07 自治体経営

【企画課】SDGs未来都市計画 完全マニュアル

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はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。

SDGs未来都市計画の基礎知識

SDGs未来都市制度の概要と意義

 本章では、企画課の職員として「SDGs未来都市計画」を推進する上で不可欠となる、制度の根幹的な理解を深めます。制度の目的、歴史的背景、そして関連する事業との関係性を正確に把握することは、効果的な計画策定の第一歩となります。

制度の目的:地方創生とSDGsの統合

 「SDGs未来都市」制度は、2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の理念、すなわち「誰一人取り残さない」社会の実現を、日本の地域が抱える課題解決の原動力として活用することを目的としています。多くの地方自治体が直面している人口減少、少子高齢化、地域経済の縮小といった深刻な課題に対し、SDGsを道しるべとすることで、持続可能なまちづくりを推進するものです。

 これは、国の重要政策である「まち・ひと・しごと創生(地方創生)」と、2030年を目標年次とする国際目標であるSDGsの達成を、不可分一体のものとして推進する国家戦略の一環です。つまり、SDGs未来都市への取組は、単なる国際貢献活動ではなく、それぞれの地域が自らの力で未来を切り拓くための、極めて実践的な地方創生戦略そのものであると言えます。

歴史的変遷:「環境モデル都市」「環境未来都市」から「SDGs未来都市」へ

 SDGs未来都市制度は、過去の先進的な都市政策の成果と反省の上に成り立っています。その源流は、2008年度から始まった「環境モデル都市」構想に遡ります。この構想は、低炭素社会の実現を主眼とし、温室効果ガスの大幅な削減を掲げる都市を選定するものでした。

 その後、この取組は「環境未来都市」構想へと発展します。ここでは、環境問題に加え、急速に進む「超高齢化への対応」という社会的な課題もスコープに含まれ、より複合的な課題解決を目指す都市が選定されました。

 そして、2018年度、これらの構想を継承し、さらに発展させる形で「SDGs未来都市」制度が創設されました。この変遷は単なる名称変更ではありません。それは、国の政策立案における根本的なパラダイムシフトを意味しています。初期のモデルが主に環境という特定の分野に焦点を当てていたのに対し、SDGs未来都市は、経済(働きがい、イノベーション)、社会(健康・福祉、ジェンダー平等)、環境(気候変動、生物多様性)の三側面を不可分なものとして統合的に取り扱うことを絶対的な要件としています。

 この背景には、人口減少や経済の停滞といった複雑な地域課題は、環境政策という単一の処方箋だけでは解決できないという認識があります。持続可能な地域社会を築くためには、経済的な活力の創出、社会的な包摂性の確保、そして環境の保全が、三位一体で推進されなければならないのです。企画課の職員はこの点を深く理解し、縦割り行政の発想から脱却し、あらゆる政策を三側面の相乗効果という視点から評価・立案する能力が求められます。

「自治体SDGsモデル事業」との関係性

 「自治体SDGsモデル事業」は、SDGs未来都市に選定された自治体が提案する取組の中から、特に先導的であり、全国的な模範となりうる優れた事業を国が別途選定し、重点的に支援する制度です。

 モデル事業に選定されると、国から最大4,000万円といった規模の補助金が交付され、事業を強力に推進する財政的な裏付けを得ることができます。これは、先進的な成功事例を創出し、その知見やノウハウを他の自治体へ横展開(普及展開)することで、日本全体のSDGs達成を加速させることを目的とした、トップランナー支援策です。

 東京都の特別区では、豊島区や墨田区が「SDGs未来都市」と「自治体SDGsモデル事業」の両方に選定される「ダブル選定」を受けており、その取組は他の特別区にとっても重要なベンチマークとなります。

企画課が担う役割と業務の全体像

なぜ企画課が主導するのか:政策の統合と横断的調整

 SDGs未来都市計画が、区の企画課(または企画担当部署)主導で進められるのには明確な理由があります。SDGsが17のゴールと169のターゲットから構成されることからも分かるように、この計画は環境、福祉、産業、都市整備、教育といった、区のあらゆる政策分野を横断する極めて総合的な計画です。

 特定の事業所管課が主導した場合、どうしてもその部署の専門分野に偏った計画になりがちです。しかし、SDGs未来都市計画に求められるのは、個別の政策の最適化ではなく、区政全体の最適化です。経済・社会・環境の三側面のバランスを取り、政策間の相乗効果を最大化するためには、区長を補佐し、区政全体の総合調整機能を担う企画課が司令塔となるのが最も合理的です。企画課の役割は、行政の「縦割り」という構造的な課題を乗り越え、全部局を巻き込みながら、一つのチームとして計画を推進することにあります。

業務のスコープ:計画策定から推進、進行管理まで

 企画課が担う業務は、非常に広範にわたります。そのプロセスは以下の通りです。

  1. 応募・選定段階: 内閣府への提案書作成。地域の現状分析、将来ビジョンの設定、三側面を統合した具体的な取組の提案など、質の高い提案内容を練り上げます。
  2. 計画策定段階: 選定後、提案内容を基に、より詳細な「SDGs未来都市計画」を策定します。例えば「豊島区SDGs未来都市計画」のように、3年から5年の期間で具体的な目標や事業を定めます。
  3. 体制構築段階: 計画の実効性を担保するため、区長をトップとする全庁的な推進体制(例:「江戸川区SDGs推進本部」)を構築し、その事務局機能を担います。
  4. 推進・実行段階: 計画に盛り込まれた事業が各所管課で着実に実行されるよう、進捗を管理し、必要な調整を行います。
  5. 連携促進段階: 「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」などを活用し、企業、NPO、大学といった多様なステークホルダーとの連携(パートナーシップ)を構築します。
  6. 評価・改善段階: 計画の進捗状況を定期的に評価(Check)し、課題を特定して改善策を講じ(Action)、PDCAサイクルを回します。
  7. 普及啓発段階: 区民や事業者へのSDGsの理念の普及と、計画への理解・協力を促進します。広報誌での特集や、イベントの開催、「としまSDGsチャレンジブック」のようなツールの作成も重要な業務です。

計画策定の法的根拠と行政上の位置づけ

地方自治法と総合計画との関連性

 地方自治法は、地方公共団体に対し、「総合的かつ計画的な行政の運営を図るための基本構想」を定めるよう求めています。これが、各特別区における最上位の計画である「基本構償」であり、その実現に向けた具体的な施策体系を示したものが「基本計画(総合計画)」です。

 一方で、「SDGs未来都市計画」は、地方自治法等で策定が直接義務付けられている法定計画ではありません。しかし、その内容は自治体の持続可能な発展を目指すものであり、事実上、総合計画が描く「2030年のあるべき姿」を、SDGsという世界共通のフレームワークを用いて具体化し、その実現を加速させるための重要な戦略計画と位置づけられます。

 多くの自治体では、総合計画の策定や改定の際に、SDGsの理念や17のゴールを計画の基本方針や施策評価の指標として取り入れています。例えば、墨田区では基本計画の改定時にSDGsの視点を導入し、基本計画の達成を通じてSDGsの実現に貢献するとしています。したがって、SDGs未来都市計画は総合計画から乖離した別の計画ではなく、総合計画と緊密に連携し、一体的に運用されるべきものです。

各種部門別計画との整合性の確保

 区の行政は、環境基本計画、都市計画マスタープラン、子ども・子育て支援計画、健康増進計画など、様々な分野別の部門別計画に基づいて運営されています。SDGs未来都市計画は、これらの個別計画の上に立ち、各計画に「SDGs」という横串を通す役割を担います。

 例えば、環境基本計画における「再生可能エネルギー導入目標」はSDGsゴール7と13に、子ども・子育て支援計画における「待機児童解消」はゴール4と5に、といったように、各部門の取組がSDGsのどの目標に貢献するのかを明確に関連付けます。企画課は、各所管課が部門別計画を策定・改定する際に、SDGs未来都市計画との整合性が確保されるよう、助言や調整を行う重要な役割を担います。

主要計画の位置づけ比較表

 職員、特に若手職員が区の複雑な計画体系を理解し、政策を cohérent(首尾一貫して)に立案できるよう、各計画の法的な位置づけや役割を以下の表に整理します。この表は、自らの業務が区政全体のどの部分に位置するのかを常に意識するための基礎資料となります。

計画の種類法的根拠計画期間(例)主な役割と位置づけ
基本構想地方自治法10年~20年区政の最上位計画。将来の都市像を示す、区政運営の憲法のような存在。
基本計画(総合計画)地方自治法5年~10年基本構想を実現するための施策の大綱。区の全ての政策の基本となる。
SDGs未来都市計画(内閣府選定)3年~5年総合計画をSDGsの視点で具体化・加速させる戦略計画。経済・社会・環境の統合的向上を目指す。
実施計画(各区条例等)3年基本計画に基づき、単年度の具体的な事業と予算を示す、最も実務的な計画。
部門別計画(各個別法等)5年~10年特定分野(環境、福祉等)の専門的な計画。SDGs未来都市計画の方針と整合性を図る必要がある。

SDGs未来都市計画の標準業務フロー

選定に向けた準備段階(Plan)

内閣府への応募プロセス詳解

 SDGs未来都市の選定プロセスは、透明性と客観性を担保するために、明確な手順に沿って進められます。企画課の担当者はこのフローを正確に理解し、各段階で求められる対応を的確に行う必要があります。

 全体の流れは、概ね以下の6つのステップで構成されます。

  1. 提案書の電子メール提出: 内閣府地方創生推進事務局が指定する期間内に、作成した提案書を電子メールで提出します。
  2. 書面評価: 提出された提案書は、「自治体SDGs推進評価・調査検討会」によって評価されます。この検討会は、大学教授や研究者など、SDGsや地方創生に関する学識経験者や専門家で構成されており、客観的な視点から評価が行われます。
  3. ヒアリング対象団体の決定: 書面評価の結果に基づき、より詳細な説明を求める自治体(ヒアリング対象団体)が選定されます。
  4. ヒアリングの実施: 選定された自治体は、検討会の委員に対して、提案内容に関するプレゼンテーションと質疑応答を行います。提案の熱意や実現可能性を直接伝える重要な機会です。
  5. 選定案の作成: 書面評価とヒアリングの結果を総合的に勘案し、検討会がその年度のSDGs未来都市および自治体SDGsモデル事業の選定案を作成します。
  6. 選定・公表: 最終的に内閣府が選定都市を決定し、公式に発表します。提案書の提出から選定・公表までは、通常3~4ヶ月程度の期間を要します。

提案書作成の実務:ビジョン設定、課題分析、三側面(経済・社会・環境)の統合

 選定を勝ち取るための提案書作成には、戦略的なアプローチが不可欠です。評価のポイントは、単にユニークな事業を羅列することではなく、地域の実情に根差した説得力のあるストーリーを構築できるかにかかっています。

  • 2030年のあるべき姿(ビジョン)の設定: 提案書の核となるのが、SDGsの目標年次である2030年に、自分たちの区がどのような姿になっているべきかを描く「ビジョン」です。このビジョンは、客観的なデータに基づく現状分析(人口動態、産業構造、環境負荷、住民の幸福度など)と、そこから導き出される将来の課題認識に立脚している必要があります。例えば、豊島区が「消滅可能性都市」という課題認識から「国際アート・カルチャー都市」というビジョンを掲げたように、課題とビジョンが明確に結びついていることが重要です。
  • 三側面(経済・社会・環境)の統合的取組: 評価において最も重要視されるのが、経済・社会・環境の三側面の取組が有機的に連携し、相乗効果を生み出す設計になっているかという点です。例えば、「環境負荷の低いまちづくり」という環境面の目標と、「高齢者が安心して暮らせるまちづくり」という社会面の目標を掲げたとします。これらを統合する取組として、「高齢者の移動支援(社会)のために、再生可能エネルギーで走るコミュニティEVバス(環境)を導入し、バスの運転手や運営スタッフとして高齢者を雇用する(経済)。これにより高齢者の外出機会が増え、健康増進(社会)と地域内消費の活性化(経済)にも繋がる」といったストーリーを構築します。このように、一つの取組が複数の側面に好影響を与える「統合的解決策」を提示することが、高い評価を得るための鍵となります。

計画策定段階(Do)

庁内推進体制の構築:SDGs推進本部の設置と運営

 SDGs未来都市に選定された後、計画を絵に描いた餅に終わらせないためには、強力な全庁的推進体制の構築が不可欠です。その中核となるのが、首長をトップに据えた「SDGs推進本部」です。

 先進事例である江戸川区では、区長を本部長、副区長を副本部長、そして全部長を本部員とする「江戸川区SDGs推進本部」を設置しています。このようなトップダウンの体制を敷くことで、SDGs推進が一部の部署だけの取組ではなく、区政全体の最重要課題であるという明確なメッセージを庁内外に示すことができます。

 企画課は、この推進本部の事務局として、会議のアジェンダ設定、資料作成、議事録作成といった運営実務を担います。さらに重要な役割として、本部での決定事項が各部署の日常業務に確実に落とし込まれるよう、各部局との連絡調整や、進捗状況のフォローアップを行います。企画課は、区政の羅針盤であるSDGs未来都市計画が円滑に航海できるよう、航路を調整し、各部署のエンジンを動かすための潤滑油の役割を果たすのです。

ステークホルダー連携:官民連携プラットフォームの活用法

 SDGsのゴール17に「パートナーシップで目標を達成しよう」と掲げられている通り、SDGsの達成は行政の力だけでは不可能です。企業、NPO、大学、研究機関、そして市民一人ひとりといった、多様なステークホルダーとの連携(パートナーシップ)が成功の鍵を握ります。

 この連携を促進するための強力なツールが、内閣府が運営する「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」です。このプラットフォームには、SDGsに意欲的な多くの企業や団体が会員として登録しています。自治体は、自らが抱える地域課題(例:「フードロスを削減したい」「子どもの貧困対策に協力してくれる企業を探している」など)をプラットフォーム上に提示し、その課題解決に繋がる技術やノウハウを持つ企業等からの提案を募ることができます。

 企画課の職員は、このプラットフォームに積極的に自区の情報を登録・発信し、有望な連携パートナー候補を探索する役割を担います。定期的に開催されるマッチングイベント等にも参加し、外部の知見やリソースを積極的に区の計画に取り込むためのパイプ役となることが期待されます。

計画書の構成要素と記述のポイント

 実際に策定するSDGs未来都市計画書は、区民や事業者にとっても分かりやすく、行動を促すようなものでなければなりません。都内で選定されている墨田区、豊島区、江戸川区、板橋区などの計画書PDFを参考に、標準的な構成要素を理解することが有効です。

 一般的に、計画書は以下の要素で構成されます。

  1. 将来ビジョン: 提案書で示した「2030年のあるべき姿」を、より具体的に記述します。
  2. 重点目標とKPI: ビジョンを実現するために特に優先して取り組むべき目標を複数設定し、それぞれの達成度を測るための客観的な指標(KPI)を明記します。
  3. 具体的な取組: 各重点目標を達成するための具体的な事業やプロジェクトを記述します。
  4. 推進体制: SDGs推進本部やステークホルダーとの連携体制など、計画を推進するための仕組みを記述します。 記述にあたって特に重要なポイントは、各取組がSDGsの17のゴールのうち、どれに貢献するのかを明確に対応付けることです。これにより、区の政策とSDGsの関連性が「見える化」され、職員や区民が自らの取組の意義を理解しやすくなります。

推進・実行段階(Do)

具体的な事業の立案と予算化

 SDGs未来都市計画に掲げた取組は、それだけでは実行されません。具体的な事業として実施計画に位置づけられ、年度ごとの予算が確保されて初めて実現への一歩を踏み出します。

 企画課は、各事業を所管する部署と緊密に連携し、事業内容の具体化を支援します。例えば、「地域資源を活用した観光振興」という取組であれば、観光課と共に、ターゲット層の選定、プロモーション手法、イベント内容、必要な人員体制、そして事業費の積算などを詳細に検討します。

 財源の確保も重要な業務です。国の各種補助金や交付金を活用できないか情報収集を行うほか、近年注目されている「地方創生SDGs金融」の活用も視野に入れます。これは、地域の金融機関がSDGsに貢献する事業に対して積極的に融資や投資を行う動きであり、区が認証制度を設けるなどして、こうした民間資金の流れを後押しすることも有効な手段です。

KPI(重要業績評価指標)の設定とロジックモデルの活用

 各取組の成果を客観的に測定し、事業の有効性を評価するためには、適切なKPI(Key Performance Indicator: 重要業績評価指標)の設定が不可欠です。KPIは、事業の進捗と成果を測る「ものさし」の役割を果たします。

 このKPI設定は、単に進捗を測るためだけの事務的な作業ではありません。むしろ、事業の戦略的な方向性を定め、関係者間の共通認識を形成するための極めて重要なプロセスです。「地域を活性化する」といった漠然とした目標を、「新規創業件数を年間10%増加させる」といった具体的で測定可能な目標に落とし込むことで、何をすべきかが明確になります。

 良いKPIを設定するためには、その事業がどのような因果関係(ロジックモデル)を経て最終的な成果(インパクト)に繋がるのかを徹底的に考える必要があります。例えば、「起業家セミナーの開催」という事業を考えます。

  • 投入(Input): 予算、職員
  • 活動(Activity): セミナーの開催
  • 産出(Output): セミナー参加者数(例:50人)
  • 成果(Outcome): セミナー参加者のうち、実際に起業した人の数(例:5人)
  • 影響(Impact): 新たな起業によって生まれた雇用者数(例:10人) この場合、KPIとして設定すべきは、「セミナー参加者数」というOutput指標ではなく、「新規起業者数」や「新規雇用者数」といった、より事業目的の本質に近いOutcomeやImpact指標です。因果関係が不明確な指標(例:「区の定住人口」)をKPIに設定してしまうと、事業の成果を正しく評価できず、改善に繋がりません。適切なKPIを設定する能力は、成果を出す企画課職員にとって必須のスキルです。

進行管理と評価・改善(Check/Action)

定期的な進捗確認と評価手法

 計画の推進は、「Plan(計画)」と「Do(実行)」だけで完結しません。定期的に進捗を「Check(評価)」し、次の「Action(改善)」に繋げるPDCAサイクルを回すことが不可欠です。

 進捗確認の場として、先に述べたSDGs推進本部会議が中心となります。会議を半期ごと、あるいは年次で開催し、各重点目標に設定したKPIの達成状況をレビューします。その際、単に数値の報告に終始するのではなく、「なぜ計画通りに進んでいるのか(成功要因の分析)」、「なぜ目標に届いていないのか(課題の特定)」を深く議論することが重要です。

 進捗状況を関係者全員が直感的に把握できるよう、データをグラフや地図で「見える化」することも有効です。庁内で共有できるダッシュボードツールなどを活用し、リアルタイムに近い形で進捗を確認できる環境を整えることが望ましいです。

計画のローリング(見直し)と次期計画への反映

 SDGs未来都市計画は、一度策定したら終わりという固定的なものではありません。社会経済情勢は常に変化しており、当初は想定していなかった新たな課題が発生することもあります。そのため、計画は定期的に見直しを行い、現状に合わせて柔軟に修正していく「ローリング方式」で運用することが求められます。

 多くの自治体では、SDGs未来都市計画を3年程度の期間で設定しています。第1期計画(例:2022~2024年度)の最終年度には、3年間の取組の成果と課題を総括し、その結果を第2期計画(例:2025~2027年度)に反映させるプロセスが不可欠です。この計画の更新プロセスを通じて、自治体は学習し、より効果的な政策を生み出す組織へと成長していくことができます。

東京都及び特別区の先進事例と比較分析

主要特別区のSDGs未来都市計画ベンチマーキング

 このセクションでは、都内でSDGs未来都市に選定されている主要な特別区の計画を比較分析(ベンチマーキング)します。他区の戦略や具体的な取組を学ぶことは、自区の計画をより良いものにするための貴重なヒントとなります。重要なのは、各区がそれぞれの地域特性、歴史、強み、そして課題をどのように捉え、それを独自の「2030年のあるべき姿(ビジョン)」に結びつけているかを深く理解することです。

豊島区:「国際アート・カルチャー都市」の実現に向けた公民連携

  • ビジョンと背景: かつて「消滅可能性都市」と指摘された厳しい状況をバネに、「わたしらしく、暮らせるまち。」を基本コンセプトとして掲げています。多様性を力に変え、誰もが主役になれる持続可能なまちづくりを目指しています。
  • 重点事業: 自治体SDGsモデル事業にも選定されたのが、池袋駅周辺の特色ある4つの公園を、真っ赤な電気バス「IKEBUS」で繋ぐプロジェクトです。公園を単なる憩いの場ではなく、文化イベントや地域交流の拠点として活用し、まち全体の回遊性と魅力を高める戦略です。
  • 特徴: 公民連携(パブリック・プライベート・パートナーシップ)を強力に推進している点が最大の特徴です。区だけでなく、地域の企業や大学、NPOなどが一体となった「チームとしま」でまちづくりを進めています。また、SDGsに積極的に取り組む区内企業を認証する「SDGs企業認証制度」を構築し、民間セクターの取組を後押ししています。女性や若者、外国人など、多様な人々が活躍できる共生社会の実現を強く意識した施策が数多く展開されています。

墨田区:「ものづくり」を軸とした産業振興とスタートアップ支援

  • ビジョンと背景: 江戸時代から続く「ものづくりのまち」としての歴史と産業集積を最大の地域資源と捉え、「働きがい」を「生きがい」と「暮らし」につなげるデザイン、すなわち「プロトタイプが実装できるまち」をビジョンとして掲げています。
  • 重点事業: 自治体SDGsモデル事業として、「産業振興を軸としたプロトタイプ実装都市~ものづくりによる『暮らし』のアップデート~」を推進しています。これは、最新技術を持つスタートアップ企業と、高度な技術を持つ区内の中小企業とを引き合わせ、新たな製品やサービスの「プロトタイプ(試作品)」を次々と生み出し、社会に実装していくことを目指すものです。
  • 特徴: 地域の強みである「産業」をSDGs達成のエンジンと明確に位置づけている点に特徴があります。オープンイノベーションを促進するための拠点施設を整備し、企業間のネットワーク構築や人材育成を支援することで、区内企業が持続的に「稼げる」仕組みを構築しようとしています。産業振興が、結果として地域の雇用創出や活性化に繋がるという、経済と社会の好循環を目指す戦略です。

江戸川区:「共生社会」の実現と防災・減災の統合

  • ビジョンと背景: 区の理念を「SDGs=共生社会」と明確に定義し、誰もが安心して自分らしく暮らせるまちの実現を目指しています。同時に、区の面積の多くがゼロメートル地帯であるという地理的な特性から、「水害リスク」を最大の地域課題と認識しています。
  • 重点事業: この最大の課題を逆手に取り、「災害があっても誰一人取り残さないまち」の構築を計画の柱に据えています。これは、単なるハード整備だけでなく、自助・共助・公助の連携による水害対策体制の構築や、区民一人ひとりの防災意識の向上といったソフト面の取組を重視しています。
  • 特徴: 「リスク(危機)」を「チャンス(好機)」と捉える発想の転換が特徴的です。防災・減災という喫緊の課題解決への取組を、年齢、性別、国籍、障害の有無にかかわらず、誰もが支え合う強靭な地域コミュニティを形成する機会と位置づけています。SDGsの根幹にある「誰一人取り残さない」という理念を、防災という極めて具体的なテーマと結びつけている点が、他の区にはない独自性と言えます。

板橋区:「絵本のまち」を核とした教育環境都市の創造

  • ビジョンと背景: イタリア・ボローニャ市との長年の絵本を通じた交流から生まれた「絵本のまち」というユニークな文化資源をブランドの核としています。このブランド力を活かし、「子育てのしやすさが定住を生む教育環境都市」の実現をビジョンとして掲げています。
  • 重点事業: 区立美術館での「ボローニャ国際絵本原画展」の開催や、世界中の絵本を所蔵する「ボローニャ絵本館」の運営などを通じて、文化と教育を融合させた取組を展開しています。これらの取組が、子育て世代にとっての区の魅力を高め、若い世代の定住化に繋がることを目指しています。
  • 特徴: 「文化」というソフトな資源を、人口減少対策や地域活性化というハードな課題解決に繋げようとする戦略が特徴です。「ものづくりのまち」としての産業力と「絵本のまち」としての文化力を掛け合わせることで、独自の価値を創出しようとしています。子育て支援とゼロカーボンシティの実現を両輪で進めるなど、社会面と環境面の取組を統合的に推進しています。

特別区別SDGs未来都市計画の比較分析

 各区の戦略を一覧で比較することで、そのアプローチの違いがより明確になります。

区名2030年のビジョン(コンセプト)重点事業・自治体SDGsモデル事業特徴的な取組・キーワード
豊島区国際アート・カルチャー都市IKEBUS(電気バス)による公園ネットワーク化事業公民連携、文化芸術、女性にやさしいまちづくり、SDGs企業認証制度
墨田区プロトタイプが実装できるまち産業振興を軸としたプロトタイプ実装都市ものづくり、スタートアップ連携、産業共創、オープンイノベーション
江戸川区共生社会の実現(モデル事業選定なし)防災・減災、水害対策、多文化共生、コミュニティ主導
板橋区教育環境都市(モデル事業選定なし)絵本のまち、子育て支援、若い世代の定住化、ゼロカーボンシティ

広域連携の動向と可能性

特別区間の連携プロジェクトの事例

 気候変動対策や廃棄物問題など、一つの区だけでは解決が困難な広域的な課題に対しては、特別区が連携して取り組むことが極めて有効です。特に、大量消費地である特別区全体で取り組むべき課題として、海洋プラスチックごみ問題や食品ロス削減が挙げられています。

 「特別区全国連携プロジェクト」のような既存の枠組みを活用し、SDGs未来都市に選定された区が共同で先進的な取組を発表したり、共同で事業を実施したりすることで、より大きなインパクトを生み出すことが可能です。例えば、プラスチックの回収・リサイクルシステムの共同構築や、食品ロス削減に向けた統一的なキャンペーンの展開などが考えられます。

東京都との連携による相乗効果

 特別区の取組は、東京都が推進するSDGs戦略とも連携することで、さらなる相乗効果が期待できます。東京都は、独自の政策目標や財政支援制度を持っています。例えば、都が推進するゼロエミッション東京戦略と連携し、区の公共施設のZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化やEV(電気自動車)導入に対して、都からの補助金を活用するといったことが考えられます。

 企画課は、常に東京都の政策動向を注視し、区のSDGs未来都市計画と連携できる事業や財源がないか、アンテナを高く張っておく必要があります。都との定期的な情報交換や協議の場を設け、連携の機会を積極的に模索する役割が求められます。

業務改革とDXの推進

ICT活用による業務効率化

RPAによる定型業務の自動化

 日々の業務の中には、データの入力、転記、集計、定型的な通知文の作成など、ルールが決まっている反復的な作業が数多く存在します。こうした定型業務にRPA(Robotic Process Automation)を導入することで、ソフトウェアロボットが人間の代わりに24時間365日、正確に作業を遂行します。

 これにより、職員は単純作業から解放され、より付加価値の高い、創造的な企画・立案業務や、住民との対話といった人間にしかできない業務に集中するための時間を創出することができます。SDGs未来都市計画の推進においても、各種データの集計や進捗報告資料の作成などにRPAを活用することで、業務の大幅な効率化が期待できます。

SMSやオンラインツールを活用した住民への情報発信と意見収集

 従来の広報手段である広報誌やポスター、説明会だけでは、情報を届けられる層や、意見を聴取できる層が限られてしまうという課題がありました。特に、日中仕事をしている若者や子育て世代からの意見を十分に集めることは困難でした。

 ICTを活用することで、この課題を克服できます。例えば、SMS(ショートメッセージサービス)を利用すれば、携帯電話番号が分かっている住民に対して、災害情報や重要な行政情報を迅速かつ確実に届けることができます。また、SNS(Facebook, X, LINEなど)やオンラインアンケートツール(Google Formsなど)を活用すれば、時間や場所の制約なく、より多くの住民、特に若者世代からの意見を効率的に収集することが可能になります。これにより、住民参加の機会を拡大し、より多様な民意を計画に反映させることができます。

データ駆動型政策立案(EBPM)の実践

地域データの可視化と分析手法

 効果的な政策を立案するためには、経験や勘だけに頼るのではなく、客観的なデータに基づいて現状を正確に把握し、課題を特定することが不可欠です。これがEBPM(Evidence-Based Policy Making: 証拠に基づく政策立案)の考え方です。

 そのための強力なツールとして、国が提供するRESAS(リーサス:地域経済分析システム)などのオープンデータがあります。RESASを使えば、自区の人口の増減や転入・転出の状況、産業構造、観光客の動態といった様々なデータを、地図やグラフの形で誰でも簡単に「見える化」することができます。

 例えば、津山市ではRESASのデータ分析から「18歳の若者が高校卒業後に市外へ大量に流出している」という深刻な課題を職員全体で共有し、強い危機感を持って若者定着の施策に取り組むきっかけとなりました。企画課職員は、こうしたデータ分析ツールを使いこなし、客観的なデータに基づいて政策課題を発見し、説得力のある政策提案を行う能力を身につける必要があります。

住民参加型合意形成プラットフォーム(Decidim等)の導入事例

 DXは、住民参加と合意形成のあり方を根本から変える可能性を秘めています。その先進事例が、スペイン・バルセロナ市で開発された市民参加型合意形成プラットフォーム「Decidim(デシディム)」です。

 Decidimは、市民がオンライン上で政策課題について議論し、新たなアイデアを提案し、事業の予算配分について投票するなど、まちづくりの意思決定プロセスに直接参加できるデジタルツールです。バルセロナ市では、このプラットフォームを活用し、4万人以上の市民が参加して市の行動計画を策定した実績があります。

 日本国内でも、兵庫県加古川市などがこのDecidimを導入し、河川敷の利活用アイデア募集など、様々なテーマで市民との対話に活用しています。こうしたプラットフォームを導入することで、従来の説明会やワークショップ形式では参加が難しかった人々もオンラインで手軽に参加できるようになり、市民協働の質と量を飛躍的に向上させることが期待できます。

民間活力の活用と公民連携(PPP/PFI)

地方創生SDGs金融の活用

 地域の課題解決には、公的な予算だけでなく、民間資金をいかに活用するかが重要になります。その鍵となるのが「地方創生SDGs金融」です。

 これは、地域の金融機関(銀行、信用金庫など)が、地域のSDGs達成に貢献する企業や事業に対して、積極的に融資や投資を行う動きを指します。例えば、省エネ設備を導入する中小企業や、子育て支援サービスを提供するNPO法人などに対し、低利の融資制度を設けるといった取組です。

 区の役割は、こうした民間の資金が地域の課題解決に向かうよう、流れを促進することです。具体的には、豊島区の「SDGs企業認証制度」のように、SDGsに貢献する企業を区が認証し、その情報を金融機関と共有することで、融資審査の際に有利になるような仕組みを構築することが考えられます。これにより、公的資金を直接投入せずとも、民間資金を活用して地域の持続可能性を高める「自律的好循環」を生み出すことができます。

「あだちSDGsパートナー」等、地域企業との連携制度の構築

 地域内の企業や団体との連携を強化するための有効な手法として、パートナーシップ制度の創設があります。先進事例である足立区では、区内でSDGs達成に向けた取組を行う事業者や団体を「あだちSDGsパートナー」として登録する制度を設けています。

 登録されたパートナーの取組は、区のウェブサイトなどで広く紹介され、企業のイメージアップやPRに繋がります。区にとっては、地域でどのようなSDGs活動が行われているかを把握できるとともに、パートナー同士のビジネスマッチングを促進し、新たな連携事業を生み出すきっかけにもなります。このような制度は、企業の自発的なSDGsへの取組を促し、地域全体でSDGsを推進する機運を醸成する上で非常に効果的です。

生成AIの戦略的活用

企画課業務における生成AIの具体的な用途

 近年急速に発展している生成AI(ChatGPTなど)は、行政事務のあり方を大きく変革する可能性を秘めています。企画課の業務においても、その活用範囲は広く、戦略的に導入することで生産性を飛躍的に向上させることができます。

計画書・報告書・答弁書等の原案作成支援

 企画課の主要業務である文書作成において、生成AIは強力なアシスタントとなります。SDGs未来都市計画の素案作成、事業の進捗報告書、議会での答弁書の原案作成など、様々な場面で活用できます。

 例えば、「墨田区の事例を参考に、ものづくり産業振興を軸としたSDGsモデル事業の企画骨子を作成してください」といった指示を与えることで、AIは関連情報を整理し、論理的な構成案を数分で提示します。もちろん、最終的な責任は職員が負うため、内容の正確性(ファクトチェック)や、区の状況に合わせた修正は必須ですが、ゼロから文章を組み立てる時間と労力を大幅に削減できます。先行して全庁利用を開始した神奈川県横須賀市では、8割以上の職員が「仕事の効率が向上した」と回答しており、その有効性が実証されています。

パブリックコメントや住民アンケートの自動要約・分類

 計画策定の過程で実施するパブリックコメントや住民アンケートでは、しばしば数百、数千という大量の意見が寄せられます。これら全てに目を通し、内容を分類・要約する作業は、これまで膨大な時間を要する手作業でした。

 生成AIを活用すれば、このプロセスを劇的に効率化できます。大量のテキストデータをAIに読み込ませ、「意見を『環境』『福祉』『教育』のテーマに分類し、それぞれの主要な意見を3点に要約してください」と指示するだけで、瞬時に整理された結果を得ることができます。これにより、職員は分析と、意見を政策へどう反映させるかという、より本質的な検討に時間を集中させることができます。この手法は、デジタル庁でも公的コメントの処理に活用されています。

会議の自動文字起こしと議事録要旨の作成

 庁内の打ち合わせや審議会など、会議の議事録作成は多くの職員にとって大きな負担となっています。「ログミーツ」のようなAI搭載の文字起こしツールを導入すれば、会議中の発言をリアルタイムでテキスト化し、議事録作成にかかる時間を大幅に削減できます。ある自治体では、このツール導入により、年間800時間以上かかっていた文字起こし業務の改善に繋がったという報告もあります。

 さらに、文字起こしされたテキストデータを生成AIに入力し、「この会議の決定事項と今後の課題を要約してください」と指示すれば、議事録の要旨も自動で作成できます。これにより、会議の欠席者への情報共有も迅速かつ効率的に行えるようになります。

先進事例リサーチの高度化・効率化

 優れた計画を立案するためには、国内外の他の自治体や研究機関の先進事例をリサーチすることが不可欠です。しかし、関連する報告書や論文は膨大な量にのぼり、全てを読み込むのは現実的ではありません。

 生成AIは、このリサーチ業務においても強力な武器となります。国内外の複数の報告書PDFをAIに読み込ませ、「脱炭素化と市民参加を両立させるための具体的な手法について、これらの資料から5つの示唆を抽出してください」といった、高度な情報収集・分析を指示することができます。これにより、リサーチの質とスピードを格段に向上させ、より質の高い政策立案に繋げることが可能です。

導入に向けた留意点と庁内ルール整備

 生成AIは便利なツールですが、その利用にはリスクも伴います。安全かつ効果的に活用するためには、全職員が遵守すべき明確なルールを整備することが不可欠です。

情報セキュリティと個人情報保護

 生成AIを利用する上で、最も厳格に守らなければならないのが、情報セキュリティの確保です。特に、インターネット経由で提供される多くの生成AIサービスは、入力された情報をサービス向上のために学習データとして利用する可能性があります。

 そのため、個人情報(氏名、住所、マイナンバーなど)や、公開前の政策情報といった機密情報を絶対に入力しないことを、全職員に徹底しなければなりません。このルール違反が、区民の信頼を著しく損なう重大な事態に繋がりかねないことを、全ての職員が肝に銘じる必要があります。

生成AI活用ガイドラインの策定ポイント

 安全な利用を担保し、活用を促進するためには、庁内向けの「生成AI活用ガイドライン」を策定することが極めて重要です。ガイドラインには、少なくとも以下の要素を盛り込むべきです。

  • 基本原則: 宮城県が策定した「生成AI活用5原則」は、非常に参考になります。①親和性の高い業務への積極活用、②効果的な問いかけの実践、③個人・機密情報の入力禁止、④生成された情報の正確性確認(ファクトチェック)、⑤著作権への留意、といった点を明記します。
  • 利用範囲: どのような業務での利用を推奨し、どのような業務での利用を禁止するかを具体的に示します。
  • 責任の所在: 生成AIが出力した内容の最終的な責任は、それを利用した職員自身にあることを明確にします。AIの回答を鵜呑みにせず、必ず自らの知見で確認・修正するプロセスを義務付けます。
  • 禁止事項: 個人・機密情報の入力禁止に加え、差別的・暴力的な内容の生成を目的とした利用などを明確に禁止します。

プロンプトエンジニアリングの基礎スキル

 生成AIから質の高い、意図した通りの回答を引き出すためには、的確な指示(プロンプト)を与える技術、すなわち「プロンプトエンジニアリング」のスキルが重要になります。漠然とした質問では、ありきたりな回答しか得られません。

 効果的なプロンプトには、いくつかのコツがあります。

  • 役割を与える: 「あなたは優秀な自治体の企画課職員です。」
  • 文脈を伝える: 「私たちの区では、高齢化率が25%を超え、特に単身高齢者の孤立が課題となっています。」
  • 具体的かつ明確に指示する: 「この課題を解決するため、地域コミュニティを活用した具体的な事業アイデアを3つ、それぞれのメリット・デメリットと合わせて提案してください。」
  • 出力形式を指定する: 「回答は表形式でまとめてください。」 こうした基本的なスキルを身につけるための簡単な研修会を実施し、全職員のスキルを底上げすることが、生成AIの導入効果を最大化する上で不可欠です。

計画推進力を高める実践的スキル

組織レベルでのPDCAサイクル実践法

 SDGs未来都市計画を成功に導くためには、計画を策定するだけでなく、組織全体でその進捗を管理し、継続的に改善していく仕組み、すなわちPDCAサイクルを効果的に回すことが不可欠です。ここでは、組織レベルでPDCAを実践するための具体的なステップを解説します。

Plan: 全庁的な目標(KGI)と各課の目標(KPI)の連動

. 計画の第一歩は、明確で魅力的なゴールを設定することです。まず、SDGs未来都市計画全体が目指す最終的な目標(KGI: Key Goal Indicator)を、全庁で共有します。KGIは、「2030年までに温室効果ガス排出量を40%削減する(2013年度比)」のように、具体的で測定可能な指標であるべきです。

. 次に、この全庁的なKGIを、各部署が担うべき具体的な目標(KPI: Key Performance Indicator)に分解します。例えば、上記のKGIを達成するためには、

  • 環境課のKPI: 「再生可能エネルギー設備導入への補助件数を年間100件にする」
  • 都市整備課のKPI: 「新設する公共施設のZEB化率を100%にする」
  • 広報課のKPI: 「省エネ行動に関する区民向けキャンペーンの認知度を70%にする」といった形で、各部署の業務とKGI達成との因果関係を明確にします。これにより、各職員は自らの仕事が組織全体の目標達成にどう貢献しているのかを理解し、モチベーションを高めることができます。

Do: 部署横断プロジェクトチームの組成とファシリテーション

. SDGsが扱う課題の多くは、一つの部署だけでは解決できない複雑なものです。例えば、「食品ロス削減」というテーマは、ごみ減量を担当する清掃部署だけでなく、学校給食を担当する教育委員会、食品事業者を所管する産業振興課、区民への啓発を担う広報課など、多くの部署が関わります。

. こうした課題に取り組むためには、関係部署の職員からなる部署横断型のプロジェクトチームを組成することが有効です。企画課の職員は、こうしたチームの中で、議論を円滑に進め、多様な意見を取りまとめ、合意形成を促す「ファシリテーター」としての役割を担うことが期待されます。優れたファシリテーションは、部署間の壁を乗り越え、創造的な解決策を生み出す原動力となります。

Check: 定期的な進捗レビュー会議の運営方法と評価指標の可視化

. 計画の進捗を評価(Check)するため、SDGs推進本部会議などの場で、定期的な進捗レビューを行います。この会議を実りあるものにするためには、事前の準備が重要です。

. 各部署のKPIの進捗状況を、誰が見ても一目で分かるようにダッシュボードなどのツールで可視化し、会議の参加者全員で共有します。会議の場では、単に「進捗率80%です」といった報告に終わらせず、「なぜ計画通りに進んでいるのか(成功要因)」や「なぜ遅れているのか(ボトルネック)」を深掘りする議論を促します。成功要因は他の部署でも応用できないか、ボトルネックを解消するためにはどのような支援が必要かを具体的に検討することが、次の改善(Action)に繋がります。

Action: 成功事例のナレッジ化と水平展開(ナレッジマネジメント)

. 評価(Check)の段階で明らかになった成功事例や失敗事例は、組織全体の貴重な財産です。ある部署で生まれた優れた取組(Good Practice)を、その部署だけの経験に終わらせず、組織全体で共有し、活用していく仕組み(ナレッジマネジメント)を構築します。

. 具体的には、成功事例をマニュアル化したり、庁内イントラネットで事例集として公開したり、研修会で担当者に発表してもらったりする方法があります。失敗事例も同様に共有し、「なぜ失敗したのか」を分析することで、他の部署が同じ過ちを繰り返すことを防ぎます。このように、組織として経験から学び、継続的に改善していく文化を醸成することが、計画推進力を高める上で不可欠です。

個人レベルでのPDCAサイクル実践法

 組織のPDCAサイクルが効果的に機能するためには、それを構成する職員一人ひとりも、自らの業務においてPDCAを回す意識とスキルを持つことが重要です。

Plan: 年次・半期・月次の個人目標設定

. まず、所属部署のKPI達成に自分がどのように貢献できるかを考え、具体的な個人目標を設定します。目標設定の際には、「SMART原則」を意識すると良いでしょう。

  • S (Specific): 具体的であるか(例:「住民満足度を向上させる」ではなく「窓口での待ち時間を平均5分短縮する」)
  • M (Measurable): 測定可能であるか(例:「平均5分」のように数値で測れるか)
  • A (Achievable): 達成可能であるか(現実離れした目標ではないか)
  • R (Relevant): 組織目標と関連しているか(部署のKPI達成に繋がるか)
  • T (Time-bound): 期限が明確であるか(例:「年度末までに」) 例えば、「担当する〇〇プロジェクトの住民説明会を前期中に3回開催し、参加者アンケートでの満足度80%以上を達成する」といった目標が考えられます。

Do: タスク管理ツールを活用した日々の業務遂行

. 設定した目標を達成するために必要な作業(タスク)を洗い出し、具体的な行動計画に落とし込みます。例えば、「住民説明会の開催」という目標であれば、「会場の予約」「案内チラシの作成」「配布先のリストアップ」「当日の資料準備」といったタスクに分解できます。

. これらのタスクを、庁内のグループウェアやTrelloのようなタスク管理ツールを使って管理し、優先順位をつけながら計画的に遂行します。日々の業務をタスクレベルで管理することで、進捗が「見える化」され、対応の抜け漏れを防ぐことができます。

Check: 業務日報や週次レビューによる自己評価

. 1日の業務の終わりや週末に、短時間でも良いので自身の仕事を振り返る習慣をつけます。計画通りにタスクを進められたか、目標達成に向けた課題は何か、もっと効率的に進める方法はなかったか、などを自問自答します。

. 業務日報のテンプレートなどを活用し、「今日の目標(Plan)」「実施内容(Do)」「課題と要因(Check)」「明日の改善点(Action)」といった項目を記録することで、日々の業務の中にPDCAサイクルを組み込むことができます。

Action: 上司との1on1ミーティングを通じた改善点の発見とスキルアップ

. 自己評価(Check)で見つけた課題や改善点について、定期的に上司と1対1で対話する機会(1on1ミーティング)を持つことが非常に有効です。

. ミーティングでは、自身の振り返りの結果を上司に共有し、客観的な視点からのフィードバックをもらいます。自分では気づかなかった強みや課題を指摘してもらうことで、より深い自己理解に繋がります。その上で、次のサイクルに向けた具体的な改善策(Action)、例えば新たなスキルの習得や、業務プロセスの見直し、必要な研修の受講などを上司と相談しながら決定し、次のPlan(目標設定)へと繋げていきます。

まとめ:持続可能な未来を創造する職員として

本研修資料の要点整理

 本研修資料では、東京都特別区の職員の皆様が「SDGs未来都市計画」という重要な業務を担う上で必要となる知識とスキルを、体系的かつ網羅的に解説してまいりました。

 まず、制度の基礎知識として、SDGs未来都市が単なる環境政策の延長ではなく、経済・社会・環境の三側面を統合し、地方創生を実現するための国家戦略であることを確認しました。そして、その推進役である企画課の業務フローを、準備段階から計画策定、実行、評価・改善に至るまで、具体的なステップに沿って詳解しました。

 さらに、豊島区、墨田区、江戸川区、板橋区といった都内の先進事例をベンチマーキングすることで、自区の特性を活かした戦略立案のヒントを探りました。また、DXやデータ活用、生成AIといった新たなテクノロジーをいかに業務改革に繋げるか、具体的な活用法と留意点を示しました。最後に、計画の実効性を高めるための鍵として、組織レベルと個人レベル、双方におけるPDCAサイクルの実践方法をステップバイステップで解説しました。

 本資料を通じて一貫してお伝えしたかった最も重要な視点は、SDGs未来都市計画が、既存の業務に上乗せされる「追加業務」なのではなく、区政の根幹である総合計画と一体となり、私たちが暮らす地域の未来を創造するための「羅針盤」であるということです。

読者である職員へのエールと今後の展望

 皆様が日々向き合っている窓口業務、書類作成、地域との調整、その一つひとつが、経済・社会・環境の三側面を通じて、私たちが愛するこの区の持続可能性に、そして未来の世代の暮らしに、確かに繋がっています。

 SDGsが示す課題は複雑で、前例のない困難に直面することも少なくないでしょう。時には、その壮大さに圧倒されそうになるかもしれません。しかし、皆様には、本資料で学んだ知識とスキルがあります。そして何よりも、SDGsのゴール17が示す「パートナーシップ」の精神があります。区役所の同僚、地域の事業者、NPO、大学、そして区民一人ひとりと手を取り合うことで、一人では乗り越えられない壁も、きっと乗り越えることができるはずです。

 どうか、失敗を恐れず、新たな挑戦を続けてください。データと対話を武器に、より良い未来を描いてください。皆様一人ひとりの情熱と行動が、誰もが誇りを持ち、安心して暮らし続けられる持続可能な地域社会を創造していくと、心から信じています。この研修が、その輝かしい未来への、確かな一助となることを願ってやみません。

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