PFS①
1. PFS(成果連動型民間委託契約方式)の概要
成果連動型民間委託契約方式(PFS: Pay for Success)は、国や地方公共団体が民間事業者に委託する事業において、解決すべき行政課題に対応した成果指標を設定し、支払額をその成果指標の改善状況に連動させる革新的な契約方式です。従来の仕様発注型委託とは異なり、民間事業者の創意工夫を最大限に活用することで、より高い行政サービスの成果を実現することを目指しています。
PFSの中でも、民間事業者が資金提供者から資金を調達し、地方公共団体からの支払いに応じて返済を行う仕組みを「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)」と呼びます。この仕組みにより、行政は初期投資のリスクを軽減しながら、社会課題の解決に取り組むことができます。
2. 日本におけるPFS導入事例の分析
2.1 分野別導入状況
内閣府の事例集によると、日本のPFS事業は以下の分野で広がっています:
内閣府で把握したPFS事業事例の一部 PFS事業事例集 : 成果連動型民間委託契約方式(PFS:Pay For Success)ポータルサイト – 内閣府では、医療・健康分野が最も多く、次いで介護分野、まちづくり、就労支援、その他(不登校支援など)となっています。特に注目すべきは、東京都八王子市の大腸がん検診・精密検査受診率向上事業が9,762千円で平成29年度から3年間実施 PFS事業事例集 : 成果連動型民間委託契約方式(PFS:Pay For Success)ポータルサイト – 内閣府されたことです。
2.2 東京都における導入事例
横浜市では、平成27年度から導入向けた検討・試行に取り組んでいます 成果連動型民間委託契約方式(PFS) 横浜市。横浜市は、生産年齢人口の減少や超高齢社会の進展により、財政運営においても一層厳しさを増すことが見込まれています 成果連動型民間委託契約方式(PFS) 横浜市という背景から、PFSを「オープン・イノベーションの推進と効率的かつ適正な財政運営の推進」のための有効な手法として位置づけています。
3. 市民活動支援施設への導入可能性
3.1 類似施設での事例
現在、市民活動支援施設に特化したPFS事例は限定的ですが、関連分野での成功事例から示唆を得ることができます:
- まちづくり分野:滋賀県東近江市では東近江市版SIB事業を平成28年度から令和元年度まで実施 PFS事業事例集 : 成果連動型民間委託契約方式(PFS:Pay For Success)ポータルサイト – 内閣府し、地域課題解決に成果を上げています。
- 就労支援分野:千葉県佐倉市では引きこもり等の社会的孤立者へのアウトリーチによる就労に向けたステップアップ支援を実施 PFS事業事例集 : 成果連動型民間委託契約方式(PFS:Pay For Success)ポータルサイト – 内閣府しています。
3.2 期待される成果指標の例
市民活動支援施設でPFSを導入する場合、以下のような成果指標が考えられます:
- 市民活動団体の新規登録数・活動継続率
- 施設利用者数・利用満足度
- 市民協働事業の実施件数・成果
- 地域課題解決への貢献度
- ボランティア参加者数・活動時間
4. メリットとデメリットの詳細分析
4.1 メリット
横浜市の資料によれば、成果連動型民間委託契約方式(PFS)の活用により期待される効果 成果連動型民間委託契約方式(PFS) 横浜市として以下が挙げられています:
- 成果の最大化 行政課題の解決に民間事業者のノウハウ等が積極的に活用されることや民間事業者による柔軟できめ細やかなサービスが提供されることで、国民や地域住民の満足度の向上といったより高い成果(アウトカム)が創出されること 成果連動型民間委託契約方式(PFS) 横浜市
- 民間事業者の育成 行政課題の解決に向けたノウハウを有する多様な民間事業者の公共サービスへの参入機会が創出され民間事業者において、そのノウハウの蓄積・改善が進み、民間事業者の育成が促進されること 成果連動型民間委託契約方式(PFS) 横浜市
- 財政効率の向上 地方公共団体等から民間事業者に対する支払額等が、成果指標の改善状況に連動することで個々の事業の費用対効果が高まり、ワイズスペンディング(賢い予算支出)が図られること 成果連動型民間委託契約方式(PFS) 横浜市
- EBPM(エビデンスに基づく政策立案)の推進 解決を目指す行政課題(政策目的)に向け、事業とその成果との結び付き(因果等の関連性)を整理するとともに成果指標を設定し、その測定に情報やデータを整備し、活用することにより、EBPM(エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)の推進が図られること 成果連動型民間委託契約方式(PFS) 横浜市
4.2 デメリット・課題
PFS導入にあたっては、以下の課題を考慮する必要があります:
- 成果指標設定の難しさ 市民活動支援の成果は定量化が困難な場合が多く、適切な指標設定に専門的知見が必要
- 初期コストの発生 導入可能性調査、成果指標の設定、評価体制の構築に初期費用がかかる
- 評価の複雑性 第三者評価機関の設置や継続的なモニタリング体制の構築が必要
- 事業者リスク 成果が出ない場合の収入減少リスクを民間事業者が負う
5. 特別区での導入に向けた提言
5.1 段階的アプローチの推奨
- パイロット事業の実施 小規模な事業から開始し、成果測定手法を確立
- 成果指標の精緻化 市民活動支援の特性に応じた指標開発
- 関係者協議の充実 民間事業者、市民活動団体、利用者等との対話を重視
5.2 成功要因の整備
多くの成功事例で資金提供者、第三者評価機関、中間支援組織 PFS事業事例集 : 成果連動型民間委託契約方式(PFS:Pay For Success)ポータルサイト – 内閣府が設置されていることから、以下の体制整備が重要です:
- 適切な中間支援組織の選定
- 客観的な第三者評価機関の確保
- 資金提供者との連携(SIBの場合)
5.3 他自治体との連携
国土交通省はまちづくり分野におけるPFS・SIBの導入を検討している地方公共団体の取組を募集・選定し、専門家の派遣等による導入支援を実施 報道発表資料:まちづくり分野における成果連動型民間委託契約方式(PFS) の導入を検討している地方公共団体の取組を募集し、 専門家の派遣等による導入支援を実施します。 – 国土交通省しています。このような支援制度を活用し、先進自治体との情報共有を図ることが効果的です。
6. 結論と今後の展望
市民活動支援施設におけるPFS導入は、従来の委託方式では実現困難だった成果重視の施設運営を可能にします。特に特別区においては、都市部特有の多様な市民ニーズに対応する柔軟なサービス提供が期待できます。
ただし、導入にあたっては成果指標の適切な設定、評価体制の構築、関係者との合意形成など、慎重な準備が必要です。まずは小規模なパイロット事業から始め、段階的に拡大していくアプローチが推奨されます。
今後、内閣府や関係省庁による支援制度も充実してきており、地方公共団体においてPFSの導入を促進するため、これまでに案件形成を支援した事例を踏まえ、医療・健康及び介護分野の手引きを作成 成果連動型民間委託契約方式(PFS)に関する取組されるなど、導入環境は整いつつあります。市民活動支援施設においても、この機会を活用し、より効果的な公共サービスの実現を目指すことが期待されます。