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【特別出張所】地域のお祭り支援 完全マニュアル

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はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。

地域のお祭りを支える意義

なぜ自治体職員が関わるのか

 東京都特別区の職員である皆様が、日々の業務の中で向き合う「地域のお祭り支援」。この業務は、単に地域の催し物を手伝うという表面的な活動に留まるものではありません。それは、地域社会の根幹を成す「社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)」を育み、持続可能で活力ある共生社会を実現するための、極めて戦略的な意味を持つ行政活動です。

 お祭りや地域イベントは、住民同士が顔を合わせ、交流し、共通の目標に向かって協力する貴重な機会を提供します。このプロセスを通じて、信頼関係や互酬性の規範といった、目には見えない社会の絆が醸成されます。特に、単身世帯の増加や高齢化が急速に進む特別区において、こうした「つながり」の創出は、社会的孤立を防ぎ、地域全体のレジリエンス(回復力)を高める上で不可欠な社会的インフラとしての役割を担っています。

 経済的な側面からも、お祭りの効果は無視できません。特別区内で開催される来場者1万人以上の大規模イベントは、1件あたり平均で約3.7億円もの経済波及効果をもたらすとの試算もあります。これは、地域内での消費を喚起し、地元商店街や事業者の活性化に直結します。さらに、お祭りはその地域の歴史や文化を次世代に継承し、新たな魅力を創造・発信するシティプロモーションの絶好の機会でもあります。地域への愛着、すなわちシビックプライドを育むことで、住民が主体的にまちづくりに関わる好循環を生み出すのです。

 行政がイベント主催団体を支援することは、単なる資金や物品の提供に終わりません。それは、地域で活動する住民とのパートナーシップを構築し、現場のニーズに寄り添うことで、行政への信頼を高める重要なプロセスです。職員一人ひとりが地域に入り込み、住民と協働すること。それこそが、多様な地域課題を解決し、住民本位の行政サービスを実現するための第一歩となるのです。

歴史的変遷:地域コミュニティと行政の関わり

 現代における地域イベント支援の形を理解するためには、その歴史的背景を把握することが重要です。戦後、多くの自治体は、行政の下請け的な役割を担うこともあった戦前の町内会のあり方への反省から、新たなコミュニティの姿を模索しつつも、住民自治の基盤となる町会・自治会の復活を支援し、その活動を積極的に推進しました。これが、行政による地域コミュニティ支援の原点と言えるでしょう。

 時代は下り、1989年(平成元年)の「ふるさと創生事業」は、全国の市町村に一律1億円を交付するという画期的なものでした。この事業を契機に、各地で地域振興を目的とした大規模なイベントや施設が数多く企画されました。一部には批判もありましたが、このトップダウン型の振興策が、現在も続く地域の名物イベントを生み出すきっかけとなった例も少なくありません。

 2000年代以降は、住民が主体となり、行政がそれを支援するという「協働」の理念が重視されるようになります。行政主導から、住民の自発的な活動を後押しするボトムアップ型の支援へと、その役割は大きく変化しました。そして、2020年以降のコロナ禍は、地域イベントのあり方に大きな影響を与えました。多くのお祭りが中止や延期に追い込まれる中で、オンライン配信などを取り入れたハイブリッド形式のイベントが普及するなど、社会情勢の変化に対応した新たな支援の形が模索され続けています。

出張所職員に期待される役割

 こうした背景の中で、地域に最も身近な行政拠点である「出張所」と、そこに勤務する職員の皆様に期待される役割は、ますます重要になっています。出張所は、もはや単なる証明書発行の窓口ではありません。地域住民にとって最も身近な「行政の顔」であり、地域のあらゆる相談事を受け止める「総合相談窓口」としての機能が求められています。

 お祭り支援の文脈において、出張所職員は以下の3つの重要な役割を担います。

  1. ナビゲーター(案内人): お祭りを企画する地域団体にとって、複雑な行政手続きは大きな負担です。補助金の申請、道路使用許可、公園の占用許可、食品提供の届出など、多岐にわたる手続きを一元的に受け付け、適切な部署へつなぐことで、主催者の「たらい回し」を防ぎます。職員は、行政手続きの専門家として、主催者をゴールまで導く信頼できる案内人となるのです。
  2. コーディネーター(調整役): お祭りの成功には、庁内の関係各課(文化、道路、福祉、防災など)や、警察署、消防署といった外部機関との円滑な連携が不可欠です。出張所職員は、地域のハブとしてこれらの関係者間の情報共有や連絡調整を行い、地域課題を共に考えるパートナーとして、合意形成を支援します。縦割り行政の壁を越え、地域という現場で各主体をつなぐパイプ役としての役割が期待されます。
  3. カタリスト(触媒): 最も重要な役割は、地域の潜在能力を引き出す触媒となることです。先進事例や各種補助金制度といった有益な情報を提供し、助言を行いながら、住民の自発的な取り組みを支援します。行政が全てを主導するのではなく、あくまで黒子として伴走し、主催団体が自立・自走できるよう促すこと。この姿勢こそが、持続可能な地域コミュニティを育む上で不可欠なのです。

 皆様一人ひとりが、地域に入り込み、住民と「顔の見える関係」を築くこと。それこそが、本研修で学ぶ知識やスキルを最大限に活かし、地域に貢献するための鍵となります。

標準業務フローの全体像

相談受付から事後処理までの流れ

 地域のお祭り支援業務は、一見すると多岐にわたり複雑に感じられるかもしれません。しかし、そのプロセスを時系列で整理することで、全体像を明確に把握し、計画的に業務を遂行することが可能になります。ここでは、初期の相談受付からイベント終了後の処理までの一連の流れを、5つのフェーズに分けて解説します。このフローは、業務の抜け漏れを防ぎ、担当者が変わっても一定の品質を保つための、いわば業務の「地図」です。

  • フェーズ1:企画相談・情報提供 地域団体からの最初の相談を受け付けます。この段階では、イベントの目的、規模、内容などを丁寧にヒアリングし、主催者の想いを共有することが重要です。同時に、区の補助金制度や関連する法規制、過去の類似イベントの事例など、企画に役立つ情報を提供します。
  • フェーズ2:申請支援・計画策定 ヒアリング内容に基づき、具体的な計画策定を支援します。補助金申請書の作成補助、予算計画の策定支援、そして最も重要な安全計画や警備計画の策定を促します。道路使用許可や火気使用届など、必要な行政手続きをリストアップし、申請スケジュールを共に確認します。
  • フェーズ3:関係機関調整 主催者から提出された計画に基づき、庁内関係課や警察署、消防署などの外部機関との本格的な調整を開始します。この段階での円滑な連携が、イベントの成否を大きく左右します。調整の進捗状況は主催者と密に共有し、透明性を確保します。
  • フェーズ4:開催当日支援・危機管理 イベント当日は、職員も現場に赴き、運営をサポートします。主な役割は、本部と各所(警備、救護など)との連絡調整、予期せぬトラブルへの初期対応、そして全体の状況把握と記録です。事前に策定した危機管理マニュアルに基づき、冷静な対応が求められます。
  • フェーズ5:実績報告・評価・フィードバック イベント終了後、主催者から実績報告書と会計報告書を提出してもらいます。内容を精査し、補助金の精算手続きを行います。併せて、アンケートやヒアリングを通じてイベントの成果と課題を評価し、次年度に向けた改善点などを主催者にフィードバックします。この振り返りのプロセスが、団体の成長と次なる活動への糧となります。

関係各課・機関との連携マップ

 お祭り支援業務は、出張所だけで完結するものではありません。庁内外の多様な主体との連携が不可欠です。この連携体制を視覚的に理解することは、「たらい回し」を防ぎ、主催者に対して迅速かつ的確なサービスを提供するために極めて重要です。

  • 庁内連携
    • 文化振興・観光担当課:後援名義の申請、文化的な側面からの助言、区の広報媒体での告知協力など。
    • 道路管理課・公園緑地課:区道や公園を使用する場合の占用許可手続き。現地の状況確認や使用条件の調整。
    • 保健所(生活衛生課):模擬店など食品を提供する際の衛生指導、臨時出店届の受付。
    • 防災・危機管理担当課:大規模イベントにおける雑踏警備や避難誘導計画に関する助言、防災訓練との連携。
    • 清掃・リサイクル担当課:イベントで発生するごみの分別指導、収集計画の調整、リユース食器導入の支援。
  • 庁外連携
    • 所轄警察署(交通課・警備課):公道を使用する場合の道路使用許可申請、交通規制や雑踏警備に関する協議。
    • 所轄消防署(予防課):火気器具を使用する場合の届出、消火器の設置指導、消防計画の確認。
    • 町会・自治会、商店街振興組合:イベントの共同主催者や協力者。地域への告知協力、会場設営や当日の運営協力。
    • 地域の企業・NPO:協賛金の募集、物品提供、プロボノ(専門知識を活かしたボランティア)による運営支援など。

 出張所職員は、これらの関係者の中心に立ち、それぞれの専門知識や役割を繋ぎ合わせるハブとしての役割を担います。この連携マップを常に念頭に置くことで、次に誰に相談すべきかが明確になり、業務をスムーズに進めることができます。

業務遂行における基本姿勢

 この標準業務フローを効果的に運用するためには、根底にあるべき基本姿勢を全職員が共有することが不可欠です。それは「伴走型支援」という考え方です。

 お祭りの主役は、あくまで企画・運営する地域住民の皆様です。行政は決して主役ではありません。私たちの役割は、専門知識や行政ネットワークを活かして主催者を側面から支え、彼らが持つ力を最大限に発揮できるよう環境を整えることです。この「黒子に徹する」姿勢が、住民の主体性を尊重し、団体の自立・自走を促すことにつながります。

 また、前例踏襲に陥らないことも重要です。社会状況や地域のニーズは常に変化しています。過去のやり方をなぞるだけでは、新たな課題に対応することはできません。「このお祭りは、地域のどんな課題解決に貢献できるだろうか?」「もっと多くの世代が参加するためには、どんな工夫ができるだろうか?」といった問いを常に持ち、主催者と共に考え、創造的な解決策を提案していく姿勢が求められます。

 支援とは、単に申請を受け付け、許可を出すことではありません。地域のパートナーとして、その成功と成長を心から願い、共に汗を流すこと。この基本姿勢こそが、地域からの信頼を得て、真に価値のある支援を実現するための土台となるのです。

各段階の実務詳解

第1段階:初期相談と企画支援

 全ての支援業務は、地域団体からの「相談」という一本の電話や窓口への来訪から始まります。この初期対応の質が、その後の信頼関係とイベントの方向性を大きく左右します。丁寧なヒアリングを通じて、主催者が抱える想いや課題を正確に把握することが、的確な支援の第一歩です。

ヒアリングと目的の明確化

 相談を受けた際は、まず相手の話をじっくりと傾聴し、安心感を与える雰囲気作りを心がけてください。その上で、企画の骨子を整理するために「6W2H」のフレームワークを活用すると効果的です。

  • When(いつ):開催希望日時、準備期間は十分か。
  • Where(どこで):開催希望場所、その場所の使用許可は必要か。
  • Who(誰が):主催団体、運営スタッフの人数、協力団体はいるか。
  • Whom(誰に):主なターゲット層(子ども、高齢者、ファミリーなど)。
  • What(何を):イベントの具体的な内容(盆踊り、模擬店、ステージなど)。
  • Why(なぜ):最も重要な項目です。 なぜこのイベントをやりたいのか、その目的は何か(例:地域の活性化、伝統文化の継承、住民の交流促進など)。この目的を主催者と共に言語化し、明確にすることで、企画全体に一貫性が生まれます。
  • How(どのように):どのような手法で実施するのか、プログラムの構成。
  • How much(いくらで):想定している予算規模、収入(参加費、協賛金など)と支出の見込み。

 これらの項目を一つひとつ確認することで、主催者自身も頭の中が整理され、漠然としていた計画が具体的になっていきます。職員の役割は、質問を通じて思考を促し、イベントの核となる「目的」を共に掘り下げることです。

概算予算と情報提供

 目的が明確になったら、次は予算計画の策定支援です。多くの場合、地域団体は予算作成に慣れていません。そこで、過去の類似イベントの予算書などを参考にしながら、具体的な費目を洗い出す手伝いをします。

  • 収入の部:補助金・助成金、協賛金、出店料、参加費、寄付金など。
  • 支出の部:
    • 会場費: 会場使用料、テント・机・椅子などの備品レンタル料。
    • 設営費: ステージ設営費、音響・照明機材レンタル料、装飾費。
    • 人件費: 警備員、音響スタッフなど外部専門家への謝礼。
    • 広報費: チラシ・ポスター印刷代、ウェブサイト制作費、広告掲載料。
    • 運営費: 事務用品費、通信費、保険料(イベント保険は必須)。
    • その他: 景品代、出演者謝礼、予備費(全体の10%程度を見込むのが望ましい)。

 この段階で、区が提供している補助金・助成金制度について具体的に情報提供します。制度の目的、対象経費、補助率、申請スケジュールなどを分かりやすく説明し、主催者が活用できる可能性を探ります。

第2段階:各種申請・調整業務

 企画の骨子が固まったら、次は具体的な行政手続きのフェーズに移ります。職員は、主催者が複雑な申請プロセスで迷わないよう、的確なナビゲーションを行います。

補助金・助成金申請の支援

 特別区では、地域活動を支援するための多様な助成制度が用意されています。例えば、中央区の「地域手づくりイベント推進助成」では、対象経費の2分の1が助成され、さらに区内の他団体や企業と連携する場合には一律10万円が加算される「地域連携加算」というユニークな制度もあります。

 申請支援のポイントは以下の通りです。

  • 申請書類の準備:申請書、事業計画書、収支予算書、団体の規約や名簿など、必要な書類をリストアップして伝えます。記入例を示しながら、特に事業の目的や効果を記述する欄については、第1段階で明確化した内容を反映できるよう助言します。
  • 手続きのフロー説明:申請から交付決定、概算払(前払い)、事業終了後の実績報告、精算(確定払)までの一連の流れを説明します。特に、実績報告の際には領収書の整理が重要になることを、早い段階で伝えておくことが大切です。
  • 提出期限の管理:「イベント当日の2週間前まで」など、各手続きの期限を明確に伝え、主催者が計画的に準備を進められるようリマインドします。

関連許可・届出の案内

 お祭りの内容によっては、様々な法令に基づく許可や届出が必要になります。これらを漏れなく案内し、手続きを支援することが、コンプライアンスを確保し、イベントを安全に実施するための鍵となります。

  • 道路使用許可:公道でパレードを行ったり、露店を設置したりする場合に必要です。所轄警察署への申請となります。交通規制の範囲や迂回路の確保などが審査のポイントです。
  • 火気使用届:模擬店でコンロなど火気器具を使用する場合、所轄消防署への届出が必要です。消火器の準備が義務付けられています。
  • 臨時出店届:食品を提供する場合、事前に所轄保健所への相談と届出が必要です。取り扱える品目には制限があるため、早めの相談を促します。

 これらの申請書類についても、記入例を示したり、関係機関の担当者を紹介したりすることで、主催者の負担を軽減します。

企画書・マニュアル作成支援

 主催団体自身が、イベントの全体像を把握し、関係者間で共有するためには、企画書や運営マニュアルの作成が非常に有効です。職員は、その作成を促し、必要に応じてひな形を提供します。

  • 企画書:イベントの目的、日時、場所、内容、ターゲット、予算、運営体制などをまとめたもの。協賛企業を募集する際の営業資料にもなります。
  • 安全管理・運営マニュアル:当日のタイムスケジュール、スタッフの役割分担と配置図、緊急連絡体制、熱中症や急病人発生時などの対応フロー、避難経路図などを明記したもの。全スタッフがこれを共有することで、当日の円滑な運営と迅速な危機対応が可能になります。

第3段階:開催当日の支援と危機管理

 入念な準備を経て、いよいよイベント当日を迎えます。この日、職員の役割は、後方支援に徹し、予測不能な事態に備えることです。

当日の役割と動き方

 職員は特定の持ち場に固定されるのではなく、全体の状況を俯瞰できる本部に席を置き、連絡調整役として機能するのが基本です。

  • 情報ハブ機能:主催者本部、警備、救護、各ブース、そして区役所本庁や警察・消防など、各所からの情報が集まるハブとなります。トランシーバーや携帯電話を活用し、常に最新の状況を把握します。
  • トラブルシューティング:「備品が足りない」「迷子が出た」「近隣から苦情が入った」など、様々なトラブルが発生します。主催者だけでは対応が難しい問題について、行政の立場から解決策を提示したり、関係機関への連絡を行ったりします。
  • 状況記録:来場者数、天候、発生したトラブルとその対応などを時系列で記録します。この記録は、終了後の実績報告や次年度の計画策定のための貴重な資料となります。

危機管理と初期対応

 最も重要な任務は、来場者の安全を確保するための危機管理です。事前に策定したマニュアルに基づき、冷静かつ迅速に行動する必要があります。

  • 急病人・負傷者対応:救護スタッフと連携し、状況に応じて119番通報を行います。傷病者のプライバシーに配慮しつつ、救急隊が到着するまで安全な場所を確保し、必要な情報(年齢、症状、持病など)を聴取します。
  • 不審者・不審物対応:巡回スタッフからの報告を受けたら、決して自ら対処しようとせず、直ちに警察(110番)に通報します。不審物には絶対に触れず、来場者を安全な距離まで避難誘導し、警察の到着を待ちます。
  • 自然災害への対応:
    • 悪天候(ゲリラ豪雨、強風、雷など): 気象情報を常に監視し、危険が予測される場合は、主催者と協議の上、イベントの一時中断や中止を判断します。テントの固定状況などを再確認するよう促します。
    • 地震発生時: 直ちに音響を止め、「姿勢を低く、頭を守り、揺れが収まるまで動かないでください」と冷静にアナウンスします。揺れが収まった後、火の元の確認を指示し、施設の安全が確認されるまで、来場者を広場など安全な場所へ誘導します。避難情報については、区の災害対策本部と連携し、正確な情報を伝達します。

 危機発生時には、来場者の安全確保が最優先です。職員は、パニックに陥らず、リーダーシップを発揮して主催者を支え、的確な判断を下すことが求められます。

第4段階:終了後の業務

 イベントが無事に終了しても、業務は終わりではありません。丁寧な事後処理と、次につながる振り返りを行うことが重要です。

実績報告と精算

 主催者から提出される実績報告書と収支決算書(領収書の写しを添付)を精査します。これは、補助金が適正に執行されたかを確認するための重要な業務です。

  • チェックポイント:
    • 事業計画書通りの内容で実施されたか。
    • 収支決算書の金額と、添付された領収書の金額は一致しているか。
    • 補助金の対象とならない経費(飲食代、交際費など)が含まれていないか。

 不備があれば主催者に確認し、修正を依頼します。全ての確認が完了したら、補助金の精算手続き(確定額の支払い、または概算払との差額の返還・追加交付)を行います。

評価とナレッジの蓄積

 単に手続きを終えるだけでなく、今回の経験を組織の資産として蓄積し、未来に活かす視点が不可欠です。

  • フィードバック:来場者や出店者からアンケートを回収し、その結果を分析します。特に自由記述欄には、改善のための貴重なヒントが隠されています。近年では、AIを活用して膨大なテキストデータをテーマ別に分類したり、ポジティブ・ネガティブといった感情分析を行ったりするツールも登場しており、客観的な評価に役立ちます。これらの分析結果と、運営上の反省点を合わせて主催者にフィードバックし、次年度の企画改善を促します。
  • 「地域カルテ」への記録:今回の支援を通じて得られた知見、例えば「この地域では〇〇という課題がある」「〇〇町会は特に高齢化が進んでいるが、若手リーダーがいる」といった情報を、「地域カルテ」として記録・蓄積します。このカルテは、担当者が異動しても、その地域の特性や注意点を引き継ぐことができる貴重な財産となります。お祭り支援は、地域を深く知るための絶好の機会なのです。

 この一連のサイクルを丁寧に回すこと。それが、一過性のイベント支援に終わらず、地域コミュニティの持続的な成長を支えるプロフェッショナルな業務へと昇華させる鍵となります。

法的根拠とコンプライアンス

関連法規の全体像

 地域のお祭り支援業務は、住民の皆様の善意と情熱によって成り立っていますが、同時に多くの法律や条例が関わる公的な活動でもあります。職員は、これらの法規を正しく理解し、主催者がコンプライアンスを遵守できるよう導く責任があります。関連法規は、活動を縛るためのものではなく、参加者と地域社会の安全・安心を守るための「ルールブック」です。ここでは、業務に深く関わる主要な法律の目的と概要を解説します。

  • 地方自治法:全ての地方公共団体の活動の基本となる法律です。第1条の2には、「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする」と定められています。地域のお祭り支援は、まさにこの「住民福祉の増進」に直結する、自治体の根源的な役割の一つと位置づけられます。
  • 道路交通法・道路法:公道をお祭りの場として利用する際に適用されます。道路交通法は、交通の安全と円滑を図ることを目的とし、警察署長が「道路使用許可」を管轄します。一方、道路法は、道路の構造を保全し、交通の危険を防止することを目的とし、道路管理者が「道路占用許可」を管轄します。例えば、山車が道路を通行するのは「使用」、道路上に常設のアーチや露店を設置するのは「占用」と、目的によって根拠法と許可が異なります。
  • 消防法・火災予防条例:火災から国民の生命、身体、財産を保護することを目的とします。多数の人が集まる催しで火気器具を使用する場合の消火器の準備や、露店等の開設届出については、消防法及びそれに基づく各区の火災予防条例で義務付けられています。
  • 食品衛生法:飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、国民の健康の保護を図ることを目的とします。お祭りの模擬店などで食品を提供する場合、この法律に基づき、保健所への届出や許可申請、そして衛生管理の徹底が求められます。
  • 著作権法:著作者等の権利を保護し、文化の発展に寄与することを目的とします。イベント会場でBGMとして音楽を流したり、バンドが楽曲を演奏したりする場合、原則としてこの法律に基づく権利処理(著作権管理団体への利用許諾申請と使用料の支払い)が必要となります。

主要な許可・届出業務の詳細

 ここでは、前述の法規に基づき、お祭り開催に際して特に重要となる許可・届出業務について、その要点を一覧表にまとめました。この表は、主催者への説明や、手続きの進捗管理に活用してください。

種別根拠法令許可/届出先主な要件・留意点標準的な手続き期間
道路使用道路交通法第77条所轄警察署交通の妨害とならないこと、迂回路の確保。道路占用許可(道路法第32条)との違いに注意。申請から2週間~1ヶ月
火気使用各区市町村火災予防条例所轄消防署消火器(原則10型ABC)の設置義務。プロパンガスや発電機の安全な取扱い。開催日の数日前まで
食品提供食品衛生法所轄保健所臨時営業許可(業として行う場合)と臨時出店届(公共目的の行事)の違い。取扱品目の制限。事前相談を推奨、1週間前まで
音楽利用著作権法JASRAC等著作権管理団体営利目的でない、入場無料、出演者に報酬なしの3要件を満たさない限り手続きが必要。イベント開催日の5日前まで

個人情報保護と著作権の留意点

 上記以外にも、現代のイベント運営において注意すべきコンプライアンス上の課題があります。特に個人情報保護と著作権の扱いは、トラブルを未然に防ぐために重要です。

個人情報保護

 イベントの参加申込やボランティア登録などで、氏名、住所、連絡先などの個人情報を取得する場合があります。これらの情報は、各区の個人情報保護条例に基づき、適正に管理しなければなりません。

  • 取得時の注意点:利用目的(例:「緊急時の連絡および次回イベントの案内にのみ使用します」)を明示し、本人の同意を得る必要があります。
  • 管理・保管:取得した個人情報が記載された名簿等は、施錠できる場所に保管し、関係者以外が閲覧できないようにします。データで管理する場合は、パスワードを設定するなどの漏えい防止措置を講じます。
  • 廃棄:利用目的が終了した個人情報は、シュレッダーにかけるなど、復元不可能な形で速やかに廃棄します。

 また、イベントの様子を写真や動画で撮影し、広報誌やウェブサイトに掲載する際には、プライバシーへの配慮が不可欠です。個人が特定できる形で撮影・公開する場合は、事前に本人の同意を得ることが原則です。特に子どもが写る場合は、保護者の同意を得るなど、一層の注意が求められます。

著作権

 お祭りを盛り上げる音楽の利用には、著作権が関わります。市販のCDや音楽配信サービスの音源をBGMとして使用する場合、多くの楽曲はJASRAC(日本音楽著作権協会)などの著作権管理団体によって管理されています。

  • 手続きが必要なケース:著作権法では、①営利を目的としない、②聴衆から料金を受けない、③出演者に報酬が支払われない、という3つの要件を全て満たす場合に限り、許諾なく演奏できると定められています。地域のお祭りでは、出店料を取ったり、プロの演奏家を呼んだりすることがあり、これらの要件を満たさないケースが多いため、原則として手続きが必要と考えられます。
  • 手続きの流れ:
    1. JASRACのウェブサイトにあるオンラインシステム「J-OPUS」などから、イベントの概要(名称、日時、場所、入場料の有無など)を申請します。
    2. JASRACから許諾書と請求書が送付されます。
    3. 使用料を支払います。使用料は、イベントの規模や入場料収入などに応じて算出されます。

 手続きを怠ると、権利者から使用の差し止めや損害賠償を請求される可能性があります。主催者が「知らなかった」では済まされない問題であり、職員として適切な情報提供と手続きの案内を行うことが重要です。

応用知識と特殊ケースへの対応

新規イベント・小規模イベントへの支援

 毎年恒例の大規模な祭りだけでなく、地域住民が自発的に始める新しい試みや、小規模な集まりを支援することも、出張所の重要な役割です。こうしたイベントは、コミュニティに新たな活気をもたらす可能性を秘めています。

  • 実績のない団体への支援:初めてイベントを企画する団体は、ノウハウも資金も不足していることがほとんどです。まずは、実現可能な範囲での「スモールスタート」を提案することが有効です。例えば、大規模な祭りを企画する前に、まずは町会の集会所などで小規模な交流会を開いてみる、といった段階的なアプローチを助言します。これにより、運営の経験を積み、協力者を増やしていくことができます。
  • 柔軟な発想の尊重:新規イベントは、従来の枠にとらわれないユニークなアイデアから生まれることが多くあります。前例がないからといって否定するのではなく、その想いを尊重し、どうすれば実現できるかを共に考える姿勢が重要です。安全面やコンプライアンスの観点から助言はしつつも、地域の新しいチャレンジを応援するサポーターであることが求められます。

担い手不足・高齢化への対応策

 多くの地域で、祭りの担い手が高齢化し、後継者不足が深刻な課題となっています。この問題は、祭りの存続そのものを脅かすため、行政として積極的に関与していく必要があります。

  • 多様な主体の巻き込み:従来の町会・自治会のメンバーだけでなく、新たな担い手を地域に呼び込むための「つなぎ役」となることが期待されます。
    • 若者・子育て世代: SNSでの魅力的な情報発信や、子どもが楽しめる企画(キッズスペースの設置など)を提案し、参加のハードルを下げます。
    • 地域企業・商店街: 企業のCSR活動(社会貢献活動)として、社員のボランティア参加や、専門知識を活かしたプロボノでの協力を働きかけます。
    • 学生ボランティア: 近隣の大学や専門学校と連携し、イベント運営を単位認定の対象とするなど、学生が参加しやすい仕組みづくりを支援します。
  • 運営負担の軽減:担い手が少ない中でも継続できるよう、運営方法の見直しを提案します。例えば、これまで手作業で行っていた参加者管理や会計業務に、無料のICTツールを導入するだけでも、大幅な負担軽減につながります。また、準備に手間のかかる企画を見直し、より簡素で持続可能な運営方式を共に検討します。

騒音・ゴミ・警備に関する問題と対策

 祭りが地域に受け入れられ、長く続いていくためには、周辺環境への配慮が不可欠です。騒音、ゴミ、警備の問題は、トラブルに発展しやすいため、事前の対策が極めて重要です。

  • 騒音対策:祭りの賑わいはつきものですが、度を越せば近隣住民とのトラブルの原因となります。
    • 事前周知の徹底: イベントの開催日時、内容、想定される音量、連絡先を明記したチラシを作成し、近隣の住宅や事業所に事前に配布・説明して回るよう促します。
    • 音響機器の配置と時間制限: スピーカーの向きを住宅街とは逆に向ける、音量を出す時間を午後9時までにするなど、具体的な自主規制ルールを設けるよう助言します。
    • 苦情受付窓口の設置: 当日、苦情を受け付ける専用の電話番号を設け、迅速に対応できる体制を整えます。
  • ゴミ対策:イベント後の大量のゴミは、地域のイメージを損なうだけでなく、環境にも大きな負荷をかけます。
    • ごみ削減の仕組みづくり: 使い捨て容器を減らすため、リユース食器のレンタルサービスを紹介したり、マイボトル・マイ箸持参を呼びかけたりします。
    • 分別回収の徹底: 「燃えるごみ」「ペットボトル」「缶」など、分別が分かりやすいゴミ箱を多数設置し、ボランティアスタッフが来場者に分別を呼びかける「エコステーション」を設けることを提案します。
    • 参加型の清掃活動: イベントの最後に、参加者全員で会場のゴミ拾いを行う時間を設けることや、「スポーツGOMI拾い」のように、ゴミ拾いをゲーム感覚で楽しむ企画を取り入れることで、環境美化への意識を高めます。渋谷区のハロウィーンでは、不要になった仮装グッズを回収しリユースする取り組みも行われています。
  • 警備対策:来場者の安全確保は、主催者の最も重要な責務です。
    • 警察との事前協議: 大規模なイベントや、公道を使用する場合は、必ず所轄警察署と事前に警備計画について協議します。
    • 警備員の配置: 警備業法では、雑踏警備業務を行う場所に、検定合格警備員を1名以上配置することが義務付けられています。主催者が警備会社に委託する際の注意点などを助言します。
    • 自主警備体制の構築: 警備会社への委託が難しい場合でも、PTAや消防団など地域の協力団体と連携し、自主的な警備体制を構築することが重要です。危険が予測される場所(交差点、ステージ前、狭い通路など)を事前に洗い出し、重点的に人員を配置するよう指導します。

多文化共生を推進するお祭り支援

 外国人住民が増加する特別区において、お祭りは、多様な文化背景を持つ人々が交流し、相互理解を深める絶好の機会です。多文化共生の視点を取り入れた支援が、これからの職員には求められます。

  • 情報提供のバリアフリー:イベントの告知ポスターやチラシ、当日の案内表示などに「やさしい日本語」を用いたり、英語や中国語などの多言語表記を加えたりすることを提案します。板橋区では「やさしい日本語」のワークショップが開催されるなど、自治体としての取り組みも進んでいます。
  • 参加しやすい企画:外国人住民が企画段階から関われるような働きかけを行います。また、当日のプログラムに、各国の料理を紹介する模擬店や、民族舞踊を披露するステージなどを盛り込むことで、多様な文化に触れる機会を創出します。新宿区で開催された「新宿多文化共生祭り」では、日本の盆踊り体験と共に、外国人留学生によるブース出展が行われ、文化交流の場となりました。
  • 相談体制の整備:外国人住民が生活上の悩みを相談できるブースを設けるなど、お祭りをきっかけとした支援のネットワークづくりも有効です。

 お祭りを、全ての住民にとって開かれたインクルーシブな場とすること。それが、真に豊かな地域社会を築くことにつながるのです。

東京都・特別区の先進事例と戦略的視点

23区の特色ある取組事例分析

 お祭り支援業務をより戦略的に遂行するためには、他の自治体の成功事例や失敗事例から学ぶことが不可欠です。ここでは、特別区が直面する現代的な課題に対応した、特色ある4つの事例を分析します。これらの事例は、お祭りが単なる年中行事でなく、地域の重要課題を解決するための強力なプラットフォームとなり得ることを示しています。

事例1:渋谷区「ハロウィーン対策」-危機管理と公民連携の最前線

 渋谷のハロウィーンは、世界的な知名度を誇る一方、過度な混雑、ゴミ問題、迷惑行為など、多くの課題を抱えていました。これに対し渋谷区は、単に警備を強化するだけでなく、多角的なアプローチで秩序維持に取り組んでいます。

  • 法的措置:「渋谷駅周辺地域の安全で安心な環境の確保に関する条例」を制定し、ハロウィーン期間中の路上飲酒を禁止するなど、法的根拠に基づいた強い措置を講じました。これは、イベントに起因する問題に対し、行政が明確な意思表示をした事例として注目されます。
  • 強力な公民連携:警察や鉄道事業者といった公的機関との連携はもちろん、地元の商店街や企業にも協力を要請しました。大型ビジョンでの啓発情報の放映や、店舗による酒類販売の自粛要請など、官民が一体となって「安全第一」のメッセージを発信しています。
  • 戦略的メッセージ:長谷部区長が「渋谷に来ないでほしい」と異例の呼びかけを行ったことは、国内外に大きなインパクトを与えました。これは、オーバーツーリズムや無秩序な集客がもたらす負の側面に対し、行政が地域住民の生活環境を守るという強い決意を示したものです。
  • 学び:この事例から学べるのは、イベントが持つ熱狂が負のエネルギーに転化するリスクに対し、行政は条例制定という強力な手段も含めて、断固たる態度で臨む必要があるということです。また、警察や民間事業者など、あらゆるステークホルダーを巻き込んだ重層的な対策と、一貫したメッセージの発信が、極めて困難な状況をコントロールする上で有効であることを示唆しています。

事例2:千代田区「神田祭」と連携した防災訓練-伝統と防災の融合

 日本三大祭りの一つである神田祭は、多くの観光客が訪れる伝統行事です。千代田区は、この祭りの機会を捉え、地域の防災力向上に繋げる先進的な取り組みを行っています。

  • 帰宅困難者対策訓練との連携:首都直下地震が発生した場合、千代田区には多数の帰宅困難者が発生すると想定されています。区は、神田祭の開催に合わせ、鉄道事業者や周辺企業と連携し、帰宅困難者の誘導や一時滞在施設の開設・運営訓練を実施しています。
  • 地域コミュニティの防災力向上:神田祭を支える各町会は、祭りの準備と並行して、合同の防火防災訓練を実施しています。顔の見える関係が構築されている祭りのコミュニティを、そのまま地域の「共助」の基盤として活用する、非常に合理的なアプローチです。
  • 官民一体の防災まちづくり:区は、平時から民間事業者と協定を結び、災害時の協力体制を構築しています。祭りを活用した共同訓練は、その実効性を確認し、連携を深める絶好の機会となっています。
  • 学び:神田祭の事例は、伝統的な文化資源を、防災という現代的な課題解決のために活用する見事なモデルです。お祭り支援を担当する職員は、「このイベントを、地域の防災力向上にどう繋げられるか?」という視点を持つべきことを示唆しています。祭りで培われた地域の結束力は、災害時に最も頼りになる力なのです。

事例3:板橋区「うまいもんマルシェ」-関係人口創出とDX

 板橋区民まつり内で開催されるこのマルシェは、区の都市交流自治体の特産品を販売する人気の企画です。コロナ禍を機に、その手法を大きく進化させました。

  • オンラインへの展開:祭りが中止となった令和2年度、板橋の逸品や各自治体の特産品を詰め合わせたセットをオンラインで販売しました。これにより、物理的な来場がなくても、地域の魅力を全国に発信し、交流を継続することに成功しました。
  • 関係人口の創出:オンライン販売を通じて板橋区や交流自治体の特産品に触れた人々が、その地域に興味を持ち、将来的な来訪意欲を高めるきっかけを創出しました。これは、イベントを単発の消費で終わらせず、地域との継続的な関わりを持つ「関係人口」の創出に繋げる戦略的な取り組みです。
  • 学び:この事例は、DX(デジタル・トランスフォーメーション)が、イベントの可能性をいかに広げるかを示しています。物理的な制約を超えて地域の魅力を届け、新たなファンを獲得する。お祭り支援におけるデジタル活用の好例と言えるでしょう。

事例4:巣鴨地蔵通り商店街「縁日」-継続性が生む賑わい

 「おばあちゃんの原宿」として知られる巣鴨地蔵通り商店街は、毎月4の付く日に開催される縁日によって、安定した集客を実現しています。

  • 明確なターゲティング:高齢者という明確なターゲット層に合わせ、「縁日」という親しみやすい形式を採用し、定期的に開催することで、来街を習慣化させることに成功しています。
  • 継続は力なり:一過性の派手なイベントに頼るのではなく、小規模でも継続可能な催しを続けることで、商店街全体のブランドイメージを確立し、賑わいを維持しています。
  • 学び:全てのイベントが大規模である必要はありません。地域の特性やターゲット層に合わせ、無理なく「継続できる」仕組みを構築することが、持続的な地域活性化には不可欠であることを、この事例は教えてくれます。

広域連携の可能性と動向

 個々の区の取り組みに加え、より広い視点での連携も、今後のイベント支援の可能性を広げます。

  • 特別区間連携:複数の区が共同でテーマ性のあるイベント(例えば、隅田川を舞台にした水辺フェスティバルなど)を開催することで、より広域からの集客と、スケールメリットを活かした質の高いプログラムが実現できる可能性があります。
  • 民間企業との戦略的パートナーシップ:京都の祇園祭では、地元の京都銀行が毎年多くの新入行員を山鉾の曳き手ボランティアとして派遣するなど、地域を代表する企業が祭りを強力にサポートしています。同様に、特別区においても、地域に根差した企業や金融機関との連携を強化し、資金面だけでなく、人材面でも祭りを支える仕組みを構築することが考えられます。

 お祭り支援は、もはや単一の出張所や課の業務ではありません。区の重要政策と連携し、広域的な視点を持って、多様な主体を巻き込みながら推進していくべき、戦略的なまちづくり事業なのです。

業務改革とDXの推進

ICT活用による業務効率化

 従来の窓口対応や紙ベースの業務には、多くの時間と労力が費やされています。ICT(情報通信技術)を積極的に活用することで、職員の業務負担を軽減し、より創造的で質の高い住民サービスに注力する時間を生み出すことができます。

  • 申請・手続きのオンライン化:補助金申請や施設予約、各種届出などをオンラインで完結できるシステムを導入することで、住民は24時間いつでも手続きが可能になり、職員は書類の転記や手作業でのデータ入力から解放されます。神奈川県川崎市では、窓口業務のオンライン化により、データ入力の労力を削減し、業務時間の可視化・分析による改善が進みました。
  • プッシュ型の情報発信:区の公式ウェブサイトやSNS、専用アプリなどを活用し、イベント情報や募集案内を住民に直接届けます(プッシュ型通知)。これにより、情報を探しに来るのを待つのではなく、行政が先回りして必要な情報を届けることが可能になり、参加機会の拡大に繋がります。
  • データに基づいた意思決定:携帯電話の基地局データなどを活用すれば、イベント来場者の属性(年代、性別、居住地)や、会場内での滞留時間、周遊ルートといった人流データを客観的に把握できます。また、電子アンケートを実施すれば、リアルタイムで参加者の満足度や意見を収集できます。これらのデータを分析することで、勘や経験だけに頼るのではなく、客観的な根拠に基づいたイベントの評価や企画改善が可能になります。

新たな体験価値の創出と民間活力の活用

 DXは、業務効率化だけでなく、これまでにない新しいイベント体験を創出し、地域文化の魅力を高める可能性も秘めています。

  • AR/VR技術の活用:長崎県佐世保市では、遊覧船クルーズにAR(拡張現実)技術を導入し、九十九島の風景にデジタルコンテンツを重ね合わせることで、新たな体験価値を提供しました。同様に、地域の祭りの歴史や伝説をARで再現したり、VR(仮想現実)で祭りのクライマックスを疑似体験できるコンテンツを制作したりすることで、文化資源の高付加価値化を図ることができます。
  • 公民連携(PPP)による推進:こうした先進的な取り組みには、専門的な技術やノウハウが必要です。商店街や地元のIT企業、大学など、民間が持つ活力を積極的に活用することが成功の鍵です。例えば、イベントのDX化をテーマに、地域の企業や学生からアイデアを募集するコンテストを開催し、優れた提案には区が実証実験の場と資金を提供する、といった公民連携のスキームが考えられます。地域の金融機関が、イベント関連の事業に特化した融資制度を設けるといった連携も有効でしょう。

生成AIの活用可能性

 近年急速に発展している生成AIは、自治体業務のあり方を根本から変えるポテンシャルを秘めています。お祭り支援業務においても、様々な場面での活用が期待されます。

  • 企画・広報業務の効率化:
    • アイデア出し: 「若者向けの新しい夏祭りの企画案を10個提案してください」といった指示で、多様なアイデアのたたき台を得ることができます。
    • 文書作成: イベントのキャッチコピー、SNSの投稿文、プレスリリース、さらには区長挨拶の原案まで、様々な文章を短時間で自動生成できます。これにより、職員はより戦略的な検討に時間を割くことができます。
  • 住民対応の質の向上:
    • AIチャットボット: 「今年の〇〇祭りはいつですか?」「最寄り駅はどこですか?」といった、よくある質問に24時間365日自動で回答するチャットボットを区のウェブサイトに設置することで、住民の利便性向上と電話対応業務の削減を両立できます。
  • データ分析の高度化:
    • アンケート分析: イベント後に集めたアンケートの自由記述回答は、宝の山ですが、その分析には膨大な時間がかかります。生成AIを活用すれば、「出店に関する意見」「交通アクセスに関する不満」といったテーマごとに、数千件の回答を瞬時に分類・要約し、さらにそれぞれの意見がポジティブかネガティブかを感情分析することも可能です。これにより、住民の声をより深く、客観的に把握し、次回の企画に活かすことができます。
  • ナレッジマネジメントと人材育成:
    • 対話型マニュアル: 熟練職員が持つトラブル対応のノウハウや、難しい交渉の進め方といった暗黙知をAIに学習させます。若手職員が「近隣から騒音の苦情が入った場合、最初に何をすべき?」と質問すると、AIがベテラン職員のように具体的な対応手順を教えてくれる、といった対話型のマニュアルとして活用できます。これにより、組織全体の知識レベルの底上げと、円滑な技術継承が期待できます。

 DXやAIは、単なる技術導入ではありません。それらを活用して、いかに住民サービスを向上させ、地域の価値を高めていくか。その戦略的な視点を持つことが、これからの自治体職員には不可欠です。

実践的スキル:支援効果を最大化するために

組織レベルでのPDCAサイクル

 お祭り支援業務を一過性の対応に終わらせず、組織として継続的に改善し、その効果を最大化するためには、PDCAサイクルというマネジメント手法を導入することが極めて有効です。これは、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Action(改善)の4段階を繰り返すことで、業務の質を螺旋状に高めていく考え方です。

Plan(計画):目標と指標の設定

 まず、お祭り支援事業全体として達成したい最終的な目標(KGI: Key Goal Indicator)を設定します。これは、より上位の区の政策目標と連動しているべきです。

  • KGI設定例:「区民の地域活動への年間参加率を、3年間で現状の15%から20%に向上させる」「区のシティプロモーション調査における『地域への愛着』スコアを5ポイント向上させる」。

 次に、このKGIを達成するために、個々のイベント支援業務で何を計測すべきか、具体的な重要業績評価指標(KPI: Key Performance Indicator)を設定します。KPIは、具体的で、測定可能で、達成可能で、KGIと関連性があり、期限が明確である「SMART」な目標であることが重要です。

  • KPI設定例:
    • 参加・満足度: 来場者数、新規参加者率、来場者アンケートにおける満足度(5段階評価で平均4.0以上を目指す)。
    • 経済効果: イベントによる直接的な経済波及効果(〇〇円以上)、協力した地元店舗数。
    • 情報発信: 公式SNSのインプレッション数(〇〇回以上)、プレスリリースが掲載されたメディア数。
    • 担い手育成: 新規ボランティア登録者数(〇〇人以上)、主催団体からの評価(「行政の支援は団体の自立に繋がったか」)。

Do(実行):計画に基づく支援の実施

 設定した計画に基づき、業務を遂行します。この段階で重要なのは、関係者間の円滑な情報共有です。出張所、本庁の関係課、主催団体が、ビジネスチャットツールなどを活用してリアルタイムに進捗状況や課題を共有できる体制を構築することで、迅速な意思決定と問題解決が可能になります。

Check(評価):データに基づく客観的な効果測定

 イベント終了後、事前に設定したKPIがどの程度達成できたかを、データに基づいて客観的に評価します。人流データやアンケート結果、会計報告などを分析し、「なぜ目標を達成できたのか(成功要因)」「なぜ達成できなかったのか(課題)」を明確にします。この評価結果は、グラフなどを用いて可視化し、誰が見ても分かりやすい報告書としてまとめます。

Action(改善):評価結果に基づく次への展開

 評価によって明らかになった成功要因と課題に基づき、次年度の事業計画を改善します。

  • 成功要因の横展開:あるイベントで効果的だった取り組み(例:SNSを活用した広報戦略、新しいボランティア募集の手法など)は、他のイベントでも応用できるよう、ノウハウとして全庁的に共有します。
  • 課題への対策:多くのイベントで共通して見られた課題(例:補助金申請手続きの複雑さ、警備員の不足など)に対しては、制度自体の見直しや、新たな支援策の導入を検討します。
  • 事業の選択と集中:KPIの達成度が著しく低い事業については、その原因を分析し、改善が見込めない場合は、事業の縮小や見直しといった判断も必要になります。

 この組織的なPDCAサイクルを回すことで、お祭り支援は単なる「業務」から、成果を追求する「事業」へと進化します。それは、限られた行政資源を最も効果的な形で投入し、区民への価値を最大化するための、プロフェッショナルな仕事の進め方なのです。

個人レベルでのPDCAサイクル

 組織全体の大きなPDCAサイクルを動かすのは、職員一人ひとりの日々の小さなPDCAの実践です。担当者として、自身の業務を改善し、専門性を高めていくためのサイクルを意識することが重要です。

Plan(計画):担当業務の目標設定

 担当する一つひとつのお祭りについて、自分自身の行動目標を設定します。

  • 行動目標例:「主催者との定例会議を週に1回必ず実施する」「関係機関への調整事項は、依頼を受けてから2営業日以内に対応を完了させる」「主催者からの問い合わせに対する満足度90%以上を目指す」。

Do(実行):丁寧な実践と記録

 計画した行動を、責任を持って実行します。この際、日々の業務内容、主催者とのやり取り、発生した課題とそれに対する自身の対応などを、簡潔に記録(日報や業務メモ)しておくことが重要です。この記録が、後の振り返りのための客観的な材料となります。

Check(評価):自己の振り返り

 イベント終了後、主催者からのフィードバック(「〇〇さんの説明が分かりやすくて助かった」「あの時の調整は迅速だった」など)や、自身の業務記録をもとに、計画通りに行動できたか、目標は達成できたかを振り返ります。「何が上手くいったのか」「どこを改善すべきだったか」を冷静に分析します。

Action(改善):学びの言語化と共有

 振り返りから得た学びを、自分の中だけに留めず、言語化してチーム内で共有します。

  • 改善行動例:「次回は、申請書類のチェックリストを自作して、主催者の確認漏れを防ごう」「今回のトラブル対応の経験から、〇〇というマニュアルの改善を提案しよう」。

 このような個人レベルでの地道なPDCAの積み重ねが、職員一人ひとりの成長を促し、ひいては組織全体のサービス品質向上に繋がります。日々の業務に追われる中でも、常に「より良くするためには?」と自問自答する姿勢を持つこと。それが、プロの自治体職員として成長し続けるための鍵です。

まとめ:未来の地域を創造する職員として

 本研修資料を通じて、出張所における地域のお祭り支援業務の全体像から、具体的な実務、応用的な知識、そして未来を見据えたDXの可能性までを網羅的に学んでいただきました。皆様には、この業務が単なる手続きの代行や、年中行事のサポートではないことを、深くご理解いただけたことと信じます。

 皆様が日々向き合っている仕事は、地域の「社会関係資本」という、目には見えない、しかし何物にも代えがたい資産を育む、未来への投資です。お祭りという場で人々が出会い、笑い、協力し合う。その積み重ねが、いざという時に助け合える強固なコミュニティを築き、孤独や孤立のない、誰もが安心して暮らせるまちの土台となるのです。

 出張所職員である皆様は、その最前線に立つ、地域の未来を創造するキーパーソンです。本研修で得た知識とスキルは、皆様が地域の課題に立ち向かうための強力な武器となるでしょう。しかし、最も大切なのは、マニュアルに書かれた知識そのものではなく、それを携えて地域に入り込み、住民一人ひとりの声に耳を傾け、その想いに寄り添う姿勢です。

 皆様には、地域の潜在能力を最大限に引き出すプロフェッショナルとして、時にはナビゲーターとして道を指し示し、時にはコーディネーターとして人々を繋ぎ、そして時にはカタリストとして新たな変化の触媒となることが期待されています。

 業務の中で、前例のない課題や、複雑な人間関係に直面することもあるでしょう。その時は、どうかこの研修資料をもう一度開いてください。ここには、先人たちが築き上げてきた知恵と、これからの時代を乗り越えるためのヒントが詰まっています。このマニュアルが、皆様の業務遂行における信頼できる羅針盤となることを願ってやみません。

 地域と共に歩み、その未来を創造していくという、誇り高い仕事に邁進される皆様一人ひとりに、心からのエールを送ります。

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