【企画課】職員定数管理 完全マニュアル

はじめに
※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
企画課における職員定数管理の意義と全体像
なぜ定数管理は自治体経営の根幹なのか
職員定数管理は、単なる人員数の管理業務ではありません。人口構造の変化、行政ニーズの多様化・複雑化、そして厳しい財政的制約という環境下で、限られた人的資源をいかに最適に配置し、組織全体のパフォーマンスを最大化するかという、自治体経営の根幹をなす戦略的活動です。企画課の職員としてこの業務を担うことは、区の未来をデザインする重要な役割を担うことに他なりません。その意義は、主に以下の三つの側面に集約されます。
- 住民サービスの安定的提供と質の維持 適切な人員配置は、福祉、教育、防災といった住民生活に不可欠なサービスが、安定的かつ継続的に提供される体制を確保するための基盤です。例えば、子育て支援の窓口に十分な職員を配置することで、待機時間を短縮し、一人ひとりの相談に丁寧に対応できます。これにより、住民は必要な時に必要な支援を受けられるという安心感を得ることができます。定数管理は、まさしく住民の暮らしの質に直結するのです。
- 持続可能な行財政運営の実現(総人件費のコントロール) 自治体の歳出の中で最も大きな割合を占めるのが人件費です。職員定数は、この総人件費を規定する最大の要因であり、定数管理は財政規律を維持するための最重要ツールと言えます。計画的な定数管理によって総人件費を適切にコントロールし、財政の健全性を維持することで、将来世代に過度な負担をかけることなく、持続可能な地域社会を構築することが可能となります。
- 職員のワークライフバランスと組織活力の向上 働き方改革と連動した定数管理は、長時間労働の是正や働きがいの向上に直接つながります。過剰な人員削減は現場の疲弊を招き、サービスの質の低下や職員のメンタルヘルス不調を引き起こしかねません。一方で、業務内容に見合った適正な人員配置は、職員一人ひとりの負担を軽減し、能力を最大限に発揮できる環境を整えます。これにより、優秀な人材の確保・定着にも寄与し、組織全体の活力を高めることができます。
これら三つの要素、すなわち「住民サービスの質」「財政の持続可能性」「職員のウェルビーイング」は、互いに密接に関連し、時には緊張関係にあります。例えば、財政規律を優先して人員を削減すれば、住民サービスや職員の負担に影響が及びます。逆に、サービス拡充のために安易に増員すれば、財政を圧迫します。企画課の定数管理担当者に求められるのは、この三つの要素からなる「戦略的トライアングル」を常に意識し、どれか一つを犠牲にするのではなく、三つのバランスを最適化する舵取りを行うことです。この極めて高度な判断こそが、定数管理業務の核心であり、醍醐味でもあるのです。
職員定数管理の歴史的変遷
今日の定数管理のあり方を理解するためには、その歴史的背景を知ることが不可欠です。地方自治体における定数管理は、社会経済状況の変化を映す鏡のように、その姿を変えてきました。
- 拡大期から抑制・削減期へ 戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、日本の行政規模は拡大の一途をたどりました。昭和30年代には、増大する行政需要に応えるため、地方公務員の定員も大幅に増加しました。しかし、安定成長期への移行とそれに続くバブル崩壊後の厳しい財政状況を受け、行政のスリム化が国全体の課題となりました。国においては、昭和42年の第1次定員削減計画を皮切りに、平成12年まで10次にわたる定員削減計画が策定され、地方自治体にも同様の取り組みが強く求められました。特に、橋本行革や小泉構造改革の下では定員管理が徹底され、地方公務員数は平成6年の約328万人をピークに、17年連続で減少し続けました。この時代は、まさに「削減」が定数管理の至上命題でした。
- 地方分権の進展と自治体の自己決定権の拡大 平成12年(2000年)に施行された地方分権一括法は、定数管理のあり方に大きな転換点をもたらしました。機関委任事務が廃止され、自治体の自己決定権が大幅に拡大したのです。これにより、職員の定員管理についても、かつてのような国の画一的な基準に従うのではなく、各自治体が地域の実情に応じて自主的に判断し、計画的に管理していくことが重視されるようになりました。この流れは、定数管理が単なる「国の要請に応える業務」から、「自治体独自の戦略を反映する業務」へと質的に変化したことを意味します。
- 近年の動向:多様な働き方と非正規職員の増加 近年、定数管理を取り巻く環境はさらに複雑化しています。人口減少社会の到来、行政ニーズの多様化に対応するため、単純な職員数の削減だけでは立ち行かなくなりました。その中で、正規職員の定数を抑制しつつ、専門性や柔軟な働き方に対応するため、会計年度任用職員をはじめとする非正規職員の活用が急速に拡大しました。これにより、定数管理は条例で定められた正規職員(常勤職員)の数だけでなく、組織全体の人的資源をいかに効果的に組み合わせるかという、より広い視野が求められるようになっています。
この歴史的変遷は、定数管理のパラダイムが根本的にシフトしたことを示しています。かつての「いかに数を減らすか」という「削減(Reduction)」の時代から、「いかに最適な人員構成を実現するか」という「最適化(Optimization)」の時代へと移行したのです。現代の定数管理担当者には、過去の削減一辺倒の発想から脱却し、データ分析、業務改革、戦略的なワークフォース・プランニングといった、より高度で専門的なスキルが求められています。
企画課が担う役割と責任
企画課は、区政全体の企画・調整を担う部署として、定数管理においても中核的な役割を果たします。その責任は多岐にわたりますが、特に重要なのは以下の三点です。
- 全庁的な視点での最適配置の企画・調整 各部局は、それぞれの所管業務を遂行するために人員増を要求しがちです。しかし、区全体の人的資源は有限です。企画課は、一部局の視点に偏ることなく、区全体の施策の優先順位、将来の行政需要の変化を見据え、全庁的な視点から最も効果的・効率的な人員配置を企画し、関係部署との調整を行う司令塔の役割を担います。
- 予算編成との密接な連携 職員定数の決定は、人件費予算の決定と表裏一体です。定数管理は、予算編成プロセスと完全に連動して進められなければなりません。企画課は、財政部門と緊密に連携し、新たな人員配置が財政に与える影響を精緻に分析・シミュレーションし、持続可能な行財政運営と必要な行政サービスの提供を両立させるための最適な解を導き出す必要があります。
- 定数管理計画の策定と進行管理 中長期的な視点に立った「定数管理計画(定員適正化計画)」を策定し、その着実な実行を管理することは、企画課の最も重要な業務の一つです。この計画には、将来の人口動態や行政需要の予測、退職者数の見込み、そしてそれらに基づく採用計画などが盛り込まれます。計画を策定するだけでなく、毎年度の進捗状況を評価・検証し、必要に応じて見直しを行うPDCAサイクルを回していく責任があります。
職員定数管理の法的根拠と条例
根拠法令の理解:地方自治法を中心に
職員定数管理の実務は、法律と条例という強固な土台の上になりたっています。その根幹をなすのが地方自治法であり、この法律の規定を正しく理解することが全ての業務の出発点となります。
- 地方自治法第172条第3項「職員の定数は、条例でこれを定める」の解説 この条文は、地方自治体における定数管理の基本原則である「条例定数主義」を定めています。これは、普通地方公共団体に置く職員の定数(上限数)は、住民の代表である議会が制定する「条例」によって定めなければならない、ということを意味します。首長が任意に職員数を増減させることはできず、必ず議会の議決という民主的なコントロールを経る必要があるのです。この原則により、行政組織の肥大化を抑制し、透明性を確保する仕組みが担保されています。
- 定数に含まれる職員・含まれない職員 地方自治法第172条第3項のただし書きには、「臨時又は非常勤の職については、この限りでない」と規定されています。つまり、条例で定める定数の対象となるのは、原則として「常時勤務する職員」(正規の常勤職員)です。 一方で、会計年度任用職員のような非常勤職員や、臨時的任用職員は定数の対象外となります。 さらに、実務上極めて重要となるのが、正規の常勤職員であっても、条例の規定によって定数から除外されるケースがある点です。多くの自治体の定数条例では、地方公務員法や育児・介護休業法に基づき、以下のような職員を定数外としています。
- 育児休業中の職員
- 病気等による休職中の職員
- 他の地方公共団体等へ派遣されている職員
この「定数外」の規定が、後述する「条例定数」と「実職員数」の乖離を生む大きな要因となっており、定数管理の複雑さを理解する上で鍵となるポイントです。
東京都及び特別区の職員定数条例の比較分析
地方自治法の規定を受け、東京都と各特別区はそれぞれ独自の職員定数条例を定めています。これらの条例を比較分析することで、制度の運用実態をより深く理解することができます。
- 東京都職員定数条例の構成と特徴 東京都職員定数条例は、知事部局、公営企業、議会、各種委員会事務局など、部局ごとに非常に詳細な定数が定められているのが特徴です。また、定数の定義において、「常時勤務職員数」に加え、「育児短時間勤務職員」や「定年前再任用短時間勤務職員」の勤務時間を常勤職員の数に換算して合計する、という緻密な計算方法を採用しています。これは、多様な働き方に対応しつつ、総人件費の観点から全体の勤務時間(フルタイム換算職員数)を正確に管理しようとする意図の表れです。
- 各特別区の条例の定め方(杉並区の事例など) 特別区の条例も、基本的には東京都と同様に、区長部局や教育委員会事務局などの区分で定数を定めています。しかし、その運用においては、興味深い論点が存在します。例えば、杉並区の事例では、条例で定められた定数(条例定数)と、実際に在籍している常勤職員の数(実職員数)に乖離があることが指摘されています。これは、前述の育児休業中の職員などを定数外とする規定を適用した結果であり、決して違法な状態ではありませんが、区民への説明責任という観点からは課題も指摘されています。
- 「条例定数」と「実職員数」の乖離:論点と背景の解説 なぜ「条例定数」と「実職員数」の間に乖離が生まれるのでしょうか。これは、条例上の定数を「実際に勤務している職員の数」と捉えているためです。育児休業や病気休職で長期間職場を離れている職員は、身分は保持しているものの「常時勤務」はしていないため、定数から除外されます。そして、その代替として臨時的任用職員などを配置することが可能になります。 この仕組みには、メリットとデメリットが存在します。メリットは、職員が休業から復帰する際に、条例定数を変更することなくスムーズに職場に戻すことができるという運用上の柔軟性です。毎年、休業者数に応じて条例を改正するのは非現実的です。 一方で、デメリットは、区民から見て「本当の職員数は何人なのか」が分かりにくくなるという透明性の問題です。公表されている条例定数が、人件費の総額を推計する基礎となる実職員数と異なるため、誤解を招く可能性があります。 この「条例定数」と「実職員数」の乖離は、定数管理における「透明性のジレンマ」と呼べる問題です。一方には、職員のライフイベントに柔軟に対応するための「運用上の合理性」があり、もう一方には、区民に対する「説明責任と透明性の確保」という要請があります。この二つの要請はどちらも正当なものであり、両者のバランスをいかに取るかが、現代の定数管理担当者に課せられた難しい課題なのです。この問題を単なる「数字のテクニック」と捉えるのではなく、背景にある制度的な合理性と社会的な要請を理解した上で、自区の定数条例のあり方を常に問い直す姿勢が求められます。
法令・条例の要点整理
以上の内容を、実務で活用しやすいように表形式で整理します。この表を参照することで、日々の業務で法的根拠を確認する際の助けとなるでしょう。
表1: 職員定数管理に関する主要な法的規定
項目 | 根拠法令・条文 | 概要と実務上の意義 | 東京都条例での規定 | 特別区条例での規定(代表例) |
定数の根拠 | 地方自治法第172条第3項 | 職員定数は条例で定める(条例定数主義)。首長の任意での増減は不可。議会による民主的統制の根幹。 | 条例第2条で各部局の定数を規定。 | 各区の職員定数条例で、執行機関ごとに定数を規定。 |
定数の定義 | 各自治体の条例 | 一般に「常時勤務する職員」。ただし、短時間勤務職員の換算方法など、定義は条例により異なる。 | 常勤職員数に加え、育児短時間勤務・定年前再任用短時間勤務職員の勤務時間総数を常勤換算して合計。 | 「常時勤務する職員」と定義されることが多いが、短時間勤務の扱いは区によって異なる場合がある。 |
定数に含まれない職員(常勤) | 各自治体の条例 | 育児休業、病気休職、派遣等の職員は定数外とする規定が多い。これが「条例定数」と「実職員数」の乖離の主因。 | 休職、育児休業、配偶者同行休業等の職員は定数外。復職後1年間も定数外とすることが可能。 | 育児休業、休職、派遣等の職員は定数外とする規定が一般的。杉並区の例では復職後1年間の定数外規定も存在。 |
会計年度任用職員の扱い | 地方自治法第172条第3項ただし書き | 「非常勤の職」に該当するため、条例定数の対象外。ただし、行財政運営上、別途、員数管理が必要。 | 条例定数の対象外。 | 条例定数の対象外。世田谷区のように別途「定数管理基準」を設けて管理する動きもある。 |
職員定数管理の標準業務フローと実務詳解
年間業務スケジュールの全体像
職員定数管理は、一度決定すれば終わりというものではなく、毎年の予算編成サイクルと緊密に連動しながら進められる継続的なプロセスです。この年間スケジュールを把握することが、計画的かつ円滑な業務遂行の第一歩となります。
- 予算編成サイクルとの連動 特別区における定数管理の年間業務フローは、おおむね次のように進みます。この流れは、次年度の予算、そして区の事業計画そのものを人的資源の側面から裏付ける、極めて重要なプロセスです。
- 夏期(7月~9月): 方針策定・内部検討期
- 次年度の区政運営の基本方針や重点施策が検討される時期です。企画課は、これらの大きな方向性を踏まえ、定数管理の基本方針(例:総定数の維持、重点分野への傾斜配分など)の検討を開始します。また、各部局に対して、次年度の事業計画とそれに伴う人員要求の考え方を準備するよう、非公式な情報提供や意見交換を行います。
- 秋期(10月~11月): 予算要求期
- 区長から次年度の予算編成方針が正式に示されます。これを受け、各部局は具体的な事業計画と経費の見積もりを行い、予算要求書を作成します。人員に関する要求(増員、職種変更など)も、このタイミングで正式に提出されます。企画課は、これらの要求を取りまとめ、内容の精査を開始します。
- 冬期(12月~1月): 査定・調整期
- 企画課と財政課が連携し、各部局から提出された予算要求・人員要求の内容を厳格に審査する「査定」が行われます。要求の妥当性、費用対効果、区全体の優先順位などを総合的に勘案し、人員配置の原案を作成します。この査定結果に不服のある部局からは、「復活要求」が提出され、再度、上層部(副区長や区長)の判断を仰ぐための調整が行われます。
- 年度末(2月~3月): 最終決定・公表期
- 区長査定を経て、次年度の予算案及びそれに伴う人員配置計画が最終的に固まります。この予算案は、2月から始まる第一回区議会定例会に提出され、審議・議決を経て正式に決定されます。必要に応じて、職員定数条例の改正案も同時に提出されます。
- 夏期(7月~9月): 方針策定・内部検討期
各部局からの人員要求の受付とヒアリング
人員要求は、定数管理プロセスの起点です。各部局からの要求をいかに的確に受け止め、分析するかが、その後の査定の質を大きく左右します。
- 要求様式の作成と論理的な要求の促進 単に「〇人増員希望」とだけ書かれた要求書では、客観的な判断は不可能です。企画課は、各部局が論理的かつ客観的な根拠に基づいて要求を行えるよう、要求様式を工夫する必要があります。様式には、以下のような項目を盛り込むことが有効です。
- 要求の背景(法令改正、新規事業の開始、住民ニーズの増大など)
- 具体的な業務内容と業務量の変化(現状と要求後の比較)
- 人員が増えなかった場合に生じるリスク(住民サービスの低下、法令遵守違反など)
- ICT化や業務プロセス見直し(BPR)など、増員以外の解決策の検討状況
- 要求内容の妥当性評価(業務量調査、BPRの視点) 提出された要求書を鵜呑みにするのではなく、批判的な視点でその妥当性を評価します。その際、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の考え方が極めて重要になります。つまり、「現状の業務をそのまま遂行するためには何人必要か」ではなく、「そもそもその業務は必要なのか」「もっと効率的なやり方はないのか」という視点で要求を分析するのです。客観的なデータを収集するために、必要に応じて業務量調査(タイムスタディなど)を実施することも検討します。
- ヒアリングの実践テクニック 要求内容を深く理解し、代替案を探るために、各部局の担当者へのヒアリングは不可欠です。ヒアリングでは、単に要求内容を確認するだけでなく、以下のような質問を通じて、より本質的な課題を探ります。
- 「この業務で最も時間がかかっているのはどの部分ですか?」
- 「もし増員が認められなかった場合、どの業務の優先順位を下げますか?」
- 「他の係や課との連携で、業務を効率化できる可能性はありませんか?」
- 「RPA(後述)などで自動化できそうな定型作業はありますか?」
財政部門との連携と定数査定
人員要求の妥当性を評価した後は、財政部門と連携して「査定」を行います。この段階は、企画課の分析能力と交渉力が最も問われる場面です。
- 人件費シミュレーションの実施 職員を1人増員した場合のコストは、単年度の給与だけではありません。社会保険料の事業者負担分、退職手当引当金などを含めると、給与額の1.5倍から2倍近いコストが発生すると言われています。企画課は、財政課と協力し、人員要求が中長期的な財政に与える影響を精緻にシミュレーションし、査定の判断材料とする必要があります。
- 査定の考え方と交渉のポイント 財政部門は、限られた財源を各施策に配分するという立場から、原則として全ての要求に対して厳しい目で臨みます。特に「一件査定方式」と呼ばれる、個々の事業や経費をゼロベースで精査する手法が取られることもあります。 この厳しい査定を乗り越えるためには、企画課が各部局の「代弁者」として、客観的なデータに基づいた説得力のある説明を行う必要があります。例えば、「この分野の職員一人当たり人口は、他区と比較して突出して多く、サービスの質が低下している」「この新規事業による歳入増効果を考慮すれば、人件費増は十分に回収可能である」といった、財政部門が納得できる論理を構築することが重要です。
- 復活要求への対応 財政部門による一次査定で要求が認められなかった(減額・否決された)場合でも、部局は区長や副区長に対して再考を求める「復活要求」を行うことができます。企画課は、この復活要求のプロセスにおいても、中立的な立場から、要求の重要性や緊急性に関する客観的な情報を提供し、最終的な経営判断をサポートする役割を担います。
この一連の業務フローは、定数管理が単なる事務作業ではなく、財政という「財布の紐」を握る部門との高度な交渉の連続であることを示しています。財政部門の論理は「財政規律の維持」であり、これは極めて正当なものです。企画課の役割は、これに対して「住民サービスの維持・向上」や「組織の持続可能性」といった論理を、客観的なデータと費用対効果分析という「財政部門が理解できる言語」に翻訳して提示することです。両者の緊張感ある対話と連携こそが、健全な定数管理を実現するのです。
定数管理計画(定員適正化計画)の策定と改定
毎年度の定数査定と並行して、企画課は3~5年程度を期間とする中長期的な「定数管理計画」を策定・推進します。これは、場当たり的な人員配置を避け、将来を見据えた戦略的なワークフォース・プランニングを行うための設計図です。豊島区の「新定員管理計画」などがその好例です。
- 現状分析(年齢構成、スキルマップ、業務量) 計画策定の第一歩は、現状を正確に把握することです。具体的には、職員の年齢構成や平均年齢、数年後の大量退職期のリスクなどを分析します。また、各職員が持つ専門性やスキルを可視化する「スキルマップ」を作成し、組織としての強み・弱みを把握します。さらに、各部署の業務量を客観的に測定し、人員配置の過不足をデータで裏付けます。
- 将来の行政需要予測と目標設定 次に、将来の人口動態(高齢化率、年少人口の推移など)や社会経済情勢の変化を予測し、今後どのような行政サービスへの需要が高まるか(あるいは減少するか)を見通します。これらの現状分析と将来予測に基づき、「計画期間終了時に、職員総数を〇人とする」といった具体的な数値目標を設定します。目標設定にあたっては、退職者数の見込みと、それを踏まえた新規採用者数の計画も同時に策定します。
- 計画の議会説明と住民への公表 策定した定数管理計画は、議会に報告し、その理解と協力を得ることが不可欠です。また、多くの自治体では、計画の内容をホームページなどで広く住民に公表しています。これにより、定数管理の透明性を高め、住民からの信頼を得ることができます。計画は一度策定して終わりではなく、社会情勢の変化や計画の進捗状況を踏まえ、定期的に見直しを行うことが重要です。
応用知識と特殊ケースへの対応
大規模プロジェクト・組織改編時の定数管理
日々の定数管理に加えて、非定常的で大規模な事案への対応も企画課の重要な業務です。こうした特殊ケースでは、通常とは異なる発想と計画性が求められます。
- 新庁舎建設、児童相談所設置等の臨時増員への対応 新庁舎の建設プロジェクトや、近年特別区で設置が進む児童相談所のように、特定の期間や目的のために大幅な人員増が必要となる場合があります。このような大規模プロジェクトに対応する場合、以下の点を考慮した特別な定数管理が必要です。
- 必要人員の精緻な積算: プロジェクトの各フェーズ(計画、設計、建設、開設準備、運営)で必要となる人員の専門性(建築、福祉、法律など)と人数を詳細に積算します。
- 人員確保の手法: 内部からの異動で対応するのか、専門職を新規に採用するのか、あるいは任期付職員として確保するのか、最適な手法を検討します。
- 時限的な定数措置: プロジェクトの期間中、条例の附則などで時限的に定数を増やす措置を講じることがあります。秦野市が新東名開通を見据えて消防職員を増員した例などが参考になります。
- プロジェクト終了後の人員の扱い: プロジェクトが終了した後、増員した職員をどのように既存の組織に再配置、あるいは移行させるのか、出口戦略をあらかじめ計画しておくことが極めて重要です。
- 部局の統廃合に伴う人員再配置の考え方 行政改革の一環として、部や課の統廃合が行われることがあります。この場合、企画課(人事部門と連携)は、余剰となる人員や不足する人員を円滑に再配置する役割を担います。単にポストの数合わせをするのではなく、職員一人ひとりのキャリアプランやスキル、適性を見極め、新たな部署で能力を発揮できるよう、丁寧なヒアリングや研修機会の提供といった配慮が求められます。組織改編は職員の士気に大きな影響を与えるため、透明性の高いプロセスと手厚いフォローアップが不可欠です。
多様な任用形態と定数管理
現代の自治体組織は、正規職員だけでなく、様々な任用形態の職員によって支えられています。これらの職員をいかにマネジメントするかが、定数管理の新たな課題となっています。
- 会計年度任用職員の定数外管理と実務上の課題 会計年度任用職員は、条例定数の「外側」にいる存在ですが、その数は年々増加傾向にあり、実質的に行政サービスの一翼を担っています。しかし、定数外であるために、その総数が十分に管理されず、なし崩し的に増えてしまうリスクがあります。また、毎年の予算編成でそのポストが確保される保証がなく、雇用の安定性に課題があることも指摘されています。 こうした課題に対応するため、世田谷区のように、条例定数とは別に会計年度任用職員の「定数管理基準」を独自に設け、職種ごとの上限数を設定して厳格に管理しようとする先進的な動きも出てきています。
- 再任用職員、育児休業代替職員の取り扱い 定年延長の動きと並行して、豊富な経験を持つ定年退職者を再任用するケースが増えています。再任用職員(特に短時間勤務)は、正規職員の定数とは別にカウントされることが多く、その活用計画も定数管理の一環として重要です。また、育児休業を取得する職員の代替として採用される任期付職員や臨時的任用職員も、休業者の円滑な職務復帰と組織全体の業務継続性を両立させる上で、計画的な管理が求められます。
正規職員の定数だけを管理対象とする時代は終わりました。会計年度任用職員をはじめとする多様な職員は、柔軟な行政運営に不可欠な存在である一方で、その管理が不十分な場合、組織内に見えにくい「シャドー・ワークフォース(影の労働力)」を形成するリスクをはらんでいます。このシャドー・ワークフォースは、組織全体の労務管理を複雑化させ、長期的には正規職員が担うべきコア業務の空洞化や、組織全体の知見・ノウハウの継承が困難になるといった戦略的なリスクにつながる可能性があります。真の最適化とは、条例定数の内側の職員だけでなく、組織に貢献する全ての人的資源を一体的に捉え、その総和としてパフォーマンスが最大化されるようマネジメントすることです。
退職者補充の原則と例外
退職者の発生は、組織の新陳代謝を促す機会であると同時に、定数をコントロールするための重要なタイミングでもあります。
- 退職不補充(Attrition)の戦略的活用 退職した職員のポストをそのまま補充しない「退職不補充」は、職員に直接的な痛み(解雇など)を伴わせることなく、自然な形で職員総数を削減できる有効な手法です。特に、業務の民間委託やICT化によって必要性が低下した職務について、計画的に退職不補充を進めることで、効率的に組織のスリム化を図ることができます。
- 専門職・技術職の技能承継を目的とした計画的補充 一方で、退職不補充を機械的に適用することは危険です。特に、長年の経験によって培われた専門的な知識や技能が求められる職務(例:土木技術、税務調査、文化財保護など)において、ベテラン職員の退職に合わせて安易に不補充とすると、組織から貴重なノウハウが失われてしまいます。このようなケースでは、退職の数年前から若手職員を計画的に配置し、OJTを通じて技能を承継させるなど、例外的な補充を戦略的に行う必要があります。退職者補充の判断は、単なる数の問題ではなく、組織の持つ「無形の資産」である技能や知識をいかに次世代に継承していくか、という極めて戦略的な判断なのです。
先進事例と比較分析
東京都と特別区(23区)の先進的取組
定数管理をより高度化させるためには、自区のやり方にとらわれず、他の自治体の先進的な取組から学ぶ姿勢が重要です。
- データに基づく人員配置(EBPM)の導入事例 EBPM(Evidence-Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)の考え方を定数管理に応用する動きが広がっています。例えば、ある区では、窓口の来庁者数や待ち時間、電話の応答率といった客観的なデータを分析し、最も混雑する曜日や時間帯を特定。そのデータに基づいて職員のシフトを最適化し、増員することなく住民の待ち時間を大幅に短縮することに成功しました。このように、勘や経験だけに頼るのではなく、データに基づいて人員配置の意思決定を行うことで、説明責任と業務効率を同時に高めることができます。
- スキルマップを活用した戦略的人材育成と配置 職員一人ひとりが持つ資格、研修履歴、業務経験といった「スキル」をデータベース化し、組織全体の人材を可視化する「スキルマップ」を導入する区も増えています。これにより、「DX推進に必要なデジタル人材が、どの部署に何人いるのか」「5年後に退職するベテランの専門スキルを、誰が引き継ぐのか」といった戦略的な課題が明確になります。スキルマップを活用すれば、単なる欠員補充のための異動ではなく、職員のキャリア形成と組織の課題解決を両立させる、戦略的な人材配置が可能になります。
定員管理に関する比較分析
自区の定数管理の状況を客観的に評価するためには、類似団体との比較が有効な手法です。総務省が毎年実施している「地方公共団体定員管理調査」などの公表データを活用し、他区と比較分析することで、自区の課題や改善のヒントが見えてきます。
表2: 特別区における職員配置メトリクスの比較分析(仮想データ例)
特別区 | 人口 (人) | 職員数 (条例定数) | 職員1人当たり人口 (人) | 人件費率 (%) | 正規・非正規職員比率 |
A区 | 350,000 | 2,500 | 140.0 | 25.5 | 7:3 |
B区 | 550,000 | 3,500 | 157.1 | 23.8 | 8:2 |
C区 | 280,000 | 2,200 | 127.3 | 28.1 | 6:4 |
自区 | 400,000 | 3,000 | 133.3 | 26.5 | 6.5:3.5 |
23区平均 | 410,000 | 3,100 | 132.3 | 25.0 | 7:3 |
この表から、例えば自区は「職員1人当たり人口は平均よりやや多いが、C区よりは効率的かもしれない」「人件費率が平均より高く、特にC区は人口規模が小さいにもかかわらず突出して高い。その要因は何か」「非正規職員の比率がC区と並んで高く、シャドー・ワークフォースへの依存度が高い可能性がある」といった仮説を立てることができます。こうした比較分析は、議会や住民に対して自区の職員体制を説明する際の客観的な根拠となり、主観的な「多い・少ない」の議論から、データに基づいた建設的な議論へと転換させる力を持っています。
広域連携の可能性
単独の区では解決が難しい課題も、複数の区が連携することで乗り越えられる可能性があります。定数管理の分野でも、広域連携には大きなポテンシャルが秘められています。
- 専門職の共同採用・共同研修 高度な専門性が求められる職種(例:データサイエンティスト、公認心理師、サイバーセキュリティ専門家など)は、採用が困難な上に、単独の区では常時業務があるとは限りません。こうした専門職を、複数の区が共同で採用し、必要に応じて相互に派遣し合う仕組みを構築できれば、コストを抑えながら高度な専門サービスを住民に提供することが可能になります。
- 地方税滞納整理機構等に見る広域連携のヒント 既に存在する広域連携の仕組みは、多くのヒントを与えてくれます。例えば、複数の自治体が共同で設立する「地方税滞納整理機構」は、専門的なノウハウを持つ職員を集約することで、単独の自治体では困難な滞納整理を効率的に行っています。このモデルを応用し、例えば「人事評価制度設計」や「大規模システム開発」といった専門業務を担う共同組織を設立することも、将来的には考えられるでしょう。広域連携は、各区が自前主義から脱却し、より効率的で質の高い行政サービスを実現するための有効な選択肢です。
業務改革とDXによる定数管理の高度化
BPR(業務改革)の推進と業務量調査
DX(デジタル・トランスフォーメーション)の時代における定数管理は、単に人を増減させることではありません。テクノロジーを活用して業務そのものを見直し、より少ない人員で、より質の高いサービスを提供することを目指す必要があります。その中核となるのがBPR(業務改革)です。
- 業務プロセスの可視化とボトルネックの特定 BPRの第一歩は、既存の業務プロセスを「可視化」することです。職員へのヒアリングや業務フロー図の作成を通じて、「誰が、何を、どのように」行っているかを明らかにします。この過程で、「なぜこの承認印は必要なのか」「この書類は二重に作成されていないか」といった、非効率な作業(ボトルネック)や無駄な手続きが浮かび上がってきます。これらのボトルネックを解消するだけでも、大幅な業務効率化が可能です。
- 外部委託・民間活力活用の判断基準 業務プロセスを分析する中で、必ずしも職員が直接行う必要のない業務が見えてきます。定型的なデータ入力、施設の維持管理、コールセンター業務などは、民間事業者に委託(アウトソーシング)することで、コストを削減しつつ、より専門的なサービスを提供できる場合があります。企画課は、「その業務は、区の職員でなければ遂行できない『コア業務』か、それとも民間のノウハウを活用できる『ノンコア業務』か」という判断基準を持ち、戦略的に外部委託を検討していく必要があります。
ICT・RPAの戦略的活用
BPRによって見直された業務プロセスを、ICTの力でさらに効率化・自動化することが可能です。特にRPAは、定数管理の考え方を大きく変える可能性を秘めています。
- 定型業務の自動化による「仮想的な人員創出」 RPA(Robotic Process Automation)とは、これまで人間が手作業で行っていたパソコン上の定型的な作業を、ソフトウェアのロボットが代行する技術です。例えば、「Excelのデータを基幹システムに転記する」「毎日決まったウェブサイトから情報を収集し、報告書を作成する」といった作業を自動化できます。 RPAの導入は、職員を削減するためではなく、既存の職員を単純作業から解放し、より創造的で付加価値の高い業務(企画立案、住民相談など)に集中させることを目的とします。RPAロボットは、24時間365日文句も言わず働き続ける「仮想的な職員」であり、これを活用することで、実質的な増員をすることなく、組織全体の生産性を向上させることができるのです。
- RPA導入事例 自治体におけるRPAの活用事例は数多く報告されています。
- データ入力・登録作業: 住民からの各種申請書の内容を、AI-OCR(光学的文字認識)で読み取り、RPAが基幹システムへ自動で入力する。
- 照合・確認作業: 複数のシステムにまたがる情報をRPAが自動で照合し、不整合がある場合のみ職員に通知する(例:児童手当の受給資格確認)。
- 通知・案内作業: 特定の条件に合致する住民リストをRPAが自動で抽出し、通知書の宛名ラベルを作成する。 これらの事例に共通するのは、職員が膨大な時間を費やしていた反復的な作業を自動化し、その分の時間を住民と向き合う時間へと転換している点です。
生成AIの活用可能性
近年急速に発展している生成AIは、定数管理業務そのものを、より高度で戦略的なものへと進化させる大きな可能性を秘めています。
生成AIを定数管理に活用する際の最も重要な視点は、AIを「意思決定者」としてではなく、「優秀な分析官であり、有能なアシスタント」として位置づけることです。AIは、複雑なシナリオを瞬時にシミュレーションし、膨大な文書の要点をまとめ、説得力のある文章の草案を作成することができます。これにより、企画課の職員は、煩雑なデータ処理や資料作成から解放され、施策の優先順位付け、関係部署との交渉、そして最終的な意思決定といった、人間にしかできない高度な判断に集中できるようになります。AIが出力した結果の妥当性を最終的に判断し、責任を負うのはあくまで人間であるという「ヒューマン・イン・ザ・ループ(人間参加型)」の原則を徹底することが、AI活用の鍵となります。
表3: 定数管理業務における生成AIの活用可能性
活用領域 | 具体的な用途 | 期待される効果 | 留意点 |
計画策定支援 | ・定数管理計画や行政改革大綱の骨子案・たたき台作成 ・将来人口推計データに基づく行政需要のシミュレーション ・他自治体の先進事例の調査・分析・要約 | ・計画策定にかかる初動時間の圧倒的な短縮 ・多様なシナリオの比較検討が可能になり、計画の質が向上 ・情報収集・分析業務の効率化 | ・出力内容はあくまで草案であり、区の実情に合わせた修正・加筆が必須。 ・統計データの正確性や出典の確認が不可欠。 |
予算要求分析 | ・各部局から提出された人員要求書の要約と論点整理 ・要求内容に関連する法令や過去の議事録の検索・抽出 ・人件費の将来シミュレーション(退職金、社会保険料等を含む) | ・大量の要求内容を短時間で把握し、査定のポイントを明確化 ・関連情報へのアクセスが迅速化し、分析の深度が向上 ・財政影響の多角的な分析が可能に | ・要求書に含まれる個人情報や機密情報の入力は厳禁。 ・シミュレーションの前提条件(昇給率など)は人間が設定する必要がある。 |
業務効率化 | ・議会答弁書や住民向け説明資料の初稿作成 ・業務量調査のアンケート項目やヒアリング項目の作成 ・職員向け研修資料(本マニュアルのような)の作成支援 | ・定型的な文書作成業務の負荷を大幅に軽減 ・質の高い調査票や資料を効率的に作成可能 ・ナレッジの体系化と共有を促進 | ・公文書として使用する際は、表現の正確性や適切性を人間が厳密にチェックする必要がある。 |
最適な職員配置を実現するための実践的スキル
組織レベルでの取組み
最適な職員配置を実現するためには、個々の職員の努力だけでなく、組織全体として仕組みを構築し、文化を醸成していくことが不可欠です。
- PDCAサイクルの構築 定数管理は、一度計画を立てたら終わりではありません。計画(Plan)に基づき実行(Do)し、その結果を客観的に評価(Check)し、次の改善(Act)につなげるというPDCAサイクルを組織的に回していくことが重要です。
- Plan(計画): データに基づいた中長期の定数管理計画を策定する。各年度の採用・配置計画を明確にする。
- Do(実行): 策定した計画に基づき、採用活動、人事異動、組織改編などを実行する。
- Check(評価): 計画の進捗状況を定期的に確認する。職員数の推移、人件費予算の執行状況、時間外勤務時間の変化、住民サービスの各種指標(待ち時間、満足度など)をモニタリングし、計画通りに進んでいるか、意図した効果が出ているかを評価する。
- Act(改善): 評価結果に基づき、計画の問題点を洗い出し、次年度の計画に反映させる。社会情勢の大きな変化があった場合は、計画そのものを抜本的に見直す。
- 全庁的な意識改革と協力体制の構築 定数管理は、企画課だけで完結するものではありません。「定数は区全体の経営資源である」という意識を、全ての部局、全ての職員が共有することが不可欠です。企画課は、定数管理の方針や現状を全庁的に丁寧に説明し、各部局が自らの業務改革や効率化に主体的に取り組むよう働きかける必要があります。定数管理を「上からの押し付け」ではなく、「全庁で取り組むべき共通の課題」として位置づけることで、建設的な協力体制を構築することができます。
個人レベルでのスキル向上
組織的な取組みを支えるのは、担当者一人ひとりのスキルです。これからの定数管理担当者には、従来型の事務処理能力に加えて、新たなスキルが求められます。
- PDCAサイクルの実践 組織レベルのPDCAサイクルと同様に、担当者個人も自らの業務においてPDCAを意識することがスキルアップにつながります。例えば、「人員要求のヒアリング手法を改善してみよう(Plan)」→「実際に新しい質問を試してみる(Do)」→「以前より本質的な課題を引き出せたか、交渉がスムーズに進んだかを振り返る(Check)」→「良かった点は継続し、改善点があれば次のヒアリングで修正する(Act)」といった小さなPDCAを日々回すことで、業務の質は着実に向上します。
- データ分析能力と交渉・調整能力の向上 現代の定数管理担当者に求められる二大スキルは、「データ分析能力」と「交渉・調整能力」です。
- データ分析能力: 人口動態、財政データ、業務量調査の結果など、様々なデータを読み解き、そこから課題や傾向を抽出する能力です。Excelの高度な使い方や、統計の基礎知識を身につけることが有効です。
- 交渉・調整能力: データ分析によって得られた客観的な根拠(ファクト)を基に、各部局や財政部門といった関係者を論理的に説得し、合意形成を図る能力です。相手の立場を理解し、一方的な要求ではなく、組織全体にとっての最適解を共に探る姿勢が求められます。 この二つのスキルは、いわば車の両輪です。データに基づかない交渉はただの感情論になり、交渉力のないデータ分析は宝の持ち腐れとなります。両方のスキルを意識的に磨き続けることが、戦略的な定数管理を実践する上で不可欠です。
まとめ:未来を拓く戦略的人事企画担当者として
本研修資料の要点整理
本研修資料では、企画課が担う職員定数管理について、その意義から法的根拠、具体的な業務フロー、そしてDXやAIを活用した未来の姿までを網羅的に解説してきました。最後に、その要点を改めて整理します。
- パラダイムシフトの認識: 職員定数管理は、もはや単なる「員数合わせ」や「人件費削減」の業務ではありません。住民サービスの質、財政の持続可能性、職員のウェルビーイングという三つの要素のバランスを取りながら、組織全体のパフォーマンスを最大化する「戦略的ワークフォース・プランニング」へと進化しています。
- 法的・制度的背景の深い理解: 地方自治法や各区の条例が定める「条例定数」の原則と、その運用実態である「実職員数」との間にある構造的な背景を理解することが、全ての業務の出発点となります。
- データと対話に基づく業務遂行: 客観的なデータ分析に基づき、財政部門や各事業部門と建設的な対話を重ねること。これが、最適な人員配置を実現するための王道です。
- テクノロジーの戦略的活用: BPRを前提とした上で、RPAや生成AIといった新たなテクノロジーを「業務を効率化するツール」そして「分析と思考を支援するパートナー」として積極的に活用していく姿勢が、これからの担当者には不可欠です。
変化を恐れず、創造的な定数管理を実践する職員へのエール
皆さんが日々向き合っている「定数」という数字の向こう側には、質の高いサービスを待ち望む区民の顔があり、やりがいを持って働きたいと願う同僚たちの姿があります。そして、その数字は、私たちが未来の世代に残すべき、持続可能な地域社会の礎でもあります。
定数管理は、決して華やかな業務ではないかもしれません。しかし、これほどまでに自治体経営の根幹に深く関わり、区の未来を左右する重要な仕事は他にありません。
前例や慣習にとらわれることなく、常に「もっと良い方法はないか」と問い続けてください。データを武器に、論理的かつ情熱的に、関係者と対話を重ねてください。そして、変化を恐れず、AIのような新しい技術も臆することなく学び、使いこなしてください。
本資料が、皆さんが自信と誇りを持って、この重要で創造的な業務を遂行するための一助となることを心から願っています。皆さんの手で、未来の特別区を支える、しなやかで強靭な職員体制を築き上げてください。