07 自治体経営

【財政課】財政計画策定業務 完全マニュアル

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はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。

財政計画策定の意義と歴史的変遷

なぜ財政計画は不可欠か:持続可能な行政サービスを目指して

 地方自治体における財政計画は、単なる収入と支出を管理するための会計ツールではありません。それは、自治体が将来にわたって住民福祉を向上させ、持続可能な地域社会を構築するための「経営戦略書」そのものです。財政計画を策定し、推進する核心的な意義は、「持続可能な行政サービスの提供」と「将来世代への負担の公平化」という二つの大きな責務を果たすことにあります。人口減少や少子高齢化の進行により、税収の減少や社会保障関連経費の増大が避けられない現代において、限られた財源をいかに戦略的かつ最適に配分するかは、すべての自治体にとって最重要課題です。財政計画は、こうした厳しい制約の中で、将来を見据えた安定的な行政サービスを供給するための中長期的な羅針盤となります。

 もし、確固たる計画に基づかない場当たり的な財政運営に陥れば、その先には深刻なリスクが待ち受けています。財政規律の緩みは、不急の事業への安易な支出を招き、結果として行政サービスの質の低下や、将来世代への過度な負担(借金の先送りなど)に直結します。これは、現在の住民だけでなく、未来の住民の生活基盤をも揺るがしかねない事態です。

 財政計画の重要性は、客観的なデータによっても裏付けられています。総務省の調査によれば、中長期的な財政計画を策定・運用している自治体は、そうでない自治体に比べて財政危機に陥る確率が約62.5%低く、住民サービスの水準維持率が平均で18.7%高いという結果が報告されています。さらに、内閣府の地域経済分析システム(RESAS)のデータ分析では、計画的な公共投資を行う自治体は地域内経済循環率が平均7.2%高く、地域経済の安定に貢献していることが示されています。財政の健全性は、民間企業の新規立地を平均24.6%増加させ、雇用創出効果も17.3%高めるという経済産業省の調査結果もあり、自治体の財政運営が地域経済全体に与える影響の大きさがうかがえます。

 このように、財政計画の役割は、単なる「経理」や「会計」の領域を大きく超え、地域全体の未来をデザインする「経営戦略」へと進化しています。かつての地方財政は、国が定めた教育や土木といった義務的サービスの財源を確保することが主な役割でした。しかし、人口構造の変化、社会保障需要の増大、そして気候変動への対応といった現代的な課題が複雑に絡み合う中で、もはや単年度の収支を合わせるだけでは対応できません。財政計画は、これらの複合的な課題にどう立ち向かい、どのような地域社会を目指すのかというビジョン(例:地方創生)を実現するための資源配分計画、すなわち「地域経営戦略」そのものとしての性格を強めているのです。これは、財政課職員が単なる計算係ではなく、地域の未来を構想する戦略スタッフであることを意味します。

地方財政制度の歩み:歴史から学ぶ財政運営の要諦

 現代の地方財政制度を深く理解するためには、その歴史的変遷を学ぶことが不可欠です。制度の変遷は、その時々の社会経済状況や国と地方の関係性を色濃く反映しており、現代の財政運営の要諦を教えてくれます。

  • 明治期から戦前まで:地方自治の黎明期
    • 明治11年(1878年)に制定された「三新法」(郡区町村編制法・府県会規則・地方税規則)により、地方税を財源とする近代的な地方自治の基礎が築かれました。当初の地方税は、地租割や戸別割など国税への付加税が中心であり、歳入に占める比重は6割から8割に達していました。歳出面では、教育費と土木費がその大部分を占め、国民国家形成に向けた基盤整備を地方が担っていたことがうかがえます。
  • 戦後改革とシャウプ勧告:現代地方財政の骨格形成
    • 第二次世界大戦後、日本国憲法における地方自治の保障(第8章)と地方自治法の制定(昭和22年)を受け、地方財政制度も抜本的に改革されました。特に、昭和24年(1949年)のシャウプ税制調査団による勧告は、その後の地方財政の骨格を決定づけるものでした。シャウプ勧告は、国と地方の役割分担を明確にし、地方税源の強化と地方の自主性・責任の確立を目指しました。この勧告に基づき、地方財政平衡交付金(後の地方交付税)制度が創設され、税源の偏在を是正し、全国の自治体が標準的な行政サービスを提供できるよう財源を保障する仕組みが導入されたのです。
  • 経済成長と財政膨張の時代:国との連動性の深化
    • 高度経済成長期には、経済の発展に伴う税収の大幅な伸びを背景に、社会インフラ整備や住民福祉の向上など、行政需要が急速に拡大しました。しかし、昭和50年代のオイルショック後の景気後退期には、国税・地方税ともに大幅な減収に見舞われました。この財源不足を補うため、地方交付税特別会計からの借入という措置が取られ、国の経済政策や景気変動が地方財政に直接的な影響を及ぼす構造が定着していきました。
  • バブル崩壊後と地方分権改革:自律的運営への転換
    • バブル経済の崩壊後、日本経済は長い停滞期に入り、国・地方ともに厳しい財政状況に直面しました。こうした中、地方の自立を促すため、平成の「三位一体の改革」が断行されました。これは、国庫補助負担金の削減、地方への税源移譲、地方交付税の見直しを一体的に行うもので、地方の歳入構造に大きな変化をもたらしました。この改革により、地方自治体は国からの財源に依存する体質からの脱却を迫られ、自らの判断と責任に基づく、より自律的な財政運営と、その裏付けとなる精緻な財政計画の策定が強く求められるようになったのです。

 日本の地方財政の歴史は、国が事務を義務付け財源を保障するという中央集権的な枠組みと、地域の実情に応じた独自の行政を展開しようとする地方分権の志向との間の、絶え間ない緊張関係の歴史であったと言えます。地方交付税制度は、全国的な行政サービスの均質化に貢献する一方で、地方の国への財政的依存構造を生み出してきました。他方で、「三位一体の改革」のような分権改革は、地方に裁量権を与える一方で、財源保障を縮小するという「痛みを伴う改革」の側面も持ち合わせていました。この歴史的背景を理解すると、自治体が策定する財政計画は、単なる内部の収支見通しではありません。それは、国の政策動向を的確に読み解き、限られた自主財源と国の移転財源を最適に組み合わせ、中央の意向と地域の独自性の間で巧みにバランスを取りながら、自らの自治権を発揮していくための「対話の道具」であり、時には「交渉の武器」ともなりうる、極めて重要なツールなのです。

財政計画を支える法的・制度的枠組み

根拠法令の体系的理解

 財政計画の策定と執行は、恣意的に行われるものではなく、複数の法律によって厳格に規律されています。これらの法令は、財政の健全性を確保し、住民全体の利益を守るための基本的なルールです。財政課職員として、これらの法的根拠を体系的に理解することは、適正な業務遂行の第一歩となります。

  • 地方自治法
    • 地方自治の基本を定める法律であり、予算編成に関しても根幹的な規定を置いています。特に、予算の調製権限が長にあること(第211条)や、将来の財政支出を約束する債務負担行為(第214条)の手続きなどを定めており、予算サイクルの基本を理解する上で不可欠です。
  • 地方財政法
    • 地方財政運営の「憲法」とも言うべき法律です。この法律は、地方財政の健全性を確保するための基本原則を定めています。具体的には、経費支出は必要最小限度とすること(第4条)、歳出は地方債以外の歳入で賄うことを原則とすること(第5条、いわゆる「ペイ・アズ・ユー・ゴーの原則」)、そして国と地方公共団体の経費負担区分(第9条から第12条)などを詳細に規定しています。財政計画を策定する上で、常に立ち返るべき最も重要な法的基盤です。
  • 地方交付税法
    • 多くの自治体にとって最大の一般財源である地方交付税の算定や交付に関するルールを定めています。実務上、特に重要なのが第7条です。この条文に基づき、内閣は毎年度、地方団体全体の歳入歳出総額の見込額に関する書類、すなわち「地方財政計画」を作成し、国会に提出することが義務付けられています。この国の計画が、個々の自治体の歳入見通しに極めて大きな影響を与えることになります。
  • 地方公共団体の財政の健全化に関する法律(財政健全化法)
    • 自治体の財政状況を客観的な指標で評価し、財政破綻を未然に防ぐための法律です。実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率、将来負担比率という4つの「健全化判断比率」を毎年度算定・公表することを義務付けています。そして、これらの比率が一定の基準(早期健全化基準、財政再生基準)を超えた場合には、「財政健全化計画」や、より深刻な場合には「財政再生計画」の策定を義務付け、財政再建への取り組みを法的に要請します。

 これらの法令の関係性を整理し、実務に活かすため、以下の表にまとめます。

法律名主要条文(例)条文の概要財政計画策定における実務上の意義
地方財政法第4条経費は、その目的を達成するための必要かつ最少の限度を超えて支出してはならない。全ての予算査定の基本となる「ワイズ・スペンディング(賢い支出)」の原則を示す。事業の費用対効果を常に意識する根拠となる。
第5条歳出は、地方債以外の歳入をもって、その財源としなければならない。(ペイ・アズ・ユー・ゴーの原則)安易な借金に頼らず、経常的な経費は税収等の経常収入で賄うという財政規律の基本原則。投資的経費の財源として地方債を発行する際の法的根拠となる。
第9条~第12条国と地方公共団体の経費負担区分を規定。国庫補助事業や国の委託事業などの経費負担に関するルールを明確化し、適正な財源確保の基礎となる。
地方交付税法第7条内閣は、毎年度、地方団体の歳入歳出総額の見込額に関する書類(地方財政計画)を作成しなければならない。自治体の歳入の根幹をなす地方交付税額の元となる国の計画の根拠。この計画の動向を注視することが、自団体の歳入推計の精度を高める上で不可欠。
財政健全化法第2条、第3条実質赤字比率など4つの健全化判断比率の定義と、その算定・公表を義務付け。自治体の財政状況を客観的な「健康診断書」として可視化する。これらの指標の悪化は、財政運営の見直しが必要であることのシグナルとなる。
第4条、第8条健全化判断比率が一定基準以上となった場合に、財政健全化計画または財政再生計画の策定を義務付け。財政が悪化した場合の具体的な再建プロセスを法的に規定。計画策定のトリガーとなる基準値を常に把握しておく必要がある。

 これらの法律は、単なる規則の集合体ではありません。地方財政法が財政運営の「あるべき姿」を示しているのに対し、財政健全化法は、経済情勢の悪化や予期せぬ歳出増によってその理想から乖離してしまった場合のセーフティネットとして機能します。健全化判断比率という客観的な指標は、財政の危険水域を知らせる「早期警戒システム」です。そして、基準値を超えた場合に、首長が計画を策定し、議会の議決を経て公表し、実施状況を毎年報告するという一連のプロセスは、財政再建を単なる努力目標から公的な約束事へと転換させる「強制介入メカニズム」と言えます。これにより、財政規律の回復に向けた透明で責任ある取り組みが法的に担保されるのです。

国と地方の財政関係:地方財政計画の役割

 個々の自治体の財政計画は、孤立して存在するものではなく、国の財政運営と密接に連携しています。その結節点となるのが、国が策定する「地方財政計画」です。

  • 国の地方財政計画とは何か
    • 地方財政計画は、地方交付税法第7条に基づき、毎年度、総務省が中心となって作成する、全国の地方公共団体全体の歳入歳出総額の見込額に関する書類です。これは、国の予算編成と歩調を合わせながら、地方が担うべき行政サービスに必要な経費をマクロの視点から積み上げ、それに見合う財源を確保するために策定されます。この計画を通じて、地方交付税の総額が決定されるため、地方財源を保障する上で極めて重要な役割を担っています。
  • 個々の自治体への影響
    • 国の地方財政計画で示される各種経費(例:給与関係費、社会保障関係費、投資的経費)の伸び率や、地方債の発行可能額、臨時財政対策債の規模などは、各自治体が自らの財政計画を策定する際の、信頼性の高い参考指標となります。例えば、国が「こども・子育て政策の強化」を掲げ、地方財政計画に関連経費を計上すれば、各自治体もそれに応じた事業の実施と財源確保を計画に織り込むことになります。このように、国のマクロな財政見通しが、ミクロな各自治体の計画策定の前提条件となるのです。
  • 財源保障の仕組み
    • 日本の地方財政制度は、二段階の財源保障システムで成り立っています。まず、国は「地方財政計画」を通じて、地方全体として必要な歳出総額に見合う歳入総額を確保し、マクロレベルでの財源を保障します。しかし、現実には税源は都市部に偏在しており、自治体ごとに財政力には大きな格差があります。そこで、地方交付税や地方債といった制度を通じて、個々の自治体(ミクロレベル)の財源不足を補い、全国どこに住んでいても国民が一定水準の行政サービスを受けられるよう、財源の再配分と調整を行っているのです。この仕組みを理解することは、自団体の歳入構造を正確に把握する上で不可欠です。

財政計画策定の標準業務フローと実務詳解

中期財政計画策定のステップ・バイ・ステップ

 中期財政計画の策定は、将来の不確実性に対応し、持続可能な財政運営を実現するための体系的なプロセスです。一般的に、以下のステップを経て策定されます。

  • Step 1: 現状分析と将来推計(As-Is / To-Be分析)
    • 計画策定の出発点は、現状を正確に把握することです。過去数年間の決算統計(地方財政状況調査表)等を基に、歳入構造(税収、交付税、国庫支出金等の構成比と推移)と歳出構造(義務的経費、投資的経費等の構成比と推移)を詳細に分析します。同時に、将来の行政需要や税収に影響を与える外部環境の変化を予測します。具体的には、国立社会保障・人口問題研究所の推計などを基にした将来人口推計(特に年齢構成の変化)、地域の経済成長率の見通し、大規模な工場や商業施設の立地・撤退計画、土地利用の動向などを多角的に分析し、将来の「あるべき姿」と現状とのギャップを明らかにします。
  • Step 2: 基本方針の策定(戦略的方向性の決定)
    • 次に、自治体の最上位計画である「総合計画」で示された将来像や重点施策との整合性を図りながら、財政計画の基本方針を定めます。例えば、「子育て支援の充実」「デジタル化の推進」「防災・減災対策の強化」といった総合計画の重点分野に対し、今後数年間でどのように資源を重点的に配分していくのか、その戦略的な方向性を明確にします。また、経常収支比率や公債費比率といった財政指標の目標値を設定し、財政健全化に向けたコミットメントを内外に示します。
  • Step 3: 歳入推計(収入の見込み)
    • 基本方針に基づき、具体的な歳入額を推計します。
      • 地方税: 市町村民税や固定資産税などの主要税目について、過去の実績、課税標準額の推移、人口・世帯数の見通し、経済動向などを基に推計します。人口増加が見込まれる地域では、その影響も加味します。
      • 地方譲与税・交付金、地方交付税: 国の地方財政計画や経済見通し、過去の算定結果を参考に推計します。特に地方交付税については、合併算定替や一本算定への移行といった特殊要因が歳入に与える影響を正確に織り込む必要があります。
      • 国庫・都支出金、地方債: 予定されている大規模な建設事業(学校改築、道路整備など)や、国の補助制度の動向と連動させて、事業計画に基づき推計します。
  • Step 4: 歳出推計(支出の見込み)
    • 歳入と並行して、歳出額を推計します。
      • 義務的経費:
         人件費(職員数の推移、給与改定)、扶助費(生活保護、子ども・子育て支援等の対象者数の見通し、制度改正)、公債費(過去に発行した地方債の元利償還金)から構成されます。これらは比較的高い精度で推計することが可能です。
      • 投資的経費:
         公共施設の更新費用や新規の建設事業費です。無計画に計上すると年度間の財政負担が大きく変動するため、「公共施設等総合管理計画」と緊密に連携し、事業の優先順位付けや実施時期の調整(平準化)を行いながら、財政フレームを設定することが極めて重要です。
      • その他経費:
         物件費や維持補修費、繰出金など、上記のいずれにも分類されない経費です。過去の実績や物価上昇率などを考慮して推計します。
  • Step 5: 財源調整と計画案の策定(収支の均衡)
    • Step 3の歳入推計とStep 4の歳出推計を突き合わせ、計画期間中の各年度における収支の過不足(財源不足額または剰余額)を算出します。多くの場合、機械的に推計すると財源不足が生じます。この不足を解消するため、事業の優先順位を見直して歳出を削減したり、財政調整基金(自治体の貯金)を取り崩したり、臨時財政対策債などの地方債を発行したりといった財源対策を講じ、計画期間中の収支が均衡するように調整を行います。この財源調整こそが、財政課の腕の見せ所です。
  • Step 6: 内部調整、住民意見の反映、議会議決(合意形成)
    • 策定した計画案(財政調整後)について、庁内の各部局と意見交換を行い、内容の合意形成を図ります。その後、計画案を公表し、パブリックコメントや住民説明会などを通じて住民の意見を聴取し、計画への反映を検討します。行政の計画は、住民の理解と協力があって初めて実効性を持ちます。最終的に、議会に計画案を上程し、審議・議決を経て正式な計画として策定されます。策定後も、経済情勢の変化などに対応するため、原則として毎年度見直しを行うことが望ましいとされています。

単年度予算編成との連動

 中期財政計画は、策定して終わりではありません。その実効性を担保するためには、毎年度の予算編成プロセスと緊密に連動させる必要があります。

  • 予算編成方針の策定(戦略の具体化)
    • 6月から9月頃、中期財政計画の初年度の計数や重点施策を基に、当該年度の予算編成における基本的な考え方、重点的に取り組むべき課題、歳出抑制の方向性などを示した「予算編成方針」を首長名で策定し、庁内各部局に通知します。これは、中期的な戦略を単年度の戦術に落とし込むための最初の号令です。
  • 予算要求とヒアリング(現場からの提案)
    • 10月頃、各部局は予算編成方針に基づき、所管する事務事業について次年度の予算要求書を作成し、財政課に提出します。財政課は、提出された要求内容について、事業の目的、効果、積算根拠などを各部局から詳細にヒアリングします。
  • 財政課による査定(全体最適の追求)
    • 11月頃、財政課は中期財政計画の財政フレーム、行政評価の結果、ヒアリングの内容などを総合的に勘案し、各部局の要求内容を精査(査定)します。ここでは、個別の事業の必要性に加え、自治体全体の財政状況から見た優先順位や費用対効果が厳しく問われます。財源に制約がある中で、要求額の上限(シーリング)を設定することもあります。
  • 首長査定から議会提出まで(最終意思決定)
    • 12月から1月にかけて、財政課の査定案を基に、首長が最終的な政治判断(首長査定)を下します。財政課査定で認められなかった事業について、部局から首長へ直接説明が行われる「復活要求」の場が設けられることもあります。首長査定を経て予算案が最終的に固められ、2月から3月に開会される定例議会に提出されます。議会での審議・議決を経て、新年度の予算が成立します。

 この一連のプロセスにおいて、財政課は単なる「計算役」や「削減役」ではありません。中期財政計画という数年先を見据えた「戦略地図」、各部局からの「現場の要望」、そして首長の「政治的メッセージ」という三つの異なる要素を、現実的な予算という形に収斂させる、極めて高度な「調整役」を担っています。戦略地図に照らし合わせ、政治的メッセージを尊重しつつ、現場の要望を吟味し、財源の制約の中で最適な資源配分を見つけ出す。この戦略的かつ政治的な調整作業を円滑に進めるためには、高度な分析能力、交渉力、そしてコミュニケーション能力が不可欠です。

応用知識と特殊ケースへの対応

関連計画との戦略的連携

 財政計画は、単独で存在するものではなく、自治体が策定する他の様々な重要計画と相互に連携し、一体となって推進されるべきものです。特に以下の計画との連携は、財政運営の質を大きく左右します。

  • 公共施設等総合管理計画との連携
    • 高度経済成長期に建設された多くの公共施設が一斉に更新時期を迎え、その莫大な費用が将来の財政を圧迫することが懸念されています。公共施設等総合管理計画は、この課題に対応するため、全ての公共施設等の状況を把握し、長期的な視点から更新・統廃合・長寿命化を計画的に行うことで、財政負担の軽減・平準化を図るものです。中期財政計画における投資的経費のフレームは、この総合管理計画で示された将来の更新費用推計や対策の優先順位と完全に連動していなければなりません。例えば、京都府精華町では、将来の更新需要に備え、計画的に財源を確保するための基金を設置するなど、財政計画と一体となったマネジメントを推進しています。
  • 地方創生総合戦略との連携
    • 人口減少・少子高齢化という構造的な課題に対応し、地域の活力を維持・向上させるために策定されるのが地方創生総合戦略です。移住定住の促進、安心して結婚・出産・子育てができる環境整備、地域産業の振興といった戦略的な施策には、継続的な財源の裏付けが不可欠です。中期財政計画は、これらの地方創生に資する事業に対し、複数年度にわたって重点的に予算を配分する道筋を示す役割を担います。秋田県にかほ市や新潟県十日町市などでは、子育て支援を核としたまちづくりを総合戦略に掲げ、関連施策に予算を重点配分しています。
  • 防災計画との連携
    • 南海トラフ地震や首都直下地震、激甚化する風水害など、大規模災害への備えは自治体の喫緊の課題です。地域防災計画に基づき、ハザードマップの整備、避難所の機能強化、インフラの強靭化といった事前防災・減災対策に要する経費を、中期財政計画に計画的に計上しておく必要があります。また、発災後には、災害復旧事業や被災者支援に莫大な財源が必要となります。東日本大震災では、岩手県陸前高田市の歳出規模が震災前の8倍にまで膨張した事例もあります。このような有事に迅速に対応できるよう、災害復旧事業債や緊急防災・減災事業債といった財源制度を平時から理解し、財政調整基金を一定水準確保しておくなど、財政的な備えをしておくことが重要です。

 これらの連携を考える上で重要なのは、現代の財政計画が、単年度の「フロー(現金収支)」の管理から、インフラ資産や将来負担といった「ストック(資産・負債)」を管理する視点へと大きく転換している点です。従来の予算編成は、その年度の歳入(フロー)の範囲内で歳出(フロー)を決定することが中心でした。しかし、公共施設等総合管理計画の策定は、自治体が保有する膨大なインフラ(ストック)の将来の更新費用という、これまで見過ごされがちだった「簿外債務」を可視化しました。これは、将来世代に先送りされてきた巨大なコストです。この「ストック」の課題に対応するため、財政計画は、単年度の収支だけでなく、長期的な資産の最適化(統廃合、長寿命化)と負債(更新費用)の平準化という、まさに企業のバランスシート管理に近い視点を持たなければならなくなりました。これは財政運営におけるパラダイムシフトであり、財政課職員に求められる能力も大きく変化していることを示しています。

財政健全化計画・財政再生計画の策定プロセス

 万が一、自治体の財政状況が著しく悪化し、財政健全化法に定める基準を超えてしまった場合には、法に基づき「財政健全化計画」または「財政再生計画」を策定し、財政再建に取り組む義務が生じます。

  • 計画策定のトリガー(きっかけ)
    • 毎年度の決算に基づき算定した健全化判断比率が、法律で定める「早期健全化基準」以上となった場合に「財政健全化計画」の策定が義務付けられます。さらに財政状況が悪化し、「財政再生基準」以上となった場合には、より厳しい内容の「財政再生計画」を策定しなければなりません。例えば、一般会計等の実質赤字額が標準財政規模の20%以上になると、財政再生団体となります。
  • 計画に盛り込むべき内容
    • 計画には、赤字を解消する目標年度を明記するとともに、その達成に向けた具体的な取り組みを詳細に記載する必要があります。歳入増加策としては、使用料・手数料の改定や未利用財産の売却など、歳出削減策としては、事業の抜本的な見直し(廃止・縮小)、人件費の削減(定員適正化、給与カット)、補助金の見直しなどが挙げられます。
  • 策定プロセスと関係者の役割
    • 計画案は首長が作成し、議会の議決を経て正式に定められます。このプロセスは透明性が重視され、策定にあたっては監査委員の審査を受けるとともに、計画内容を住民に公表することが義務付けられています。計画策定後は、その実施状況を毎年議会に報告し、公表しなければなりません。もし取り組みが不十分であると判断された場合、早期健全化段階では国または都道府県から必要な勧告が、財政再生段階では国が予算や計画の変更を勧告するなど、より強い関与が行われることになります。

先進事例に学ぶ財政運営

東京都・特別区の先進的取組

 財政規模が大きく、多様な課題に直面する東京都や特別区(23区)の取り組みには、他の自治体が学ぶべき多くのヒントが含まれています。

  • 東京都:事業評価と連動した財源確保
    • 東京都は、単に予算を使うだけでなく、その成果を厳しく評価し、次の予算編成に活かす仕組みを制度化しています。特に、終期を迎える事業の事後検証を徹底する「事業評価」の仕組みは強力です。この評価を通じて、効果の低い事業の廃止や見直しを行い、継続的に財源を確保しています。この仕組みにより、過去9年間で累計約9400億円もの財源を生み出し、それを新たな戦略的事業への投資や、将来に備えるための基金への積立に繋げています。これは、不断の事業見直しこそが財政の持続可能性を高めるという原則を、高いレベルで実践している好例です。
  • 足立区:独自の財政目標によるストック管理
    • 足立区の中期財政計画(令和5~10年度)は、社会保障費の増加といった将来の歳出増を現実的に見込みつつ、特に大規模な投資的事業の経費を年度間で平準化することに注力しています。特筆すべきは、財政の健全性を判断する指標として、財政健全化法が定める比率に加え、「区民一人あたりの特別区債現在高と基金現在高の差」という独自の目標を設定している点です。これは、借金(負債)と貯金(資産)のバランスを常に意識するという、ストック重視の財政運営姿勢を明確に示しています。
  • 世田谷区:機動的な計画修正による実効性の確保
    • 世田谷区は、中期財政見通しを固定的なものとせず、経済情勢や税収動向の変化に機動的に対応するため、定期的に内容を修正し、公表しています。例えば、近年の建築資材価格の高騰といった外部環境の急激な変化を速やかに計画上の経費に反映させることで、見通しの精度を高めています。これにより、「計画と現実の乖離」を防ぎ、計画の実効性を確保する努力を続けています。
  • 千代田区:労働人口減少を前提とした事業再構築
    • 千代田区の予算編成方針は、将来の労働人口(職員を含む)の減少を不可避の前提として捉え、従来の事業のあり方を根本から見直す姿勢を鮮明にしています。デジタル化(DX)や民間企業との協働を積極的に推進し、費用対効果が低い事業については、聖域なく廃止も含めて検討するという徹底した方針は、人口減少社会における持続可能な行政運営のモデルとなり得ます。

 これらの先進自治体の取り組みに共通しているのは、財政計画を単なる「将来予測」の文書としてではなく、明確なKPI(重要業績評価指標)を設定し、その進捗を管理するための「アクティブ・マネジメントツール」として活用している点です。一般的な財政計画が、「将来、収支はこうなる見込みです」という受動的な予測に留まりがちなのに対し、東京都の事業評価による財源確保額や、足立区の一人当たり純資産という独自指標は、計画に能動的な目標を与えています。KPIを設定することで、計画の進捗が客観的に測定可能となり、計画と実績の乖離を分析し、必要に応じて軌道修正を行うという経営的な意思決定が可能になります。これは、静的な文書を、動的な経営ダッシュボードへと昇華させる重要なステップです。

広域連携と共同事業の可能性

 人口減少が進む中、全ての行政サービスを単独の自治体で維持していくことはますます困難になっています。そこで重要となるのが、近隣自治体との広域連携です。

  • 広域連携のメリット
    • 高度な専門性が必要な業務(例:困難な滞納整理、資産評価)、大規模なインフラの維持管理、広域的な観光振興など、単独の自治体では効率的に実施することが難しい課題に対し、複数の自治体が連携することで、スケールメリットを活かした質の高い行政サービスを提供できます。
  • 具体的な連携事例
    • 地方税滞納整理機構: 都道府県と市町村が共同で設立し、徴収が困難な高額・悪質な滞納事案を専門的に処理する組織です。専門職員のノウハウを集約することで、徴収率の向上と公平性の確保を図ります。
    • 事務の共同化: 消防や救急、ごみ処理、上下水道事業など、施設整備や人員配置に規模の経済が働きやすい分野で、共同処理や運営の一体化が進められています。これにより、施設維持コストの削減や専門人材の効率的な活用が期待できます。

業務改革とDXによる財政運営の高度化

ICT活用による業務効率化

 デジタル技術の活用は、財政課の業務を効率化し、より戦略的な分析や意思決定に時間を振り向けるための鍵となります。

  • BI (Business Intelligence) ツールの導入
    • 財務会計システムに蓄積された膨大な予算・決算データを、BIツールを用いてグラフや地図などで可視化(ダッシュボード化)することで、財政状況を直感的に把握できます。例えば、特定の事業の経費の経年変化、部局ごとの予算執行率の比較、歳入科目の増減要因分析などを、誰でも容易に行えるようになります。これにより、データに基づいた迅速な意思決定や、議会・住民への分かりやすい説明が可能となります。
  • RPA (Robotic Process Automation) の活用
    • RPAは、人間がパソコンで行う定型的な繰り返し作業を自動化する技術です。予算編成プロセスにおいては、各部局からExcel等で提出された予算要求データを財務会計システムへ転記する作業や、査定結果を基に各種帳票を自動作成する作業などに活用できます。これらの単純作業をRPAに任せることで、職員は要求内容の精査や、より分析的・創造的な査定業務に集中できるようになります。
  • EBPM (Evidence-Based Policy Making) の実践
    • EBPMは、勘や経験、前例に頼るのではなく、客観的なデータ(エビデンス)に基づいて政策を立案・評価する手法です。財政分野では、事業の費用対効果を客観的に検証し、予算のワイズ・スペンディング(賢い支出)を徹底するために不可欠な考え方です。例えば、岐阜県大垣市では、民間企業が提供する人流データなどのビッグデータを活用し、観光施策の効果を測定し、次年度の予算配分に反映させる取り組みを行っています。EBPMを実践することで、予算要求の妥当性を客観的に評価し、より効果の高い事業へ資源を重点配分することが可能になります。

民間活力の導入(PPP/PFI)

 公共施設の整備や運営に、民間の資金や経営ノウハウを活用するPPP(Public-Private Partnership)/PFI(Private Finance Initiative)は、厳しい財政状況の中で質の高い公共サービスを提供するための有効な手法です。

  • PPP/PFIとは
    • 公共が事業計画や施設整備の仕様を発注し、民間事業者が設計、建設、維持管理、運営までを一体的に担う手法です。民間の創意工夫を活かすことで、建設コストの削減や建設期間の短縮、利用者のニーズに応じた魅力的なサービス提供などが期待できます。
  • 多様な導入事例
    • 全国の自治体で、様々な分野への導入が進んでいます。
      • 学校施設:
         愛媛県松山市では、市立小中学校への空調設備整備にPFIを導入し、整備期間の短縮を実現しました。
      • 複合施設:
         三重県桑名市では、老朽化した複数の公共施設をPFI手法で複合化し、中心市街地の活性化に繋げています。
      • 道路管理:
         東京都府中市では、道路の巡回、清掃、補修などを包括的に民間委託し、迅速な対応を実現しています。
      • 地域活性化:
         広島県福山市では、Park-PFI制度を導入し、民間事業者が公園内にレストランを整備・運営することで、公園の魅力向上と賑わい創出を図っています。
    • これらの事業では、地域企業や地域金融機関が事業に参画するよう促し、地域経済の活性化に貢献している事例も多く見られます。

 財政分野におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の本質は、単なる業務効率化に留まりません。RPAが職員を単純作業から解放し、BIツールが膨大なデータから新たな気づきを与え、EBPMが政策判断を客観的なデータで補強する。これらのツールは、いずれも最終的な意思決定を行う人間を置き換えるものではなく、判断材料を整理・分析し、より多くの選択肢を提示することで、職員の能力を「拡張」するものです。これにより、職員は「どの事業に投資すべきか」「どうすれば住民サービスの質を最大化できるか」といった、より高次の戦略的な問いに時間と知能を集中させることが可能になるのです。それは、いわば「知の増幅装置」を手に入れることに他なりません。

生成AIの活用可能性:未来の財政課の姿

予算編成業務における具体的なAI活用シナリオ

 近年急速に発展する生成AIは、従来のDXツールとは一線を画し、財政課の知的生産性を根底から変革するポテンシャルを秘めています。

  • 財政シミュレーションの高度化
    • 過去の財務データ、人口動態、地域の経済指標、さらには国のマクロ経済予測などをAIに学習させることで、将来の歳入・歳出をより精緻に予測するシミュレーションモデルを構築できます。特に、金利の急騰、大規模な景気後退、パンデミックの再来といった複数の経済変動シナリオに基づき、財政がどのような影響を受けるかを多角的に分析することが可能になります。これにより、リスクに対する財政の頑健性を高めることができます。
  • 予算査定の分析支援
    • 各部局から提出された膨大な予算要求の根拠資料(法令、条例、過去の議事録、関連計画、先進自治体の事例など)をAIに読み込ませ、要求内容との整合性や妥当性を瞬時にチェックさせることができます。例えば、「この新規事業は、総合計画のこの部分と関連しているが、こちらの条例とは矛盾する可能性がある」といった論点をAIに要約させることで、査定の精度とスピードを飛躍的に向上させることが可能です。
  • 文書作成の自動化・効率化
    • 査定結果通知文の生成:
       査定結果(承認、減額、否認)とその理由をキーワードで指示するだけで、各部局への通知文のドラフトをAIに自動生成させることができます。これにより、文書作成にかかる時間を大幅に削減できます。
    • 議会答弁案の作成支援:
       過去数年分の議会答弁や関連資料をAIに学習させることで、予算案に関する議員からの想定問答に対し、答弁案の骨子や根拠となるデータをリストアップさせることが可能です。神奈川県相模原市の実証実験では、この手法により議会答弁の作成時間が40%削減されたという報告があり、大きな効果が期待されます。
  • ナレッジ共有と人材育成の促進
    • 経験豊富なベテラン職員が持つ、予算査定における判断基準や交渉のノウハウといった暗黙知をAIに学習させ、庁内専用の対話型AIシステムを構築することも考えられます。若手職員が「このような要求があった場合、どのような観点で確認すべきか」といった質問を投げかけると、AIがベテラン職員の思考プロセスを基にアドバイスを返す。これにより、組織全体の知識レベルの底上げと、効果的な人材育成が期待できます。

導入に向けた課題と展望

 生成AIは強力なツールですが、その導入と活用には慎重な検討が必要です。

  • ハルシネーション(もっともらしい嘘)への対策
    • 生成AIの最大の課題は、事実に基づかない情報を、あたかも真実であるかのように生成する「ハルシネーション」のリスクです。AIが生成した文章やデータを鵜呑みにすることは極めて危険であり、最終的な内容の正確性を担保するためのファクトチェックは、必ず人間の職員が行わなければなりません。AIはあくまで「優秀なアシスタント」であり、最終責任者は人間であるという認識が不可欠です。
  • セキュリティと情報管理
    • 個人情報や、公開前の意思決定情報、非公開の内部資料などをプロンプトとして入力すれば、情報漏洩に繋がるリスクがあります。東京都などが策定しているように、入力してはならない情報の種類を明確に定義し、職員が遵守すべき厳格な庁内利用ガイドラインを策定・周知徹底することが、安全な利用の前提となります。
  • 費用対効果と予算確保
    • 高度な生成AIの利用には相応のコストがかかります。導入にあたっては、まず特定の業務に絞ってスモールスタートで実証実験を行い、具体的な業務削減時間や生産性向上の効果を定量的に測定することが重要です。その客観的なデータ(費用対効果)を基に、本格導入のための予算を要求することが、議会や経営層の理解を得るための現実的なアプローチです。

 従来のBIやRPAといったDXツールが、主に構造化された「データ分析」の領域を扱ってきたのに対し、生成AIは、議事録、法令、計画書といった非構造化テキストデータ、すなわち「知識の統合」と「コンテンツ生成」という新たな領域を切り拓きます。これは、財政課職員が行う知的作業の核心部分、すなわち「関連情報を調査・整理し、分析し、文書としてアウトプットする」という一連のプロセスを直接支援するものです。これにより、職員はゼロから情報を探して文章を組み立てるのではなく、AIが生成した質の高いドラフトをレビューし、より戦略的な観点から修正・加筆するという、より高度な役割へとシフトしていく可能性があります。これは単なる業務効率化の次元を超える、知的生産性の革命と言えるでしょう。

実践的スキル:計画の実効性を高めるPDCAサイクル

組織レベルでのPDCAサイクル

 どれほど優れた財政計画を策定しても、それが実行され、評価され、改善されなければ「絵に描いた餅」に終わってしまいます。計画に生命を吹き込み、継続的に改善される「生きた戦略」へと昇華させるための組織的な仕組みがPDCAサイクルです。

  • Plan (計画): 具体的目標の設定
    • 中期財政計画で定めた大きな方向性に基づき、単年度で達成すべき具体的な数値目標(KPI:Key Performance Indicator)を設定します。例えば、「経常収支比率を前年度比0.5ポイント改善する」「財政調整基金残高を標準財政規模の10%以上に維持する」といった目標です。また、各部局が実施する個別の事務事業についても、その事業が何を目指すのかを示す成果指標(アウトカム指標、例:「移住相談件数を年間100件にする」)を設定し、予算と目標を連動させます。
  • Do (実行): モニタリングの実施
    • 計画とそれに基づいて編成された予算に基づき、各部局が事業を執行します。財政課は、四半期ごとなど定期的に、予算の執行状況や事業の進捗をモニタリングします。近年では、行政評価システムと財務会計システムを連携させ、進捗状況をリアルタイムに近い形で可視化する自治体も増えています。
  • Check (評価): 客観的データに基づく分析
    • 年度末の決算が確定した後、設定したKPIや成果指標の達成度を客観的に評価・分析します。決算統計や、統一的な基準に基づいて作成された財務書類(貸借対照表、行政コスト計算書など)を活用し、財政状況の変化を多角的に分析します。目標が未達に終わった場合は、その要因(想定外の経済情勢の変化、突発的な災害対応による支出増など)を徹底的に分析し、成功した場合はその要因を抽出して組織の知見として共有します。
  • Action (改善): 次の計画へのフィードバック
    • 評価・分析の結果明らかになった課題や成功要因を、次期中期財政計画の見直しや、次年度の予算編成方針に具体的に反映させます。例えば、成果が上がっていない事業の予算を削減し、その財源をより効果の高い事業に再配分する(スクラップ・アンド・ビルド)といった改善策に繋げます。静岡県菊川市では、行政評価システムに入力された評価結果が、次年度の予算編成を行う公会計システムに直接連携される仕組みを構築しており、PDCAサイクルを制度として定着させる先進的な事例となっています。

 この「Check」から「Action」へのフィードバックループこそが、PDCAサイクルの心臓部です。決算という過去の事実を評価し(Check)、そこから得られた学びを次の計画や予算に活かす(Action)という循環を制度として埋め込むことで、組織は経験から学び、年々賢くなっていきます。これは、財政計画の実効性を担保する上で、最も重要な組織的な規律(エンジン)なのです。

個人レベルでのPDCAサイクル

 組織全体の大きなPDCAサイクルを円滑に回すためには、職員一人ひとりが日々の業務の中で小さなPDCAサイクルを回し続けることが不可欠です。

  • Plan (計画): 業務目標の明確化
    • 自身が担当する事業や業務について、組織目標と連動した個人の業務目標を具体的に設定します。その際、「5W1H」を意識し、「いつまでに(When)」「誰が(Who)」「何を(What)」「どのような目的で(Why)」「どのように(How)」行うのかを明確にしたアクションプランを作成することが有効です。例えば、「前年度の資料作成プロセスを見直し、〇〇というツールを導入することで、作業時間を10%削減する」といった具体的な計画を立てます。
  • Do (実行): プロセスの記録
    • 策定したアクションプランに沿って、日々の業務を遂行します。その際、単に作業をこなすだけでなく、進捗状況や、計画通りに進まなかった点、工夫した点などを簡潔に記録しておくことが重要です。
  • Check (評価): 定期的な振り返り
    • 週の終わりや月の終わりなど、定期的に計画の進捗状況を自己評価します。計画通りに進んでいるか、目標達成度はどのくらいか、を客観的に振り返ります。可能であれば、上司との1on1ミーティングなどを通じて客観的なフィードバックを受け、自分では気づかなかった課題や改善点を洗い出します。
  • Action (改善): 次のアクションへの反映
    • 評価で明らかになった課題に対し、具体的な改善策を考え、次の業務計画に反映させます。例えば、「ツールの使い方が非効率だったため、来月は研修動画を見てから再挑戦する」「Aという方法ではうまくいかなかったので、Bというアプローチを試してみる」など、具体的な改善行動に繋げます。この小さな改善の積み重ねが、個人の業務遂行能力を高め、ひいては組織全体の生産性向上に貢献します。

まとめ:未来を切り拓く財政課職員へのエール

 本研修資料を通じて、財政計画策定という業務の全体像と、その奥深さの一端に触れていただけたことと思います。財政課の仕事は、ともすれば数字と向き合う地道な事務作業と見られがちです。しかし、その本質は、過去の決算を分析して現在を把握し、未来の社会経済情勢を予測しながら、限られた財源という資源を、地域の未来のために最も効果的に配分する、極めて創造的で戦略的な役割を担っています。

 皆さんが査定する一つひとつの事業予算が、子どもたちの笑顔を育み、高齢者の安心を支え、地域の産業を活性化させる力となります。皆さんが策定する財政計画が、将来世代に過度な負担を残すことなく、持続可能な地域社会を築くための設計図となります。その責任は重いものですが、同時に、これほどまでに地域の未来に直接貢献できる仕事は他にありません。

 私たちは今、人口減少、デジタル化の急速な進展、そして気候変動など、前例のない変化の時代を生きています。このような時代において、過去の慣習や前例踏襲だけでは、押し寄せる課題に対応することはできません。本研修で学んだDXやEBPM、生成AIといった新しい知識やツールを恐れることなく、積極的に学び、自らの業務に取り入れていく姿勢が不可欠です。常に学び続け、変化に柔軟に対応し、自らをアップデートし続ける職員こそが、これからの地方自治を支える力となります。

 どうか、日々の業務の中で「なぜこの計画が必要なのか」「この予算は本当に住民のためになるのか」という問いを常に持ち続けてください。そして、自らが地域の「最高財務責任者(CFO)」の一員であるという高い誇りと使命感を持ち、自信を持って職務に邁進されることを心から期待しています。皆さんの情熱と知性が、この国の未来を形作ります。

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