【契約課】検査業務 完全マニュアル

はじめに
※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
契約課検査業務の全体像と基本理念
検査業務の意義と目的
東京都特別区の職員として我々が日々向き合う契約課の検査業務は、単なる事務手続きの一つではありません。それは、区民の皆様からお預かりした貴重な税金が、適正かつ効果的に執行されたことを最終的に確認し、その成果を区民の財産として確定させるための、極めて重要な責務です。この業務の核心は、地方自治法にも定められている通り、契約の適正な履行を確保することにあります。具体的には、工事の請負、物品の購入、業務の委託など、区が締結した全ての契約において、その目的物が契約書、仕様書、設計図書に定められた品質、数量、規格、性能を完全に満たしているか否かを、専門的かつ客観的な視点から厳正に判定する行為です。
この確認行為を通じて、我々は契約の対価を支払うことの正当性を担保します。もし検査がなければ、契約内容が満たされていないにもかかわらず公金が支払われ、区民に損害を与える事態になりかねません。したがって、検査は自治体財政の健全性を守る最後の砦としての役割を担っているのです。さらに、検査業務の目的は、単なる支払いのための確認作業に留まりません。区が発注する公共施設やインフラは、未来にわたって区民が利用する大切な資産です。検査は、これらの資産価値を確固たるものにし、長期にわたる安全性と機能性を保証するための根幹的なプロセスです。
質の高い検査を継続的に実施することは、受注者である事業者の技術力向上を促し、ひいては地域全体の建設業界や関連産業の健全な発展に寄与するという側面も持ち合わせています。不誠実な履行や技術力不足を許さない厳正な検査は、公正な競争環境を維持し、真に優れた技術を持つ事業者が適正に評価される土壌を育むのです。逆に、検査担当職員のスキルが不足し、積算や履行確認が不十分なまま業務が進められれば、それは不正や品質低下の温床となり、最終的には区政への信頼を著しく損なう結果を招きます。本研修資料は、そうした事態を未然に防ぎ、全ての職員が高い専門性と倫理観を持って検査業務を遂行できることを目的としています。検査とは、単なる「確認作業」ではなく、区民の税金によって生み出された成果物の「価値を保証する行為」であるという深い認識を持つことが、全ての業務の出発点となります。
検査業務の歴史的変遷と制度的背景
地方自治体における検査業務の制度は、一朝一夕に形成されたものではなく、国の財政監督制度の長い歴史と、社会情勢の変化に対応する過程で発展してきました。その源流は、明治維新後の国家形成期にまで遡ります。明治13年(1880年)、太政官に直属する財政監督機関として会計検査院が誕生し、国の財政に対する独立的かつ厳格なチェック体制の基礎が築かれました。この「公の財産を厳しく監督する」という思想は、今日の地方自治体の検査業務にも通底する基本理念となっています。
特に、制度が大きく変革・強化される契機となったのは、大規模な災害や社会的な事件でした。例えば、戦後の昭和20年代後半、全国で頻発した災害からの復旧事業において、会計検査院は工事費の不正使用等を効果的に防止するため、工事着工前に検査を行う「査定検査」を導入しました。これは、設計の過大計上や便乗工事といった不正を未然に防ぐための強力な措置であり、検査が単なる事後確認だけでなく、不正を抑止する予防的な機能を持つことを示した重要な事例です。この経験は、今日の検査業務においても、計画段階から履行状況を注視する重要性を示唆しています。
また、入札制度の変遷も検査業務のあり方に大きな影響を与えてきました。かつては談合などの不正が社会問題化し、価格競争の透明性を確保することが最優先課題とされました。しかし、過度な価格競争は品質の低下を招くという弊害も明らかになり、昭和51年(1976年)には低入札価格調査制度が導入され、その後も基準価格が段階的に引き上げられるなど、価格だけでなく品質を確保するための制度的枠組みが強化されてきました。この流れは、検査業務において、単に「契約通りか」を見るだけでなく、「求められる品質が本当に確保されているか」という、より本質的な視点が重要であることを示しています。
近年では、行政のスリム化と専門性の活用の観点から、官民の役割分担も見直されています。平成11年(1999年)には、建築確認や検査業務について、民間の指定確認検査機関が実施できる制度が導入されました。これは、全ての業務を行政が直接担うのではなく、民間の専門性を活用しつつ、行政は全体の監督者としての役割を果たすという新しいモデルへの移行を示唆しています。このように、検査制度の歴史は、当初の信頼関係に基づく性善説的なアプローチから、不正や失敗の経験を経て、より厳格で客観的なチェック機能を備えた性悪説的な制度へと進化してきました。現代のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進も、人的な裁量や曖昧さを排し、客観的なデータに基づいて判断するというこの大きな流れの延長線上にあると理解することができます。この歴史的文脈を知ることで、我々は現行制度の趣旨を深く理解し、形骸化させることなくその精神を実践していくことができるのです。
検査業務を支えるコンプライアンスと倫理
検査業務を遂行する上で、その技術的な知識や法的な理解と同等、あるいはそれ以上に重要なのが、厳格なコンプライアンス(法令遵守)の意識と、公務員として求められる高い倫理観です。会計検査院が憲法によって内閣から独立した地位を保障されているのは、財政監督の中立性・公正性を確保するためです。我々特別区の検査職員もまた、組織内において同様の独立性を保ち、いかなる圧力や忖度にも左右されることなく、客観的な事実のみに基づいて判断を下すという重い責務を負っています。
検査の現場では、受注者である事業者と直接対峙します。そこでは、人間関係や長期的な付き合いから、判断が甘くなる、あるいは逆に過度に厳しくなるといった心理的なバイアスが生じる危険性が常に存在します。特定の事業者に対して便宜を図る、あるいは逆に個人的な感情から不利益な扱いをするといった行為は、公務員としての信頼を根底から覆す重大な違法行為であり、決して許されるものではありません。また、事業者からの過剰な接待や贈答品の受け取りは、たとえそれに具体的な見返りを意図していなかったとしても、区民から見れば癒着と受け取られかねず、厳に慎まなければなりません。
検査における全ての判断は、最終的に区民に対する説明責任を伴います。なぜこの工事は「合格」なのか、なぜあの物品は「不合格」なのか。その判断に至った根拠を、誰に対しても論理的かつ客観的に説明できなければなりません。そのためには、検査の過程を写真や記録として正確に残し、判断の根拠となる法令や仕様書の該当箇所を明確に紐づけておくことが不可欠です。曖昧な記憶や主観的な感覚に基づく判断は、検査業務において最も排除すべきものです。
我々の一つの判断が、数千万円、時には数億円という公金の支出を決定づけることになります。その金額の重みを常に意識し、自らの職務が区民全体の奉仕者としてのものであることを片時も忘れてはなりません。コンプライアンスと倫理は、検査職員が専門家としての信頼を維持し、その職責を全うするための土台そのものです。日々の業務において、少しでも疑義や不安を感じた際には、決して一人で抱え込まず、上司や同僚に相談し、組織として公正な判断を下す姿勢が求められます。
検査業務の法的根拠と関連法規
地方自治法に基づく検査の義務
特別区における契約検査業務の最も根源的な法的根拠は、地方自治法にあります。具体的には、地方自治法第234条の2第1項において、「普通地方公共団体の長(中略)は、請負契約又は物件の買入れその他の契約を締結した場合には、当該契約の適正な履行を確保するため又はその受ける給付の完了の確認(給付の完了前に代価の一部を支払う必要がある場合における当該支払に係る給付の確認を含む。)をするため必要な監督又は検査をしなければならない。」と規定されています。
この条文の重要な点は、末尾が「しなければならない」という義務規定になっていることです。これは、監督や検査の実施が、自治体の裁量に委ねられた任意業務ではなく、法律によって課された絶対的な義務であることを意味します。したがって、予算の都合や人員不足、あるいは契約金額が少額であるといった理由で、本来行うべき検査を省略したり、著しく簡略化したりすることは、地方自治法に違反する行為となります。この法的義務の存在が、我々の検査業務の正当性と重要性を裏付けているのです。
さらに、地方自治法を具体的に運用するためのルールを定めた地方自治法施行令第167条の15第2項では、検査の具体的な方法について、「契約書、仕様書及び設計書その他の関係書類(当該関係書類に記載すべき事項を記録した電磁的記録を含む。)に基づいて行わなければならない。」と定められています。これは「書類主義の原則」とも呼ばれ、検査が検査員の個人的な経験や主観、あるいはその場の雰囲気で行われることを固く禁じ、あくまで契約当事者間で合意された客観的な書面に基づいて行われるべきことを明確に示しています。この原則を遵守することが、検査の公正性と客観性を担保する上で不可欠です。検査員は、常にこれらの関係書類を熟読・理解し、全ての判断を書類上の根拠に結びつける訓練を積む必要があります。
会計法及び関連政令の概要
地方自治体の契約事務が地方自治法によって規律されるのと同様に、国の契約事務は会計法によって規律されています。会計法第29条の11には、地方自治法第234条の2とほぼ同趣旨の監督・検査義務が規定されており、これは適正な契約履行の確保が、国の機関であるか地方公共団体であるかを問わず、公会計における普遍的な基本原則であることを示しています。
国の具体的な事務手続きを定めた予算決算及び会計令(会計令)では、監督・検査の方法について、立会い、指示、その他適切な方法によることや、検査は契約書・仕様書等に基づいて行うことなどが定められており、地方自治法施行令の規定と軌を一にしています。これにより、国と地方で契約事務の基本的な考え方に齟齬が生じないよう、制度的な整合性が図られています。
特に注目すべきは、国の制度において明確にされている原則の一つに、「監督の職務と検査の職務の兼職禁止」があります。監督職員は、工事の進捗に合わせて受注者と密接に連携し、円滑な施工を支援する役割を担います。一方、検査職員は、完成した目的物を客観的かつ中立的な立場で評価する役割を担います。両者の立場と役割は本質的に異なるため、同一人物がこれを兼ねることは、検査の独立性・公正性を損なう恐れがあります。この原則は、特別区の契約事務においても重要な示唆を与えるものであり、組織として監督機能と検査機能の分離を意識し、それぞれの専門性を高めていくことが求められます。このように、会計法や関連政令を理解することは、我々の業務の背景にある大きな制度的枠組みを把握し、より高い視点から自らの役割を認識するために有益です。
東京都及び特別区の契約事務規則・要綱
地方自治法や同施行令といった上位法令が定める基本原則を、各特別区の実務レベルで具体的に執行するための詳細なルールとして、それぞれの区が「契約事務規則」や「会計事務規則」、「検査要綱」などを制定しています。これらの規則・要綱は、日々の検査業務の直接的な行動規範となるものであり、全職員がその内容を正確に理解し、遵守することが求められます。
これらの規則には、検査業務の各段階における具体的な手続きが網羅的に規定されています。
- 検査命令の発出:受注者から契約履行の完了届が提出された際など、契約担当者が検査員に対して検査を命じるタイミングと手続きが定められています。
- 検査の立会い:検査を実施する際には、原則として契約の相手方(受注者)及び監督員などの関係職員の立会いを求めることが規定されています。これにより、検査の透明性を確保し、疑義が生じた場合にその場で確認・協議することが可能となります。
- 検査調書の作成:検査が完了した際には、その結果を記録した検査調書を作成することが義務付けられています。これは、検査結果という公的な意思決定を正式な書面として残し、後の支払手続きや紛争時の証拠とするための重要な文書です。
- 不合格時の措置:検査の結果、契約内容に適合しないと判断された場合の措置として、受注者に対する手直し、補強、取替えの指示や、再検査の手続きが具体的に定められています。
- 特殊な状況への対応:
- 不可視部分の検査: 完成後は外部から確認できなくなる配筋や埋設管などについて、工事写真や監督員の段階確認記録といった書類に基づいて検査を行う方法が規定されています。これは、目視できない部分の品質を確保するための重要な手続きです。
- 外部委託: 契約内容が特に専門的な知識や技能を必要とし、区の職員だけでは検査が困難または不適当と認められる場合には、外部の専門家に検査を委託できる旨が定められていることがあります。
これらの規則は、区長から現場の検査員まで、誰が、何を根拠に、どのような権限と責任を負うのかを明確にするための階層構造をなしています。この権限と責任の明確な分担こそが、組織的なガバナンスを機能させ、適正な検査業務を支える基盤となっているのです。職員は、自らの業務がこの大きなガバナンス構造の中でどのような位置を占めるのかを常に意識し、越権行為や責任の所在が曖昧になる事態を避けなければなりません。
主要法令・規則の比較整理
検査業務を規律する法体系は、国の法律から各区の規則に至るまで階層構造をなしています。それぞれの位置づけと関係性を理解することは、法的根拠に基づいた適切な業務執行のために不可欠です。以下に、主要な法令・規則の内容を項目別に比較整理します。この表により、各規定の共通点と相違点を一目で把握することができます。
項目 | 根拠法令 | 地方自治法・同施行令 | 会計法・会計令 | 東京都契約事務規程(例) | 特別区契約事務規則(例) |
検査の義務付け | 概要 | 地方公共団体の長に対し、契約の適正な履行確保のための監督・検査を義務付けている。 | 国の契約担当官等に対し、同様の監督・検査を義務付けている。 | 上位法令に基づき、契約担当者等に検査の実施を義務付けている。 | 上位法令及び都の規程に準じ、区長または契約担当者に検査の実施を義務付けている。 |
条文例 | 地方自治法 第234条の2 第1項 | 会計法 第29条の11 | (各規程による) | (各区規則による) | |
検査の方法(原則) | 概要 | 契約書、仕様書、設計書等の関係書類に基づいて行う「書類主義」を原則とする。 | 地方自治法と同様に「書類主義」を原則とする。 | 上位法令の原則を踏襲し、関係書類に基づく厳正な検査を規定。 | 上位法令の原則を踏襲し、関係書類に基づく厳正な検査を規定。 |
条文例 | 地方自治法施行令 第167条の15 第2項 | 予算決算及び会計令 第101条の4 | 東京都検査事務規程 第16条 | (各区規則による) | |
検査の種類 | 概要 | 法令レベルでは詳細な分類はないが、実務上、完了検査や出来高検査が行われる。 | 法令レベルでは詳細な分類はないが、実務上、完成検査や既済部分検査が行われる。 | 完了検査、既済部分検査、材料検査などを明確に分類し、それぞれの目的を定義。 | 都の規程に準じ、完了検査、既済(納)部分検査、材料検査などを分類。 |
条文例 | – | – | 東京都検査事務規程 第3条 | 台東区契約事務規則 第61条 | |
検査職員の任命 | 概要 | 職員に命じる、または外部に委託することができる。 | 補助者に命じる、または外部に委託することができる。 | 契約担当者等が検査員を命じる。専門性が必要な場合は外部委託も可能。 | 区長が職員の中から検査員を任命。臨時検査員を命じることも可能。 |
条文例 | 地方自治法施行令 第167条の15 第4項 | 会計法 第29条の11 第5項 | 東京都検査事務規程 第9条 | 墨田区契約事務規則 第53条 | |
不合格時の措置 | 概要 | 適正な履行確保のため、必要な措置を講じる義務がある。 | 適正な履行確保のため、必要な措置を講じる義務がある。 | 手直し、引換え等を指示し、再検査を行う具体的な手続きを規定。 | 手直し、補強、取替え等を指示し、その期限や再検査の手続きを規定。 |
条文例 | 地方自治法 第234条の2 第1項 | – | 東京都検査事務規程 第32条, 第33条 | 江東区契約事務規則 第70条 | |
外部委託の可否 | 概要 | 専門的知識等が必要で、職員による実施が困難・不適当な場合に可能。 | 特に必要がある場合に可能。 | 専門的知識等が必要で、職員による実施が困難・不適当な場合に可能。 | 施行令の規定に基づき、委託された者も検査員とみなされる。 |
条文例 | 地方自治法施行令 第167条の15 第4項 | 会計法 第29条の11 第5項 | (各規程による) | 墨田区契約事務規則 第53条 |
この表からわかるように、地方自治法を頂点とする法体系は、国、都、区へと下るにつれて、より具体的かつ実践的な内容へと詳細化されています。職員は、自区の規則を遵守することはもちろん、その背景にある上位法令の趣旨を理解することで、規則に定めのない事態に直面した際にも、法の精神に則った適切な判断を下すことができるようになります。
標準的な検査業務のフローと実務詳解
検査の準備段階:書類確認と事前準備
検査業務の品質は、現場での確認作業だけでなく、その前段階である準備作業によって大きく左右されます。周到な準備こそが、効率的で的確な検査を実現するための鍵となります。検査命令を受けた検査員がまず着手すべきは、契約担当者から交付される関係書類の精査です。
主要な確認書類には、契約書、仕様書、設計図書(図面)、数量計算書、施工計画書、材料承認図、監督職員による打合せ記録簿などが含まれます。これらの書類は、契約内容の全てを定義するものであり、検査の唯一の拠り所となります。準備段階における書類確認のポイントは以下の通りです。
- 整合性の確認:設計図に記載されている寸法や材質と、仕様書に記載されている要求性能が一致しているか。数量計算書の内訳と、設計図の数量が合致しているか。複数の書類間で記載内容に矛盾がないか、細部にわたって確認します。ここで矛盾点を発見できれば、現場での混乱や手戻りを未然に防ぐことができます。
- 契約内容の完全な理解:この契約が何を目的とし、どのような成果物を、どのような品質基準で求めているのかを正確に把握します。特に、特記仕様書に記載された特別な要求事項や、受注者から提出された施工計画書における重要な工程は見落としが許されません。
- 検査項目のリストアップ:書類を基に、現場で確認すべき項目を事前にリストアップします。寸法、材質、色、員数、作動状況など、具体的なチェックリストを作成することで、確認漏れを防ぎ、体系的な検査が可能となります。特に、完成後は確認が困難になる部分(後述)については、重点項目として明確にしておく必要があります。
書類の確認と並行して、現場の特性を把握することも重要です。工事現場であれば、立入りのための安全装備(ヘルメット、安全帯など)が必要か、高所や狭隘な場所での作業が伴うか、事前に現場へのアクセス方法や駐車場所を確認しておくなど、物理的な準備も怠ってはなりません。これらの情報収集と書類の精査に基づき、具体的な検査日時、所要時間、立会人などを盛り込んだ検査計画を立案します。この計画的なアプローチが、プロフェッショナルな検査業務の第一歩です。
検査の実施:立会い、確認手法、留意点
検査の実施段階では、準備段階で得た知識と計画に基づき、客観的な事実確認を厳正に行います。検査の透明性と公正性を担保するため、原則として契約の相手方(受注者)及び関係職員(主に監督職員)の立会いを求めて実施します。立会いの下で検査を行うことにより、指摘事項や確認内容についてその場で共有し、双方の認識の齟齬を防ぐことができます。なお、正当な理由なく受注者が立ち会わない場合でも、検査を執行することは可能です。
現場における確認手法は、以下の5つの基本原則に集約されます。
- 現物確認: 成果物が、図面や仕様書に示された形状、寸法、材質、仕上げの通りに製作・施工されているかを、実測や目視により直接確認します。
- 員数確認: 納入される物品の数量や、設置される機器の台数が、契約書や内訳書に記載された通りであるかを確認します。
- 品質・性能確認: 材料試験成績書やメーカーの品質証明書などの書類と現物を照合し、求められる品質基準を満たしているかを確認します。
- 機能確認: 機械設備や電気設備など、作動を伴うものについては、実際に試運転を行い、仕様書通りの機能・性能を発揮するかを確認します。
- 書類確認: 施工記録、各種承認図、官公署への届出書類など、契約上提出が義務付けられている書類が全て整備され、内容が適切であるかを確認します。
これらの確認作業全体を通じて、検査員は常に客観性と中立性を保たなければなりません。受注者からの説明を鵜呑みにするのではなく、自らの目で見て、手で触れて、測定して事実を確かめる姿勢が重要です。また、疑義が生じた点や不適合の疑いがある点については、その場で写真撮影を行うなど、客観的な記録を残すことを徹底します。
ケーススタディ:不可視部分の検査
検査業務において特に専門性が問われるのが、建物の基礎内部の配筋や、地中に埋設された配管など、工事が完成すると外部から見えなくなってしまう「不可視部分」の検査です。これらの部分は、建物の安全性や機能性を左右する極めて重要な要素であり、その品質確保は検査員の重大な責務です。
不可視部分の検査は、完成時に直接目視することができないため、施工の各段階で記録された書類や写真に基づいて行われます。具体的な確認プロセスは以下の通りです。
- 段階確認記録の照査: 監督職員が、配筋完了時や埋戻し前など、不可視となる直前のタイミングで実施した「段階確認」の記録を精査します。鉄筋の径や本数、間隔などが設計図書通りであったか、写真と共に記録されているかを確認します。
- 工事写真の確認: 受注者から提出される工事写真を、設計図書と照合します。写真には、工事内容を明確にするための情報(工事名、撮影年月日、部位、寸法など)が記載された黒板(チョークボード)が写し込まれている必要があります。この黒板の情報と写真に写る施工状況が、設計図書と一致しているかを一点一点確認します。特に、鉄筋のかぶり厚さや配管の勾配など、重要な寸法がスケール等と共に撮影されているかを入念にチェックします。近年では、電子納品が原則となっており、改ざん防止の観点からもその取り扱いには注意が必要です。
- 材料承認図・試験成績書の確認: 使用された鉄筋やコンクリート、配管などの材料が、事前に承認されたものと同一であり、JIS規格などの品質基準を満たしていることを、材料承認図やミルシート、試験成績書によって確認します。
このように、不可視部分の検査は、断片的な情報を組み合わせ、施工プロセス全体が契約図書に適合していたかを論理的に再構築する、さながら探偵のような思考力が求められる作業です。日々の監督記録や写真一枚一枚が、最終的な品質を保証するための重要な証拠(エビデンス)となるのです。
検査の種類別詳解(完了検査、中間検査、出来高検査、材料検査)
検査業務は、その目的と実施されるタイミングによって、いくつかの種類に分類されます。各検査の特性を正しく理解し、状況に応じて適切な検査を執行することが重要です。
- 完了検査:全ての給付(工事の完成、物品の完納など)が完了した段階で、契約全体の履行状況を確認するために行う、最も基本的かつ重要な検査です。この検査に合格することによって、受注者は請負代金の全額を請求する権利を得て、区は目的物の引渡しを受けることになります。検査の範囲は契約内容の全てに及びます。
- 中間検査:工事の施工途中において、品質管理上または工程管理上、特に重要と認められる段階で実施される検査です。前述の「不可視部分」の確認は、中間検査の典型例です。例えば、建築工事における基礎配筋完了時や、土木工事における管路布設完了・埋戻し前などが該当します。中間検査を行うことで、後工程に進む前に問題点を是正させることができ、手戻りによる工期の遅延や、完成後の品質不具合といったリスクを大幅に低減させることができます。
- 出来高(既済部分)検査:契約の完了前に、代価の一部を支払う(部分払)必要がある場合に行われる検査です。例えば、工期が長期にわたる大規模工事などで、受注者の資金繰りを支援するために行われます。この検査では、工事全体の進捗のうち、既に完成している部分(既済部分)の数量と品質を確認し、その出来高に応じて支払額を査定します。検査調書には、どの部分までが検査対象であり、その出来高が請負代金額の何パーセントに相当するかを明確に記載する必要があります。また、工事の中止や契約解除といった事態が発生した際にも、それまでに履行された部分を確定するために出来高検査が実施されます。
- 材料検査:工事や製造に使用される主要な材料が、現場に搬入された段階、あるいは工場で製作された段階で、仕様書や設計図書に定められた品質・規格に適合しているかを確認するための検査です。例えば、鉄骨の材質や寸法、コンクリートの強度などを、ミルシートや試験成績書と照合したり、抜き取り試験を行ったりして確認します。不適合な材料が使用されることを未然に防ぎ、構造物全体の品質を根本から確保することを目的とします。
これらの検査はそれぞれ独立したものではなく、相互に関連し合っています。例えば、適切な材料検査と中間検査が行われていれば、完了検査はよりスムーズに進みます。検査員は、契約の性質や工事の進捗状況を的確に把握し、これらの検査を効果的に組み合わせて執行する能力が求められます。
検査調書の作成と復命
検査の実施後、その結果を公式な記録として確定させるための手続きが、検査調書の作成と復命です。検査員は、検査を完了したときは、直ちに検査調書(または検収調書)を作成し、契約担当者にその結果を報告(復命)する義務があります。検査調書は、単なる作業記録ではなく、公金の支出を許可または不許可とする根拠となる法的な重みを持つ公文書です。
検査調書に記載すべき主な項目は、各区の規則で定められていますが、一般的には以下の内容が含まれます。
- 基本情報: 契約件名、契約金額、契約相手方、履行場所、契約期間
- 検査情報: 検査年月日、検査場所、検査の種別(完了、中間など)
- 立会人: 受注者側、区側の立会人の職・氏名
- 検査結果: 「合格」または「不合格」の判定を明確に記載します。条件付き合格といった曖昧な表現は避けなければなりません。
- 検査員所見: 検査を通じて確認された特記事項や、不合格と判定した具体的な理由、手直しを指示した内容などを客観的な事実に基づいて具体的に記述します。この所見欄は、検査の品質を示す重要な部分であり、後の紛争時などには極めて重要な証拠となります。
- 良い記述例: 「設計図書A-10にて指定の○○社製 型番B-2に対し、現場設置の機器は型番B-3であったため、契約不適合と判断。契約図書通りの機器への取替えを指示した。」
- 悪い記述例: 「一部仕様と異なる点があった。」(具体性がなく、何を指しているか不明確)
- 検査員の署名・押印: 検査員が、自らの責任において検査結果を証明したことを示すものです。
作成された検査調書は、契約担当者に提出され、復命が完了します。合格の判定がなされた場合、この検査調書が添付された請求書に基づき、会計管理者(出納機関)への支払命令が行われます。このように、検査から支払いまでの一連のプロセスは、全て書面によってその正当性が証明される仕組みになっています。検査プロセス全体が、一つの「公式な記録作成行為」であるという認識を持つことが、正確で丁寧な書類作成に繋がります。
検査不合格時の措置と再検査
検査の結果、契約の全部または一部が契約内容に適合しないと判断された場合、検査員は「不合格」の判定を下し、契約の履行を正常な状態に戻すための措置を講じなければなりません。この対応は、受注者を罰することを主目的とするものではなく、あくまで契約通りの成果物を得るという、発注者である区の正当な権利を実現するための「契約履行を正常化するためのプロセス」です。
不合格と判定した場合の標準的な対応フローは以下の通りです。
- 不合格の通知と是正指示:検査員は、検査調書に不合格である旨とその具体的な理由を明記し、契約担当者を通じて受注者に通知します。同時に、契約内容に適合させるための具体的な措置(手直し、補強、取替えなど)と、その措置を完了すべき期限を指示します。この指示は、口頭ではなく、必ず書面で行うことが重要です。
- 修補完了の届出:受注者は、指示された是正措置を完了した後、区に対して修補完了の届出を行います。
- 再検査の実施:区は、修補完了の届出を受けて、速やかに再検査を実施します。再検査では、前回不合格と指摘した箇所が、指示通りに、かつ契約内容に適合する形で是正されているかを確認します。
- 再検査の結果判定:再検査の結果、全ての不適合箇所が是正され、契約内容に適合すると認められれば「合格」となります。しかし、指示された期限までに是正が完了しない場合、または再検査でも不合格となった場合には、契約不履行とみなし、遅延損害金の徴収や、場合によっては契約の解除といった、より厳しい措置に進むことになります。
また、検査の実施中に、受注者が検査の立会いを正当な理由なく拒んだり、検査員の職務執行を妨げたり、あるいはその指示に従わないといった事態が発生した場合には、検査員は検査を中止または中断することができます。このような場合、検査員は速やかにその事実を契約担当者に報告し、組織としての対応を協議する必要があります。不合格時の対応は、時として受注者との間で緊張関係を生むことがありますが、検査員は常に冷静かつ毅然とした態度で、法令と契約書に基づき、客観的な事実のみを根拠として対応することが求められます。
応用知識と特殊ケースへの対応
設計変更が生じた場合の検査実務
公共工事、特に土木・建築工事においては、当初の設計通りに施工を進めることが困難な状況が発生することが少なくありません。例えば、掘削してみたら想定と異なる地質であった、近隣住民からの要望で計画を一部変更する必要が生じた、より優れた新工法を採用することになった、といったケースです。このような場合に、当初の契約内容(設計図書)を変更する手続きが「設計変更」です。
設計変更への対応は、検査実務においても重要な応用知識となります。まず、大原則として、設計変更に関する指示や協議は、必ず発注者と受注者の間で「書面」によって行われなければなりません。口頭での指示や、現場レベルでの安易な合意による仕様変更は、後の契約変更手続きの際にトラブルの原因となり、最悪の場合、変更部分の代金が支払われないといった事態を招きます。
検査員は、設計変更が行われた場合、変更後の設計図書を「正」として検査を実施します。当初の設計図書と比較して差異があったとしても、それが正規の設計変更手続きを経て承認されたものであれば、契約内容に適合していると判断します。そのため、検査の準備段階で、関連する設計変更の指示書や協議書が全て揃っているかを確認し、変更内容を正確に把握しておくことが不可欠です。
ケーススタディ:変更契約前の先行指示
実務上、工期のひっ迫などやむを得ない事情により、請負代金額の変更を伴う契約変更手続きが完了する前に、受注者に対して変更部分の施工を先行して指示せざるを得ない場合があります。このような「先行指示」が行われた場合の検査には、特に注意が必要です。
国土交通省のガイドラインなどでは、先行指示を行う場合、指示書に変更内容による増減額の「概算額」を記載することが推奨されています。この概算額は、