【人事課】カムバック採用・リファラル採用 完全マニュアル

はじめに
※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
新たな人材獲得戦略の必要性
地方自治体を取り巻く採用環境の変化
現代の地方自治体、とりわけ東京都特別区が直面する人材獲得の環境は、かつてないほどの速度と規模で変化しています。この変化を正確に理解し、適応することこそが、人事課に課せられた喫緊の課題です。
第一に、日本全体の構造的課題である少子高齢化と生産年齢人口の減少が、公務員採用の基盤を揺るがしています。かつては安定した職業として多くの志望者を集めた地方公務員も、労働力人口そのものが減少する中で、民間企業との激しい人材獲得競争に晒されています。これは一時的な現象ではなく、今後長期にわたって続く不可逆的なトレンドであり、従来の応募者を待つだけの採用スタイルでは、組織の活力を維持することが困難になることを示唆しています。
第二に、若手職員の離職率増加という深刻な現実があります。総務省の調査によれば、地方公務員の若手職員の離職者数は増加傾向にあり、特に30歳未満の層で顕著です。これは、公務員=終身雇用という価値観が変容し、より良いキャリアや働きがいを求めて転職することが一般的になった現代の労働市場を反映しています。この「人材の流出」は、単なる欠員補充の問題にとどまらず、組織の知識・経験の継承を断絶させ、中長期的な行政サービスの質の低下を招きかねない重大なリスクです。この現実が、従来の採用手法に加え、新たな人材獲得戦略の導入を不可欠なものとしています。
第三に、専門人材、特に自治体DXを推進するために不可欠なデジタル人材の獲得競争が激化しています。民間企業で極めて需要の高いスキルを持つ人材は、公務員特有の給与体系や勤務形態の中では惹きつけることが容易ではありません。画一的な採用試験だけでは、こうした専門人材にアプローチすること自体が難しく、行政サービスのデジタル化という時代の要請に応えられなくなる恐れがあります。
カムバック採用・リファラル採用が注目される背景
このような構造的な課題に対応するため、新たな採用手法として「カムバック採用」と「リファラル採用」が注目されています。これらの手法は、従来の採用活動のあり方を根本から見直す可能性を秘めています。
- 「待ち」から「攻め」の採用へ: これまでのように求職者が応募してくるのを待つだけでなく、自治体側から能動的に優秀な人材にアプローチする「攻めの採用」への転換が求められています。カムバック採用は退職者という既知の人材プールに、リファラル採用は職員の人的ネットワークを通じて、これまでアプローチできなかった層に働きかけることを可能にする、具体的な「攻め」の戦術です。
- 働き方の多様化とキャリア観の変化への適応: 転職がキャリアアップの手段として肯定的に捉えられ、副業やリモートワークといった多様な働き方が浸透する中で、「一度退職したら組織との関係は終わり」という考え方は時代にそぐわなくなっています。退職者を「卒業生(アルムナイ)」として貴重な人材資産と捉え直すカムバック採用や、職員一人ひとりの信頼に基づくネットワークを活用するリファラル採用は、こうした現代的なキャリア観に合致した、柔軟で新しい組織と個人の関係性を築く手法です。
- 採用のミスマッチ防止と定着率向上への期待: 職員や元職員からの紹介・推薦に基づく採用は、候補者が応募段階で組織の文化や業務内容、時にはその厳しさも含めて深く理解している場合が多く、入社後のミスマッチを大幅に軽減できます。これは、特に課題となっている若手職員の早期離職を防ぎ、人材の定着率を向上させるための極めて有効な処方箋となり得ます。
- 採用コストと工数の削減: 人材紹介会社への高額な手数料や、大規模な求人広告への出稿に依存しないこれらの手法は、採用にかかるコストを大幅に削減できる可能性があります。限られた行政コストの中で、より効率的かつ効果的な採用活動を実現するための重要な選択肢です。
これらの採用手法の導入は、単なる採用戦術の追加ではありません。それは、地方自治体の人事行政が、厳格な手続き遵守を重視するプロセス志向の管理モデルから、個々の人材との関係構築を重視するリレーションシップ志向の戦略モデルへと進化する、大きなパラダイムシフトを意味します。従来の人事課の役割は、ルールに基づき応募者を厳正に選抜する「門番(ゲートキーパー)」としての側面が強かったかもしれません。しかしこれからは、退職者や職員のネットワークといった「人の繋がり」を育み、組織の魅力を内外に発信し、多様な人材を惹きつける「ネットワークの担い手(ネットワーク・ウィーバー)」としての役割が求められます。この変革は、人事課職員一人ひとりの意識とスキルの変革を伴う、挑戦的でありながらも極めてやりがいのある取り組みとなるでしょう。
カムバック採用(アルムナイ採用)の制度設計と実務
カムバック採用の意義とメリット・デメリット
カムバック採用は、単に過去の職員を再雇用する「出戻り制度」とは一線を画します。その本質は、退職者を組織の「卒業生(アルムナイ)」として捉え、退職後も継続的な関係を築くことで、将来的な再雇用の可能性だけでなく、組織にとって有益な外部ネットワークを構築する長期的な人材戦略です。
- メリットの詳解:
- 即戦力人材の確保: 最大のメリットは、組織の文化、価値観、そして具体的な業務フローを熟知した人材を迅速に確保できる点です。新規採用者に比べ、立ち上がりに要する研修コストや時間を大幅に削減し、即戦力としての活躍が期待できます。
- 採用ミスマッチの低減: 候補者と組織の双方が、互いの長所も短所も理解した上での再雇用となるため、「こんなはずではなかった」という入庁後のミスマッチが起こる可能性は極めて低いと言えます。
- 新たな知見の獲得: 退職後に民間企業や他の自治体などで培った新たなスキル、経験、視点を組織に持ち帰ってもらうことで、内部の人間だけでは生まれにくい新しい発想がもたらされ、組織全体の活性化や業務改善に繋がります。
- 定着率の向上: 一度外の世界を経験し、他の組織と比較した上で、改めて自組織の魅力や働きやすさを再認識して復帰する人材は、組織へのエンゲージメントが高く、再び離職する可能性が低い傾向にあります。
- デメリットと対策:
- 既存職員の不公平感: 復帰者が過去の実績を理由に優遇されていると既存職員に受け取られると、「なぜ一度辞めた人間が」といった不満や士気の低下を招くリスクがあります。
- 対策: 給与や職位の決定プロセスを明確なルールに基づき行い、その基準を既存職員にも説明できるように透明性を確保することが不可欠です。復帰者と既存職員が協力し合えるような、歓迎の雰囲気作りも重要となります。
- 組織の変化への不適応: 退職してから時間が経過している場合、組織のルール、業務プロセス、使用する情報システムなどが大きく変化しており、復帰者がすぐに対応できない可能性があります。
- 対策: 復帰者を対象とした専用のオンボーディング・プログラム(研修)を設け、退職後の変更点を体系的にインプットする機会を提供することが有効です。また、相談役となるメンターを配置することも円滑な適応を助けます。
- 安易な退職の助長: 「何かあっても、また戻れる」という安心感が、特に若手職員の間で安易な離職を誘発してしまうリスクも指摘されています。
- 対策: 制度の対象者を、例えば「育児・介護などやむを得ない理由での退職者」や「一定の勤続年数(例:3年以上)を満たした者」などに限定することで、制度の乱用を防ぎ、キャリア形成に対する真摯な姿勢を職員に促すことが重要です。
- 既存職員の不公平感: 復帰者が過去の実績を理由に優遇されていると既存職員に受け取られると、「なぜ一度辞めた人間が」といった不満や士気の低下を招くリスクがあります。
法的根拠と公平性の担保
カムバック採用を公務員組織で実施する上で、最も重要なのが地方公務員法との整合性です。結論から言えば、適切な制度設計を行うことで、法の原則を遵守した運用が可能です。
地方公務員法第15条は「成績主義の原則」を定めており、職員の任用は「受験成績、勤務成績その他の能力の実証に基いて行わなければならない」とされています。カムバック採用は、まさにこの「勤務成績その他の能力の実証」に基づいた採用手法と位置づけることができます。過去の勤務実績や人事評価は、その人物の能力を客観的に示す有力な証拠であり、この実績を評価して再任用することは、成績主義の原則に合致すると考えられます。
ただし、絶対に遵守すべきは、選考プロセスの公正性です。カムバック採用制度は、対象者に対して再雇用を確約するものではありません。あくまで応募の機会を提供するものであり、情実採用や縁故採用と見なされることのないよう、応募後は必ず公式な選考プロセスを経る必要があります。具体的には、客観的な評価基準に基づいた面接を実施し、その評価内容を記録として残すなど、採用決定のプロセスを透明化し、説明責任を果たせるようにしておくことが極めて重要です。
標準業務フローと各段階の実務詳解
制度設計フェーズ:対象者、労働条件の明確化
カムバック採用を成功させるためには、その入り口となる制度設計が最も重要です。ここで明確な基準を設けることが、後のトラブルを防ぎ、公平性を担保する基盤となります。
- 対象者の定義: 誰でも無条件に対象とするのではなく、制度の趣旨に合致した人材を確保するために、以下のような基準を明確に定めます。
- 退職理由: 育児、介護、配偶者の転勤といったライフイベント上のやむを得ない理由や、スキルアップを目的とした民間企業への転職など、組織として再雇用を歓迎する理由を例示します。
- 退職前の勤続年数: 組織への貢献度や文化への理解度を測る指標として、例えば「正規職員として3年以上」といった最低勤続年数を設定します。
- 退職後の経過年数: 組織の変化が大きくなりすぎることを避けるため、「退職後10年以内」など、応募可能な期間に上限を設けることが一般的です。
- 対象外とするケース: 懲戒免職処分を受けた者や、勧奨退職制度を利用した者など、制度の対象から明確に除外するケースを規定しておきます。
- 労働条件の決定: 復帰後の処遇は、既存職員との公平性が最も問われる部分です。恣意的な判断を排し、一貫性のある運用を行うために、ルールを事前に整備します。
- 給与: 多くの自治体で採用されているのが、退職時の級・号給を基礎とし、そこに退職後の職務経歴(経験年数や役職等)を一定の基準で加算して決定する方式です。これにより、過去の貢献と復帰までのキャリアの両方を評価することが可能になります。
- 職位: 原則として退職時の職層(主事、主任、係長など)を基本としますが、外部での経験が特に顕著で、より上位の職務を遂行できると判断される場合には、その能力を評価し、上位の職層で採用する可能性もルールとして設けておくことが望ましいでしょう。
- 昇任の取り扱い: 昇任試験・選考の受験資格となる在職年数の計算において、過去の在職期間を通算するかどうかを明確に定めます。通算を認めることで、復帰後のキャリアパスを描きやすくし、応募のインセンティブを高める効果が期待できます。
- 条例・規則への明記: これらの制度内容を、職員の勤務条件に関する条例や就業規則等に明記することで、制度の透明性と安定性を確保し、全職員への周知徹底を図ります。
退職者管理とネットワーク構築(アルムナイ・ネットワーク)
カムバック採用は、退職者との関係が途切れていては成り立ちません。退職の瞬間から、将来の「アルムナイ」として関係を維持する仕組み作りが不可欠です。
- 退職時コミュニケーションの重要性: 将来の復帰の可能性は、円満な退職から始まります。退職者との最終面談などの機会に、カムバック採用制度の存在を伝え、アルムナイ・ネットワークへの登録を丁寧に案内することが第一歩です。
- 退職者データベースの構築: 退職者の連絡先、在職時の経歴、保有スキル、退職後のキャリアなどを本人の同意を得た上で管理するデータベースを構築します。このデータベースが、将来的なアプローチの基盤となります。個人情報の取り扱いには、関連法令を遵守し、最大限の注意を払う必要があります。
- 継続的な関係維持: 関係を維持するためには、定期的なコミュニケーションが欠かせません。
- 情報発信: 専用のウェブサイトやSNSグループ、メーリングリストなどを活用し、区政の最新情報、組織の動向、現役職員の活躍などを定期的に発信します。
- 交流イベント: アルムナイと現役職員が交流できるイベント(オンライン/オフライン)を企画し、緩やかな繋がりを保ちます。
募集・選考フェーズ:簡略化しつつも公正な選考プロセスの構築
アルムナイを対象とする募集・選考は、効率性と公正性の両立が鍵となります。
- 募集方法: 構築したアルムナイ・ネットワークを通じて、募集ポジションの情報を直接届けるダイレクト・アプローチが最も効果的です。同時に、公式ウェブサイトにカムバック採用専用のページを設け、通年で応募を受け付ける窓口を開設することも有効です。
- 選考プロセスの最適化: 候補者の能力や人柄をある程度把握しているため、新規採用で必須となる筆記試験や適性検査、一次面接などを省略し、選考プロセスを大幅に簡略化・迅速化することが可能です。これにより、候補者の負担を軽減し、スピーディーな人材確保を実現します。
- 面接での確認事項: 選考を簡略化する一方で、最終面接などでは、以下の点を重点的に確認し、ミスマッチを確実に防ぎます。
- 復帰の動機: 「なぜ、再びこの組織で働きたいのか」という本質的な動機を確認します。
- 退職後の経験: 退職後にどのような経験を積み、何を学び、それをどう組織に活かせるのかを具体的にヒアリングします。
- 組織の現状への理解: 組織が抱える課題や変化をどの程度理解しているかを確認し、復帰後の現実的な期待値をすり合わせます。
受入・定着支援フェーズ:円滑な復帰を支える仕組み
採用はゴールではなく、スタートです。復帰した職員が再び組織に溶け込み、最大限のパフォーマンスを発揮できるよう、手厚いサポート体制を整えることが重要です。
- オンボーディングプログラム: 退職期間中に変更された条例や内部規程、新たに導入された情報システムなどについて、体系的に学ぶ研修の機会を提供します。これにより、業務へのスムーズなキャッチアップを支援します。
- メンター制度の活用: 年齢の近い既存職員や、同じような経験を持つ職員をメンターとして任命し、業務上の疑問だけでなく、人間関係の再構築など、心理的な不安についても気軽に相談できる環境を整えます。
- ウェルカムな雰囲気の醸成: 人事課が中心となり、配属先の部署に対してカムバック採用の意義や復帰者の経歴を事前に共有し、組織全体で温かく迎え入れる雰囲気を作ることが、本人の早期の活躍と周囲の職員の理解促進に繋がります。
東京都・特別区における先進事例分析
カムバック採用制度を具体的に検討する上で、既に導入している自治体の事例を分析することは極めて有益です。ここでは、広域自治体である東京都庁と、基礎自治体である調布市の事例を比較し、特別区が制度を設計する上での示唆を探ります。
比較項目 | 東京都庁 | 調布市 |
制度名称 | 東京都職員アルムナイ採用選考 | 調布市職員アルムナイ(離職者対象)採用選考 |
目的 | 有為な人材を厳選して再採用し、知見を都政に還元 | 市政経営や市民サービス向上に資する有為な人材を確保 |
対象者の主な要件 | ・都職員として1年以上勤務 ・年齢制限あり(職層による) | ・市職員として3年以上勤務 ・退職後8年以内(H28.4.1以降の退職者) ・年齢制限あり |
対象となる退職理由 | 転職、育児、介護等(幅広く対象) | 転職、育児、介護等 |
選考方法 | 書類選考、面接 | 書類選考、面接 |
復帰後の給与 | 退職時の級・号給を基本に、退職後の経歴を考慮 | 退職時の級・号給を基本に、退職後の経歴を考慮 |
昇任の扱い | 原則として過去の在職期間を通算 | 原則として過去の在職期間を通算 |
この比較から、いくつかの重要な示唆が得られます。
第一に、両自治体ともに、復帰後の給与や昇任において過去の在職期間を考慮する仕組みを取り入れており、これが復帰へのインセンティブとして機能していることがわかります。
第二に、対象者の要件として、東京都庁が「1年以上」の勤務を求めるのに対し、調布市は「3年以上」としており、組織の規模や特性に応じて、求める組織への定着度や理解度に違いがあることが見て取れます。特別区で導入する際には、自区の職員構成やキャリアパスを考慮し、最適な年数を設定する必要があります。
第三に、両者とも選考は書類と面接を基本としており、筆記試験等を課さない簡略化されたプロセスを採用している点が共通しています。これは、即戦力採用としての制度の趣旨を反映したものです。これらの先進事例は、特別区が自らの実情に合った、実効性の高い制度を設計するための貴重な羅針盤となるでしょう。
リファラル採用の制度設計と実務
リファラル採用の意義と「縁故採用」との決定的違い
リファラル採用とは、在籍している職員自身の信頼できる人的ネットワークを通じて、自組織の理念や文化に合致する友人・知人を紹介してもらう採用手法です。職員の「生の声」を通じて組織の魅力を伝えてもらうことで、従来の採用広報では届かなかった層へアプローチできる可能性があります。
しかし、公務員組織でこの手法を導入するにあたり、最も慎重に、そして明確に区別しなければならないのが「縁故採用(コネ採用)」との違いです。この二つは似て非なるものであり、その違いを全職員が正しく理解することが、制度成功の大前提となります。
- 縁故採用(コネ採用):
- 特定の有力者(議員、幹部職員など)からの紹介に基づき、採用プロセスが不透明・不公平になる傾向があります。多くの場合、選考を経ずに採用が内々に決定されるなど、能力本位の原則から逸脱します。これは地方公務員法に抵触する違法な行為です。
- リファラル採用:
- 全職員が紹介者となり得ます。紹介はあくまで応募の「きっかけ」を提供するに過ぎません。紹介された候補者は、他の一般応募者と**全く同一の公式な選考プロセス(筆記試験、面接など)**を経て、その能力と実績に基づき、厳格かつ公平に評価されます。合否の判定に、紹介の有無は一切影響しません。
この「選考プロセスの完全な公平性」こそが、リファラル採用を適法かつ倫理的な制度として成立させるための生命線です。
地方公務員法における最大の論点:公平性の原則といかに両立させるか
地方公務員法は、全ての国民に対して公務就任の機会を平等に保障する「機会均等の原則」と、能力の実証に基づいて任用を行う「成績主義の原則」を、人事行政の根幹として定めています。特定の紹介者を経由した応募者だけを有利に取り扱うことは、これらの大原則に抵触する重大な問題となり得ます。
この法的制約を乗り越えるための唯一の解決策は、リファラル採用を「特別な選考ルート」としてではなく、**「多様な応募者を募るための一つの広報チャネル」**として厳格に位置づけることです。職員による知人への声かけは、新聞広告やウェブサイトでの広報活動と同列の「募集活動の一環」と捉えるのです。紹介された候補者も、必ず公式の募集案内を通じて応募し、他の全ての応募者と全く同じ土俵で競争することが絶対条件となります。
この法的・倫理的な一線を守るため、以下の点を制度設計の核とする必要があります。
地方公務員法の原則 | 根拠条文(例) | リファラル採用制度設計における「DO(すべきこと)」 | リファラル採用制度設計における「DON’T(してはいけないこと)」 |
成績主義の原則 | 第15条 | ・紹介された候補者も、他の全応募者と同一の筆記試験・面接等を受験させる。 ・合否判定は、紹介の有無と無関係に、試験成績のみで行う。 | ・紹介されたという理由だけで、試験の一部を免除したり、評価に下駄を履かせたりすること。 ・面接官に、誰が紹介された候補者であるかを事前に伝えること。 |
機会均等の原則 | 憲法第14条、地公法第13条 | ・リファラル採用制度の存在を全職員に周知し、誰でも紹介できるようにする。 ・あくまで公募が主であり、リファラルは応募者増の一環であることを明確にする。 | ・特定の部署や役職の職員にしか紹介を依頼しないこと。 ・リファラル経由でしか応募できない非公開求人を設定すること。 |
公開平等の原則 | 第18条の2 | ・全ての募集情報は、公式ウェブサイト等で誰もが閲覧できるように公開する。 ・紹介者には、候補者に公式の募集案内を見るよう促してもらう。 | ・紹介者経由でしか得られない特別な選考情報を提供すること。 |
公正性を担保したリファラル採用の業務フロー
制度設計フェーズ:目的の明確化と禁止事項の設定
- 目的の共有: 制度導入の目的を「採用試験の応募者を増やし、多様なバックグラウンドを持つ人材プールを形成すること」と明確に定義し、全庁的に共有します。決して「採用の近道」ではないことを強調します。
- 禁止事項の明文化: 職員が誤解や過度な期待を抱かないよう、明確なルールとして禁止事項を定めます。
- 禁止事項の例:
- 候補者に対して、採用や合格を約束、あるいは示唆するような言動。
- 紹介を理由とした金銭や物品の授受。
- 筆記試験や面接の内容など、選考に関する非公開情報の漏洩。
- 禁止事項の例:
周知・協力依頼フェーズ:全職員への理解促進
- 全職員向け説明会の実施: 制度の目的、具体的なフロー、そして最も重要な「縁故採用との違い」と「公平性の担保」について、全職員を対象とした説明会等で丁寧に解説し、正しい理解と協力を求めます。
- 求める人物像の具体化: 「誰でもいいから紹介してください」という漠然とした依頼では、紹介の質が低下します。「現在募集中の〇〇職では、特に〇〇の経験を持つ方が即戦力として活躍できます」「私たちの職場では、チームワークを大切にし、主体的に課題解決に取り組める方を求めています」など、求める人物像を具体的に伝えることで、職員は自身の知人の中からよりマッチする人材を想起しやすくなります。
紹介・応募受付フェーズ:公式な選考プロセスへの誘導
- 紹介方法の整備: 職員が心理的な負担なく、かつスムーズに紹介できるよう、イントラネット上に専用のオンラインフォームなどを準備します。フォームには、紹介者名、被紹介者名、連絡先、簡単な紹介理由などを入力してもらいます。
- 人事課から候補者への連絡: 紹介フォームを通じて情報が寄せられたら、人事課の担当者から候補者本人に正式に連絡を取ります。その際の伝え方が極めて重要です。「〇〇様、特別区人事課の〇〇と申します。当区職員の〇〇さんから、〇〇様が私どもの業務にご関心をお持ちかもしれないと伺い、ご連絡いたしました。現在、〇〇職の募集を行っておりますので、もしご興味がございましたら、ぜひ公式の採用ホームページより詳細をご確認の上、ご応募いただけますと幸いです」というように、あくまで公式ルートでの応募を丁重に案内する形を取ります。
選考とフィードバック:不採用時の丁寧な対応
- 厳格な選考: 応募があった後は、他の一般応募者と全く同じ基準、同じプロセスで厳正に選考を実施します。選考過程において、その候補者がリファラル経由であるという情報は、合否判定に影響を与えないよう、取り扱いに注意が必要です。
- 不採用時のケア: 紹介した知人が不採用となった場合、紹介者と候補者の人間関係に悪影響が及ぶことを防ぐ配慮が不可欠です。
- 紹介者へのフォロー: 紹介者には、人事課から「〇〇様をご紹介いただき、誠にありがとうございました。慎重に選考を進めさせていただきましたが、残念ながら今回はご縁がなかったという結果になりました。〇〇様にご紹介いただいたこと、心より感謝申し上げます。なお、今回の選考結果が、あなたの今後の人事評価等に影響することは一切ございませんので、ご安心ください」と伝え、感謝の意と、紹介者に不利益がないことを明確に伝え、心理的負担を最大限軽減します。
- 候補者への対応: 候補者へは、他の不採用者と同様に、定型的ながらも丁寧な通知を行います。
実は、このリファラル採用という仕組みは、単なる採用チャネルの追加以上の意味を持ちます。それは、組織の健全性を測る「リトマス試験紙」としての機能です。職員が、自分の大切な友人や知人に「うちの職場は良いところだから、一緒に働かないか」と自信を持って勧められるかどうか。それは、その職員自身の仕事への満足度、組織へのエンゲージメント、そして職場の人間関係や文化に対する肯定的な評価の表れに他なりません。もし、制度を導入しても紹介が全く集まらないのであれば、それは制度自体の問題ではなく、職員が自信を持って職場を勧められない何らかの根本的な課題(過重な業務負担、風通しの悪い組織風土など)が組織内に存在することを示唆する重要なサインです。このように、リファラル採用の活動状況をモニタリングすることは、採用成果だけでなく、職員のエンゲージメントをリアルタイムで把握し、より良い職場環境を構築していくための貴重なデータを提供する、戦略的な人事施策となり得るのです。
職員の協力を促すインセンティブ設計(非金銭的報酬を中心に)
職員に積極的に協力してもらうためには、何らかのインセンティブ(動機付け)が有効です。しかし、公務員組織においては、その設計に特別な配慮が求められます。
- 公務員における金銭報酬の課題: 民間企業では、紹介を通じて採用が決定した場合に紹介者に金銭的な報酬(インセンティブ)を支払うことが一般的です。しかし、公務員組織でこれを導入するには高いハードルがあります。職業安定法における「報酬を与える目的の職業紹介」に抵触するリスクがゼロではないことや、金銭を目当てに紹介を行うことが公務員の品位を損なうと見なされる可能性があるため、導入は極めて慎重に行うべきか、原則として避けるべきです。
- 非金銭的インセンティブの活用: そこで中心となるのが、金銭以外の方法で職員の貢献意欲や組織への誇りを高める「非金銭的インセンティブ」です。
- 表彰制度: 全庁集会や区報など、公式の場で、人材獲得に貢献した職員や部署をたたえ、その功績を表彰します。
- 人事評価への反映: 人事評価制度における「組織貢献」や「協調性」といった項目で、リファラル採用への協力姿勢をポジティブな要素として評価に含めることを検討します。
- 研修機会の提供: 採用貢献度が高い職員に対して、本人が希望する外部の有料研修やセミナーへの参加機会を提供するなど、自己成長に繋がる報酬を用意します。
- 区長・上司からの感謝: 紹介を通じて採用に至った場合、所属長はもちろんのこと、場合によっては区長から直接、感謝状を手渡すなど、特別な形で謝意を伝える場を設けます。これは職員にとって大きな名誉となり、モチベーション向上に繋がります。
業務改革とDX・生成AIの活用
採用DX:ICT活用による業務効率化と候補者体験の向上
カムバック採用やリファラル採用を効果的に運用するためには、デジタル技術(DX)の活用が不可欠です。ICTを導入することで、業務の効率化だけでなく、候補者やアルムナイとの関係性強化にも繋がります。
- アルムナイ・ネットワーク管理ツールの活用: 退職者の情報をExcelなどで手作業で管理するのは限界があります。退職者データベースの構築、近況報告やイベント案内のメール一斉配信、オンライン交流サイトの運営などを一元的に行える専門のクラウドサービス(アルムナイ管理ツール)の導入を検討します。これにより、担当者の負担を軽減し、継続的かつ効果的な関係維持が可能になります。
- オンライン選考の導入: 特にカムバック採用の対象者は、既に他の地域で生活していたり、現職が多忙であったりするケースが少なくありません。オンラインでのカジュアルな面談や、一次面接を導入することで、地理的・時間的な制約を取り払い、応募へのハードルを下げることができます。
- 採用管理システム(ATS)の活用: 通常公募、カムバック採用、リファラル採用など、複数のチャネルからの応募者情報を一元的に管理し、選考の進捗状況を可視化する採用管理システム(ATS: Applicant Tracking System)は、採用業務全体の効率を飛躍的に向上させます。担当者間の情報共有を円滑にし、対応漏れや遅延を防ぎます。
生成AIの活用可能性と具体的なプロンプト例
近年急速に発展している生成AIは、人事・採用業務においても強力な支援ツールとなり得ます。AIは人事担当者の判断を「代替」するのではなく、定型的な作業やアイデア出しを「支援」し、担当者がより創造的・戦略的な業務に集中するための時間を生み出すものと位置づけることが重要です。
- 具体的な活用シーン:
- 求人票・募集要項の素案作成: 求める人物像や職務内容をインプットすることで、候補者の心に響く、魅力的で分かりやすい募集文章のたたき台を瞬時に作成できます。
- プロンプト例: あなたは東京都特別区の人事課職員です。以下の要件を満たす「子育て支援課の児童福祉専門員(主任職)」の募集要項について、特に仕事のやりがいと社会貢献性が伝わるような魅力的な職務内容説明を400字で作成してください。#要件: [具体的なスキル、経験、求める人物像を記述]
- アルムナイ向けメールマガジンの作成: 区の最新トピックスやイベント情報を箇条書きで与えるだけで、退職者が再び区政に関心を持つような、親しみやすいトーンのメールマガジン原稿を作成できます。
- プロンプト例: 特別区の元職員(アルムナイ)向けの季刊メールマガジンの巻頭言を作成します。以下の最新トピックスを含め、アルムナイの皆様のこれまでの貢献に感謝しつつ、再び区政に関心を持っていただけるような、温かく前向きな文章を300字程度で作成してください。#トピックス: [箇条書きで最新情報を記述]
- 面接質問項目の生成: 募集する職種や役職、そして見極めたい能力(コンピテンシー)を指定することで、多角的で質の高い面接質問のリストを生成させることができます。これにより、面接官ごとの質問のばらつきを抑え、評価の標準化に貢献します。
- プロンプト例: 地方自治体の「カムバック採用」における面接官の役割を想定し、候補者の「退職後の成長(ポータブルスキル)」と「組織への再適応力(アンラーニングの姿勢)」を見極めるための質問を、それぞれ3つずつ作成してください。
- AIチャットボットによる問い合わせ対応: 採用ウェブサイトにAIチャットボットを設置し、「勤務時間や休暇制度について教えてください」「福利厚生にはどのようなものがありますか?」といった定型的な質問に24時間365日、自動で応答させます。これにより、候補者はいつでも気軽に情報を得られるようになり、人事担当者は個別対応の負担を大幅に軽減できます。
- 求人票・募集要項の素案作成: 求める人物像や職務内容をインプットすることで、候補者の心に響く、魅力的で分かりやすい募集文章のたたき台を瞬時に作成できます。
実践的スキル:採用成功率を高めるPDCAサイクル
組織レベルでのPDCA実践法
新たな採用手法を導入する際は、「導入して終わり」ではなく、その効果を継続的に測定し、改善していくプロセスが不可欠です。そのためのフレームワークがPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)です。
Plan: 採用目標(KGI/KPI)の設定
- KGI(重要目標達成指標): 最終的に達成したいゴールを、具体的かつ測定可能な数値で設定します。
- 例: 「令和〇年度において、カムバック採用制度により3名の即戦力人材を採用する」「リファラル採用経由の応募者の中から5名の採用を決定する」。
- KPI(重要業績評価指標): KGI達成までの中間プロセスを測る指標を設定します。これにより、進捗状況を定期的に確認できます。
- 例: 「アルムナイ・ネットワークの新規登録者数を年間50名増やす」「全職員へのリファラル採用説明会の参加率を80%以上にする」「リファラル紹介件数を四半期で20件獲得する」「紹介経由応募者の一次試験合格率を、全体の平均より5ポイント高くする」。
Do: 施策の実行と記録
- 施策の実行: 設定した計画に基づき、アルムナイ向けオンライン交流会の開催、イントラネットでのリファラル採用成功事例の共有、各部署への協力依頼など、具体的なアクションを実行します。
- 活動の記録: PDCAサイクルを回す上で最も重要なのが「記録」です。
- どの施策にどれくらいのコストと工数をかけたか。
- 応募者がどの経路(カムバック、リファラル、通常公募など)で応募してきたか。
- 各選考段階での通過率や辞退率を、応募経路別にデータとして正確に記録します。
Check: データに基づく効果測定と要因分析
- 効果測定: 四半期ごとや年度末など、定期的にKPIの達成度をデータに基づいて客観的に評価します。
- 要因分析: 「なぜ目標を達成できたのか(成功要因)」「なぜ目標に届かなかったのか(課題要因)」を、感情論ではなくデータに基づいて分析します。
- 例: 「リファラル紹介件数は目標を達成したが、そこから実際の応募に至った割合が低かった。記録を分析すると、紹介があってから人事課が候補者に連絡するまでに平均10日かかっていたことが判明。このタイムラグが、候補者の応募意欲を削いでしまったのではないか?」
Action: 次年度計画への反映と改善策の標準化
- 改善策の立案・実行: 分析結果に基づき、具体的な改善策を立案し、次期の計画に反映させます。
- 例: 「紹介があった候補者へは、原則として2営業日以内に人事課から一次連絡を行う」という新たな業務ルール(SLA: Service Level Agreement)を設定し、実行する。
- 成功モデルの標準化: うまくいった施策は、そのノウハウをマニュアル化したり、研修で共有したりすることで、担当者が代わっても継続できる組織の「型」として定着させます。
個人レベルでのPDCA実践法
組織全体のPDCAだけでなく、人事課職員一人ひとりが日々の業務の中でPDCAを意識することで、個人の成長と組織全体のパフォーマンス向上に繋がります。
Plan: 担当業務における目標設定
- 目標の具体化: 組織のKPIを自分自身の業務に落とし込み、具体的な行動目標を設定します。
- 例: 「私が担当するアルムナイ向けオンライン交流会の参加後アンケートで、満足度を90%以上獲得する」「担当する〇〇部と△△部から、リファラル紹介を今月中に合計2件創出する」。
Do: 日々の業務遂行と工夫
- 能動的なアクション: 設定した目標を達成するために、指示された業務をこなすだけでなく、主体的に工夫を凝らします。
- 例: 「交流会の案内メールの件名を3パターン試し、最も開封率が高いものを採用する」「〇〇部の朝礼で5分だけ時間をもらい、リファラル制度の意義と協力方法を直接説明する」。
Check: 自己評価と上司からのフィードバック
- 振り返り: 週の終わりや月の終わりに、自身の行動と結果を振り返ります。「目標に対して、何ができて、何ができなかったか」「次はどうすればもっとうまくできるか」を自問します。
- フィードバックの活用: 定期的な上司との1on1ミーティングなどで、自身の振り返りを共有し、客観的なフィードバックを積極的に求めます。自分では気づかなかった視点や改善点を得る貴重な機会です。
Action: スキルアップと業務改善
- 行動の修正: 振り返りとフィードバックを基に、次からの行動を具体的に改善します。
- 例: 「案内メールの文章作成スキルを向上させるため、関連書籍を読んでインプットする」「他部署で紹介件数が多い担当者にヒアリングし、そのノウハウを自分の担当部署でのアプローチに応用する」。
まとめ:未来の特別区を担う人材を惹きつけるために
本研修の要点整理
本研修では、厳しさを増す地方自治体の人材獲得競争に対応するための新たな戦略として、「カムバック採用」と「リファラル採用」について、その理論から実践までを網羅的に解説しました。
カムバック採用は、単なる欠員補充に留まらず、退職者を「卒業生(アルムナイ)」という貴重な人材資産と捉え、継続的なネットワークを構築することで、「即戦力の確保」と「組織への新たな知見の導入」という二重の価値をもたらす戦略です。
一方、リファラル採用は、公務員組織の根幹である「公平性の原則」をいかに担保するかが最大の鍵となります。紹介をあくまで「応募のきっかけ」と厳格に位置づけ、全ての候補者を同一の公正なプロセスで選考するという大前提を守ることで、「人材プールの多様化」と「職員のエンゲージメント向上」に貢献する有効な施策となり得ます。
これらの新たな採用手法を成功に導くためには、地方公務員法を遵守した緻密な制度設計、退職者や職員との信頼関係構築、そしてDXや生成AIといったテクノロジーの戦略的な活用が不可欠です。さらに、一度導入して終わりではなく、PDCAサイクルを通じて常にその効果を測定し、改善を続けていく組織的な取り組みが求められます。
受講者である職員へのエール
人事課の仕事は、単なる手続きや管理業務ではありません。それは、組織の未来を形作る、最も戦略的で創造的な仕事の一つです。どのような人材を、どのようにして組織に迎え入れるか。その選択の一つひとつが、数年後、数十年後の特別区の姿を決定づけていきます。
本日学んだ新たな採用手法は、皆さんが「未来の特別区を担う、多様で有為な人材」を、これまで以上に積極的に、そして効果的に惹きつけ、迎え入れるための強力な武器となるはずです。
前例のない挑戦には、困難や戸惑いが伴うかもしれません。しかし、本研修で得た知識とスキル、そして何よりも「自分たちの手で組織の未来を創るのだ」という気概を胸に、どうか勇気を持って新たな一歩を踏み出してください。皆さんの挑戦の一つひとつが、必ずや、より活力に満ちた特別区の未来へと繋がっていくことを、私は確信しています。