07 自治体経営

住民提案制度

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はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。

概要(住民提案制度を取り巻く環境)

  • 自治体が住民提案制度を行う意義は「協働による地域課題解決能力の向上」と「行政運営の民主主義的正統性の強化」にあります。
  • 住民提案制度とは、単一の仕組みを指すのではなく、簡易な意見箱から、予算編成に直接関与する区民参加型予算、NPO等と連携して事業を遂行する提案型協働事業まで、多様な住民参加手法の総称です。
  • 東京都特別区においては、町会・自治会といった伝統的な地域コミュニティの弱体化、単身世帯の増加、外国人住民の増加など、社会構造が大きく変化しています。これに伴い、行政単独では解決が困難な、複雑で多様な地域課題が増加しています。
  • このような環境下で、住民提案制度は単なる意見聴取の手段に留まらず、多様な住民の知見や資源を行政運営に活かし、現代的で強靭な地域ガバナンスを構築するための不可欠な要素となっています。

意義

住民にとっての意義

政策への影響力実感
  • 自身の意見や提案が政策や事業に反映されるプロセスを経験することで、行政への働きかけが有効であるという実感(政治的有効性感覚)が高まります。
    • 客観的根拠:
      • 住民参加・協働の成果として、自治体の87.0%が「住民の声の行政施策への反映」を挙げており、参加した住民も78.3%が同様に評価しています。
        • (出典)明治大学「東京23区における住民参加と協働に関する行政の取り組みの実態と評価」2021年
      • 住民参加による提言組織を設置した自治体では、住民の提案が新しい総合計画のたたき台となり、行政計画に直接反映される部分も多くなっています。
        • (出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「総合計画策定プロセスにおける住民参加のあり方」2008年
行政への信頼向上
  • 提案の検討プロセスや採択・不採択の理由が透明化されることで、行政運営が「ブラックボックス」ではなくなり、住民の行政に対する信頼が醸成されます。
    • 客観的根拠:
      • 住民参加のプロセスを通じて、住民に自治体行政への当事者意識が芽生え、住民と行政との総合計画の共有化が促進される効果があります。
        • (出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「総合計画策定プロセスにおける住民参加のあり方」2008年
地域への愛着醸成
  • 自らが暮らす地域の課題解決や魅力向上に主体的に関わることで、地域社会との繋がりが深まり、地域への愛着や帰属意識が育まれます。
    • 客観的根拠:
      • 地域住民のソーシャル・キャピタル(信頼、互酬性、ネットワーク)が高いほど、精神的な健康度も高い傾向にあることが示されており、地域活動への参加が住民のウェルビーイングに寄与する可能性を示唆しています。
        • (出典)CiNii Articles「地域住民のソーシャル・キャピタルと精神的健康との関連」

地域社会にとっての意義

多様なニーズの可視化
  • 行政による画一的な調査では把握しきれない、特定の地域や層が抱える潜在的な課題やニッチなニーズを掘り起こすことができます。
    • 客観的根拠:
      • 住民参加型のワークショップ(まち歩き点検など)を通じて、高齢者や障害者、子育て世代など、多様な利用者の視点から地域のバリアや課題を発見することができます。
        • (出典)国土交通省「バリアフリー基本構想策定等に関するガイドライン」2018年
      • アンケート調査では把握しにくい詳細なニーズや意見を把握するために、直接的な住民参加の手法を併用することで、より高い効果が期待できます。
        • (出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「総合計画策定プロセスにおける直接型住民参加の新たな手法」2022年
ソーシャル・キャピタルの醸成
  • 共通の目的に向けて協働する過程で、住民間、あるいは住民とNPO、企業などの間に信頼と互酬性のネットワーク(ソーシャル・キャピタル)が形成され、地域全体の課題解決能力が強化されます。
    • 客観的根拠:
      • 住民提案制度は、地域の様々な主体が参画し、地域課題の解決に取り組む「地域運営組織」の形成を促進し、多様な主体との連携のきっかけとなります。
        • (出典)地方創生「地域の暮らしを守る」
      • 論文調査では、社会的サポートや他者への信頼といったソーシャル・キャピタルが、住民の精神的健康にポジティブな影響を与えることが示されています。
        • (出典)CiNii Articles「地域住民のソーシャル・キャピタルと精神的健康との関連」
地域課題解決の担い手育成
  • 住民や地域団体が、単なるサービスの受け手から、行政と共に地域課題の解決を担う能動的なパートナーへと成長する機会を提供します。
    • 客観的根拠:
      • 住民参加・協働の成果として、自治体の47.8%が「地域を担う若い世代の育成」や「まちづくりのまとめ役や推進リーダーの育成・輩出」を挙げています。
        • (出典)明治大学「東京23区における住民参加と協働に関する行政の取り組みの実態と評価」2021年
      • 市民参加による協働のまちづくりは、将来の継続に向けて新たな担い手を確保することが重要な課題と認識されています。
        • (出典)総務省「市民参加と協働のまちづくりに関する調査研究報告書」2012年

行政にとっての意義

政策の質と的確性の向上
  • 住民が持つ地域固有の知識や生活実感に基づいた知見(集合知)を取り入れることで、より実態に即した効果的な政策立案が可能になります。
    • 客観的根拠:
      • 住民参加・協働の成果として、自治体の60.9%、協働においては82.6%が「住民が持つノウハウ・人脈の活用による、施策の内容・成果の充実」を実感しています。
        • (出典)明治大学「東京23区における住民参加と協働に関する行政の取り組みの実態と評価」2021年
      • 民間事業者や地域住民等の知恵と力を結集させることが、まちづくりを進める上で重要であると指摘されています。
        • (出典)国土交通省「都市計画提案制度 運用ガイドライン」
合意形成コストの低減
  • 計画の初期段階から住民が関与することで、事業への理解が深まり、後々の対立や反発を未然に防ぎ、円滑な合意形成を促すことができます。
    • 客観的根拠:
      • 住民参加のまちづくりにおける課題として「合意形成に時間がかかる」ことが挙げられていますが、これは裏を返せば、時間をかけて丁寧なプロセスを踏むことで、より強固な合意形成が可能になることを示唆しています。
        • (出典)国土交通省「次世代のまちづくりに向けた都市計画制度のあり方について 第一次答申 参考資料」2006年
      • 策定プロセスへの住民参加は、住民と行政との総合計画の共有化を促進し、計画の円滑な推進に寄与します。
        • (出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「総合計画策定プロセスにおける住民参加のあり方」2008年
限られた行政資源の補完
  • 住民や地域団体が持つスキル、時間、ネットワークなどの資源を活用することで、行政だけでは実施が難しい、きめ細やかな公共サービスを実現できます。
    • 客観的根拠:
      • 住民提案制度は、地域の様々な主体と協働することで、行政の限られたリソースを補完し、効果的な施策展開を可能にします。
        • (出典)地方創生「地域の暮らしを守る」

(参考)歴史・経過

  • 1980年代
    • 国際的に行政へ企業経営手法を導入するNPM(New Public Management)理論が台頭し、日本でも行政改革の議論が活発化します。「地方分権」という言葉が、中央集権と対峙する民主主義的な要求として使われ始めました。
      • (出典)自治体問題研究所「自治体と住民参加、協働、そして自治」2014年
  • 1990年代
    • バブル経済崩壊後の財政難を背景に、行政改革の必要性が高まります。1995年には地方分権推進委員会が設置され、地方分権が本格的な政治課題となりました。
      • (出典)国税庁「法人税法の国際的側面に関する一考察」1999年
      • (出典)自治体国際化協会「日本の地方自治(第4版)」
  • 2000年
    • 地方分権一括法が施行され、国の地方行政に対する指揮監督権限であった「機関委任事務」が廃止されます。これにより、自治体の自己決定権と自己責任が大幅に拡大し、住民参加を制度的に裏付ける基盤が整いました。
      • (出典)国税庁「法人税法の国際的側面に関する一考察」1999年
  • 2000年代前半
    • 2002年に都市再生特別措置法が改正され、住民やNPOが都市計画を提案できる「都市計画提案制度」が創設されます。また、世田谷区が2002年度に「NPO提案型協働事業」を開始するなど、自治体レベルで先進的な住民提案制度が導入され始めました。
      • (出典)地球環境パートナーシッププラザ「世田谷区とNPOの協働事業」2012年
      • (出典)国土交通省「都市計画提案制度 運用ガイドライン」
  • 2010年代
    • 地方分権改革の新たな手法として、国が地方公共団体から権限移譲や規制緩和に関する提案を直接募集する「提案募集方式」が2014年から導入されます。これにより、地方からのボトムアップによる制度改革の道が拓かれました。
      • (出典)内閣府「地方分権改革に関する提案募集について」
  • 2020年代
    • 新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、住民参加のデジタル化が加速します。同時に、杉並区が2022年度(令和4年度)から「区民参加型予算」を導入するなど、住民がより直接的に予算の使途決定に関与する新しい潮流が生まれています。
      • (出典)杉並区「区民参加型予算」
      • (出典)東京民報「「区民参加予算」に手応え 杉並区 岸本区長が会見」2024年

住民提案制度に関する現状データ

伝統的コミュニティ組織の現状
  • 東京都特別区における町会・自治会の加入率は、区によって差があるものの、23区全体の推計で約53.8%〜54%となっています。これは、地域活動の伝統的な受け皿であった組織の影響力が相対的に低下していることを示唆します。
    • (出典)特別区長会事務局「東京23区の町会・自治会活動に関する調査報告書」2021年
    • (出典)特別区長会事務局「23区の町会・自治会の実態」
  • 全国の市区町村を対象とした調査では、自治会等の加入率の平均は2010年度(平成22年度)の78.0%から2020年度(令和2年度)には71.7%へと、10年間で6.3ポイント低下しています。調査対象の自治体のうち88.3%で加入率が減少しており、この傾向は全国的なものです。
    • (出典)総務省「地域コミュニティに関する研究会 報告書」2022年
住民参加・協働への意識と実態
  • 23区の自治体を対象とした調査では、住民参加・協働の取組みによる効果として「住民のまちづくりへの参加意識の高揚」を87.0%の自治体が挙げており、住民の意識変革への期待が高いことがわかります。
    • (出典)明治大学「東京23区における住民参加と協働に関する行政の取り組みの実態と評価」2021年
  • しかし、実際の参加者は固定化される傾向にあります。住民側が認識する課題として「参加者の年齢層の偏り」が69.6%と最も多く挙げられており、特に若年層や現役世代の参加が少ないことが大きな課題となっています。
    • (出典)明治大学「東京23区における住民参加と協働に関する行政の取り組みの実態と評価」2021年
  • 自治体が提供する主な参加手法は、「各審議会・委員会等への参加」(91.3%)、「アンケート、パブリックコメント」(82.6%)、「ワークショップやまちづくりなどの対話の場への参加」(82.6%)であり、比較的伝統的で受け身な手法が中心となっています。
    • (出典)明治大学「東京23区における住民参加と協働に関する行政の取り組みの実態と評価」2021年
提案制度の実施状況と予算規模
  • 杉並区「区民参加型予算」
    • 令和5年度から本格実施され、令和6年度事業の予算総額は6,000万円です。令和5年度の区民投票には約3,200人が参加し、前年度から約600人増加するなど、制度の浸透が進んでいます。
      • (出典)東京民報「「区民参加予算」に手応え 杉並区 岸本区長が会見」2024年
  • 世田谷区「提案型協働事業」
    • 平成14年度から続く先進的な取組で、NPO等の団体と区が協働で事業を実施します。令和6年度には「地域インターンシップ」や「マイクロ・コモンズ・スチュワードシップ」など、多様な市民提案型事業が採択されています。
      • (出典)世田谷区「令和6年度世田谷区提案型協働事業の実施事業について」
  • 東京都「都民による事業提案制度」
    • 広域自治体レベルの事例として、令和4年度の予算額は3.1億円でした。これは都の一般会計予算(約7.8兆円)の0.0056%に過ぎず、住民提案制度が予算全体に与える影響はまだ限定的であることがうかがえます。
      • (出典)市民参加型予算の現状と課題
協働事業の担い手の多様化
  • 住民提案制度のパートナーは、個人の住民や町会・自治会に限りません。NPO法人が重要な役割を担っており、例えば新宿区では、NPO法人認証数が区部平均の2.5倍に達し、協働の潜在的なパートナーが豊富に存在します。
    • (出典)新宿区「新宿区区民意識調査報告書(平成18年度)」
  • 近年では、企業の参画も進んでいます。品川区の「しながわCSR推進協議会」には、令和7年7月時点で101社の企業が加盟し、区と連携して清掃活動やフードドライブなどの社会貢献活動を行っています。
    • (出典)品川区「しながわCSR推進協議会」

課題

住民の課題

参加への関心・意欲の低さ
  • 多くの住民が住民提案制度の存在を知らない、あるいは知っていても「参加の方法がわからない」「意見を言ってもどうせ変わらない」といった諦めや無力感から、参加に至らないケースが多く見られます。
  • 客観的根拠:
    • 国土交通省の調査では、住民参加のまちづくりにおける課題として「主体的に取り組むという認識が不足している」点が13%の回答者から指摘されています。
      • (出典)国土交通省「次世代のまちづくりに向けた都市計画制度のあり方について 第一次答申 参考資料」2006年
    • 総務省の研究会報告書では、地域活動への参加が難しい要因として「時間が取れない」ことに加え、「活動自体が現代のライフスタイルに合わず、魅力的でない」という住民側の認識が指摘されています。
      • (出典)総務省「地域コミュニティに関する研究会 報告書」2022年
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
    • 政策形成が一部の利害関係者や「声の大きい」層に偏り、サイレント・マジョリティのニーズが無視され続けます。
参加者の固定化と多様性の欠如
  • 住民参加の場が、特定の関心を持つ層や、比較的時間に余裕のある高齢者、地域の有力者などに偏りがちです。これにより、若者や子育て世代、共働き世帯、外国人住民など、多様な住民の意見が反映されにくい構造が生まれています。
  • 客観的根拠:
    • 東京23区を対象とした調査で、住民側が挙げる最大の課題は「参加者の年齢層の偏り」(69.6%)でした。
      • (出典)明治大学「東京23区における住民参加と協働に関する行政の取り組みの実態と評価」2021年
    • 町会・自治会においては、会長の年齢が70歳代(60.7%)と80歳以上(21.4%)で8割以上を占め、役員の高齢化と固定化が深刻です。
      • (出典)特別区長会事務局「東京23区の町会・自治会活動に関する調査報告書」2021年
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
    • 将来世代のニーズを反映した持続可能なまちづくりが困難となり、地域の活力が失われます。
提案プロセスの不透明性とフィードバックの欠如
  • 住民が提案を提出した後、その提案がどのように扱われ、どのような基準で審査され、なぜ採択(あるいは不採択)に至ったのかというプロセスが見えにくい場合が多くあります。十分なフィードバックがないことは、住民の不信感を招き、再度の参加意欲を削ぐ原因となります。
  • 客観的根拠:
    • 住民参加における課題として「地域の提案が反映されない」という不満が挙げられています。これは、単に採択されない結果だけでなく、プロセスへの不満も含まれると考えられます。
      • (出典)総務省「市民参加と協働のまちづくりに関する調査研究報告書」2012年
    • 杉並区の民間事業化提案制度では、事前審査、委員会による書類審査、ヒアリング審査、総合評価といった多段階の厳格なプロセスが設定されていますが、こうしたプロセスが外部から十分に可視化されていないと、不透明との印象を与えかねません。
      • (出典)総務省「杉並行政サービス民間事業化提案制度の概要」
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
    • 行政不信が増大し、住民が参加を諦める「学習性無力感」が蔓延します。

地域社会の課題

地域コミュニティの担い手不足と高齢化
  • かつて地域の意見集約や活動の中核を担ってきた町会・自治会が、役員のなり手不足と深刻な高齢化に直面しています。これは、地域全体の課題解決能力の低下に直結します。
  • 客観的根拠:
    • 内閣府のアンケート調査によると、市区町村が認識する自治会の最大の課題は「役員・運営の担い手不足」(86.1%)、次いで「役員の高齢化」(82.8%)です。
      • (出典)総務省「地域コミュニティに関する研究会 報告書」2022年
    • 背景には、2040年には全世帯の39.3%に達すると予測される単身世帯の増加や、女性・高齢者の就業率上昇といったライフスタイルの変化があり、地域活動に割ける時間が全体的に減少しています。
      • (出典)総務省「地域コミュニティに関する研究会 報告書」2022年
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
    • 災害時の共助機能や日常的な見守り活動が崩壊し、地域の安全・安心が脅かされます。
合意形成の困難化
  • ライフスタイルや価値観の多様化、マンション等の集合住宅の増加に伴う地縁関係の希薄化により、地域内での意見集約や合意形成がますます困難になっています。
  • 客観的根拠:
    • 住民参加のまちづくりにおける問題点として、「合意形成に時間がかかる」「合意形成そのものが困難」といった点が指摘されています。
      • (出典)国土交通省「次世代のまちづくりに向けた都市計画制度のあり方について 第一次答申 参考資料」2006年
    • マンション等の集合住宅の増加が、地域の連帯感を希薄にさせる一因となっており、コミュニティへの意識低下につながっています。
      • (出典)総務省「協働によるまちづくり推進のための施策事例集」2008年
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
    • 必要な地域改善事業が停滞・頓挫し、地域の課題が塩漬けにされます。

行政の課題

縦割り行政による連携不足
  • 住民から寄せられる複合的な課題に対し、担当部署が不明確であったり、複数の部署にまたがるために調整が進まなかったりと、縦割り組織の弊害が効果的な対応を妨げています。
  • 客観的根拠:
    • 東京23区の自治体が協働を進める上での最大の課題として挙げたのは、「庁内の連帯の困難性、縦割りによる連携の弊害」(73.9%)でした。
      • (出典)明治大学「東京23区における住民参加と協働に関する行政の取り組みの実態と評価」2021年
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
    • 住民からの提案に対して非効率で一貫性のない対応となり、行政全体の信頼を損ないます。
職員のスキル・意識不足とリソース不足
  • 住民との対話を通じて提案を引き出し、多様な意見を調整するファシリテーション能力やコーディネート能力は、従来の行政職員に必ずしも求められてこなかったスキルであり、専門的な知識や経験を持つ職員が不足しています。また、住民提案制度を運営するための専門部署や専任職員、予算が十分に確保されていないケースも少なくありません。
  • 客観的根拠:
    • 行政側の問題として「認識、技術、経験等の不足」や「市民参加のまちづくりにおける体制の不備」が指摘されています。
      • (出典)国土交通省「次世代のまちづくりに向けた都市計画制度のあり方について 第一次答申 参考資料」2006年
    • 世田谷区や杉並区などの先進事例では、「市民活動推進課」や「中間支援NPO」といった専門的な支援体制が成功の鍵となっていますが、こうした体制は全ての自治体に整備されているわけではありません。
      • (出典)世田谷区「令和6年度世田谷区提案型協働事業の実施事業について」
      • (出典)杉並区「協働提案事業採択」
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
    • 住民提案制度が形骸化し、行政改革や住民満足度向上の機会を逸失します。
提案の実現性と財源確保の壁
  • 住民からの提案には、法律や条例の制約から実現不可能なものや、多額の予算を要するものも含まれます。これらの提案に対して、期待を損なわないように配慮しつつ、実現可能性を判断し、必要な財源を確保することは行政にとって大きな挑戦です。
  • 客観的根拠:
    • 市民活動団体の多くは「慢性的な財源不足」に陥っており、優れた提案であっても自己資金だけでの実現は困難です。
      • (出典)総務省「協働によるまちづくり推進のための施策事例集」2008年
    • 杉並区の区民参加型予算の募集要項では、提案の要件として「区が実施可能な事業」「1事業につき2,000万円以内」「営利目的でないこと」などが定められており、多くのアイデアがこの段階で対象外となる可能性があります。
      • (出典)杉並区「令和7年度杉並区区民参加型予算事業実施要項」
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
    • 住民の善意の提案が「実現不可能」と一蹴され続けることで、協働への意欲が根本から削がれます。

行政の支援策と優先度の検討

優先順位の考え方

※各支援策の優先順位は、以下の要素を総合的に勘案し決定します。

  • 即効性・波及効果
    • 施策の実施から効果発現までの期間が短く、参加の裾野拡大や行政の透明性向上など、複数の課題解決に横断的に貢献する施策を高く評価します。
  • 実現可能性
    • 大規模な法改正や組織改編を必要とせず、現在の法制度、予算、人員体制の中で比較的速やかに着手できる施策を優先します。
  • 費用対効果
    • 投下する行政コスト(予算・人員)に対し、住民満足度の向上や将来的な行政コストの削減、ソーシャル・キャピタルの醸成といった効果が大きい施策を優先します。
  • 公平性・持続可能性
    • 特定の層だけでなく、これまで参加が難しかった層を含む多様な住民に便益が及び、一過性のイベントで終わらず、継続的な仕組みとして地域に定着する施策を高く評価します。
  • 客観的根拠の有無
    • 他の自治体での成功事例や、政府の調査報告書などで効果が示されている、エビデンスに基づいた施策を優先します。

支援策の全体像と優先順位

  • 住民提案制度を活性化させるためには、「参加の入口を広げる」「提案を実現するプロセスを整える」「活動の担い手を育てる」という3つの側面から総合的にアプローチする必要があります。
  • 中でも、参加者がいなければ制度そのものが成立しないため、**優先度(高)として「支援策①:協働の『入口』を多様化する『参加チャネル・ポートフォリオ』の構築」**を位置づけます。これは、あらゆる施策の基盤となる最も重要な取り組みです。
  • 同様に**優先度(高)として、「支援策②:提案を『カタチ』にする『協働推進基盤』の強化」**を挙げます。参加の入口を広げても、その後のプロセスが不透明で非効率であれば、参加者は失望し、制度は形骸化するためです。
  • **優先度(中)として、「支援策③:持続可能な『担い手』を育てる『地域人材育成エコシステム』の醸成」**を位置づけます。これは、制度の持続可能性を担保する中長期的な視点からの施策であり、①と②の施策と並行して進めることで、相乗効果が期待できます。

各支援策の詳細

支援策①:協働の「入口」を多様化する「参加チャネル・ポートフォリオ」の構築

目的
  • 住民一人ひとりの関心度やライフスタイル、参加可能な時間的制約に応じて、気軽なアイデア提供から本格的な事業協働まで、多様な参加の選択肢を「ポートフォリオ」として整備します。これにより、これまで行政との接点が少なかった若者や現役世代、外国人住民などを含む、あらゆる層の参加を促進します。
  • 客観的根拠:
    • 多くの自治体が審議会やパブリックコメントといった画一的な参加手法に留まっている現状があります。
      • (出典)明治大学「東京23区における住民参加と協働に関する行政の取り組みの実態と評価」2021年
    • 一方で、杉並区の「区民参加型予算」や世田谷区の「提案型協働事業」のように、多様な手法が住民の新たな関心を引きつけています。
      • (出典)世田谷区「令和6年度世田谷区提案型協働事業の実施事業について」
      • (出典)杉並区「区民参加型予算」
主な取組①:デジタル提案プラットフォームの導入
  • スマートフォンから24時間いつでも、写真付きで手軽にアイデアを投稿・閲覧できるオンラインプラットフォームを導入します。
  • 他者の提案に「いいね!(共感)」やコメントを付ける機能を設け、住民間の議論を活性化させます。
  • GIS(地理情報システム)機能を統合し、「公園の遊具が壊れている」「この交差点は見通しが悪い」といった地域の課題を地図上にマッピングして視覚的に提案できるようにします。
  • 客観的根拠:
    • 総務省は、誰もがアプリで簡単・簡便に地域と関われる仕組みの検討を進めており、デジタル技術の活用は国の大きな方針と合致しています。
      • (出典)総務省「「関係人口」ポータルサイト」
    • バリアフリー基本構想の策定プロセスでは、住民がまちのバリアを発見し、地図に落とし込んで提案する手法が有効とされています。
      • (出典)国土交通省「バリアフリー基本構想策定等に関するガイドライン」2018年
主な取組②:「テーマ設定型」提案募集の定例化
  • 「子育て支援」「防災」「地域の緑化」「多文化共生」など、住民にとって身近で具体的なテーマを設定し、期間を区切って集中的に提案を募集するキャンペーンを定例的に実施します。
  • これにより、漠然とした問題意識を持つ住民が具体的なアイデアを考えやすくなり、質の高い提案が集まることが期待できます。
  • 客観的根- 拠:
    • 杉並区の区民参加型予算では「健康・ウェルネス」、豊島区では「多様性の尊重・多文化共生」といったテーマ設定が行われています。
      • (出典)杉並区「令和7年度杉並区区民参加型予算事業実施要項」
      • (出典)豊島区「令和7年度区民が選ぶ!としまの課題解決プロジェクト」
    • 品川区の協働事業提案制度では「食品ロス(フードロス)の削減」をテーマに募集を行い、専門性を持つ団体の提案を引き出しました。
      • (出典)東京ボランティア・市民活動センター「平成30年度 品川区協働事業提案制度」
主な取組③:「出張!まちづくり相談会」の実施
  • 区役所に来る機会の少ない住民層にアプローチするため、駅前広場や商業施設、地域のイベント会場などで、行政職員が直接住民と対話し、アイデアや意見を掘り起こす移動式の相談ブースを定期的に設置します。
  • デジタル機器の操作に不慣れな高齢者などへの配慮として、その場で提案用紙への記入をサポートしたり、意見を聴取したりする対面でのフォローアップを重視します。
  • 客観的根拠:
    • 自治会等のデジタル化における最大の課題として「住民の多くが操作等に不慣れである」(41.2%)ことが挙げられており、オフラインでの丁寧な対応が不可欠です。
      • (出典)総務省「地域コミュニティに関する研究会 報告書」2022年
    • 大月市の事例では、駅前広場に「まちのコンシェルジュ」を配置し、来訪者や住民に直接まちの案内や意見聴取を行う取組が行われています。
      • (出典)山梨県大月市「中心市街地活性化基本計画」
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 区政への住民参加意欲を持つ住民の割合:50%以上
      • データ取得方法: 年1回実施する区民意識調査
  • KSI(成功要因指標)
    • 住民提案制度の認知度:70%以上
      • データ取得方法: 年1回実施する区民意識調査
    • 多様な参加チャネルの利用満足度:80%以上
      • データ取得方法: 各チャネル利用者へのアンケート調査
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 年間提案者数(ユニークユーザー):区の人口の1%以上
      • データ取得方法: 各チャネルの提案者ログデータの分析
    • 20代〜40代の若年・現役世代の提案者割合:全提案者の40%以上
      • データ取得方法: 提案者属性の分析(任意回答)
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • デジタル提案プラットフォームの年間投稿数:500件以上
      • データ取得方法: プラットフォームの管理画面から集計
    • 「出張!まちづくり相談会」の年間開催回数及び参加者数:20回以上、延べ1,000人以上
      • データ取得方法: 担当部署による実施記録の集計

支援策②:提案を「カタチ」にする「協働推進基盤」の強化

目的
  • 住民から寄せられた多様な提案を、縦割り行政の壁を越えて円滑に検討し、採択・不採択の理由を含めて迅速かつ丁寧にフィードバックする、透明性の高い内部プロセスを確立します。これにより、行政への信頼感を醸成し、住民の継続的な参加意欲を維持・向上させます。
  • 客観的根拠:
    • 東京23区の自治体が協働を進める上での最大の課題は「庁内の連帯の困難性、縦割りによる連携の弊害」(73.9%)であり、内部プロセスの改革が急務です。
      • (出典)明治大学「東京23区における住民参加と協働に関する行政の取り組みの実態と評価」2021年
主な取組①:「協働推進担当官(リエゾンオフィサー)」の設置
  • 各部局に、住民提案の一次受付窓口となり、所管部署の特定、庁内調整、進捗管理を担う「協働推進担当官」を明確に位置づけます。
  • 地域振興課や企画課などの協働主管課が、全庁のリエゾンオフィサーを統括する会議を定期開催し、情報共有や課題解決を図ります。
  • 客観的根拠:
    • 世田谷区の「市民活動推進課」や杉並区の「地域課協働推進係」のように、専門部署が全庁的な調整役を担うことが、制度の円滑な運営に繋がっています。
      • (出典)世田谷区「お問い合わせ先」
      • (出典)杉並区「協働提案事業採択」
主な取組②:提案進捗トラッキングシステムの導入
  • 住民がオンライン上で、自身の提案が「受付済」「担当課にて検討中」「審査会で審議中」「採択」「不採択」など、どのプロセス段階にあるかをリアルタイムで確認できるシステムを導入します。
  • 不採択と判断された場合は、その理由(例:「法令上の制約」「予算確保困難」「類似事業が実施中」など)をシステム上で具体的に明記し、丁寧な説明責任を果たします。
  • 客観的根拠:
    • 杉並区の「杉並行政サービス民間事業化提案制度」では、事前審査、審査会による審査、ヒアリングといった段階的なプロセスが設定されており、これを住民に可視化することが透明性確保に繋がります。
      • (出典)総務省「杉並行政サービス民間事業化提案制度の概要」
主な取組③:「中間支援組織」との連携強化
  • 地域のNPOや社会福祉協議会、ボランティアセンターなど、市民活動を支援する「中間支援組織」を積極的に育成・活用します。
  • 住民からの提案内容をより実現可能な事業計画へとブラッシュアップする支援や、同じ課題意識を持つ団体同士のマッチング、協働事業の伴走支援などを委託します。
  • 客観的根拠:
    • 世田谷区では、社会福祉法人世田谷ボランティア協会などが「中間支援NPO」として、区と協働し、市民活動団体のサポートやコーディネートを専門的に行っています。
      • (出典)世田谷区「令和6年度世田谷区提案型協働事業の実施事業について」
    • 世田谷区では、NPO法施行当初から区がNPO支援に積極的で、中間支援組織が個別NPOを支援する方式で運営されてきました。
      • (出典)地球環境パートナーシッププラザ「世田谷区とNPOの協働事業」2012年
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 提案者の制度プロセスに対する満足度:80%以上
      • データ取得方法: 提案者への事後アンケート調査
  • KSI(成功要因指標)
    • 提案受付から一次回答(担当部署決定・検討開始の連絡)までの平均所要日数:14日以内
      • データ取得方法: 提案管理システムのログ分析
    • 提案の検討プロセスに関する情報公開度:評価指標を設定し、第三者評価を実施
      • データ取得方法: NPO等による外部評価
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 事業化または施策に反映された提案の割合:年間受付提案数の10%以上
      • データ取得方法: 提案管理システムと予算・事業執行記録の突合分析
    • 提案者による再提案率:20%以上
      • データ取得方法: 提案者IDの追跡調査
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • 中間支援組織が関与した事業計画ブラッシュアップ件数:年間30件以上
      • データ取得方法: 中間支援組織からの事業報告
    • 全ての提案に対するフィードバック(採択・不採択理由の明記)実施率:100%
      • データ取得方法: 提案管理システムの記録監査

支援策③:持続可能な「担い手」を育てる「地域人材育成エコシステム」の醸成

目的
  • 住民や地域団体が、自律的に地域課題を発見し、解決策を企画・立案し、多様な関係者を巻き込みながら事業を実行できる能力(=まちづくり力)を身につけられるよう、学びと実践の機会を提供します。これにより、行政に過度に依存しない、持続可能な協働のパートナーを地域内に育成する生態系(エコシステム)を醸成します。
  • 客観的根拠:
    • 住民参加における課題として「コーディネーターとなる人材の不足」(60.9%)や「住民のまちづくりへの意識の低さ・知識の不足」(30.4%)が挙げられており、担い手の能力開発が不可欠です。
      • (出典)明治大学「東京23区における住民参加と協働に関する行政の取り組みの実態と評価」2021年
主な取組①:「まちづくりスクール」の開講
  • 地域活動に必要な実践的スキル(課題発見ワークショップ、ファシリテーション、合意形成、事業計画策定、資金調達(クラウドファンディング、助成金申請等))を体系的に学べる講座を定例開催します。
  • 講座は、区の職員だけでなく、地域のNPOや実績のある活動家、中小企業診断士などを講師として招き、多様な視点から学びを提供します。修了者は「地域づくりリーダー」として登録し、活動のマッチングを支援します。
  • 客観的根拠:
    • 岩手県金ケ崎町の「岩手地域づくり大学・かねがさき校」では、148名の町民が参加し、講義だけでなくワークショップを取り入れた実践的な研修を通じて、地域づくりの人材を育成しました。
      • (出典)総務省「協働によるまちづくり推進のための施策事例集」2008年
主な取組②:「地域インターンシップ」プログラムの創設
  • 地域の若者(大学生、専門学校生など)が、NPOや自治会、商店街などの地域活動団体にインターンとして一定期間参加するプログラムを、地域の大学や企業と連携して創設します。
  • 若者にとっては、社会参加やキャリア形成の機会となり、地域への関心を深めるきっかけとなります。受け入れ団体にとっては、新しい視点や若いエネルギーを取り入れ、活動を活性化させる機会となります。
  • 客観的根拠:
    • 世田谷区の提案型協働事業として「地域インターンシップ世田谷」が実施されており、若者が地域を担い支える人材として育つプラットフォームとなることを目指しています。
      • (出典)お互いさまねっと「令和4年度世田谷区提案型協働事業一覧」
      • (出典)世田谷区「令和6年度世田谷区提案型協働事業の実施事業について」
主な取組③:協働事業助成金制度の拡充
  • 住民団体が自ら企画し実施する公益的な事業に対し、活動の立ち上げに必要な初期費用(備品購入費、広報費など)や運営費の一部を助成する制度を設けます。
  • 助成金の審査過程を、単なる選考の場ではなく、事業計画の質を高めるためのメンタリングの機会と位置づけ、専門家によるアドバイスを提供します。
  • 客観的根拠:
    • 多くの市民活動団体は「慢性的な財源不足」に直面しており、資金的支援は活動の開始・継続に不可欠です。
      • (出典)総務省「協働によるまちづくり推進のための施策事例集」2008年
    • 山形市では、市民や企業からの寄附を原資とするファンドを創設し、市民活動団体を支援する「市民活動支援基金制度」を運営しています。
      • (出典)総務省「協働によるまちづくり推進のための施策事例集」2008年
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 住民が主体となって企画・運営される地域課題解決プロジェクトの年間実施数:30件以上
      • データ取得方法: 協働推進課及び関連部署による実績事業の集計
  • KSI(成功要因指標)
    • 「まちづくりスクール」修了者のうち、実際に地域活動を開始または継続している人の割合:70%以上
      • データ取得方法: 修了者への追跡アンケート調査
    • 地域活動への参加に意欲的な住民の割合(自己評価):区民意識調査における関連設問のスコア向上
      • データ取得方法: 年1回実施する区民意識調査
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 助成金を受けた団体の事業継続率(事業終了から3年後):80%以上
      • データ取得方法: 助成団体の活動状況に関する追跡調査
    • 「地域インターンシップ」参加者のうち、プログラム終了後も何らかの形で地域活動に関与している若者の割合:30%以上
      • データ取得方法: インターン参加者への追跡アンケート調査
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • 「まちづくりスクール」の年間講座開催数および延べ参加者数:10講座以上、延べ200人以上
      • データ取得方法: 担当部署による実施記録の集計
    • 協働事業助成金の年間交付総額および交付件数:目標値を設定(例:3,000万円/30件)
      • データ取得方法: 予算執行実績及び交付決定記録

先進事例

東京都特別区の先進事例

世田谷区「提案型協働事業」

  • 2002年度から続く、市民協働の先進モデルです。区が抱える行政課題の解決をNPO等に提案してもらう「行政課題型」と、団体が自由な発想で公共的課題を設定し提案する「市民提案型」の2種類があります。空き家予防、コミュニティ農園(タマリバタケ)、エシカル消費推進、地域インターンシップなど、福祉から環境、まちづくりまで多岐にわたるテーマで、NPO等の専門性やネットワークを活かした事業が展開されています。成功の鍵は、区とNPOの間に入り、事業のコーディネートや伴走支援を行う「中間支援組織」の存在です。
  • 客観的根拠:
    • 令和6年度も「地域インターンシップ世田谷」や「マイクロ・コモンズ・スチュワードシップ」など複数の事業が採択され、継続的に運営されています。
      • (出典)世田谷区「令和6年度世田谷区提案型協働事業の実施事業について」
      • (出典)お互いさまねっと「令和4年度世田谷区提案型協働事業一覧」

杉並区「区民参加型予算」

  • 住民が直接、予算の使い道を決めるという直接民主主義的な要素を取り入れた新しい試みです。区が「防災」「健康・ウェルネス」といった大きなテーマを設定し、それに基づいて区民から事業を公募。一次審査を通過した複数の提案の中から、最終的にどの事業を実施するかを区民による投票で決定します。令和5年度から本格実施され、着実に参加者数を増やしており、住民の区政への関心を高める効果が期待されています。
  • 客観的根拠:
    • 令和5年度の投票者数は約3,200人で、前年度より約600人増加。予算総額は6,000万円で、住民のアイデアが具体的な事業として実現しています。
      • (出典)東京民報「「区民参加予算」に手応え 杉並区 岸本区長が会見」2024年
      • (出典)杉並区「区民参加型予算」

品川区「しながわCSR推進協議会」と協働事業

  • 行政と住民・NPOという枠組みに「企業」を本格的に組み込んだ協働モデルです。区内に事業所を持つ企業と区が「しながわCSR推進協議会」を組織し、企業の持つリソース(人材、ノウハウ、資金、物品等)を地域課題の解決に繋げています。清掃美化活動、フードドライブ、防災訓練、小中学校でのキャリア教育など、企業の社会貢献活動を区の施策と連携させることで、行政だけでは実現できない多様な事業を展開しています。
  • 客観的根拠:
    • 令和7年7月時点で101の企業が会員として参加しており、行政・住民・NPOに「企業」という第四のセクターを加えた、持続可能な協働プラットフォームを構築しています。
      • (出典)品川区「しながわCSR推進協議会」
      • (出典)品川区「企業の社会貢献活動の紹介」

全国自治体の先進事例

新潟県見附市「健幸(けんこう)まちづくり」

  • 「市民の健康増進」という行政課題と「市民参加」を見事に結びつけた事例です。単に健康を啓発するだけでなく、「健幸アンバサダー」の育成や、ウォーキングによるポイントインセンティブ制度などを導入し、市民が楽しみながら主体的に健康づくりに参加する仕組みを構築しました。これにより、市民の運動量が向上し、結果として一人当たり医療費の抑制に繋がるなど、市民参加が明確な行政成果(アウトカム)に結びついた好事例です。
  • 客観的根拠:
    • 「健幸」をテーマとした市民参加型のまちづくりにより、運動量の増加を通じて医療費削減とまちの賑わい拡大を実現しています。
      • (出典)内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「地域再生計画(中心市街地活性化)の認定を受けた計画の事例集」

宮崎県日南市「油津商店街の再生」

  • 衰退した中心市街地の再生という困難な課題に対し、行政が前面に出るのではなく、全国から公募した民間の専門家(マーケター)に大胆な権限と予算を委譲した公民連携の成功モデルです。この専門家が地域住民や商店主と徹底的に対話し、彼らの意見やアイデアを活かしながら、4年間で20店舗以上の新規出店を実現しました。行政は黒子に徹し、「場」と「権限移譲」を通じて民間の力と住民の主体性を最大限に引き出すという、新しい形の住民提案・協働のあり方を示しています。
  • 客観的根拠:
    • 外部人材の活用と、民間が主体となった自走の仕組みづくりにより、シャッター街だった商店街の再生に成功しました。
      • (出典)内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「地域再生計画(中心市街地活性化)の認定を受けた計画の事例集」

参考資料[エビデンス検索用]

  • 総務省
    • 「地域コミュニティに関する研究会 報告書」令和4年6月
    • 「協働によるまちづくり推進のための施策事例集」平成20年3月
    • 「「関係人口」ポータルサイト」
  • 内閣府
    • 地方分権改革推進室「地方分権改革に関する提案募集」各年度
    • 「令和5年版高齢社会白書」令和5年
  • 国土交通省
    • 「バリアフリー基本構想策定等に関するガイドライン」平成30年
    • 「都市計画提案制度 運用ガイドライン ―住民によるまちづくりルールの提案―」
    • 「次世代のまちづくりに向けた都市計画制度のあり方について 第一次答申 参考資料」平成18年
  • 東京都・特別区
    • 特別区長会事務局「東京23区の町会・自治会活動に関する調査報告書」令和3年3月
    • 明治大学危機管理研究センター「東京23区における住民参加と協働に関する行政の取り組みの実態と評価」2021年
    • 世田谷区「提案型協働事業」関連資料 各年度
    • 杉並区「区民参加型予算」関連資料 各年度
    • 品川区「しながわCSR推進協議会」関連資料 各年度
  • その他研究機関・報道
    • 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「総合計画策定プロセスにおける住民参加のあり方」2008年
    • 東京民報「「区民参加予算」に手応え 杉並区 岸本区長が会見」2024年11月22日

まとめ

 東京都特別区において、住民提案制度は、伝統的な地域コミュニティの機能が変化し、社会課題が複雑化する現代において、不可欠な行政運営ツールです。その成功の鍵は、単発の意見募集に留まらず、住民の多様な関与を促す「参加チャネル・ポートフォリオ」を構築し、寄せられた提案を透明かつ効率的に事業化する「協働推進基盤」を強化することにあります。さらに、中長期的には、持続可能な「担い手」を育む地域の人材育成エコシステムを醸成することが、制度を地域に根付かせる上で極めて重要です。これらの支援策を総合的に展開することで、住民満足度の向上と、より効果的で民主的な行政運営の実現が期待されます。
 本内容が皆様の政策立案等の一助となれば幸いです。
 引き続き、生成AIの動向も見ながら改善・更新して参ります。

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