【人事課】職員研修 完全マニュアル

masashi0025
目次
  1. はじめに
  2. 地方自治体における人事課の使命と役割
  3. 人事業務の根幹をなす法的基盤
  4. 人事業務の標準業務フローと実践
  5. 先進事例に学ぶ戦略的人事
  6. 業務改革とDX:未来志向の人事課へ
  7. 実践的スキル:成果を出すための組織・個人のアクション
  8. まとめ:これからの地方自治体を支える人事課職員へのエール

はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。

地方自治体における人事課の使命と役割

人事課の業務が組織と住民サービスに与える影響

 地方自治体における人事課は、単なる事務処理部門ではありません。組織全体の能力を形成し、その活動の質を決定づける戦略的な中核部署です。人事課が担う業務は、職員の採用から退職に至るまでのキャリアの全段階に関わり、その一つひとつの判断が、組織の活力、ひいては住民サービスの質に直接的な影響を及ぼします。

 人事課の最も重要な機能の一つが、職員の任免、すなわち採用、昇任、そして人事異動です。これは、組織というパズルにおいて、個々のピース(職員)を最も効果的な位置に配置する作業に他なりません。しかし、それは単に空席を埋めるだけの機械的な作業ではありません。職員一人ひとりの能力、経験、キャリア志向を深く理解し、各部署が直面する課題や将来の事業展開を見据えた上で、組織全体のパフォーマンスが最大化される組み合わせを導き出す、高度な戦略性が求められます。適切な人材配置は、特定の部署を活性化させ、一人の職員に新たな才能を開花させるきっかけを与えます。その結果として生まれる組織能力の向上は、最終的に質の高い住民サービスという形で住民に還元されるのです。

 また、職員の給与及び福利厚生に関する業務も、組織の根幹を支える重要な役割を担います。給与の正確な支給は、職員の生活基盤を保障し、組織への信頼を維持するための最低限の責務です。福利厚生制度は、職員が心身ともに健康で、安心して働き続けられる環境を整備するための不可欠な投資と言えます。健康診断の実施や共済組合の運営などを通じて職員の生活を包括的に支えることは、組織へのエンゲージメントを高め、優秀な人材の定着(リテンション)に繋がります。

 さらに、人事課は個々の職員の成長を促すだけでなく、「組織がうまく回っているか」を統合的に俯瞰し、必要に応じて介入する組織開発の役割も担います。職員の安全衛生管理や労働組合との健全な関係構築も、組織の持続可能性を守るための重要なリスクマネジメント活動です。このように、人事課の業務は、組織の人的資本を最適化し、その能力を最大限に引き出すことを通じて、自治体全体の使命達成に貢献する、極めて重要な使命を帯びているのです。

人事行政の歴史的変遷:変革の要請とこれからの人事課

 現代の地方公務員人事制度を深く理解するためには、その歴史的背景を知ることが不可欠です。現在の制度は、戦前の官吏制度からの大きな断絶と、戦後の民主化改革の産物であり、その成り立ちが今日の課題にも影響を与えています。

 戦前の公務員制度は、天皇に仕える「官吏」という身分制度を基本としていました。高等文官試験(高文)に合格したエリート層がキャリアの中核を担い、中央集権的な統治体制を支える仕組みでした。地方においては、国から派遣された官吏と、地域の有力者である名望家が行政を担う二重構造が存在し、国による強い監督が特徴でした。この時代の人事制度は、国への忠誠と、広範な行政知識を持つゼネラリスト(総合職)の育成に重点が置かれていました。

 終戦後、GHQの指導のもとで日本の統治構造は根本から見直されました。日本国憲法の制定により、「公務員は、全体の奉仕者」(第15条)と位置づけられ、主権者である国民のために働く存在へとその役割が大きく転換しました。この理念を実現するため、アメリカ式の科学的人事管理制度が導入され、地方公務員法が制定されました。これにより、身分や家柄ではなく、能力と実績に基づく公正な任用制度(メリット・システム)の基礎が築かれたのです。

 しかし、この歴史的変遷は、現代における新たな課題を生み出す一因ともなっています。戦後の制度改革は、戦前のゼネラリスト育成の思想を完全に払拭したわけではなく、多くの自治体で定期的な人事異動を伴うキャリアパスが一般的であり続けています。この伝統的な人事モデルは、職員に幅広い視野と多様な経験を積ませる利点がある一方で、現代社会が求める高度な専門性を持つ人材の育成・確保という点では大きな課題を抱えています。特に、デジタルトランスフォーメーション(DX)やサイバーセキュリティといった分野では、継続的な知識の蓄積と経験が不可欠です。しかし、数年単位で部署を異動するゼネラリスト中心の人事制度は、こうした専門人材が育ちにくい、あるいは外部から獲得しても定着しにくい構造的な問題を内包しています。

 つまり、現代の人事課が直面する「DX人材をどう確保・育成するか」という課題は、単なる採用市場の問題ではなく、戦前の官吏制度から続くゼネラリスト育成文化と、21世紀の行政が求める専門性との間の構造的な摩擦の現れなのです。これからの人事課には、この歴史的背景を理解した上で、伝統的な制度の長所を活かしつつも、専門性を適切に評価し、育成・活用できる新たな人事戦略を構築していくことが強く求められています。

人事業務の根幹をなす法的基盤

地方公務員法の全体像と人事課職員が押さえるべき核心

 地方公務員法は、人事課職員にとって最も重要な法的根拠であり、業務を遂行する上での「バイブル」と言えるものです。この法律は、地方公務員の身分、任用、給与、服務、懲戒といった人事行政の根本原則を定めており、その全ての条文が日々の業務に密接に関連しています。

 地方公務員法の核心をなす理念は、大きく二つあります。第一に、「全体の奉仕者」という基本姿勢です(第30条)。これは、公務員が特定の一部ではなく、住民全体の利益のために公平無私に勤務すべきことを定めた根本基準であり、服務規律に関する全ての条文の根底に流れる思想です。人事課職員は、自らがこの理念を体現するとともに、全職員がこの精神を理解し実践できるよう、研修や日常の指導を通じて働きかけていく責務があります。

 第二に、「公正性の確保」です。地方公務員法は、任用における機会均等や能力主義(メリット・システム)、そして分限・懲戒処分における手続きの適正さを強く求めています。特に第27条では、「すべて職員の分限及び懲戒については、公正でなければならない」と明記されており、恣意的な人事が行われることを厳しく戒めています。人事課は、この公正性を担保する組織内の番人としての役割を担います。採用試験の厳格な実施、客観的な基準に基づく人事評価の運用、懲戒処分における適正な手続きの遵守など、あらゆる場面で法令に基づいた公平・公正な判断が求められます。

 人事課職員は、単に条文の知識を持つだけでなく、これらの核心的な理念がなぜ重要なのかを深く理解し、それを具体的な業務の中でいかに実現していくかを常に意識しなければなりません。法令遵守は最低限の義務であり、その先にある「住民の信頼に応える、公正で効率的な行政組織を人的側面から構築する」という高い目的意識を持つことが、人事課職員に求められる真の専門性と言えるでしょう。

主要条文の詳解:採用から退職までの法的留意点

 地方公務員法の主要な条文を理解し、実務に落とし込むことは、人事課職員の必須スキルです。ここでは、採用から服務、懲戒に至るまでの特に重要な条文について、その概要と実務上の留意点を解説します。

条文概要人事課の実務上の意義・留意点
第17条~第18条 (任用の原則と方法)職員の採用は、競争試験又は選考によるものと定められています。これは能力主義(メリット・システム)の根幹をなす規定です。採用試験の公正性確保: 試験問題の漏洩防止、採点の客観性担保、面接官への研修など、採用プロセスの全ての段階で公正性を徹底する責任があります。 – 選考採用の適切な運用: 専門職など、試験になじまない職種で選考を行う場合は、その選考基準の明確化と記録の保存が重要です。なぜその候補者が選ばれたのかを客観的に説明できる必要があります。
第24条 (給与に関する諸原則)職員の給与は、「職務給の原則」「均衡の原則」「給与条例主義」の三原則に基づき定められます。給与は条例で定められ、それに基づかない支給は一切認められません。職務給の原則: 職務の複雑さや責任の度合いに応じた給与体系(給料表)を適切に運用する必要があります。昇格や異動に伴う給与決定を正確に行わなければなりません。 – 均衡の原則: 国や他の自治体、民間企業の給与水準を常に調査・分析し、人事委員会勧告などを通じて給与水準の適正性を保つ必要があります。 – 給与条例主義: 全ての給与・手当の支給根拠が条例にあることを確認し、誤支給や根拠のない支給がないよう厳格に管理します。
第29条 (懲戒)職員が法令違反、職務上の義務違反、または全体の奉仕者たるにふさわしくない非行を行った場合に、懲戒処分(戒告、減給、停職、免職)を行うことができると定めています。事実認定の慎重さ: 懲戒処分を行う際は、十分な調査に基づき、客観的な証拠によって事実を認定することが絶対条件です。 – 適正手続きの保障: 処分対象の職員に対し、弁明の機会を与え、処分の理由を記載した説明書を交付する(第49条)など、法律で定められた手続きを厳守する必要があります。 – 処分の公平性: 同様の事案に対して、過去の処分例との均衡を考慮し、不公平な処分とならないよう注意が必要です。
第30条~第38条 (服務)公務員として遵守すべき義務の数々を定めています。服務の根本基準(第30条)から、法令等及び上司の命令に従う義務(第32条)、信用失墜行為の禁止(第33条)、秘密を守る義務(第34条)、職務に専念する義務(第35条)、政治的行為の制限(第36条)、争議行為等の禁止(第37条)、営利企業等の従事制限(第38条)まで、多岐にわたります。服務規律の周知徹底: これらの服務義務の内容を、研修などを通じて全職員に繰り返し周知し、理解を促すことが重要です。 – 信用失墜行為(第33条)への対応: 飲酒運転や各種ハラスメントなど、職務外の私的な行為であっても、公務の信用を傷つけるものであれば懲戒処分の対象となることを明確に指導します。 – 守秘義務(第34条)の徹底: 個人情報や非公開情報の取り扱いについて厳格なルールを定め、違反した場合は懲戒処分の対象となることを周知します。退職後も義務が継続する点を強調することが重要です。 – 職務専念義務(第35条)の管理: 勤務時間中の私用メールやウェブサイト閲覧などがこの義務に違反する可能性があることを指導します。テレワーク導入時には、この義務の解釈と管理方法が新たな課題となります。 – 兼業許可(第38条)の厳格な運用: 職員からの兼業申請に対しては、①職務専念義務を妨げないか、②職務の公正性を損なわないか、③公務の信用を傷つけないか、という3つの基準で厳格に審査し、許可・不許可を判断します。

 これらの条文は、人事課の業務における羅針盤です。判断に迷った際には必ず条文に立ち返り、その趣旨を理解した上で、公正かつ適正な業務執行を心がけてください。

労働基準法等、関連法規との関係整理

 地方公務員の人事労務管理は、地方公務員法を主軸としながらも、労働基準法をはじめとする労働関係法規と複雑に関係しています。この関係性を正確に理解することは、適正な労務管理を行う上で不可欠です。

 まず大原則として、地方公務員(一般職)にも労働基準法は原則として適用されます。労働時間、休憩、休日、年次有給休暇といった基本的な労働条件に関する規定は、公務員にも保障されなければなりません。しかし、地方公務員法に特別な定めがある事項については、労働基準法の一部の規定が適用除外となっています。

 適用が除外される主な規定には、以下のようなものがあります。

  • 解雇に関する規定: 労働基準法の解雇予告や解雇権濫用法理は適用されません。これは、公務員の身分保障が地方公務員法の分限・懲戒制度によって規律されているためです。
  • 就業規則に関する規定: 勤務条件は条例で定める「条例主義」が原則であるため、労働基準法の就業規則作成・届出義務は適用されません。
  • 柔軟な労働時間制度の一部: フレックスタイム制や1年単位の変形労働時間制など、民間企業で活用されている一部の労働時間制度は、原則として適用されません。これは、公務の安定的な遂行を優先する観点からの制約です。

 一方で、時間外労働に関する労働基準法第36条、いわゆる「36協定」は地方公務員にも適用されます。しかし、その運用には公務特有の側面があります。公務のために臨時の必要がある場合には、民間企業に課せられる時間外労働の上限規制が直接適用されない特例が存在します。このため、災害対応や大規模イベント時などには、民間企業の上限を超える時間外勤務命令が可能となりますが、これはあくまで例外的な措置であり、職員の健康確保への配慮が強く求められます。

 また、最低賃金法は適用されません。これは、公務員の給与が地方公務員法の「均衡の原則」に基づき、国や民間等の水準を考慮して条例で定められるため、最低賃金法による下支えを必要としないという考え方に基づいています。

 このように、地方公務員の労務管理は、地方公務員法という独自の法体系と、労働基準法という一般的な労働者保護法規が重なり合う、特殊な構造をしています。人事課の職員は、ある事象がどちらの法律によって規律されるのかを正確に見極める必要があります。例えば、職員の解雇は地方公務員法上の「免職」として手続きを進めますが、時間外労働の管理は労働基準法の考え方を基礎に行います。この二重の法的構造を理解し、両方の法律を適切に使い分けることが、コンプライアンスを遵守し、職員との無用なトラブルを避けるための鍵となります。

人事業務の標準業務フローと実践

採用:未来の組織を担う人材の確保

 採用業務は、自治体の未来を形作る人材を組織に迎え入れる、極めて重要なプロセスです。その標準的な業務フローは、地方公務員法に定められた競争試験の原則に基づき、公正性と機会均等を確保する形で進められます。

 標準的な業務フロー

  1. ニーズ分析と採用計画の策定: 各部署の欠員状況や将来の行政需要(例:DX推進、福祉分野の拡充など)を分析し、次年度の採用職種、人数、求める人物像を明確にした採用計画を立案します。
  2. 試験の公示: 受験資格、試験日程、試験内容などを定めた募集要項を作成し、自治体のウェブサイトや広報誌、各種就職情報サイトなどを通じて広く公示します。
  3. 申込受付と受験資格の確認: 申込者から提出された書類を基に、受験資格を満たしているかを確認します。
  4. 第一次試験の実施: 主に教養試験や専門試験といった筆記試験を実施し、公務員として必要な基礎学力や専門知識を測定します。
  5. 第二次試験以降の実施: 第一次試験の合格者を対象に、個別面接や集団討論、論文試験などを実施します。人物評価に重点が置かれ、コミュニケーション能力、協調性、課題解決能力、そして公務員としての倫理観や使命感などを多角的に評価します。
  6. 最終合格者の決定と採用候補者名簿への登載: 全ての試験結果を総合的に判定し、最終合格者を決定します。合格者は採用候補者名簿に登載され、この名簿の中から採用者が決定されます。
  7. 採用内定と採用手続き: 名簿登載者に対して採用内定を通知し、健康診断書の提出や必要書類の案内など、採用に向けた手続きを進めます。

 実務上の留意点と現代的課題への対応

 今日の採用業務は、単にフローをこなすだけでは成功しません。全国的な労働人口の減少や民間企業との人材獲得競争の激化により、多くの自治体が応募者数の減少という課題に直面しています。特に、デジタル分野などの専門人材の確保は喫緊の課題です。

 こうした状況に対応するため、従来の手法にとらわれない戦略的なアプローチが求められます。

  • ターゲットの明確化と魅力発信: 「どのような人材が欲しいのか」というターゲット像を明確にし、そのターゲットに響くような自治体の魅力(例:地域貢献の実感、ワークライフバランスの実現可能性、特定の分野で挑戦できる環境など)を積極的に発信することが重要です。待つ姿勢から、積極的にアピールする「攻めの採用」への転換が必要です。
  • オンラインの活用: 説明会や一次面接をオンラインで実施することで、遠方の居住者や現職中で多忙な社会人でも参加しやすくなります。これにより、母集団の拡大が期待できます。
  • 多様な採用手法の検討: 従来の画一的な採用試験だけでなく、民間企業等での職務経験者を対象とした経験者採用枠の拡充や、特定の専門スキルを持つ人材を任期付職員や会計年度任用職員として柔軟に採用することも有効な手段です。これにより、組織の専門性を迅速に高めることが可能になります。

 採用は、組織の入り口を管理する重要な機能です。社会の変化に対応し、多様な人材を惹きつけるための戦略的な工夫を凝らすことが、未来の組織力を左右します。

配置・異動:組織能力を最大化する「適材適所」の実現

 人事異動は、組織の硬直化を防ぎ、職員の能力開発を促進し、組織全体のパフォーマンスを最大化するための重要なマネジメントツールです。そのプロセスは、自治体の規模や慣行により異なりますが、一般的には戦略的かつ計画的に進められます。

 標準的な業務フロー

 人事異動の検討は、例年、新規採用者の内定が出る10月頃から本格的に始動します。

  1. 組織の現状把握とニーズ分析: まず、各部署の責任者へのヒアリングや職員からの自己申告などを通じて、人員の過不足、必要なスキル、業務上の課題といった組織全体の現状とニーズを把握します。
  2. 異動計画の立案: 経営層(首長、副首長など)と人事課が連携し、組織の経営戦略や重点施策と連動した大枠の異動方針を策定します。職員のスキル、経験、適性、キャリア志向などの人事データを分析し、異動の原案を作成します。決定は、部長級、課長級、係長級といった上位職から順に行われるのが一般的で、上位者の配置が決まった後、その下で能力を最大限発揮できる職員を配置していくというトップダウンのアプローチが取られます。
  3. 関係部署との調整: 作成された異動案を基に、異動元と異動先の部署の責任者と調整を行います。異動元からは主要な人材の流出に対する懸念が、異動先からは求める人材要件とのギャップなどが示されることがあり、粘り強い調整が求められます。
  4. 内示: 異動が正式に決定する前に、対象となる職員本人に対して非公式に異動の意思を伝えます。これを「内示」と呼びます。内示は、職員が心の準備や業務の引継ぎ、場合によっては転居の準備をするための重要なステップです。異動の目的や期待する役割を丁寧に伝えることが、職員のモチベーションを維持する上で不可欠です。
  5. 辞令交付: 年度末など、定められた発令日に「辞令」を交付し、人事異動を正式に通知します。
  6. 引継ぎとフォローアップ: 異動前後の職員がスムーズに業務を引き継げるよう、人事課は引継ぎ期間の確保やマニュアルの整備を支援します。異動後も、新しい職場への適応状況を把握するため、定期的な面談などのフォローアップを行います。

 実務上の留意点と課題

 人事異動は、職員にとって大きな環境変化であり、心理的な負担を伴うことがあります。また、多くの職場で課題となっているのが「業務の属人化」です。特定の職員しか知らない業務が多く存在すると、異動に伴う引継ぎが不十分となり、業務の停滞やミスの原因となります。

 これらの課題に対応するため、人事課には以下の取り組みが求められます。

  • データに基づいた配置: 個々の職員の人事評価結果や研修履歴、自己申告されたキャリア志向といった客観的なデータを最大限活用し、勘や経験だけに頼らない、納得性の高い人材配置を目指します。
  • 引継ぎの標準化: 業務マニュアルの作成を全部署で徹底させ、異動時の引継ぎ事項をチェックリスト化するなど、引継ぎプロセスを標準化・可視化することが重要です。ワークフロー管理ツールなどのデジタルツールを活用することも有効です。
  • コミュニケーションの徹底: 内示の際には、一方的な通告ではなく、異動の背景や本人への期待を具体的に伝える対話の場を設けることが、職員の不安を和らげ、前向きな動機付けに繋がります。

 適材適所の人事配置は、組織の生産性を飛躍的に向上させる可能性を秘めています。戦略的な視点と、職員一人ひとりへの丁寧な配慮を両立させることが、成功の鍵となります。

給与・福利厚生:職員の生活基盤を支える正確性と公平性

 給与・福利厚生業務は、職員の生活を直接支え、組織への信頼を醸成する上で極めて重要な役割を担います。その業務は、地方公務員法や関連条例に厳格に定められたルールに基づき、一円単位のミスも許されない正確性と、全職員に対する公平性が求められます。

 主な業務内容

  1. 給与計算・支給: 毎月の給料月額の計算が中核となります。これには、職務の級と号俸によって定められる基本給(給料)に加え、扶養手当、住居手当、通勤手当、地域手当、時間外勤務手当など、多岐にわたる諸手当の計算が含まれます。これらの計算は、各職員の扶養状況や居住形態、勤務実績などに応じて変動するため、常に最新の情報を正確に反映させる必要があります。
  2. 期末・勤勉手当(ボーナス)の計算: 年に数回支給される期末・勤勉手当の計算も重要な業務です。勤勉手当は人事評価の結果が反映されるため、評価データとの正確な連携が不可欠です。
  3. 控除処理: 給与から天引きされる共済組合掛金(健康保険・年金)、雇用保険料、所得税、住民税などの控除額を正確に計算し、関係機関へ納付します。
  4. 福利厚生制度の運営: 職員の健康管理(健康診断、ストレスチェック)、財産形成支援(財形貯蓄)、各種給付事業(結婚祝金、弔慰金など)といった福利厚生制度の企画・運営を行います。共済組合や互助会と連携し、職員が利用しやすいように制度の周知や手続きの案内を行います。
  5. 特殊な給与処理への対応:
    • 人事院勧告・人事委員会勧告への対応: 毎年の給与勧告に基づき、給料表の改定やそれに伴う差額の遡及支給といった、複雑で大規模な計算処理を行います。
    • 多様な任用形態への対応: 常勤職員だけでなく、会計年度任用職員や再任用職員など、異なる給与体系や社会保険の適用ルールを持つ職員の給与計算を正確に行う必要があります。

 実務上の留意点とシステムの重要性

 地方公務員の給与体系は、民間企業と比較して非常に複雑です。俸給表に基づく昇給制度、職種や勤務地に応じた特殊勤務手当や地域手当など、考慮すべき要素が数多く存在します。これらの複雑な計算を手作業で行うことは非現実的であり、ヒューマンエラーのリスクも非常に高くなります。

 そのため、現代の給与・福利厚生業務において、高機能な人事給与システムの活用は不可欠です。優れたシステムは、以下のような機能を通じて業務の正確性と効率性を飛躍的に向上させます。

  • 自動計算機能: 複雑な諸手当や遡及支給などを、条例や規則に基づいて自動で計算し、誤支給のリスクを大幅に低減します。
  • 多様な任用形態への対応: 会計年度任用職員など、職員種別ごとに異なる給与体系や社会保険の適用をシステム上で正確に管理できます。
  • ペーパーレス化の推進: 勤怠管理や各種申請を電子化することで、紙のやり取りをなくし、データ転記の手間やミスを削減します。渋谷区の事例では、システムの刷新により全職員の勤怠管理が電子化され、現場と人事課双方の業務効率が大幅に改善されました。

 人事課職員は、システムの操作に習熟するとともに、その計算の根拠となる法令・条例を正しく理解しておく必要があります。システムは強力なツールですが、最終的な責任は運用者である人事課が負うことを常に意識し、正確かつ公正な業務執行に努めなければなりません。

人事評価:職員の成長を促し、組織目標を達成する仕組み

 地方自治体における人事評価制度は、単に給与や昇任を決定するための査定ツールではありません。その本質は、職員一人ひとりの能力開発を促進し、上司と部下のコミュニケーションを活性化させ、組織全体の目標達成へと繋げるためのマネジメント・サイクルです。この制度を効果的に運用することが、人事課の重要な役割の一つです。

 標準的な業務フロー(PDCAサイクル)

 人事評価は、多くの場合、年度を通じたPDCAサイクルとして運用されます。

  1. PLAN(目標設定 / 期首面談): 年度当初(4月~5月頃)、被評価者である職員は、組織目標や上司から期待される役割を踏まえ、その年度に重点的に取り組む業務目標を設定します。設定した目標について、上司(一次評価者)と面談(期首面談)を行い、目標の難易度や達成基準について相互の認識をすり合わせ、最終的な目標を確定させます。この対話を通じて、職員は一年間の仕事の方向性を明確にすることができます。
  2. DO(業務遂行と進捗確認): 職員は設定した目標の達成に向けて業務を遂行します。上司は、日常の業務を通じて部下の仕事ぶりを観察し、必要に応じて指導・助言を行います。多くの自治体では、年度の半ばに進捗状況を確認するための中間面談を設けています。
  3. CHECK(評価 / 期末面談): 年度末(1月~2月頃)、職員は一年間の業務を振り返り、目標の達成状況や職務遂行過程について自己評価を行います。その後、上司(一次評価者)は、自己評価や観察記録、具体的な業務実績といった客観的な事実に基づいて評価を実施します。この際、必ず期末面談を行い、評価の根拠を具体的に説明し、職員からの意見も聴取します。
  4. ACTION(フィードバックと次期への活用): 評価が確定した後(3月頃)、上司は職員に対して最終的な評価結果を伝達(フィードバック)します。この面談では、評価結果だけでなく、強みとして発揮された能力や今後の育成課題、来期への期待などを伝え、職員の次なる成長へと繋げます。この評価結果は、給与(勤勉手当)や昇任、人事異動、そして次年度の研修計画などに活用されます。

 評価の公正性を担保するための仕組み

 人事評価の生命線は、その公正性と客観性です。職員が評価結果に納得できなければ、制度は機能しません。そのため、多くの自治体では以下のような仕組みを取り入れています。

  • 複数人による評価: 直属の上司(一次評価者)だけでなく、そのさらに上席の管理職(二次評価者・調整者)が評価に関与することで、特定の評価者の主観に偏ることを防ぎます。
  • 評価者研修の実施: 評価者である管理職に対して、評価制度の目的や評価基準、面談の進め方などについて学ぶ研修を徹底して行います。制度を精緻に作っても、運用する評価者のスキルが低ければ意味がないため、これは極めて重要です。
  • マニュアルの公開: 評価の手順や評価項目、評価尺度が記載されたマニュアルを全職員に公開し、制度の透明性を確保します。
  • 評価の構成: 評価は、目標の達成度といった「業績評価」と、そのプロセスで発揮された能力や姿勢を評価する「能力評価(勤務評価)」の二つの側面から行われるのが一般的です。これにより、成果だけでなく、成果に至るまでの努力や行動も適切に評価することができます。

 人事課は、この人事評価サイクルが形骸化することなく、人材育成という本来の目的を達成できるよう、制度の設計・見直し、評価者研修の企画・実施、そして全庁的な運用のモニタリングという重要な役割を担っています。

研修:職員と組織の持続的成長をデザインする

 職員研修は、職員個々の能力を高めると同時に、組織全体の課題解決能力を向上させるための戦略的な投資です。人事課は、組織が目指す姿と職員の現状とのギャップを埋めるため、体系的かつ効果的な研修プログラムを企画・実施する役割を担います。

 研修体系の構築

 効果的な人材育成のためには、場当たり的な研修ではなく、職員のキャリアステージや職務内容に応じた体系的な研修プログラムが必要です。一般的に、研修体系は以下の要素で構成されます。

  • 階層別研修: 新規採用職員、若手・中堅職員、係長級、課長級といった役職階層ごとに、その段階で求められる役割認識、スキル、マネジメント能力などを習得させる研修です。これは、キャリア形成の節目で必要な能力を標準的に身につけさせる、研修体系の根幹をなすものです。
  • 専門研修: 福祉、土木、税務といった特定の専門分野における高度な知識や技術を習得するための研修です。法改正への対応や新たな技術の導入など、専門性の維持・向上を目的とします。
  • OJT (On-the-Job Training): 日常業務を通じて、上司や先輩職員が部下や後輩を直接指導・育成する手法です。最も実践的な育成方法であり、人事課はOJTを計画的に進めるための指導計画書の様式を提供したり、指導役となる職員向けの研修(OJTトレーナー研修)を実施したりして、全部署におけるOJTの質を高める支援を行います。
  • 自己啓発支援: 職員が自発的に学習することを奨励・支援する制度です。通信教育講座の受講料補助や、資格取得奨励金の支給、業務時間外に開催されるセミナー(サテライトセミナー)の提供などが含まれます。

 現代的ニーズへの対応

 近年の行政課題の複雑化・高度化に伴い、研修内容も常にアップデートが求められます。

  • DX推進研修: 全職員のデジタルリテラシー向上は、多くの自治体にとって喫緊の課題です。総務省の指針も踏まえ、自治体ごとのDX推進計画に沿った研修を策定し、デジタル技術を活用した業務改善や住民サービス向上に繋げる必要があります。板橋区の事例では、DX関連研修を体系に組み込み、全庁的なスキルアップを図っています。
  • 実践型研修: 知識をインプットするだけの座学だけでなく、実際の業務課題を題材にした演習や、具体的な成果物(例:申請フォームの作成)を作成するような実践型の研修を取り入れることで、学びを現場で活かせるスキルへと転換させます。
  • 研修のカスタマイズ: 民間企業向けの汎用的な研修プログラムをそのまま導入するのではなく、自治体特有の組織文化や評価制度、直面する課題などを踏まえた、オーダーメイドの研修内容とすることが、研修効果を最大化する上で重要です。

 人事課は、研修の企画・実施(Plan-Do)だけでなく、研修後のアンケートや職場での行動変容を測定し(Check)、その結果を次回の研修企画に反映させる(Action)という、研修のPDCAサイクルを回していく責任があります。職員と組織が共に成長し続ける環境をデザインすることこそ、研修担当部署の使命です。

服務・懲戒:公正な規律の維持と信頼の確保

 地方公務員には、その職務の公共性から、民間企業の従業員以上に高い倫理観と厳格な服務規律の遵守が求められます。人事課は、全職員がこれらの規律を正しく理解し、遵守するよう指導するとともに、万が一規律違反が発生した場合には、公正な手続きに則って厳正に対処する役割を担います。これは、組織の内部秩序を維持し、行政に対する住民の信頼を確保するための根幹業務です。

 服務規律の徹底

 「服務」とは、地方公務員法第30条から第38条に定められた、職員が遵守すべき義務の総称です。人事課は、これらの服務義務が形骸化しないよう、継続的な啓発活動を行う必要があります。

  • 研修の実施: 新規採用時や昇任時など、キャリアの節目で服務規律に関する研修を実施し、公務員としての自覚を促します。特に、信用失墜行為の禁止(第33条)、守秘義務(第34条)、職務専念義務(第35条)などは、具体的な事例を交えながら、その重要性を繰り返し周知します。
  • コンプライアンス指針の策定と周知: 各自治体で策定されているコンプライアンス指針や職員倫理条例の内容を、全職員がいつでも確認できるよう庁内ネットワークで公開し、朝礼や会議の場で定期的に読み合わせるなど、意識の浸透を図ります。指針では、法令遵守はもちろん、市民への説明責任、適切な情報管理、公金の適正な取り扱いといった基本原則が示されます。
  • ハラスメント防止対策: セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントは、被害者の人権を侵害するだけでなく、職場環境を著しく悪化させる重大な服務規律違反です。人事課は、防止のための研修を全職員(特に管理職)に実施し、相談窓口を設置して、ハラスメントを許さない組織風土を醸成する責任があります。

 懲戒処分の適正な運用

 服務規律違反やその他の非行があった場合、組織の規律を維持するために行われるのが懲戒処分です。地方公務員法第29条に基づき、その種類は免職、停職、減給、戒告の4つに分類されます。人事課は、懲戒手続きを以下の原則に則り、適正に進めなければなりません。

  1. 事実関係の正確な把握: 処分を行う前提として、客観的な証拠に基づき、何が起きたのかを正確に調査・認定します。当事者双方からのヒアリングを慎重に行い、予断を排して事実に迫る姿勢が求められます。
  2. 適正手続きの保障: 懲戒は職員の身分に重大な影響を及ぼす不利益処分であるため、手続きの適正さが厳格に求められます。地方公務員法第49条に基づき、処分を行う際には、処分の理由を記載した説明書を本人に交付しなければなりません。また、弁明の機会を付与することも不可欠です。
  3. 公平性の確保: 処分の重さは、事案の態様、本人の責任の度合い、過去の処分事例との均衡などを総合的に考慮して決定されなければなりません。特定の個人に対して不当に重い、あるいは軽い処分とならないよう、公平性を保つことが重要です。

 なお、懲戒処分とは別に、職員が心身の故障や勤務実績不良により職務を十分に果たせない場合に、本人の意に反して行われる身分上の不利益処分として「分限処分」(休職、降任、免職など)があります。これは懲罰的な意味合いを持つ懲戒とは異なり、職務の適正な運営を確保するための措置ですが、同様に慎重な手続きが求められます。

 服務規律の維持と公正な懲戒制度の運用は、組織の健全性を示すバロメーターです。人事課は、常に公正・公平な姿勢を貫き、職員と組織、そして住民からの信頼に応えていく必要があります。

安全衛生・メンタルヘルス:職員が安心して働ける職場環境の構築

 職員が心身ともに健康で、安心して能力を発揮できる職場環境を整備することは、組織の生産性を高め、持続可能な行政サービスを提供するための基盤です。人事課は、労働安全衛生法などの関係法令に基づき、職員の安全と健康を守るための中心的役割を担います。特に近年、メンタルヘルス不調による休職者の増加が多くの自治体で課題となっており、その対策は急務です。

 メンタルヘルス対策は、問題の発生段階に応じて「一次予防」「二次予防」「三次予防」の3つの段階で体系的に取り組むことが効果的です。

 一次予防:不調の未然防止

 職員がメンタルヘルス不調に陥ることを未然に防ぐための取り組みです。

  • ストレスチェックの実施と活用: 年に1回、全職員を対象にストレスチェックを実施し、職員自らがストレス状態に気づく機会を提供します。人事課は、個人の結果には干渉しませんが、部署ごとの集団分析結果を活用して、高ストレスの傾向が見られる職場の環境改善(業務量の見直し、人員配置の工夫など)に繋げることが重要です。
  • 管理職への研修: 部下の「いつもと違う様子」に早期に気づき、適切に声かけや傾聴ができるよう、管理職向けのラインケア研修を定期的に実施します。管理職はメンタルヘルス対策の最前線に立つキーパーソンです。
  • 働き方の見直し: 長時間労働はメンタルヘルス不調の大きなリスク要因です。時間外勤務の縮減や年次有給休暇の取得促進に組織全体で取り組み、職員が十分に休息を取れる環境を整えます。

 二次予防:早期発見・早期対応

 不調の兆候が見られる職員を早期に発見し、重症化する前に適切な対応を行う取り組みです。

  • 相談しやすい体制の整備: 庁内の人事課や健康管理室に相談窓口を設置するだけでなく、プライバシーが守られ、職員が気軽に相談できる外部の専門機関(EAP: 従業員支援プログラム)と契約することも非常に有効です。相談窓口の存在を職員に広く周知し、本人だけでなく、心配する上司や同僚も利用できることを明確に伝えることが利用促進に繋がります。
  • 管理職による適切な対応: 部下に不調のサインが見られた場合、管理職は一人で抱え込まず、人事課や産業医と連携して対応することが重要です。専門家への相談を促したり、必要に応じて業務負荷の軽減を検討したりします。

 三次予防:職場復帰支援と再発防止

 メンタルヘルス不調により休職した職員が、円滑に職場復帰し、再び活躍できるよう支援する取り組みです。

  • 職場復帰支援プログラムの策定: 休職から復帰までの標準的なプロセスを定めたプログラム(リワークプログラム)を策定します。主治医、産業医、所属長、人事課が連携し、本人の状態に合わせて、試し出勤(リハビリ出勤)の実施や、復帰直後の業務内容・時間の軽減(時短勤務など)を計画的に行います。
  • 復帰後のフォローアップ: 復帰後も、定期的な面談を通じて体調や業務の状況を確認し、再発防止に努めます。また、周囲の職員に過度な負担がかからないよう配慮し、職場全体で復帰者を支える雰囲気を作ることが大切です。

 職員のメンタルヘルスは、組織の重要な健康指標です。人事課は、これらの予防策を計画的かつ継続的に実施することで、全ての職員が安心して働き続けられる、健全な職場環境を構築していく責務があります。

退職:円満な手続きとセカンドキャリアへの配慮

 職員の退職は、採用から続いた任用関係の最終段階であり、感謝とともに円満に送り出すための丁寧な手続きが求められます。公務員の退職手続きは、民間企業とは異なる独自のルールとプロセスに基づいており、人事課はその正確な運用に責任を持ちます。

 公務員の退職手続きの特徴

 最も大きな特徴は、退職が本人の一方的な意思表示のみでは成立しない点です。

  • 「退職願」の提出: 民間企業の「退職届」が労働契約の解約を通知するものであるのに対し、公務員は任命権者に対して退職の承認を「願い出る」形式をとるため、「退職願」を提出します。
  • 「辞令」による退職の成立: 提出された退職願が任命権者によって承認され、正式な「辞令」が交付された日をもって、初めて退職が法的に成立します。この辞令交付までは、職員としての身分は継続します。

 標準的な業務フロー

  1. 退職意思の表明と面談: 職員はまず直属の上司に退職の意思を伝えます。その後、課長や部長といった管理職との面談が行われ、退職理由や退職希望日などが確認されます。この段階で、慰留されることも少なくありません。
  2. 人事課への連絡と手続き開始: 所属長から人事課へ退職の意向が正式に伝えられると、人事課は退職に向けた具体的な手続きを開始します。
  3. 退職願の提出: 職員は、人事課の案内に従い、正式な「退職願」を任命権者(首長)宛てに提出します。提出時期は、引継ぎ等を考慮し、退職希望日の1~3ヶ月前が一般的です。
  4. 退職関連書類の処理: 人事課は、退職手当の算定と請求手続き、共済組合への資格喪失届の提出、健康保険や年金に関する手続きの案内など、多岐にわたる事務処理を進めます。
  5. 業務の引継ぎ: 職員は、後任者や同僚に対して、担当業務の内容や進捗状況、関係機関との連絡事項などを漏れなく引き継ぎます。人事課は、引継ぎが円滑に進むよう、所属長と連携して進捗を管理します。
  6. 最終出勤日と備品返却: 最終出勤日には、身分証明書、健康保険証(組合員証)、庁舎の鍵、その他貸与された備品などを返却します。
  7. 辞令交付と退職: 退職日に辞令が交付され、全ての退職手続きが完了します。

 実務上の留意点

  • 退職手当の正確な計算: 退職手当の額は、勤続年数や退職理由(自己都合、定年、勧奨など)によって大きく異なります。算定基礎となる給与月額や支給率を条例に基づき正確に適用し、計算ミスがないよう細心の注意を払う必要があります。
  • 再就職に関する規制の遵守: 管理職として退職した職員が、離職後2年間、離職前5年間に在職していた部署と密接な関係にある営利企業等に再就職する場合、地方公務員法に基づき、再就職の状況を任命権者に届け出る義務があります。また、再就職先から元の職場に対して不当な働きかけを行うことは禁止されています(再就職者による依頼等の規制)。人事課は、対象となる退職者に対して、これらの規制について十分に説明し、遵守を徹底させる必要があります。

 退職は、職員の人生における大きな節目です。人事課は、法的な手続きを正確に行うだけでなく、長年組織に貢献してきた職員への敬意と感謝の念を持って、円滑な門出をサポートする姿勢が大切です。

労働組合対応:健全な労使関係の構築

 地方自治体における労働組合(職員団体)は、職員の勤務条件の維持・改善を目指す重要なパートナーであり、その対応は人事課の専門性が問われる業務の一つです。健全な労使関係を構築するためには、対立ではなく対話の姿勢を基本とし、法的な権利と義務を正しく理解した上で、誠実に対応することが求められます。

 法的義務と基本姿勢

 最大の原則は、使用者(自治体側)には「誠実交渉義務」が課せられていることです。労働組合から団体交渉の申し入れがあった場合、正当な理由なくこれを拒否することは、労働組合法で禁止されている「不当労働行為」にあたります。たとえ組合の要求に同意できない場合でも、交渉のテーブルに着き、対話し、合意形成の可能性を模索する義務があります。人事課は、この法的義務を全ての管理職に周知徹底させる必要があります。

 団体交渉の標準的なプロセスと留意点

  1. 団体交渉申入書の受領と回答: 組合から「団体交渉申入書」が提出されたら、まずは受領し、無視せずに必ず回答書を送付します。回答書では、交渉に応じる意思を示した上で、交渉の日時、場所、出席者などについて、こちらの希望を提示します。
  2. 事前準備の徹底: 団体交渉に臨む前には、入念な準備が不可欠です。
    • 事実関係の確認: 組合が要求している事項(例:未払い残業代、人事異動への不満など)について、関連する資料(タイムカード、雇用契約書、過去の面談記録など)を収集し、客観的な事実関係を正確に把握します。
    • 論点整理と方針決定: 事実関係と関連法令・判例を基に、組合の要求に対する自治体側の見解と対応方針を内部で統一します。どこまで譲歩できるか、どの点は譲れないかを明確にしておきます。
    • 想定問答の作成: 組合から予想される質問をリストアップし、それに対する回答を準備した「想定問答集」を作成し、出席者間で共有します。これにより、交渉の場で不用意な発言をして不利な状況に陥ることを防ぎます。
  3. 交渉当日の運営:
    • 日時と場所: 交渉は、職員の勤務時間外に設定するのが原則です。場所は、庁舎内や組合事務所を避け、中立的な外部の貸会議室などを利用することが望ましいです。時間は2時間程度を目安に、あらかじめ終了時刻を決めておくと、議論が冗長になるのを防げます。
    • 出席者: 自治体側からは、交渉事項について実質的な判断ができる権限を持つ者(人事部長、人事課長など)が出席する必要があります。組合側の出席者についても、交渉が円滑に進むよう、常識的な人数(例:双方3名程度)とするよう事前に調整します。
    • 交渉の進め方: まずは組合側の主張を真摯に傾聴します。その上で、準備した資料に基づき、自治体側の立場を冷静かつ論理的に説明します。感情的な応酬は避け、あくまで事実と法に基づいて議論を進める姿勢が重要です。
  4. 合意形成と合意書の作成: 交渉が妥結した場合は、合意内容を文書(協定書、合意書)として残します。この際、後日の紛争を避けるため、合意した事項以外については一切の債権債務がないことを確認する「清算条項」を必ず盛り込みます。また、合意内容を外部に口外しないことを約束する「口外禁止条項」を加えることも有効です。

 労働組合との交渉は、時に厳しい対立場面も想定されますが、その根底にあるのは「より良い職場環境を作りたい」という共通の目的です。人事課は、経営側の代表として毅然と対応しつつも、組合を対話のパートナーとして尊重し、粘り強く交渉を続けることで、労使双方にとって建設的な解決を目指すべきです。

先進事例に学ぶ戦略的人事

東京都・特別区の先進的取組:DX人材育成と働き方改革

 地方自治体が直面する人材確保難やデジタル化の遅れといった課題に対し、東京都及び特別区(23区)は、先進的な人事戦略をもって対応を進めています。これらの取り組みは、他の自治体が未来志向の人事制度を構築する上で、多くの示唆を与えてくれます。

 東京都のDX人材戦略:専門性と組織力の両輪

 東京都の最大の特色は、DX推進を単なる技術導入の問題ではなく、根本的な「人事戦略」として捉えている点です。その核心には、2021年に新設された「デジタルサービス局」と、専門職である「ICT職」の存在があります。これは、従来のゼネラリスト中心の人事体系では、急速に進化するデジタル技術に対応できないという強い問題意識の表れです。

 都の戦略を支える具体的なツールと仕組みは以下の通りです。

  • GovTech東京との連携: 民間の高度専門人材が集う一般財団法人「GovTech東京」を設立し、都のICT職と専門人材がスクラムを組む体制を構築しています。これにより、行政内部の論理と民間の最新技術を融合させ、質の高いデジタルサービスの実現を目指しています。
  • デジタルスキルマップ(DSM)の導入: ICT職一人ひとりが持つスキルを22の項目と4段階のレベルで可視化する仕組みです。これにより、組織としてどの分野のスキルが不足しているかを客観的に把握し、「戦略的な採用・育成」を行うことが可能になります。これは、個人の能力を「見える化」し、データに基づいて人材を管理する、まさにピープルアナリティクスの実践例です。
  • 東京デジタルアカデミーの設立: 都と区市町村の職員を対象とした高度な研修機関です。全職員向けのデジタルリテラシー向上研修から、ICT職向けの専門研修、さらには海外の先進事例を学ぶ研修まで、体系的なプログラムを提供しています。これは、DXに必要な人材を外部からの獲得だけに頼るのではなく、内部からも継続的に育成していくという強い意志を示しています。

 特別区の多様な人材育成と働き方改革

 各特別区も、それぞれの実情に合わせて意欲的な人事・人材育成改革を進めています。

  • 多様なキャリアパスの支援: 練馬区では、民間経験者採用を強化し、その専門性を組織の活性化に繋げるとともに、若手職員が希望する職務に挑戦できる「ジョブチャレンジ制度」を拡充しています。世田谷区では、職員が自らのキャリアデザインを描きやすい環境を整備し、仕事と育児・介護の両立支援を強化することで、管理職への昇任を躊躇する職員を後押ししています。これらは、画一的なキャリアパスから、職員の多様な価値観やライフステージに対応した、より柔軟な人事制度への転換を目指す動きです。
  • アジャイルな組織文化への変革: 世田谷区では、前例踏襲を脱し、変化に柔軟かつ迅速に対応できる「アジャイル型」の組織・人材への転換を掲げています。職員一人ひとりが自ら考え、部署の壁を越えて助け合う組織風土の醸成を人材育成方針の中心に据えており、これは今後の自治体組織のあり方を示す重要な方向性です。
  • 働き方改革の現実: 一方で、働き方改革には依然として課題も残ります。多くの区が「長時間勤務」や「業務の偏り」を課題として認識し、ノー残業デーなどの施策を講じていますが、根本的な解決には至っていません。テレワークの導入も進められていますが、情報セキュリティや対象業務の切り分けといった課題に直面しており、試行錯誤が続いているのが実情です。

 東京都と特別区の事例から学べる最も重要な点は、DXや働き方改革といった現代的な課題への対応は、人事制度そのものの変革と不可分であるということです。専門職制度の創設、スキルの可視化、体系的な研修投資、そして職員の自律的なキャリア形成支援といった、総合的な人事戦略を構築・実行することこそが、変化の時代を乗り越えるための鍵となります。

広域連携の可能性:人事の連携

 多くの地方自治体、特に小規模な市町村が共通して抱える課題の一つに、専門人材の確保と育成の難しさがあります。DX、法務、国際交流といった高度な専門知識を要する分野で、一自治体が単独で優秀な人材を採用し、継続的に育成していくことは、財政的にも人材市場の観点からも極めて困難です。このような状況を打開する有効な手段として、「広域連携」という発想が重要になります。

 現在、地方税の滞納整理業務などでは、複数の市町村が共同で「地方税滞納整理機構」を設立し、専門知識を持つ職員を集約して効率的・効果的に業務を行う事例が見られます。このモデルを人事業務に応用することが考えられます。

 「地域の人事部」構想

 経済産業省が推進する「地域の人事部」という考え方は、民間企業を対象としたものですが、その理念は自治体にも応用可能です。これは、地域内の複数の組織が連携し、共同で人材の獲得、育成、定着を支援する仕組みです。これを自治体版に置き換えると、以下のような広域連携モデルが構想できます。

  1. 専門人材の共同採用・シェアリング:
    • 複数の市町村が共同で、弁護士やITコンサルタントといった高度専門人材を任期付職員などとして採用します。採用された専門人材は、特定の自治体に常駐するのではなく、連携する各自治体を巡回したり、オンラインで相談に応じたりすることで、複数の自治体の課題解決を支援します。これにより、一自治体では負担が難しい高コストな人材を、複数の自治体でシェアすることが可能になります。
  2. 広域合同研修の企画・実施:
    • 東京都が「東京デジタルアカデミー」で都と区市町村の職員を対象に研修を行っているように、近隣の市町村が連携して合同で研修プログラムを企画・実施します。これにより、単独では開催が難しい質の高い研修(例:著名な講師を招聘するマネジメント研修、高度な専門知識を要するDX研修など)を実施でき、スケールメリットによるコスト削減も期待できます。また、他自治体の職員との交流は、新たな視点やネットワークの獲得にも繋がります。
  3. 地域内人材交流(人事交流)の活性化:
    • 従来の都道府県と市町村間の人事交流だけでなく、市町村同士での積極的な人事交流を推進します。例えば、A市の福祉分野のベテラン職員が、そのノウハウをB市に伝えるために1年間出向するなど、特定のスキルや経験を地域内で還流させる仕組みを構築します。これにより、職員の能力開発と組織間の知見共有が促進されます。

 これらの広域連携を実現するためには、各自治体の首長や議会の理解、そして人事担当者同士の緊密なネットワーク構築が不可欠です。人事課は、もはや自組織内の人事管理に留まるのではなく、地域全体の人的資源をいかに有効活用し、地域全体の行政サービスを向上させるかという、より広い視野を持つことが求められています。人事の広域連携は、人口減少・高齢化が進む中で、持続可能な行政運営を実現するための鍵となる可能性を秘めています。

業務改革とDX:未来志向の人事課へ

ICT活用による業務効率化:RPAから人事給与システムまで

 人口減少に伴う職員数の減少と、複雑化・多様化する行政ニーズへの対応という二つの課題に直面する現代の自治体において、ICTを活用した業務効率化は避けて通れないテーマです。人事課の業務も例外ではなく、テクノロジーを積極的に導入することで、定型業務の負担を大幅に削減し、より戦略的な業務へ資源を集中させることが可能になります。

 人事給与システムの刷新・高度化

 人事課の基幹業務である給与計算や庶務手続きは、最新の人事給与システムを導入・活用することで劇的に効率化できます。

  • 定型業務の自動化とペーパーレス化: 複雑な手当計算や社会保険料の控除、年末調整などを自動化し、ヒューマンエラーを防止します。また、勤怠管理、休暇申請、出張申請といった各種手続きを電子化することで、紙の帳票の作成、回覧、保管といった物理的な作業をなくし、業務プロセスを大幅に迅速化します。渋谷区の事例では、システム導入によって会計年度任用職員を含む全職員の勤怠管理が電子化され、データ転記や二重管理が不要となり、現場・人事課双方の業務効率が大きく改善しました。
  • 多様な任用形態への対応: 会計年度任用職員など、職員ごとに異なる勤務形態や給与体系をシステム上で一元管理し、それぞれのルールに基づいた正確な処理を実現します。

 RPA (Robotic Process Automation) の活用

 RPAは、人間がPCで行う定型的な操作(データの入力、転記、照合など)をソフトウェアロボットに記憶させ、自動で実行させる技術です。人事課の業務には、RPAが適用可能な定型作業が数多く存在します。

  • RPAの適用例:
    • 勤怠管理: 各職員が入力した出退勤データと、時間外勤務申請のデータを自動で照合し、不整合がある場合にアラートを出す。
    • データ入力: 採用時に提出された履歴書の内容をAI-OCR(光学的文字認識)で読み取り、そのデータをRPAが人事システムへ自動で入力する。
    • 各種証明書発行: 職員からの依頼に基づき、在職証明書や源泉徴収票などを自動で作成・印刷する。
  • 導入効果: 多くの自治体で、RPA導入により年間数千時間に及ぶ作業時間の削減が報告されています。神奈川県小田原市では、職員の勤怠管理を含む4業務にRPAを導入し、年間706時間の作業時間削減を達成しました。これにより、職員は単純作業から解放され、より付加価値の高い業務、例えば制度設計や職員との面談などに時間を使うことができるようになります。

 これらのICTツールを導入する際には、単にツールを導入するだけでなく、既存の業務プロセスそのものを見直す「BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)」の視点が重要です。非効率な業務プロセスをそのまま自動化しても、限定的な効果しか得られません。人事課は、ICTの導入を契機として、長年の慣習で行われてきた業務をゼロベースで見直し、本当に必要な業務は何か、より効率的な進め方はないかを徹底的に検討することで、業務改革の効果を最大化することができます。

データ駆動型人事(ピープルアナリティクス)の導入

 従来の人事管理が、経験や勘といった主観的な要素に頼ることが多かったのに対し、これからの人事には、客観的なデータに基づいて戦略的な意思決定を行う「データ駆動型人事(ピープルアナリティクス)」への転換が求められています。これは、職員に関する様々なデータを収集・分析し、人材の採用、育成、配置といった人事施策の効果を最大化しようとするアプローチです。

 活用するデータ

 ピープルアナリティクスの基盤となるのは、職員一人ひとりに関する多様な情報の統合です。

  • 基本情報: 年齢、性別、所属、役職、勤続年数など
  • 経歴・スキル: 過去の所属部署、職務経歴、保有資格、研修受講履歴、専門スキル
  • 評価データ: 過去の人事評価結果(業績評価、能力評価)
  • 意識・意向: 自己申告制度で提出されたキャリア志向、異動希望、エンゲージメントサーベイ(職員満足度調査)の結果

 これらのデータを一元的に管理・分析できる「タレントマネジメントシステム」の導入が、データ駆動型人事を本格的に進める上で非常に有効です。

 具体的な活用場面

  1. 戦略的な人材配置(適材適所の科学的実現):
    • 新規プロジェクトを立ち上げる際に、必要なスキルセットを定義し、データベースから合致するスキルを持つ職員を検索・リストアップする。
    • 異動シミュレーション機能などを活用し、特定の職員を異動させた場合の後任候補や、異動先の部署の年齢構成・スキルバランスの変化などを可視化し、最適な配置を検討する。
    • 職員のキャリア希望と、組織が必要とするポストをマッチングさせることで、本人のモチベーション向上と組織の活性化を両立させる。
  2. ハイパフォーマー分析と人材育成・採用への活用:
    • 各分野で高い成果を上げている職員(ハイパフォーマー)の共通特性(経歴、スキル、コンピテンシーなど)をデータ分析によって特定する。
    • 分析結果から明らかになった「活躍する人材の要件」を基に、全職員向けの研修プログラムを設計したり、採用時の面接評価項目を見直したりする。これにより、組織全体のパフォーマンスの底上げと、採用のミスマッチ防止に繋げることができます。
  3. 離職の防止とエンゲージメント向上:
    • 過去の離職者のデータ(勤怠状況、評価、所属部署の残業時間など)を分析し、離職に繋がりやすい要因(離職の予兆)を特定する。
    • 同様の傾向が見られる職員を早期に発見し、上司による面談や配置転換といった予防的な措置を講じることで、優秀な人材の流出を防ぎます。

 データ駆動型人事への移行は、人事課の役割を、事務処理中心の「守りの人事」から、データに基づいて組織の未来を設計する「攻めの人事」へと進化させるものです。まずは、散在している人事データを整理・統合し、小さな分析からでも始めてみることが、その第一歩となります。

生成AIの活用可能性:人事課の業務を変革する具体的用途

 近年急速に発展している生成AI(ジェネレーティブAI)は、文章作成、要約、アイデア創出といった知的作業を自動化する能力を持ち、人事課の業務を根底から変革する大きな可能性を秘めています。定型業務を自動化するRPAから一歩進み、より高度で非定型的な業務を支援するツールとして、以下のような具体的な活用が期待されます。

  1. 職員・住民からの問い合わせ対応の自動化:
    • AIチャットボット・AIコールセンター: 育児休業の取得手続き、各種手当の申請方法、福利厚生制度の内容といった、職員から頻繁に寄せられる問い合わせに対して、24時間365日対応するAIチャットボットを庁内ポータルサイトに設置します。AIが一次対応を行うことで、人事課職員はより複雑な相談業務に集中できます。また、電話での問い合わせにもAIが自動で応答する仕組みを導入すれば、職員の負担軽減と利便性向上を両立できます。
  2. 採用業務の効率化・高度化:
    • 採用関連文書の自動生成: 募集する職種の概要を入力するだけで、求人票の文案、採用試験の告知文、面接の質問リストなどをAIが自動で生成します。
    • AI面接サービスの活用: 一次面接をAIが代行するサービスを導入します。AIが応募者の回答内容や表情、音声などを分析し、客観的な評価データを提供することで、面接官の負担を軽減し、評価のばらつきを抑えることができます。千葉県君津市では、既に職員採用にAI面接サービスを導入しています。
    • 応募者とのコミュニケーション自動化: AIチャットボットを活用し、応募者からの質問に自動で回答したり、面接日程の調整を自動で行ったりすることで、採用プロセスを迅速化し、応募者の満足度を高めることができます。
  3. ナレッジマネジメントと人材育成の強化:
    • 議事録・面談記録の自動要約: 懲罰委員会の議事録や、職員とのキャリア面談の録音データをAIに読み込ませ、自動で文字起こしと要約を作成します。これにより、記録作成にかかる時間を大幅に短縮できます。
    • ベテラン職員の知見の継承: 退職間近のベテラン人事職員が持つ、労働組合との交渉術や困難な懲戒事案への対応ノウハウといった暗黙知を、インタビュー形式でAIに学習させます。若手職員がAIに質問すると、まるでベテラン職員からアドバイスを受けているかのように、具体的な対応方法や留意点を学ぶことができるナレッジシステムを構築します。
  4. 研修コンテンツの作成支援:
    • 「若手職員向けのコンプライアンス研修」といったテーマと対象者を指定するだけで、研修の目的、カリキュラム案、演習で使うケーススタディなどをAIが生成します。研修担当者は、その草案を基に内容をブラッシュアップするだけで、質の高い研修を効率的に企画できます。

 生成AIの導入にあたっては、個人情報や機密情報の取り扱いに関するセキュリティガイドラインの策定や、AIが生成した情報の正確性を人間が必ず確認する(ファクトチェック)といったルール作りが不可欠です。しかし、これらの課題を適切に管理し、賢く活用することで、生成AIは人事課の生産性を飛躍的に向上させ、職員をより創造的で戦略的な業務へとシフトさせる強力な武器となるでしょう。

実践的スキル:成果を出すための組織・個人のアクション

組織レベルで実践するPDCAサイクル

 人事課が戦略的な部門として機能するためには、その活動全体を場当たり的に行うのではなく、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Action)のPDCAサイクルに基づいて、継続的に改善していく組織的な仕組みが必要です。これにより、人事施策の効果を客観的に測定し、組織全体の目標達成に貢献することができます。

 Plan:戦略的人事計画の立案

 まず、年度の初めに、自治体全体の経営戦略や事業計画と連動した人事部門としての最終目標(KGI: 重要目標達成指標)を設定します。KGIは、漠然としたものではなく、具体的で測定可能なものである必要があります。「SMARTの法則」を活用することが有効です。

  • KGIの設定例:
    • 「職員の総時間外勤務時間を前年度比で10%削減する」
    • 「新規採用職員の3年以内離職率を5%未満に抑制する」
    • 「管理職に占める女性職員の割合を30%に引き上げる」

 次に、このKGIを達成するための中間指標であるKPI(重要業績評価指標)を設定します。KPIは、KGI達成に向けたプロセスの進捗を測るための具体的な指標です。

  • KPIの設定例(KGI:時間外10%削減の場合):
    • 「テレワーク実施率を50%以上に向上させる」
    • 「RPAによる業務自動化時間を年間5,000時間創出する」
    • 「全係長職へのタイムマネジメント研修の受講率100%」

 これらの目標(KGI・KPI)を達成するための具体的な行動計画(アクションプラン)を策定します。

 Do:人事施策の実行

 立案した計画に基づき、具体的な人事施策を実行します。例えば、時間外削減という目標であれば、テレワーク制度の導入・拡充、RPAの導入部署の選定とシナリオ作成、タイムマネジメント研修の企画・実施といったアクションプランを進めます。実行段階では、各施策が計画通りに進んでいるかを定期的にモニタリングすることが重要です。

 Check:効果測定と評価

 一定期間が経過した後(四半期ごとや年度末など)、設定したKPIがどの程度達成されたかを客観的なデータに基づいて評価します。

  • 定量的評価: 勤怠管理システムから時間外勤務時間の実績データを抽出し、目標値との差異を分析します。テレワークの利用実績やRPAによる削減時間も数値で把握します。
  • 定性的評価: 職員へのアンケート調査や、各部署の管理職へのヒアリングを実施し、施策に対する満足度や、現場で感じている課題などを収集します。例えば、「テレワークは導入されたが、コミュニケーションが取りづらくなった」といった声がないかを確認します。

 Action:改善と次期計画への反映

 評価(Check)の結果、明らかになった課題に対する改善策を検討し、実行します。

  • 改善策の例: テレワークのコミュニケーション課題に対しては、チャットツールの活用ルールを策定したり、Web会議のガイドラインを作成したりします。タイムマネジメント研修の効果が薄いと判断されれば、カリキュラムを見直したり、講師を変更したりします。
  • 次期計画への反映: 年度末の総括では、その年のKGIの最終的な達成度を評価し、成功要因と失敗要因を分析します。この分析結果を基に、次年度の新たなKGI・KPIを設定し、次のPDCAサイクルへと繋げていきます。

 この組織的なPDCAサイクルを回し続けることで、人事課は経験や勘に頼る運営から脱却し、データに基づいた継続的な改善を通じて、組織全体のパフォーマンス向上に貢献する戦略的パートナーへと進化することができるのです。

個人レベルで実践するPDCAサイクル

 組織レベルのPDCAが人事課全体の戦略を動かすものであるとすれば、個人レベルのPDCAは、職員一人ひとりの成長とパフォーマンス向上を促すためのエンジンです。この個人レベルのPDCAサイクルを回すための最も重要な仕組みが、人事評価制度です。

 Plan:目標設定(期首面談)

 個人のPDCAサイクルは、年度当初に行われる上司との目標設定面談から始まります。これは、単に上司から目標が与えられる場ではありません。

  • 職員の役割: 職員は、所属部署の目標や自身の役割を理解した上で、「この一年で何を達成したいか」「どのような能力を伸ばしたいか」を考え、具体的な業務目標の案を作成します。例えば、人事課の若手職員であれば、「給与計算業務を独力で完遂し、処理ミスを前任者から50%削減する」「職員研修の企画・運営を主担当として1件成功させる」といった、測定可能で達成可能な目標を設定します。
  • 上司の役割: 上司は、職員が設定した目標が、部署の目標と整合性が取れているか、難易度は適切かを確認し、対話を通じて最終的な目標を共に設定します。このプロセスは、職員に一年間の仕事の方向性を明確に示し、主体的な行動を促すための重要な動機付けとなります。

 Do:業務遂行とOJT

 目標が設定されたら、職員はその達成に向けて日々の業務を遂行します。この期間は、単なる「実行」の段階ではありません。

  • 職員の役割: 計画通りに進んでいる点、困難に直面している点を自ら記録・認識し、主体的に課題解決に取り組みます。
  • 上司の役割: 上司は、部下の業務遂行を放置するのではなく、定期的に進捗を確認し、必要な指導・助言(OJT)を行います。重要なのは、答えをすぐに教えるのではなく、「どうすればこの課題を解決できると思う?」といった問いかけを通じて、職員自身に考えさせ、自律的な成長を支援する姿勢です。

 Check:評価・振り返り(期末面談)

 年度末には、一年間の成果を振り返る評価の段階に入ります。

  • 職員の役割: まず、設定した目標に対して、自身の達成度を客観的な事実やデータに基づいて自己評価します。何がうまくいき、何が課題として残ったのかを言語化することで、自己の成長と課題を客観的に認識します。
  • 上司の役割: 上司は、自己評価と、一年間の観察記録に基づき、最終的な評価を行います。期末面談では、評価結果を伝えるだけでなく、なぜその評価になったのか、具体的な行動や成果を挙げて丁寧に説明します。良かった点は具体的に褒め、改善すべき点は建設的に指摘することが、職員の納得感を高め、次への意欲に繋がります。

 Action:改善・フィードバック

 評価結果の伝達は、PDCAサイクルの終わりであると同時に、次のサイクルの始まりです。

  • 上司の役割: 評価の総括として、今回の評価で明らかになった強みや弱みを踏まえ、来年度に向けてどのような能力開発が必要か、どのような役割を期待するかを伝えます。このフィードバックが、次年度の新たな目標設定(Plan)の質の高いインプットとなります。
  • 職員の役割: フィードバックを真摯に受け止め、自身のキャリアプランと照らし合わせながら、次なる成長目標を考え始めます。

 このように、人事評価制度をPDCAサイクルとして捉え、上司と部下が一体となって運用することで、制度は単なる「査定」から、職員一人ひとりの成長を継続的に支援する「育成の仕組み」へと昇華するのです。

まとめ:これからの地方自治体を支える人事課職員へのエール

 本研修資料を通じて、地方自治体における人事課の業務がいかに多岐にわたり、かつ組織の根幹を支える重要なものであるかをご理解いただけたことと思います。採用から退職まで、職員のキャリアのあらゆる局面に関わり、その一つひとつの業務が、法令という厳格なルールと、職員一人ひとりの人生への配慮という繊細なバランスの上に成り立っています。

 現代の地方自治体は、人口減少、価値観の多様化、そして急速なデジタル化の波といった、かつてないほどの大きな変化の渦中にあります。このような時代において、人事課に求められる役割もまた、大きく変化しています。もはや、前例や慣習に従って事務を処理するだけの管理部門ではありません。データと対話に基づき、職員の能力を最大限に引き出し、変化に柔軟に対応できる resilient(強靭)な組織をデザインする「戦略的パートナー」へと進化することが求められています。

 本資料で学んだ、先進自治体におけるDX人材育成の取り組みや、データ駆動型人事(ピープルアナリティクス)の実践は、そのための具体的な道筋を示しています。RPAや生成AIといった新たなテクノロジーは、私たちを定型業務から解放し、より創造的で付加価値の高い業務に集中させてくれる強力な武器となるでしょう。

 しかし、どれだけ制度が洗練され、テクノロジーが進化しても、人事業務の核心にあるものが変わることはありません。それは、職員一人ひとりと真摯に向き合う姿勢です。職員の成長を心から願い、キャリアに寄り添い、安心して働ける環境を整える。その地道な努力の積み重ねこそが、職員のエンゲージメントを高め、組織全体の活力を生み出し、最終的には質の高い住民サービスとなって地域社会に還元されていくのです。

 人事課の仕事は、決して華やかではないかもしれません。しかし、皆さんの仕事は、間違いなく「人」を通じて組織を動かし、自治体の未来を創る仕事です。このマニュアルが、皆さんの日々の業務の一助となり、自信と誇りを持って職務を遂行するための羅針盤となることを心から願っています。これからの地方自治体を支えるのは、皆さんの情熱と専門性です。共に学び、挑戦し、未来を切り拓いていきましょう。

ABOUT ME
行政情報ポータル
行政情報ポータル
あらゆる行政情報を分野別に構造化
行政情報ポータルは、「情報ストックの整理」「情報フローの整理」「実践的な情報発信」の3つのアクションにより、行政職員のロジック構築をサポートします。
記事URLをコピーしました