05 特別区(23区)

【財政分析レポート】杉並区:コロナ禍前後の比較分析(令和元年度決算→令和5年度決算)

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目次
  1. はじめに
  2. エグゼクティブサマリー
  3. ①財政指標の状況
  4. ②1人当たり一般財源等と歳出ギャップ
  5. ③義務的経費(人件費・扶助費・公債費)の構造
  6. ④投資的経費の状況と起債発行余力
  7. ⑤性質別構成比のコロナ禍4年間の構造変化(令和元年度→令和5年度)
  8. 総論:規模・人口・財政力ポジション
  9. 歳入構造の特徴
  10. 目的別歳出の主要項目分析
  11. 性質別歳出の主要項目分析
  12. 議会答弁にみる財政運営の論点
  13. 構造的特徴と戦略的示唆
  14. まとめ
  15. 参考資料

はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載数字は普通会計ベースであるほか、数字のチェックは未実施であるため、あくまで傾向分析のレポートである点に留意してください。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。


 杉並区は、阿佐ヶ谷・荻窪・西荻窪・高円寺といった閑静な山の手住宅地と商店街文化を擁する人口約58.3万人の特別区です。安定的な住宅人口、子育て世帯と高齢者のバランスという人口特性、住宅地中心で阿佐ヶ谷・荻窪等の商店街・文化施設(座・高円寺等)という産業特性を持ち、特別区23区の中では「山の手大規模区」グループに位置づけられます。

 本分析は、財政指標・一般財源等のギャップ・義務的経費・投資的経費・コロナ禍4年間の構造変化の5軸で杉並区固有の財政運営の現状と中期論点を整理し、区の経営方針との突合、議会・予算編成過程にみる論点整理を経て、戦略的示唆へ接続します。なお、構成比は当該年度の決算総額に占める割合、金額は原則として億円単位(小数第1位まで)に丸めて表記し、構成比の差(ポイント)や変化率は丸め後の表示数値から算出しているため、端数処理の関係で内訳と合計等が一致しない場合があります。マイナスの数値は▲で表記します。また、本分析は令和元年度と令和5年度の両端比較であるため、令和2〜4年度に生じた特別定額給付金・ワクチン接種・検査体制等によるコロナ対応経費のピークとその縮小は捨象されている点に留意が必要です。

エグゼクティブサマリー

 コロナ禍4年間の杉並区財政を一言で要約すれば、「高い硬直度を保ったまま給付と委託で膨らみ、投資と基金を細らせた4年間」です。歳出総額は+14.0%(+278億円)と特別区平均(+19.5%)を下回る控えめなペースで拡大しました。経常収支比率は82.1%→80.7%とわずかに改善したものの、23区平均が大きく改善するなかで依然80%台に高止まりしています。投資的経費は13.11%→10.42%(▲2.69ポイント)と低下し、積立金フローも5.02%→4.28%(▲0.74ポイント)と細りました。人件費構成比は18.74%→15.46%と縮小しましたが、なお特別区平均を2.53ポイント上回る直営志向を残しており、「硬直度と直営構造という杉並区の体質が、コロナ禍を経ても大きくは変わらなかった4年間」といえます。

 本版で区の公表物と突合すると、この期間に杉並区は岸本聡子区長の下で住民参加型の区政運営へと舵を切りました。区民投票や各種アンケートを反映した予算編成、区独自の低所得者向け家賃助成といった住民協働の取組が特徴です。歳入面では都支出金が+60.6%と急増して構成比11.42%に達し、国・都の制度設計への連動性が高まりました。もっとも、ふるさと納税による住民税の流出は令和7年度に約60億円(前年度の約53.3億円を上回る)へと拡大し、硬直度の高い杉並区財政を直接圧迫しています。令和8年度一般会計当初予算は2,535億円(前年度比3.2%増)と過去最大を更新しました。コロナ後の課題は、高い硬直度と薄い基金フローの下で、公共施設の老朽化更新と税源流出に対処し、直営志向の歳出構造をどう見直すかにあります。

①財政指標の状況

 杉並区の主要財政指標は、総務省「地方公共団体の主要財政指標一覧」令和元年度・令和5年度版および公益財団法人特別区協議会「特別区の統計」に基づき、特別区23区単純平均と比較すると以下の構造にあります。

財政力指数

 令和元年度0.61→令和5年度0.60(▲0.01、23区平均0.581→0.571、▲0.010)です。23区でも中位の財政力を安定的に維持しており、安定した住宅人口を背景とした特別区民税がこれを支えています。

経常収支比率

 82.1%→80.7%(▲1.4ポイント、23区平均78.83%→76.18%、▲2.66ポイント)です。23区平均が大きく改善するなか、杉並区の改善はわずかにとどまり、令和5年度も80%を超える23区でも高い硬直度に高止まりしました。扶助費・繰出金・人件費という経常的経費が一般財源の大半を占める構造は変わらず、政策的経費への配分余地の乏しさが続いています。この硬直度の粘着性が、杉並区財政の最も注意すべき特徴です。

実質公債費比率

 ▲6.0%→▲4.6%(+1.4ポイント、23区平均▲3.06%→▲2.34%、+0.72ポイント)です。数値上は上昇しましたが、マイナス値は実質的な公債費負担が標準財政規模との対比で事実上ゼロ以下であることを意味し、23区平均も同方向に動いていることから、杉並区固有の悪化ではなく算定構造上の共通要因による変動と整理できます。杉並区はそのなかでもマイナス幅の大きい上位グループを維持しており、慎重な起債運営を反映しています。

将来負担比率

 地方債残高等の将来負担額を基金等の充当可能財源等が上回っているため、比率が算定されない(公表上「-」表記となる)状況が23区全区でコロナ禍4年間を通じて継続しています。市区町村の早期健全化基準(350%)とは比較にならない健全水準です。

ラスパイレス指数

 99.9→99.0(▲0.9、23区平均99.80→98.63)で、国家公務員給与水準(=100)とほぼ同等の標準的水準にあります。ラスパイレス指数は地域手当等を含まない給料ベースの比較である点には留意が必要ですが、人件費構成比の高さと併せて職員給与・定数の中期的最適化が論点となり得ます。

②1人当たり一般財源等と歳出ギャップ

 令和5年度の杉並区の歳入総額は2,372.6億円、歳出総額は2,259.0億円であり、4年間で歳入は+319億円・+15.5%、歳出は+278億円・+14.0%と特別区平均(歳入+20.0%・歳出+19.5%)を下回るペースで拡大しました。投資的経費の抑制が歳出の伸びの緩やかさに表れています。特別区税構成比30.25%・特別区財政調整交付金構成比22.11%(令和元年度23.60%、▲1.49ポイント)との組み合わせで一般財源を確保する構造です。

 足元では、令和8年度一般会計当初予算が2,535億円(前年度比79億円・3.2%増、岸本聡子区長が令和8年2月2日に発表)と過去最大を更新しました。区はこれを「区民のいのちと暮らしを守るための取組に予算を重点的に計上」する予算と位置づけ、子ども・学び、健康・共生社会、防災・みどり・地域といった分野に加え、平和関連施策、多文化共生の推進、教育環境の充実、区民投票・各種アンケートを反映した住民参加型の予算編成を特徴としています。硬直度の高い財政の下で、歳出に対し一般財源等が不足しやすい財政環境の継続が想定され、歳出と一般財源等のギャップへの対応として財政基金の戦略的活用と歳入確保策の両面が中期的論点となります。

③義務的経費(人件費・扶助費・公債費)の構造

 義務的経費は人件費・扶助費・公債費の3項目で構成され、杉並区の令和5年度実績は人件費349.3億円(構成比15.46%)、扶助費738.9億円(同32.71%)、公債費28.8億円(同1.28%)、合計49.45%の水準です。特別区平均は人件費12.93%・扶助費31.74%・公債費1.27%の合計45.94%であり、杉並区の義務的経費合計は特別区平均比+3.51ポイントと、23区でも重い部類にあります。

人件費

 令和元年度18.74%→令和5年度15.46%へ▲3.27ポイント縮小しました。会計年度任用職員制度の導入による人件費への編入という押し上げ要因があったにもかかわらず縮小しており、絶対額でも371.2億円→349.3億円(▲5.9%)と減少しました。それでも特別区平均を+2.53ポイント上回る直営志向が続く点が杉並区の特徴です。

扶助費

 29.49%→32.71%へ+3.22ポイントと大きく拡大しました。58万人規模ゆえの法定扶助の絶対額の大きさに、コロナ収束後も水準が戻らない構造的な積み上がりが加わっています。

公債費

 1.41%→1.28%へ▲0.13ポイントと小幅に縮小しました。慎重な起債運営を反映した平均並みの水準で、起債発行余力の源泉となっています。

 義務的経費は法定義務の性格上抑制余地が限定的ですが、杉並区の場合はとりわけ人件費(直営構造)の見直しと、扶助費の給付プロセスの効率化(資格審査・AI・RPA活用)が現実的な改善余地となります。

④投資的経費の状況と起債発行余力

 令和5年度の杉並区の投資的経費(普通建設事業費+災害復旧事業費)は235.4億円(構成比10.42%)であり、特別区平均比▲2.65ポイントの位置にあり、令和元年度の260.0億円(構成比13.12%)から▲9.4%・▲2.70ポイントと低下しました。コロナ対応が優先されるなかで投資が抑制された局面ですが、今後は公共施設老朽化対応と学校改築により拡大に転じます。

 今後の投資需要の中核は、高度経済成長期に整備された公共施設の老朽化対応です。区立小中学校については、杉並区立小中学校老朽改築計画(平成26年策定)に基づき計画的な改築を進めており、住宅地として児童数が比較的安定しているため統廃合よりも改築が中心となります。あわせて荻窪・阿佐ヶ谷等の駅周辺のまちづくりや区立施設の再編も進行します。

 起債発行余力は、公債費1.28%・実質公債費比率▲4.6%という水準に表れる通り、慎重な起債運営により温存されています。もっとも、経常収支比率80.7%という高い硬直度と積立金フロー4.28%という薄い基金の下では、施設更新の財源をどう確保するかが切実な課題です。温存された起債余力と基金を計画的に組み合わせることが、起債活用と財政健全性両立の要諦となります。

⑤性質別構成比のコロナ禍4年間の構造変化(令和元年度→令和5年度)

 杉並区の歳出構造は令和元年度から令和5年度の4年間で変容しました。性質別構成比の主要項目を比較すると、以下の通りの変動が見られます。

人件費

 18.74%から15.46%(▲3.27ポイント)へと縮小しました。

物件費

 17.30%から19.05%(+1.75ポイント)へと拡大しました。

扶助費

 29.49%から32.71%(+3.22ポイント)へと拡大しました。

補助費等

 5.22%から6.89%(+1.67ポイント)へと拡大しました。

普通建設事業費

 13.11%から10.42%(▲2.69ポイント)へと縮小しました。

公債費

 1.41%から1.28%(▲0.13ポイント)へと小幅に縮小しました。

積立金

 5.02%から4.28%(▲0.74ポイント)へと縮小しました。

 総じて「人件費・普通建設事業費・積立金の縮小と、物件費・扶助費・補助費等の拡大」というコロナ禍の構造調整パターンを、杉並区も特別区共通の傾向に沿って経験しました。もっとも杉並区の特徴は、投資的経費・積立金の低下と、人件費が縮小しつつなお平均を上回る直営志向の残存にあり、硬直度の高い体質が大きくは変わらなかった点です。目的別では、教育費が12.91%→15.51%(+2.61ポイント)、衛生費が6.94%→8.67%(+1.74ポイント)と上昇する一方、土木費が7.95%→6.17%(▲1.78ポイント)と低下し、民生費は53.98%→54.96%と高水準を維持しました。「投資から給付へ」の潮流にコロナ禍の重点シフトが重なって進行しました。

総論:規模・人口・財政力ポジション

基礎情報と23区内ポジション

 杉並区は、阿佐ヶ谷・荻窪・西荻窪・高円寺といった閑静な山の手住宅地と商店街文化を擁する人口約58.3万人の特別区です。住宅地が中心で、阿佐ヶ谷・荻窪等の商店街、座・高円寺等の文化施設を基盤とし、安定的な住宅人口と子育て世帯・高齢者のバランスが人口動態の特徴です。

 23区内では「山の手大規模区」グループに分類され、財調受給型構造のなかでも中位の財政力を持ちます。岸本聡子区長の下、区独自の低所得者向け家賃助成や区民投票を含む住民参加型の予算編成に取り組んでいる点が、区政運営の特徴です。高齢化の進展、商店街の活性化、首都直下地震対策、公共施設の老朽化という固有課題への対応が、杉並区の財政運営における最大の中期論点となります。

杉並区の経営方針

 杉並区の経営方針は、最上位計画である杉並区新基本構想を頂点に、杉並区総合計画(令和6年度〜・29施策)、杉並区実行計画(第2次)、区政経営改革推進計画(第2次・令和6年度〜)、杉並区区立施設マネジメント計画(第1期)・第1次実施プラン、杉並区職員定数計画等の複数の計画体系で構成されており、これらの一体運用により持続可能な自治体経営の実現を目指しています。

基本構想

 杉並区新基本構想は、今後10年程度を展望する最上位指針で、将来像として「みどり豊かな住まいのみやこ」(令和3年10月策定)を掲げています。閑静な山の手住宅地と商店街文化という地域特性を活かしつつ、人口構造の変化・超高齢社会の進展を見据えた区政運営の理念を示しています。

基本計画(実施計画を含む)

 杉並区総合計画(令和6年度〜・29施策)は基本構想を実現するための中期的な施策体系を示すもので、政策・施策・事務事業の階層構造で整理され、各分野でKGI・KPIを設定しPDCAサイクルによる進捗管理を行う構造です。これを具体化する杉並区実行計画(第2次)が、各年度予算編成と直結する事業ベースの実行計画として機能しています。令和8年度予算における重点施策(区民のいのちと暮らしを守る予算、平和関連施策、多文化共生の推進、教育環境の充実、住民参加型の予算編成)も、基本構想・総合計画の方針と直結した政策展開です。

行財政改革・経営改革の取組

 杉並区は、区政経営改革推進計画(第2次・令和6年度〜)を策定し、区政経営改革・協働・デジタル化の3つの基本方針のもと、住民参加型の区政運営を推進しています。区民投票や各種アンケートを反映した予算編成、区独自の低所得者向け家賃助成等、住民協働を軸とする点が杉並区の経営改革の特徴です。硬直度の高い財政の下で、住民参加を通じた事業の優先順位づけと経常経費の見直しをどう両立させるかが、経営改革の焦点となります。

公共施設の総合的・計画的管理

 杉並区も特別区共通の課題として、高度経済成長期に整備された公共施設の一斉老朽化に直面しており、杉並区区立施設マネジメント計画(第1期)・第1次実施プランに基づき、区立施設の更新・再編・長寿命化・利活用等を区民と共に考えながら総合的・計画的に推進しています。学校施設の改築需要は今後の投資的経費の中核であり、区立小中学校の計画的な改築(老朽改築計画・平成26年策定)を、児童数が比較的安定していることを踏まえ統廃合よりも改築中心で進めています。

職員定数の管理

 杉並区が直面する経営課題の一つが、杉並区職員定数計画に基づく職員定数の管理です。多様化・複雑化する行政需要に対応する業務量の増加と、定年退職の増加・採用環境の悪化に伴う職員確保の困難という需給ギャップへの対応が求められています。人件費構成比が23区平均を上回る杉並区にとって、直営構造の見直しと定数管理は財政運営上とりわけ重い論点です。

特別区職員採用を巡る環境

 特別区人事委員会が実施するⅠ類採用試験の申込者数・倍率は長期的な低下傾向にあります。平成22年度には申込者19,910人・倍率7.6倍であったものが、令和6年度には申込者5,179人・倍率2.1倍まで低下しており、人材確保の困難さが23区共通の構造的課題となっています。

区の対応と重要性

 これに対し区は、人材確保(採用数の増加・長く働き続けられる環境整備・会計年度任用職員の活用)と業務量最適化(事務事業の見直し・民営化・委託化・DX推進・業務改革)の両面から対応を進めており、財政運営の質を支える「ヒト」という経営資源の確保が、令和9年度以降の予算編成における最重要視点となります。

財政運営の目標値と実績の突合

 本版で新たに、区が総合計画・区政経営改革推進計画等で示す考え方とコロナ禍を経た実績を突き合わせます。杉並区は数値目標を前面に掲げた中期財政計画を持たないため、ここでは区の公表する方針・実績を「区の物差し」として用います。

財政の弾力性:経常収支比率82.1%→80.7%と高止まり

 杉並区の経常収支比率は、コロナ前の82.1%からコロナ後の80.7%へわずかに改善したものの、23区平均が大きく改善するなかで80%超に高止まりしました。扶助費・繰出金・人件費という経常的経費が一般財源の大半を占める構造は変わらず、施設更新に伴う経費増を織り込むと硬直度はさらに高まる方向にあります。いかに経常経費の膨張を抑えるかが、財政運営の前提課題です。

住民参加型の財政運営:区民投票と低所得者家賃助成

 この期間に杉並区は岸本区長の下で、区民投票や各種アンケートを反映した予算編成、区独自の低所得者向け家賃助成といった住民協働を軸とする区政運営へと舵を切りました。硬直度の高い財政の下で、限られた政策的経費の配分に住民の意思を反映させる試みですが、住民ニーズを反映した給付・事業が経常経費を押し上げる面もあるため、参加型のプロセスと財政規律をどう両立させるかが、杉並区固有の論点です。

慎重な起債と薄い基金:実質公債費比率▲4.6%・積立金5.02%→4.28%

 実質公債費比率▲4.6%・公債費1.28%という慎重な起債運営により、起債発行余力は温存されています。一方、積立金フローはコロナ禍4年間で5.02%→4.28%へと細り、施設更新ピーク期や景気後退局面での財政対応力の制約となります。温存された起債余力を計画的に活用しつつ、基金フローを引き上げることが、硬直度の高い杉並区にとって重要な備えです。

区政経営改革推進計画:協働・デジタル化・住民参加

 区政経営改革推進計画(第2次・令和6年度〜)は、区政経営改革・協働・デジタル化の3基本方針を掲げます。硬直度が高く直営志向の強い杉並区にとって、コロナ禍で加速したデジタル化による業務効率化と、協働による事業の見直しが、経常経費抑制の鍵となります。計画がどの規模で経常経費を抑制し、直営構造の見直しを進められるかが、経営改革の実効性を測る焦点です。

歳入構造の特徴

 令和5年度の杉並区歳入総額2,372.6億円の主要項目を、構成比・特別区平均との差・令和元年度→令和5年度の4年間変化率の3軸で分析します。歳入総額は令和元年度の2,053.7億円から+15.5%増加しました。

特別区税(構成比30.25%・717.7億円)

 特別区税構成比は特別区平均(25.31%)と比較して+4.94ポイントの位置にあり、自主財源基盤を一定程度確保している区です。4年間の変化率は+7.5%(特別区平均+9.9%)と平均を下回り、令和元年度の667.6億円から令和5年度の717.7億円へ推移しました。構成比は32.51%→30.25%へ▲2.26ポイント低下しました。安定した住宅人口を背景としつつ、法人集積が限定的で税収の伸びが緩やかであり、ふるさと納税流出(令和7年度約60億円)が伸びをさらに抑制しています。

特別区財政調整交付金(構成比22.11%・524.6億円)

 特別区財政調整交付金構成比は特別区平均(24.75%)比▲2.64ポイントの位置にあり、財調制度の動向が杉並区財政に標準的に作用する構造です。4年間の変化率は+8.2%(特別区平均+10.0%)で、令和元年度の484.7億円から令和5年度の524.6億円へ推移しました。制度面では、令和7年度から配分割合が55.1%から56%へ引き上げられ、併せて特別交付金の割合も5%から6%に変更されており、今後の歳入見通しの変数として作用します。

国庫支出金(構成比15.83%・375.5億円)・都支出金(構成比11.42%・270.9億円)

 国庫支出金は令和元年度309.1億円→令和5年度375.5億円へ+21.5%増加し、構成比は15.05%→15.83%へ+0.77ポイント変化しました。都支出金は令和元年度168.7億円→令和5年度270.9億円へ+60.6%と大きく増加し、構成比は8.21%→11.42%へ+3.20ポイント上昇しています。これは、東京都が広域自治体として実施したコロナ関連支援策・物価高対策・子育て支援策の補助金フローが、区を経由して住民に届けられた構造変化を示しており、コロナ禍4年間で最も大きく動いた歳入項目です。国・都の負担金を伴う法定扶助には区の一般財源負担(裏負担)が組み込まれているため、移転財源の拡大は区の経常負担の拡大と表裏一体である点に留意が必要です。

地方消費税交付金・寄附金・地方債

 地方消費税交付金は令和元年度91.9億円→令和5年度135.2億円へ+47.2%増加し、消費税率10%への引き上げ効果の通年化が歳入を下支えしました。寄附金は令和元年度0.7億円→令和5年度0.4億円で受入は限定的です。一方、ふるさと納税による住民税の流出は令和7年度に約60億円(前年度の約53.3億円を上回る)へ拡大し、10年前と比べて約133倍に膨らんでいます。区は「杉並版ふるさと納税」の取組で受入を進めていますが、流出の規模には遠く及びません。法人住民税の一部国税化と合わせた不合理な税源偏在是正措置による一般財源毀損は、硬直度の高い杉並区にとってとりわけ痛手であり、特別区長会・東京都との連携による制度抜本見直し要求が継続されています。地方債は令和元年度53.2億円→令和5年度31.6億円へ推移し、構成比は2.59%→1.33%(特別区平均2.05%)の位置にあります。

目的別歳出の主要項目分析

 令和5年度の杉並区歳出総額2,259.0億円を目的別に主要項目で分析します。歳出総額は令和元年度の1,981.4億円から+14.0%増加しました。

民生費(構成比54.96%・1,241.5億円)

 社会福祉・児童福祉・老人福祉・生活保護等の福祉関連経費で、歳出総額の最大費目であり扶助費の大部分を含みます。令和5年度の構成比54.96%は特別区平均50.79%と比較して+4.17ポイント、4年間の変化率は+16.1%(特別区平均+17.0%)で、令和元年度の1,069.6億円から令和5年度の1,241.5億円へ推移しました。構成比は53.98%→54.96%と高水準を維持しています。子育て世帯と高齢者がバランスする人口構成を反映し、法定扶助が民生費全体を押し上げています。

総務費(構成比11.41%・257.8億円)

 内部管理・庁舎管理・人事・徴税・選挙・統計調査・DX投資等を含みます。令和5年度の構成比11.41%は特別区平均13.17%と比較して▲1.76ポイント、4年間の変化率は▲11.2%で、令和元年度の290.2億円から令和5年度の257.8億円へ減少しました。構成比は14.65%→11.41%へ▲3.23ポイント低下しています。人件費比重の高い杉並区では、内部管理・直営体制の効率化とDX投資が総務費・人件費の双方に関わる論点です。

教育費(構成比15.51%・350.5億円)

 学校教育・社会教育・保健体育を含みます。令和5年度の構成比15.51%は特別区平均14.28%と比較して+1.23ポイント、4年間の変化率は+37.0%(特別区平均+20.9%)と平均を大きく上回り、令和元年度の255.8億円から令和5年度の350.5億円へ推移しました。構成比は12.91%→15.51%へ+2.61ポイント上昇しています。GIGAスクール環境整備・給食費無償化に加え、区立小中学校の計画的改築が教育費を押し上げています。

衛生費(構成比8.67%・195.9億円)

 保健衛生・環境衛生・清掃・公衆衛生を含みます。令和5年度の構成比8.67%は特別区平均8.10%と比較して+0.57ポイント、4年間の変化率は+42.6%(特別区平均+39.2%)と大きく増加し、令和元年度の137.4億円から令和5年度の195.9億円へ推移しました。構成比は6.94%→8.67%へ+1.74ポイント上昇しており、コロナ禍における保健所機能の強化・予防接種事業の拡大等が反映されています。なお令和5年度は5類移行年度であり、両端比較の性質上、令和3〜4年度のピーク時の衛生費はさらに高水準であった点に留意が必要です。

土木費・商工費・消防費・公債費

 土木費(道路・橋りょう・公園・都市計画・住宅)は令和元年度157.6億円→令和5年度139.4億円へ▲11.5%減少し、構成比は7.95%→6.17%(特別区平均9.29%)へ低下しました。維持管理フェーズへの移行を反映していますが、荻窪・阿佐ヶ谷等の駅周辺まちづくりの進捗で再び投資局面を強める可能性があります。商工費は令和元年度15.2億円→令和5年度19.2億円へ+26.8%変化し、コロナ禍の中小企業支援・商店街振興が反映されています。消防費は令和元年度9.3億円→令和5年度10.4億円へ+11.6%変化しました。公債費は令和元年度27.9億円→令和5年度28.8億円へ+3.5%変化し、構成比は1.41%→1.28%へ▲0.13ポイント低下、慎重な起債運営を反映しています。

性質別歳出の主要項目分析

人件費(構成比15.46%・349.3億円)

 人件費構成比は特別区平均12.93%比+2.53ポイントと平均を上回り、直営事業比重の高さを反映します。令和元年度の18.74%から令和5年度の15.46%へ▲3.27ポイント低下し、絶対額も371.2億円→349.3億円(▲5.9%)と減少しました。会計年度任用職員制度による人件費への編入を踏まえると、実質的な縮減は進んでいると解釈できますが、なお平均を上回る直営志向が続きます。ラスパイレス指数99.0(4年間で▲0.9)は職員給与の中期的最適化の論点を示します。

扶助費(構成比32.71%・738.9億円)

 扶助費は特別区平均31.74%を+0.97ポイント上回る水準で、絶対額は令和元年度の584.3億円から令和5年度の738.9億円へ+26.5%増加、構成比は29.49%→32.71%へ+3.22ポイント上昇しました。生活保護費・障害福祉サービス費・児童手当・子ども子育て給付等の法定扶助が中心です。コロナ禍の臨時給付の多くは補助費等に計上されたため、この期間の扶助費増加は構造的な積み上がりであり、58万人規模ゆえの絶対額の大きさが経常収支の硬直度を根底で規定しています。

物件費(構成比19.05%・430.3億円)

 業務委託料・指定管理料・情報システム経費等で構成され、特別区平均18.39%比+0.66ポイントです。令和元年度17.30%→令和5年度19.05%へ+1.75ポイント上昇し、絶対額は342.8億円→430.3億円(+25.5%)と拡大しました。コロナ対応の業務委託費、GIGAスクール関連経費、電力・ガス・燃料費の高騰、各種システム経費の拡大が複合的に作用しています。人件費が平均を上回る杉並区では、直営から委託への転換余地が他区より大きい一方、委託の長期契約化による固定費化に留意が必要です。

公債費・積立金・普通建設・繰出金

 公債費は特別区平均1.27%比+0.01ポイントとほぼ同水準で、実質公債費比率▲4.6%は早期健全化基準25%を大幅に下回り、慎重な起債運営の帰結です。積立金構成比は4.28%(特別区平均6.07%比▲1.79ポイント)で、令和元年度5.02%→令和5年度4.28%へ▲0.74ポイントと細りました。施設更新に向けて基金積立フローを引き上げる目標化が、令和9年度以降の予算編成における重要論点です。普通建設事業費は特別区平均13.07%比▲2.65ポイント、令和元年度13.11%→令和5年度10.42%へ▲2.69ポイント低下し、絶対額は259.8億円→235.4億円(▲9.4%)と推移しました。繰出金は国民健康保険・後期高齢者医療・介護保険等の特別会計への繰出が中心で、構成比は9.02%→9.15%(特別区平均7.87%)へ上昇し、58万人規模の高齢化に伴う保険給付の構造増を反映した経常収支の硬直度を押し上げる主要因の一つです。

議会答弁にみる財政運営の論点

 本版で新たに、杉並区議会の予算特別委員会・区の予算プレス資料・ふるさと納税に関する公表資料等から、財政運営に関する直近の論点を整理します。引用はいずれも要旨であり、正確な内容は区議会の公式会議録および区の公表資料をご確認ください。

論点①:ふるさと納税と不合理な税制改正の影響

 杉並区はふるさと納税による住民税の流出が令和7年度に約60億円(前年度の約53.3億円を上回る)に達し、10年前と比べ約133倍に膨らんだことを、区民サービスの低下につながりかねない問題として区民に発信しています。区は「杉並版ふるさと納税」の取組で受入も進めていますが、流出の規模には遠く及びません。硬直度が高く基金フローの薄い杉並区にとって、約60億円規模の流出は一般財源を直接削る深刻な打撃であり、返礼品による受入開拓と、特別区長会「ふるさと納税制度に対する特別区の主張」(令和7年8月)に沿った制度の抜本見直し要求の両立が、議会審議の継続的な論点です。

論点②:住民参加型の予算編成と財政の持続可能性

 コロナ後の令和8年度予算(2,535億円・前年度比3.2%増)は「区民のいのちと暮らしを守る」を基調に、区民投票や各種アンケートを反映した住民参加型の予算編成を特徴としました。予算特別委員会では、経常収支比率80.7%という23区でも高い硬直度と積立金フロー4.28%という薄い基金の下で、住民ニーズを反映した給付・事業の拡充と財政規律をどう両立させるか、事務事業評価に基づく歳出精査が論点となります。参加型のプロセスが事業の優先順位づけと経常経費の抑制にどうつながるかが、財政の持続可能性を測る焦点です。

論点③:直営構造の見直しと公共施設老朽化への対応

 杉並区は人件費構成比15.46%(特別区平均比+2.53ポイント)という直営志向の強い区であり、これが経常収支の硬直度を押し上げる一因です。あわせて、公共施設の老朽化と区立小中学校の計画的改築(老朽改築計画)が、コロナ禍で抑制された投資的経費(10.42%)を今後押し上げます。硬直度が高く基金フローの薄い財政の下で、直営構造の見直しによる経常経費の抑制と、施設更新の財源確保(温存された起債余力と基金の計画的活用)をどう進めるかが、区政経営改革推進計画・区立施設マネジメント計画の実行を通じた中期財政運営の焦点となります。

構造的特徴と戦略的示唆

 本分析の総まとめとして、杉並区財政の構造的な特徴・構造的な課題・対応の方向性の3軸で論点を整理します。

構造的な特徴

特徴①:主要財政指標の総合評価

 杉並区の主要財政指標を総合評価すると、財政力指数0.60(23区平均0.571比+0.03)・経常収支比率80.7%(23区平均76.18%比+4.52ポイント)・実質公債費比率▲4.6%(23区平均▲2.34%比▲2.26ポイント)・ラスパイレス指数99.0(23区平均98.63比+0.37)の組み合わせから、慎重な起債運営で健全性を保ちながら、経常収支の硬直度が高く直営志向の強い杉並区固有のポジションが浮かび上がります。

特徴②:歳入構造とコロナ禍4年間の変化

 杉並区の歳入構造は、特別区税構成比30.25%(特別区平均比+4.94ポイント)、特別区財政調整交付金構成比22.11%(同▲2.64ポイント)、国庫支出金15.83%・都支出金11.42%の組み合わせで構成されます。コロナ禍4年間で最も顕著な変化は都支出金構成比の上昇(8.21%→11.42%、+3.20ポイント)であり、国・都の制度設計への依存度が高まった点が特徴です。

特徴③:義務的経費の構造

 令和5年度の義務的経費(人件費・扶助費・公債費)は合計49.45%で、特別区平均45.94%を+3.51ポイント上回る重い構造です。4年間で人件費構成比は▲3.27ポイント、扶助費構成比は+3.22ポイント、公債費構成比は▲0.13ポイント変動し、人件費が縮小しつつなお平均を上回る点が特徴です。

特徴④:投資的経費の動向と起債発行余力

 投資的経費(普通建設事業費+災害復旧事業費)は構成比10.42%(特別区平均13.07%比▲2.65ポイント)で、4年間で13.12%→10.42%へ▲2.70ポイント低下しました。公債費1.28%・実質公債費比率▲4.6%の慎重な起債運営は、今後の施設更新に対する発行余力が温存されていることを示します。

特徴⑤:基金フローと将来投資余力

 積立金フローは5.02%→4.28%へ細り、特別区平均を下回るやや薄い水準となりました。経常収支比率80.7%という高い硬直度と合わせ、施設更新ピーク期や景気後退局面での財政対応力の制約を示します。

構造的な課題

課題①:経常収支の高い硬直度と基金フローの薄さ

 経常収支比率80.7%(特別区平均比+4.52ポイント)という高い硬直度と、積立金フロー4.28%(同▲1.79ポイント)という薄い基金フローの組み合わせが、杉並区財政の最大の構造課題です。コロナ禍を経ても硬直度が大きく改善しなかった粘着性が、財政の対応力を制約します。

課題②:人件費(直営構造)の重さ

 人件費構成比15.46%(特別区平均比+2.53ポイント)という直営志向は杉並区固有の重さであり、経常収支の硬直度を押し上げる一因です。委託化・業務改革の余地を残しており、直営構造の見直しが中期の重点課題です。

課題③:扶助費・繰出金・物件費の構造的拡大

 扶助費(32.71%)・繰出金(9.15%)・物件費(19.05%)という経常的経費が、58万人規模ゆえの絶対額の大きさで積み上がり、いずれも抑制余地が限定的です。これらの構造的経費の管理が、硬直度を左右する中期論点です。

課題④:公共施設老朽化・学校改築と投資的経費の本格化

 高度経済成長期に集中整備された区有施設の一斉老朽化と、区立小中学校の計画的改築(老朽改築計画)が、コロナ禍で抑制された投資的経費を今後押し上げます。硬直度が高く基金フローの薄い中で、温存された起債余力と基金の計画的活用による財源確保が中期論点です。

課題⑤:ふるさと納税流出と法人住民税国税化による財源毀損

 ふるさと納税による流出は令和7年度約60億円と大きく、法人住民税の一部国税化と合わせた税源毀損は、硬直度の高い杉並区の一般財源を直接削ります。制度抜本見直し要求の継続と、杉並版ふるさと納税による受入開拓が必要です。

課題⑥:職員定数管理と業務量増加の需給ギャップ

 多様化・複雑化する行政需要に対応する業務量の増加と、定年退職の増加・採用試験倍率の低下(平成22年度7.6倍→令和6年度2.1倍)による職員確保の困難という需給ギャップが、23区共通の構造的課題となっています。コロナ禍4年間で人件費が▲5.9%にとどまる一方、業務領域は拡大しており、職員一人当たり負担の実質的増加が進行しています。人件費比重の高い杉並区では、この課題は直営構造の見直しと表裏一体です。

対応の方向性(案)

方向性①:扶助費の給付プロセス効率化

 扶助費の給付水準そのものは法定で抑制余地が限定的ですが、資格審査の精度向上による不適正給付の防止、AI・RPAによる事務自動化、自立支援の強化、ケースワーカー業務のデジタル化を一体的に進めることで、給付の質を維持しながら事務コストを圧縮する余地があります。

方向性②:基金・起債の戦略的活用と世代間負担調整

 細った基金積立フローを中期的に引き上げる目標化と、慎重な起債運営で温存した発行余力を施設更新・学校改築に計画的に活用する戦略が要諦です。毎年度の公債費増加が新規事業の一般財源を圧迫しない範囲に収める仕組みを中期財政運営に組み込みます。

方向性③:公共施設マネジメントの高度化

 杉並区区立施設マネジメント計画(第1期)・第1次実施プランに基づき、長寿命化、複合化・集約化、民間活力の活用、未利用地の利活用を、区民と共に考える住民参加型の再編プロセスとともに推進します。

方向性④:DX投資による業務改革と人材確保

 直営構造の見直しを含むコロナ禍で加速したDX・生成AI・RPAによる定型業務の自動化、業務委託の質的見直しと長期契約最適化、複数自治体での共同調達、事業評価・住民参加に基づく事務事業の見直しを一体的に進めるとともに、処遇改善・職場環境整備・メンタルヘルス対策・育児介護両立支援等のエンプロイヤーブランディング投資により職員確保困難に対応します。

方向性⑤:税源偏在是正措置への対抗

 ふるさと納税流出(令和7年度約60億円)・法人住民税国税化による一般財源毀損に対しては、特別区長会・東京都と連携した制度抜本見直し要求の継続が不可欠です。同時に、杉並版ふるさと納税とシティプロモーションによる受入開拓を補完策として進めます。

方向性⑥:行財政改革・経営改革計画の着実な実行

 既に策定済みの区政経営改革推進計画(第2次・令和6年度〜)の着実な実行に加え、進捗のモニタリングと外部環境変化への機動的な見直し、計画間の連動性確保が、中期的な経営改革の継続的成果に直結します。硬直度が高く直営志向の強い財政の下で、協働・デジタル化による経常経費の抑制が、他区以上に切実な意味を持ちます。

まとめ

 杉並区の財政運営は、コロナ禍4年間(令和元年度→令和5年度)で財政力指数0.61→0.60(▲0.01)、経常収支比率82.1%→80.7%(▲1.4ポイント)、実質公債費比率▲6.0%→▲4.6%(+1.4ポイント)、ラスパイレス指数99.9→99.0(▲0.9)という主要財政指標の動きを示しました。歳出規模は+14.0%・+278億円と特別区平均を下回る控えめなペースで拡大した一方、経常収支比率は80%台に高止まりし、投資的経費(13.11%→10.42%)と積立金フロー(5.02%→4.28%)が細りました。硬直度と直営構造という杉並区の体質が、コロナ禍を経ても大きくは変わらなかった4年間です。

 本版の突合で確認した通り、この期間に区は岸本区長の下で住民参加型の区政運営へと舵を切りつつ、ふるさと納税による流出は令和7年度約60億円へ拡大し、公共施設の老朽化・学校改築という投資需要も控えています。令和8年度予算2,535億円(過去最大・3.2%増)が象徴する「区民のいのちと暮らしを守る」予算の下で、高い硬直度と薄い基金フローをどう改善し、直営構造の見直しと施設更新を進めるかが、中期の分水嶺となります。これらの構造的特徴と課題を踏まえると、本稿の「対応の方向性(案)」で整理した6つの戦略軸を、令和9年度以降の予算編成・中期財政運営において一体的に推進することが求められます。

戦略軸の推進と経営改革

効率化によるコスト抑制

 資格審査の精度向上・AIやRPAによる事務自動化・自立支援強化により、法定で抑制余地が限定的な扶助費の質を維持しながら事務コストを圧縮します。

財政運用の平準化

 細った基金積立フローの引き上げと、慎重な起債運営で温存した発行余力の計画的活用を、世代間負担調整の考え方とともに中期財政運営に組み込みます。

包括的な資産管理

 杉並区区立施設マネジメント計画に基づく長寿命化・複合化・集約化・民間活力活用・未利用地利活用を、区民と共に考える住民参加型の再編プロセスとともに推進します。

業務プロセス改革と職場投資

 直営構造の見直しを含むコロナ禍で加速したDX・生成AI・RPAによる定型業務自動化、業務委託の質的見直し、複数自治体での共同調達、事業評価・住民参加に基づく事務事業の見直しを一体的に進めるとともに、処遇改善・メンタルヘルス対策・育児介護両立支援等のエンプロイヤーブランディング投資により職員確保困難に対応します。

税源対策の実施

 特別区長会・東京都と連携した制度抜本見直し要求を継続し、杉並版ふるさと納税とシティプロモーションによる受入開拓を補完策として進めます。

行財政改革および経営改革の継続的実行

 区政経営改革推進計画(協働・デジタル化・住民参加)の着実な実行による経常経費の抑制、進捗モニタリング、外部環境変化への機動的見直しが、硬直度の高い杉並区財政の中期的な立て直しに直結します。

「ヒト」という経営資源における深刻な課題

 また、これら戦略軸の実行を支える前提として、経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)の中でも「ヒト」の問題への対応が極めて重要な論点となります。杉並区の人件費は令和元年度の371.2億円から令和5年度の349.3億円へ▲5.9%と減少した一方、歳出総額は1,981.4億円から2,259.0億円へ+14.0%拡大しており、職員1人当たりが担う歳出規模の負担はコロナ禍4年間でさらに増しています。人件費比重の高い杉並区にとって、この「ヒト」の課題は財政運営と直結します。決算額と業務量は必ずしも比例するものではありませんが、この4年間で職員1人が背負う行政運営の規模感が大幅に増している事実は明白です。職員定数計画が示唆する「業務量が職員定数を上回る転換期」の到来は、財政指標のいずれよりも深刻な構造課題です。

現場職員の負担と組織の持続可能性

 さらに、職員のプライベートな側面についても看過できません。共働き世帯の増加、未就学児を抱える子育て世代の急増、親世代の介護問題の本格化(いわゆるダブルケア・ヤングケアラー問題を含む)等により、職員一人ひとりが家庭で担う負担も従来比で大きく増しています。一人の人間が公務員として担えるキャパシティという観点から見ると、現場はかなり厳しい状況にあるのではないかと推察されます。コロナ禍4年間の対応がこの構造を一段と顕在化させたといえます。メンタル不調による病気休職者の増加傾向が公務職場の課題として指摘される背景には、職場と家庭双方からの過重負荷が複合的に作用している可能性があると考えられます。

自治体経営としての最重要論点

 だからこそ、杉並区の自治体経営としては、持続可能な財政運営に加えて「業務量の削減」を経営上の最重要課題として位置づけることが求められます。具体的には、方向性①の扶助費給付プロセス効率化、方向性④の直営構造の見直しを含むDX・生成AI・RPAによる定型業務自動化と事業評価に基づく事務事業の見直し、複数自治体での共通業務の共同化等を一体的に推進し、限られた人的資源で持続可能な行政サービスを提供できる体制を構築することこそが、令和9年度以降の杉並区経営の最重要論点であると結論づけられます。硬直度が高く直営志向の強い財政だからこそ、経常経費の抑制と基金フローの引き上げを両輪で進めることが、山の手大規模区・杉並区の持続可能性を決定づけます。

参考資料

主要なデータ元

 公益財団法人特別区協議会「特別区の統計」令和2年版(令和元年度決算)・令和6年版(令和5年度決算)、総務省「地方公共団体の主要財政指標一覧」令和元年度・令和5年度

国の公開統計情報

 総務省「地方公共団体の主要財政指標一覧」、e-Stat地方財政状況調査(統計コード00200251)、総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果」

外部関係機関資料

 公益財団法人特別区協議会「特別区の統計」「都区財政調整制度のあらまし」、特別区長会「ふるさと納税制度に対する特別区の主張」(令和7年8月)、特別区人事委員会「特別区職員採用試験(選考)実施状況」

区の公式情報および経営計画等

 杉並区公式ホームページ「令和8年度当初予算案」プレス資料・区政経営計画書、杉並区新基本構想(令和3年10月策定)、杉並区総合計画(令和6年度〜・29施策)、杉並区実行計画(第2次)、区政経営改革推進計画(第2次・令和6年度〜)、杉並区区立施設マネジメント計画(第1期)・第1次実施プラン、杉並区職員定数計画、杉並版ふるさと納税関連資料

議会関係資料

 杉並区議会予算特別委員会関連公表資料、杉並区議会会議録検索システム


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