07 自治体経営

繰越明許費

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はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。

概要(繰越明許費を取り巻く環境)

  • 自治体が繰越明許費を行う意義は「会計年度独立の原則の柔軟な運用による計画的な事業執行の確保」と「財政の硬直化を回避し、住民サービスの継続性と質を担保すること」にあります。
  • 繰越明許費とは、地方自治法第213条に定められた、会計年度独立の原則(当該年度の歳出は、原則として当該年度の歳入で賄わなければならないという原則)の重要な例外規定の一つです。
  • その目的は、歳出予算の経費のうち、その性質上(例:完了までに複数年度を要する大規模建設工事)または予算成立後の予期せぬ事由(例:用地買収の難航、自然災害の発生、資材の入手難など)により、年度内に支出を終えることができない見込みのあるものについて、あらかじめ議会の議決を経ることで、翌年度に限りその経費を繰り越して使用することを可能にする点にあります。
  • この制度により、事業が年度末で中断されることを防ぎ、行政サービスの計画的かつ効率的な執行を確保することができます。

意義

住民にとっての意義

安定的な行政サービスの提供
  • 保育園の新設や道路の拡幅、基幹システムの更新など、完了までに複数年度を要する事業が、年度の制約によって中断されることなく計画通りに遂行されます。
  • これにより、住民は待望の公共サービスを、計画された時期に確実に享受できるというメリットがあります。繰越制度がなければ、事業は年度末で一旦停止し、翌年度の予算が成立するまで再開できないため、サービス提供が大幅に遅延する可能性があります。
事業品質の確保

地域社会にとっての意義

計画的な社会資本整備
  • 道路、橋梁、学校、庁舎といった社会インフラの整備を、単年度の予算サイクルに過度に縛られることなく、中長期的な都市計画に基づいて着実に進めることが可能となります。
  • これは、将来の世代を見据えた、持続可能で魅力あるまちづくりを実現する上で不可欠な機能です。
地域経済の安定化

行政にとっての意義

財政運営の柔軟性と効率性の向上
  • 会計年度独立の原則の硬直性を実務的に緩和し、予測困難な事態にも柔軟に対応できる財政運営を可能にします。
  • 一度予算化した事業について、不測の事態が発生した際に、改めて予算案を編成し議会の議決を経るという煩雑な手続きを経ずに事業を継続できるため、行政コストの削減と事務の効率化に繋がります。
財政民主主義と説明責任の担保
  • 繰越明許費は、行政の判断だけで行えるものではなく、事前に「繰り越す可能性があること」及びその限度額について、住民の代表である議会の議決を経ることが法律で義務付けられています。
  • さらに、実際に繰り越しを行った後には、その実績を「繰越計算書」として議会に報告し、決算の一部として承認を得る必要があります。
  • このように、予算の単年度主義の例外でありながらも、議会による事前・事後のチェック機能が制度的に組み込まれており、財政民主主義と住民への説明責任が担保される仕組みとなっています。

(参考)歴史・経過

明治時代~戦前
  • 明治憲法下の会計法により、国の財政監督を厳格に行うため「会計年度独立の原則」が確立されました。
1947年(昭和22年)
  • 日本国憲法及び地方自治法の制定に伴い、地方自治体においても会計年度独立の原則が基本とされました。
制度的例外の導入
  • しかし、原則を厳格に適用すると、大規模事業や災害復旧など、現実の行政運営に支障をきたすことが明らかになりました。
  • このため、会計年度独立の原則の例外として、「継続費」(当初から複数年度にわたる事業)、「繰越明許費」(年度内の支出困難が見込まれる事業)、「事故繰越し」(支出負担行為後に不測の事故が発生した事業)といった、予算の繰越制度が地方自治法に設けられました。
高度経済成長期以降
  • 全国的な公共投資の増大に伴い、特に大規模な建設事業等において、繰越明許費の活用が一般化しました。
2010年代以降
2020年代
  • 新型コロナウイルス感染症対策に係る各種給付金事業や、物価高騰に対応する経済対策など、国主導の大規模な補正予算が編成され、その執行事務が年度をまたぐケースが全国的に急増しました。
  • 国の決算では、令和2年度に繰越額が過去最高の30.8兆円に達するなど、予算の繰越・不用の規模がかつてない水準となり、財政制度等審議会等から、予算執行のあり方について規律を求める議論が活発化しています。この傾向は地方自治体、特に特別区においても同様に見られます。

繰越明許費に関する現状データ

  • 繰越明許費の利用実態を、最新の公的統計を用いてマクロ(全国)とミクロ(特別区)の両面から分析します。近年の著しい量的変化は、単なる事務処理上の問題ではなく、行政が直面する課題の構造的変化を映し出しています。
全国の地方公共団体における繰越額の推移
  • 総務省の調査によると、全国の地方公共団体(都道府県・市町村)における予算の繰越額は、近年、顕著な増加傾向にあります。
  • 特に、国の財政動向と連動し、令和2年度(2020年度)以降、新型コロナウイルス感染症対策関連の交付金を活用した事業(例:特別定額給付金、事業者支援金、ワクチン接種事業等)の影響で、繰越額が急増しました。
  • 国の一般会計決算においても、令和2年度の繰越額は30.8兆円、令和4年度は18.0兆円、令和5年度でも11.1兆円と、コロナ禍以前と比較して極めて高い水準で推移しており、地方自治体においても同様の傾向が見られます。これは、国が主導する大規模かつ緊急性の高い施策の執行が、地方自治体の年度をまたぐ事務負担として現れていることを示しています。
    • 客観的根拠:
    • データ取得方法:
      • 詳細な地方自治体ごとのデータは、総務省が毎年実施する「地方財政状況調査(決算統計)」のデータベース(e-Stat)から、普通会計決算における「翌年度へ繰り越すべき財源」の内訳として「繰越明許費繰越額」の経年データを抽出・分析することで把握できます。
      • (出典)総務省「地方財政状況調査」 11
東京都特別区における繰越額の推移
  • 特別区全体の決算においても、繰越額は全国と同様に増加傾向にあります。
  • 特別区長会が公表する決算概要によると、国や都からの支出金は、新型コロナウイルス感染症対策に係る給付事業等の影響で、近年高い水準で推移しており、これが繰越額の増加に直結しています。
  • 増加の主な要因は、国からの交付金を財源とする住民税非課税世帯等への臨時特別給付金事業や、物価高騰対策としてのプレミアム付商品券事業など、対象者の確定や支給・換金事務に時間を要し、年度をまたいで執行された大規模な政策的経費です。
特別区各区の状況(令和4年度・令和5年度決算ベース)

課題

  • 繰越明許費は計画的な行政運営に不可欠な制度である一方、その運用には様々な課題が内在します。これらの課題は、住民、地域社会、そして行政自身の三つの視点から整理することができます。特に、繰越額の増加が常態化しつつある現状において、これらの課題への的確な対応が求められています。

住民の課題

財政規律の緩みに対する懸念と行政不信
  • 毎年度のように多額の予算が繰り越される状況は、住民から見て「計画通りに予算を執行できない、ずさんな財政運営ではないか」「そもそも予算を使い切れずに余らせているのではないか」といった疑念を招きかねません。
  • 繰越の理由が十分に説明されない場合、行政の計画策定能力や執行能力に対する不信感につながり、ひいては納税意欲の減退や、新たな行政施策への協力が得られにくくなる可能性があります。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 納税者である住民の行政に対する信頼が低下し、今後の増税や新たな事業への協力が得られにくくなります。
事業の遅延による住民サービスの提供遅延
  • 繰越の背景に、本来であれば年度内に完了すべき事業の遅延がある場合、その影響は住民に直接及びます。
  • 例えば、保育所の開設が遅れれば待機児童問題の解消が遠のき、道路の安全対策工事が遅れれば通学路の危険が放置されるなど、住民が期待する行政サービスの提供が遅延し、生活の質や安全・安心が損なわれることになります。

地域社会の課題

公共工事の年度末集中による弊害
  • 繰越を避けようとする意識が過度に働くと、多くの公共工事が年度末(特に2月~3月)に集中発注・施工される傾向が生まれます。
  • この「年度末工事」は、建設業界において特定の時期に労働力や資機材が逼迫する原因となり、長時間労働の常態化など労働環境の悪化を招きます。また、工期に余裕がない中での作業は、工事品質の低下や労働災害のリスクを高めることにもつながります。

行政の課題

予算執行における計画性の欠如と安易な繰越
  • 繰越制度の存在が、かえって予算執行における規律の緩みを招くリスクがあります。
  • 当初から実現可能性の低い工程で予算を要求したり、執行段階での進捗管理や課題解決の努力を怠り、「どうせ繰り越せる」という安易な考えで繰越を選択したりする、いわゆる「モラルハザード」が生じる危険性です。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 予算編成(Plan)、執行(Do)、評価(Check)、改善(Action)というPDCAサイクルが機能不全に陥り、行政全体の計画策定能力と執行能力が低下します。
繰越手続きの硬直的な運用
  • 一部の自治体では、繰越明許費の議決を年度末の補正予算(3月議会)で一括して行うことが慣例化している場合があります。
  • この硬直的な運用では、例えば秋頃に繰越の必要性が判明しても、すぐに対応できず、年度末まで工期の見直しができません。その結果、建設業者等に対して不適切な短い工期での契約を強いたり、契約変更が遅れたりする原因となります。
繰越の根本原因の分析不足
  • 繰越が発生した際に、その事後処理(繰越計算書の作成・報告)に終始してしまい、なぜ繰越が必要になったのかという根本原因の分析や、組織としての再発防止策の検討が不十分なままになっているケースが見受けられます。
  • 繰越は、行政運営上の課題(計画の甘さ、関係機関との調整不足、人員不足など)を示す重要なシグナルであるにもかかわらず、その情報が組織内で共有され、次の計画に活かされていないのです。
    • 客観的根拠:
      • 会計検査院は、不適切な繰越が発生する背景として「申請者が繰越制度の趣旨を十分に理解していないこと」や、それをチェックする「牽制効果が働くような仕組みが十分に整備されていないこと」を挙げています。これは、個々の職員の知識不足だけでなく、組織的な学習やフィードバックの仕組みが欠如していることを示唆しています。
      • (出典)会計検査院「平成23年度決算検査報告 第3章 特定検査対象に関する検査状況」 20
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 同じような理由での繰越が毎年繰り返され、組織としての課題解決能力が向上せず、非効率な行政運営が常態化します。

行政の支援策と優先度の検討

優先順位の考え方

※各支援策の優先順位は、以下の要素を総合的に勘案し決定します。

即効性・波及効果
  • 施策の実施から効果発現までの期間が短く、財政部門だけでなく、事業を担当する各部署や、公共事業を受注する民間事業者など、広範囲に良い影響を及ぼす施策を高く評価します。
実現可能性
  • 新たな条例の制定や大規模な法改正を必要とせず、既存の制度や組織体制の運用改善によって着手できる施策を優先します。首長のリーダーシップと庁内調整で実行可能な施策は、優先度が高いと判断します。
費用対効果
  • 新たなシステム導入等に要する初期投資や運用コストに対し、業務効率化による人件費の削減効果や、計画的な事業執行による将来的なコスト削減効果が大きい施策を優先します。
公平性・持続可能性
  • 特定の事業分野(例:土木事業)だけでなく、全庁的に適用可能で、組織文化として定着させることができる施策を重視します。一度導入すれば、担当者の異動等に左右されず、継続的に効果を発揮する仕組みづくりを高く評価します。
客観的根拠の有無
  • 国の通知やガイドラインで推奨されている、あるいは他の自治体で既に導入され、成功事例として効果が実証されている施策を優先します。

支援策の全体像と優先順位

  • 繰越明許費をめぐる課題は、単なる会計手続き上の問題ではなく、予算の計画、執行、評価という行政マネジメントサイクル全体の質に関わる問題です。したがって、支援策は多角的に、かつ連携させて推進する必要があります。具体的には、「①手続きの適正化(守りの改革)」を全ての土台としつつ、それを「②計画・執行の戦略化(攻めの改革)」へと発展させ、これら一連の改革を「③DXによる管理高度化(改革の基盤)」で持続的に支える、という3層構造で取り組むことが最も効果的です。
  • これらの優先順位としては、まず着手が容易で即効性が高く、多くの課題の根源となっている「①繰越制度の運用適正化と手続きの迅速化」を最優先(優先度:高)とします。これにより、硬直的な運用の弊害を速やかに是正し、改革の素地を整えます。
  • 次に、より本質的な課題解決であり、地域社会への貢献度も高い「②計画的な事業執行と公共工事の平準化の推進」(優先度:中)に取り組みます。これは①の改革を前提として、繰越を戦略的に活用する視点を組織全体に根付かせるものです。
  • そして、これら①と②の取り組みと並行して、中長期的な視点で「③執行管理のDXとEBPMの推進」(優先度:中)を進めます。これは、①と②の改革を勘や経験頼りではなく、客観的なデータに基づいて高度化させ、持続可能な仕組みとして定着させるために不可欠な基盤となります。

各支援策の詳細

支援策①:繰越制度の運用適正化と手続きの迅速化

目的
  • 「繰越は年度末の3月議会で行うもの」といった硬直的な慣例を打破し、必要性が生じた時点で迅速かつ柔軟な繰越手続きを可能にすることで、事業の円滑な執行と、特に公共工事における適正な工期の確保を実現します。
  • 同時に、繰越に関するルールと判断基準を全庁的に明確化・共有することで、安易な繰越を抑制し、財政規律を維持します。
主な取組①:繰越明許費設定時期の柔軟化(12月議会等の活用)
主な取組②:庁内向け「繰越事務ガイドライン」の策定・周知
  • 国の「繰越しガイドブック」や会計検査院の指摘事項を参考に、各区の実情に合わせた、分かりやすい庁内向けの「繰越事務ガイドライン」を財政部門が中心となって策定し、全庁に周知徹底します。
  • ガイドラインには、繰越が認められる要件(「性質上の事由」「予算成立後の事由」)の具体的な解釈、過去の事例、申請手続きの流れ、必要書類の記載例、留意事項(議決前に行えること・行えないこと等)を平易に解説します。
  • 特に、会計検査院が指摘するような不適切な事例(承認内容と異なる事業への流用など)を具体的に示し、コンプライアンス意識の向上を図ります。
主な取組③:繰越申請・承認プロセスの標準化と原因分析の義務化
  • 国の手続き簡素化の趣旨を踏まえ、庁内の繰越申請・承認プロセスを見直し、添付書類の削減や審査の迅速化を図ります。
  • 同時に、規律を確保するため、繰越申請書の様式に「繰越発生の根本原因(なぜ遅れたのか)」と「今後の再発防止策」の記入欄を新たに設けます。
  • 財政部門は、提出された内容を審査し、原因分析や再発防止策が不十分な場合は差し戻すなど、単なる事後処理で終わらせず、組織的な改善につなげる仕組みを構築します。
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 年度末(2~3月)に着工する公共工事の割合を現状から20%削減
      • データ取得方法: 公共工事の契約情報システム等から、工事契約の時期及び工期開始日を抽出し、月別に集計・分析します。
  • KSI(成功要因指標)
    • 12月補正予算において設定された繰越明許費の件数が年間10件以上
      • データ取得方法: 予算・決算関連資料から、12月補正予算における繰越明許費設定の実績件数をカウントします。
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 繰越案件の契約変更(工期延長)手続きにかかる平均日数を30%短縮
      • データ取得方法: 契約変更に関する決裁文書等から、変更事由発生から契約変更完了までの所要日数を収集・分析します。
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • 庁内向け「繰越事務ガイドライン」の策定と全庁ポータルサイト等への掲載完了
      • データ取得方法: ガイドラインの策定・掲載実績をもって確認します。
    • 繰越事務に関する全庁職員向け研修の実施(年2回)及び対象職員(事業担当課の係長級以上)の参加率90%以上
      • データ取得方法: 研修の実施記録及び参加者名簿により確認します。

支援策②:計画的な事業執行と公共工事の平準化の推進

目的
  • 繰越明許費を、予算が未執行となった場合の事後処理的な「受け皿」として捉えるのではなく、公共工事の平準化や中長期的な事業計画を達成するための「戦略的ツール」として積極的に位置づけ、活用する組織文化を醸成します。
  • これにより、公共工事の品質確保、建設業界の働き方改革への貢献、ひいては持続可能な地域経済の実現を目指します。
主な取組①:ゼロ債務負担行為(ゼロ債)の積極的活用
  • 新年度に実施する公共工事等について、前年度中に債務負担行為(支出予定額をゼロ円とする、いわゆる「ゼロ債」)を設定し、入札・契約を前倒しで実施します。
  • これにより、新年度開始後すぐに工事に着手することが可能となり、年度当初(4~6月)の工事量が確保され、年間を通じた工事量の平準化に大きく貢献します。
主な取組②:複数年にわたる事業の工程・予算計画の精緻化
  • 施設の設計、用地取得、建設工事など、完了までに複数年度を要することが明らかな事業について、予算要求の段階で、事業全体の工程(マイルストーン)と各年度の予算配分をより精緻化することを義務付けます。
  • その過程で、やむを得ず年度をまたぐ支出が見込まれる場合は、計画段階からその可能性を織り込み、予め12月補正予算等で繰越明許費を設定するといった、計画的な対応を事業担当課に促します。
    • 客観的根拠:
      • 国の繰越制度では、当初予算の段階から、経費の性質上、年度内に支出を終らない見込みがあるものを「繰越明許費」として指定することが可能です。この計画的な考え方を地方自治体の予算編成プロセスにも応用します。
      • (出典)財務省関東財務局「繰越制度について」令和6年 22
主な取組③:発注部局と財政部局の連携による平準化目標管理
  • 公共工事の発注見通しや、平準化に向けた発注時期の調整について、各事業発注部局と財政部局が定期的に情報共有・協議する場(例:「公共事業執行連絡会議」)を設置・活性化します。
  • 財政部局は、各部局の平準化への貢献度(ゼロ債の活用状況、第1四半期の発注率など)を評価し、インセンティブを与えるなど、平準化に向けた取り組みを全庁的に支援・推進する姿勢を明確にします。
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 公共工事の月別稼働件数の変動係数(ばらつきを示す指標)を15%改善(平準化の度合いを測る)
      • データ取得方法: 月別の公共工事稼働件数データを収集し、統計的に変動係数を算出して経年比較します。
  • KSI(成功要因指標)
    • ゼロ債務負担行為を活用した発注契約件数を前年度比20%増
      • データ取得方法: 予算書及び契約締結状況に関する公開情報から実績件数をカウントします。
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 第1四半期(4~6月)における公共工事契約金額の割合が、年間契約総額の25%以上を達成
      • データ取得方法: 契約締結情報から四半期ごとの契約額を集計し、年間総額に対する割合を分析します。
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • ゼロ債務負担行為の設定額
      • データ取得方法: 予算書からゼロ債務負担行為の設定額を抽出します。
    • 発注部局と財政部局による「公共事業執行連絡会議」の開催回数(四半期に1回以上)
      • データ取得方法: 会議の議事録等で実施状況を確認します。

支援策③:執行管理のDXとEBPM(証拠に基づく政策立案)の推進

目的
  • デジタル技術を活用して事業の執行状況をリアルタイムに「見える化」し、遅延の兆候を早期に検知・共有することで、問題が深刻化する前に対応し、繰越の発生を未然に防ぐ、あるいは影響を最小限に抑制します。
  • 蓄積された繰越に関するデータを分析し、その根本原因を客観的に特定することで、個人の勘や経験に頼るのではなく、証拠(エビデンス)に基づいて予算編成プロセスや制度そのものを改善するEBPM(Evidence-based Policy Making)を推進します。
主な取組①:公共工事等執行管理システムの導入・活用
  • 工事の進捗状況、予算執行率、発生した課題、関係者との協議状況などを、関係部署(事業担当課、契約担当課、財政課等)がリアルタイムで一元的に共有できるプロジェクト管理システム(またはそれに類する情報共有基盤)を導入します。
  • これにより、担当者レベルでの問題の抱え込みを防ぎ、遅延リスクの兆候を組織として早期に発見し、迅速な意思決定と対応を可能にします。
    • 客観的根拠:
      • 富山県では、除雪車にGPSを設置して稼働状況をデータ化・分析し、効率的な除雪ルートの策定やコスト最適化に成功しています。このようなデータに基づく執行管理の考え方は、一般の公共工事にも応用可能です。
      • (出典)国土交通省「i-Construction を推進するための自治体の取組事例」 23
      • 民間企業では、契約管理システムの導入による業務効率化やリスク管理の高度化が一般的に行われており、自治体においても同様の効果が期待できます。
      • (出典)(https://www.hitachi-systems.com/ind/cydeen/item/keiyaku_jichitai/) 24
主な取組②:繰越実績データの分析と予算編成へのフィードバック
  • 過去5年程度の繰越案件データを網羅的にデータベース化し、「繰越理由」「事業分野」「担当部署」「繰越額」「当初計画からの遅延日数」等を多角的に分析します。
  • BI(ビジネスインテリジェンス)ツール等を用いてデータを可視化し、「どの部署の、どのような事業で、なぜ繰越が頻発しているのか」という傾向と根本原因を特定します。
  • 分析結果は、次年度の予算編成における事業査定や、特定部署への人員補強、業務プロセスの見直しといった具体的な改善策に直接フィードバックします。
主な取組③:会計検査院指摘事項の横展開とセルフチェックリストの導入
  • 会計検査院が国の決算検査報告で指摘した不適切な繰越事例(目的外使用、積算根拠資料の不存在、不適切な事故繰越の適用など)を教材として、自己点検用のチェックリストを作成します。
  • 予算要求時、契約時、繰越申請時など、予算執行の各段階で事業担当者がこのチェックリストを用いてセルフチェックを行うことを義務付け、コンプライアンス違反を未然に防止します。
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 「計画の精査不足」や「執行管理の不備」を根本原因とする繰越案件の件数を3年間で50%削減
      • データ取得方法: 支援策③-②で構築した繰越実績データベースから、繰越理由を分析・分類し、該当する案件数をカウントします。
  • KSI(成功要因指標)
    • 予算額1億円以上の主要な公共事業への執行管理システムの導入率100%
      • データ取得方法: システムの導入対象事業リストと実績を照合して確認します。
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • データ分析に基づいて立案・実行された業務プロセス改善提案の件数が年間5件以上
      • データ取得方法: 企画部門や財政部門で受理・検討された改善提案の記録を基にカウントします。
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • 繰越実績データベースの構築と全庁的な運用開始
      • データ取得方法: システム開発・導入プロジェクトの完了報告をもって確認します。
    • 会計検査院指摘事項に基づく自己点検チェックリストの作成と全庁業務マニュアルへの反映
      • データ取得方法: チェックリストの作成物及びマニュアルの改訂履歴をもって確認します。

先進事例

東京都特別区の先進事例

  • 特別区の事例は、国が主導する大規模な政策や広域的な制度改正に、各区がどのように対応しているかを示すものであり、共通の課題に対するアプローチとして大いに参考になります。

港区「大規模給付金事業における計画的な繰越活用」

  • 港区は令和5年度決算において、住民税非課税世帯等への生活支援給付金や子育て応援商品券事業など、国の経済対策に関連する大規模な事業で合計10億円を超える繰越明許費を計上しています。
  • これらの事業は、短期間での実施が求められる一方で、対象者の抽出、申請受付、審査、支給といった事務プロセスに相当の時間を要するため、年度内に完了させることが物理的に困難であることが当初から想定されていました。
  • 成功要因: 港区は、この状況を予見し、12月補正予算等の早い段階で計画的に繰越明許費を設定しました。これにより、年度をまたぐことを前提とした無理のない事務執行体制を構築し、現場の混乱を避けつつ、対象者への着実な給付を実現しています。これは、繰越を単なる予算執行の「失敗」と捉えるのではなく、複雑な事業を確実に遂行するための「計画的な手段」として戦略的に活用した好例といえます。

新宿区「法改正に伴うシステム改修での的確な繰越活用」

  • 新宿区は令和5年度決算において、戸籍法等の改正に伴う、既存の戸籍・住民記録システムへの氏名ふりがな追加対応などで、複数のシステム改修関連経費を繰越しています。
  • 成功要因: このような法改正への対応は、国が定めたスケジュールに沿って全国の自治体が一斉に行うものであり、特定の自治体の努力だけで開発・改修の納期を大幅に短縮することは不可能です。新宿区は、このような避けられない外部要因による事業の長期化に対し、適切に繰越制度を活用することで、システムの品質を犠牲にすることなく、法に定められた期限内での確実なサービス移行を目指しています。これは、外的要因による繰越の典型的な適正事例です。

千代田区「健全な財政運営下での繰越マネジメント」

  • 千代田区は、令和4年度決算において、歳入総額から歳出総額を差し引いた形式収支から、さらに翌年度へ繰り越すべき財源(繰越明許費等)を除いた、当該年度の実質的な収支を示す「実質収支」で17億6,011万9千円の黒字を確保しています。
  • 示唆される点: この決算では13.6億円を超える繰越額が発生している一方で、最終的な財政収支は健全な黒字を維持しています。これは、繰越の発生が必ずしも財政状況の悪化に直結するわけではないことを示唆しています。むしろ、計画的な財政運営の枠組みの中で、必要な事業を着実に執行するための手段として、繰越が適切にマネジメントされていると評価できます。

全国自治体の先進事例

  • 全国に目を向けると、より一歩踏み込んで繰越制度を戦略的に活用し、公共工事の平準化といった地域社会の課題解決に繋げている先進的な事例が見られます。

沖縄県浦添市「ゼロ債務負担行為と繰越明許費の連携による公共工事の平準化」

  • 浦添市は、公共工事の平準化を強力に推進するため、ゼロ債務負担行為と繰越明許費を組み合わせて戦略的に活用しています。
  • 具体的には、年度末(12月議会など)に、翌年度に実施予定の工事についてゼロ債務負担行為を設定し、前年度中からの入札・契約を可能にすると同時に、工期が年度をまたぐことが避けられない工事については繰越明許費も併せて設定します。
  • 成功要因: この二つの制度を連携させることで、年度明けを待たずに工事に着手でき、年度当初の閑散期(端境期)を解消し、年間を通じた工事量を平準化しています。この取り組みは、建設業界の経営の安定化と、労働者の処遇改善や雇用の安定に大きく貢献しており、持続可能な地域インフラの担い手確保につながる重要な施策です。

奈良県生駒市・北海道室蘭市「12月補正予算の活用による早期の工期設定」

  • 生駒市や室蘭市では、従来、年度末の3月議会で行われることが慣例化していた繰越明許費の設定を、前年の12月議会で積極的に行う運用を定着させています。
  • 成功要因: この一見単純な運用の変更が、大きな効果を生んでいます。12月の段階で次年度にまたがる工期が法的に確定するため、発注者である市役所も、受注者である建設業者も、余裕を持った人員配置や資材調達の計画を立てることが可能になります。これにより、年度末の駆け込み工事が減少し、工事全体の品質向上と、現場の安全確保に直結しています。このような「当たり前」の改革を徹底することが、行政への信頼を高める上で極めて重要です。

参考資料[エビデンス検索用]

国の審議会・省庁関連資料
東京都・特別区関連資料
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まとめ

 繰越明許費は、会計年度独立の原則の例外として、計画的かつ柔軟な財政運営に不可欠な制度です。近年の繰越額の増加は、コロナ対策等の大規模事業を反映したものですが、同時に予算執行の規律維持という課題も浮き彫りにしています。重要なのは、繰越額の多寡のみで是非を判断するのではなく、その理由と効果を検証することです。本報告書で提案した、手続きの迅速化、公共工事平準化等の戦略的活用、DXによる執行管理の高度化という3つの支援策を総合的に推進することで、財政の健全性と住民サービスの質を両立させることが可能です。
 本内容が皆様の政策立案等の一助となれば幸いです。
 引き続き、生成AIの動向も見ながら改善・更新して参ります。

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