07 自治体経営

都区財政調整(普通交付金)

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はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。

概要(都区財政調整を取り巻く環境)

  • 自治体が都区財政調整(普通交付金)を行う意義は、①特別区の財政自主権を保障し、基礎自治体として安定的・計画的な行政運営を可能にすること、そして②都と特別区、さらには特別区相互間の財源の偏在を是正し、都民(区民)への公平な行政サービス提供を担保することにあります。
    • 出典)江東区「都区財政調整制度」令和6年度
    • 出典)総務省「都区財政調整制度」平成22年
    • 出典)総務省「都区財政調整」平成24年
    • 出典)特別区長会「都区財政調整制度のあらまし」令和5年
    • 出典)特別区協議会「東京都と特別区間の財政調整」
  • この制度は、人口が高度に集中し、広域行政と基礎行政の役割分担が不可欠な東京大都市圏特有の「都区制度」を財政面から支える根幹的な仕組みです。
    • 出典)江東区「都区財政調整制度」令和6年度
    • 出典)特別区長会「都区財政調整制度のあらまし」令和5年
    • 出典)地方自治総合研究所「都区財政調整」
  • 全国の市町村には、国が地方交付税を交付することで財源保障と財源調整を行いますが、東京都の特別区(23区)は、地方交付税の算定において都と合算して一つの団体として扱われます。その結果、東京都全体としては財源に余裕がある「不交付団体」となるため、国からの普通交付税は交付されません。この地方交付税制度の特例を補い、実質的に特別区の財源を保障し、区間の財源調整を行うのが、都区財政調整制度の役割です。
    • 出典)特別区長会「地方交付税制度の概要」
    • 出典)自治労「都区財政調整制度について」
    • 出典)特別区長会「地方交付税制度の概要」令和5年

意義

住民にとっての意義

  • 安定的な行政サービスの保障
    • 住民がどの区に住んでいても、その区の税収力に左右されることなく、福祉、教育、子育て支援、防災といった基礎的な行政サービスを一定の水準で受けられるよう、財政基盤を安定させる役割があります。
      • 出典)江東区「都区財政調整制度」令和6年度
      • 出典)特別区長会「都区財政調整制度のあらまし」令和5年
  • 多様なニーズに応えるサービスの実現
    • 財政調整によって各区の財源が確保されることで、それぞれの区が地域の実情や住民の多様なニーズに応じた独自の政策や、より質の高いサービスを展開するための余力が生まれます。
      • 出典)総務省「都区財政調整」平成24年
      • 出典)特別区長会「都区財政調整制度のあらまし」令和5年

地域社会にとっての意義

  • 均衡ある発展の促進
    • 都心部と周辺部では、企業の集積度合いなどから税収力に著しい格差(偏在)があります。この制度は、税収の多い区から少ない区へ財源を再配分する機能を通じて、区ごとの財政力格差を平準化し、23区全体の均衡ある発展を促します。
      • 出典)総務省「都区財政調整」平成24年
      • 出典)特別区協議会「東京都と特別区間の財政調整」
      • 出典)特別区長会「都区財政調整交付金の規模」令和3年
  • 大都市特有の課題への対応
    • 大規模災害対策、広域的なインフラ整備、環境問題への対応など、一つの区だけでは解決が困難な大都市共通の課題に対して、23区が連携・協力して取り組むための財政的な基盤を支える重要な役割を担っています。
      • 出典)中央区「令和7年度 都区財政調整方針(案)」令和7年
      • 出典)特別区長会「都区財政調整制度の歴史」令和7年

行政にとっての意義

  • 財政自主権の法的な保障
    • 地方自治法第282条に根拠を持つこの制度は、特別区の財政自主権を法律に基づいて保障するものです。これにより、特別区は都の内部団体ではなく、住民に最も身近な「基礎的な地方公共団体」として、自主的かつ自律的な行政運営を行うことが可能となります。
      • 出典)総務省「都区財政調整」平成24年
      • 出典)特別区長会「都区財政調整制度のあらまし」令和5年
      • 出典)総務省「地方自治法改正」平成12年
      • 出典)特別区長会「平成12年改革」平成12年
  • 二層制行政システムの円滑な運営
    • 特別区の区域では、消防や上下水道など、本来市町村が行う事務の一部を東京都が広域自治体として一体的に処理しています。この特有の事務分担に応じて、本来市町村の税源である固定資産税などを都が徴収し、本制度を通じて財源を再配分することで、都と特別区からなる二層制の行政システムが円滑に機能するよう支えています。
      • 出典)江東区「都区財政調整制度」令和6年度
      • 出典)特別区協議会「東京都と特別区間の財政調整」
      • 出典)特別区長会「都区財政調整制度のあらまし」令和5年

(参考)歴史・経過

  • 昭和40年代~昭和50年改革
    • 戦後、都の内部団体として位置づけられていた特別区の自治権を拡大する動きが進む中で、財政調整制度も段階的に整備されました。昭和50年(1975年)の都区制度改革では、調整財源(固定資産税、法人住民税等)の都と特別区の配分割合が「都56%:区44%」とされ、この「44%ルール」が長期間にわたる制度の基本となりました。
      • 出典)目黒区「都区財政調整制度について」令和7年
      • 出典)特別区長会「都区制度改革」昭和50年
      • 出典)特別区長会「都区財政調整制度の歴史」令和7年
  • 平成12年(2000年)都区制度改革
    • 地方分権一括法の施行に伴い、日本の地方自治制度が大きく転換する中で行われた画期的な改革です。この改革により、特別区は法律上「基礎的な地方公共団体」として明確に位置づけられました。これに伴い、都区財政調整制度も、それまでの政令に基づく運用から、地方自治法に目的や財源が明記された「法律上の財源保障制度」へと格上げされました。都と特別区の役割分担と財源配分の原則が確立され、配分割合は特別区の役割拡大を反映して「区52%」からスタートしました。
      • 出典)総務省「都区財政調整」平成24年
      • 出典)特別区長会「都区財政調整制度のあらまし」令和5年
      • 出典)総務省「地方自治法改正」平成12年
      • 出典)特別区長会「平成12年改革」平成12年
      • 出典)特別区長会「都区財政調整制度の歴史的な改革の経緯」平成12年
  • 平成19年度(2007年)
    • 国から地方への税源移譲などを進めた「三位一体の改革」により、国庫補助負担金の一部が廃止されるなど、地方財政を取り巻く環境が変化しました。この影響を調整するため、都区間の協議を経て、特別区への配分割合は「55%」へと引き上げられました。
      • 出典)目黒区「都区財政調整制度について」令和7年
      • 出典)特別区長会「都区財政調整制度の歴史」令和7年
      • 出典)目黒区「都区財政調整制度」令和7年
  • 令和2年度(2020年)
    • それまで都の事務であった児童相談所の設置・運営が、法改正により特別区でも可能となり、一部の区で実際に業務が開始されました。これは都から区への大規模な事務移管にあたるため、その新たな財政需要に対応する特例的な措置として、配分割合が「55.1%」へと0.1ポイント引き上げられました。
      • 出典)目黒区「都区財政調整制度について」令和7年
      • 出典)港区「令和5年度都区財政調整協議に向けた大枠の方向性等について(概要)」令和4年
      • 出典)特別区長会「都区財政調整制度の歴史」令和7年
      • 出典)目黒区「都区財政調整制度」令和7年
  • 令和7年度(2025年)
    • 児童相談所の設置区がさらに増加し運営が本格化することに加え、令和6年能登半島地震の教訓を踏まえた首都直下地震への備えを都区が連携して強化する必要性が高まりました。こうした新たな行政需要の増大を背景とした協議の結果、特別区への配分割合を「56%」へ、また災害対応経費等に充てられる特別交付金の割合を交付金総額の「6%」へと、それぞれ引き上げることで都区間の合意に至りました。これは、制度が大きな行政需要の変化に対応して動くことを示す重要な合意です。
      • 出典)Satoriki.net「令和7年度都区財政調整協議のポイント」令和6年
      • 出典)目黒区「都区財政調整制度について」令和7年
      • 出典)中央区「令和7年度 都区財政調整方針(案)」令和7年
      • 出典)特別区長会「都区財政調整制度の歴史」令和7年
      • 出典)特別区長会「令和7年度都区財政調整協議」令和7年
      • 出典)目黒区「都区財政調整制度」令和7年

都区財政調整に関する現状データ

  • 令和7年度の財政調整規模
    • 令和7年度の都区財政調整交付金の総額(当初見込)は 1兆2,982億80百万円 となり、令和6年度当初見込額と比較して 822億71百万円の大幅な増加 となりました。
      • 出典)中央区「令和7年度 都区財政調整方針(案)」令和7年
    • その内訳は、各区の標準的な行政需要に基づいて配分される 普通交付金1兆2,203億84百万円(前年度比651億76百万円増)、災害などの特別な需要に対応する 特別交付金778億97百万円(前年度比170億97百万円増)です。この増額は、後述する配分割合の変更と、好調な都税収入に支えられたものです。
      • 出典)中央区「令和7年度 都区財政調整方針(案)」令和7年
      • 出典)杉並区「令和7年度都区財政調整(見込)の概要」令和7年
  • 配分割合の変更とその影響
    • 令和7年度から、調整財源(固定資産税・市町村民税法人分等)を都と特別区で配分する割合が、従来の「都44.9%:区55.1%」から「都44%:区56%」へと、区の割合が0.9ポイント引き上げられました。
      • 出典)目黒区「都区財政調整制度について」令和7年
      • 出典)中央区「令和7年度 都区財政調整方針(案)」令和7年
      • 出典)特別区長会「都区財政調整制度の歴史」令和7年
      • 出典)特別区長会「令和7年度都区財政調整協議」令和7年
    • 同時に、交付金総額に占める特別交付金の割合も、従来の5%から 6% へと引き上げられました。これは、能登半島地震の教訓を踏まえた災害対応経費の増額などを反映したものです。
      • 出典)中央区「令和7年度 都区財政調整方針(案)」令和7年
      • 出典)特別区長会「都区財政調整制度の歴史」令和7年
      • 出典)特別区長会「令和7年度都区財政調整協議」令和7年
  • 基準財政需要額と収入額の推移
    • 基準財政需要額(B)の急増:
      • 基準財政需要額とは、各区が標準的な行政サービスを行うために必要と算定される経費の総額です。令和7年度は 2兆7,301億円(見込)に達し、前年度比で 1,927億円(7.6%) という著しい増加を示しました。これで4年連続の増加となります。
      • 出典)杉並区「令和7年度都区財政調整(見込)の概要」令和7年
      • この急増の背景には、物価高騰の影響に加え、能登半島地震を踏まえた災害対応力の強化、全区での学校給食費の保護者負担軽減、新型コロナウイルスワクチン接種経費など、26項目もの新たな行政需要が算定に加えられたことがあります。これは、社会情勢の変化に伴い、特別区が担うべき行政コストが急速に増大していることを示しています。
      • 出典)杉並区「令和7年度都区財政調整(見込)の概要」令和7年
    • 基準財政収入額(A)の増加:
      • 基準財政収入額とは、各区の標準的な税収などを見込んだ額です。令和7年度は 1兆5,097億円(見込)となり、前年度比で 1,275億円(9.2%) の大幅な増加となりました。こちらも4年連続の増加です。
      • 出典)杉並区「令和7年度都区財政調整(見込)の概要」令和7年
      • この増加は、堅調な企業業績を反映した特別区民税(法人分)の伸びや、個人消費の回復に伴う地方消費税交付金の増加などが主な要因です。
      • 出典)杉並区「令和7年度都区財政調整(見込)の概要」令和7年
      • 出典)特別区長会「令和5年度特別区決算(見込)の概要」令和6年
    • 需要と収入が共に増加する中で、行政サービスのコスト(需要額)の伸びが税収(収入額)の伸びに劣らないペースで続いていることは、財政運営上の継続的なプレッシャーとなっていることを物語っています。財源が潤沢に見えても、それ以上に支出すべき経費が増えているため、財政調整を巡る交渉は常に厳しいものとならざるを得ない構造にあります。
  • 令和6年度の算定結果(参考)
    • 令和6年度の普通交付金(当初算定)の総額は 1兆1,258億20百万円 で、前年度比2.7%の増加でした。
      • 出典)豊島区「令和6年度都区財政調整算定結果について」令和6年
    • この年度も、交付区は21区で、港区と渋谷区は基準財政収入額が需要額を上回ったため、不交付団体となりました。不交付団体があることは、区間における著しい税源偏在が依然として存在することを示しています。
      • 出典)豊島区「令和6年度都区財政調整算定結果について」令和6年
      • 出典)特別区長会「令和5年度都区財政調整区別算定額」令和5年
    • また、令和6年度は当初算定時よりも都税収入が上振れしたため、年度末にかけて 711億15百万円の再調整 が行われ、勤勉手当の支給に伴う経費などが普通交付金に追加で配分されました。これは、年度途中の経済変動が交付金額に影響を与える、制度の動的な側面を示しています。
      • 出典)中央区「令和7年度 都区財政調整方針(案)」令和7年
      • 出典)中央区「令和6年度都区財政調整再調整」令和7年
      • 出典)特別区長会「令和7年度都区財政調整協議」令和7年

課題

住民の課題

  • サービスの質と量の不安定化
    • 都区財政調整を巡る都と区の協議が、特に配分割合などの根幹部分で難航し、合意形成が遅れることがあります。次年度の交付金額という、区の歳入の根幹が不確定なままでは、各区は新規事業の計画や既存サービスの拡充を安心して進めることができません。この結果、住民が享受する行政サービスの安定的な供給が脅かされるリスクを内包しています。
      • 出典)Satoriki.net「令和7年度都区財政調整協議のポイント」令和6年
      • 出典)特別区長会「令和7年度都区財政調整協議まとまる」令和7年
      • 出典)特別区長会「都区財政調整制度の歴史」令和7年
    • 客観的根拠:実際に、令和5年度の都区財政調整協議は、都区間の意見の隔たりが大きく合意に至りませんでした。その結果、本来であれば新規に算定されるべきであった多くの事項が反映されないまま当初算定が行われ、例年よりも大幅な「算定残」(当初見込みと実際の交付決定額との差額)が生じました。これは、住民のために速やかに実施されるべき事業の財源が、一時的にせよ留保されたことを意味します。(出典)特別区長会「令和5年度都区財政調整区別算定額」令和5年
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:住民は、本来受けられるはずの子育て支援や高齢者福祉などの行政サービスの開始が遅れたり、内容が縮小されたりする不利益を直接的に被る可能性があります。

地域社会の課題

  • 中長期的・戦略的なまちづくりの停滞
    • 道路、公園、学校といった都市インフラの整備や更新など、長期的な視点と計画的な投資が不可欠なまちづくり分野において、都と区の協力体制が十分に機能しているとは言えません。特に、その重要な財源である「都市計画交付金」のあり方を巡っては、都と区の見解が大きく乖離したまま、協議は長年平行線を辿っています。これにより、地域の持続的な発展や、首都直下地震などに備える防災力強化に向けた戦略的な投資が阻害される懸念があります。
      • 出典)Satoriki.net「令和7年度都区財政調整協議のポイント」令和6年
      • 出典)港区「令和5年度都区財政調整協議に向けた大枠の方向性等について(概要)」令和4年
      • 出典)特別区長会「令和6年度都区財政調整協議まとまる」令和6年
      • 出典)千代田区「都区財政調整の主要5課題に関する意見書」平成17年
    • 客観的根拠:特別区側は、都市計画交付金について、区の事業実績に見合うよう総額を拡大し、全ての都市計画事業を交付対象とするなど抜本的な見直しを求めています。これに対し、都側は「交付金はあくまで奨励的な補助金であり、都の予算編成の中で判断するもの」という立場を崩していません。この根本的な対立が原因で、都区の役割分担などを議論する最上位の協議の場である「都区のあり方検討委員会」も、平成23年(2011年)を最後に開催されない異常事態が続いています。(出典)江東区「行財政改革の推進」令和6年(出典)特別区長会「令和6年度都区財政調整協議まとまる」令和6年
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:老朽化した公共施設の更新が遅れ、地域の安全性が低下するほか、新たな時代の要請に応えるまちづくりが進まず、東京の国際競争力そのものが損なわれる恐れがあります。
  • 外部要因による財政基盤の脆弱化
    • ふるさと納税制度は、本来の趣旨を超えて自治体間の税収獲得競争の様相を呈しており、住民が多く居住する特別区からは巨額の区税収入が一方的に流出しています。この問題は、都区財政調整という制度の枠組みの外で発生する財源流出であり、各区の自主財源を直接的に侵食し、制度全体の安定性を内側から揺るがす深刻な要因となっています。
      • 出典)江東区「行財政改革の推進」令和6年
      • 出典)LOCAL MEDIA「世田谷区、ふるさと納税による99億円の減収が財政を圧迫」令和6年
    • 客観的根拠:特に人口の多い世田谷区では、ふるさと納税による住民税の減収額(流出額)が年々拡大し、令和4年度の87億円から令和5年度には99億円へと、わずか1年で12億円も増加しています。この99億円という金額は、区が独自に使える貴重な財源であり、これが失われる影響は計り知れません。(出典)LOCAL MEDIA「世田谷区、ふるさと納税による99億円の減収が財政を圧迫」令和6年
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:巨額の減収を補うために、他の重要な事業経費を削減したり、公共サービスの受益者負担を引き上げたりせざるを得なくなり、結果的に地域サービス全体の水準が低下する可能性があります。

行政の課題

  • 特別交付金の不透明性(ブラックボックス問題)
    • 財政調整交付金のうち、令和7年度には総額の6%、金額にして約779億円を占める「特別交付金」は、災害復旧など年度途中の特別な財政需要に対応するための重要な財源です。しかし、その配分基準や個別の算定プロセスが外部から見えにくく、都の裁量が大きいとされています。この不透明性は、特別区側から長年にわたって「ブラックボックス」と厳しく批判されており、制度の公平性・透明性を確保する上で最大の課題の一つです。
      • 出典)Satoriki.net「令和7年度都区財政調整協議のポイント」令和6年
      • 出典)新宿区議会「都区財政調整制度に関する意見書」平成23年
      • 出典)特別区長会「令和6年度都区財政調整協議まとまる」令和6年
      • 出典)特別区長会「特別区とは」令和7年
      • 出典)特別区長会「特別区長会独自要望」令和7年
    • 客観的根拠:特別区長会は、透明性を高めるために、特別交付金の割合を現在の6%から元の2%程度に引き下げ、その分をルールの明確な普通交付金に振り替えることや、少なくとも算定対象となる事業を例示化するよう、毎年の協議で繰り返し提案しています。しかし、都側は「各区の特別な事情に柔軟に対応するためには現行の仕組みが必要」として、これらの提案に一貫して応じておらず、協議は毎年平行線のままです。(出典)新宿区議会「都区財政調整制度に関する意見書」平成23年(出典)特別区長会「令和6年度都区財政調整協議まとまる」令和6年
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:都と特別区という、首都東京を支えるべきパートナー間の信頼関係を著しく損ない、財政調整制度全体の正当性に対する根源的な疑念を生じさせる原因となります。
  • 事務分担変更に伴う財源措置の恒常的な対立
    • 児童相談所の設置・運営のように、都が担ってきた事務が法改正などによって特別区へ移管される際、その新たな業務に見合う財源をいかに確保するかという問題が必ず生じます。この財源措置を巡り、区側は「都区間の役割分担の大きな変更」と捉え、制度の根幹である配分割合そのものの見直しを求めますが、都側は既存の枠組みでの対応を主張するため、両者の間で激しい対立が常態化しています。これは協議が紛糾・長期化する最大の要因です。
      • 出典)Satoriki.net「令和7年度都区財政調整協議のポイント」令和6年
      • 出典)港区「令和5年度都区財政調整協議に向けた大枠の方向性等について(概要)」令和4年
      • 出典)江東区「行財政改革の推進」令和6年
      • 出典)特別区長会「令和7年度都区財政調整協議まとまる」令和7年
      • 出典)特別区長会「都区財政調整制度の歴史」令和7年
    • 客観的根拠:児童相談所の関連経費を巡る協議では、区側が「都区制度改革の合意に基づき、配分割合を変更して財源を担保すべき」と強く主張したのに対し、都側は当初「財政調整制度は個別の事業の財源を保障するものではなく、配分割合の変更は馴染まない」と反論しました。この根本的な見解の相違により協議は数年にわたり難航し、最終的には配分割合の引き上げで決着しましたが、これは今後の大規模な事務移管においても同様の構造的な対立が再燃する可能性を強く示唆しています。(出典)Satoriki.net「令和7年度都区財政調整協議のポイント」令和6年(出典)港区「令和5年度都区財政調整協議に向けた大枠の方向性等について(概要)」令和4年
      • 出典)特別区長会「都区財政調整制度の歴史」令和7年
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:住民サービスの向上や時代の要請に応えるために必要な都から区への事務移管が、財源問題を巡る対立によって停滞、あるいは遅延する本末転倒な事態を招くリスクがあります。
  • 景気変動に左右されやすい脆弱な歳入構造
    • 都区財政調整の原資となる調整三税、特に法人住民税や法人事業税は、企業の業績に直結するため景気変動の影響を極めて受けやすいという構造的な脆弱性を抱えています。近年の税収増は、コロナ禍後の経済回復や好調な企業業績に支えられたものですが、ひとたび景気が後退局面に陥れば、歳入が大幅に落ち込み、特別区全体の財政基盤が揺らぐリスクと常に隣り合わせです。
      • 出典)特別区長会「令和4年度特別区決算(見込)の概要」令和5年
      • 出典)特別区長会「令和5年度特別区決算(見込)の概要」令和6年
    • 客観的根拠:令和5年度の特別区決算概要では、「区税収入は、雇用・所得環境の改善等により、13年連続で増となった」と報告する一方で、「物価上昇や金融資本市場の変動等の影響による今後の景気動向の不透明性を踏まえると、景気の影響を受けやすい特別区の税収動向は予断を許さない状況にある」と、そのリスクについて明確に警鐘を鳴らしています。(出典)特別区長会「令和5年度特別区決算(見込)の概要」令和6年
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:景気後退によって歳入が急減した場合、各区が積み立てている財政調整基金の取り崩しだけでは対応しきれず、行政サービスの大幅な縮小や事業の見直し、職員の削減といった厳しい選択を迫られる事態に陥りかねません。

行政の支援策と優先度の検討

優先順位の考え方

  • 各支援策の優先順位は、以下の要素を総合的に勘案し決定します。
    • 即効性・波及効果: 課題解決に直結し、短期間で効果が期待できるか。また、一つの施策が他の課題解決にも好影響を与える相乗効果が見込めるか。
    • 実現可能性: 政治的・制度的な障壁が比較的低く、都と特別区の間で現実的に合意形成が見込めるか。法改正の要否なども考慮する。
    • 費用対効果: 施策の実施に要する行政コスト(人的・財政的資源)に対し、得られる成果(課題解決への貢献度)が大きいか。
    • 公平性・持続可能性: 特定の区だけでなく23区全体に裨益し、公平性が担保されているか。また、将来にわたって制度を安定的に運用していく上で、持続可能な仕組みであるか。
    • 客観的根拠の有無: 政策の必要性や効果が、客観的なデータや国内外の先進事例など、確かな根拠に基づいて裏付けられているか。

支援策の全体像と優先順位

  • 山積する課題に対応するため、本稿では、制度の「信頼性・安定性」と「実態への即応性」という2つの軸で支援策を整理し、優先順位をつけます。
    • 優先度【高】:支援策① 制度運営の透明性向上と協議プロセスの改革
      • 都区間の不信感の根源である「ブラックボックス」問題に直接メスを入れ、制度運営の信頼性を回復させることは、全ての議論の前提となるため最優先とします。
    • 優先度【中】:支援策② 時代に即した需要算定と配分割合の動的見直しメカニズムの構築
      • 信頼関係の再構築を土台として、社会経済情勢の変化に制度を適応させ、構造的な対立を回避するためのルール作りを進めます。
    • 優先度【低】:支援策③ 外部環境の変化に対応する財政基盤の強靭化
      • ふるさと納税など外部要因への対応は重要ですが、都区間の内部的な制度改革に比べ、関係者が多岐にわたり実現のハードルが高いため、中長期的な課題と位置づけます。

各支援策の詳細

支援策①(制度運営の透明性向上と協議プロセスの改革)

  • 目的
    • 都区財政調整制度、とりわけ配分プロセスが不透明と指摘される特別交付金の算定根拠を徹底的に可視化し、制度の透明性・公平性を抜本的に向上させます。
    • これにより、都と特別区の間の長年の不信感を払拭し、建設的な議論を可能とする信頼関係を再構築することを目指します。
    • 客観的根拠:特別区長会や複数の区議会から、特別交付金の算定根拠の不明瞭さに対する指摘と、透明性向上を求める意見書が長年にわたり繰り返し提出されています。これは、信頼関係の欠如が制度運営上の大きな障害となっていることを示しています。(出典)Satoriki.net「令和7年度都区財政調整協議のポイント」令和6年(出典)新宿区議会「都区財政調整制度に関する意見書」平成23年(出典)特別区長会「令和6年度都区財政調整協議まとまる」令和6年(出典)特別区長会「特別区長会独自要望」令和7年
  • 主な取組①:特別交付金の算定ルールの明確化と情報公開の徹底
    • 特別交付金の算定対象となる事業メニュー、採択基準、算定に用いる単価や数量などの算定根拠を、原則として全て明文化し、公表します。
    • 毎年度の配分決定後、各区に対してどの事業にいくら交付されたのか、その詳細な算定内訳を一覧形式で作成し、東京都および特別区長会のウェブサイト上で速やかに公開します。
    • 客観的根拠:全国の地方公共団体に配分される国の地方交付税制度においても、特別交付税の交付額やその算定概要は総務省によって公表されており、情報公開のあり方として参考にすべき前例となります。(出典)特別区長会「地方交付税制度の概要」令和5年(出典)特別区長会「地方交付税制度の概要」
  • 主な取組②:都区財政調整協議会の議事の完全公開
    • 現在の要点をまとめた議事録の公開に留まらず、協議の透明性を飛躍的に高めるため、都区財政調整協議会および実務者レベルの幹事会の全日程について、インターネットでのライブストリーミング配信を実施します。
    • また、会議で使用された全ての配付資料を、会議終了後、原則として即日公開することを制度化します。
    • 客観的根拠:令和7年度の協議会資料や議事録はPDF形式で公開されていますが、これだけでは議論のリアルタイム性や、どのようなやり取りを経て結論に至ったのかというプロセスの詳細を把握するには限界があります。(出典)特別区長会「都区財政調整協議」(出典)特別区長会「令和7年度都区財政調整協議」令和7年(出典)足立区議会「議事録 都区財政調整 令和7年度」
  • 主な取組③:第三者機関による算定プロセスの外部監査導入
    • 公認会計士、弁護士、財政学を専門とする学識経験者など、都と区から独立した立場の専門家で構成される「都区財政調整監査委員会(仮称)」を設置します。
    • この委員会が、毎年度の普通交付金および特別交付金の算定プロセス全体を対象に、関連条例や都区間で合意された方針に基づき適正に執行されているかを検証し、その結果を年次報告書として都民・区民に公表します。
    • 客観的根拠:制度の根幹である基準財政需要額・収入額の算定は極めて専門的・技術的なプロセスであり、外部の専門家による客観的な視点からの検証を加えることが、制度そのものへの信頼性を高める上で不可欠です。(出典)目黒区「都区財政調整制度について」令和7年(出典)特別区長会「都区財政調整制度のあらまし」令和5年
  • KGI・KSI・KPI
    • KGI(最終目標指標):
      • 都区財政調整協議における平均合意形成期間の前年度比10%短縮。
      • データ取得方法: 都区協議会の議事録等から、毎年度の協議開始日から最終合意日までの日数を記録し、過去5年間の平均値と比較する。
    • KSI(成功要因指標):
      • 特別区の企画・財政担当者を対象とした、都の財政運営に対する信頼度アンケートのスコア(5段階評価)が平均4.0以上を達成。
      • データ取得方法: 特別区長会が主体となり、年に1回、全23区の企画・財政担当部長および課長を対象とした無記名式のウェブアンケート調査を実施する。
    • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標:
      • 特別交付金の算定根拠に関する、都への情報公開請求件数の前年度比20%削減。
      • データ取得方法: 東京都が公表する情報公開制度の運用状況報告書から、関連する請求実績データを集計・分析する。
    • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標:
      • ウェブサイトで公開された特別交付金に関する算定根拠資料の項目数およびダウンロード数。
      • 都区財政調整協議会のライブストリーミング配信の平均視聴者数。
      • データ取得方法: 東京都および特別区長会のウェブサイトのアクセスログ解析ツール、および動画配信プラットフォームの分析機能を用いて計測する。

支援策②(時代に即した需要算定と配分割合の動的見直しメカニズムの構築)

  • 目的
    • 少子高齢化の進展、DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)への対応、激甚化する自然災害への備えといった、時代とともに変化する新たな行政需要を、迅速かつ客観的に基準財政需要額へ反映させる仕組みを構築します。
    • 将来、大規模な事務分担の変更が生じた際に、財源措置を巡る都区間の対立を最小化するため、配分割合の見直しに関する客観的かつ具体的なルールを事前に定めます。
    • 客観的根拠:児童相談所の設置を巡る数年にわたる協議の難航は、事務移管時の財源措置に関する事前ルールの不在が根本的な原因でした。また、近年の物価高騰や、能登半島地震を踏まえた災害対策強化など、予測が難しい新たな財政需要が毎年発生している現実があります。(出典)Satoriki.net「令和7年度都区財政調整協議のポイント」令和6年(出典)港区「令和5年度都区財政調整協議に向けた大枠の方向性等について(概要)」令和4年(出典)特別区長会「都区財政調整制度の歴史」令和7年(出典)杉並区「令和7年度都区財政調整(見込)の概要」令和7年(出典)特別区長会「令和4年度特別区決算(見込)の概要」令和5年
  • 主な取組①:需要算定モデルの共同研究開発と常設ワーキンググループの設置
    • 都の財務局と特別区長会の財政担当者、および外部の統計学・経済学の専門家からなる「都区合同需要予測ワーキンググループ」を常設します。
    • このワーキンググループが中心となり、AIや統計モデルを活用して、将来の人口動態(年齢構成、世帯数等)や社会経済指標(物価上昇率、地価変動等)の変化が、各区の行政コストにどのような影響を与えるかを予測する「将来需要推計モデル」を共同で開発し、毎年の需要算定の参考にします。
    • 客観的根拠:現在の基準財政需要額の算定は、過去の実績や単年度ごとの状況変化を積み上げる方式が中心であり、中長期的な視点や客観的な将来予測の仕組みが不足しています。(出典)中央区「令和7年度 都区財政調整方針(案)」令和7年(出典)港区「令和5年度都区財政調整協議に向けた大枠の方向性等について(概要)」令和4年
  • 主な取組②:「配分割合見直し条項」の事前ルール化
    • 現在、都区財政調整条例の協議方針で「都と特別区の事務配分又は役割分担に大幅な変更があった場合」に変更すると定められている抽象的な規定を、より客観的で手続き的なルールへと具体化します。
    • 例えば、以下のような具体的な算定ルールを、都区間の協定として事前に締結します。
      • ルール案: 「都から区への事務移管が生じる場合、移管対象事務について、移管直前の過去3年間における都の執行決算額の平均値を基礎とし、人件費や物価の変動率を加味した額を『標準移管コスト』と定義する。このコストを調整財源総額で除した値を『暫定変更ポイント』とし、移管初年度から配分割合に加算する。移管後3年間の区における執行決算額を検証し、4年目に配分割合を再調整(確定)する。」
    • 客観的根拠:平成12年の都区制度改革時に「その他必要があると認められる場合に変更する」とされた曖昧な規定が、その解釈を巡って長年の対立の原因となってきました。客観的なルールを設けることで、不毛な解釈論争を回避できます。(出典)目黒区「都区財政調整制度について」令和7年(出典)特別区長会「都区財政調整制度の歴史」令和7年
  • KGI・KSI・KPI
    • KGI(最終目標指標):
      • 新たな行政需要が社会的に認知されてから、基準財政需要額に算定項目として反映されるまでの平均所要期間を現状から30%短縮。
      • データ取得方法: 都区財政調整協議会の議事録および算定資料から、各新規需要が区側から提案されてから、算定合意に至るまでの期間を案件ごとに追跡・集計する。
    • KSI(成功要因指標):
      • 「将来需要推計モデル」による需要額予測値と、3年後の決算における実績値との平均乖離率を5%以内に抑制。
      • データ取得方法: ワーキンググループが毎年公表するモデル予測値と、各区の決算統計データを比較検証する。
    • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標:
      • 配分割合の変更を伴う大規模な事務移管に関する都区協議において、事前ルール適用後の合意形成期間が、ルール適用前(児童相談所の事例)と比較して50%以上短縮される。
      • データ取得方法: 児童相談所設置時の協議期間(議事録等で確認)と、新ルール適用後の最初の事例における協議期間を比較する。
    • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標:
      • 都区合同需要予測ワーキンググループの年間の開催回数(年4回以上)。
      • ワーキンググループによる共同研究レポートの年次発行(年1回)。
      • データ取得方法: ワーキンググループの議事録および公開された成果物を確認する。

支援策③(外部環境の変化に対応する財政基盤の強靭化)

  • 目的
    • 都区財政調整制度の枠外で発生し、区の財政基盤を揺るがすふるさと納税制度による税収流出や、予測困難な景気変動による歳入の不安定化といった外部リスクに対し、23区全体として対抗するための財政的な抵抗力(レジリエンス)を強化します。
    • 客観的根拠:世田谷区の事例に代表されるように、ふるさと納税による区税の流出は年々深刻化し、各区の財政運営を圧迫しています。また、特別区の歳入構造が景気変動の影響を受けやすいことは、決算概要等で繰り返し指摘されている構造的な課題です。(出典)江東区「行財政改革の推進」令和6年(出典)LOCAL MEDIA「世田谷区、ふるさと納税による99億円の減収が財政を圧迫」令和6年(出典)特別区長会「令和4年度特別区決算(見込)の概要」令和5年(出典)特別区長会「令和5年度特別区決算(見込)の概要」令和6年
  • 主な取組①:「23区共同ふるさと納税プラットフォーム」の構築・運営
    • 23区が共同で出資・運営する新たなポータルサイトを立ち上げます。このプラットフォームでは、個々の区では開発が難しい、23区の魅力を結集した共通返礼品を提供します。
    • 共通返礼品の例:
      • 23区内の美術館・博物館・水族館などで利用できる共通年間パスポート
      • 区内の中小企業や商店街が連携して提供する「東京下町グルメツアー」「ものづくり体験」などの体験型サービス
      • 23区内のホテルやレストランで利用できる共通ギフト券
    • これにより、個々の区による単独の取り組みでは難しいスケールメリットを活かし、全国の他の自治体との競争力を高め、区外への税収流出を抑制するとともに、域内への新たな資金還流と経済活性化を目指します。
    • 客観的根拠:個々の区による対策では、全国規模で魅力的な返礼品を開発・PRする他の自治体との競争に限界があります。23区が持つ多様な文化・商業資源を結集する共同での取り組みが不可欠です。
  • 主な取組②:「都区共同景気変動調整基金(仮称)」の設立検討
    • 景気が良く、調整財源の元となる都税収入が当初の見込みを大幅に上回った年度において、その上振れ分の一部を、都と特別区が協定で定めた割合で拠出し、積み立てる新たな基金を設立することを検討します。
    • この基金は、景気後退局面で調整財源が大幅に落ち込んだ際に取り崩し、財政調整交付金の原資の急激な減少を補うために使用します。これにより、景気の波に左右されない安定的な財政運営を23区全体で支えます。
    • 客観的根拠:現在、財政調整基金は各区が個別に設置・管理しており、23区全体として景気変動という共通リスクに備える仕組みは存在しません。共同基金は、相互扶助の考え方に基づき、全体の財政基盤を強靭化するものです。(出典)足立区「令和5年度決算のあらまし」令和6年(出典)名古屋市「名古屋市の財政運営の決まり」令和7年
  • KGI・KSI・KPI
    • KGI(最終目標指標):
      • 特別区全体のふるさと納税による住民税控除額(流出額)の対前年度増加率を、全国平均の増加率以下に抑制する。
      • データ取得方法: 総務省が公表する全国のふるさと納税に関する現況調査と、23区全体の決算統計から得られる住民税控除額を比較分析する。
    • KSI(成功要因指標):
      • 「23区共同ふるさと納税プラットフォーム」経由での年間寄付総額100億円を達成。
      • データ取得方法: プラットフォームの運営事業者から提供される実績データを集計する。
    • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標:
      • 景気後退期(例:法人二税収が前年度比5%以上減少した年度)において、「都区共同景気変動調整基金」を活用することにより、財政調整交付金総額の減少率を、基金がないと仮定した場合のシミュレーション値と比較して30%以上緩和する。
      • データ取得方法: 基金設立後の景気後退期において、基金からの繰入額を基に効果を測定する。
    • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標:
      • 「都区共同景気変動調整基金」の年度末積立残高。
      • 共同ふるさと納税プラットフォームにおける共通返礼品の品目数。
      • データ取得方法: 基金の決算報告書およびプラットフォームの運営実績報告書。

先進事例

東京都特別区の先進事例

  • 港区「不交付団体としての安定した財政運営」
    • 港区は、六本木や新橋・虎ノ門といった都心部への大企業の集積により、極めて高い法人住民税や固定資産税収入を誇ります。その結果、基準財政収入額が需要額を大幅に上回り、令和6年度時点で21年連続となる普通交付金の不交付団体となっています。
      • 出典)豊島区「令和6年度都区財政調整算定結果について」令和6年
      • 出典)特別区長会「令和5年度都区財政調整区別算定額」令和5年
    • この事例は、都区財政調整制度をもってしても完全に平準化することができないほどの「税源の極端な偏在」という東京の現実を象徴しています。同時に、不交付団体であっても、都が整備する広域インフラや消防・救急といったサービスの恩恵は等しく受けていることから、財政調整における「受益と負担」のあり方を考える上で重要な論点を提供します。
      • 出典)港区「港区財政レポート(令和3年度)概要版」令和4年
      • 出典)港区「港区財政レポート(令和4年度)概要版」令和5年
      • 出典)港区「財政状況資料集」
  • 世田谷区「ふるさと納税問題への積極的な問題提起と対応」
    • 世田谷区は、約93万人の人口を抱え、全国の市町村の中でも最大級のふるさと納税による税収流出に直面しています。区は、この問題が基礎自治体の財政基盤を揺るがす深刻な課題であると捉え、決算資料などでその影響額を詳細に公表し、住民への説明責任を果たすとともに、国に対して制度の抜本的な見直しを強く働きかけています。
      • 出典)LOCAL MEDIA「世田谷区、ふるさと納税による99億円の減収が財政を圧迫」令和6年
      • 出典)世田谷区「世田谷区の財政状況」
      • 出典)世田谷区「財政状況資料集」
    • この事例は、都区財政調整という内部の財源調整メカニズムだけでは対応不可能な「外部からの財政リスク」に、自治体としていかに戦略的に向き合い、政策提言を行っていくかという観点から、他の特別区にとっても先進的な取り組みとして参考になります。
    • 客観的根拠:世田谷区の令和5年度決算におけるふるさと納税による減収額は99億円に達しており、この傾向が続けば財政運営にさらなる影響を与える可能性があると分析されています。(出典)LOCAL MEDIA「世田谷区、ふるさと納税による99億円の減収が財政を圧迫」令和6年
  • 足立区「行財政改革による財政健全化と交付金依存からの脱却努力」
    • 足立区は、かつて財政状況が厳しく、財政の硬直度を示す経常収支比率が高い水準にありました。しかし、徹底した事務事業の見直しや歳出削減などの行財政改革を断行することで、財政の健全化を着実に進めました。
      • 出典)足立区「令和5年度決算のあらまし」令和6年
    • 財政調整交付金に歳入の多くを依存する構造は変わりませんが、内部努力によって財政の弾力性を高め、新たな政策課題に取り組むための財政的な余地を生み出している点は、他の多くの交付団体にとって重要なモデルケースと言えます。
    • 客観的根拠:足立区の経常収支比率は、一時期80%を超えていましたが、改善努力の結果、令和5年度は78.6%となり、適正水準とされる範囲内を維持しています。(出典)足立区「令和5年度決算のあらまし」令和6年

全国自治体の先進事例

  • 大阪市「『大阪都構想』における財政調整モデルの理論的検討」
    • 過去二度の住民投票で否決されたものの、「大阪都構想」の議論の過程では、仮に大阪市を解体して複数の特別区を設置する場合の、詳細な財政調整モデルが理論的に検討されました。このモデル検討では、調整財源の範囲(地方税法上の目的税である事業所税や都市計画税を含めるか等)や、普通交付金と特別交付金の配分比率(95:5か90:10か等)を様々に変えた、複数の財政シミュレーションが実施されています。
      • 出典)東京大学公共政策大学院「大阪都構想の制度設計と問題点に関する研究」平成24年
      • 出典)東京大学公共政策大学院「大阪都構想における財政調整のA〜Dの各パターンの詳細」2025年
      • 出典)自治労「大阪都構想の財政調整制度」
      • 出典)東京大学公共政策大学院「大阪都構想の制度設計と問題点に関する研究」2012年
    • この一連の検討プロセスは、大都市制度における財政調整のあり方をゼロベースで設計する際に考慮すべき論点(例:法定外の財源を調整対象とすることの法的な是非)を網羅しており、硬直化した東京の制度を見直す上でも多くの理論的示唆を与えてくれます。
    • 客観的根拠:大阪の財政シミュレーションでは、偏在性の高い目的税を調整財源に加え、特別交付金の比率を高める「Dパターン」を採用すれば、新設される特別区間の財政力格差をほぼ完全に解消できるとの理論的な結果が示されました。(出典)東京大学公共政策大学院「大阪都構想の制度設計と問題点に関する研究」2012年(出典)東京大学公共政策大学院「大阪都構想における財政調整のA〜Dの各パターンの詳細」2025年
  • 横浜市・名古屋市「政令指定都市における区の財政運営」
    • 横浜市や名古屋市といった政令指定都市に置かれている「行政区」は、東京の特別区とはその性格が大きく異なります。行政区には、特別区のような独立した法人格はなく、公選の区長や議会も存在しません。そのため、区の財政運営は、市全体の予算編成プロセスの中で内部的に行われます。
      • 出典)指定都市市長会「大都市財政の実態」令和6年
      • 出典)横浜市「横浜市財政調整基金条例」
      • 出典)名古屋市「名古屋市の財政運営の決まり」令和7年
      • 出典)横浜市「令和7年度予算」令和7年
    • そこには、都と特別区の間で見られるような、財源配分を巡る激しい政治的対立は存在しません。しかしその一方で、各区の行政運営における自主性や財政的な裁量は極めて限定的です。この事例は、大都市ガバナンスにおける「行政の一体性・効率性」と「基礎自治体の自主性・自立性」という、時に相反する価値のトレードオフ関係を考える上で、都区制度が持つ独自の意義と課題を浮き彫りにする、格好の比較対象となります。
    • 客観的根拠:横浜市の予算編成方針は、市長が市全体として策定し、各区役所はその方針に基づいて事業を実施します。また、名古屋市の財政調整基金も市が一元的に管理しており、区単位の独立した基金は存在しません。これは、財政運営の権限が市長(市本体)に集中していることを示しています。(出典)横浜市「令和7年度予算」令和7年(出典)Y-Simin「横浜市2025年度予算案」2025年(出典)名古屋市「名古屋市の財政運営の決まり」令和7年(出典)広報なごや「令和7年度名古屋市予算」令和7年

参考資料[エビデンス検索用]

  • 出典)総務省「令和6年版 地方財政白書」令和6年
  • 出典)総務省「都区財政調整制度」平成22年
  • 出典)東京都「都及び特別区並びに特別区相互間の財政調整に関する条例」令和7年改正
  • 出典)東京都主税局「税務統計年報(各年度版)」
  • 出典)特別区長会「令和7年度 都区財政調整協議結果の概要」令和7年
  • 出典)特別区長会「令和6年度 都区財政調整協議まとまる」令和6年
  • 出典)特別区長会「特別区の財政(各年度決算概要)」
  • 出典)特別区長会「都区財政調整制度のあらまし」
  • (出典)各特別区(港区、世田谷区、足立区、江東区、中央区、杉並区等)「財政状況資料集(各年度決算)」「予算・決算の概要」
  • 出典)各区議会(新宿区、千代田区等)「都区財政調整制度に関する意見書」
  • 出典)指定都市市長会「大都市財政の実態に即応する財源の拡充について(要望)」
  • 出典)東京大学公共政策大学院「大阪都構想の制度設計と問題点に関する研究」平成24年
  • 出典)自治労葛飾地方自治研究センター「都区財政調整制度について」

まとめ

 都区財政調整制度は、首都東京の二層制統治を財政面から支える不可欠な基盤ですが、その運用、特に配分割合や交付金の算定を巡る都区間の構造的な対立は、行政の効率性と安定性を損なう大きな課題です。算定プロセスの不透明性や事務分担変更時の財源措置を巡る対立は、制度への信頼そのものを揺るがしています。今後は、情報公開の徹底による透明性確保を最優先とし、客観的データに基づく動的な需要算定・配分ルールの構築を進めることで、不毛な対立から、首都東京の未来を共に創るための建設的な連携へと転換していく必要があります。
 本内容が皆様の政策立案等の一助となれば幸いです。
 引き続き、生成AIの動向も見ながら改善・更新して参ります。

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