07 自治体経営

【企画課】債権管理適正化 完全マニュアル

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はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。

企画課における債権管理の基礎知識

債権管理の意義と目的

 地方自治体が保有する債権は、金銭の給付を目的とする権利であり、その源泉は住民の皆様からお預かりしている税金をはじめとする貴重な財産です。したがって、企画課をはじめとする全部署の職員には、この債権を適正に管理し、確実に回収する責務があります。債権管理の適正化は、単なる歳入確保の手段にとどまらず、行政の根幹に関わる重要な意義と目的を持っています。

  • 市民負担の公平性の確保:納期内にきちんと納付されている大多数の市民との公平性を保つことは、行政に対する信頼の基盤です。資力があるにもかかわらず納付に応じない滞納を放置することは、誠実な納付者に対して不公平感を生じさせ、ひいては納税・納付意識全体の低下を招きかねません。法令に基づき、滞納に対して厳正に対処することは、市民全体の負担の公平性を確保するために不可欠です。
  • 自主財源の確保と健全な行財政運営:地方自治体が多様な行政サービスを提供し続けるためには、安定した財源が不可欠です。債権の回収は、自主財源を確保し、持続可能な行財政運営を実現するための重要な柱となります。未収金の増大は、本来他の行政サービスに充てられるべき財源を圧迫し、将来の行政運営に支障をきたす恐れがあります。適正な債権管理は、財政の健全性を維持するための生命線と言えます。
  • 法令遵守と住民の信頼確保:地方自治法第240条は、地方公共団体の長に対し、債権を適正に管理する義務を課しています。この規定は、債権管理が単なる内部の事務処理ではなく、法的に要請された責務であることを示しています。法令を遵守し、全ての債権を公平かつ効率的に管理・回収する姿勢を示すことは、行政に対する住民の信頼を確保し、強固なものにする上で極めて重要です。

地方自治体における債権の歴史的変遷と現代的課題

 かつての地方自治体における債権管理は、比較的緩やかな運用がなされる傾向にありました。しかし、近年の厳しい財政状況、社会経済情勢の変化、そして住民の公平性に対する意識の高まりを背景に、そのあり方は大きく変化し、より専門的かつ厳格な管理体制が求められるようになりました。

 現代の債権管理業務は、多くの複雑な課題に直面しています。債務者の経済状況は多様化・複雑化しており、中には真に生活に困窮し、支払いが困難な方も少なくありません。そのため、単に債権を回収するだけでなく、福祉部局と連携し、債務者の生活再建を支援するという福祉的な配慮も不可欠となっています。また、個人情報保護法をはじめとする法令を遵守し、債務者のプライバシーに最大限配慮しながら業務を遂行する必要もあります。これらの高度な要求に応えるためには、職員一人ひとりが法律、交渉術、そして社会福祉に至るまで、幅広い専門知識とスキルを身につけることが急務となっています。本研修資料は、こうした現代的課題に対応し、職員の皆様が自信を持って業務を遂行できるよう支援することを目的としています。

債権の種類と法的性質の理解

 債権管理の第一歩は、取り扱う債権の法的性質を正確に理解し、分類することから始まります。この最初の分類を誤ると、その後の督促、財産調査、差押えといった一連の手続き全てが法的に無効となり、多大な行政コストの浪費と住民からの信頼失墜を招く危険性があります。特に、本来は裁判所の手続きが必要な債権に対して、誤って自力執行権を行使してしまうことは、公権力の濫用として絶対に避けなければなりません。したがって、債権の発生原因に基づき、その性質を正確に見極めることが、適正な債権管理の根幹をなす最も重要なプロセスです。

公債権と私債権の根本的差異

 地方自治体の債権は、その発生原因によって「公債権」と「私債権」に大別されます。この二つは法的性質が根本的に異なり、管理・回収の方法も全く異なります。

  • 公債権 (こうさいけん):地方税の賦課処分や、法令に基づく使用料の納付命令など、行政庁が公権力を行使し、住民の意思に関わらず一方的に発生させる債権です。行政庁の優越的な地位に基づいて発生するため、その処分に不服がある債務者は、行政不服審査法に基づく不服申立て(審査請求)を行うことができます。
  • 私債権 (しさいけん):物品の売買契約、金銭の貸付契約、市営住宅の賃貸借契約など、自治体と相手方が対等な立場で合意(契約)することによって発生する債権です。私法上の原因に基づいて発生するため、民法や借地借家法などの私法上のルールが適用され、公権力の行使は認められません。したがって、債務者は行政不服申立てを行うことはできず、紛争は民事訴訟によって解決されます。

強制徴収公債権と非強制徴収公債権の判別

 公債権は、さらにその回収方法によって「強制徴収公債権」と「非強制徴収公債権」に分けられます。この違いは、裁判所を介さずに自力で差押えができるかどうかという点で、実務上極めて重要です。

  • 強制徴収公債権 (きょうせいちょうしゅうこうさいけん):個別の法律に「国税滞納処分の例により処分することができる」あるいは「地方税の滞納処分の例により処分することができる」といった旨の規定がある公債権です。この規定があることにより、自治体は裁判所に訴えることなく、自らの権限で滞納者の財産を調査し、差し押さえ、換価(公売など)する「滞納処分」を行うことができます。これを「自力執行権」と呼びます。
    • 具体例: 地方税(住民税、固定資産税など)、国民健康保険料、後期高齢者医療保険料、介護保険料、保育所保育料、下水道受益者負担金など。
  • 非強制徴収公債権 (ひきょうせいちょうしゅうこうさいけん):公債権のうち、上記のような滞納処分の根拠規定が個別の法律にないものを指します。これらは公法上の原因で発生した債権ですが、自力執行権がないため、滞納処分を行うことはできません。したがって、その回収には、私債権と同様に、裁判所を通じた民事上の手続き(支払督促の申立てや訴えの提起)を経て、債務名義(確定判決など)を取得し、強制執行を申し立てる必要があります。
    • 具体例: 行政財産使用料、道路占用料、各種手数料、過料など。

債権種別に応じた管理・回収方法の概要

 このように、債権は「強制徴収公債権」「非強制徴収公債権」「私債権」の3つに分類され、それぞれ適用される法律、督促の効果、時効の扱い、延滞金の根拠、そして最終的な回収手段が全く異なります。例えば、督促一つをとっても、強制徴収公債権の場合は滞納処分の前提要件となり、私債権の場合は時効の完成猶予(旧:中断)の効果を持つにとどまります。時効についても、公債権は時効期間が経過すれば自動的に消滅しますが、私債権は債務者が「時効の利益を享受する」という意思表示(時効の援用)をしなければ消滅しません。業務の初期段階でこの分類を正確に行うことが、その後の全てのプロセスを適法かつ有効に進めるための礎となります。

債権管理の法的根拠

主要関連法令の体系的理解

 債権管理業務は、職員個人の判断や慣例で行うものではなく、必ず法律や条例に基づき、厳格に遂行されなければなりません。ここでは、業務の根幹をなす主要な法令の役割と、それらがどのように実務と結びついているのかを体系的に解説します。

地方自治法・地方自治法施行令

 地方自治法および同施行令は、地方公共団体の債権管理に関する最も基本的なルールを定めています。

  • 債権管理の基本原則 (地方自治法第240条):普通地方公共団体の長に対し、債権について、政令の定めるところにより、その督促、強制執行その他その保全及び取立てに関し必要な措置をとらなければならないと規定しており、債権管理が長の義務であることを明確にしています。
  • 督促 (地方自治法第231条の3、地方自治法施行令第171条):公債権(分担金、使用料等)については地方自治法第231条の3第1項、私債権等については同施行令第171条に基づき、履行期限までに履行しない者があるときは、期限を指定して督促することが義務付けられています。これは、債権の種類を問わず、滞納が発生した場合の最初の法的アクションとなります。
  • 強制執行等の措置 (地方自治法施行令第171条の2):非強制徴収公債権や私債権について、督促後相当の期間を経過しても履行されない場合に、訴訟手続による履行請求や強制執行の手続をとらなければならないことを定めています。これは、安易に債権を放置することを禁じ、法的手段による回収を原則とする姿勢を示した重要な規定です。
  • 債権の保全 (地方自治法施行令第171条の4):債務者が破産手続開始の決定を受けた場合などに、配当の要求その他債権の申出をすることや、必要に応じて担保の提供を求め、又は仮差押え若しくは仮処分の手続をとるなど、債権を保全するために必要な措置を講じる義務を定めています。
  • 徴収の緩和措置 (地方自治法施行令第171条の5, 6, 7):債務者の状況に応じて、徴収を停止したり(徴収停止)、履行期限を延長する特約を結んだり(履行延期の特約)、債務を免除したり(免除)するための要件と手続きを定めています。これらの措置は、債務者の生活再建を支援しつつ、回収不能な債権を適切に整理するために用いられます。

地方税法・国税徴収法(滞納処分の例による徴収)

 強制徴収公債権の回収は、地方税法および国税徴収法の規定に準じて行われます。これらの法律は、自力執行権を行使するための具体的な手続きを定めた、いわば「滞納処分のバイブル」です。

  • 滞納処分の流れ:地方税法第331条等に基づき、督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、財産を差し押さえなければならないとされています。差押えから、その財産を公売等で金銭に換える「換価」、そして得られた金銭を配当するまでの一連の手続きは、国税徴収法に詳細な規定があり、これに倣って進められます。
  • 滞納処分の執行停止 (地方税法第15条の7):滞納者に滞納処分をすることができる財産がないときや、滞納処分をすることによってその生活を著しく窮迫させるおそれがあるときなど、一定の要件に該当する場合には、滞納処分の執行を停止することができます。この執行停止が3年間継続したときは、納税義務が消滅するという重要な効果があります。

民法(私債権の基本原則と時効)

 私債権の管理・回収、そして非強制徴収公債権の裁判手続きにおいては、民法が基本法となります。特に、2020年4月1日に施行された改正民法の内容を正確に理解しておく必要があります。

  • 消滅時効の原則 (改正民法第166条):改正民法により、私債権の消滅時効期間は、原則として以下のいずれか早い方が到来したときに完成します。
    1. 債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年間
    2. 権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間これにより、職業別の短期消滅時効(例:診療報酬は3年、工事請負代金は3年など)は廃止され、原則に統一されました。
  • 時効の援用 (民法第145条):公債権が時効期間の経過によって自動的に消滅するのとは対照的に、私債権は、時効期間が経過しただけでは消滅しません。債務者が「時効によって債務は消滅した」と主張する意思表示(時効の援用)をして初めて、債権が法的に消滅します。したがって、時効期間が経過していても、債務者が援用しない限り、請求を続けることは可能です。

条例・規則の役割と東京都特別区の規定

 法律が全国一律の基本的なルールを定めるのに対し、条例や規則は、各地方自治体の実情に合わせて、より具体的で実践的な債権管理のルールを定める役割を担います。債権管理に関する条例(通称:債権管理条例)を制定し、全庁的な管理方針や手続きを明確にすることは、債権管理を組織的かつ計画的に進める上で非常に有効です。

 東京都では「東京都債権管理条例」及び「東京都債権管理条例施行規則」が定められており、特別区においても、これを参考に独自の条例や方針を整備しています。

  • 東京都の規定の主なポイント:
    • 債権管理体制の整備: 債権管理の適正化を図るため、財務局長が総合調整を行い、各局に債権管理者を設置するとともに、庁内の連携を図るための「債権管理調整会議」を設置することが定められています。
    • 私債権の管理手続きの明確化: 条例では特に私債権の管理手続きに重点が置かれ、督促、強制執行、履行延期の特約、免除、放棄といった各段階における具体的な要件や手続きが規定されています。
    • 督促の期限: 私債権の督促は、原則として納期限経過後20日以内に行い、督促状を発した日から15日以内の納付期限を指定するものとされています。
  • 特別区の先進的な取組み(豊島区の例):豊島区では、「豊島区債権管理方針」の見直しや条例改正の検討など、より実態に即した柔軟かつ効果的な債権管理を目指す先進的な取組みが見られます。
    • 徴収停止上限額の緩和: 回収コストに見合わない少額債権の整理を促進するため、徴収停止の対象となる債権額の上限を、国内在住者で5万円未満、海外在住者で10万円未満へと緩和しました。
    • 債権放棄要件の緩和: 徴収停止後の債権放棄について、従来必要とされていた「債務者が無資力である」という要件を削除し、より機動的な債権整理を可能にする条例改正が検討されています。
    • 訴えの提起に関する専決処分の拡大: 少額の私債権について訴えを提起する際に、その都度議会の議決を必要とすることの非効率性を解消するため、区長が専決処分できる金額の範囲を拡大することが検討されています。これにより、迅速な法的措置が可能となります。

法令・債権種別比較表

 これまでに解説した内容を整理し、一目で違いがわかるように比較表にまとめます。この表は、日々の業務において、目の前の債権をどのように扱うべきかを判断するための実践的なツールとして活用してください。

比較項目強制徴収公債権非強制徴収公債権私債権
発生原因公法上の原因(行政処分)公法上の原因(行政処分)私法上の原因(契約等)
主な根拠法令地方税法、国税徴収法、各個別法地方自治法、各個別法地方自治法、民法、商法
督促の根拠地方自治法第231条の3第1項地方自治法第231条の3第1項地方自治法施行令第171条
延滞金等延滞金(例:年14.6%)延滞金(例:年14.6%)遅延損害金(例:年3%)
滞納時の回収方法滞納処分(自力執行権による差押え)訴えの提起等(裁判所を通じた強制執行)訴えの提起等(裁判所を通じた強制執行)
消滅時効期間原則5年(個別法に定めがある場合あり。例:介護保険料は2年)原則5年原則5年(2020年4月1日以降発生分)
時効の援用不要(期間経過で自動的に消滅)不要(期間経過で自動的に消滅)必要(債務者の意思表示が必要)
不服申立て(行政不服審査法)(行政不服審査法)不可

標準業務フローと各段階の実務詳解

債権発生から滞納初期対応まで

債権管理台帳の整備と重要性

 全ての債権管理業務は、「債権管理台帳」の整備から始まります。台帳は、単なる記録簿ではなく、債権の発生から消滅までの一連の経過を管理し、組織として統一的な対応を行うための基盤となるものです。適正に整備された台帳は、監査や議会への説明責任を果たすための根拠資料となるだけでなく、万が一訴訟に発展した際には、区の権利を証明する極めて重要な証拠となります。

  • 台帳の必須記載事項:台帳には、少なくとも以下の事項を正確かつ遅滞なく記録し、常に最新の状態に保つ必要があります。
    • 債務者の氏名(名称)、住所(所在地)、連絡先
    • 債権の名称、発生原因、発生年月日
    • 債権額(元本、延滞金等の内訳)
    • 調定日、履行期限(納期限)
    • 督促状の発送日、到達状況
    • 電話催告、訪問、納付相談等の交渉経過(日時、担当者、内容)
    • 時効の完成予定日、時効の更新・完成猶予の措置に関する記録
    • 保証人の有無、担保の内容
  • 個人情報としての厳重な管理:台帳に記載される情報は、債務者の経済状況等を含む高度な個人情報です。情報の漏えいは絶対にあってはならず、アクセス権限の管理や施錠保管など、物理的・システム的なセキュリティ対策を徹底しなければなりません。

納期限の設定と通知

 債権の発生段階で、債務者に対して履行期限(納期限)や納付方法を明確に記載した納入通知書等を送付し、周知徹底を図ることは、滞納の未然防止に繋がります。特に、貸付金などの私債権においては、契約時に口座振替を勧奨するなど、納付忘れを防ぐ工夫も重要です。

督促・催告の法的手続きと実務上の留意点

 納期限を過ぎても納付がない場合、速やかに初期対応に着手します。滞納は、時間が経過するほど回収が困難になるため、迅速な初動が極めて重要です。

  • 督促:納期限を徒過した債務者に対し、法律に基づき「督促状」を送付します。これは、単なるお願いではなく、法的な義務(地方自治法第231条の3、同施行令第171条)であり、強制徴収公債権の場合は滞納処分の前提要件となる重要な行政処分です。多くの自治体では、実務上、納期限後20日以内に発送するよう内規等で定めています。
  • 催告:督促状で指定した期限を過ぎても納付がない場合、文書、電話、訪問など様々な方法で納付を働きかけます。これを「催告」と呼びます。催告は、法律上の義務ではありませんが、時効の完成を6か月間猶予させる効果(民法第150条)があり、債務者との接触を通じて納付意思や滞納理由を確認する上で重要なプロセスです。
  • 実務上の留意点:私債権の督促は、民法上の「催告」と見なされ、時効の完成猶予の効果を得るためには、その意思表示が債務者に到達したことを区側が立証する必要があります。そのため、後日の紛争に備え、普通郵便ではなく、配達証明付き内容証明郵便を利用することが最も確実な方法です。

債務者・財産調査の徹底

 効果的な債権回収を行うためには、債務者の現在の所在地と資産状況を正確に把握することが不可欠です。調査は、債権の種類によって行使できる権限が異なります。

所在調査(住民票、戸籍の附票の活用)

 債務者の住所が不明になった場合、まずは住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)や、職権による住民票の写し、戸籍の附票の写しの交付請求を行い、転居先を調査します。戸籍の附票は、その戸籍が作られてから現在までの住所の履歴が記録されているため、複数回の転居を追跡する際に非常に有効です。

財産調査(預貯金、不動産、給与、生命保険等)

  • 強制徴収公債権の場合:国税徴収法第141条に基づく「質問検査権」という強力な調査権限があります。この権限に基づき、滞納処分のために必要があるときは、金融機関に対して預金残高や取引履歴の照会、勤務先に対して給与の支払状況の照会、生命保険会社に対して契約内容の照会などを、令状なしで行うことができます。
  • 非強制徴収公債権・私債権の場合:質問検査権のような強力な権限はありません。そのため、調査は以下のような方法で行います。
    • 債務者の協力: 納付相談の際に、資産や収入の状況について申告書(資産等一覧表)の提出を求めます。
    • 裁判所を通じた手続き: 訴訟を提起した後、裁判所を通じて金融機関や勤務先に調査を依頼する「調査嘱託」や、債務名義取得後に債務者本人を裁判所に呼び出して財産状況を陳述させる「財産開示手続」を利用します。
    • 弁護士会照会(23条照会): 弁護士に代理を依頼した場合、弁護士法第23条の2に基づき、弁護士会を通じて官公署や企業に必要な情報を照会することができます。
    • 庁内情報の活用: 東京都や特別区の債権管理条例では、債権管理のために必要な範囲内で、庁内の他部署が保有する債務者の情報を利用できる旨が定められている場合があります。税務課が保有する課税情報などを適法な手続きのもとで活用し、財産状況を把握することも有効です。

強制徴収公債権の滞納処分

 督促に応じず、財産調査によって差押え可能な財産が判明した強制徴収公債権については、速やかに滞納処分に着手します。

差押えの実行(対象財産の選定と手続き)

 差押えは、滞納者の特定の財産について、法律上・事実上の処分を禁止する強制手続きです。

  • 対象財産の選定: 滞納額や滞納者の状況を勘案し、預貯金、給与、不動産、自動車、生命保険解約返戻金など、最も効果的かつ滞納者の生活への影響を考慮した財産を選定します。
  • 差押手続き:
    • 預貯金・給与・生命保険など(債権差押え): 金融機関の本支店、勤務先、保険会社といった第三債務者に対し、「差押通知書」を送達することで効力が発生します。
    • 不動産・自動車など(物権差押え): 法務局で差押えの登記を行ったり、自動車を引き渡させたりすることで行います。

換価(公売等)と配当の手続き

  • 換価:差し押さえた財産を金銭に換える手続きです。不動産や自動車などは、インターネット公売などを通じて売却します。差し押さえた預貯金や給与は、直接取り立てることで換価となります。
  • 配当:換価によって得られた金銭を、滞納となっている債権に充当します。他に国税など優先する債権がある場合は、法律の定める順位に従って配当計算を行い、分配します。

非強制徴収公債権・私債権の法的措置

 自力執行権のない非強制徴収公債権や私債権は、裁判所の手続きを経て債権回収を図ります。

裁判所を通じた手続き(支払督促、少額訴訟、通常訴訟)

 債務者が任意に支払わない場合、法的強制力をもって支払いを実現するためには、まず「債務名義」を取得する必要があります。

  • 支払督促:書類審査のみで、簡易裁判所書記官が債務者に支払いを命じる制度です。債務者が異議を申し立てなければ、短期間で債務名義(仮執行宣言付支払督促)を得ることができます。費用も安価で迅速なため、債務者が争わないと見込まれる場合に有効です。
  • 少額訴訟:請求額が60万円以下の金銭債権について、簡易裁判所で原則1回の期日で審理を終え、即日判決が言い渡される迅速な訴訟手続きです。
  • 通常訴訟:請求額が60万円を超える場合や、事実関係に争いがあり、証拠調べが必要な場合に利用します。

債務名義の取得と強制執行

 上記の裁判手続きによって、確定判決や仮執行宣言付支払督促といった「債務名義」を取得すると、国が債権の存在と内容を公的に証明したことになります。この債務名義に基づき、地方裁判所に「強制執行」を申し立てることで、裁判所の執行官が債務者の財産(預貯金、給与、不動産など)を差し押さえ、債権の回収を実現します。

応用知識と特殊ケースへの対応

納税緩和制度の活用と実務

 債権管理は、単に厳しく取り立てることだけが目的ではありません。債務者の実情に応じて、法令に定められた緩和制度を適切に活用し、納付の履行を促すとともに、生活再建を支援する視点も重要です。

分納誓約の締結と管理

 債務者が資力の問題で一括納付が困難である場合、納付相談を通じて、その生活状況や収支を聴き取り、実現可能な分割納付計画を協議します。合意に至った場合は、「分納誓約書」を徴取します。

  • 実務上のポイント:
    • 誓約書には、具体的な納付額と納付日を明記させます。
    • 「誓約どおりに履行されない場合は、期限の利益を喪失し、残額を一括で請求するとともに、直ちに法的措置(滞納処分または強制執行)に移行することに同意する」という旨の条項(期限の利益喪失条項)を必ず盛り込み、安易な不履行を牽制します。
    • 誓約後の履行状況を台帳で厳格に管理し、一度でも不履行があれば速やかに次の対応(再度の催告や法的措置)に移ります。

換価の猶予・滞納処分の執行停止

 これらの制度は、強制徴収公債権に適用される徴収緩和措置です。

  • 換価の猶予:財産を差し押さえたものの、その財産を直ちに換価(売却)すると事業の継続や生活の維持を困難にするおそれがある場合に、一定期間、換価を待つ制度です。
  • 滞納処分の執行停止 (地方税法第15条の7):より踏み込んだ措置であり、以下の要件に該当する場合に、滞納処分の執行自体を停止することができます。
    1. 滞納処分をすることができる財産がないとき。
    2. 滞納処分をすることによってその生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき。
    3. 所在及び滞納処分ができる財産がともに不明であるとき。執行停止が3年間継続すると、その債権の納付義務は消滅します。これは、事実上の債権放棄に近い効果を持つため、適用は慎重な調査と判断が必要です。

徴収停止、履行延期の特約、免除・放棄

 これらの制度は、主に非強制徴収公債権と私債権に適用されます。

  • 徴収停止 (地方自治法施行令第171条の5):債務者の所在が不明で、差し押さえるべき財産の価額が強制執行の費用を超えないと認められる場合など、事実上、取立てが困難な場合に、一時的に徴収事務を停止する措置です。債権そのものが消滅するわけではありません。
  • 履行延期の特約 (地方自治法施行令第171条の6):債務者が無資力またはそれに近い状態にある場合などに、履行期限を延長したり、分割納付を認めたりする特約を結ぶことができます。分納誓約よりも法的な根拠が明確な措置です。
  • 免除・放棄:債務を消滅させる最終的な手段です。免除(地方自治法施行令第171条の7)は特定の要件下で長の権限で行える場合がありますが、債権放棄は地方自治法第96条第1項第10号の規定により、原則として議会の議決が必要となる最も厳格な手続きです。豊島区のように、条例で放棄の要件を具体的に定め、手続きを円滑化しようとする動きもあります。

相続発生時の対応

 債務者が死亡した場合、債権管理は通常の手続きから、民法の相続の規定に基づく特殊な対応へと移行します。この移行を迅速かつ正確に行えるかどうかが、債権を回収できるか否かの分水嶺となります。債務者死亡の報に接した場合、直ちに通常業務を停止し、以下の相続対応プロトコルを開始しなければなりません。

相続人の調査方法(戸籍謄本等の取得と相続関係説明図の作成)

 債権は、原則として法定相続人に引き継がれます。したがって、まず誰が相続人であるかを確定させる必要があります。

  • 戸籍謄本の連続取得:相続人を法的に確定するため、死亡した債務者(被相続人)の本籍地市区町村に対し、職権で「出生から死亡まで」の全ての戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本を請求します。これにより、婚姻、離婚、子の認知、養子縁組などの全ての身分関係が明らかになり、法定相続人全員を網羅的に把握することができます。
  • 相続関係説明図の作成:取得した戸籍情報をもとに、被相続人を中心に、配偶者、子、親、兄弟姉妹などの関係性を家系図のように図式化した「相続関係説明図」を作成します。これにより、複雑な相続関係を視覚的に整理し、権利関係の把握を容易にします。

相続放棄・限定承認の確認と対応

 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続を承認するか、放棄するかを選択しなければなりません。

  • 相続放棄・限定承認の照会:相続人が債務の相続を免れるために「相続放棄」や「限定承認」の手続きを家庭裁判所で行うことがあります。相続人が判明したら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、「相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会」を行い、手続きがなされていないかを確認します。
  • 対応:相続放棄が受理されている場合、その相続人に対しては請求できません。相続人全員が放棄した場合は、次の「相続財産管理人」の選任申立てを検討します。

相続財産管理人選任の申立て

 相続人全員が相続放棄をした場合や、そもそも相続人が存在しない場合、被相続人の財産(相続財産)は法的に管理者がいない状態となります。このままでは、不動産などの財産が残っていても債権を回収できません。

  • 選任申立て:このような場合、債権者として家庭裁判所に「相続財産管理人」の選任を申し立てることができます。選任された相続財産管理人(通常は弁護士)が、被相続人の財産を調査・管理・換価し、債権者への弁済など清算手続きを行います。
  • 実務上の留意点:申立てには、裁判所に数十万円程度の予納金を納める必要があります。この予納金は、管理人の報酬などに充てられ、相続財産から回収できれば返還されますが、財産が乏しい場合は返還されず、申立人(区)の負担となります。したがって、申立てを行う前には、不動産の登記情報を取得するなどして相続財産の状況をある程度調査し、予納金を上回る回収が見込めるかを慎重に判断する必要があります。

債務者の自己破産等への対応

 債務者が裁判所に自己破産等を申し立てた場合も、個別の取り立ては禁止され、法的な集団的債務処理手続きのルールに従う必要があります。

破産手続における債権届出と配当要求

 債務者(または破産管財人)から「破産手続開始通知」が届いたら、指定された期間内に、裁判所に対して「破産債権届出書」を提出しなければなりません。この届出を怠ると、債権者として扱われず、配当を一切受けることができなくなり、債権回収の機会を完全に失います。届出書には、債権の種類、額、発生原因などを正確に記載する必要があります。

公債権・私債権の優先順位(財団債権、優先的破産債権)

 破産手続きでは、全ての債権が平等に扱われるわけではなく、その性質に応じて弁済の優先順位が厳格に定められています。

  • 財団債権:破産手続きによらず、破産財団から随時、最も優先的に弁済される債権です。破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権のうち、納期限がまだ到来していないものや、納期限から1年を経過していないものなどがこれに該当します。
  • 優先的破産債権:財団債権の次に優先して弁済される債権です。財団債権に該当しない租税債権や、国民健康保険料などの公課がこれにあたります。
  • 一般破産債権:上記のいずれにも該当しない、一般的な債権です。自治体の貸付金などの私債権は、通常この区分になります。破産財団から財団債権と優先的破産債権を全て弁済した後に、なお残余がある場合に限り、他の一般破産債権者と債権額に応じて按分で配当を受けます。実際には、一般破産債権まで配当が回ってくるケースは多くありません。

先進事例に学ぶ債権管理の高度化

東京都及び特別区の先進的取組

東京都債権管理条例・規則のポイント解説

 東京都は、都が保有する債権の管理を全庁的に適正化するため、「東京都債権管理条例」及び同施行規則を制定しています。これは、特別区が債権管理体制を構築する上で重要な指針となります。

  • 全庁的な管理体制:財務局長が債権管理に関する総合調整機能を担い、各局に「債権管理者」(主管課長)を設置することで、所管ごとの管理責任を明確にしています。さらに、庁内の情報共有と連携を図るため「債権管理調整会議」を設置し、組織横断的な課題に対応する仕組みを構築しています。
  • 私債権管理の重点化:条例では、特に法的整理が複雑になりがちな私債権の管理手続き(督促、強制執行、履行延期の特約、免除、放棄)について、その要件や手続きを詳細に規定し、担当者が法令に基づき適切な判断を行えるよう支援しています。

豊島区等の先進事例ケーススタディ

 豊島区は、条例や方針の改正、専門家の活用などを通じて、債権管理の高度化を積極的に推進しており、他の特別区にとって大いに参考となるモデルケースです。

  • 弁護士相談の積極活用:生活保護費返還金や国民健康保険返納金など、特に判断が難しい私債権等について、年間600件もの弁護士相談を予定し、法的正当性を確保しつつ、困難案件の解決を図っています。
  • 生活困窮者への個別対応:生活保護費返還金の多くを占める「保護廃止世帯」について、画一的な対応ではなく、個別の事情に応じて今後の管理方針を検討するなど、福祉的視点と債権管理を両立させる取組みを進めています。
  • 機動的な債権整理:回収コストに見合わない少額債権の整理を促進するための「徴収停止上限額の緩和」や、事実上回収不能な債権を円滑に整理するための「債権放棄要件の緩和」など、実務の効率化と実態に即した債権整理を可能にするための制度改正に積極的に取り組んでいます。
  • 迅速な法的措置の実現:少額債権の訴えの提起に際し、議会議決を不要とする「専決処分」の範囲拡大を検討しています。これにより、事務の非効率性を解消し、時機を逸することなく法的措置へ移行できる体制を目指しています。

徴収率・財政状況の比較分析と考察

 自区の債権管理の現状を客観的に評価し、改善点を見出すためには、他団体との比較分析が有効です。東京都が公表する決算統計などを活用し、都内各区の地方税や主要な公債権の徴収率を比較します。徴収率が高い区の組織体制(例:専門部署の設置、人員配置)、具体的な取組み(例:民間委託の導入状況、ICTツールの活用度)、職員研修の内容などを調査・分析することで、自区で導入可能な改善策のヒントを得ることができます。

広域連携の動向(地方税滞納整理機構等)

 高額・悪質な滞納事案や、広域にわたる財産調査が必要な事案など、単独の自治体では対応が困難なケースが増加しています。こうした課題に対応するため、複数の自治体が共同で専門組織を設立し、滞納整理を行う「広域連携」の動きが全国的に広がっています。

 地方税の分野では、都道府県と市町村が共同で「地方税滞納整理機構」を設立する例が見られます。機構には、各自治体から徴収経験の豊富な職員が出向し、専門的なノウハウと強力な調査権限を集中させることで、単独では困難だった事案の解決を図ります。こうした広域連携は、専門性の集約とスケールメリットによる効率化という点で大きな効果が期待でき、今後の債権管理における重要な選択肢の一つとなるでしょう。

業務改革とDXによる効率化

 限られた人員で増大・複雑化する債権管理業務に対応し、費用対効果を高めるためには、従来のやり方を見直し、テクノロジーや民間の専門知識を戦略的に活用する「業務改革」が不可欠です。ここでは、ICT、民間活力、そして生成AIの活用による効率化の可能性を探ります。

ICT活用による業務変革

 ICT(情報通信技術)の活用は、定型的な業務を自動化・効率化し、職員がより付加価値の高い業務に集中するための鍵となります。

SMSを活用した効率的な催告・通知

 従来の郵便や電話による催告は、コストがかかる上に、宛先不明で届かなかったり、電話に出てもらえなかったりするケースが少なくありません。これに対し、SMS(ショートメッセージサービス)は、以下のような多くの利点があり、新たな連絡手段として導入する自治体が増えています。

  • 高い到達率と開封率: 携帯電話番号宛に直接送信するため、転居後も番号を変更していなければ確実に届き、開封率も高いとされています。
  • コスト削減: 郵送費や電話にかかる人件費と比較して、大幅なコスト削減が期待できます。
  • 業務効率化: 一斉送信機能を使えば、多数の滞納者へ一度に、かつ迅速に通知を送ることができます。 LGWAN(総合行政ネットワーク)に対応したセキュアなサービスを選択することで、個人情報を安全に取り扱いながら、催告業務の効率と効果を飛躍的に高めることが可能です。

RPAによる定型業務の自動化事例

 RPA(Robotic Process Automation)は、パソコン上で行う定型的な事務作業をソフトウェアロボットに記憶させ、自動化する技術です。債権管理業務には、RPA化に適した作業が多く存在します。

  • 自動化の例:
    • 滞納者リストから督促状や催告書を自動で作成し、印刷する。
    • 債権管理システムからデータを抽出し、報告書用のExcelファイルに自動で転記・集計する。
    • 納付があった際に、入金情報と滞納者情報をシステム上で自動的に照合し、消込作業を行う。 これらの反復的な作業をRPAに任せることで、職員はミスなく迅速に業務を処理できるだけでなく、本来時間をかけるべき納付相談や財産調査、法的措置の準備といった、高度な判断を要する業務に専念できるようになります。

民間活力の戦略的活用

 全ての債権管理業務を職員だけで完結させるのではなく、民間の専門性やリソースを戦略的に活用することで、より効率的かつ効果的な回収が可能となります。

弁護士への委託(困難案件の処理)

 訴訟や強制執行、複雑な相続・破産案件など、高度な法的知識と専門的な手続きが必要となる困難案件は、弁護士への委託が非常に有効です。

  • 弁護士委託のメリット:
    • 法的専門性: 訴状の作成から強制執行の申立てまで、法的に適正かつ迅速な手続きが期待できます。
    • 心理的効果: 弁護士名で内容証明郵便が送付されることで、債務者に事態の重大さを認識させ、自主的な納付を促す効果があります。
    • 福祉的連携: 債務整理の専門家でもあるため、多重債務者の生活再建を支援しながら、現実的な納付計画を立てるといった、きめ細やかな対応が可能です。
    • 債権整理の根拠: 弁護士が調査を尽くしても回収不能と判断された場合、それは法的に回収が極めて困難であることの客観的な証明となり、不納欠損処理や債権放棄を判断する際の有力な根拠となります。

債権回収会社(サービサー)の活用範囲と留意点

 サービサーとは、法務大臣の許可を得て債権の管理回収を専門に行う民間企業です。自治体債権については、その業務範囲は法律で厳しく制限されていますが、初期段階の滞納整理において有効な場合があります。

  • 主な委託業務:電話や訪問による納付の呼びかけ(案内業務)や、納付意思・滞納理由の聞き取りといった「納付勧奨業務」が中心となります。差押えなどの公権力の行使にあたる行為は委託できません。
  • 活用上の留意点:
    • 法令遵守: サービサー法や弁護士法に抵触しないよう、委託する業務範囲を契約書で明確に定める必要があります。
    • 個人情報管理: 委託先が個人情報を適切に管理する体制を有しているか、契約前に厳格に審査し、契約後も定期的に監督することが不可欠です。

生成AIの活用可能性

 生成AIの技術は急速に進展しており、将来的には債権管理業務のあり方を大きく変える可能性を秘めています。これは職員の仕事を奪うものではなく、むしろ職員を定型業務から解放し、より専門的で人間的なスキルが求められる業務へとシフトさせるための強力な支援ツールとなります。

AIコールセンター、応対記録の自動要約

 AIを活用した自動音声応答(IVR)やチャットボットが、初期の問い合わせ対応や簡単な納付案内を24時間365日行うことで、職員の電話対応業務を大幅に削減します。さらに、債務者との通話内容をAIがリアルタイムで文字起こしし、その要点を自動で要約して債権管理台帳に記録するシステムも実用化が進んでいます。これにより、記録作成にかかる時間が劇的に短縮され、職員は交渉そのものに集中できます。

トップ徴収吏員のナレッジ共有と研修への応用

 経験豊富な優秀な職員(トップ徴収吏員)の交渉記録や判断プロセスをAIに学習させることで、その暗黙知を形式知化し、組織全体のナレッジとして共有することが可能になります。例えば、若手職員が困難な案件に直面した際、AIが過去の類似案件やトップ徴収吏員の対応例を提示して判断をサポートしたり、バーチャルな債務者を相手にAIとの交渉シミュレーション研修を行ったりすることで、組織全体のスキルレベルを効率的に底上げすることが期待できます。

催告文書等の自動生成とパーソナライズ

 債務者の滞納期間、過去の納付・連絡履歴、資産状況といったデータに基づき、生成AIが個々の債務者に最も効果的と思われる文面やトーンの催告文書を自動で作成します。例えば、初回滞納者には丁寧な案内文を、交渉履歴がある相手には過去の約束事を踏まえた文面を生成するなど、パーソナライズされたアプローチにより、納付に応じる確率を高めることができます。

 さらに、練馬区の事例のように、AIが滞納者の属性データから、預金、給与、不動産など、どの財産を調査するのが最も効率的かを分析し、調査先を推奨(レコメンド)することで、財産調査にかかる時間を一件あたり平均約30分から約3分へと大幅に短縮したという先進的な活用例も報告されています。

実践的スキル向上による徴収率改善

組織レベルでの取組み

明確な方針とKPI(重要業績評価指標)の設定

 債権管理は、担当者個人の努力だけに依存するのではなく、組織全体として統一された方針のもと、計画的に進める必要があります。

  • 債権管理方針の策定・共有:まず、「資力のある滞納者には毅然と対応する」「生活困窮者には福祉的視点も持って対応する」といった組織としての基本姿勢を明確にした「債権管理方針」等を策定し、全職員で共有します。
  • KPIの設定と可視化:目標を明確にし、進捗を客観的に評価するために、KPI(重要業績評価指標)を設定します。これにより、漠然とした「頑張る」ではなく、具体的な数値目標に基づいた改善活動が可能になります。
    • KPIの例:
      • 現年度徴収率
      • 滞納繰越分の解消率(金額ベース、件数ベース)
      • 新規発生滞納額・率
      • 差押え件数、差押えによる回収額
      • 1件あたりの回収コストこれらのKPIを定期的に集計し、グラフなどで可視化することで、組織全体の現状と課題が一目でわかるようになります。

PDCAサイクルの構築(Plan-Do-Check-Act)

 設定したKPIを達成するため、組織としてPDCAサイクルを回し、継続的な業務改善を図ります。

  • Plan (計画):年度当初に、過去の実績やKPIの分析に基づき、当該年度の徴収計画を策定します。計画には、全体の目標徴収率に加え、「高額滞納者への重点的アプローチ」「発生から3か月以内の滞納事案の解消」「SMS催告の導入」など、具体的なアクションプランを盛り込みます。
  • Do (実行):策定した計画に基づき、本マニュアルで解説した業務フロー(督促、調査、交渉、法的措置等)を全庁的に実行します。
  • Check (評価):月次や四半期ごとにKPIの進捗状況を確認し、計画と実績の差異を分析します。「なぜ計画を達成できたのか」「なぜ未達だったのか」の要因を深掘りします。
  • Act (改善):評価結果に基づき、計画や手法を見直します。例えば、「電話催告への応答率が低い」という分析結果が出た場合、「SMSや訪問催告の比率を高める」といった改善策を講じ、次の計画に反映させます。このサイクルを繰り返すことで、組織の債権回収能力は着実に向上していきます。

個人レベルでのスキルアップ

交渉術とコミュニケーションスキル

 債権回収業務は、法律や事務手続きの知識だけでなく、債務者と対峙するための高度な対人スキルが求められます。

  • 傾聴力:まず相手の言い分を真摯に聴き、なぜ納付できないのか(「できない」のか「しない」のか)、どのような状況にあるのかを正確に把握することが交渉の出発点です。
  • 説明・説得力:納付が法的な義務であること、滞納を続けることによる不利益(延滞金の加算、財産の差押え等)を、感情的にならず、論理的かつ明確に説明し、相手に納得してもらう能力が求められます。
  • アサーティブ・コミュニケーション:相手の状況に配慮しつつも、伝えるべきことは毅然として伝えるバランス感覚が重要です。威圧的でも卑屈でもなく、対等な立場で誠実に要求を伝えるスキルを磨く必要があります。 これらのスキルは、経験を通じて向上しますが、特別区職員研修所などが提供する専門研修を積極的に受講することも、自身のスキルを客観的に見つめ直し、体系的に学ぶ上で非常に有効です。

PDCAサイクルの実践(Plan-Do-Check-Act)

 組織レベルのPDCAと同様に、職員一人ひとりも日々の業務の中でPDCAを意識することで、担当案件の処理能力を高めることができます。

  • Plan (計画):担当する個々の案件について、「今週中に電話で接触し、分割納付の約束を取り付ける」「月末までに財産調査を完了させる」など、具体的な目標と期限を設定します。
  • Do (実行):計画に沿って、電話、訪問、調査などのアクションを実行します。
  • Check (評価):一日の終わりや週の終わりに、計画通りに進んだか、なぜ上手くいかなかったのか(例:電話に出てもらえなかった、交渉が決裂した)を振り返り、その結果を台帳に正確に記録します。
  • Act (改善):評価に基づき、次のアクションを考えます。「電話に出ないなら、次は訪問してみよう」「交渉が平行線なので、上司に相談して法的措置の準備に入ろう」など、次の計画を立て、実行に移します。 この小さなPDCAを一つひとつの案件で粘り強く回し続けることが、困難案件を解決に導き、個人のスキルアップ、そして組織全体の徴収率向上に繋がります。

まとめ

債権管理のプロフェッショナルとして

 本研修資料を通じて、企画課職員として担う債権管理業務の全体像、法的根拠、具体的な実務手順、そして今後の展望について、網羅的に学んでいただきました。

 皆様が日々向き合う債権管理という仕事は、単なる事務作業の繰り返しではありません。それは、区の財政基盤を根底から支え、それによって実現される多様な住民サービスを守るという、極めて公共性の高い専門業務です。納期内に納付されている大多数の住民の信頼に応え、負担の公平性を貫徹するという、行政の根幹をなす重要な役割を担っています。

 業務を遂行する上では、地方自治法や民法といった法令を遵守する厳格さが求められる一方で、時には経済的に困窮する住民の現実に寄り添い、その生活再建を支援するという福祉的な視点も不可欠です。この「厳格さ」と「柔軟さ」のバランスを保ち、一つひとつの事案に誠実に向き合うことこそ、債権管理のプロフェッショナルに求められる資質です。

 本資料で得た知識とスキルを土台とし、日々の業務の中で実践的な経験を積み重ね、そして常に新しい技術や手法を学び続けることで、皆様が自信と誇りを持って職務を全うされることを心から期待しています。皆様一人ひとりの努力が、特別区の未来を支える力となるのです。

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