わせ、施設更新ピーク期や景気後退局面での財政対応力の制約を示します。
特徴⑥:約30年間の歳出構造大転換
平成5年度から令和5年度の約30年間で、人件費は30.0%→15.46%(▲14.6ポイント)、普通建設事業費は21.0%→10.42%(▲10.6ポイント)と縮小し、扶助費は12.1%→32.71%(+20.6ポイント)、繰出金は3.8%→9.15%(+5.4ポイント)と拡大しました。人件費が今なお平均を上回る点に、委託化の緩やかさという杉並区の固有性があります。
特徴⑦:寄附金と税源偏在措置の影響
寄附金の受入は伸び悩む一方(累年指数1.39倍)、ふるさと納税による流出は令和7年度約60億円と大きく、法人住民税の一部国税化と合わせた税源毀損が、硬直度の高い杉並区財政を直接圧迫しています。
構造的な課題
課題①:経常収支の高い硬直度と基金フローの薄さ
経常収支比率80.7%(特別区平均比+4.52ポイント)という高い硬直度と、積立金フロー4.28%(同▲1.79ポイント)という薄い基金フローの組み合わせが、杉並区財政の最大の構造課題です。経常経費に追われて将来への備えを積みにくい状態は、施設更新や景気後退の局面で財政の対応力を損ないます。
課題②:人件費(直営構造)の重さ
人件費構成比15.46%(特別区平均比+2.53ポイント)という直営志向は杉並区固有の重さであり、経常収支の硬直度を押し上げる一因です。委託化・業務改革の余地を残しており、直営構造の見直しが中期の重点課題です。
課題③:扶助費・繰出金・物件費の構造的拡大
扶助費(32.71%)・繰出金(9.15%)・物件費(19.05%)という経常的経費が、58万人規模ゆえの絶対額の大きさで積み上がり、いずれも抑制余地が限定的です。これらの構造的経費の管理が、硬直度を左右する中期論点です。
課題④:公共施設老朽化・学校改築と投資的経費の本格化
高度経済成長期に集中整備された区有施設の一斉老朽化と、区立小中学校の計画的改築(老朽改築計画)が、抑制されてきた投資的経費を今後押し上げます。硬直度が高く基金フローの薄い中で、温存された起債余力と基金の計画的活用による財源確保が中期論点です。
課題⑤:ふるさと納税流出と法人住民税国税化による財源毀損
ふるさと納税による流出は令和7年度約60億円と大きく、法人住民税の一部国税化と合わせた税源毀損は、硬直度の高い杉並区の一般財源を直接削ります。特別区長会・東京都との連携による制度抜本見直し要求の継続と、杉並版ふるさと納税による受入開拓が必要です。
課題⑥:職員定数管理と業務量増加の需給ギャップ
多様化・複雑化する行政需要(子育て支援・超高齢社会対応・公共施設更新・防災・DX等)に対応する業務量の増加と、定年退職の増加・採用試験倍率の低下(平成22年度7.6倍→令和6年度2.1倍)による職員確保の困難という需給ギャップが、23区共通の構造的課題となっています。人件費比重の高い杉並区では、この課題は直営構造の見直しと表裏一体です。
需給不均衡への懸念
杉並区職員定数計画に基づく管理を進めていますが、業務量が職員定数を上回る局面の到来が中期見通しの中心的論点です。
課題⑦:基金積立フローの相対的薄さ
積立金構成比4.28%は特別区平均を下回り、将来需要への備えがやや薄い財政構造を示します。公共施設更新ピーク期や災害対応・景気変動への備えとして、基金積立フローの中期的な引き上げが課題となります。
対応の方向性(案)
方向性①:扶助費の給付プロセス効率化
扶助費の給付水準そのものは法定で抑制余地が限定的ですが、給付プロセスには改善余地があります。以下を一体的に進めることで、給付の質を維持しながら事務コストを圧縮する余地があります。
資格審査の精度向上
不適正給付の防止に注力します。
AIやRPAによる事務自動化
申請受付・支給決定・現況確認等の定型業務の自動化を進めます。
自立支援の強化
生活保護受給者の就労促進等に努めます。
デジタル化の推進
ケースワーカー業務のデジタル対応を加速させます。
方向性②:基金・起債の戦略的活用と世代間負担調整
薄い基金積立フローを中期的に特別区平均並み水準へ引き上げる目標化と、慎重な起債運営で温存した発行余力を施設更新・学校改築に計画的に活用する戦略が要諦です。毎年度の公債費増加が新規事業の一般財源を圧迫しない範囲に収める仕組みを中期財政運営に組み込みます。
方向性③:公共施設マネジメントの高度化
杉並区区立施設マネジメント計画(第1期)・第1次実施プランに基づき、以下の施策を組み合わせた計画的整備・適正配置を推進することが求められます。区民と共に考える住民参加型の再編プロセスが杉並区の特徴です。
長寿命化の促進
計画的な修繕・改修サイクルの確立により、建物を長く安全に使用します。
複合化・集約化の実施
学校改築を核とした施設の複合化など、機能の一体化を進めます。
民間活力の積極的活用
サービス向上と効率化を図ります。
未利用地の最適な利活用
資産を遊ばせず有効に運用します。
方向性④:DX投資による業務改革と人材確保
業務量増加と職員確保困難の需給ギャップ、そして人件費比重の高さに対しては、以下の施策を一体的に進める必要があります。
定型業務の自動化
DX・生成AI・RPAを導入します。
業務委託の質的見直し
直営から委託への転換余地の検証と長期契約の最適化を検討します。
共同調達の模索
複数自治体での連携により効率化を追求します。
事務事業の抜本的見直し
事業評価・住民参加のプロセスを踏まえ、優先度の低い事業からの撤退・事業数の精査を進めます。
人材への環境投資
処遇改善・職場環境整備・メンタルヘルス対策・育児介護両立支援等を通じたエンプロイヤーブランディング投資を進めます。
方向性⑤:税源偏在措置への対抗
ふるさと納税流出(令和7年度約60億円)・法人住民税国税化による一般財源毀損に対しては、特別区長会・東京都と連携した制度抜本見直し要求の継続が不可欠です。同時に、杉並版ふるさと納税の取組とシティプロモーションによる受入開拓を補完策として進めます。
方向性⑥:行財政改革・経営改革計画の着実な実行
既に策定済みの区政経営改革推進計画(第2次・令和6年度〜)の着実な実行に加え、進捗のモニタリングと外部環境変化への機動的な見直し、計画間の連動性確保が、中期的な経営改革の継続的成果に直結します。硬直度が高く直営志向の強い財政の下で、協働・デジタル化による経常経費の抑制が、他区以上に切実な意味を持ちます。
まとめ
財政運営の現状と構造的論点
杉並区の財政運営は、人口58万人・歳出2,259億円という特別区でも上位の規模と、地方税構成比30.25%という相応の自主財源を持つ一方、経常収支比率80.7%という23区でも高い硬直度、人件費構成比15.46%という直営志向、積立金フロー4.28%という薄い基金が重なる、緊張感を帯びた大規模区の財政です。慎重な起債運営(公債費1.28%・実質公債費比率▲4.6%)により起債発行余力は温存されていますが、経常経費に追われて将来への備えを積みにくい構造にあります。
本版の突合で確認した通り、この構造に、約60億円規模のふるさと納税流出(令和7年度)と、公共施設の老朽化・区立小中学校の計画的改築という投資需要が重なります。令和8年度予算2,535億円(過去最大・3.2%増)が象徴する「区民のいのちと暮らしを守る」住民参加型の予算編成の下で、硬直度と薄い基金フローをどう改善し、直営構造の見直しと施設更新を進めるかが、中期の分水嶺となります。
戦略軸の推進と経営改革
これらの構造的特徴と課題を踏まえると、「対応の方向性(案)」で整理した6つの戦略軸を、令和9年度以降の予算編成・中期財政運営において一体的に推進することが求められます。
効率化によるコスト抑制
資格審査の精度向上・AIやRPAによる事務自動化・自立支援強化により、法定で抑制余地が限定的な扶助費の質を維持しながら事務コストを圧縮します。
財政運用の平準化
薄い基金積立フローの引き上げと、慎重な起債運営で温存した発行余力の計画的活用を、世代間負担調整の考え方とともに中期財政運営に組み込みます。
包括的な資産管理
杉並区区立施設マネジメント計画に基づく長寿命化・複合化・集約化・民間活力活用・未利用地利活用を、区民と共に考える住民参加型の再編プロセスとともに推進します。
業務プロセス改革と職場投資
直営構造の見直しを含むDX・生成AI・RPAによる定型業務自動化、業務委託の質的見直し、複数自治体での共同調達、事業評価・住民参加に基づく事務事業の見直しを一体的に進めるとともに、処遇改善・メンタルヘルス対策・育児介護両立支援等のエンプロイヤーブランディング投資により職員確保困難に対応します。
税源対策の実施
特別区長会・東京都と連携した制度抜本見直し要求を継続し、杉並版ふるさと納税とシティプロモーションによる受入開拓を補完策として進めます。
行財政改革および経営改革の継続的実行
区政経営改革推進計画(協働・デジタル化・住民参加)の着実な実行による経常経費の抑制、進捗モニタリング、外部環境変化への機動的見直しが、硬直度の高い杉並区財政の中期的な立て直しに直結します。
「ヒト」という経営資源における深刻な課題
また、これら戦略軸の実行を支える前提として、経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)の中でも「ヒト」の問題への対応が極めて重要な論点となります。
これを定量的に示すと、職員1人当たりの決算規模(歳出総額÷職員数)は、特別区共通の傾向として平成5年度時点で概ね3,500〜4,000万円/人程度であったのに対し、令和5年度では概ね7,000〜8,000万円/人水準と、約30年間でおよそ2倍規模に拡大していると試算されます。人件費比重の高い杉並区にとって、この「ヒト」の課題は財政運営と直結します。杉並区の令和5年度歳出総額2,259億円という規模感も、業務量・行政サービス領域を拡大してきた結果です。
決算額と業務量は必ずしも比例するものではありませんが、この30年間で職員1人が背負う行政運営の規模感が大幅に増している事実は明白です。職員定数計画が示唆する「業務量が職員定数を上回る転換期」の到来は、財政指標のいずれよりも深刻な構造課題です。
現場職員の負担と組織の持続可能性
さらに、職員のプライベートな側面についても看過できません。以下のような要因が複雑に絡み合い、職員一人ひとりが家庭で担う負担も従来比で大きく増しています。
共働き世帯の一般化
家庭内での協力と就労維持の両立が不可欠となっています。
乳幼児・未就学児を持つ世帯への負担集中
初期の育児ケア負担が特定の年齢層の職員に集中しています。
親世代の介護問題の本格化
いわゆるダブルケア問題を含み、時間的制約をもたらしています。
一人の人間が公務員として担えるキャパシティという観点から見ると、現場はかなり厳しい状況にあるのではないかと推察されます。行政ニーズが複雑化・多様化し、業務量が増え、現場の余力が失われる中で、家庭で担うべき子育てや介護の状況も厳しさを増しており、職員の心身の負担は限界に近づいていると見受けられます。メンタル不調による病気休職者の増加傾向が公務職場の課題として指摘される背景には、職場と家庭双方からの過重負荷が複合的に作用している可能性があると考えられます。
自治体経営としての最重要論点
だからこそ、杉並区の自治体経営としては、持続可能な財政運営に加えて「業務量の削減」を経営上の最重要課題として位置づけることが求められます。
具体的には、方向性①の扶助費給付プロセス効率化、方向性④の直営構造の見直しを含むDX・生成AI・RPAによる定型業務自動化と事業評価に基づく事務事業の見直し、複数自治体での共通業務の共同化等を一体的に推進し、限られた人的資源で持続可能な行政サービスを提供できる体制を構築することこそが、令和9年度以降の杉並区経営の最重要論点であると結論づけられます。硬直度が高く直営志向の強い財政だからこそ、経常経費の抑制と基金フローの引き上げを両輪で進めることが、山の手大規模区・杉並区の持続可能性を決定づけます。
参考資料
主要なデータ元
地方財政状況調査の累年比較資料(特別区23区合計および杉並区、平成5年度〜令和5年度、131156_1-4-10〜12表)
国の公開統計情報
総務省「令和5年度地方公共団体の主要財政指標一覧」、e-Stat地方財政状況調査(統計コード00200251)、総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果」
外部関係機関資料
公益財団法人特別区協議会「特別区の統計」「都区財政調整制度のあらまし」、特別区長会「ふるさと納税制度に対する特別区の主張」(令和7年8月)、特別区人事委員会「特別区職員採用試験(選考)実施状況」
区の公式情報および経営計画等
杉並区公式ホームページ「令和8年度当初予算案」プレス資料・区政経営計画書、杉並区新基本構想(令和3年10月策定)、杉並区総合計画(令和6年度〜・29施策)、杉並区実行計画(第2次)、区政経営改革推進計画(第2次・令和6年度〜)、杉並区区立施設マネジメント計画(第1期)・第1次実施プラン、杉並区職員定数計画、杉並版ふるさと納税関連資料
議会関係資料
杉並区議会予算特別委員会関連公表資料、杉並区議会会議録検索システム




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