10 総務

【人事課】人事評価 完全マニュアル

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はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。

人事評価制度の基礎知識

人事評価の意義と目的

 地方自治体における人事評価は、単に職員の勤務成績を査定するための手続きではありません。それは、組織と職員双方の成長を促し、最終的には住民サービスの向上に繋がる、極めて戦略的な人事管理の根幹をなす制度です。この制度が持つ意義と目的を深く理解することは、人事課職員として適切な制度運用を担う上での第一歩となります。

 人事評価制度の目的は、大きく二つに大別されます。第一の目的は、「人事管理の基礎とすること」です。職員の能力や実績を客観的な基準で評価し、その結果を任用(採用、昇任、配置転換)、給与(昇給、勤勉手当)、分限(降任、免職)といった人事管理のあらゆる側面に活用します。これにより、年功序列ではなく、真に能力と実績に基づいた公正な処遇が実現され、職員の納得感を高めることができます。

 第二の目的は、「人材育成と組織全体のパフォーマンス向上」です。人事評価のプロセス、特に上司と部下による目標設定やフィードバックの面談は、極めて重要なコミュニケーションの機会となります。この対話を通じて、職員は自身の強みや改善すべき課題を明確に認識し、主体的な能力開発に取り組むきっかけを得ることができます。また、組織全体の目標と個人の業務目標を連動させることで、職員一人ひとりの力を同じ方向に結集させ、組織としての総合力を最大化することが可能になります。優れた人事評価制度は、職員のモチベーションを高め、活気ある職場風土を醸成し、ひいては行政サービスの質の向上に不可欠な土台となるのです。

人事評価制度の歴史的変遷と現代的役割

 現在の地方公務員における人事評価制度は、過去の「勤務評定」制度から大きな変革を経て成立しました。この歴史的背景を理解することは、現代の制度がなぜ能力・実績主義を重視するのかを把握する上で重要です。

 かつての勤務評定は、主に職員の執務状況を把握し、記録することに主眼が置かれていました。しかし、その評価基準が曖昧であったり、評価結果の活用が不透明であったりすることから、必ずしも職員の意欲向上や能力開発に直結しているとは言えない状況がありました。社会経済情勢の変化や住民ニーズの多様化・複雑化が進む中で、より効果的・効率的な行政運営が求められるようになり、公務員の世界でも能力と実績に基づいた人事管理の徹底が不可欠となりました。

 この流れを決定づけたのが、平成19年(2007年)の国家公務員法改正です。この改正により、国家公務員において本格的な人事評価制度が導入され、その影響は地方公務員制度にも及びました。地方においても、従来の勤務評定に代わり、客観性と透明性を高めた「人事評価」制度の導入が促進されることとなったのです。この変革の核心は、評価の仕組みを単なる「記録」から、目標管理に基づく「業績評価」と職務遂行能力を見る「能力評価」を二本柱とする、人材育成と組織マネジメントのための「ツール」へと転換させた点にあります。現代の人事評価制度は、職員一人ひとりの能力を最大限に引き出し、組織全体のパフォーマンスを向上させるという、より積極的かつ戦略的な役割を担っているのです。

人事評価の法的根拠

 人事評価の実施は、任命権者の裁量に委ねられた任意の業務ではなく、地方公務員法によって定められた法的な義務です。この法的根拠を正確に理解し、関係者に説明できることは、人事課職員にとって不可欠な知識です。評価制度の全ての運用は、これらの法規定を遵守する形で行われなければなりません。

 以下に、人事評価に関連する地方公務員法の主要な条文とその実務上の意義をまとめます。これらの条文が、評価結果を昇任や給与に反映させることの正当性を担保しています。

条文概要人事課職員としての実務上の意義
第15条(任用の根本基準)職員の任用は、受験成績、人事評価その他の能力の実証に基づいて行わなければならないと規定。人事評価が、採用後の昇任や配置といった人事異動の客観的かつ正当な根拠であることを示す最重要条文の一つ。評価結果に基づかない恣意的な人事が行えないことを担保する。
第21条の3(昇任の方法)職員の昇任は、人事評価等に基づき、標準職務遂行能力及び適性を有すると認められる者の中から行うものと規定。昇任選考において、人事評価の結果が中心的な判断材料となることを明確に示している。複数年にわたる良好な評価の蓄積が昇任の要件となる制度設計の根拠となる。
第23条(人事評価の根本基準)職員の人事評価は、公正に行われなければならないと規定。また、任命権者は評価を任用、給与、分限等の基礎として活用するものとすると規定。評価制度の最も重要な原則である「公正性」を法的に要請している。評価結果が処遇に直結することの根拠であり、評価の重要性を職員に説明する際の基本となる条文。
第23条の2(人事評価の実施)任命権者は、定期的に人事評価を行わなければならないと規定。評価の基準や方法は任命権者が定めると規定。人事評価が毎年(または半期ごと)に必ず実施しなければならない義務的業務であることを示している。各自治体が独自に制度設計を行う法的根拠でもある。
第23条の3(人事評価に基づく措置)任命権者は、人事評価の結果に応じた措置を講じなければならないと規定。評価結果を「活用できる」のではなく、「活用し、具体的な措置を講じなければならない」という強い義務を課している。評価と処遇の連動を徹底する法的根拠。
第28条(降任及び免職)分限処分の事由の一つとして、「人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合」を規定。勤務成績不良者に対する降任・免職といった厳しい分限処分の根拠となり得ることを示している。それ故に、評価記録の客観性・正確性が極めて重要となる。

人事評価における基本原則(公正性・透明性・納得性)

 人事評価制度がその目的を達成し、組織に有益なものとして機能するためには、制度が「公正性」「透明性」「納得性」という三つの基本原則の上に成り立っている必要があります。これら三つの原則は、単に並立するだけでなく、相互に深く関連し合っており、一つが欠ければ他の二つも成り立たないという、いわば三位一体の関係にあります。

  • 公正性 (Fairness):これは、評価が評価者の個人的な感情や主観、先入観に左右されることなく、客観的な事実に基づいて行われることを意味します。全ての職員に対して、あらかじめ定められた共通の基準(評価項目や評価尺度)を平等に適用することが求められます。例えば、特定の職員を不当に高く、あるいは低く評価することは公正性を著しく害する行為です。
  • 透明性 (Transparency):これは、評価のルールやプロセスが、評価される職員に対して事前に明確に開示されている状態を指します。どのような基準で評価されるのか、どのような手順で評価が進むのか、そしてその結果がどのように処遇に反映されるのかといった情報が、誰にでもアクセス可能であることが重要です。評価結果本人への開示も、透明性を確保するための重要な仕組みです。
  • 納得性 (Acceptance):これは、評価される職員が、その評価結果に対して十分に理解し、受け入れている状態を意味します。納得性は、職員が評価結果を前向きに捉え、自身の成長の糧とするための大前提です。職員のモチベーションを維持・向上させ、制度への信頼を醸成するためには、高い納得感の確保が不可欠です。

 これらの原則の連鎖関係を理解することは極めて重要です。まず、評価のルールが公開されていなければ(透明性の欠如)、職員は自分の評価が公正であったかを判断する術を持ちません。その結果、低い評価を受けた職員は「不公正な評価だ」と感じやすくなります。次に、ルールが公開されていても(透明性の確保)、上司によるルールの適用が他の職員と比べて一貫性を欠いているように見えれば(公正性の欠如)、職員は不公平感を抱きます。いずれのケースにおいても、職員は評価結果を受け入れることができず、納得性は得られません。つまり、「透明性」が「公正性」の土台となり、その両方が確保されて初めて「納得性」が生まれるのです。人事課の役割は、まず透明性の高い制度を設計し、次に評価者がそれを公正に運用できるよう徹底的に支援することにあります。この連鎖を断ち切らないことこそが、制度を成功に導く鍵となります。

人事評価制度の構造と設計

評価の二本柱:能力評価と業績評価

 地方自治体における人事評価制度は、多くの場合、「能力評価」と「業績評価」という二つの異なる視点からの評価を組み合わせて構築されています。この二本柱の構造を理解することは、評価制度の全体像を把握する上で不可欠です。これらは、職員の働きを多角的かつ立体的に捉えるための仕組みです。

  • 能力評価 (Ability Evaluation):これは、職務を遂行する「過程」において、職員がどのような能力を発揮したかを評価するものです。いわば、仕事の「やり方」や「プロセス」に着目した評価と言えます。評価項目としては、職階や職種に応じて、「企画立案能力」「調整能力」「課題解決能力」「専門知識」「協調性」などが設定されます。重要なのは、職員が潜在的に持っている能力ではなく、評価期間中に職務上の行動として具体的に「発揮された」能力を評価の対象とする点です。
  • 業績評価 (Performance Evaluation):これは、職務を通じてどのような「成果」を挙げたかを評価するものです。仕事の「結果」に着目した評価であり、一般的に「目標管理制度(MBO: Management by Objectives)」という手法が用いられます。期首に、職員と上司が協議の上で具体的な業務目標を設定し、期末にその目標の達成度合いを評価します。これにより、組織目標の達成にどの程度貢献したかが明確になります。

 この二つの評価の関係は、自動車に例えると分かりやすいでしょう。「能力」がエンジンの性能やドライバーの運転技術だとすれば、「業績」は実際に走行した距離や目的地への到着時間にあたります。優れたエンジン(高い能力)は、優れた走行結果(高い業績)を生み出すことが期待されます。逆に、業績が振るわない場合は、エンジンのどの部分に問題があるのか(どの能力を開発すべきか)を特定する手がかりとなります。このように、能力評価と業績評価は相互に補完し合う関係にあり、両者を組み合わせることで、職員の現状をより正確に把握し、的確な育成に繋げることができるのです。

評価者・被評価者の役割と責任(1次・2次評価者、調整者等)

 人事評価の公正性と客観性を担保するため、一人の評価者の判断だけに依存するのではなく、複数の評価者が関与する「複線評価」の仕組みが多くの自治体で採用されています。それぞれの評価者が担う役割と責任を明確にすることが、制度の円滑な運用に繋がります。

  • 被評価者 (Employee):評価を受ける職員本人です。期首には自身の業務目標案を作成し、期末には自己評価を行います。評価プロセス全体を通じて、自身の業務遂行状況を客観的に振り返り、面談の場では主体的に意見を述べることが期待されます。
  • 1次評価者 (Primary Evaluator):通常、被評価者の直属の上司(係長など)が担当します。被評価者の日常的な業務遂行状況を最もよく把握している立場にあり、目標設定面談やフィードバック面談を実施する中心的な役割を担います。評価期間を通じて、具体的な職務行動の事実を記録し、それに基づいて最初の評価(1次評価)を行います。
  • 2次評価者 (Secondary Evaluator):通常、1次評価者の上司(課長など)が担当します。1次評価者が行った評価内容を、より広い視野から確認・検証する役割を担います。課全体の職員間の評価バランスを考慮し、1次評価者による評価の甘辛傾向(寛大化・厳格化)といった偏りを是正することで、評価の客観性を高めます。
  • 調整者・実施権者 (Adjuster/Final Approver):部長級の職員や人事課がこの役割を担うことがあります。最終段階で、部局間あるいは組織全体の評価のばらつきを調整し、最終的な評価を確定させる責任を持ちます。このプロセスは「評価調整会議」といった形式で行われることもあります。

 ここで特に重要なのは、2次評価者や調整者が担う「調整」機能です。これは単なる形式的な確認作業ではありません。組織全体の公正性を維持するための、極めて重要な品質管理プロセスです。例えば、ある課の1次評価者(A係長)が性向として評価が甘く、別の課の1次評価者(B係長)が厳しい場合、調整機能がなければ、A係長の部下である平均的な職員が、B係長の部下である優秀な職員よりも高い評価を受けてしまう事態が生じかねません。このような不均衡は、個々の職員や評価者の問題ではなく、制度運用の問題であり、職員の不満と制度への不信を招く最大の要因となります。したがって、人事課が主導して厳格な2次評価と最終調整を行うことは、制度の信頼性を担保する上で絶対に欠かせない生命線なのです。

評価期間と評価サイクルの設定

 人事評価は、継続的なプロセスとして設計されており、明確な期間とサイクルに基づいて運用されます。職員がいつ、何をすべきかを理解し、計画的に業務に取り組むためには、このスケジュールを全職員に周知徹底することが重要です。

 評価期間は、多くの自治体で年1回または年2回(半期ごと)に設定されています。例えば、能力評価は通年の行動を見るため年1回、業績評価は目標の進捗管理をしやすくするため年2回(4月~9月、10月~3月)といった組み合わせが一般的です。

 一般的な年間の評価サイクルは、以下のような流れで進められます。

  • 期首(4月~5月): 目標設定期間
    • 組織全体の方針や部局の目標が示され、それに基づき各職員が上司と面談(目標設定面談)を行い、当該年度の業績評価の目標を具体的に設定・確定させます。
  • 期中(10月~11月): 中間確認期間
    • 年度の中間時点で、目標の進捗状況を確認し、課題や今後の進め方について上司と部下が面談(中間面談)を行います。必要に応じて、目標の軌道修正も検討されます。
  • 期末(1月~2月): 評価・面談期間
    • 評価期間の終了を受け、職員は自己評価を行います。その後、上司(1次評価者)が評価を行い、その内容について部下と面談(期末面談)を実施します。この面談で、評価の根拠や来期に向けた課題についてすり合わせを行います。
  • 評価確定・フィードバック(3月): 結果の開示と活用
    • 1次評価、2次評価、最終調整を経て、評価結果が最終的に確定します。確定した評価結果は、上司から本人に開示(フィードバック)され、昇給や勤勉手当への反映、そして次年度の能力開発計画へと繋げられます。

 なお、年度途中に採用された職員や異動した職員については、在籍した期間に応じた評価が行われるよう、配慮が必要です。例えば、異動前の所属長が異動時点までの評価を行い、その情報を異動後の所属長に引き継ぐといった運用が行われます。

人事評価の実務フロー詳解

年間業務フローの全体像

 人事評価の一連の業務は、年間を通じて計画的に進められます。各段階で何をすべきかを俯瞰的に理解することは、円滑な制度運用に不可欠です。以下に、標準的な年間業務フローを示します。

 【期首:Plan】→【期中:Do】→【期末:Check】→【フィードバック:Action】

  1. 目標設定(期首:4月~5月)
    • 職員による目標管理シートの作成
    • 上司(1次評価者)との目標設定面談
    • 目標の確定
  2. 進捗確認と指導(期中:通年、特に10月~11月)
    • 日常業務を通じた観察・記録・指導
    • 中間面談の実施
    • 必要に応じた目標の軌道修正
  3. 評価の実施(期末:1月~2月)
    • 職員による自己評価
    • 1次評価者による評価と期末面談
    • 2次評価者による評価・調整
  4. 結果の確定と活用(年度末~年度初頭:3月~4月)
    • 評価調整会議等による最終評価の確定
    • 職員への評価結果の開示(フィードバック)
    • 昇給・勤勉手当等への反映
    • 次年度の人材育成計画への活用

第1段階:目標設定(期首)

目標管理シートの具体的な書き方と事例

 業績評価の根幹をなすのが、質の高い目標設定です。目標管理シートは、単なる計画書ではなく、評価期間を通じて職員と上司の間の共通認識を形成し、行動を方向づけるための羅針盤です。効果的な目標は、一般的に「SMART」の原則に沿って設定することが推奨されます。これは、Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Relevant(関連性)、Time-bound(期限)の頭文字を取ったものです。

 目標は、組織全体の目標からブレークダウンされた「組織貢献目標」、職員自身の成長を目指す「自己育成目標」、そして日常的に遂行すべき「通常業務目標」の3つのカテゴリーで設定するとバランスが取れます。

【目標設定の具体例】

  • 悪い例(抽象的で測定不能):
    • 「住民サービスの向上に努める。」
    • 「業務の効率化を図る。」
    • 「研修に積極的に参加する。」
  • 良い例(SMART原則を適用):
    • (窓口業務担当): 「新規導入システムのマニュアルを作成し、課内研修会を9月末までに実施することで、証明書発行の平均処理時間を前年比で5%短縮する。」
    • (企画担当): 「〇〇計画策定のため、住民アンケート調査を7月に実施・集計し、その結果を反映した計画素案を12月末までに部長へ提出する。」
    • (自己育成目標): 「行政手続法に関する専門研修を年2回受講し、習得した知識を活かして、担当する許認可業務の審査マニュアルを3月末までに改訂する。」

効果的な目標設定面談の進め方

 目標設定面談は、上司が一方的に目標を指示する場ではありません。職員の主体性を引き出し、両者が納得する形で目標を確定させるための「対話」の場です。

  • 面談の進め方:
    1. アイスブレイクと目的の共有:リラックスした雰囲気を作り、面談の目的が「今年度の活躍を最大化するための作戦会議」であることを伝えます。
    2. 組織目標の確認:まず、所属する部や課の今年度の重点目標を共有し、個人の目標が組織のどの部分に貢献するのかを明確にします。
    3. 被評価者による目標案の説明:被評価者自身が作成してきた目標管理シート案について、設定した背景や意図を説明してもらいます。上司はまず傾聴に徹します。
    4. 質疑応答とすり合わせ:上司は目標の具体性や達成可能性について質問し、より挑戦的で適切な目標になるよう助言します。目標の難易度や重要度(ウエイト)についても、この段階で認識を合わせます。
    5. 合意形成と激励:最終的な目標内容について双方が合意し、上司は目標達成に向けた期待とサポートの意思を伝えて面談を締めくくります。

第2段階:進捗確認と指導(期中)

中間面談の目的と実践ポイント

 中間面談は、評価期間の折り返し地点で行う重要な軌道修正の機会です。これは「評価」の場ではなく、あくまで「支援」の場であることを明確に意識する必要があります。目的は、目標達成に向けた進捗の確認、問題点の早期発見と解決、そして職員のモチベーション維持です。

  • 実践のポイント:
    • 進捗状況の自己申告:面談の冒頭で、被評価者自身に進捗状況と現状の課題感を話してもらいます。
    • 課題の共有と解決策の検討:進捗が思わしくない場合、その原因(例:業務量の増加、他部署との連携不足など)を共に分析し、達成に向けた具体的な方策や上司として提供できるサポートについて話し合います。
    • 状況変化への対応:年度当初には想定していなかった状況の変化(例:大規模な災害対応、法改正への緊急対応など)があった場合、目標の見直しや優先順位の変更が必要かを協議します。
    • ポジティブなフィードバック:進捗が順調な点や、困難な状況で発揮された良い行動については、具体的に承認し、称賛することで、後半に向けた意欲を高めます。

職務行動記録の重要性と記録方法

 公正な評価を行う上で、評価者の記憶だけに頼ることは極めて危険です。人間の記憶は曖昧で、特に期末に近い出来事の印象が強くなる「期末誤差(Recency Error)」に陥りがちです。これを防ぎ、評価の客観的根拠を確保するために不可欠なのが、評価期間を通じた「職務行動記録」です。

  • 記録の重要性:
    • 期末評価の際に、具体的な事実に基づいて評価理由を説明できる。
    • 評価者自身の思い込みやバイアスを排除し、公正な評価を実現する。
    • 職員へのフィードバックが具体的になり、納得度が高まる。
  • 記録方法のポイント:
    • 事実を記録する:「〇〇さんは意欲的だ」といった主観的な解釈ではなく、「〇〇さんは、課内会議で新たな業務改善案を3件提案した」というように、客観的に観察可能な「事実(行動)」を記録します。
    • 具体的かつ簡潔に:「いつ、どこで、誰が、何を、どのようにした」が分かるように、要点を絞って記録します。
    • ポジティブ・ネガティブ両側面を記録:良い行動だけでなく、改善が必要な行動についても、事実として公平に記録します。
    • 継続的に記録:期末にまとめて思い出すのではなく、週に一度時間を設けるなど、定期的・継続的に記録する習慣をつけることが重要です。この記録は、専用のノートや様式(職務行動記録シート)を用いると効果的です。

第3段階:評価の実施(期末)

自己評価の意義と留意点

 期末評価は、まず被評価者自身による自己評価から始まります。自己評価は、単に評価シートに点数をつける作業ではありません。一年間の自身の職務遂行を振り返り、目標の達成度や発揮した能力について内省する、自己成長のための重要なプロセスです。また、上司が気づかなかった成果や努力をアピールする機会でもあります。

  • 自己評価の留意点:
    • 客観的な視点:感情的にならず、設定した目標や評価基準に照らして、自身のパフォーマンスを客観的に評価するよう努めます。
    • 具体的な根拠を示す:自己評価の各項目について、なぜその評価になるのかを具体的な事実や成果物(作成した資料、対応件数など)を挙げて記述します。これにより、評価の説得力が高まります。
    • 成果と課題の両方を記述:目標を達成できた点や自身の強みだけでなく、未達成だった点や今後の課題についても率直に記述することが、成長意欲の表れとして好意的に受け止められます。

評価者が陥りやすい心理的エラー(評価者バイアス)とその対策

 評価者は、どれだけ公正であろうと努めても、無意識の心理的な偏り(バイアス)の影響を受ける可能性があります。この「評価者エラー」を自覚し、意識的に是正しようとすることが、評価の質を高める上で極めて重要です。人事課は、評価者研修などを通じて、これらのエラーについて周知徹底を図る責務があります。

  • 代表的な評価者エラー:
    • ハロー効果:ある一つの優れた(あるいは劣った)特徴の印象に引きずられて、他の全ての評価項目まで高く(あるいは低く)評価してしまう傾向。例:「プレゼンが上手いから、企画力も高いだろう」と判断する。
    • 中心化傾向:部下からの反発を恐れたり、評価に自信がなかったりするために、極端な評価を避け、多くの職員を平均的な評価(5段階評価の「3」など)に集中させてしまう傾向。
    • 寛大化・厳格化傾向:部下に嫌われたくないという気持ちから全体的に評価が甘くなったり(寛大化)、逆に自身の基準が高すぎて全体的に厳しくなったり(厳格化)する傾向。
    • 期末誤差(直近効果):評価期間全体のパフォーマンスではなく、評価直前の出来事や成果の印象に強く影響されて評価してしまう傾向。
    • 論理的誤差:「〇〇が得意な者は、△△も得意なはずだ」というように、評価項目間に論理的な関連性があると評価者が思い込み、事実に基づかずに評価してしまう傾向。
    • 対比誤差:評価者自身の能力や経験を基準にして、部下を比較評価してしまう傾向。例:「自分はPCが得意だから、部下のPCスキルが低く見える」。
  • エラーへの対策:
    • 評価者研修の受講:エラーの存在と具体例を学び、自己の評価傾向を客観的に認識する機会を持つ。
    • 事実に基づく評価の徹底:職務行動記録に基づき、主観や印象ではなく具体的な事実を根拠に評価する。
    • 評価項目ごとの独立した評価:ハロー効果や論理的誤差を避けるため、各評価項目を一つひとつ独立したものとして評価する。
    • 複数人による評価:1次評価者の評価を2次評価者がチェックする仕組みにより、個人のバイアスを組織的に是正する。

第4段階:結果の開示と育成への活用(フィードバック)

納得度を高めるフィードバック面談の技術

 評価結果を本人に伝えるフィードバック面談は、評価プロセス全体の締めくくりであり、次期への動機付けを行う上で最も重要なコミュニケーションです。単なる「結果通知」ではなく、職員の成長を支援するための「対話」と位置づける必要があります。

  • 面談の進め方と技術:
    1. 環境設定:周囲に話が聞こえない会議室など、安心して話せる環境を確保します。
    2. 自己評価の傾聴:まず、被評価者に自己評価の結果とその理由を説明してもらいます。上司は遮ることなく、最後まで傾聴し、本人の認識を正確に把握します。
    3. 評価結果と根拠の伝達:上司からの評価結果を伝えます。その際、必ず具体的な事実や行動記録を根拠として示し、「なぜその評価になったのか」を丁寧に説明します。抽象的な言葉や人格批判は絶対に避けます。
    4. 強みと成長点の承認:まず評価期間中の成果や成長した点、発揮された強みを具体的に認め、称賛します。その上で、今後さらに期待することや改善すべき点を伝えます。この「承認→課題提示→期待」という流れ(サンドイッチ型フィードバックなど)は、相手が前向きに課題を受け入れやすくする効果があります。
    5. 次期に向けた対話:評価結果を踏まえ、次期にどのような目標に取り組むか、どのような能力を伸ばしていくべきかについて共に考え、育成計画へと繋げます。
    6. ポジティブな締めくくり:面談の最後には、本人の努力への感謝と、今後の成長への期待を伝えることで、前向きな気持ちで面談を終えることが重要です。

評価結果の昇給・勤勉手当・昇任への具体的な反映方法

 人事評価の納得性を担保するためには、評価結果が処遇へどのように反映されるのか、その仕組みが明確かつ公正であることが不可欠です。

  • 昇給への反映:多くの自治体では、人事評価の結果をS・A・B・C・Dなどの段階(昇給区分)に分け、その区分に応じて昇給する号俸数を決定します。例えば、「A評価:8号俸昇給、B評価:6号俸昇給、C評価:4号俸昇給」といった形で、勤務成績に応じて昇給幅に差を設けます。これにより、努力し成果を挙げた職員が報われる仕組みとなっています。
  • 勤勉手当への反映:勤勉手当(ボーナスの一部)は、勤務成績に応じて支給される部分であり、人事評価の結果が直接的に反映されます。評価結果に基づいて「成績率」が決定され、成績率が高いほど支給額も多くなります。これもまた、職員のインセンティブを高める重要な仕組みです。
  • 昇任への反映:係長や課長などの上位職への昇任選考において、人事評価の結果は最も重要な判断材料の一つです。通常、「直近2年間の評価がいずれもB評価以上であること」といったように、一定水準以上の評価結果が昇任試験の受験資格や選考の前提条件とされます。能力と実績が証明された職員を登用するための客観的な根拠となります。

評価結果に基づく人材育成計画への連携

 人事評価は、処遇決定のためだけに行うものではありません。その最大の目的の一つである「人材育成」に繋げてこそ、制度は真価を発揮します。フィードバック面談で明らかになった個々の職員の強みや課題は、次年度の育成計画に具体的に落とし込まれるべきです。

  • 具体的な連携方法:
    • OJT計画への反映:フィードバック面談で合意した育成課題に基づき、上司は次年度のOJT(On-the-Job Training)計画を立てます。例えば、「プレゼンテーション能力の向上が課題」とされた職員には、意図的に発表の機会を多く与えるといった配慮をします。
    • Off-JT(研修)への推薦:評価結果から特定の能力に課題が見られる職員に対しては、その能力を強化するための集合研修への参加を推薦します。人事課は、全庁的な評価結果の傾向を分析し、ニーズの高い研修を企画・提供する責務があります。
    • 自己啓発の支援:職員が自らの課題克服のために自主的に学習(資格取得、通信教育など)することを奨励し、必要に応じて支援制度を案内します。
    • キャリア形成への活用:複数年にわたる評価結果を蓄積・分析することで、職員一人ひとりの適性やキャリア志向を把握し、長期的な視点でのキャリアパスの提示や、適材適所の人事配置に活用します。

 このように、評価(Check)から育成(Action/Plan)へとサイクルを繋げることで、人事評価制度は組織と個人の持続的な成長を支える強力なエンジンとなるのです。

応用知識とケーススタディ

ケース1:勤務成績不良職員への対応

指導・改善計画の策定と面談の留意点

 職員の中には、残念ながら期待される水準の勤務成績を挙げられない者も存在します。このような場合、人事評価制度は、単に低い評価を下すだけでなく、当該職員の指導・改善を促すための枠組みとして機能させることが重要です。対応の基本は、早期発見と粘り強い指導、そして全てのプロセスを客観的な事実として記録することです。

 勤務成績不良が認められた場合、まずは通常のOJTや日常的な指導を強化します。それでも改善が見られない場合は、より公式な「指導・改善計画(Performance Improvement Plan: PIP)」を策定し、集中的な指導期間を設けることが有効です。

  • 指導・改善計画の策定ポイント:
    • 具体的な改善目標:「協調性を向上させる」といった曖昧なものではなく、「チーム会議において、週に一度は自身の業務進捗を報告し、他メンバーの意見を求める」など、客観的に達成・未達成が判断できる具体的な行動目標を設定します。
    • 明確な期間設定:通常、3ヶ月から半年程度の期間を設定し、その期間内に目標達成を目指すことを明確にします。
    • 具体的な支援策:上司による週1回の面談、参考図書の提示、関連研修への参加指示など、目標達成を支援するための具体的な措置を計画に盛り込みます。
    • 結果の明示:計画の冒頭で、期間内に目標が達成された場合と、されなかった場合の結果(例:通常業務への復帰、あるいは分限処分等の可能性があること)を明確に伝えます。
  • 面談における留意点:
    • 冷静かつ毅然とした態度:面談は感情的にならず、あくまで組織としての指導の一環であることを明確にし、冷静かつ毅然とした態度で臨みます。叱責や人格否定は厳禁です。
    • 事実に基づく対話:「やる気がない」といった主観ではなく、「提出期限を3回連続で守れなかった」「指示した業務内容と成果物が異なっていた」など、具体的な事実に基づいて対話を進めます。
    • 本人の認識と原因の聴取:なぜ期待されるパフォーマンスが発揮できないのか、本人なりの認識や原因について十分に耳を傾け、改善への意欲を引き出すよう努めます。

分限処分を視野に入れた評価記録の重要性と判例解説

 指導・改善計画にもかかわらず勤務成績が改善されず、職務遂行に支障をきたしている状態が継続する場合、最終的な手段として地方公務員法第28条に基づく分限処分(降任・免職)を検討せざるを得ない場面も生じます。このような重大な判断を下す際、人事評価の記録は、その処分の正当性を担保する上で決定的に重要な役割を果たします。

 人事評価制度は、処遇決定や人材育成のツールであると同時に、組織の健全性を維持するためのリスク管理ツールでもあります。万が一、分限処分が訴訟等で争われた場合、裁判所が重視するのは、任命権者(自治体)が当該職員に対して、客観的な事実に基づき、公正な評価を行い、かつ、十分な指導・改善の機会を与えたかどうかです。

 判例(例:最高裁令和4年9月13日判決など)を分析すると、分限免職処分が有効と認められるためには、単に「成績が悪かった」という結果だけでは不十分であり、以下のようなプロセスが尽くされているかが厳しく問われます。

  1. 客観的で継続的な低評価の記録:複数回にわたる人事評価において、継続的に最低ランクに近い評価がなされていること。
  2. 具体的な問題行動の記録:評価の根拠となる具体的な勤務状況(業務上のミス、指示不履行、協調性を欠く言動など)が、職務行動記録などによって具体的に記録されていること。
  3. 十分な指導と改善機会の提供:面談を通じて繰り返し課題を伝え、指導・改善計画を策定・実行するなど、組織として改善のために最大限の努力を尽くした事実が記録されていること。

 これらの記録が不十分なまま行われた分限処分は、「裁量権の濫用」として取り消されるリスクが非常に高くなります。したがって、人事課職員は、成績不良者への対応において、管理職が評価プロセスを適正に運用し、全ての指導・面談内容を客観的な事実として正確に記録するよう、強く指導・監督する責任があります。これは、職員を守るため、そして最終的には組織自身を守るための重要な責務なのです。

ケース2:メンタルヘルス不調を抱える職員への配慮

目標設定と評価における合理的配慮

 メンタルヘルスの不調を抱える職員に対する人事評価は、最大限の配慮と専門的な知見をもって慎重に行う必要があります。この場合の最優先事項は本人の治療と回復であり、評価制度が過度なプレッシャーとなり、症状を悪化させるようなことがあってはなりません。

 重要なのは、「合理的配慮」の観点です。休職から復帰した職員や、通院しながら勤務を継続している職員に対して、他の職員と全く同じ基準で目標設定や評価を行うことは、不適切かつ困難な場合があります。

  • 目標設定における配慮:
    • 段階的な目標設定:復帰直後は、まず職場環境に再適応することを第一の目標とし、業務負荷の軽い定型的な業務から担当させます。業務の量や質は、本人の回復状況や主治医の意見を踏まえ、産業医や人事課と連携しながら段階的に引き上げていきます。目標は、達成感を得やすく、自信の回復に繋がるような、スモールステップで設定することが有効です。
    • 業務内容の調整:対人ストレスが高い業務(例:クレーム対応、困難な交渉)を一時的に避け、本人のペースで進められる業務(例:資料作成、データ整理)を中心に割り振るなどの配慮が考えられます。
  • 評価における配慮:
    • 調整された目標に基づく評価:評価は、配慮の上で設定された、個別的で段階的な目標の達成度に基づいて行います。健常時のパフォーマンスや、他の職員の標準的な目標と比較して評価することは避けるべきです。
    • プロセスや努力の重視:結果だけでなく、治療と仕事の両立に努めている姿勢や、再発防止のためにセルフケアに取り組んでいる努力(例:生活リズムの記録、定期的な通院の継続)なども評価の際に積極的に考慮します。
    • 評価の目的の再確認:この場合の評価の主目的は、処遇決定よりも、本人の安定した勤務継続を支援し、円滑な職場復帰を促すことに置かれるべきです。

プライバシー保護と連携のあり方

 メンタルヘルスに関する情報は、極めて機微な個人情報です。その取り扱いには、個人情報保護法や関連指針を遵守し、最大限の注意を払わなければなりません。

  • プライバシー保護の徹底:
    • 職員の病状や通院状況といった情報は、職務上最低限知る必要のある者(直属の上司、人事課担当者、産業医など)に限定して共有します。本人の同意なく、同僚などに情報が漏れることのないよう、厳重な情報管理が求められます。
    • 職場内で必要な配慮(例:業務量の調整)について他の職員の理解を得る際も、病名などを具体的に伝える必要はなく、「体調への配慮のため」といった説明に留めるべきです。
  • 適切な連携体制の構築:
    • メンタルヘルス不調者への対応は、職場の上司だけで抱え込まず、「本人」「直属の上司」「人事課」「産業医・保健師」などが連携するチームアプローチが基本です。
    • 人事課は、この連携のハブとしての役割を担います。上司からの相談を受け、産業医等専門家の助言を伝えたり、必要な制度(例:短時間勤務制度)の利用を促したりすることで、上司が適切な対応を取れるよう支援します。また、休職中の職員との連絡調整役を担うことも、円滑な復帰支援に繋がります。

ケース3:育児・介護休業等からの復帰職員の評価

 育児・介護休業や、それに伴う短時間勤務制度を利用する職員が増加する中、これらの職員に対する公正な人事評価のあり方を確立することは、多様な人材が活躍できる職場環境を整備する上で不可欠です。

  • 評価期間の原則:評価の対象となるのは、実際に勤務した期間におけるパフォーマンスのみです。育児休業等で勤務していなかった期間を理由に、評価全体が不利益に取り扱われることがあってはなりません。
  • 目標設定と評価の考え方:
    • 短時間勤務を選択している職員については、その勤務時間を踏まえた適切な業務量と目標を設定することが基本です。フルタイム職員と同じ業務量や目標を課し、達成できなかったことを理由に低い評価をすることは不適切です。
    • 評価は、勤務時間内にどれだけの成果を挙げたか、という「生産性」の観点から行われるべきです。限られた時間の中で、創意工夫を行い、効率的に業務を遂行している点は、積極的に評価されるべき要素です。
    • 制度を利用していること自体が、昇任や昇格の機会において不利に働くことのないよう、人事制度全体の公平性を確保する視点が人事課には求められます。

先進事例に学ぶ人事評価

東京都及び特別区(23区)の先進的取組

 人事評価制度をより実効性の高いものへと進化させていくためには、他の自治体、特に先進的な取り組みを行っている大規模自治体の事例から学ぶことが非常に有効です。ここでは、全国の自治体に先駆けて能力・業績主義の人事制度を導入・発展させてきた東京都及び特別区(23区)の事例を分析し、自組織の制度改善のヒントを探ります。

制度設計の特徴と評価項目の比較分析

  • 東京都:早期からの業績主義と処遇への強力な連動
    • 東京都は、昭和61年度に全国に先駆けて「自己申告・業績評価制度」を導入するなど、人事評価制度のパイオニア的存在です。その最大の特徴は、評価結果を昇給や勤勉手当といった処遇に強力に連動させる「業績主義」を徹底している点にあります。
    • 評価は、仕事の「成果」だけでなく、その「プロセス」で見られた能力や取組姿勢も対象としており、多角的な視点を取り入れています。また、管理職の昇給決定においては、業績評価の結果がより直接的に反映される仕組みとなっており、マネジメント層に対する強いインセンティブとして機能しています。
  • 特別区:多様な能力モデルと人材育成への注力
    • 千代田区、港区、世田谷区などの特別区では、各区が目指す職員像に基づき、独自の詳細な能力評価項目を設定している点が特徴的です。例えば、「政策形成能力」「危機対応能力」「経営感覚」といった、自治体職員に求められる高度な専門能力が評価項目として具体的に定義されています。
    • 千代田区では、昇給区分を5段階に設定し、評価結果に応じて昇給号俸数に明確な差を設けるなど、処遇への反映も制度化されています。世田谷区では、評価の客観性・公平性を確保するため、1次評価を2次評価者が補正する仕組みや、評価者研修の実施、評価結果の本人への全面開示、苦情相談制度の整備などを徹底しています。

人材育成・キャリアデザインとの連携事例

 先進的な自治体では、人事評価はもはや単独の制度として存在するのではなく、採用、育成、配置、キャリア支援といった一連の人事施策と有機的に連携した「タレントマネジメント・エコシステム」の中核として機能しています。

 この進化の背景には、人事評価を単なる「過去の成績表」として捉えるのではなく、職員の「未来のキャリアを照らすGPS」として活用しようという思想があります。従来の制度では、評価結果は主に給与ファイルに記録され、次年度の昇給額に影響を与えるという一方向的な活用に留まっていました。

 しかし、東京都や特別区の先進事例に見られるエコシステムでは、評価データが多方向的に活用されます。例えば、東京都の「庁内公募制人事」では、高い評価を受けた職員が、自らの意思で希望するポストに挑戦する機会を得ることができます。これは、評価データが職員の自律的なキャリア形成(モビリティ)を促進するトリガーとなっている好例です。

 また、港区や千代田区が策定する「人材育成基本方針」では、人事評価で明らかになった個々の職員の強みや弱みが、直接的に育成計画に反映されます。評価結果で「デジタル分野の知識不足」が指摘された職員には、自治体が提供するリスキリング(学び直し)プログラムが推奨されるなど、評価が具体的な能力開発アクションに直結しています。さらに、全庁的な評価データを集計・分析することで、「組織全体としてプロジェクトマネジメント能力が不足している」といった戦略的な課題を可視化し、新たな管理職研修プログラムを企画・立案するための根拠としても活用されます。

 このように、人事評価はエコシステムのデータエンジンとして、個人の成長と組織の戦略的目標達成を同時に駆動させる役割を担っています。人事課の役割も、制度を管理・運営するアドミニストレーターから、データを活用して人材という経営資源を最適化する戦略パートナーへと進化しているのです。

広域連携や自治体間交流における人事評価の課題

 国や他の自治体、民間企業等への派遣・出向といった人事交流は、職員の視野を広げ、多様な経験を積ませる上で非常に有効な手段です。しかし、人事評価の観点からは特有の課題が生じます。

 最大の課題は、派遣先の上司と派遣元の所属長との間で、評価の基準や視点が異なる可能性がある点です。派遣先での勤務実態を最もよく知るのは派遣先の上司ですが、最終的な評価責任は派遣元の任命権者が負います。このため、円滑な情報連携の仕組みを構築することが不可欠です。

 一つの解決策として、派遣先の直属上司を「評価アドバイザー」と位置づけ、1次評価に相当する意見を聴取し、その情報を基に派遣元の所属長が2次評価者として最終的な評価を行う、といった方法が考えられます。人事課は、派遣前に評価の仕組みや基準について派遣先と十分にすり合わせを行い、期末には評価情報の提供を正式に依頼するなど、組織間のコーディネーターとしての役割を果たすことが求められます。

人事評価業務の改革とDXの推進

ICT活用による業務効率化(人事評価システムの導入事例)

 従来、多くの自治体で人事評価は紙やExcelファイルを用いて行われてきました。しかし、これらの手法は、書類の配布・回収・保管に多大な手間がかかるだけでなく、評価プロセスの進捗管理が煩雑になり、蓄積された評価データを分析・活用することが極めて困難であるという大きな課題を抱えています。

 こうした課題を解決し、人事評価業務を抜本的に効率化・高度化する手段が、ICTの活用、すなわち「人事評価システム(タレントマネジメントシステム)」の導入です。これらのシステムは、評価プロセスの全体をデジタル化し、一元管理することを可能にします。

  • 人事評価システムの主な機能と効果:
    • ワークフローの電子化:目標設定シートや評価シートの入力、提出、承認といった一連の流れを全てシステム上で行うことができます。これにより、書類の紛失リスクがなくなり、進捗状況がリアルタイムで可視化されます。
    • 自動リマインド機能:提出期限が近づいている評価者に対して、システムが自動で催促メールを送信するため、人事担当者の督促業務の負担が大幅に軽減されます。
    • データの一元管理と分析:全職員の評価データがデータベースに蓄積されるため、過去の評価履歴の参照が容易になります。また、部署ごとの評価の甘辛傾向の分析や、特定の能力項目に高い評価を得ている職員の検索などが可能となり、戦略的な人事配置や人材育成計画の立案にデータを活用できます。

 実際に、福岡県うきは市などの自治体では、人事評価システムを導入することで、人事担当者や管理職の事務負担を軽減し、評価の本来の目的である「職員との対話や人材育成」により多くの時間を割けるようになったという成果が報告されています。

RPA活用による定型業務の自動化

 人事評価システムを導入するほどの規模ではない、あるいはシステム導入と並行して更なる効率化を目指す場合に有効なのが、「RPA(Robotic Process Automation)」の活用です。RPAとは、PC上で行う定型的かつ反復的な事務作業を、ソフトウェアのロボットに記憶させて自動化する技術です。

 人事評価業務の中にも、RPAによって自動化できる作業は数多く存在します。

  • RPAによる自動化の具体例:
    • 評価シートの自動作成・配布:年度初めに、職員名簿のデータから全職員分の評価シート(Excelファイルなど)を自動で作成し、各所属長宛てにメールで一斉に送付する。
    • 未提出者への督促メール自動送信:提出状況を管理する一覧表を定期的にチェックし、未提出の評価者に対して、定型の督促メールを自動で送信する。
    • 評価結果データの集計:各所属から提出された評価シートのファイルを開き、最終評価の点数や評語などの特定項目のデータを、人事課が管理する集計用の一覧ファイルへ自動で転記・集計する。

 これらの作業をRPAに任せることで、人事担当者は単純な繰り返し作業から解放され、評価者研修の企画や、より複雑な個別ケースへの対応といった、付加価値の高い業務に集中することが可能になります。

生成AIの活用可能性

 近年急速に発展している生成AI(Generative AI)は、人事評価のあり方を大きく変える可能性を秘めています。生成AIは、RPAのような定型業務の自動化に留まらず、人間の知的作業を支援し、評価の質そのものを向上させる「強力なアシスタント」として機能することが期待されます。

 ただし、最終的な評価判断は人間が行うべきであり、AIはあくまでその判断を支援するツールであるという位置づけを明確にすることが重要です。

  • 生成AIの具体的な活用シナリオ:
    • 評価コメント・面談要約の作成支援:評価者が記録した職務行動の事実(箇条書きのメモなど)を基に、生成AIが客観的で具体的な評価コメントの初稿を自動で作成する。これにより、評価者の文章作成の負担を軽減し、より質の高いフィードバックを促すことができます。また、録音されたオンライン面談の音声を自動で文字起こしし、その要約を作成することも可能です。
    • 評価データ分析による組織課題の可視化:全庁の評価コメント(テキストデータ)をAIが分析し、「コミュニケーション能力に関する課題」や「政策立案に関する強み」といった組織全体の傾向を可視化する。これにより、人事課はデータに基づいた全庁的な研修計画を立案できます。
    • 個別最適化された研修プランの提案:ある職員の評価結果(例:「データ分析能力は高いが、プレゼンテーション能力に課題」)をAIにインプットすると、その職員に最適化された研修プラン(例:「データ可視化研修(中級)」「効果的なプレゼンテーション技法(基礎)」の受講を推奨)を自動で提案する。これにより、一人ひとりのニーズに合った、きめ細やかな人材育成が実現します。

人事評価制度の実効性を高めるために

組織レベルでのPDCAサイクル

 人事評価制度は、一度導入すれば完成というものではありません。社会情勢の変化や組織の課題に応じて、常に見直しと改善を続ける「生き物」です。制度の実効性を維持・向上させるためには、組織全体でPDCAサイクルを回し、継続的な改善に取り組む姿勢が不可欠です。

  • Plan(計画): 制度の見直しと目標設定
    • 毎年度、人事評価制度の運用結果を総括し、次年度の改善目標を設定します。具体的には、職員意識調査の結果や評価者からのヒアリングを基に、「評価基準が現状の職務実態に合っているか」「評価者による評価のばらつきはどの程度か」といった課題を分析します。その上で、「評価基準の改定」や「評価者研修の強化」といった具体的な改善計画を立案します。
  • Do(実行): 計画の実施
    • 立案した計画を実行に移します。例えば、改定した評価マニュアルを全職員に周知徹底したり、全ての管理職を対象とした体系的な評価者研修を実施したりします。評価者研修では、制度の理念や具体的な評価方法だけでなく、評価者エラーの防止策についても重点的に指導します。
  • Check(評価): 効果の測定と検証
    • 実施した改善策が、意図した効果を上げているかを検証します。評価期間終了後に、再度、職員意識調査を行い、評価制度に対する納得度が向上したかを確認します。また、評価結果の分布を分析し、中心化傾向や極端な甘辛傾向が是正されているかをデータで確認します。
  • Action(改善): 次のサイクルへの反映
    • 検証結果に基づき、更なる改善策を検討します。例えば、「研修内容は良かったが、一部の評価者にはまだ理解が不十分」という結果であれば、次年度はフォローアップ研修を実施する、といった次のアクションに繋げます。このサイクルを粘り強く回し続けることが、制度を形骸化させず、組織文化として根付かせる鍵となります。

個人レベル(評価者)でのPDCAサイクル

 制度全体の改善と同時に、評価者である管理職一人ひとりが、自身の評価スキルを向上させるためのPDCAサイクルを回すことも極めて重要です。人事課は、評価者がこの自己改善プロセスを実践できるよう、支援し、動機づける役割を担います。

  • Plan(計画): 自己の評価傾向の把握と目標設定
    • 評価期間の開始前に、前年度の自身の評価結果を振り返ります。「自分の評価は、部全体の中で甘い傾向になかったか」「特定の部下との人間関係が評価に影響していなかったか」など、自己の評価行動を客観的に省みます。その上で、「今年度は、全ての部下の良い行動を最低でも週に一度は記録する」「フィードバック面談では、具体的な事実を3つ以上挙げて褒める」といった、個人の行動目標を設定します。
  • Do(実行): 評価・面談スキルの実践
    • 設定した行動目標を意識しながら、一年間の評価プロセス(日常の観察・記録、面談など)を実践します。特に、中間面談や期末面談では、傾聴や具体的なフィードバックといったスキルを意識的に活用します。
  • Check(評価): 自己の行動の振り返り
    • 評価期間終了後、自身の行動目標がどの程度達成できたかを振り返ります。被評価者である部下から、「今年の面談でのフィードバックは分かりやすかったですか?」といった形で、非公式に感想を聞いてみることも有効な自己評価となります。
  • Action(改善): 次期に向けた行動改善
    • 振り返りの結果、見えてきた自身の課題(例:「つい感情的に話してしまう場面があった」「記録が不十分だった」)を認識し、次年度に向けてどのように改善していくかを考えます。必要であれば、コミュニケーションスキルに関する書籍を読んだり、人事課が主催する研修に参加したりするなど、具体的な改善行動に移します。

まとめ:未来を担う職員を育てる人事評価

 本研修資料を通じて、地方自治体における人事評価制度の理論的背景から、日々の具体的な実務、そして未来に向けた発展的可能性までを網羅的に解説してまいりました。

 人事評価は、時に評価者にとっても被評価者にとっても、精神的な負担を伴う困難な業務であることは事実です。しかし、その根底にある目的は、職員を序列化し、選別することではありません。その本質は、一人ひとりの職員が持つ無限の可能性を信じ、その成長を組織として全力で支援するための、最も重要なコミュニケーション・ツールであるということです。

 公正で、透明性の高い制度を設計し、それを粘り強く運用していくこと。そして、評価というプロセスを通じて、上司と部下が真摯に向き合い、対話を重ねること。その一つひとつの積み重ねが、職員の成長を促し、組織の活力を生み、最終的には私たちが仕えるべき住民への、より質の高い行政サービスの提供へと繋がっていきます。

 人事課の職員である皆様が担う役割は、この重要な制度の「守護者」であり、「推進者」です。本資料が、皆様の日々の業務における一助となり、自信と誇りを持って人事評価業務に取り組むための一助となれば、これに勝る喜びはありません。未来の自治体を担う素晴らしい職員を、皆様の手で育てていくことを心から期待しております。

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