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【青少年健全育成課】青少年健全育成 完全マニュアル

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目次
  1. はじめに
  2. 青少年健全育成の基本理念と歴史的変遷
  3. 青少年健全育成を支える法的根拠
  4. 青少年健全育成課の標準業務フロー
  5. 現代の青少年を取り巻く課題と対応策
  6. 東京都特別区における青少年健全育成の現状分析
  7. 先進事例に学ぶ実践的アプローチ
  8. 業務改革とDXの推進
  9. 成果向上のための実践的スキル
  10. まとめ:未来を担う青少年を支える職員として

はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。

青少年健全育成の基本理念と歴史的変遷

業務の意義と目的

 青少年健全育成とは、単に非行を防ぎ、問題行動を未然に防止するという消極的な意味合いに留まるものではありません。その本質は、「すべての子どもの生活の保全と情緒の安定を図って、一人ひとりの個性と発達段階に応じて、全人格的に健やかに育てる」という、極めて積極的かつ包括的な理念に基づいています。

 私たちの業務の最終的な目的は、次代を担う青少年が、自らの力で未来を切り拓くための「心と体」の土台を築くことにあります。具体的には、自主性や社会性、そして正義感や倫理観といった豊かな人間性を育むことを目指します。これは、青少年一人ひとりが自立した社会人として成長するための支援であり、同時に、より良い社会を形成するための未来への投資でもあります。

 この崇高な目的を達成するため、青少年健全育成は以下の5つの具体的な目標を柱としています。これらは、青少年の全人格的な成長を促すための羅針盤となります。

  • 身体の健康増進: 日常生活を自立して送るための体力(行動体力)と、病気に対する抵抗力(防衛体力)の両方を高め、健やかな身体を育成します。
  • 心の健康増進: 不安や緊張、欲求不満といった心の揺らぎを乗り越え、安定した精神状態を保ち、豊かな人格形成を促します。
  • 知的な適応能力の向上: 個々の能力や個性に応じて、生活に必要な知識や技術を最大限に獲得し、社会で生きていくための知的な基盤を強化します。
  • 社会的な適応能力の向上: 家庭、学校、地域といった様々な集団生活の中で、他者と協調し、良好な人間関係を築く能力を高めます。
  • 情操の涵養: 美しいもの、善い行い、真理といったものに触れた際に、素直に感動できる豊かな心を育みます。

 これらの目標は、すべての青少年が心身ともに健やかで、人間性豊かな大人として成長することこそが区民全体の願いであるという共通認識に基づいています。私たちの日常業務は、この区民の願いを実現するための、具体的かつ重要な一歩一歩なのです。

青少年育成施策の歴史的変遷

 今日の青少年健全育成施策は、一朝一夕に形成されたものではありません。その背景には、戦後から現代に至るまでの社会の変化と、それに伴う青少年問題の変質に対応してきた長い歴史があります。この変遷を理解することは、現代の施策がなぜ現在の形になっているのかを深く理解する上で不可欠です。

 戦後復興期における青少年対策は、戦争孤児や非行少年への対応など、主に「緊急保護対策」としての性格が強いものでした。社会の安定を取り戻す中で、問題行動を起こした青少年を社会から「保護・管理」するという視点が中心でした。しかし、高度経済成長期を経て社会が豊かになるにつれ、施策の重点は徐々に変化していきます。単なる問題への対処から、すべての青少年が健やかに成長できる環境を積極的に整備する「健全育成」へと、その視点が大きく拡がっていったのです。

 この流れは、当初の「管理・統制」を主眼としたアプローチから、青少年の自己実現を支援する「育成・エンパワーメント」への哲学的な転換を意味します。当初は社会を問題行動から守るという視点が強かったものが、時代と共に、青少年一人ひとりの可能性を最大限に引き出し、社会の一員として活躍できるよう支援するという、より前向きで建設的な役割へと行政のスタンスが進化してきたのです。

 しかし、平成期に入ると、社会は新たな課題に直面します。インターネットの普及に伴う有害情報の氾濫、テレホンクラブやカラオケボックスといった新たな娯楽施設が生み出す非行の温床、そして薬物乱用や凶悪犯罪、いじめの深刻化など、青少年を取り巻く環境は複雑化・多様化の一途を辿りました。

 こうした新たな課題に対応するため、国政レベルでは「青少年健全育成基本法案」の制定が複数回試みられましたが、表現の自由との兼ね合いなどから、いずれも成立には至りませんでした。これに代わり、政府は行政指導やガイドラインの形で対策を強化する道を選びます。2001年の「少年を取り巻く有害な環境の整備に関する指針」を皮切りに、これらは後に「青少年育成施策大綱」へと発展し、政府の青少年政策の基本方針として位置づけられることになりました。この歴史的経緯が、現在の私たちの業務の法的・政策的枠組みを形作っているのです。

青少年健全育成を支える法的根拠

国の主要法令と施策大綱

 私たちの業務は、個々の自治体の判断だけでなく、国が定めた法律や施策方針という強固な基盤の上に成り立っています。特に「子ども・若者育成支援推進法」と「青少年育成施策大綱」は、業務の方向性を決定づける両輪であり、その内容を正確に理解することが不可欠です。

  • 子ども・若者育成支援推進法: この法律は、青少年健全育成に関する国の基本法と位置づけられます。その最大の目的は、ニートやひきこもり、不登校といった困難を抱える子ども・若者に対し、従来の教育、福祉、保健、雇用といった縦割り行政の壁を越え、社会全体で総合的な支援を行うための枠組みを整備することにあります。 同法は、基本理念として、一人ひとりの子ども・若者が健やかに成長し、自立した個人として自己を確立できるよう、社会環境の整備を含めた支援を行うことを定めています。 実務上、特に重要なのが、社会生活を円滑に営む上で困難を有する子ども・若者を支援するためのネットワーク整備の規定です。地方公共団体に対し、関係機関等が連携して支援を行うための中核組織として「子ども・若者支援地域協議会」を置くよう努めることを求めており、これが私たちの部署がハブとなって関係機関との連携を推進する強力な法的根拠となります。
  • 青少年育成施策大綱: この大綱は、法律が恒久的な「骨格」であるのに対し、社会情勢の変化に柔軟に対応するための、おおむね5年を期間とする政府の「中期戦略計画」です。 現行の大綱では、主に5つの重点課題が掲げられています。①すべての子供・若者の健やかな育成、②困難を有する子供・若者やその家族の支援、③成長のための社会環境の整備、④成長を支える担い手の養成、⑤創造的な未来を切り拓く子供・若者の応援です。これらの課題は、私たちが日々の事業を企画・立案する際の優先順位や方向性を示す、具体的なガイドラインとなります。
  • 児童福祉法及び関連条例: 青少年健全育成は、より広範な児童福祉の枠組みの中に位置づけられます。児童福祉法そのものが直接の根拠となる場面は少ないかもしれませんが、同法の理念に基づき、各都道府県が制定する「青少年健全育成条例」は、私たちの業務に直結する具体的な規制や責務を定めています。例えば、青少年を有害な環境から保護するための営業所への立入制限や、青少年に対するみだらな行為の禁止などは、これらの条例に根拠を持っています。

東京都青少年の健全な育成に関する条例の詳解

 特別区の職員として、最も日常業務で参照し、遵守すべき法的根拠が「東京都青少年の健全な育成に関する条例」(以下、都条例)です。この条例は、青少年の健全な育成を阻害する行為を防止し、育成に資する環境を整備することを目的としています。実務上、特に重要な条文を以下に詳解します。

  • 深夜外出の制限(第15条の4): 保護者に対し、正当な理由なく深夜(午後11時から翌日午前4時まで)に青少年(18歳未満)を外出させないよう努力義務を課しています。また、何人も、保護者の同意なく深夜に青少年を連れ出し、同伴し、又はとどめてはならないと定めています。深夜の巡回指導や、繁華街での声かけ活動を行う際の直接的な根拠となります。深夜に外出している青少年を発見した場合、すべての都民に保護と善導に努める義務があることも、地域住民への協力依頼の際に有効な根拠となります。
  • 不健全な図書類等の指定(第8条): 知事が、青少年健全育成審議会の答申に基づき、「著しく性的感情を刺激するもの」や「甚だしく残虐性を助長するもの」などを「不健全な図書類」として指定できると定めています。指定された図書類は、青少年への販売・頒布等が制限されます。書店やコンビニエンスストア等への立入調査や、ゾーニング(区分陳列)の指導を行う際の根拠となります。近年では、ボーイズラブ作品の指定が増加傾向にあるなど、社会の動向を反映した運用がなされています。
  • インターネット利用に関する規定: 都条例は、時代の変化に対応して改正を重ねています。平成17年(2005年)の改正では、インターネット上の有害情報から青少年を保護するため、保護者や事業者に対しフィルタリングの利用を努力義務とする規定が追加されました。さらに、近年社会問題化した「自画撮り被害」に対応するため、青少年に自身の裸体等を撮影させ、送信させる行為を要求・勧誘することなどを禁止する規定も盛り込まれています。これらの規定は、情報モラル啓発講座や保護者向け説明会を実施する際の重要な論拠となります。
  • その他(みだらな性交等の禁止、指定刃物の販売制限等): 都条例は、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行うこと(第18条の6)や、知事が指定した刃物を青少年に販売すること(第13条の2)などを禁止しています。これらの規定は、警察との連携や、関係事業者への指導において重要な役割を果たします。

法的根拠の体系的整理

 これまで見てきたように、青少年健全育成業務は、国、都、区という重層的な法体系によって支えられています。若手職員からベテラン職員まで、誰もがこの全体像を直感的に理解できるよう、以下の表にその関係性を整理します。この表は、具体的な事案に直面した際に、「どの法律・条例のどの部分が自分の行動の根拠となるのか」を迅速に確認するための実用的なツールとなります。

法令・施策名種別主な関連条文・内容自治体職員の実務上の意義
子ども・若者育成支援推進法国の法律基本理念 (第3条), 地方公共団体の責務 (第5条), 地域協議会の設置 (第19条)全ての青少年施策の根幹。分野横断的な連携体制(地域協議会)を構築・運営する法的義務の根拠。
青少年育成施策大綱国の施策方針5つの重点課題(困難を有する若者支援、社会環境整備等)自区の事業計画を立案する際の、国の中長期的方針との整合性を確保するための指針となる。
児童福祉法国の法律児童の福祉を保障する基本原則健全育成業務が、より広範な児童福祉の一環であることを位置づける。特に要保護児童との連携で重要。
東京都青少年の健全な育成に関する条例都の条例深夜外出制限 (第15条の4), 不健全図書類の指定 (第8条), みだらな行為の禁止 (第18条の6)日常業務で最も直接的に適用される具体的な規制・ルールの根拠。立入調査や指導、啓発活動の法的基盤。

青少年健全育成課の標準業務フロー

年間業務の全体像

 青少年健全育成課の業務は、単発のイベント対応だけでなく、年間を通じた計画的なサイクルで運営されています。この業務リズムを把握することは、見通しを持った効率的な業務遂行の第一歩です。以下に、典型的な年間業務の流れを示します。

  • 4月~5月(年度当初):
    • 事業計画の最終確認と予算執行開始: 前年度に策定した年間事業計画に基づき、各事業の具体的な準備を開始します。予算の執行手続きもこの時期に集中します。
    • 関係機関との連携会議: 新年度の担当者も確定するため、学校、警察、児童相談所等の関係機関と連絡会議を開催し、年間の連携体制や情報共有の方法について確認します。
  • 6月~8月(夏季):
    • 「青少年の非行・被害防止全国強調月間」(7月)関連事業: 街頭キャンペーン、講演会、ポスター掲示など、非行防止と被害防止に関する啓発活動を集中的に実施します。
    • 夏休み中の青少年向け事業の実施: キャンプ、スポーツ大会、ボランティア活動など、青少年の体験活動を促進するための事業を企画・実施します。長期休暇は、青少年の生活リズムが乱れやすく、非行や問題行動のリスクが高まる時期でもあり、居場所づくりが重要となります。
  • 9月~11月(年度中間):
    • 事業の中間評価: 上半期に実施した事業の効果を検証し、課題を洗い出します。必要に応じて、下半期の事業計画を修正します。
    • 次年度事業の企画・検討開始: 国や都の新たな方針、地域の課題、中間評価の結果などを踏まえ、次年度に実施する新規事業や重点事業の検討を開始します。
  • 12月~1月(冬季):
    • 冬休み・年末年始の巡回指導強化: 深夜徘徊や飲酒・喫煙等の問題行動が増加しやすい時期であるため、地域の青少年委員や警察と連携し、繁華街などを中心に巡回指導を強化します。
    • 次年度予算要求の準備: 検討中の次年度事業計画に基づき、具体的な予算要求資料を作成します。
  • 2月~3月(年度末):
    • 年間事業報告書の作成: 当該年度に実施した全事業について、成果、課題、決算等をまとめた報告書を作成します。
    • 次年度事業計画の策定: 予算の内示を受け、次年度の事業計画を最終的に確定させます。

主要事業の企画・立案から実施・評価まで

 一つの事業を成功させるためには、体系的なプロジェクトマネジメントの視点が不可欠です。ここでは、「少年の主張大会」のような典型的な健全育成事業を例に、そのプロセスを具体的に解説します。

  1. 企画(Plan):
    • ニーズ把握と目的設定: 地域の学校や青少年団体からのヒアリング、アンケート調査などを通じて、「青少年が自分の意見を表明する機会が少ない」といった課題を把握します。これに基づき、「青少年の自己肯定感の向上と社会参加意識の醸成」といった事業目的を明確に設定します。
    • 目標の具体化: 「区内中学校の半数以上から応募がある」「参加者の90%以上が『参加して良かった』と回答する」など、測定可能な目標(KPI)を設定します。
  2. 立案(Develop):
    • 事業計画書の作成: 目的、目標、対象者、実施内容、スケジュール、所要経費、期待される効果などを明記した詳細な事業計画書を作成します。
    • 内部決裁: 作成した計画書に基づき、課内及び部内の決裁を得ます。
  3. 準備(Prepare):
    • 関係各所との調整: 会場の確保、審査員の依頼(教育関係者、地域の名士等)、後援・協力依頼(教育委員会、報道機関等)。
    • 広報・募集: 区の広報紙やウェブサイト、各学校へのチラシ配布などを通じて、参加者を募集します。
    • 運営体制の構築: 当日の司会、受付、誘導、記録などの役割分担を決定し、必要に応じて青少年委員などのボランティアスタッフを募集・配置します。
  4. 実施(Implement):
    • イベント運営: 計画に基づき、大会を円滑に運営します。当日は、予期せぬトラブル(機材故障、参加者の体調不良等)に迅速に対応できる体制を整えておくことが重要です。
  5. 評価・報告(Evaluate & Report):
    • アンケートの実施: 参加者や観覧者、協力者からアンケートを回収し、満足度や改善点を把握します。
    • 効果測定と分析: 応募数や参加者数、アンケート結果などを基に、設定したKPIの達成度を評価します。なぜ目標を達成できたのか(あるいはできなかったのか)を分析し、次年度への教訓を導き出します。
    • 事業報告書の作成と共有: 評価・分析結果をまとめた事業報告書を作成し、関係機関や協力者と共有します。この報告が、次年度の企画(Plan)へと繋がるPDCAサイクルの起点となります。

関係機関との連携実務

 青少年健全育成課の最も重要な機能の一つは、自らが事業を実施する「プレイヤー」であると同時に、地域の様々な専門機関を繋ぐ「ハブ」としての役割を果たすことです。複雑化する青少年の問題は、一機関単独では解決できません。効果的な支援は、強固な連携ネットワークがあって初めて可能となります。

 このネットワーク・マネジメントこそが、現代の担当職員に求められる中核的なスキルです。例えば、不登校でひきこもりがちなヤングケアラーのケースに直面した際、担当者一人の力では限界があります。しかし、学校のスクールカウンセラー、地域のNPO、福祉事務所のケースワーカー、保健所の保健師を迅速に招集し、ケース会議を主導することで、それぞれの専門性を活かした多角的な支援パッケージを構築できます。この能力こそが、私たちの業務の成果を最大化する鍵となります。

 以下に、主要な連携機関と具体的な連携内容を示します。

  • 学校(教育委員会):
    • 連携方法: 定期的な連絡協議会、生徒指導担当教員との日常的な情報交換。
    • 連携内容: 不登校や問題行動が見られる児童・生徒に関する情報共有、学校だけでは対応が困難な家庭への合同訪問、学校外での居場所(フリースクール等)に関する情報提供。
  • 警察(生活安全課少年係):
    • 連携方法: 少年補導センターなどを通じた定期的な情報交換会、合同での巡回指導。
    • 連携内容: 地域の非行少年グループの動向、薬物や特殊詐欺などの犯罪被害に関する情報共有、非行防止キャンペーンや薬物乱用防止教室の共同実施。
  • 児童相談所:
    • 連携方法: 要保護児童対策地域協議会(要対協)への参加、個別ケース会議。
    • 連携内容: 虐待が疑われるケースの通告と連携対応、施設入所や里親委託となっている青少年の自立支援に関する情報共有。
  • 保健所・保健センター:
    • 連携方法: 精神保健福祉相談、発達障害に関する相談窓口との連携。
    • 連携内容: 精神的な問題を抱える青少年やその家族への専門的相談機関の紹介、発達障害の疑いがある子どもへの早期支援体制の構築。
  • NPO・地域の青少年団体:
    • 連携方法: 事業委託、補助金交付、協働でのイベント実施。
    • 連携内容: ひきこもり支援や学習支援、外国にルーツを持つ子どものサポートなど、行政だけでは手の届きにくい専門的な支援を担うNPOとのパートナーシップ構築。地域の青少年委員会やボーイスカウト、ガールスカウト等と連携し、地域に根差した活動を展開。

現代の青少年を取り巻く課題と対応策

不登校・ひきこもり支援の最前線

 不登校は、もはや特別な問題ではなく、どの学校、どの地域でも起こりうる喫緊の課題となっています。文部科学省の調査によれば、令和5年度の小・中学校における不登校児童生徒数は約30万人に達し、過去最多を更新し続けています。高等学校においても不登校生徒の割合は2.4%にのぼり、増加傾向にあります。その背景には、いじめや友人関係の悩みといった従来からの要因に加え、コロナ禍を経た生活リズムの乱れや学習意欲の低下など、複合的な要因が絡み合っています。

 こうした状況に対し、行政には多層的かつ切れ目のない支援体制の構築が求められます。

  • 初期段階(学校内支援): まずは学校内で安心して過ごせる環境を整えることが重要です。別室登校や校内サポート教室の設置、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置拡充が基本となります。
  • 中期段階(学校外との連携): 学校に登校することが困難な子どもたちのために、学校外の多様な学びの場との連携を強化します。フリースクールやNPOが運営する居場所、教育支援センターなどがその受け皿となります。特に、東京都や葛飾区のように、フリースクール等に通う家庭への利用料助成制度は、保護者の経済的負担を軽減し、選択肢を広げる上で非常に有効な施策です。
  • 長期化・重度化段階(アウトリーチ支援): 完全に家庭にひきこもってしまった若者に対しては、支援者が家庭を訪問する「アウトリーチ支援」が不可欠です。「子ども・若者総合相談センター」のようなワンストップの相談窓口を中核とし、本人の状況に応じて医療や福祉、就労支援へと繋いでいくネットワークが求められます。

少年非行の動向と立ち直り支援

 警視庁の統計によると、都内の刑法犯少年は長らく減少傾向にありましたが、令和4年から増加に転じています。令和6年中の刑法犯少年の検挙・補導人員は4,101人で、前年比で22.4%増と顕著な増加を示しました。特に、SNSなどを通じて安易に犯罪に加担してしまう特殊詐欺関連での検挙人員が増加しており、大きな社会問題となっています。

 非行の背景には、家庭内の問題が半数以上を占めるという調査結果もあり、単に少年自身を指導するだけでなく、家庭環境へのアプローチも不可欠です。

 こうした現状に対し、非行からの「立ち直り支援」の重要性が増しています。

  • 立ち直りの場の提供: 一度過ちを犯した少年が、再び社会の一員として歩み出すためには、新たな居場所や役割が必要です。埼玉県の「青少年のセカンドチャンスの場づくり事業」のように、地域の企業や団体の協力を得て、就労体験や社会体験の機会を提供する取り組みは、特別区においても大いに参考になります。こうした活動を通じて、少年たちは自己肯定感を取り戻し、社会との繋がりを再構築することができます。
  • 地域社会全体での支援体制: 立ち直りは、本人の努力だけで成し遂げられるものではありません。保護司や更生保護施設といった専門機関はもちろんのこと、地域住民や企業が一体となって、彼らを温かく受け入れ、支える社会を築くことが求められます。地域社会全体で立ち直りを支援する体制づくりこそが、再非行を防ぐ最も確実な道です。

ネットいじめ・有害情報対策

 スマートフォンやSNSの普及は、青少年のコミュニケーションを豊かにした一方で、匿名性や拡散性といった特性を持つネットいじめや、有害情報との接触といった新たなリスクを生み出しました。これらの問題は、学校や家庭内だけで解決することが困難であり、行政が主導する多角的なアプローチが必要です。

 これらの課題への対応は、従来の「何か問題が起きてから相談に来るのを待つ」という受動的な姿勢では不十分です。ネットいじめやヤングケアラーといった問題は、外部から見えにくく、本人も声を上げにくいという特徴があります。そのため、行政側から積極的に問題を発見しにいく「プッシュ型」のシステムを構築することが不可欠です。例えば、SNSを活用した相談窓口やネットパトロールは、助けを求める声を拾い上げるための重要なツールです。これは、単なる業務効率化ではなく、最も支援を必要としている層へのアクセスを確保するための、公平性の観点からも重要な取り組みと言えます。

  • 教育・啓発(リテラシー向上): 最も基本的な対策は、青少年自身と保護者の情報モラルやネットリテラシーを高めることです。各学校での情報モラル教育の実施はもちろん、品川区の「携帯電話『しながわアクション』」のように、家庭内でのルール作りを促すリーフレットを配布するなど、保護者への直接的な働きかけが効果的です。
  • 技術的対策(フィルタリングの推進): 青少年が意図せず有害情報に触れることを防ぐため、保護者によるフィルタリング(ペアレンタルコントロール)の利用を促進します。携帯電話事業者と連携したキャンペーンや、学校での説明会などを通じて、その重要性と設定方法を周知徹底することが求められます。
  • 監視・介入(ネットパトロールと相談体制): 専門業者への委託や職員によるネットパトロールを実施し、いじめや個人情報の漏洩に繋がる不適切な書き込みを早期に発見し、学校や警察と連携して指導・削除要請を行います。
  • 学校外からのアプローチ(首長部局による介入): 近年、こども家庭庁が推進する先進的なモデルとして、教育委員会だけでなく、市長・区長部局に専門の相談・解決チームを設置する動きが注目されています。千葉県松戸市や大阪府箕面市などでは、首長部局がSNSを活用した24時間相談窓口を開設したり、いじめの初期段階から調査・介入を行ったりすることで、より迅速かつ強力な対応を実現しています。これは、従来の学校中心の対応の限界を補う、極めて重要な取り組みです。

ヤングケアラー問題への組織的アプローチ

 ヤングケアラーとは、本来大人が担うと想定されているような家族の介護や世話などを、日常的に行っている子どものことです。この問題は、家庭内のプライベートな事柄であるため表面化しにくく、子ども自身も自分がヤングケアラーであると認識していないケースが少なくありません。令和6年6月に改正された「子ども・若者育成支援推進法」では、ヤングケアラーが正式に国・地方公共団体の支援対象として明記され、組織的な対応が急務となっています。

 ヤングケアラー支援には、以下の体系的なアプローチが求められます。

  • 早期発見・把握の仕組みづくり: 支援の第一歩は、支援を必要とする子どもを早期に発見することです。国は、市区町村に対し、個人が特定できる形での実態調査を定期的(少なくとも年に1回程度)に行うことを推奨しています。学校等で記名式のアンケート調査を実施することは、潜在的なヤングケアラーを把握する上で極めて有効な手段です。
  • 支援の中核を担う「ヤングケアラー・コーディネーター」の配置: 発見されたヤングケアラーに対し、適切な支援を届けるための中核となるのが「ヤングケアラー・コーディネーター」です。この専門職は、本人や家族からの相談に応じるとともに、福祉、介護、医療、教育といった関係機関と連携し、個々の状況に合わせた支援プランを作成・調整する役割を担います。国は、このコーディネーターの配置を財政的に支援しています。
  • 具体的な支援策の提供: 支援は、子どものケア負担を直接的に軽減するためのサービスと、子ども自身を支えるための支援の両輪で進めます。前者には、介護保険サービスや障害福祉サービスの利用促進、家事支援ヘルパーの派遣などがあります。後者には、ヤングケアラー同士が交流できるオンラインサロンの開設や、ピアサポート、学習支援などが含まれます。北海道の事例のように、民間団体に委託してオンライン上の居場所を整備することも有効な手法です。

多様な背景を持つ青少年への支援(発達障害・外国籍・LGBTQ等)

 すべての青少年が健やかに成長できる社会を実現するためには、特に配慮を必要とする多様な背景を持つ青少年への支援が不可欠です。

  • 発達障害のある子ども・若者への切れ目のない支援: 発達障害のある子ども・若者への支援は、乳幼児期から成人期まで、ライフステージを通じて切れ目なく提供される必要があります。乳幼児健診での早期発見から、児童発達支援センターでの専門的な療育、就学後の学校における合理的配慮、そして青年期の就労支援まで、保健・福祉・教育・雇用の各機関が密接に連携する体制が求められます。八王子市や世田谷区では、児童発達支援センターや東京都発達障害者支援センター(TOSCA)、保健所、教育相談室、就労支援センターなどが連携し、相談から療育、就労までの一貫した支援体制を構築しています。
  • 外国にルーツを持つ青少年への多言語支援: 日本語の壁や文化の違いにより、日本の社会に馴染む上で困難を抱える青少年は少なくありません。特に外国人住民が多い新宿区では、区役所や地域の多文化共生プラザに、英語、中国語、韓国語に加え、ネパール語やミャンマー語など、多様な言語に対応する相談窓口を設置しています。在留資格や行政手続き、日常生活の困りごとなど、幅広い相談にワンストップで対応できる体制は、彼らが地域社会で孤立するのを防ぐ上で極めて重要です。
  • LGBTQ等の青少年への支援: 性的指向や性自認に関する悩みは、他人に相談しにくく、一人で抱え込みがちな問題です。こうした青少年が安心して相談できる窓口の存在は、彼らの精神的な健康を支え、自己肯定感を育む上で不可欠です。東京都や世田谷区では、専門の相談員による電話相談窓口を設けているほか、当事者や支援者が集える交流スペースを提供しています。また、「よりそいホットライン」のような全国規模のNPOによる24時間対応の相談窓口の情報を、区のウェブサイト等で積極的に周知することも重要な役割です。

東京都特別区における青少年健全育成の現状分析

全国・地方との比較分析

 東京都特別区における青少年健全育成は、全国の他の地域と比較して、特有の課題と優位性を併せ持っています。地方の自治体が、若者人口の流出や地域活動の担い手不足、限られた専門機関といった課題に直面しているのに対し、特別区は全く異なる文脈の中にあります。

 特別区が直面する最大の課題は、高い人口密度、住民の流動性、そして匿名性に起因する地域社会の希薄化です。隣人との関係が希薄な都市環境は、青少年の孤立を深めやすく、また、インターネットやSNSを通じた有害情報の影響を最も受けやすい環境でもあります。

 一方で、特別区は他地域にない圧倒的な優位性も有しています。それは、豊富な「資源」の集積です。専門的なノウハウを持つNPO、研究機関である大学、社会貢献に意欲的な企業、そして国の政策動向に最も近いという地理的利点。これらの資源をいかに戦略的に活用し、ネットワーク化できるかが、特別区の職員の腕の見せ所となります。地方では困難な先進的なプログラムや、多様な専門家との連携も、特別区であれば実現可能です。この「資源活用の優位性」を最大限に生かすことが、都市型課題を克服する鍵となります。

特別区(23区)の統計データ分析と比較

 自区の立ち位置を客観的に把握し、効果的な戦略を立案するためには、他区との比較分析が不可欠です。以下の表は、各区の状況をベンチマーキングし、自区の強みや課題を特定するための基本的なフレームワークです。例えば、近隣の同規模の区と比較して不登校率が高い場合、その背景には何があるのか、対策に違いはあるのか、といった具体的な問いを立てる出発点となります。このようなデータに基づいたアプローチは、経験や勘に頼るだけでなく、客観的な根拠に基づいた政策立案(EBPM)を可能にします。

人口不登校児童生徒率刑法犯少年検挙・補導人員子ども・若者計画の特色
千代田区[データ][データ][データ]都心型・夜間人口との関連
中央区[データ][データ][データ]商業地域における環境浄化
港区[データ][データ][データ]地域連携キャンプ事業等の体験活動
新宿区[データ][データ][データ]多文化共生・外国人支援の充実
… (他17区)
世田谷区[データ][データ][データ]総合計画とウェルビーイング指標の導入
大田区[データ][データ][データ]ポスト青年期までを対象とした計画
足立区[データ][データ][データ]地域青少年委員会の網羅的な活用
特別区平均[平均値][平均値][平均値]
都全体平均[平均値][平均値][平均値]

特別区が直面する特有の課題と優位性

 前述の比較分析を踏まえ、特別区が共通して抱える課題と、それを乗り越えるための優位性を改めて整理します。

  • 特有の課題:
    • 高い住民流動性と地域コミュニティの希薄化: 転出入が激しく、地域への帰属意識が育ちにくい。これにより、地域の見守り機能が弱体化し、孤立する家庭や青少年が生まれやすい。
    • 多様性と格差の拡大: 経済的格差、文化的背景の多様性が全国で最も顕著な地域の一つ。これにより、支援ニーズが複雑化・個別化し、画一的な対応が困難になっている。
    • 情報化社会の最前線: 新たなSNSやアプリが最も早く普及し、それに伴うネットいじめや消費者トラブル、犯罪被害などのリスクに常に晒されている。
  • 戦略的優位性:
    • 資源の集積とアクセス: 専門NPO、大学、研究機関、企業本社が集中しており、最先端の知見や多様な連携先へのアクセスが容易。
    • 財政力と人材: 他地域に比べて比較的豊かな財政基盤を持ち、専門性の高い人材を確保しやすい。
    • 区間競争と情報共有: 23区が互いに競い合い、また優れた取り組みを学び合う文化がある。特別区長会などを通じた情報共有も活発であり、一つの区の成功事例が他区へ迅速に波及しやすい。

先進事例に学ぶ実践的アプローチ

東京都・特別区の先進的取組

 東京都及び特別区は、全国の自治体のモデルとなるような先進的な取り組みを数多く生み出しています。これらの事例は、法律や計画を具体的なアクションへと転換する上での貴重なヒントとなります。

  • 青少年による政策決定への参画: 青少年の健全育成は、大人が青少年の「ために」行うだけでなく、青少年が「主体的に」関わることが不可欠です。町田市の「高校生による事業評価」や、北海道ニセコ町の「子ども議会」のように、若者自身が行政の事業を評価したり、まちづくりに関する提言を行ったりする仕組みは、彼らの社会参加意識を高めると同時に、行政サービスの質を向上させる効果も持ちます。新城市の「若者議会」では、予算提案権まで付与されており、より実質的な参画を実現しています。
  • 首長部局主導によるいじめ介入モデル: いじめ問題への対応において、従来の教育委員会中心の体制の限界が指摘される中、区長部局が直接介入するモデルが注目されています。こども家庭庁も推奨するこのアプローチは、旭川市や松戸市、箕面市などで導入されています。市長部局に専門の相談・解決室を設置し、SNS相談や訪問支援、初期調査までを行うことで、学校や教育委員会といった既存の枠組みでは対応が難しかった事案にも、迅速かつ強力に対応することが可能になります。これは、いじめ対応におけるパラダイムシフトとも言える重要な動きです。
  • 時代に即応した条例改正: 東京都は、社会の変化や新たな脅威に迅速に対応するため、全国に先駆けて条例を改正してきました。インターネットの普及に対応したフィルタリングの努力義務化や、SNSを悪用した「自画撮り被害」を防止する規定の追加は、その代表例です。また、青少年の凶悪犯罪への懸念から、特定の刃物の販売を制限する規定を設けるなど、社会の安全に対する要請にも応えています。こうした機動的な法改正は、行政が常に社会の動向を注視し、青少年の保護に必要な手段を講じ続ける姿勢を示すものです。

ケーススタディ:特定区の総合計画と重点事業

 ここでは、特に先進的な取り組みを行っている3つの区をピックアップし、その戦略と具体的な事業から、実践的な知見を学びます。

  • 世田谷区:ウェルビーイングを核とした総合計画: 世田谷区の「子ども・若者総合計画(第3期)」は、その包括性と先進性において特筆すべき事例です。この計画は、妊娠期から若者期までを切れ目なく支援の対象とするだけでなく、「子ども・子育て支援事業計画」や「子どもの貧困対策計画」など、国の法律に基づく複数の計画を内包した、まさに「総合計画」となっています。最大の特徴は、計画の成果指標として、子どもや若者自身の主観的な幸福度である「ウェルビーイング」を導入している点です。これにより、事業の実施件数といったアウトプットだけでなく、施策が実際に子どもたちの幸福感にどう貢献したかというアウトカムを重視する姿勢を明確にしています。
  • 足立区:地域に根差した青少年委員会の活用: 足立区の強みは、区内全小・中学校の通学区域ごとに1名ずつ、計102名の「青少年委員」を委嘱し、地域に密着した活動を展開している点です。これらの委員は、非常勤の公務員として、地域の青少年団体の連絡調整、リーダーの養成、放課後子ども教室への協力など、行政と地域住民との「つなぎ役」として重要な役割を担っています。この網の目のような人的ネットワークにより、行政の施策が地域社会の隅々まで浸透し、また、地域の生の声を迅速に行政にフィードバックすることが可能になっています。まさに、地域ぐるみで青少年を育成する体制のモデルケースと言えます。
  • 港区:伝統と革新を両立させる地区委員会活動: 港区では、中学校区を単位とした10の「青少年対策地区委員会」が活動の中核を担っています。これらの委員会は、昭和34年から続く歴史を持ち、地域に深く根付いています。その活動は、「みなとキャンプ村」のような自然体験活動や、地域の運動会、餅つきといった伝統的なコミュニティ形成事業から、SNSの安全利用を啓発する「スマホ・ケータイ安全教室」や、薬物乱用防止講習会といった現代的な課題に対応する事業まで、非常に多岐にわたります。伝統的な地域活動を通じて世代間の交流を促進しつつ、現代の青少年が直面するリスクにも的確に対応する、バランスの取れたアプローチは、多くの区にとって参考となるでしょう。

民間活力(NPO等)との協働モデル

 行政だけでは対応が困難な、専門的かつ多様なニーズに応えるためには、NPOをはじめとする民間団体との戦略的なパートナーシップが不可欠です。

  • 専門サービスの提供委託: 不登校やひきこもり、発達障害など、特定の困難を抱える青少年への支援には、高度な専門性が求められます。渋谷区が、中高生の居場所運営や不登校児童生徒への家庭訪問支援をNPO法人「ピアサポートネットしぶや」と協働で行っているように、専門的なノウハウを持つNPOに事業を委託することで、より質の高いサービスを提供することが可能になります。
  • 「第三の居場所(サードプレイス)」の創出: 家庭でも学校でもない、青少年が安心して過ごせる「第三の居場所」の存在は、彼らの孤立を防ぎ、社会性を育む上で非常に重要です。NPOが運営するフリースペースや子ども食堂、学習支援教室、ユースセンターなどは、まさにその役割を担っています。行政は、こうした活動に対して補助金を出したり、公共施設を安価で提供したりすることで、地域における居場所づくりを支援することができます。
  • 国の制度を活用した連携強化: 内閣府が主導する「子供の未来応援基金」は、民間からの寄付金を原資に、子どもの貧困対策に取り組むNPO等を支援する制度です。自治体は、地域のNPOにこうした国の助成制度の情報を積極的に提供し、申請をサポートすることで、地域全体の支援リソースを増強することができます。また、フードバンクや子ども食堂支援センターといった全国組織と連携することで、企業からの食料や物品の寄付を地域の活動に繋げることも可能です。

業務改革とDXの推進

ICT活用による業務効率化

 限られた人員で増大・複雑化するニーズに対応するためには、テクノロジーを活用した業務改革(DX: デジタルトランスフォーメーション)が不可欠です。日々の業務の中に、ICTを戦略的に取り入れることで、職員が本来注力すべき、人間にしかできない対面での相談や関係機関との調整といったコア業務に時間を割くことが可能になります。

  • SMS(ショートメッセージサービス)の活用:
    • 用途: 各種健診や相談会の日程リマインド、イベント参加者への最終案内、緊急時の連絡網など。
    • 効果: 従来の郵送や電話に比べ、低コストかつ高い開封率が期待できます。特に若者や子育て世代にとっては、日常的に利用するコミュニケーションツールであるため、情報の到達度が高まります。
  • RPA(Robotic Process Automation)の活用:
    • 用途: 各種申請書のデータ入力、定型的な統計レポートの作成、ウェブサイトからの情報収集・転記など、ルールが決まっている反復的な事務作業。
    • 効果: 手作業による入力ミスを防ぎ、作業時間を大幅に削減します。これにより創出された時間を、より専門的な判断や対人支援が必要な業務に再配分することができます。
  • オンラインプラットフォームの活用:
    • 用途: イベントや講座の申込受付、施設の予約管理、ボランティアスタッフの登録・シフト管理など。
    • 効果: 24時間受付が可能となり、住民の利便性が向上します。また、電話や窓口での対応業務が削減され、職員の負担が軽減されます。申込者リストの自動作成など、後続の事務処理も効率化できます。

生成AIの活用可能性と具体的用途

 近年急速に発展している生成AIは、自治体業務に革命をもたらす可能性を秘めています。単なる効率化に留まらず、住民サービスの質を根本的に向上させるツールとして、積極的な活用が期待されます。

 テクノロジーの導入、特にAIの活用は、単なる業務効率化の手段ではありません。それは、住民サービスの公平性とアクセシビリティを向上させるための強力な戦略ツールです。例えば、悩みを抱える若者は、平日の日中に区役所の窓口へ電話をかけることに高い心理的ハードルを感じるかもしれません。しかし、24時間365日、匿名で相談できるAIチャットボットであれば、その第一歩を踏み出しやすくなります。また、多言語対応のAIチャットボットは、日本語が不得手な外国籍の保護者が、言語の壁によって必要な情報から疎外されることを防ぎます。このように、DXを計画する際には、「いかに時間を節約するか」という視点だけでなく、「いかにして最も支援を必要とする人々にサービスを届けるか」という視点を持つことが、私たちの使命を果たす上で極めて重要です。

  • AIコールセンター/チャットボットによる24時間相談・案内:
    • 用途: 区のウェブサイトにAIチャットボットを導入し、「児童手当の申請方法は?」「最寄りの児童館の開館時間は?」といった定型的な質問に24時間365日自動で応答します。横浜市のごみ分別案内や大阪府池田市の保育相談のように、特定の分野に特化させることも有効です。
    • 応用: さらに、公認心理師などが監修したカウンセリングAIを導入し、悩みを抱える青少年からの初期相談に対応します。AIが傾聴し、共感的な応答を返すことで、相談への心理的ハードルを下げ、必要に応じて人間の専門相談員や適切な窓口へと繋ぎます。千葉県柏市では、既に福祉分野での悩み相談AIチャットが導入されています。
  • 電話・会議の自動文字起こしと要約:
    • 用途: 住民からの相談電話や、多機関が参加するケース会議の内容を、AIがリアルタイムで文字起こしし、終了後には要点をまとめた議事録(要約)を自動生成します。
    • 効果: 職員はメモ取りから解放され、対話に集中できます。また、会議に参加できなかった関係者も、要約を読むだけで迅速に情報を共有でき、連携のスピードと質が向上します。
  • ベテラン職員のナレッジ共有システム:
    • 用途: 過去の対応事例、関連法規、各種マニュアル、ベテラン職員が持つ暗黙知などをAIに学習させ、内線版のAIチャットボットを構築します。
    • 効果: 若手職員が「深夜に徘徊している中学生を発見した場合の初期対応は?」といった具体的な質問を投げかけると、AIが関連法規や標準的な対応手順、過去の類似事例などを統合して最適な回答を提示します。これにより、OJTを補完し、組織全体の対応品質の平準化と向上を図ることができます。
  • 広報文案や報告書の自動生成:
    • 用途: イベントの告知文、SNSへの投稿、定型的な事業報告書などのドラフトを、AIにキーワードや基本情報を与えるだけで自動生成させます。
    • 効果: 文章作成にかかる時間を大幅に短縮できます。職員は、AIが生成したドラフトを基に、より創造的な編集や事実確認に集中することができます。

成果向上のための実践的スキル

組織レベルでの成果向上戦略

 個々の職員の努力に加え、組織全体として成果を最大化するための仕組みづくりが不可欠です。以下の戦略は、青少年健全育成課がより効果的・効率的に機能するための組織的なアプローチです。

  • データ駆動型の計画立案(EBPMの実践): 事業の優先順位や資源配分を、前年度踏襲や個人の経験則ではなく、客観的なデータに基づいて決定する文化を醸成します。区の不登校率の推移、少年非行の罪種別統計、住民アンケートの結果などを多角的に分析し、「どの地域の、どの年齢層の、どのような課題に」重点的に取り組むべきかを特定します。
  • 課題別の部門横断タスクフォースの設置: ヤングケアラーや複合的な課題を抱える家庭への支援など、一つの課だけでは解決が困難な問題に対して、テーマ別の恒常的なタスクフォースを設置します。子ども家庭支援、障害福祉、保健、教育委員会など、関連部署のメンバーで構成し、定期的なケース会議や合同での支援計画策定を行うことで、組織の壁を越えた一体的な支援を実現します。
  • NPO等との戦略的パートナーシップ構築: 単発のイベント協力や場当たり的な連携から脱却し、中長期的な視点での戦略的パートナーシップを構築します。区の重点課題とNPOの専門性をマッチングさせ、協定を結ぶなどして、役割分担、目標、評価指標を共有します。これにより、NPOを単なる「委託先」ではなく、地域の課題解決を共に行う対等な「パートナー」として位置づけます。

個人レベルでの実践スキル

 組織的な仕組みと共に、職員一人ひとりの専門性を高めることも重要です。以下のスキルは、日々の業務で青少年や保護者、関係機関と接する上で、信頼関係を築き、支援を円滑に進めるために不可欠な能力です。

  • 傾聴・カウンセリングの基礎技法: 相談に来た青少年や保護者の話を、単に聞くだけでなく、「傾聴」するスキルを身につけます。相手の言葉を遮らず、感情を受け止め、適切な相槌や質問を通じて、相手が安心して本音を話せる関係性を築くことが、問題解決の第一歩です。
  • ファシリテーションスキル: 多機関が参加するケース会議などを効果的に進行する能力です。目的を明確にし、参加者全員から意見を引き出し、対立する意見を調整し、最終的に具体的な「誰が・いつまでに・何をするか」というアクションプランに落とし込むための技術が求められます。
  • デジタル・リテラシー: RPAやAIチャットボットといった組織で導入されたツールを使いこなす能力はもちろんのこと、青少年が日常的に利用するSNSやオンラインゲームの最新トレンド、それに伴うリスクを理解し、彼らの目線に立って情報モラルの指導ができる知識が必要です。

PDCAサイクルによる継続的改善の実践

 PDCAサイクルは、業務の質を継続的に改善していくための最も基本的かつ強力なフレームワークです。これを組織レベルと個人レベルの両方で意識的に回すことで、勘や経験だけに頼らない、客観的で効果的な業務遂行が可能になります。

組織レベルでのPDCAサイクル(例:不登校支援事業の改善)

  • Plan(計画):
    1. 現状分析と課題設定: 区全体の不登校児童生徒の統計データを分析し、特に「中学校1年生の夏休み明け」に長期欠席に至るケースが多いという課題を特定します。
    2. 目標設定: 「次年度、中学校1年生の新規長期欠席者数を前年度比で15%削減する」という具体的かつ測定可能な目標を設定します。
    3. 改善計画の立案: 目標達成のため、「小学校6年生の段階からの移行支援プログラムの導入」と「中学校入学直後の相談体制強化」を柱とする新たな事業計画を策定します。具体的には、地域のNPOと連携し、放課後に気軽に立ち寄れる「中1カフェ」を開設する案を盛り込みます。
  • Do(実行):
    1. 計画の実施: 策定した計画に基づき、小学校への出前授業や「中1カフェ」の運営を開始します。
    2. 進捗の記録: 各プログラムの参加者数、相談件数、関係者からのフィードバックなどを詳細に記録します。
  • Check(評価):
    1. 目標達成度の検証: 年度末に、中学校1年生の長期欠席者数を集計し、目標である「15%削減」が達成できたかを確認します。
    2. プロセスの評価: 参加者アンケートや、連携した学校教員・NPOスタッフへのヒアリングを実施します。「中1カフェの場所が学校から遠くて利用しづらかった」「小学校への出前授業の内容が効果的だった」など、計画のどの部分が機能し、どの部分が機能しなかったのかを具体的に評価します。
  • Act(改善):
    1. 改善策の決定: 評価結果に基づき、次年度の計画を改善します。例えば、「中1カフェの開催場所を、より生徒がアクセスしやすい公民館に変更する」「効果的だった出前授業の回数を増やす」といった具体的な改善策を決定します。
    2. 標準化: 成功した取り組みについては、マニュアル化して他の地域や学校でも展開できるよう標準化を図ります。

個人レベルでのPDCAサイクル(例:一人の担当ケースへの対応)

  • Plan(計画):
    1. アセスメント(初期評価): 担当するA君(中2、不登校傾向)と保護者との初回面談を実施。「友人関係の不安から教室に入りづらい」という本質的な課題を把握します。
    2. 個別支援計画の作成: 当面の目標を「週に2回、学校内の別室登校に通えるようになること」と設定します。そのための具体的なステップとして、①担任・スクールカウンセラーとの連携会議、②A君が興味を持つゲームの話ができる地域のユースセンターの紹介、③週1回の定例電話での状況確認、を計画します。
  • Do(実行):
    1. 支援の実施: 計画に沿って、関係者との会議を調整し、ユースセンターのスタッフにA君を紹介し、毎週電話連絡を行います。
  • Check(評価):
    1. 目標達成度の確認: 1ヶ月後、A君が実際に週2回別室登校できているか、学校に確認します。
    2. 本人からのフィードバック聴取: 定例電話の際に、A君自身に「別室登校はどう?」「ユースセンターは楽しめている?」と尋ね、本人の気持ちや状況の変化を確認します。「ただやるように言う」のではなく、「なぜそうなったのか」を本人に考えさせるような質問を投げかけることが、本人の自律性を育む上で重要です。
  • Act(改善):
    1. 計画の見直し: 目標が達成できていれば、次のステップとして「特定の授業に1コマだけ参加してみる」など、計画を更新します。もし達成できていなければ、フィードバックに基づき計画を修正します。例えば、「ユースセンターの雰囲気が合わなかった」という声があれば、別の居場所を探すなど、柔軟に対応を切り替えます。

まとめ:未来を担う青少年を支える職員として

 本研修資料を通じて、青少年健全育成という業務の奥深さ、そしてその社会的意義の大きさについて、改めてご理解いただけたことと存じます。私たちの仕事は、単なる事務手続きやイベントの運営ではありません。それは、時に悩み、迷いながらも成長していく青少年一人ひとりに寄り添い、彼らが自らの足で未来へと歩み出すための土台を築く、極めて創造的で価値ある仕事です。

 不登校、非行、ネットいじめ、ヤングケアラー。私たちが向き合う課題は、ますます複雑化・深刻化しています。一つの部署、一人の職員の力だけで解決できる問題は、もはや多くありません。だからこそ、本研修で繰り返し強調してきたように、学校、警察、福祉、医療、そして地域のNPOといった多様な主体を繋ぎ、動かす「コーディネーター」としての役割が、これからの職員には一層強く求められます。皆さんは、地域における青少年支援ネットワークの設計者であり、その中心でハブとして機能する、かけがえのない存在なのです。

 日々の業務の中では、困難なケースに直面し、自身の無力さを感じることもあるかもしれません。しかし、皆さんの地道な努力の一つひとつが、ある一人の青少年の人生を支え、その先の未来を明るく照らす力を持っていることを、決して忘れないでください。

 本資料で得た知識やスキルを羅針盤とし、データに基づき戦略を立て(Plan)、情熱を持って実践し(Do)、その結果を謙虚に評価し(Check)、そして常により良い方法を模索し続ける(Act)。このPDCAサイクルを粘り強く回し続けることで、皆さんと、皆さんが支える青少年、そして私たちが暮らすこの地域社会は、共に成長していくことができると確信しています。

 未来を担う青少年を支えるという誇り高い使命を胸に、明日からの業務に臨んでいただくことを心から期待しています。

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