07 自治体経営

【企画課】基本計画・実施計画策定業務 完全マニュアル

masashi0025
目次
  1. はじめに
  2. 計画策定業務の羅針盤
  3. 総合計画の基礎知識:自治体経営の設計図を理解する
  4. 法的根拠と条例:計画策定の拠り所
  5. 計画策定の標準業務フローと実務詳解
  6. 東京と地方の比較分析:首都圏の動向から学ぶ
  7. 先進事例研究:東京都特別区の計画詳解
  8. 業務改革とDX:費用対効果を高める計画立案
  9. 生成AIの戦略的活用:計画策定の新たな地平
  10. 実践的スキル向上:計画達成率を高めるPDCAサイクル
  11. まとめ:未来を創造する職員として

はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。

計画策定業務の羅針盤

本記事の目的と対象者

 本研修資料は、地方自治体の企画課職員が、自治体経営の根幹をなす「基本計画」および「実施計画」の策定業務を、基礎から応用まで体系的に習得することを目的としています。若手の職員には業務の全体像と実務手順を明確に示し、中堅・ベテランの職員には知識の再整理と、DX(デジタルトランスフォーメーション)や生成AIの活用といった新たな視点を提供します。これにより、全職員の政策形成能力を底上げし、質の高い計画策定を実現することを目指します。

なぜ今、計画策定能力が求められるのか

 今日の地方自治体は、人口減少・少子高齢化の急速な進行、グローバル化、価値観の多様化、そして激甚化・頻発化する自然災害など、かつてないほど複雑で予測困難な課題に直面しています。このような状況下で、限られた行政資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を最大限に活用し、住民福祉の向上という使命を果たし続けるためには、経験や勘に頼る対症療法的な行政運営には限界があります。

 今まさに求められているのは、客観的な証拠(エビデンス)に基づき、地域の将来像を明確に描き、そこから逆算して戦略的に施策を展開する、目的指向型の行政運営です。総合計画の策定は、この戦略的な行政運営の設計図を描く、極めて重要かつ高度な知的作業であり、企画課職員に課せられた重責であると深く認識する必要があります。

総合計画の基礎知識:自治体経営の設計図を理解する

総合計画の意義と目的

 総合計画は、地方自治体における全ての個別計画の基本となる、行政運営の最上位計画として位置づけられます(出典:郡山市「総合計画」2023年千歳市「第5次千歳市総合計画 策定の基本方針」2009年)。その最も重要な目的は、自治体が目指すべき将来の姿(将来都市像やビジョン)を、住民、事業者、そして行政が共有し、それぞれの役割分担のもとで協働してまちづくりを進めるための共通の指針とすることです(出典:粕屋町「第5次粕屋町総合計画 後期基本計画(概要版)」2012年生駒市「第4次生駒市総合計画(案)の概要」2015年)。

 この共有された目標に向かって、総合的かつ計画的に行政サービスを提供することで、場当たり的な事業展開を排し、自治体全体のマネジメント能力を高めることができます。いわば、総合計画は自治体経営の羅針盤であり、持続可能な地域社会を築くための設計図なのです(出典:都市問題経営研究所「自治体マネジメント力の向上と長期ビジョン策定の意義」2019年)。

計画の階層構造:基本構想・基本計画・実施計画

 総合計画は、その時間軸と具体性のレベルに応じて、一般的に以下の3つの階層で構成されることが多くなっています(出典:郡山市「総合計画」2023年三菱UFJリサーチ&コンサルティング「令和5年度 総合計画に関する実態調査 報告書」2025年)。

  • 基本構想:
     10年程度の長期的な視点に立ち、まちづくりの究極的な目標である「将来都市像」や、その実現のためにあらゆる分野で共有すべき価値観である「基本理念」、そして施策の大きな柱となる「施策の大綱」を定めるものです。これは計画全体の根幹であり、長期にわたって変わらないまちづくりの方向性を示します。
  • 基本計画:
     基本構想で示された将来像を実現するための中期的な計画(多くの場合は5年間)です。施策の大綱を「健康・福祉」「教育・文化」といった分野別に具体化・体系化し、それぞれの施策が目指す状態を示す成果指標(KPI)や、行政と住民・事業者の役割分担などを明らかにします。
  • 実施計画:
     基本計画に掲げられた施策を、さらに具体的な「事務事業」のレベルにまで落とし込んだ、単年度または複数年度(3年程度)の短期的な行動計画です。各事業の事業費や財源内訳が明記され、毎年度の予算編成の直接的な指針となります。社会情勢の変化に柔軟に対応するため、毎年度見直しを行うローリング方式が採用されるのが一般的です。

 ただし、近年では、計画策定に係るコスト削減や、首長の任期と計画期間を連動させることで政策実現の実効性を高める観点から、江東区など一部の自治体では実施計画を廃止し、基本構想と基本計画の「2層構造」に簡素化する動きも見られます(出典:生駒市「第4次生駒市総合計画(案)の概要」2015年江東区「江東区の総合計画の構成について」2008年)。

歴史的変遷:策定義務化から自主的策定の時代へ

 総合計画の策定は、常に現在の形で行われていたわけではありません。その歴史は、自治体と国の関係性の変化を映し出す鏡とも言えます。

 戦後の市町村建設計画などを源流とし、全国の自治体で総合計画が本格的に策定されるようになったのは、1969年(昭和44年)の地方自治法改正が大きな契機でした。この改正により、市町村は議会の議決を経て「基本構想」を策定することが法律で義務付けられました(出典:福知山公立大学「総合計画と総合戦略の連続性と非連続性」2017年東京大学社会科学研究所「自治体計画の特質と地方分権改革後の変化」2020年)。この背景には、高度経済成長期において、国の開発プロジェクトを地域に誘致し、計画的なインフラ整備を進めるという目的もありました(出典:東京大学社会科学研究所「自治体計画の特質と地方分権改革後の変化」2020年)。この法的な義務付けによって、1980年までには全国の約9割の市町村が総合計画を策定するに至り、計画行政が広く普及しました(出典:自治体国際化協会「諸外国の地方自治(計画制度)」2004年)。

 しかし、時代は下り、地方分権改革の進展とともに、国の画一的な関与を減らし、地域の自主性・自立性を尊重するべきだという考え方が主流となっていきます。その大きな流れの中で、2011年(平成23年)の地方自治法改正により、市町村に対する基本構想の策定義務規定は廃止されました(出典:西条市「西条市における総合計画のあり方について」2022年三菱UFJリサーチ&コンサルティング「総合計画策定の義務付け廃止後の動向と今後のあり方」2017年)。

 この法改正は、単に「義務がなくなった」ということ以上の、質的な大転換を意味しました。それは、総合計画の位置づけが、国から課された「義務」から、自治体が自らの意思で住民と結ぶ「約束」へと変わったことを示しています。法的な後ろ盾がなくなったことで、各自治体は「なぜ我々は計画を策定するのか」という存在意義を、自ら問い直す必要に迫られました。その結果、多くの自治体は、法の代わりに「自治基本条例」の中に総合計画の策定を位置づけることを選択しました(出典:丹波篠山市「丹波篠山市の総合計画について」2024年)。これは、計画の正統性の根拠を、国から地域住民の総意へと移し替える極めて重要なプロセスでした。住民への説明責任を果たすという内発的な動機が強まったことで、計画の内容はより地域の実情に即したものとなり、策定プロセスにおいても住民参加の重要性が飛躍的に高まったのです。

法的根拠と条例:計画策定の拠り所

根拠法令の理解

 2011年の法改正による策定義務の廃止は、総合計画の法的根拠を大きく変えました。職員として、この変遷を正確に理解しておくことは、議会や住民へ説明する上で不可欠です。

  • 旧地方自治法第2条第4項:
     2011年まで、市町村の基本構想策定を義務付けていた条文です。内容は「市町村は、その事務を処理するに当たっては、議会の議決を経てその地域における総合的かつ計画的な行政の運営を図るための基本構想を定め、これに即して行うようにしなければならない。」というものでした(出典:都市問題経営研究所「自治体マネジメント力の向上と長期ビジョン策定の意義」2019年、西東京市「地方自治法改正に伴う総合計画の取扱いについて」2012年)。この条文が削除されたことが、現在の自主的策定への転換点です。
  • 総務大臣通知(平成23年5月2日):
     法改正の同日、総務大臣から各自治体に対し、「改正法の施行後も、法第96条第2項の規定に基づき、個々の市町村がその自主的な判断により、引き続き現行の基本構想について議会の議決を経て策定することは可能である」という趣旨の通知が出されました。これが、義務ではなくなってもなお、議会の議決を伴う計画策定を続ける法的解釈の拠り所となっています。
  • 地方自治法第96条第2項:
     現在の自主的な計画策定の根拠となる条文です。「前項に定めるものを除くほか、普通地方公共団体は、条例で普通地方公共団体に関する事件(法定受託事務に係るものを除く。)につき議会の議決すべきものを定めることができる。」と規定されています(出典:西東京市「地方自治法改正に伴う総合計画の取扱いについて」2012年)。これにより、自治体は自らの意思で、総合計画の策定を「議会の議決を要する事件」として条例で定めることができます。

条例に基づく計画策定

 法的な義務付けがなくなった現在、多くの自治体は「総合計画条例」や「自治基本条例」などを制定し、計画策定の根拠としています。条例で策定手続きや議会の関与を明確に定めることには、以下のような重要な意義があります。

  • 民主的統制の確保:
     首長の交代によって行政運営の基本方針が安易に変更されることを防ぎ、議会の議決という民主的なプロセスを経ることで、計画に高い正統性を与えます。
  • 行政の継続性と安定性の担保:
     長期的な視点が必要なまちづくりにおいて、党派を超えた合意形成の基礎となり、安定した行政運営を可能にします。
  • 住民への約束の明確化:
     地域の最高規範である条例に計画策定を位置づけることで、それが住民に対する公的な約束であることを内外に示します。

 例えば、東京都府中市の「府中市総合計画条例」や武蔵野市の「武蔵野市長期計画条例」では、市長が基本構想や長期計画の基本理念を策定する際には、議会の議決を経なければならないと明確に規定しています(出典:西東京市「地方自治法改正に伴う総合計画の取扱いについて」2012年)。

表:地方自治法における総合計画の根拠規定の変遷

時期関連条文内容備考
1969年~2011年旧地方自治法第2条第4項市町村は、議会の議決を経て基本構想を定め、これに即して行政運営を行うことを義務付け。計画策定の義務化時代
2011年~現在(上記条文削除)法律上の策定義務は廃止。地方分権改革の一環
2011年~現在地方自治法第96条第2項普通地方公共団体は、条例で議会の議決すべき事件を定めることができる。自主的な条例制定による議会議決の根拠

関連法規との整合性

 総合計画は最上位計画ですが、単独で存在するわけではありません。国が定める各種法律に基づく計画との整合性を図ることが不可欠です。

  • まち・ひと・しごと創生法:
     この法律に基づき、各自治体は人口の現状と将来の展望を示す「地方人口ビジョン」と、それを踏まえた今後5か年の目標や施策をまとめる「地方版総合戦略」を策定することとされています。多くの自治体では、総合計画の策定と歩調を合わせ、総合計画の一部として総合戦略を位置づけたり、両者を一体的に策定したりすることで、計画の重複を避け、整合性を確保しています。
  • 各種分野別計画:
     環境基本法に基づく「環境基本計画」、都市計画法に基づく「都市計画マスタープラン」、災害対策基本法に基づく「地域防災計画」、さらには近年重要性が増している「国土強靱化地域計画」など、法律によって策定が求められる様々な分野別計画が存在します。これらの個別計画は、総合計画で示されたまちづくりの大きな方向性や理念と整合している必要があります。総合計画は、これらの個別計画を束ね、自治体全体の政策の方向性を統一する「傘」のような役割を担っているのです。

計画策定の標準業務フローと実務詳解

策定準備段階

 計画策定は、周到な準備から始まります。この段階の設計が、後のプロセス全体の成否を左右します。

  • 体制構築:
     まず、企画部門が事務局となり、庁内の関係部局から実務者を集めた「庁内ワーキンググループ」や「策定幹事会」を組織します(出典:内閣府「地方公共団体の行政計画(仮称)に関するワーキンググループ第1回資料」2020年)。同時に、計画案を審議する外部機関として、学識経験者、各種団体の代表者、公募の住民などから構成される「総合計画審議会」や「計画策定委員会」を設置します。誰を委員に選ぶかという人選は、計画に多様な視点を取り込む上で極めて重要です。
  • 目的とスケジュールの明確化:
     なぜ今、計画を改定するのか、今回の計画で何を達成したいのか、その「目的」と、他の計画との関係性を示す「位置づけ」を庁内で明確に共有します。その上で、策定完了までの期間(通常1年から2年程度)を定め、各プロセス(現状分析、住民意見聴取、素案作成、議会提出など)の具体的なスケジュールを策定します。

現状分析と課題抽出

 効果的な計画は、正確な現状認識から生まれます。客観的なデータと住民の主観的な認識の両面から、地域の「今」を把握します。

  • 定量的分析:
     国勢調査や住民基本台帳に基づく人口・世帯構成、商業統計や工業統計による産業構造、そして総務省の「地方財政状況調査」に基づく財政力指数や経常収支比率といった客観的なデータを収集・分析します。これらのデータを用いて、将来の人口推計や財政シミュレーションを行い、将来を見通した上での課題を抽出します。
  • 定性的分析(住民ニーズ把握):
     データだけでは見えてこない住民の「想い」を把握するために、多様な手法で意見を聴取します。全住民を対象としたアンケート調査、特定のテーマに関心のある住民と行政が対話する住民座談会やワークショップなどが代表的な手法です。近年では、従来の声の大きい人だけでなく、多様な層の意見を公平に聴取するため、住民基本台帳から無作為抽出した市民に議論してもらう「討論型世論調査」といった手法も注目されています。

計画案の作成

 分析結果を基に、計画の骨子を作成していきます。

  • 理念・将来像の設定:
     現状分析と住民ニーズを踏まえ、自治体が10年後、20年後にどのようなまちでありたいか、その理想の姿を分かりやすい言葉で表現した「将来都市像」と、その実現のために普遍的に大切にする価値観である「基本理念」を設定します。
  • 施策の体系化:
     将来像を実現するための具体的な施策を、「健康・福祉」「産業・観光」「防災・安全」といった分野ごとに整理し、論理的な体系を構築します。各施策には、その達成度を客観的に測るための「成果指標(KPI)」を設定することが、後の進行管理(PDCAサイクル)において極めて重要となります。
  • 庁内調整:
     各施策の素案について、所管する部局と綿密なヒアリングと調整を重ねます。事業の実現可能性、既存事業との重複、必要な予算や人員、想定される課題など、実務レベルでの検討を深めることで、計画の実効性を担保します。

意見聴取と合意形成

 計画案をより良いものにするため、広く意見を求め、合意形成を図るプロセスです。

  • パブリックコメント:
     計画の素案を公表し、一定期間、住民や事業者から広く意見を募集します。寄せられた全ての意見に対し、市の考え方を付して公表することで、行政の透明性と説明責任を果たします。
  • 審議会・議会との連携:
     策定委員会や総合計画審議会に素案を諮問し、専門的かつ多様な視点からの答申を得ます。また、策定の進捗状況を議会の特別委員会などに随時報告し、議員との意見交換を通じて、最終的な議決に向けた円滑な合意形成を図ります。

計画の決定と公表

 最終段階として、計画を正式に決定し、住民に広く周知します。

  • 議会議決:
     パブリックコメントや審議会の答申などを踏まえて修正した最終的な計画案を、条例に基づき議会に提出し、議決を得ることで正式な計画として成立します。
  • 周知・広報:
     決定した計画は、速やかに市のウェブサイトで全文を公開します。同時に、計画の要点をまとめた「概要版」や、イラストを多用した「子ども向けパンフレット」、多言語対応の「外国人向けリーフレット」など、対象者に合わせた多様な媒体を作成・配布し、住民一人ひとりが計画を「自分ごと」として捉えられるよう、周知徹底に努めます。

東京と地方の比較分析:首都圏の動向から学ぶ

財政力から見る東京の優位性

 東京都及び特別区の行政運営は、地方の自治体と比較して、その強固な財政基盤に支えられている点が最大の特徴です。この財政力の差は、政策展開の自由度や先進性に直結しています。

  • 財政力指数:
     地方財政の健全性を示す「財政力指数」は、1.0を上回ると普通交付税の不交付団体となり、財政的に自立していると見なされます。過去のデータを見ても、都道府県で1.0を超えるのは東京都のみです。また、都内の市町村、特に23区は総じて財政力指数が高く、全国でもトップクラスの財政力を誇ります(出典:おめつの雑記帳「東京都の区市町村の財政力指数ランキング」2023年)。一方で、地方圏では多くの市町村が1.0を大きく下回り、離島や山間部では0.1に満たない団体も存在します。
  • 自主財源比率:
     この高い財政力は、法人住民税や固定資産税といった「自主財源」の豊富さによって支えられています。企業の本社機能や商業施設が集中する東京では、税収が豊かであり、歳入全体に占める自主財源の割合が非常に高くなります。これにより、国からの地方交付税や補助金への依存度が低く、自治体独自の判断で優先度の高い施策に大胆な予算配分を行うことが可能となっています。

表:東京都特別区と地方都市の財政力比較(令和4年度決算ベース例)

(注)以下の数値は、公表資料に基づく傾向を示すための例示です。正確な数値は各年度の決算カード等でご確認ください。

団体名区分人口(人)財政力指数自主財源比率(%)地方交付税依存度(%)
千代田区特別区約67,0001.5以上80%台0.0
港区特別区約260,0001.0以上70%台0.0
世田谷区特別区約940,0000.8程度60%台0.0
札幌市政令市約1,970,0000.6程度50%台5%台
(地方中核市A)中核市約300,0000.5程度40%台10%台
(地方一般市B)一般市約50,0000.3程度30%台20%台
(出典)総務省「地方財政状況調査関係資料」2024年 等の公表データを基に作成

政策展開における先進性

 強固な財政基盤を背景に、東京都や特別区は、全国の自治体が直面する課題に対して、先進的な政策を他に先駆けて展開しています。

  • 戦略的計画と広域連携:
     東京都は、国の「デジタル田園都市国家構想総合戦略」なども踏まえ、「東京都総合戦略」や「『未来の東京』戦略」といった先進的な計画を策定しています(出典:東京都「2050年東京戦略(仮称)の策定に向けた都民意見の募集」2024年)。その中では、単なる東京の発展だけでなく、「東京と地方の共存共栄」を理念に掲げ、地方との連携による観光振興や物産紹介など、日本全体の持続的発展に貢献する視点も盛り込んでいます。
  • 社会課題への先行対応:
     少子高齢化対策、国際競争力強化のための特区制度活用、DXの推進、ゼロカーボンシティの実現など、全国的な重要課題に対し、豊富な人材と財源を投入してモデルとなる事業をいち早く実施しています。これらの取り組みは、他の地方自治体が将来の政策を立案する上で、貴重な先行事例となります。

特別区(23区)の計画策定動向

 23の特別区は、それぞれが個性豊かな行政運営を行っており、計画策定においても多様な動向が見られます。

  • 計画構成の柔軟化:
     前述の通り、行政運営の効率化や社会情勢への機動的な対応を目的として、従来の「基本構想・基本計画・実施計画」の3層構造から、実施計画を基本計画に内包するなどの「2層構造」へ移行する区が増加しています。
  • 住民参加の深化:
     パブリックコメントやアンケートといった間接的な手法に加え、区民が主体的に議論し政策提言を行うワークショップや、無作為抽出による区民参画組織(例:港区「みなとタウンフォーラム」)の設置など、より直接的で実質的な住民参加の手法が積極的に導入されています。これは、計画の正統性を高めるとともに、区民の行政への関心と参画意識を醸成する効果も持っています。

先進事例研究:東京都特別区の計画詳解

 特別区の総合計画を詳細に見ていくと、それが単なる事業リストではなく、各区が「自らをどのようなまちと定義し、何を目指すのか」というアイデンティティを表明する戦略的な文書であることが分かります。強固な財政力という共通基盤の上で、それぞれの歴史的背景、地理的特性、住民構成の違いが、計画の理念や重点施策に色濃く反映されています。地方の職員がこれらの事例を参考にする際は、施策の表面的な模倣に留まらず、「なぜこの区はこの理念を掲げたのか」という背景にある戦略的意図を読み解くことが極めて重要です。

ケーススタディ1:千代田区・港区(都心・国際ビジネス拠点)

  • 千代田区:
     日本の政治・経済の中枢という特性を活かし、国の「デジタル田園都市国家構想総合戦略」と歩調を合わせ、「千代田区DX戦略」を区の地方版総合戦略として明確に位置付けています。また、国の指針改訂に迅速に対応して「公共施設等総合管理計画」を改定するなど、計画の実効性を維持するための継続的なマネジメントを重視する姿勢が見られます。
  • 港区:
     国際的なビジネス・交流拠点としてのアイデンティティを反映し、将来像を「やすらぎある世界都心・MINATO」と掲げています。アフターコロナという社会情勢の変化に的確に対応するため、計画期間の半ばで改定を実施。そのプロセスでは区民参画組織「みなとタウンフォーラム」の提言を最大限に尊重し、計画の柱として「ゼロカーボンシティの実現」を掲げ、各政策とSDGsとの関連性を明示するなど、持続可能性と国際的な潮流を強く意識した計画となっています。

ケーススタディ2:新宿区・世田谷区(多様性・住民主体のまち)

  • 新宿区:
     世界有数のターミナル駅を抱え、多様な文化が共存するまちの特性を「新宿力」という言葉で表現し、「『新宿力』で創造する、やすらぎとにぎわいのまち」を基本構想に掲げています。「区民が自治の主役」であることを基本理念とし、「参画と協働」を区政運営の第一の姿勢とするなど、住民の主体性をまちづくりの原動力と位置づけている点が特徴です。
  • 世田谷区:
     広大な住宅地が広がり、多様なコミュニティ活動が根付いている地域特性を背景に、計画の土台となる理念として「参加と協働を基盤とする」「子ども・若者を中心に据える」「多様性を尊重し活かす」などを明確に掲げています。策定プロセスにおいても、区民ワークショップや「Decidim」というデジタルプラットフォームを活用した意見交換を積極的に実施しており、計画をつくる過程そのものが「参加と協働」の実践の場となっています。

ケーススタディ3:足立区・杉並区(課題解決・暮らしの質の向上)

  • 足立区:
     過去のイメージからの脱却と、具体的な社会課題への挑戦という強い意志を背景に、将来像を「協創力でつくる 活力にあふれ 進化し続ける ひと・まち 足立」と定め、新計画のテーマを「やりたいことが叶うまち」と設定しています。計画理念に「ウェルビーイングの向上」を掲げ、「貧困の連鎖の解消」や「区内事業者の持続的発展」など、解決すべき課題に対して具体的な数値目標(KPI)を設定し、強いコミットメントを示している点が極めて先進的です。
  • 杉並区:
     閑静な住宅街としてのイメージを反映し、基本構想として「みどり豊かな 住まいのみやこ」を掲げ、「認め合い 支え合う」「安心・安全のまち」といった理念を重視しています。計画体系においては、分野別の施策計画と並行して、「区政経営改革推進計画」「協働推進計画」「デジタル化推進計画」といった分野横断的な計画を一体的に策定・推進することで、計画の実効性を担保する仕組みを構築している点が参考になります。

業務改革とDX:費用対効果を高める計画立案

自治体DX推進計画の概要と意義

 総務省は「自治体DX推進計画」を策定し、全国の自治体に対してデジタル技術を活用した行政サービスの変革を促しています。この計画は、今後の自治体運営の標準モデルを示すものであり、総合計画の策定においてもDXの視点は不可欠です。

 重点取組事項として、「自治体の情報システムの標準化・共通化」「マイナンバーカードの普及促進」「行政手続のオンライン化」「AI・RPAの利用推進」「テレワークの推進」などが掲げられています。DXの推進には、首長の強いリーダーシップと、CIO(最高情報責任者)を中心とした全庁横断的な推進体制の構築が成功の鍵となります。計画策定業務においても、データに基づく現状分析(EBPM)、オンラインでの住民参加、策定プロセスのデジタル管理など、あらゆる場面でDXを前提とした業務設計が求められます。

ICT活用による業務効率化

 デジタル技術は、計画策定業務そのものの生産性を劇的に向上させる可能性を秘めています。

  • RPA (Robotic Process Automation):
     RPAは、パソコンで行う定型的な事務作業を自動化する技術です。例えば、総合計画策定のために各省庁や都県から統計データをダウンロードし、Excelに転記・集計するといった反復作業をRPAに任せることで、職員はより付加価値の高い、データの分析や解釈、企画立案といった創造的な業務に時間を振り向けることができます。実際に、保育園の受付窓口業務で年間2,090時間(67.6%)の削減を達成した自治体の事例もあり、その効果は実証されています。
  • 電子申請・オンライン意見聴取:
     住民アンケートやパブリックコメントを従来の紙ベースからオンラインに移行することで、住民は24時間いつでもどこからでも意見を提出でき、利便性が大きく向上します。行政側にとっても、回答データの自動集計・分析が可能となり、手作業による入力や集計の膨大な手間と時間を削減できます。重要なのは、単にオンライン化するだけでなく、マイナポータル等を活用した電子データを基幹業務システムが自動で取り込むなど、オンライン申請を前提とした業務フローの抜本的な見直し(BPR)を同時に行うことです。

民間活力の活用と公民連携(PPP/PFI)

 計画に盛り込む大規模な公共施設の整備や更新、あるいは専門性の高い公共サービスの提供において、民間の資金や経営ノウハウ、技術力を活用する公民連携(PPP/PFI)は、財政負担を平準化し、より質の高いサービスを実現するための有効な手法です。計画策定の段階から、どのような事業に民間活力を導入できるかという視点を持つことが重要です。

 特に有効なのが「サウンディング型市場調査」です。これは、事業の検討の早い段階で、その事業に関心を持つ民間事業者と直接対話し、市場性や事業内容に関するアイデア、参入の条件などをヒアリングする手法です。これにより、行政だけでは思いつかなかったような革新的なアイデアを得られたり、事業者の参入が見込めない非現実的な計画を避けたりすることができ、計画の実効性を高めることができます。

生成AIの戦略的活用:計画策定の新たな地平

生成AI活用の基本と留意点

 近年、ChatGPTに代表される生成AIの技術が急速に進化し、多くの自治体でその導入・活用が始まっています(出典:総務省「自治体における AI活用・導入ガイドブック <別冊付録>」2024年)。生成AIは、計画策定業務のあり方を根本から変える可能性を秘めた強力なツールですが、その利用には適切な理解と注意が必要です。

 導入にあたっては、まず庁内向けの「生成AI利用ガイドライン」を整備することが不可欠です。ガイドラインでは、特に以下の点を徹底する必要があります。

  • 情報セキュリティの確保:
     個人情報や非公開の行政情報など、機密性の高い情報は絶対に入力しない。
  • ファクトチェックの義務:
     生成AIは、もっともらしい嘘の情報を生成する「ハルシネーション」という現象を起こすことがあります。出力された情報は必ず職員が事実確認(ファクトチェック)を行い、最終的な文責は職員が負う。

 これらのルールを遵守し、あくまで「優秀なアシスタント」として活用することが、安全かつ効果的な利用の鍵となります。

具体的な活用手法

  • 施策の有効性検証(EBPMの高度化):
     証拠に基づく政策立案(EBPM)は、現代の行政運営の基本です。生成AIは、そのプロセスを加速・深化させます。例えば、計画に盛り込む新しい施策について、「〇〇市における高齢者の孤立という課題に対し、ICTを活用した見守りサービスの導入は有効か。国内外の類似自治体での成功事例、失敗事例、導入効果に関する研究論文を5つ要約して提示せよ」といったプロンプト(指示文)を入力することで、政策の根拠となるエビデンスを瞬時に収集・整理できます(。
  • 住民意見の可視化(ブロードリスニング):
     ブロードリスニングとは、AI技術を活用して、大量かつ多様な住民の声を収集・分析し、政策立案に反映させる手法です。従来、パブリックコメントやアンケートの自由記述欄の分析は、職員が一件一件手作業で読み込み、分類・集計するという膨大な時間と労力を要する作業でした。生成AIを活用すれば、これらのテキストデータを読み込ませるだけで、主要な意見の分類、要約、ポジティブ・ネガティブ分析などを自動で行うことができます。東京都が「未来の東京」戦略の策定にあたり実施したプロジェクトでは、この手法により、従来は数百件だった意見が2桁以上増加し、これまで声が届きにくかった若者世代の意見を大量に収集・分析することに成功。その結果、「若者支援」が新たな戦略の柱として位置づけられるなど、政策決定に大きな影響を与えました。
  • 業務効率化:
     計画策定に付随する様々な文書作成業務を効率化できます。例えば、計画の概要に関する議会答弁の原案作成、住民説明会での市長挨拶文の草案作成、長大な計画書案の要約や校正、計画の魅力を伝えるキャッチフレーズのアイデア出しなど、多岐にわたる用途が考えられます(。横須賀市の試算では、全庁的な活用により年間22,700時間の業務時間削減効果が見込まれるとしており、そのインパクトの大きさがうかがえます。

実践的スキル向上:計画達成率を高めるPDCAサイクル

計画達成における「調整力」の重要性

 どれほど論理的で優れた計画を策定したとしても、それが関係者の協力と納得を得られなければ「絵に描いた餅」に終わってしまいます。計画策定業務は、データ分析や文書作成といった技術的な側面と、多様な利害関係者との合意形成を目指す人間的な側面を併せ持つ、ハイブリッドな業務です。特に、庁内各課、議会、住民、各種団体といったステークホルダーとの「調整」は、計画の実効性を左右する最も重要なスキルと言えます。

 この調整とは、単なる交渉や説得ではありません。その本質は、異なる立場や利害を持つ人々の意見に真摯に耳を傾け、対立点だけでなく共通の目的を見出し、自治体全体にとっての最適解(全体最適)を共に創り上げていく協働のプロセスです。したがって、調整に臨む際は、「自分の部署の案を通す」といった部分最適や「勝ち負け」の意識を捨て、全体の奉仕者としての視座を持つことが不可欠です(出典:自治体サポート「庁内調整でやってはいけないこと」2024年)。

組織レベルで回すPDCAサイクル

 総合計画を実効性のあるものにするためには、計画(Plan)-実行(Do)-評価(Check)-改善(Act)のマネジメントサイクルを組織的に確立し、継続的に回していくことが不可欠です(出典:岡山市「第六次岡山市総合計画の進行管理」2025年)。

  • Plan(計画):
     計画策定の段階で、各施策の達成度を客観的に測定できる「成果指標(KPI)」を具体的に設定します。この時、単に事業の実施回数や参加者数といった「活動指標」だけでなく、その活動によって住民の生活や地域社会がどのように良くなったかを示す「成果指標」を設定することが極めて重要です(出典:総務省「行政評価の取組状況に関する調査研究報告書」2018年)。
  • Do(実行):
     策定された実施計画に基づき、各所管部局が責任を持って事業を執行します。企画部門は、計画全体の進捗状況を定期的にモニタリングし、必要に応じて所管部局への助言や支援を行います。
  • Check(評価):
     毎年度末、各施策の成果指標の達成状況や、事務事業の効率性・有効性を評価します(行政評価)。この評価は、担当課による自己評価だけでなく、外部の視点を取り入れた第三者評価などを組み合わせることで客観性を高めます。評価結果は「政策評価報告書」などの形で取りまとめ、ウェブサイト等で広く市民に公表し、説明責任を果たします(出典:糸満市「政策評価」2022年)。
  • Act(改善):
     評価結果は、単に公表して終わりではありません。その結果を基に、「なぜ目標を達成できたのか/できなかったのか」を分析し、事業の拡充、見直し、あるいは廃止といった改善策を検討します。そして、その改善策を次年度の予算編成や実施計画の見直し(ローリング)に確実に反映させます。この「評価結果と予算・計画の連動」こそが、PDCAサイクルを形骸化させず、実効性のあるものにするための生命線です。

個人レベルで回すPDCAサイクル

 組織のPDCAサイクルを円滑に回すためには、職員一人ひとりが日々の業務、特に「調整」の場面でPDCAを意識し、実践することが求められます。

  • Plan(事前準備):
     庁内調整に臨む前には、周到な準備が成否の8割を決めると言っても過言ではありません。まず、関係者は誰か、キーパーソンは誰か、賛成してくれそうな部署、反対が予想される部署はどこかをリストアップします。次に、調整すべき論点を整理し、相手の立場からどのような質問や反論が想定されるかをシミュレーションします。そして、本命案だけでなく、代替案や落としどころとなる折衷案を複数用意するなど、具体的な調整シナリオを構築します(出典:インソース「調整力発揮研修~ステークホルダーマネジメント編」2024年)。
  • Do(実行・調整):
     準備したシナリオに基づき、調整を実行します。
    • 根回しと情報共有:
       正式な会議の場でいきなり提案するのではなく、事前にキーパーソンや関係部署に個別に説明し、意見を聞き、感触を確かめる「根回し」は、円滑な合意形成のための重要なプロセスです。
    • 「油を売る」ことの真意:
       民間企業の調査で、高い成果を上げる人物は、一見すると複数の部署を渡り歩いて「油を売っている(無駄話をしている)」ように見えた、という有名な話があります。しかし、これは決して無駄な時間ではありません。日常的な雑談や情報交換を通じて、各部署が抱える課題や業務の状況、担当者の人となりを把握し、いざという時に協力を得られる信頼関係(人間関係資本)を構築する、極めて高度な情報収集・ネットワーキング活動なのです。計画担当者にとって、庁内の様々な部署に気軽に相談できる「顔なじみ」がいることは、何よりの財産となります。
    • 傾聴と提案:
       調整の場では、まず相手の主張や懸念を、遮ることなく最後まで真摯に聴く「傾聴」の姿勢が基本です。相手の立場や言い分を十分に理解し、尊重しているという態度が、信頼関係の土台を築きます。その上で、相手の懸念を解消しつつ、こちらの本来の目的も達成できるような代替案や折衷案を提示する交渉力が求められます。「この人が熱心に言うのであれば、協力しよう」と思ってもらえるような人間関係を日頃から築くことが理想です。
  • Check(評価・内省):
     一つの調整が終わったら、必ずそのプロセスを振り返ります。「どの説明が相手に響いたか」「誰への根回しが足りなかったか」「感情的にならず、冷静に対応できたか」など、自身の行動を客観的に評価します。成功体験だけでなく、失敗体験からも学び、自身のコミュニケーションの「強み」と「改善点」を具体的に把握することが重要です。
  • Act(改善):
     振り返りで得た気づきを、次の行動に活かします。例えば、「説明資料が分かりにくいと指摘された」のであれば、次回は図やグラフを多用する。「専門用語を使いすぎた」のであれば、相手の知識レベルに合わせた平易な言葉で説明する練習をする。OJTマニュアルなどを参考に、上司や先輩から具体的なフィードバックをもらい、意識的に行動を改善していくことが、調整能力の向上、ひいては職員としての成長に繋がります。

まとめ:未来を創造する職員として

本研修資料の要点整理

 本研修を通じて、総合計画策定業務が持つ多面的な性格をご理解いただけたことと思います。改めて要点を整理します。第一に、総合計画は、かつての法的な義務を超え、住民との約束として自治体経営の羅針盤となる、極めて重要なものであること。第二に、その策定プロセスは、データに基づく「科学的アプローチ」と、多様な主体との合意形成を図る「人間的アプローチ」の双方を高いレベルで実践することが求められる、高度な業務であること。そして第三に、DXや生成AIといった新たなツールを戦略的に活用することで、計画の質と策定業務の効率を飛躍的に高めることができる、未来志向の業務であるということです。

読者である自治体職員へのエール

 計画策定の道のりは、決して平坦ではありません。膨大なデータの分析、終わりの見えないような地道な調整の連続、そして時には厳しい批判にさらされることもあるでしょう。しかし、皆さんが情熱と知恵を注いで描くその一枚の設計図が、数年後、数十年後のまちの姿をかたちづくり、そこに住む人々の穏やかな暮らしを支え、未来を担う子どもたちの無限の可能性を育む礎となるのです。

 これほど創造的で、未来に直接貢献できる仕事は他にありません。この仕事の重要性と誇りを胸に、本研修で得た知識、スキル、そして視点を存分に発揮し、皆さんの手で、それぞれの地域が輝く素晴らしい未来を創造されることを、心から期待しています。

ABOUT ME
行政情報ポータル
行政情報ポータル
あらゆる行政情報を分野別に構造化
行政情報ポータルは、「情報ストックの整理」「情報フローの整理」「実践的な情報発信」の3つのアクションにより、行政職員のロジック構築をサポートします。
記事URLをコピーしました