07 自治体経営

【企画課】主要事業の進行管理 完全マニュアル

masashi0025

はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。

東京都特別区 企画課職員のための庁議指定事務事業 進行管理完全マニュアル

企画課の使命と庁議指定事務事業の重要性

 特別区の企画課に配属された皆さん、ようこそ。企画課は、単なる事務調整部署ではありません。区の未来を描き、その航路を示す羅針盤であり、組織全体の舵取りを担う極めて重要な部署です。日々の業務に追われる事業所管課とは一線を画し、数年、時には数十年先を見据えた大局的な視点が求められます。この研修では、企画課の業務の中でも特に重要性の高い「庁議指定事務事業」の進行管理について、その本質から実践的なノウハウまでを網羅的に解説します。本資料が、皆さんの業務遂行における確かな指針となることを願っています。

### なぜ「庁議指定」なのか:特別区行政における事業の位置づけ

 「庁議指定事務事業」とは、区長、副区長、教育長、そして各部の長といった区の最高幹部が一堂に会する「庁議」において、区政運営上、特に重要であると審議・決定されたトッププライオリティの事業を指します。これは、単年度の予算事業や、基本計画に位置づけられた定常的な事業とは明確に区別されます。

 では、なぜ「庁議」による「指定」が必要なのでしょうか。それは、このプロセスが単なる承認手続きではなく、事業に対する「組織全体の強固なコミットメント」を形成するための重要な儀式だからです。庁議という最高の意思決定機関で事業が指定されることは、「この事業は全庁を挙げて成功させるべき最重要課題である」という区長からの強力なメッセージとなります。このメッセージがあるからこそ、予算要求の際に財政課の理解を得やすくなり、セクショナリズムに陥りがちな部署間の困難な調整においても、「これは庁議で決定された最重要事項である」という大義名分が、強力な推進力となるのです。したがって、企画課の職員は、庁議への付議を単なる事務フローの一環と捉えるのではなく、事業成功の鍵を握る「組織全体の意思統一プロセス」として、戦略的にマネジメントする視点が不可欠です。

### 企画課職員に求められる視座:全体最適と長期的視点

 事業を所管する部署は、自らの担当分野における成果の最大化、すなわち「部分最適」を追求する傾向があります。それ自体は、各部署が専門性を発揮する上で当然のことです。しかし、企画課の職員には、それとは異なる視座が求められます。それは、常に区政全体の「全体最適」と、5年、10年、さらにはその先を見据えた「長期的視点」です。

 具体的には、個別の事業が区の最上位計画である基本構想や総合計画と整合しているか、複数の事業間で政策的な重複や矛盾が生じていないか、将来世代に過度な負担を残すような財政計画になっていないか、といった多角的な観点からの冷静な分析と判断が求められます。時には、「子育て支援を拡充したい福祉部」と「歳出を抑制したい財政部」のように、利害が対立する部署の板挟みになることもあるでしょう。

 このような状況で、企画課の真価が問われます。単なる両者の言い分の中間点を取る調整役では不十分です。客観的なデータ(エビデンス)と論理、そして区が目指すべき未来像を武器に、双方を粘り強く説得し、区全体にとっての最適解を導き出す。この過程で、例えば「子育て支援への投資が、長期的には社会保障費の抑制につながる」といった新たな論点を提示したり、民間活力の導入やDX(デジタル・トランスフォーメーション)といった新たな手法を提案したりすることで、当初の案よりも優れた、より価値の高い事業へと昇華させること。これこそが、企画課に求められる高度な専門性なのです。

### 事業進行管理の歴史的変遷:総合計画制度の進化とNPMの導入

 今日の事業進行管理のあり方を理解するためには、その歴史的背景を知ることが不可欠です。かつて、地方自治体の計画行政は、1969年の地方自治法改正で市町村に基本構想の策定が義務付けられたことを契機に、「基本構想・基本計画・実施計画」という三層構造が全国的に定着しました。しかし、当時は計画を策定すること自体が目的化し、実効性に乏しい「計画のための計画」に陥りがちでした。

 この状況に大きな変化をもたらしたのが、1990年代以降に英国などから導入されたNPM(ニュー・パブリック・マネジメント)の考え方です。これは、民間企業の経営手法を行政運営に取り入れ、「成果主義」「コスト意識」「顧客(住民)志向」を重視するものです。この潮流を受け、日本では三重県を皮切りに全国の自治体で行政評価制度が導入され、計画(Plan)・実行(Do)・評価(Check)・改善(Action)を繰り返すPDCAサイクルによる進行管理が重視されるようになりました。

 そして、2011年の地方自治法改正により、基本構想の策定義務が撤廃されたことは決定的な転換点となりました。これにより、各自治体は国からの横並びの指示に従うのではなく、より自主的に、自らの地域特性に合った戦略的な計画・評価制度を構築する必要に迫られています。現代の進行管理に求められるのは、もはや計画通りに進んでいるかという「計画準拠性」の確認だけではありません。その事業が、実際に住民にとってどのような価値(アウトカム)を生み出しているのかという「成果創出性」を問い、成果を最大化するために計画自体を柔軟に見直していく姿勢なのです。庁議指定事務事業の進行管理は、まさにこの行政経営のパラダイムシフトを体現する最前線に位置づけられています。

庁議指定事務事業の全体像

 この章では、庁議指定事務事業がどのようなプロセスを経て生まれ、決定されるのか、その上流工程を解き明かします。特に、類似する概念である「基本計画事業」との違いを明確にすることで、庁議指定事務事業が持つ特殊性と、その進行管理を担う企画課の役割の重要性を深く理解することを目指します。

### 庁議とは何か:最高意思決定機関の機能と権限

 庁議は、区の行政運営に関する最高方針や重要施策を審議・決定するために設置された、文字通り区政の最高意思決定機関です。その構成員は、区長を主宰者とし、副区長、教育長、そして各部の長といった、区のトップマネジメント層によって占められています。

 庁議に付議される事案は、日常的な業務とは一線を画す、極めて重要性の高いものに限定されます。具体的には、区の将来構想や長期計画、予算編成の基本方針、重要な条例の制定・改廃、そして区や区民に重大な影響を及ぼす事項などが挙げられます。庁議の具体的な運営手続きは、各区が定める庁議規則や運営要綱に基づいて行われますが、近年では行政の透明性を確保する観点から、審議の経過をまとめた会議録や、審議に用いられた資料を公式ウェブサイト等で公表する自治体も増えています。

 ここで理解すべき重要な点は、庁議が単なる事務的な「会議」ではなく、区政の方向性を決定づける「政治的プロセス」の場でもあるということです。付議される議案は、企画課などの事務方が事前に周到な調整を行った上で提出されますが、庁議の場では、各部長がそれぞれの所管分野の立場から意見を述べ、時には利害が激しく衝突することもあります。最終的な意思決定を下すのは、選挙で選ばれた区長です。その判断には、純粋な行政ロジックだけでなく、区議会との力関係、世論の動向、自らが掲げた選挙公約(マニフェスト)の実現といった、複合的な「政治的判断」が大きく影響します。したがって、企画課職員は、議会の審議状況や区長の政策的意向を常に的確に把握し、自らが担当する事業の「政治的な文脈」を理解した上で、資料作成や説明に臨む高度なバランス感覚が求められます。

### 「庁議指定事務事業」と「基本計画事業」の決定的違い

 庁議指定事務事業の特性をより深く理解するために、「基本計画事業」との違いを明確に整理しておくことが不可欠です。基本計画は区の将来像を実現するための施策の体系であり、実施計画はそれを推進するための具体的な事業計画を定めたものです。両者は区政運営の両輪ですが、その性格は大きく異なります。以下の比較表で、その違いを確認してください。

比較項目庁議指定事務事業基本計画事業
位置づけ区長のリーダーシップの下、特に重点的に推進する戦略的・政策的事業基本計画に定められた施策を具体化する、安定的・継続的な事業
意思決定庁議による審議・決定(トップダウン型)各所管部署の判断と予算査定(ボトムアップ/定常型)
根拠庁議規則、個別の起案文書地方自治法、区の基本構想・基本計画
事業特性新規性・改革性が高い。部門横断的なものが多く、区政へのインパクトが大きい。既存サービスの維持・改善が中心。所管部署内で完結するものが多い。
予算規模大規模になる傾向。特別な財源措置が検討されることも。毎年度の予算編成の中で、定常経費として計上されることが多い。
進行管理企画課が主導し、定期的に庁議等へ進捗報告が求められるなど、厳格な管理対象となる。各所管部署が主体となり、行政評価制度の枠組みの中で管理される。
具体例全区的なDX基盤の構築、大規模災害を想定した新防災計画の策定、駅前再開発プロジェクト公園の維持管理、高齢者向け健康診査の実施、証明書交付事務

 このように、庁議指定事務事業は、基本計画の枠組みの中でも特に区長が強いリーダーシップを発揮して推進する、いわば「トップダウン型」の戦略的事業です。一方、基本計画事業の多くは、各部署が担うべき継続的・基本的な行政サービスであり、「ボトムアップ型」もしくは定常的な事業と言えます。この違いを認識することが、適切な進行管理の第一歩となります。

### 事業が生まれる瞬間:政策形成から庁議付議までの流れ

 庁議で華々しく決定される重要事業も、その始まりは一つの「政策の種」です。その種がどのように生まれ、庁議付議という段階まで育て上げられるのか、そのプロセスは事業の成否を左右する重要なインキュベーション(孵化)期間と言えます。

  1. 政策課題の発見: 事業の種は、様々なところから生まれます。区民からの陳情や提案、区政世論調査の結果、新聞などで報じられる社会経済情勢の変化、そして区長からのトップダウンによる指示など、多様な情報源から解決すべき政策課題が浮かび上がります。
  2. 事業の素案作成と初期協議: 課題を認識した事業所管課が、解決策としての事業の素案を作成します。この段階で、企画課との初期的な協議が行われます。企画課は、その事業案が基本構想などの上位計画と整合しているか、他の既存事業や計画中の事業と重複・矛盾しないか、といった大局的な観点からチェックを行います。
  3. 庁議付議候補としての検討: 企画課は、事業の重要性、緊急性、区政へのインパクト、財政的影響などを総合的に勘案し、庁議に付議すべき候補事業としてリストアップします。全ての新規事業が庁議にかけられるわけではなく、ここで戦略的な取捨選択が行われます。
  4. 付議資料の作成と事前調整: 庁議付議が適当と判断されると、企画課は事業所管課と緊密に連携し、庁議の場で審議するための詳細な説明資料を作成します。この資料には、事業の背景・目的、概要、期待される効果、リスクと対策、概算費用、スケジュールなどが盛り込まれます。そして、このプロセスと並行して、最も困難かつ重要な「事前調整」が行われます。特に、予算を司る財政課や、人員配置に関わる人事課、その他関連する全部署との間で、根気強い協議を重ね、合意形成を図ることが不可欠です。

 この一連のプロセスは、事業案を「ろ過」し、その戦略的価値を「精錬」する期間です。初期の事業案は、しばしば所管課の視点に偏っていたり、実現可能性の検討が不十分だったりします。企画課や財政課との協議、関係部署との調整というプロセスを経る中で、欠点やリスクが洗い出され、案が磨かれていきます。このインキュベーション期間を丁寧に行うことで、事業は単なる思いつきから、庁議という最高の舞台で承認を得るに足る、堅牢で説得力のある計画へと成長するのです。

【実践編】庁議指定事務事業の標準業務フロー

 この章では、抽象的な理念から具体的な実務へと焦点を移し、庁議指定事務事業が企画立案から評価・改善に至るまでの全工程を、5つのフェーズに分けてステップ・バイ・ステップで詳解します。各フェーズで「誰が」「何を」「どのように」行うべきかを具体的に示すことで、職員が明日からでも活用できる実践的な知識を提供します。このフローは一直線に進むものではなく、状況に応じて前のフェーズに戻ったり、先のフェーズを見越して準備したりする、動的なプロセスであることを念頭に置いてください。

### 第1段階:企画立案・構想策定フェーズ

 全ての事業の土台となる最も重要な段階です。ここで事業の方向性を誤ると、後の努力が全て無駄になりかねません。

  • 課題認識と目的設定: まず、住民ニーズの分析、社会経済動向の把握、上位計画との整合性確認を通じて、解決すべき課題を明確に定義します。そして、その課題解決によって「どのような状態を実現したいのか」という事業の最終目的(KGI: 重要目標達成指標)を、具体的かつ測定可能な形で設定します。
  • 現状分析と情報収集(RFI): 思い込みや経験則だけに頼らず、客観的なデータに基づいて現状を分析します。既存の統計データの分析はもちろん、先進自治体の事例調査や、民間事業者が持つ知見や技術動向を探るための市場調査(RFI: 情報提供依頼)などを積極的に行い、課題の構造を客観的に把握します。
  • ロジックモデルの作成: 事業の成功確率を高めるための強力な思考ツールが「ロジックモデル」です。事業に投入する資源(Input)から、具体的な活動(Activity)、活動によって生み出される直接的なサービスや産物(Output)、それによってもたらされる受益者の変化(Outcome)、そして最終的に社会全体にもたらされる影響(Impact)までの一連の因果関係を一枚の図として可視化します。これにより、関係者間で事業の全体像と成功への道筋について共通認識を持つことができます。
  • 関係者(ステークホルダー)分析: 事業に影響を与える、または事業から影響を受ける全ての関係者(住民、議会、庁内各課、民間事業者、NPOなど)を洗い出します。そして、それぞれの関係者が持つ利害関心、事業への影響度、協力の可能性などを分析し、今後の合意形成や連携の進め方を検討します。

### 第2段階:庁議付議・意思決定フェーズ

 練り上げた事業構想を組織の正式な意思決定へと繋げる、極めて重要な段階です。

  • 付議資料の作成: 多忙な庁議の構成員(区長、副区長など)が、短時間で事業の核心を理解できるよう、資料は徹底的に分かりやすく、説得力のあるものでなければなりません。「なぜ今、この事業が必要なのか(背景・目的)」「具体的に何をするのか(事業概要)」「どのような良いことが起こるのか(期待される効果)」「懸念事項は何か(リスクと対策)」「いくらかかるのか(概算費用)」「いつまでにやるのか(スケジュール)」といった要点を、データや図表を効果的に用いて簡潔にまとめます。
  • 庁内調整の最終化: 庁議付議の直前段階で、財政課、人事課、関連する事業所管課との最終的な合意形成を図ります。ここでの丁寧な根回しと論理的な説明が、庁議本番でのスムーズな審議と承認の鍵を握ります。
  • 庁議での説明と質疑応答: 事業の主管部長または企画課長が、庁議の場で説明を行います。単に資料を読み上げるのではなく、事業の重要性と必要性を熱意をもって伝え、区政の未来を切り拓くという気概を示すことが重要です。構成員から想定される質問を事前にリストアップし、的確な回答を準備しておく周到さも求められます。
  • 意思決定と指示事項の確認: 庁議での決定内容(承認、条件付き承認、差し戻し等)と、審議の過程で付帯された指示事項(「〇〇の点について、さらに検討を深めること」など)を正確に記録し、関係部署に速やかに共有します。これが、次のフェーズへの正式なスタート合図となります。

### 第3段階:事業計画策定・予算要求フェーズ

 庁議での承認という「お墨付き」を得て、事業を具体的な実行計画へと落とし込む段階です。

  • 事業計画書の策定: 庁議決定の内容と指示事項を踏まえ、より詳細で実行可能な事業計画書を作成します。具体的な実施体制(誰が責任者で、どの部署が何を担当するのか)、詳細な工程表(WBS: 作業分解構成図などを用いてタスクを細分化)、成果を測るための具体的な指標(KPI: 重要業績評価指標)、そして精緻な予算内訳などを明確に定義します。
  • 予算要求と査定対応: 作成した事業計画書に基づき、財政課に対して正式な予算要求を行います。庁議指定事業であることは強力な後ろ盾となりますが、だからといって要求が無条件に通るわけではありません。事業の費用対効果を客観的なデータに基づいて説明し、積算の妥当性を厳しく問われる査定に的確に対応する必要があります。
  • 仕様書作成と調達準備: 外部への業務委託やシステム開発が伴う場合は、調達仕様書を作成します。ここでは、事業目的を達成できる最適な事業者を選定できるよう、求める要件を曖昧さなく、かつ過不足なく定義することが重要です。公平性・透明性を担保しつつ、価格だけでなく技術力や提案内容を適切に評価できるような調達方法(プロポーザル方式など)の選定も行います。

### 第4段階:事業実施・モニタリングフェーズ

 計画を実行に移し、ゴールに向けて着実に進めていく、事業の中核となる段階です。

  • プロジェクトチームの組成とキックオフ: 事業に関わる全部署から担当者を選出し、正式なプロジェクトチームを立ち上げます。キックオフミーティングを開催し、改めて事業の目的、目標、各自の役割と責任範囲を全員で共有し、チームとしての一体感を醸成します。
  • 進捗管理(タスク・スケジュール・課題): Excelでの管理には限界があります。Asanaなどのプロジェクト管理ツールを導入し、全てのタスクの進捗状況、スケジュールの遵守状況、発生した課題や懸念事項を一元的に管理・可視化します。これにより、関係者全員が常に最新の状況を把握でき、報告のための報告といった無駄な作業を削減できます。
  • 定例会議とレポーティング: 週次や月次で定期的に進捗会議を開催し、計画と実績の差異を確認し、発生した課題に対する解決策を迅速に協議・決定します。企画課は、プロジェクト全体の進捗を俯瞰し、必要に応じて経営層(区長、副区長など)や庁議に対して、簡潔かつ的確な進捗報告を行う責任を負います。
  • リスク管理: 「計画通りに進まないこと」を前提として、事業推進を妨げる可能性のあるリスク(予算の超過、スケジュールの遅延、住民の反対運動、技術的な問題の発生など)を事前に洗い出し、それぞれの発生確率と影響度を評価します。そして、リスクが顕在化した場合の対応策をあらかじめ準備しておくことで、問題発生時に冷静かつ迅速に対処することが可能になります。

### 第5段階:評価・改善(行政評価)フェーズ

 事業の「やりっ放し」を防ぎ、次の成功へと繋げるための、PDCAサイクルの要となる段階です。

  • 事業成果の測定(KPI達成度評価): 事業年度が終了した後、計画策定段階で設定したKPI(重要業績評価指標)に基づき、事業の成果を客観的かつ定量的に測定します。数値データだけでなく、受益者へのアンケート調査やヒアリングなどを通じて、定性的な効果も把握します。
  • 事務事業評価シートの作成: 各区が定める行政評価制度の様式に従い、事務事業評価シートを作成します。事業目的の達成度、投入したコストに対する効果(効率性)、目的達成への貢献度(有効性)といった複数の観点から、事業所管課として自己評価を行います。
  • 評価結果の分析と改善策の立案: 評価シートを埋めることが目的ではありません。なぜ目標を達成できたのか(あるいは、できなかったのか)、その成功要因・失敗要因を深く分析することが最も重要です。この分析結果に基づき、次年度以降の事業の方向性(継続、改善、拡充、縮小、廃止)を検討し、具体的な改善アクションプランを立案します。
  • 評価結果の公表とフィードバック: 評価結果は、区のウェブサイトなどで原則として公表し、税金を使って行われた事業の成果について、区民への説明責任を果たします。そして、この評価結果と改善策は、次年度の予算編成や関連事業の計画立案に確実にフィードバックされ、組織としての学びを未来に活かしていく、大きなPDCAサイクルを回していくのです。

業務の羅針盤となる法的根拠

 庁議指定事務事業の進行管理は、担当者の熱意や能力だけで行われるものではありません。その全ての活動は、法律や条例といった強固なルールに裏打ちされています。これらの法令は、単に業務を縛る制約ではなく、事業を公正かつ適正に進めるための羅針盤であり、時には理不尽な要求から職員自身を守る盾ともなります。この章では、事業遂行の根幹をなす主要な法令の趣旨を理解し、実務でどのように活かすべきかを学びます。

### 地方自治法と条例・規則:事業遂行の根幹

 地方自治法は、特別区を含む全ての地方公共団体の組織及び運営に関する基本法であり、私たちの業務のあらゆる側面に影響を与えます。特に、区長の権限(第149条)、議会の役割と議決事件(第96条)、予算・決算の原則、そして条例制定権など、事業を遂行する上での大原則が定められています。

 そして、この地方自治法を基に、各区が自らの実情に合わせて制定しているのが、条例や規則です。これらは、より具体的で実践的な行政運営のルールを定めています。庁議指定事務事業の進行管理において特に重要となるのは、「庁議規則」、「行政評価条例」、「情報公開条例」などです。これらは、事業の意思決定プロセス、成果の評価方法、区民への透明性確保のあり方を直接的に規定しています。

 企画課の職員には、これらの法令・条例を遵守することはもちろん、その背景にある「なぜ、このようなルールが定められているのか」という精神までを深く理解し、自らが関わる事業が常に法的な正当性を持ち、区民の信頼に応えるものであるように設計・管理していく重い責任があります。

法令・条例名主要条文(例)概要実務上の意義
地方自治法第2条地方公共団体の事務の範囲事業が区の自治事務または法定受託事務の範囲内であることを確認する根拠となります。
第96条議会の議決事件予算の議決、重要な契約の締結、条例の制定など、事業推進に必要な議会承認事項を特定します。
第149条区長の担任事務区長が区を代表し、事務を管理・執行する権限の根拠であり、庁議での最終決定権の源泉です。
各区の庁議規則付議事項に関する条項庁議で審議・決定すべき事項(重要施策、長期計画等)を定めます。事業を庁議に付議すべきか否かを判断する基準となり、付議資料作成の指針となります。
各区の行政評価条例評価の実施に関する条項行政評価の目的、対象、手法、結果の公表と活用などを定めます。事務事業評価シートの作成や評価プロセスの根拠となり、PDCAサイクルを制度的に担保します。
各区の情報公開条例非公開情報に関する条項公開を原則としつつ、個人情報など非公開とできる情報の範囲を定めます。事業関連文書の公開範囲を判断する基準となり、区民への透明性確保とプライバシー保護のバランスを取ります。

### 行政評価とEBPM(証拠に基づく政策立案)の潮流

 前述の通り、行政評価はPDCAサイクルを行政運営に導入し、事業の有効性や効率性を客観的に検証するための仕組みです。そして近年、この行政評価は、EBPM(Evidence-Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)という、より科学的なアプローチと強く結びついています。

 EBPMとは、担当者の勘や経験、前例といった主観的な要素だけでなく、統計データなどの客観的な「証拠(エビデンス)」に基づいて政策を立案し、その効果を評価・検証していく考え方です。これは、行政評価を単なる事後的な検証作業から、政策のライフサイクル全体を貫く科学的アプローチへと進化させるものです。

 この潮流の中で、企画課は庁内のEBPM推進を主導する極めて重要な役割を担います。具体的には、事業の企画段階でロジックモデルを作成して因果関係を明確にし、成果を測定するための適切な指標(KPI)を設定すること。そして、事業実施後はデータを収集・分析し、その効果を統計的な手法も用いて科学的に検証することが求められます。これは、単に評価シートの書式を埋める作業とは全く次元の異なる、高度な専門性を要する業務です。このEBPMの実践こそが、事業の質を本質的に高め、区民への説明責任を真に果たすための鍵となります。この変化は、企画課職員に従来の「調整役」に加え、「データアナリスト」や「コンサルタント」に近いスキルセットを要求するものであり、職務内容の質的な転換を意味しているのです。

### ケーススタディで学ぶ法的留意点

 法律や条例の知識は、具体的な事例を通じて学ぶことで、より実践的な知恵となります。以下に、庁議指定事務事業の推進において遭遇しがちな3つのケースと、その法的留意点を示します。

  • ケース1:個人情報保護とデータ活用のジレンマ
    • 状況: ある区で、高齢者向けの新たなフレイル予防事業を開始した。事業の効果をEBPMの考え方で厳密に測定するため、参加者の健康診断データ、介護認定情報、日々の活動量データなどを統合的に分析したい。しかし、個人情報保護の観点から、どこまでのデータ活用が許されるのか、担当者は頭を悩ませている。
    • 法的留意点と対応: 個人情報の保護に関する法律や各区の個人情報保護条例は、本人の同意なく個人情報を目的外利用することを厳しく制限しています。一方で、統計目的の利用は一定の条件下で認められています。解決策として、個人を特定できないようにデータを加工する「匿名加工情報」を作成・活用する方法が考えられます。企画課は、個人情報保護担当部署と連携し、法令を遵守しつつ、政策評価に必要なデータを安全に活用できるルールとプロセスを設計する必要があります。
  • ケース2:PFI/PPP事業における事業者選定プロセスの透明性
    • 状況: 老朽化した区立体育館の建て替えを、民間の資金とノウハウを活用するPFI方式で実施することが庁議で決定された。複数の事業者から魅力的な提案が寄せられているが、特定の事業者と癒着しているとの疑念を招かぬよう、選定プロセスの公平性・透明性をいかに担保するかが課題となっている。
    • 法的留意点と対応: 地方自治法や地方自治法施行令は、契約における公平競争の確保を求めています。PFI事業で多用される公募型プロポーザル方式では、価格だけでなく、事業計画の質や独創性も評価します。企画課は、学識経験者など外部の専門家を含む選定委員会を設置し、事前に評価基準(評価項目と配点)を明確に定め、公表することが不可欠です。また、選定の経過や結果についても、議事録を含めて詳細に情報公開することで、プロセスの透明性を確保し、区民や議会の信頼を得ることが重要です。
  • ケース3:条例改正を伴う事業の特有なスケジュール管理
    • 状況: 近年増加する空き家問題に対応するため、適切な管理を所有者に義務付け、違反者には勧告や命令を行えるようにする新たな条例の制定を目指す事業が庁議で指定された。通常の事業とは異なり、議会での議決という大きな関門が控えている。
    • 法的留意点と対応: 条例の制定・改正は、地方自治法に定められた議会の専権事項です。事業を推進するには、議会の議決が絶対条件となります。企画課と所管課は、通常の事業進行管理に加えて、特有の法的手続きを組み込んだスケジュールを策定する必要があります。具体的には、条例案の策定、法規担当部署との調整、区民からの意見を募集するパブリックコメントの実施、議会(特に所管の常任委員会)への事前説明、本会議での提案理由説明と質疑応答、そして可決後の公布・施行準備といった一連のプロセスを、議会の会期日程に合わせて綿密に管理しなければなりません。

応用知識と先進事例

 標準的な業務フローをマスターすることは基本ですが、現実の行政現場は常に想定外の出来事で満ちています。この章では、マニュアル通りにはいかない困難な状況への対処法や、他自治体の先進的な取り組みから学ぶべき視点を提供します。困難を乗り越える応用力と、自らの業務を常に客観視し、改善し続けるためのベンチマークを持つことは、プロフェッショナルとして成長するために不可欠です。

### 困難ケースへの対応:部門間対立、計画の急な変更、住民合意形成

 庁議指定のような大規模で複雑な事業では、様々な困難に直面します。これらは避けるべき障害ではなく、むしろ企画課職員の専門性と価値が最も発揮される機会と捉えるべきです。

  • 部門間対立の調停: 区政の全体最適を目指す以上、目的や価値観が異なる部署間の対立は避けて通れません。例えば、都市開発を進めたい部署と、緑地の保全を優先したい部署の対立は典型例です。このような場合、企画課はどちらか一方の味方をするのではなく、中立的なファシリテーターとして機能することが求められます。対立の根本原因(情報の不足、価値観の違い、権限の曖昧さなど)を冷静に分析し、双方を対話のテーブルに着かせます。そして、議論をより上位の目的、すなわち「区民全体の持続的な幸福」という共通のゴールに立ち返らせることで、創造的な解決策を見出す手助けをします。時には、日常の職場を離れたオフサイトミーティングなどを企画し、心理的な壁を取り払う工夫も有効です。
  • 計画の急な変更への対応: 事業は常に不確実性に晒されています。区長の交代による政策方針の転換、国からの新たな法制度の導入、大規模災害の発生、あるいはパンデミックのような予測不能な事態など、事業計画の前提を根底から覆すような変化は起こり得ます。このような危機的状況において、企画課職員に問われるのは「危機管理能力」です。混乱の中で迅速に正確な情報を収集・分析し、計画変更による影響(財政的、人的、区民サービスへの影響など)を多角的に評価します。そして、現状維持、一部修正、抜本的見直し、事業中止といった複数の代替案を、それぞれのメリット・デメリットと共に経営層に提示し、冷静な意思決定を支えることが重要な役割となります。
  • 住民合意形成のプロセス: 特に、ごみ処理施設や保育園の建設、駅前再開発など、地域住民の利害に直接影響を与える事業では、丁寧な合意形成のプロセス設計が事業の成否を分けます。行政だけで計画を固めてから説明する「お伺い型」の手法は、もはや通用しません。計画の構想段階という早い時期から積極的に情報を公開し、アンケート調査、説明会、ワークショップ、キーパーソンへのヒアリングなどを通じて、多様な住民の意見や懸念を丁寧に聴取し、それらを計画に反映させていく双方向のプロセスを設計・管理することが不可欠です。これは多大な時間と労力を要しますが、このプロセスを省略すると、後々、深刻な反対運動に繋がり、結果として事業が停滞・頓挫するリスクを高めることになります。

### 東京都及び先進区の取組事例分析

 優れた実践は、最高の教科書です。常にアンテナを高く張り、他の自治体の先進的な取り組みから学ぶ姿勢が重要です。

  • 東京都の先進的プロジェクトとの連携: 東京都は、特別区単独では実施困難な広域的・先進的なプロジェクトを数多く主導しています。例えば、東京全体のデジタル基盤を構築する「スマートシティ」構想や、国際競争力を高めるための「スタートアップ支援戦略」などが挙げられます。これらの都の事業は、特別区の行政サービスやまちづくりと密接に関連します。企画課は、これらの都の動向を常に把握し、都のプロジェクトと区の事業を効果的に連携させることで、相乗効果を生み出す方策を検討する役割を担います。
  • 先進区のEBPM推進体制に学ぶ: EBPMの重要性は認識されていても、全庁的に推進するための体制構築は容易ではありません。この点において、先進区の事例は非常に参考になります。例えば、世田谷区では、行政評価の仕組みに事業の因果関係を可視化する「ロジックモデル」を本格的に導入し、政策の質向上を図っています。また、広島県福山市では、プロジェクト管理ツール「Asana」を全庁的に導入し、業務の可視化と部門横断的な連携を強化することで、行政のDXを力強く推進しています。これらの事例から、EBPMやデータ利活用を組織に根付かせるための具体的な組織体制、人材育成、ルール作りのヒントを得ることができます。
  • 公民連携の多様なモデルを探る: 限られた財源と人員の中で質の高い公共サービスを提供するためには、民間企業の活力やノウハウを積極的に活用する「公民連携」が不可欠です。公共施設の建設・運営に民間の資金と経営能力を導入するPFI/PPP事業、地域の価値向上を住民・事業者・行政が一体となって目指すエリアマネジメント、公共施設に企業名などを付与する代わりに収入を得るネーミングライツなど、その手法は多様化しています。各区で実施されているこれらの多様な公民連携モデルを比較分析し、それぞれのメリット・デメリット、そして成功のための契約上の要件やパートナーシップ構築の要諦を探ることは、新たな事業を企画する上で極めて有益です。

### 広域連携の可能性:特別区間の連携と新たな公民連携(PPP/PFI)

 現代の行政課題は、一つの自治体の境界内で完結するものはむしろ稀です。複雑化する課題に対応するためには、組織の壁を越えた「連携」が鍵となります。

  • 特別区間の連携: 大規模災害への対応、広域的な交通インフラの整備、深刻化する待機児童問題など、一つの区だけでは解決が難しい課題は数多く存在します。このような課題に対しては、23区が一体となって取り組む「広域連携」が極めて重要です。特別区長会や、人事・厚生事務などを共同で処理する一部事務組合といった既存の枠組みを活用することはもちろん、特定の政策課題ごとに複数の区が連携して共同事業を実施するなど、より柔軟で戦略的な連携のあり方を模索していく必要があります。企画課は、自区の利益だけでなく、23区全体としての最適解を追求する広い視野を持つことが求められます。
  • 新たな公民連携(Public-Private Partnership): 前述の通り、公民連携(PPP/PFI)は、今後の行政運営のスタンダードとなりつつあります。重要なのは、行政が仕様書を作成して民間事業者に発注するという従来の「官主導」の関係から脱却することです。これからの公民連携では、企画・構想段階から行政と民間事業者が対等なパートナーとしてテーブルにつき、双方の知見を融合させて、新たな公共サービスを「共創」していく姿勢が求められます。そのため、企画課職員には、民間企業のビジネスモデルを理解し、対等な立場で事業交渉や契約管理を行える、新たなビジネススキルや法的知識が不可欠となります。

業務改革とDXによる事業推進力の強化

 テクノロジーの進化は、行政のあり方を根底から変える力を持っています。旧態依然とした業務プロセスに固執していては、複雑化・多様化する区民ニーズに応えることはできません。この章では、ICTツール、RPA、そして生成AIといったデジタル技術を具体的にどう業務に組み込み、庁議指定事務事業の進行管理をいかに効率化・高度化できるか、その導入効果と実践的なノウハウを解説します。

### ICTを活用したプロジェクト管理術

 庁議指定事務事業のような部門横断的で複雑なプロジェクトを、メールやExcelだけで管理するには限界があります。情報伝達の漏れや遅延、進捗状況の不透明化を招き、プロジェクトの失敗に直結しかねません。

  • プロジェクト管理ツールの導入: AsanaやBacklogといったクラウド型のプロジェクト管理ツールを導入することで、プロジェクトに関わる全ての「タスク」「担当者」「期限」「進捗状況」をリアルタイムで可視化し、関係者全員で共有できます。誰が何に取り組んでいて、どこで遅れが生じているかが一目瞭然となるため、問題の早期発見と迅速な対応が可能になります。これにより、進捗確認のためだけの会議を大幅に削減し、より本質的な議論に時間を使うことができます。
  • 情報共有とコミュニケーションの円滑化: SlackやMicrosoft Teamsといったビジネスチャットツールを導入することで、部署や役職の壁を越えた迅速でフラットなコミュニケーションが実現します。メールのように形式張った挨拶や宛名を省略でき、案件ごとにチャンネル(会話の部屋)を分けることで、情報が整理され、後から参加したメンバーも過去の経緯を容易に把握できます。また、boxなどのクラウドストレージを活用すれば、常に最新の資料を安全に共有でき、「どのファイルが最新版か分からない」といった混乱を防ぎます。
  • データ可視化ツールの活用: TableauやPower BIといったBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを用いることで、事業の進捗データや成果指標(KPI)を、グラフや地図を多用したインタラクティブな「ダッシュボード」として可視化できます。これにより、区長や副区長といった経営層や関係者が、複雑なデータを直感的に理解し、状況に基づいた迅速な意思決定を行うことを力強く支援します。

### RPA導入による定型業務の自動化と効果

 日々の業務の中には、創造性を必要としない、単純な繰り返し作業が数多く存在します。こうした業務から職員を解放し、より付加価値の高い仕事に集中させる技術がRPAです。

  • RPA(Robotic Process Automation)とは: RPAとは、人間がPCの画面上で行っている定型的な入力、転記、照合、クリックといった一連の作業を、ソフトウェアのロボットが記憶し、自動で実行する技術です。プログラミングの専門知識がなくても、比較的容易に導入できるのが特徴です。
  • 企画課業務におけるRPA活用例: 企画課の業務においても、RPAが活躍する場面は数多くあります。例えば、各部署から毎月提出される定型報告書のデータをExcelから基幹システムへ転記する作業、行政評価シートへ各事業の実績値を自動で入力する作業、区のウェブサイトで公開するためのオープンデータ用ファイルを定期的に作成・更新する作業などが挙げられます。
  • 導入効果: その効果は絶大です。東京都や足立区など、多くの自治体で行われた実証実験では、RPAを導入した業務において、作業時間が平均で80%以上削減され、年間で数百時間から数千時間もの業務時間削減効果が報告されています。さらに、人間による入力ミスや転記ミスがゼロになるため、業務品質の向上にも大きく貢献します。RPAによって創出された貴重な時間を、政策の企画立案や関係機関との調整といった、人でなければできない創造的・戦略的な業務に振り向けることが可能になるのです。

### 生成AIの活用可能性:企画課業務における具体的ユースケース

 ChatGPTに代表される生成AIの登場は、知的生産活動のあり方を劇的に変えつつあります。行政においても、これを単なる流行として傍観するのではなく、積極的に活用していく姿勢が求められます。

  • 生成AIの概要と留意点: 生成AIは、大量のテキストデータを学習することで、人間のように自然な文章を作成したり、複雑な文章を要約したり、新しいアイデアを提案したりすることができる技術です。しかし、その利用には十分な注意が必要です。事実と異なる情報を生成する「ハルシネーション(幻覚)」のリスク、入力した個人情報や機密情報が漏洩するリスク、生成物が第三者の著作権を侵害するリスクなどを正しく理解し、自治体が定めるガイドラインに沿って慎重に利用する必要があります。
  • 具体的な活用ユースケース: 留意点を守れば、生成AIは企画課職員の「思考を拡張するパートナー」となり得ます。
    • 文書作成支援: 庁議に提出する資料の骨子案を作成させる、長時間の会議の議事録を瞬時に要約する、専門用語の多い内部文書を区民向けの分かりやすい言葉に書き換えさせる、パブリックコメントで寄せられた多数の意見を分類・整理し、回答の素案を作成させるなど、文書作成にかかる時間を大幅に短縮できます。
    • アイデア創出(ブレインストーミング): 新規事業の企画で煮詰まった際に、「〇〇という社会課題を解決するための、ユニークなアプローチを10個提案して」といったようにAIに問いかけることで、自分一人では思いつかなかったような多様な視点や斬新なアイデアのヒントを得ることができます。
    • データ分析の補助: 区民アンケートの自由記述欄に書かれた大量のテキストデータを分析(テキストマイニング)させ、区民が抱える潜在的なニーズや不満の傾向を抽出する、膨大な量の政策文書や過去の答申の中から、特定のキーワードに関連する箇所を瞬時に検索・抽出するなど、情報収集・分析の効率を飛躍的に高めます。
    • ナレッジマネジメント: 過去の庁議資料や事業評価報告書などをAIに学習させることで、類似案件に関する過去の審議の経緯や主要な論点、事業の成果と課題などを瞬時に回答してくれる「庁内版AIアシスタント」を構築することも将来的には可能です。

 総務省やこども家庭庁なども自治体における生成AI活用の実証実験を推進しており、今後、より具体的なガイドラインや成功事例が蓄積されていく見込みです。この新しい技術を使いこなせるかどうかが、今後の企画課職員の能力を大きく左右するでしょう。

成果を最大化する実践的スキル

 これまで見てきたように、庁議指定事務事業の進行管理は、複雑で多岐にわたる知識と技術を要します。しかし、それらを統合し、事業を真の成功へと導くための核心的なマネジメント手法が「PDCAサイクル」です。この章では、組織全体として、そして職員一人ひとりとして、このサイクルをいかに効果的に回していくか、その具体的なステップと、それを支える目標管理・人事評価制度との連携について詳解します。

### 組織レベルで実践するPDCAサイクル

 組織としてのPDCAサイクルは、行政経営そのものの質を高めるための、継続的な改善活動です。企画課は、このサイクルが円滑に回るように全体を設計し、推進するエンジンとしての役割を担います。

  • Plan(計画):戦略的目標の設定 サイクルは、明確な計画から始まります。区の総合計画や区長の施政方針といった最上位の方針に基づき、庁議の場で、事業が達成すべき最終的な目的(KGI)と、その達成度を測るための具体的な成果指標(KPI)を明確に設定します。この際、ロジックモデルを活用して、事業活動と成果の間の因果関係を可視化し、関係部署間で「なぜこの事業を行うのか」「何をもって成功とするのか」という共通認識を醸成することが極めて重要です。
  • Do(実行):進捗のモニタリング 計画に基づき、事業所管課が現場で事業を実行します。企画課は、プロジェクト全体の進捗管理を担い、定例の進捗報告会やプロジェクト管理ツールを通じて、計画と実績のギャップを常にモニタリングします。問題の兆候を早期に発見し、迅速な軌道修正を支援することが、ここでの重要な役割です。
  • Check(評価):客観的な成果検証 事業年度末には、行政評価制度に基づき、KPIの達成度を客観的に評価します。評価の信頼性を高めるため、事業所管課による自己評価だけでなく、学識経験者や区民代表からなる外部評価委員会など、第三者の視点を取り入れることが有効です。評価の過程では、単に目標を達成できたか否かだけでなく、「なぜそのような結果になったのか」という要因分析を深く行うことが求められます。
  • Action(改善):次なる計画への反映 評価結果は、次年度の事業計画や予算要求に具体的に反映されて初めて意味を持ちます。評価で明らかになった課題に基づき、事業内容の改善、手法の見直し、予算の重点配分などを行います。時には、費用対効果が低いと判断された事業を縮小・廃止するという厳しい決断も必要です。また、成功した事業のノウハウを「ベストプラクティス」として形式知化し、他の部署へ横展開することも、組織全体のパフォーマンスを向上させる上で重要です。この「CheckからActionへ」の繋がりを制度的に担保することこそが、組織的PDCAの最大の要諦です。

### 個人レベルで実践するPDCAサイクル

 組織の大きなPDCAサイクルを動かすのは、職員一人ひとりの小さなPDCAサイクルの積み重ねです。日々の業務において、主体的に改善を繰り返す意識を持つことが、個人の成長と組織の発展に繋がります。

  • Plan(計画):主体的な目標設定 年度当初、上司との面談(期首面談)を通じて、その一年間で自身が担当する業務において達成すべき具体的な目標を設定します。この目標は、上司から一方的に与えられるものではなく、組織目標と自身の役割を理解した上で、自ら主体的に設定することが重要です。「SMARTの法則」(Specific:具体的、Measurable:測定可能、Achievable:達成可能、Relevant:関連性、Time-bound:期限)を意識し、「〇〇事業の住民説明会を、参加者満足度80%以上を目標に、10月までに3回実施する」といったように、具体的で挑戦しがいのある目標を立てます。
  • Do(実行):日々の業務遂行と記録 設定した目標の達成に向けて、日々の業務を計画的に遂行します。重要なのは、ただ漫然と業務をこなすのではなく、目標を常に意識し、工夫しながら取り組むことです。そして、うまくいったこと、いかなかったこと、気づいたことなどを、簡単なメモでも良いので記録しておく習慣が、次のCheckの質を高めます。
  • Check(評価):定期的な自己評価と上司との対話 年度の半ば(中間面談)や期末(期末面談)に、設定した目標の達成状況を振り返ります。計画通りに進んでいるか、進んでいないとすればその原因は何かを客観的に自己評価します。そして、その自己評価をもとに上司と面談を行い、客観的なフィードバックを受けます。この対話を通じて、自分では気づかなかった強みや課題が明確になります。
  • Action(改善):次なる挑戦へのステップ 評価とフィードバックを踏まえ、今後の業務の進め方を改善します。成功したやり方は継続・発展させ、課題となった点は具体的な改善策を考え、次の期の目標設定(Plan)に活かします。例えば、「説明会の満足度が目標に届かなかったのは、専門用語が多すぎたからかもしれない。次期は、事前に区民モニターに資料をチェックしてもらうプロセスを加えよう」といった具体的な改善アクションに繋げます。この小さな改善の繰り返しが、一年後には大きな成長となって現れるのです。

### 人事評価制度との連携によるモチベーション向上

 個人レベルのPDCAサイクルを実効性のあるものにするためには、それが人事評価制度と適切に連携していることが不可欠です。努力と成果が正当に評価され、処遇(昇給、昇任、勤勉手当など)に反映される仕組みがあってこそ、職員は高いモチベーションを維持し、挑戦を続けることができます。

 特別区で導入されている人事評価制度は、主に「業績評価」と「能力評価」の二本柱で構成されています。

  • 業績評価: 期首に設定した目標の達成度を評価するものです。個人レベルのPDCAサイクルの結果が、直接的に評価の対象となります。目標の難易度や、目標以外の業務で達成した成果なども含めて総合的に評価されます。
  • 能力評価: 職務を遂行する過程で発揮された能力(企画力、調整力、課題解決能力など)を評価するものです。PDCAサイクルを回す過程での工夫や努力、困難な課題への取り組み姿勢などが評価されます。

 重要なのは、評価者である管理職が、期首・期中・期末の面談を通じて、部下の目標達成に向けたプロセスを丁寧に観察し、適切な指導・助言を行うことです。評価は、単に優劣をつけるためのものではなく、職員一人ひとりの成長を支援し、組織全体の力を最大化するための重要なコミュニケーションの機会なのです。公正で透明性の高い評価制度の運用と、それを通じた職員のエンゲージメント向上が、庁議指定事務事業という困難なプロジェクトを成功に導くための、見えないけれども最も重要な基盤となります。

まとめ:未来を拓く企画課職員として

 本研修資料を通じて、東京都特別区の企画課が担う「庁議指定事務事業の進行管理」という業務の全体像、その奥深さ、そして未来の可能性について、多角的に学んできました。最後に、本研修の要点を総括し、これからの特別区を担う皆さんへの期待を込めたメッセージを送ります。

### 本研修の総括

 私たちは、庁議指定事務事業が単なる一つの業務ではなく、区長のリーダーシップの下、区の未来を形作るための戦略的な取り組みであることを確認しました。その進行管理は、計画通りに進んでいるかを監視するだけの単純な作業ではありません。それは、企画立案から意思決定、実行、評価、改善に至るまで、事業のライフサイクル全体をマネジメントする、高度な専門性を要するアートでありサイエンスです。

 法的根拠や標準業務フローといった基礎を固めることはもちろん、部門間の対立や住民との合意形成といった困難な課題に立ち向かう応用力、そしてDXや生成AIといった新たな技術を使いこなし、EBPMを実践する先進性が不可欠です。そして、その全ての土台となるのが、組織と個人が一体となって回すPDCAサイクルであり、挑戦と成長を促す公正な人事評価制度です。

 この業務は、決して楽なものではありません。時には部署間の板挟みになり、時には区民から厳しい意見を受け、時には先の見えない不確実性の中で決断を迫られることもあるでしょう。しかし、それらの困難を乗り越えた先にこそ、この仕事の醍醐味があります。

### これからの公務員に求められる資質と未来へのエール

 人口減少、超高齢化、価値観の多様化、そして激甚化する自然災害。特別区を取り巻く環境は、かつてないほど複雑で、将来の予測が困難な時代に突入しています。このような時代において、もはや前例踏襲や既存の枠組みの中だけで仕事をする公務員は求められていません。

 これからの企画課職員に求められるのは、第一に、地域と住民のために尽くすという揺るぎない「使命感」です。誰のための仕事なのかという原点を決して忘れず、常に全体の奉仕者としての誇りを持ってください。第二に、現状に甘んじることなく、常により良い方法を模索し続ける「探求心」と「行動力」です。そして第三に、多様な立場の人々と対話し、信頼関係を築き、協働して課題を解決に導くための高度な「コミュニケーション能力」と「調整力」です。

 皆さんが企画し、推進する一つひとつの庁議指定事務事業が、点となり、線となり、やがて未来の区の姿を描く大きな絵となっていきます。それは、区民の暮らしを支え、子どもたちの未来を拓き、この街に住み続けたいと思える魅力を創造する、何にも代えがたい、誇り高い仕事です。

 本研修で得た知識とスキルを羅針盤として、失敗を恐れずに挑戦を続けてください。皆さんの情熱と知性が、この特別区の未来をより豊かで、より輝かしいものにしていくことを心から信じています。

ABOUT ME
行政情報ポータル
行政情報ポータル
あらゆる行政情報を分野別に構造化
行政情報ポータルは、「情報ストックの整理」「情報フローの整理」「実践的な情報発信」の3つのアクションにより、行政職員のロジック構築をサポートします。
記事URLをコピーしました