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ICTリテラシー実態調査(2026年・総務省)とは:偽・誤情報の拡散実態と自治体広報への示唆

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エグゼクティブサマリー

 ICTリテラシー実態調査とは、インターネットやSNS上の偽・誤情報やICTリテラシーに関する国民の実態を把握し、リテラシー向上の取組に活用するために総務省情報流通行政局が実施した調査です。総務省は2026年(令和8年)7月14日にその結果を公表しました。ここでいうICTリテラシーとは、情報通信サービス等を適切に活用するための能力を指します。調査は全国47都道府県の15歳以上の男女5,640名を対象に、2026年5月8日から13日にかけてインターネットで実施され、東京大学大学院の鳥海不二夫教授、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一教授の協力のもとで設計されました。

 結果からは、リテラシーと偽・誤情報の拡散との間に明確な相関が浮かび上がりました。偽・誤情報に接触した人のうち、その内容を「正しい情報だと思う」「おそらく正しい情報だと思う」と回答した割合は48.4%に上り、接触した人の20.3%が何らかの手段で情報を拡散していました。リテラシーに関する5問のテストでは、全問正解した人が5.6%にとどまる一方、全問不正解は39.5%を占め、偽・誤情報を「拡散した」人の全問不正解の割合は48.9%と、「拡散していない」人(24.7%)のおよそ2倍でした。

 もう一つの重要な発見が、自己評価と実態のギャップです。自分のICTリテラシーを平均的または平均より高いと考える人は83.0%に達しましたが、ディープフェイクを「自分は見破ることができる」と回答した人は、むしろ全問不正解の割合が61.5%と群を抜いて高いという逆説的な結果も示されました。過信がかえってリスクを高める可能性を示唆する内容です。

 偽・誤情報の拡散は、災害時の混乱や行政への信頼にも関わる論点であり、自治体にとっても無縁ではありません。調査では、安心できる情報社会づくりの主体に対して「正しい情報の発信」を期待する声が高いことも示されました。本稿では調査結果を俯瞰したうえで、特別区の広報や住民のリテラシー向上支援への示唆を整理します。

意義

偽・誤情報対策の土台となる実態把握

 偽・誤情報への対策は、規制や技術的対応だけでなく、受け手である国民のリテラシーの実態を踏まえて設計する必要があります。本調査は、誰がどのように偽・誤情報に接し、信じ、拡散するのかを定量的に把握した点に意義があります。感覚的な議論に陥りがちなテーマについて、数値の裏づけをもって施策を組み立てる土台を提供するものです。

「立ち止まる行動」に着目した調査設計

 本調査は、SNS等での投稿・拡散の前に一度立ち止まって考えることが、偽・誤情報の拡散抑制に有効とされる点に着目しています。実際に、SNS上で見かけた情報・ニュースに対して「立ち止まって考えると思う」と回答した人は79.2%に上りました。一方で、偽・誤情報を拡散した人のうち「立ち止まって考えずに拡散した」ケースは45.8%、「立ち止まって考えて拡散した」ケースは54.2%であり、立ち止まっても拡散に至る場合があることも示されています。意識と行動のずれに踏み込んだ設計になっています。

自己評価と実態のギャップという発見

 本調査の示唆で最も重いのが、自己評価と実際の判別能力とのギャップです。多くの人が自分のリテラシーを高いと考えている一方で、見破れるという自信がある人ほど実際のテスト結果が振るわないという傾向が示されました。リテラシー向上施策を設計するうえで、本人が課題を自覚していない層にどう働きかけるかという難しさを浮き彫りにしています。

生成AI時代に高まる実態把握の重要性

 偽・誤情報の問題は以前から存在しましたが、生成AIの普及によって局面が変わりつつあります。文章・画像・音声・動画を精巧に生成する技術が広く使えるようになり、本物と見分けのつかない偽情報が、より速く、より大量に流通しうる時代になりました。こうしたなかで、受け手である国民が実際にどの程度見極められているのか、どのような場面で拡散が起きるのかを、思い込みではなく実態として把握することの重要性は一段と高まっています。本調査が、提示したニュースの真偽判定や5問のテストといった実測に踏み込んでいるのは、この必要性に応えるものです。感覚的な「リテラシーが低下している」という議論ではなく、どの層のどの能力に課題があるのかを具体的に示すことで、施策の的を絞れるようにする狙いがあります。

歴史・経過

偽・誤情報対策をめぐる国の取組の流れ

 生成AIの普及によって、精巧な偽情報やディープフェイクの作成が容易になり、偽・誤情報の流通は世界的な政策課題となっています。国内でも、情報の真偽を判別する技術の開発支援や、プラットフォーム事業者への対応、利用者のリテラシー向上など、複数の角度から対策が議論されてきました。本調査は、こうした流れのなかで利用者側の実態を把握し、今後の施策に反映するための基礎資料として位置づけられます。

本調査の位置づけと調査概要

 調査は、全国47都道府県の15歳以上の男女5,640名を対象に、10代から60代以上までの各世代と男女の別を踏まえて実施されました。集計に当たっては、総務省統計局「令和2年国勢調査」の人口構成比を基にウェイトバックによる調整が行われており、全国の縮図として結果を読めるよう配慮されています。学術的な知見を取り入れるため、情報社会や偽・誤情報を専門とする研究者の協力を得ている点も特徴です。

主要な調査項目の広がり

 主要調査項目は、偽・誤情報に対する実態把握とICTリテラシーに関する実態把握の二本立てで構成されています。前者では、提示したニュースの真偽判定、拡散の経験や理由、立ち止まって考えた経験とその際の行動などが尋ねられました。後者では、リテラシーに関するテスト、自己評価、向上のための取組状況やその非実施理由、求める素材・サービスの評価などが調べられています。実態を多面的にとらえる設計です。

現状データ

ICTリテラシーと偽・誤情報拡散の相関

 リテラシーに関する5問のテストでは、全問正解が5.6%、全問不正解が39.5%でした。注目すべきは拡散経験との関係です。偽・誤情報を「拡散した」と回答した人のうち全問不正解だった人の割合は48.9%で、「拡散していない」人の24.7%のおよそ2倍に達しました。情報の真偽を見極める力が弱い人ほど、偽・誤情報を広げてしまいやすいという相関がうかがえます。真偽判断の精度が高い人ほどテストの正答率も高い傾向が示されており、リテラシーの底上げが拡散抑制の鍵になることを示唆しています。

「立ち止まって考える」意向と実際の行動

 拡散前に一度立ち止まることの有効性が指摘されるなか、立ち止まって考える意向を示した人は79.2%に上りました。もっとも、インターネットやSNSの利用時に「偽・誤情報等に触れている可能性がある」と回答した人は80.6%に達する一方、「偽・誤情報等を信じてしまう・騙されてしまう可能性がある」と回答した人は56.4%にとどまりました。触れているという認識に比べ、自分が騙されうるという認識は低く、ここにも自己認識のずれが表れています。

自己評価83.0%と「見破れる」という過信

 自分のICTリテラシーを平均的または平均より高いと考える人は83.0%に達し、その割合は若年層ほど高く、年代別では10代が最も高い傾向にありました。しかし、ディープフェイクを「自分は見破ることができる」と回答した人は、全問不正解の割合が61.5%と、他の回答をした人に比べて群を抜いて高くなりました。見破れるという自信と実際の判別能力が一致しないという結果は、リテラシー施策が「自覚のない過信」に向き合う必要があることを示しています。

リテラシー向上の取組をしない65.8%とその理由

 ICTリテラシー向上に向けた具体的な取組を「行っていない」人は65.8%に上りました。取組を実施しない理由として最も多かったのは「取組み方が分からない」で50.4%を占めています。関心がないというより、入口が分からないために動けていない層が相当数いることを示す結果です。あわせて、使いたい、あるいはリテラシー向上に繋がりそうな機能・サービスとしては、「フェイクニュース注意報」「ファクトチェック結果の表示」「出典の明示」を挙げる人が多く、判断を助ける具体的な仕組みへの需要が確認されました。

認知バイアスの認識と拡散経験の関係

 偽・誤情報への向き合い方には、認知バイアス、すなわち思い込みや先入観による判断の偏りへの理解が関わります。調査では、「認知バイアス」を知っている人は40.3%、持っている実感がある人は46.8%でした。認知バイアスを知っている、または持っている実感がある人ほど、情報の真偽判断の精度が高い傾向も示されています。興味深いのは拡散経験との関係です。「認知バイアスを知っている」人の割合は拡散経験がある人の方が高い一方(拡散経験のある人66.5%、ない人52.3%)、「認知バイアスを持っている実感がある」人の割合は拡散経験がない人の方が高い(拡散経験のある人54.3%、ない人59.3%)という結果でした。知識として知っていることと、自分ごととして実感していることは別であり、実感を伴わない知識だけでは拡散を抑えきれない可能性がうかがえます。施策の設計においては、知識の提供にとどまらず、自分も偏った判断をしうるという実感を促す工夫が求められることを示唆しています。

政策立案の示唆

この取組を行政が行う理由

情報の信頼性が行政と防災の基盤だから

 偽・誤情報の拡散は、個人が騙される問題にとどまりません。災害時に誤った情報が広がれば避難や救助に支障が出ますし、行政の発表が信じられなければ施策の実効性も損なわれます。情報の信頼性は、行政運営と防災の基盤そのものです。行政がリテラシーの実態把握と向上に取り組む理由は、情報空間の健全性が公共の安全と行政への信頼に直結するためです。

リテラシー格差への対応の必要性

 調査は、リテラシーの高低が拡散のしやすさと相関することや、取組の入口が分からず動けない層が多いことを示しました。放置すれば、情報を見極める力の差が被害の差につながりかねません。誰もが最低限のリテラシーを身につけられるよう、行政が入口を用意する必要があります。

行政側の意図

実態に基づく施策設計(EBPM)

 本調査の意図は、思い込みではなく実態のデータに基づいて施策を設計することにあります。自己評価と実態のギャップや、取組をしない理由といった具体的な数値は、どの層にどんな働きかけが必要かを見極める材料になります。証拠に基づく政策立案の考え方を、偽・誤情報対策の分野に適用するものです。

各主体への役割期待の明確化

 調査では、安心できる情報社会づくりの主体に期待する内容として、いずれの組織・団体に対しても「正しい情報の発信」を挙げる声が高く、マスメディア(63.3%)、WEBメディア(60.1%)、デジタルプラットフォーマー(54.2%)が上位に並びました。情報を届ける各主体が正確な発信という基本的な役割を果たすことへの期待が、あらためて確認されています。

期待される効果

 期待される効果は、実態に即したリテラシー向上施策によって、偽・誤情報を見極める力の底上げと拡散の抑制が進むことです。判断を助ける機能への需要が明確になったことで、注意喚起や出典明示、ファクトチェックの結果表示といった具体的な仕組みの整備にもつながり得ます。ただし、リテラシーの向上は一朝一夕には進まず、継続的な啓発と、自覚のない層に届く工夫があってはじめて効果が表れると考えられます。

課題・次のステップ

 課題は、課題を自覚していない層と、入口が分からない層にどう届けるかにあります。取組をしない理由の最多が「取組み方が分からない」であったことは、情報や機会を届ける経路の設計が鍵であることを示しています。関心の低い層にも自然に届く形で、判断を助ける仕組みと学びの入口を用意することが、次のステップになります。

特別区への示唆

自治体広報の「正しい情報の発信」への期待に応える

 特別区にとっての第一の示唆は、住民が行政を含む各主体に「正しい情報の発信」を強く期待していることを踏まえ、区の広報の正確性と一次情報としての発信力を高めることです。偽・誤情報が広がりやすい環境だからこそ、区が発する情報が確かなよりどころとなるよう、出典の明示や根拠の提示を丁寧に行うことが、住民の信頼を支えます。

災害時の偽・誤情報対策との接続

 第二に、災害時の偽・誤情報対策です。大規模災害では、根拠のない情報が避難や物資をめぐる混乱を招きます。区は、平時から公式の情報発信経路を住民に周知し、発災時に正確な情報を速やかに届ける体制を整えておく必要があります。立ち止まって考える意向は高い一方で騙される自覚は低いという結果を踏まえ、災害時に情報の出所を確かめる行動を促す啓発が有効と考えられます。

住民のリテラシー向上支援と「入口」の提供

 第三に、リテラシー向上の取組をしていない人が65.8%を占め、その最大の理由が「取組み方が分からない」であったことは、区が果たせる役割を示しています。区の広報紙やイベント、生涯学習、学校や図書館と連携した講座など、住民が無理なく学べる入口を用意することが、実態に即した支援になります。判断を助ける機能への需要が高いことを踏まえ、公式サイトでの出典明示や注意喚起の工夫も検討に値します。

職員自身のリテラシーと生成AI時代の情報の扱い

 第四に、区の職員自身のリテラシーです。生成AIによって精巧な偽情報やディープフェイクの作成が容易になるなかで、行政が受け取る情報や発信する情報の真偽を見極める力は、職員にも求められます。見破れるという自信と実際の判別能力が一致しないという調査結果は、行政職員も例外ではありません。研修などを通じて、情報の出所を確かめ、根拠を確認し、一次資料に当たるという習慣を組織として身につけることが、区の情報発信の信頼性を内側から支えます。職員が確かな情報の扱い方を体得することは、住民への発信の質にも、住民からの相談への対応にも直結します。

世代差・高齢者への配慮

 第五に、世代差への配慮です。自己評価は若年層ほど高い一方で過信の傾向も示されており、若年層には過信への気づきを促す働きかけが、高齢者には基礎的な知識と相談先の提供が、それぞれ有効と考えられます。多様な住民を抱える特別区では、世代や情報環境に応じて支援の届け方を変えるきめ細かさが求められます。

まとめ

 総務省のICTリテラシー実態調査は、偽・誤情報の拡散とリテラシーの相関、立ち止まる意識と行動のずれ、そして自己評価と実態のギャップという、対策設計の勘所を数値で示しました。全問不正解が拡散経験者で48.9%と非拡散者の約2倍に上ったことは、リテラシーの底上げが拡散抑制の鍵であることを裏づけ、取組をしない人が65.8%でその理由の最多が「やり方が分からない」であったことは、学びの入口づくりの重要性を示しています。見破れるという自信がある人ほど判別を誤りやすいという逆説は、施策が自覚のない過信に向き合う必要を突きつけています。

 行政にとっての含意は、規制や技術だけでは偽・誤情報に対処しきれず、受け手のリテラシーという土台を地道に育てる必要があるという点です。自己評価は高いのに実態が伴わない、取り組みたくても入口が分からないという調査結果は、施策が届きにくい層の存在を示しています。だからこそ、住民に最も近い基礎的自治体の役割が問われます。

 特別区にとっては、正しい情報の発信への高い期待に応える広報、災害時の偽・誤情報対策、そして住民のリテラシー向上を支える入口の提供という形で、この調査結果を実務に生かす余地があります。偽・誤情報への耐性を住民一人ひとりが高めていくには時間がかかり、行政だけで完結するものでもありませんが、住民に最も近い基礎的自治体として、区が確かな情報の発信者であり学びの入口の提供者であり続けることが、情報空間の健全性を地域から支える現実的な一歩になると考えられます。


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