【政府】国民皆歯科検診とは?2027年度開始の内容と自治体への影響
はじめに
※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。
概要
厚生労働省は2026年7月23日、健康寿命の延伸を図る「攻めの予防医療」の重点施策を発表しました。上野賢一郎厚生労働大臣が同日、記者団に明らかにしたもので、最大の柱は2027年度からの「国民皆歯科検診」の実現に向けた取組です。現在は10歳ごとの節目年齢を対象に実施されている歯周病検診(制度上の名称は歯周疾患検診)の対象を5歳ごとに拡大するとともに、希望者は唾液などから歯周病の可能性を調べる簡易検査を毎年受けられるようにするとしています。これらの施策は2027年度予算の概算要求などに反映される予定です。
重点領域として位置づけられたのは、栄養・食生活、がん・循環器病など、歯科保健、認知症、リハビリテーション、更年期障害など性差に由来するヘルスケアの6分野です。がん検診の受診率を2028年までに60%へ引き上げる目標を掲げたほか、生活習慣病の予防に向けて2026年度中に「食事ガイド」を作成する方針も盛り込まれました。上野大臣は記者団に「国民一人ひとりが良い健康習慣を継続してもらえるよう取り組みたい」と述べています。
今回の発表は、2026年7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」(骨太の方針2026)に明記された「攻めの予防医療」を、厚生労働省として具体化した第一弾と位置づけられます。歯周疾患検診をはじめとする健康増進事業の実施主体は市区町村であり、検診対象の拡大は特別区の保健衛生行政・国民健康保険行政に直接影響する政策転換となります。
意義
「治す医療」から「防ぐ医療」への構造転換
日本の平均寿命は2022年時点で男性81.05年、女性87.09年に達する一方、日常生活に制限のない期間を示す健康寿命は男性72.57年、女性75.45年にとどまります。その差は男性で約8.5年、女性で約11.6年あり、この期間は本人のQOL低下と医療・介護需要の増大が重なる期間でもあります。令和5年度(2023年度)の国民医療費は48兆915億円と過去最高を更新し、人口一人当たりでは38万6,700円、65歳以上に限れば79万7,200円に上ります。発症してから治療する医療だけでは、個人の生活の質も社会保障制度の持続可能性も守り切れないという認識が、「攻めの予防医療」という言葉に凝縮されています。病気になるのを待って対応する「守り」から、発症前に介入して健康寿命を延ばす「攻め」への軸足の移動は、医療政策の重心を医療機関の中から地域・職域・家庭へと動かすことを意味します。
口腔の健康は全身の健康の入り口
6つの重点領域のうち、最も具体的な制度改革として打ち出されたのが歯科保健であることには理由があります。歯周病は糖尿病と相互に悪影響を及ぼす関係にあることが知られており、歯周治療が血糖コントロールの改善に寄与するとの報告もあります。また、歯周病と動脈硬化性疾患や誤嚥性肺炎などとの関連も指摘されており、国内の疫学研究では、歯を多く失った高齢者ほど認知症発症や要介護状態のリスクが高まる傾向が報告されています。口腔の健康を守ることは、単に歯を残すことにとどまらず、栄養摂取・生活習慣病管理・フレイル予防・認知症予防といった全身の健康施策の入り口として機能する可能性があるということです。歯科検診の「皆化」が予防医療パッケージの先頭に置かれたのは、こうした知見の蓄積を踏まえた政策判断とみられます。
自覚症状のないまま進行する疾患への社会的対応
歯周病は痛みなどの自覚症状が乏しいまま進行し、気づいたときには歯の喪失に至る典型的なサイレントディジーズです。令和6年(2024年)歯科疾患実態調査では、4mm以上の歯周ポケットを持つ人が47.8%と、成人のほぼ2人に1人に達しています。さらに、令和6年度に市区町村の歯周疾患検診を受けた人のうち64.2%が要精密検査と判定されており、検診の場が「治療が必要なのに医療につながっていない層」を発見する装置として機能している実態がうかがえます。自覚症状に頼れない疾患は、本人の受診行動任せでは早期発見が構造的に難しく、検診機会を制度として保障することに公共政策上の意義があります。
市区町村を実施主体とする事業への直接的波及
歯周疾患検診は健康増進法に基づき市区町村が実施する健康増進事業です。対象年齢の5歳刻み化や簡易検査の毎年実施が制度化されれば、対象者数の増加、検診委託契約や単価の見直し、地区歯科医師会との調整、受診勧奨や結果管理の事務など、区の実務に広範な影響が及びます。国の方針決定から概算要求、予算成立、実施要領の改正という流れを先読みし、準備を始められるかどうかが、円滑な立ち上がりを左右することになります。
歴史・経過
8020運動の開始:1989年
80歳になっても自分の歯を20本以上保とうという「8020運動」は、1989年に当時の厚生省と日本歯科医師会の提唱で始まりました。運動開始当初、80歳で20本以上の歯を持つ人はごく少数にとどまっていたとされますが、その後の口腔衛生の向上とともに達成者は着実に増加し、平成28年(2016年)調査で初めて5割を超えました。日本の歯科保健政策は、この運動を軸に「歯を残す」ことを国民運動として定着させてきた歴史を持ちます。
歯周疾患検診の制度化と対象拡大:1995年度から2008年度
歯周疾患検診は1995年度に老人保健事業の総合健康診査の一環として始まり、2000年度からは40歳・50歳を対象とする独立した検診となりました。2004年度には対象が60歳・70歳へ拡大され、2008年度からは健康増進法に基づく健康増進事業として実施されています。長らく「10歳ごとの節目年齢」を対象とする枠組みが維持されてきました。
歯科口腔保健法の制定:2011年
2011年には歯科口腔保健の推進に関する法律が制定され、口腔の健康保持・増進が国と自治体の責務として法的に位置づけられました。生涯を通じた歯科健診の機会確保という今日の政策目標の法的基盤は、この時点で整えられたといえます。
「国民皆歯科健診」構想の初明記:骨太の方針2022
「国民皆歯科健診」という言葉が国の基本方針に初めて登場したのは、2022年6月7日に閣議決定された骨太の方針2022です。「生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)の具体的な検討」が明記され、生涯にわたり歯科健診を受けられる制度の構想が政府方針となりました。なお、政府方針ではこれまで「健診」の表記が用いられてきましたが、今回の発表では「国民皆歯科検診」と「検診」の表記が使われています。その後の骨太の方針でも同趣旨の取組の推進が継続して記載され、検討が積み重ねられてきました。
20歳・30歳への対象拡大:2024年度
若年層の歯周病増加を踏まえ、2024年度からは歯周疾患検診の対象に20歳・30歳が追加され、対象は20歳から70歳までの10歳刻み6節目となりました。また、厚生労働省は唾液などによる簡易検査キットやAIを活用した診断支援アプリの研究開発支援を進めており、令和7年度(2025年度)予算には約1.2億円が計上されています。今回打ち出された「唾液による簡易検査を毎年」という施策は、この研究開発の延長線上にあるとみられます。
関連諸計画の整備:2023年から2024年
予防医療の周辺分野でも制度整備が相次ぎました。2023年3月に閣議決定された第4期がん対策推進基本計画は、がん検診受診率60%の目標を掲げています。2024年度には国民健康づくり運動「健康日本21(第三次)」が開始され、2024年1月には認知症基本法(共生社会の実現を推進するための認知症基本法)が施行、同年12月には認知症施策推進基本計画が閣議決定されました。今回の6重点領域は、これら既存計画の目標を「攻めの予防医療」の旗の下に束ね直したものと理解できます。
骨太の方針2026と今回の発表:2026年7月
2026年7月21日に閣議決定された骨太の方針2026は、社会保障改革に関する記述の中で「攻めの予防医療等に取り組む」と明記しました。その2日後にあたる7月23日、上野大臣が重点施策を発表し、2027年度からの国民皆歯科検診の実現という具体的な工程が初めて示されました。今後は2027年度予算の概算要求に施策が盛り込まれ、年末の予算編成を経て制度の詳細が固まっていく見通しです。
現状データ
歯科保健の到達点と課題
8020達成者率:61.5%まで上昇
令和6年歯科疾患実態調査によると、80歳で20本以上の歯を持つ人の割合(8020達成者率)は61.5%と推計され、平成28年(2016年)調査の51.2%、令和4年(2022年)調査の51.6%から大きく上昇しました。高齢期の歯の保持は着実に進んでおり、数十年にわたる歯科保健施策の成果が数字に表れています。
歯科検診の受診状況:1年間で63.8%
過去1年間に歯科検診を受けた人の割合は、令和4年の58.0%から令和6年には63.8%へ上昇し、初めて6割を超えました。男性60.6%、女性66.5%と女性の受診が多く、内訳ではかかりつけ歯科医院での定期検診が55.7%と最多です。歯科医院での定期管理の習慣は広がりつつある一方、後述するとおり市区町村検診の受診率は低迷しており、「かかりつけを持つ層」と「検診機会から漏れる層」の二極化がうかがえます。
歯周病の広がり:若い世代でも4人に1人
4mm以上の歯周ポケットを持つ人の割合は全体で47.8%に上ります。年代別では15歳から24歳で24.7%、25歳から34歳で25.8%と、若い世代でも既に4人に1人が歯周病のサインを抱え、45歳から54歳で43.0%、55歳から64歳では56.6%へと年齢とともに上昇します。高齢期に歯を守るためには、進行が本格化する前の若年・中年期からの介入が必要であることをデータは示しています。
市区町村の歯周疾患検診:受診率約5%の壁
制度面の最大の課題は受診率です。市区町村の歯周疾患検診の受診率は2015年度時点で約4.3%、厚生労働省資料が示す2018年度算出値でも約5.0%と、低い水準にとどまると報告されています。令和6年度(2024年度)の地域保健・健康増進事業報告によると、全国の受診者は43万7,382人で、うち64.2%にあたる28万720人が要精密検査、24.7%が要指導と判定され、異常なしは11.1%にすぎませんでした。検診を実施する市区町村の割合は2020年度の75.2%から2024年度には85.1%へ上昇しており、提供体制は広がっているものの、対象者に受診が浸透していない構図が明確です。受診率には大きな地域差があり、10%を超える政令市がある一方で1%に満たない都市もあるとの研究報告もあります。
予防医療をめぐる全体状況
健康寿命の推移:延伸傾向も男女差が大きい
健康寿命は2010年の男性70.42年・女性73.62年から、2022年には男性72.57年・女性75.45年へとおおむね延伸してきました。ただし平均寿命との差は男性約8.5年、女性約11.6年と依然として大きく、この差の縮小が健康日本21(第三次)をはじめとする健康政策共通の目標となっています。
がん検診受診率:目標60%への距離
2022年の国民生活基礎調査によると、がん検診受診率は男性で肺がん53.2%、大腸がん49.1%、胃がん47.5%、女性で肺がん46.4%、大腸がん42.8%、胃がん36.5%、過去2年間の受診率で乳がん47.4%、子宮頸がん43.6%となっており、いずれも目標の60%に届いていません。前回2019年調査からおおむね横ばいで、受診率向上策の強化が課題となる中、今回の重点施策は2028年までの60%達成という期限を明確にしました。
認知症の将来推計:2040年に584万人
厚生労働省研究班が2024年に公表した新しい推計では、認知症の高齢者は2040年に584万人と、65歳以上のおよそ7人に1人に達する見込みです。軽度認知障害(MCI)の613万人を合わせると高齢者の3割前後に及ぶ規模とみられます。一方でこの推計は従来の見通しから下方修正されたものであり、健康意識の高まりや生活習慣の改善が発症を遅らせている可能性が指摘されています。予防的介入の余地が大きい領域であることが、重点領域への位置づけにつながったと考えられます。
国民医療費:48兆円で過去最高を更新
令和5年度の国民医療費は48兆915億円で前年度から3.0%増加し、過去最高を更新しました。うち歯科診療医療費は3兆2,945億円で全体の6.9%を占めます。高齢化と医療の高度化により医療費の増加基調は続いており、発症予防・重症化予防による適正化への期待が予防医療重視の背景にあります。
政策立案の示唆
この取組を行政が行う理由
個人任せでは予防投資が過少になる
予防の便益は将来にわたって分散して現れる一方、費用と手間は現在発生するため、個人の合理的な判断に委ねると予防行動は先送りされがちです。特に歯科は「痛くなってから行く」受療行動が根強く、自覚症状のない歯周病は放置されやすい領域です。検診機会を制度として保障し、受診のハードルを下げることは、市場や個人の自助では埋まらない領域への公的介入として正当化されます。
制度の隙間を埋められるのは行政だけ
事業主に義務づけられた一般定期健康診断には歯科の検査項目が原則として含まれておらず、働く世代の多くは組織的な歯科検診の機会を持ちません。市区町村の歯周疾患検診も節目年齢に限られ、機会は10年に1度しか巡ってこないのが現状です。ライフコースを通じて切れ目なく検診機会を用意するという課題は、母子保健・学校保健・職域・地域保健にまたがる制度設計の問題であり、国と自治体が主導しなければ解決しない構造にあります。
国民皆保険の下では予防の便益が公的財政に帰着する
重症化した歯周病や、その先にある糖尿病悪化・誤嚥性肺炎などの治療費は、国民皆保険制度を通じて社会全体が負担します。予防によって重症化を防げれば、その便益は公的医療保険財政と自治体の国保・介護保険財政に還元されます。公費を投じて予防を推進することには、財政面からの合理性が存在します。
行政側の意図
概算要求への反映は恒久制度化への布石
今回の発表が2027年度予算の概算要求への反映を明言している点は重要です。単年度のモデル事業ではなく、検診体系そのものの改革として予算要求に載せることは、恒久的な制度化を見据えた動きと読み取れます。年末の予算編成、実施要領や関係法令・指針の改正へと続く工程の起点が、今回の発表だといえます。
「5歳刻み+毎年の簡易検査」という二層構造の設計
全国民に毎年の歯科健診を義務づける制度は、費用や歯科医療提供体制の面でハードルが高いのが実情です。今回の設計は、対面の検診は5歳刻みに拡大しつつ、希望者には唾液などによる低コストの簡易検査を毎年提供するという二層構造をとることで、費用を抑えながら国民と検診の接点を増やす狙いがあるとみられます。簡易検査で歯周病の可能性を把握した人を歯科医院の受診につなげる導線として機能すれば、「皆検診」の実質化に近づきます。
単発事業ではなく行動変容のパッケージとして提示
栄養・食生活から性差に由来するヘルスケアまで6領域を束ね、「良い健康習慣の継続」を掲げた点には、個別の検診事業の積み上げではなく、国民の日常の行動変容を社会全体で支える枠組みとして予防医療を再定義する意図がうかがえます。骨太の方針2026が掲げた「攻めの予防医療」の看板事業として、社会保障改革の文脈に予防を明確に組み込む位置づけです。
期待される効果
未治療層の掘り起こしと重症化予防
現行検診の受診者の64.2%が要精密検査と判定されている事実は、検診機会の拡大がそのまま「治療が必要なのに医療につながっていない層」の発見につながることを示唆します。歯周病の早期発見・早期治療が進めば、歯の喪失を防ぎ、8020達成者率のさらなる上昇と高齢期の咀嚼機能・栄養状態の維持が期待できます。
全身疾患予防との相乗効果
歯周病管理の改善は、糖尿病の血糖コントロールや誤嚥性肺炎の予防など、全身の健康管理と相乗効果を持つ可能性があります。口腔の健康を入り口に、生活習慣病対策・フレイル予防・認知症予防へと波及する効果が期待されています。若年期からの検診習慣の定着は、生涯にわたる口腔健康の底上げにつながります。
中長期的な医療費・介護費への影響
重症化予防が進めば、中長期的には医療費・介護費の伸びの抑制に寄与する可能性があります。ただし、歯科検診の拡大が医療費全体に与える影響については研究途上の面もあり、短期的にはむしろ受診者増による歯科医療費の増加が先行することも考えられます。効果を測定・検証する仕組みをあらかじめ組み込むことが、政策の説得力を左右します。
課題・次のステップ
最大の壁は受診率5%という現実
制度の枠を広げても、受け手が来なければ効果は生じません。現行の歯周疾患検診の受診率が約5%にとどまる現実は、対象拡大だけでは「皆検診」にならないことを物語っています。個別通知の工夫、申込手続の簡素化、かかりつけ歯科医院で受診できる体制、特定健診やがん検診との同時実施など、受診行動につなげる仕掛けの設計が制度の成否を分けます。
財源と実施体制の確保
対象年齢の5歳刻み化により対象者は大幅に増加し、簡易検査を毎年提供すればさらに事業規模は膨らみます。国費と地方負担の分担、地方財政措置の内容は現時点で明らかではなく、概算要求から年末の予算編成、地方財政対策までの動向を注視する必要があります。また、検診後の精密検査・治療を受け止める歯科医療提供体制の地域差への対応も課題となります。
簡易検査の精度管理と過不足のない受診誘導
唾液などによる簡易検査は、検査精度や偽陽性・偽陰性の管理が制度設計上の論点となります。可能性の指摘にとどまる検査結果をどう歯科受診につなげるか、不安をあおらず、かつ見逃しを防ぐ結果通知の設計が求められます。
職域への展開という残された宿題
市区町村検診の拡充だけでは、平日昼間に受診しにくい被用者層をカバーしきれない可能性があります。生涯を通じた歯科健診を実現するには、職域での検診機会の確保や事業主・保険者の役割分担の整理が今後の論点になるとみられます。なお、受診が義務づけられるのかどうか、費用負担をどうするのかといった制度の細部は、今回の発表では示されていません。制度の詳細は概算要求以降の予算編成・制度設計の過程で固まっていくため、続報の確認が必要です。
特別区への示唆
国民皆歯科検診を先取りする区がある:先行事例の共有を
特別区には、国の方向性を先取りする事例が既に存在します。江戸川区の成人歯科健診は20歳から70歳までの5歳刻みの年齢を対象に無料で実施されており、今回国が打ち出した「5歳ごと」の姿を先行して実現しています。ほかにも大田区、中央区、世田谷区、千代田区をはじめ多くの区が独自の成人歯科健診を実施しています。国の制度拡大が実現した際には、独自事業と国制度の対象・財源の整理が必要になる一方、先行区の受診率や運用の実績は、23区全体で共有すべき貴重な政策資産です。
受診率向上こそ区の腕の見せどころ
全国の受診率約5%という数字は、裏を返せば自治体の工夫で差がつく領域であることを意味します。対象者への個別通知やはがき勧奨、SMSやアプリを活用したリマインド、国保特定健診・がん検診との同時案内、ナッジを活用した通知文面の改善など、行動科学の知見を取り入れた受診勧奨の設計が求められます。要精密検査と判定された人へのフォローアップ体制まで含めて、検診を「受けっぱなし」にしない仕組みを整えることが重要です。
データ基盤とライフコースの接続
国民皆歯科検診が制度化されれば、検診結果のデータ管理と活用が次の課題になります。国保データベースや特定健診データとの突合、PHRとの連携を見据えた記録様式の標準化など、データヘルスの文脈で歯科検診を位置づける準備が有効です。また、妊産婦歯科健診、1歳6か月児・3歳児健診、学校歯科健診と成人期の検診をつなぎ、区として「生涯を通じた歯科健診」の全体像を描くことは、国の制度を待たずに着手できる取組です。
6領域を区事業の点検リストとして使う
今回の重点施策は歯科にとどまりません。がん検診受診率60%目標、食事ガイドの作成、認知症、リハビリテーション、更年期障害など性差に由来するヘルスケアという領域設定は、区の健康増進計画や保健事業の点検リストとして活用できます。概算要求以降、各領域で補助事業やモデル事業が具体化する可能性があり、国の予算メニューを早期に把握して区事業に取り込む準備をしておくことが、財源確保の面でも有利に働きます。地区歯科医師会・医師会との協議体制の整備、検診単価や実施医療機関の確保など、実務面の地ならしも早めに始めておきたいところです。
まとめ
2026年7月23日に発表された「攻めの予防医療」の重点施策は、1989年の8020運動から骨太の方針2022の「国民皆歯科健診の具体的な検討」を経て積み重ねられてきた歯科保健政策が、2027年度からの「国民皆歯科検診」という具体的な工程表を得た節目といえます。歯周病検診の5歳ごとへの拡大と唾液による毎年の簡易検査、2028年までのがん検診受診率60%、2026年度中の食事ガイド作成という施策群は、健康寿命の延伸という共通目標の下で、国民の行動変容を社会全体で支える枠組みへと予防医療を再定義するものです。
データが示す課題は明確です。8020達成者率が61.5%まで上昇し歯科検診受診率が6割を超えた一方で、市区町村の歯周疾患検診の受診率は約5%にとどまり、受診者の64.2%が要精密検査と判定されています。制度の器を広げることと、実際に受診される仕組みをつくることは別の問題であり、後者こそ実施主体である市区町村の実務にかかっています。
特別区には江戸川区のように既に5歳刻みの歯科健診を実現している先行事例があり、国の制度化を待つのではなく、受診率向上策、データ基盤の整備、母子保健から高齢期までのライフコース接続といった準備を進める余地があります。概算要求から年末の予算編成に向けて制度の詳細はこれから固まっていきます。国の動向を注視しつつ、自区の歯科保健事業の現在地を点検することが、2027年度のスタートラインに立つための第一歩となります。




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