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【DX推進課】職員の生成AI活用推進 完全マニュアル

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はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。

はじめに:生成AIが地方自治体にもたらす変革の波

 地方自治体を取り巻く環境は、今、大きな転換期を迎えています。少子高齢化と人口減少は、自治体職員の減少という形で行政の現場に直接的な影響を及ぼしており、限られた人的資源の中で、増大し、かつ多様化する住民ニーズに応え続けなければならないという構造的な課題に直面しています。このような状況下で、従来の働き方や業務プロセスを維持するだけでは、質の高い行政サービスを持続的に提供することが困難になることは明らかです。

 この大きな課題を乗り越えるための鍵として、生成AI(人工知能)が急速に注目を集めています。生成AIは、単なる業務の自動化ツールではありません。それは、行政運営のあり方そのものを変革し、職員一人ひとりの働き方を再定義する可能性を秘めた、破壊的技術です。文書作成、要約、情報収集、アイデア出しといった日常的な業務をAIに任せることで、職員はこれまで時間的制約から十分に手が回らなかった、より創造的で付加価値の高い業務、すなわち、政策の企画立案、複雑な課題解決、そして何よりも住民一人ひとりと直接向き合う業務に、その能力と時間を集中させることが可能になります。

 本研修マニュアルは、この変革の先導役となるDX推進課の職員の皆様を対象としています。生成AIの導入を成功に導くためには、技術的な知識だけでなく、戦略的な視点、法制度や倫理に関する深い理解、そして組織全体を巻き込んでいく推進力が不可欠です。本マニュアルでは、生成AI活用推進の意義と目的の明確化から、具体的な業務フローの構築、法的・倫理的基盤の整備、実践的な活用事例、組織への浸透手法、さらには事業評価に至るまで、DX推進課が担うべき全てのプロセスを網羅的かつ体系的に解説します。この一冊が、皆様が自信を持って生成AI活用を推進し、持続可能で質の高い行政サービスを実現するための一助となることを心より願っています。

第1部:DX推進課の役割と責務

生成AI活用推進の意義と目的

自治体経営資源の制約という背景

 今日の地方自治体が生成AIの活用を急ぐべき最大の理由は、深刻化する人材不足と業務負荷の増大という、避けては通れない現実にあります。総務省の調査では、2040年には自治体職員が現在の半数にまで減少するとの予測も出ており、限られた人員で質の高い行政サービスを維持・向上させることが、全ての自治体にとって喫緊の経営課題となっています。

 このような状況下で、生成AIは極めて有効な解決策となり得ます。AIを導入することによる直接的なメリットは多岐にわたります。

  • 人手不足への対応:住民からの定型的な問い合わせに24時間365日対応するAIチャットボットの導入などにより、職員の対応工数を削減し、人的リソースを再配置することが可能になります。
  • 業務効率化・生産性向上:議事録の要約、各種通知文のドラフト作成、データ集計といった日常業務をAIが代替・支援することで、職員はコア業務に注力でき、組織全体の生産性が向上します。実際に、先行導入した自治体では、全庁的に年間数千時間もの業務時間削減効果が見込まれるとの試算も報告されています。
  • コスト削減:業務の自動化による人件費の抑制や、これまで外部委託していた一部業務の内製化により、運営コストの削減に繋がります。
  • 住民サービスの品質向上:AIの活用は、ヒューマンエラーの削減や業務品質の平準化に寄与します。これにより、住民はいつでも、誰が対応しても一定水準以上のサービスを受けられるようになり、住民満足度の向上に直結します。

職員を「人でなければできない業務」へシフトさせる

 生成AI導入の真の目的は、単なる業務効率化やコスト削減に留まりません。その本質は、行政の在り方そのものを変革し、職員の役割をより高度で創造的なものへと進化させることにあります。生成AIの登場は、私たちに「コア業務とは何か」「人でなければできない業務とは何か」という問いを突きつけます。

 これまで多くの時間を費やしてきた定型的な事務作業から解放された職員は、その能力を以下のような高付加価値業務へと振り向けることができます。

  • 企画立案業務:AIが収集・整理したデータを基に、より深く、多角的な視点から政策を検討し、質の高い企画を立案する。
  • 複雑な課題解決:複数の部署や関係機関との調整、前例のない課題への対応など、高度なコミュニケーションと判断力が求められる業務に集中する。
  • 住民への直接的なサービス提供:一人ひとりの住民が抱える複雑な相談に対し、丁寧に向き合い、寄り添った支援を提供する。

 このように、生成AIは職員の能力を代替するのではなく、むしろ拡張するツールとして機能します。DX推進課は、この「職員の役割の再定義」というビジョンを組織全体で共有し、生成AIが職員から仕事を奪うのではなく、より人間らしい、やりがいのある仕事へと導くためのパートナーであることを明確に打ち出していく必要があります。このポジティブなメッセージこそが、職員の不安を払拭し、全庁的な協力体制を築く上で不可欠な要素となるのです。

DX推進課が担うべき中核的機能

技術導入者から組織変革の推進者へ

 生成AIの導入において、DX推進課の役割は単なる「ITツールの導入担当者」ではありません。むしろ、技術を触媒として組織文化そのものを変革していく「チェンジエージェント(変革の推進者)」としての役割が強く求められます。生成AIのポテンシャルを最大限に引き出すためには、技術的な環境整備と並行して、組織的な体制構築や人材育成が不可欠だからです。

 DX推進課が担うべき中核的機能は、以下の通りです。

  • ビジョン・戦略の策定 (Vision Setting):自治体全体の経営戦略と連携し、「生成AIを活用してどのような未来を実現したいのか」という明確なビジョンを描き、具体的な導入計画を策定します。これには、経営層を巻き込み、トップダウンでのコミットメントを得ることが極めて重要です。
  • ガバナンス体制の構築 (Governance):職員が安心してAIを活用できる「ガードレール」を整備します。具体的には、セキュリティが担保された利用環境の構築、情報漏洩や著作権侵害などのリスクを回避するための利用ガイドラインの策定と周知徹底が挙げられます(詳細は第2部で詳述)。
  • 人材育成とリテラシー向上 (Education & Literacy):全職員を対象とした体系的な研修プログラムを企画・実施します。研修は、単なるツールの使い方に留まらず、AI倫理やプロンプトエンジニアリングの基礎、具体的な業務活用事例の紹介など、職員のAIリテラシーを総合的に高める内容とすることが求められます。
  • 活用推進とナレッジ共有 (Promotion & Knowledge Sharing):庁内でのAI活用を促進するための仕組みを構築します。例えば、優れたプロンプトや活用事例を共有するポータルサイトの設置、部署対抗の「活用アイデアソン」や「プロンプトコンテスト」の開催などが有効です。これにより、成功体験が組織全体に横展開され、活用がさらに促進される好循環が生まれます。
  • 相談窓口とサポート体制 (Support):職員からの技術的な質問や活用に関する相談に応じるヘルプデスク機能を担います。現場の小さな成功や失敗の声を丁寧に拾い上げ、ガイドラインや研修内容の改善に繋げていくことが重要です。

生成AI活用推進の標準業務フロー

 生成AIの導入は、一度きりのイベントではなく、継続的な改善を伴うプロセスです。多くの先行自治体の事例から、成功のためには段階的かつ循環的なアプローチが有効であることが分かっています。以下に、DX推進課が主導すべき標準的な業務フローを5つのフェーズで示します。

フェーズ1:企画・実証実験(PoC)

  • 目的:本格導入に先立ち、限定的な範囲で生成AIの有効性と課題を検証する。
  • アクション:
    • 対象業務の選定: 業務効率化の効果が高く、かつ個人情報などを扱わないリスクの低い業務(例:挨拶文作成、アイデア出し、議事録要約など)をパイロット対象として選定します。
    • 予算・体制の確保: 経営層にPoCの目的と期待効果を説明し、必要な予算と協力体制(パイロット部署の選定など)を確保します。
    • 利用環境の選定: セキュリティを最優先に考え、入力したデータがAIの学習に利用されないAPI経由のサービスや、LGWAN(総合行政ネットワーク)内で利用可能なサービスを選定します。
    • パイロットユーザーの募集: 新しい技術に関心が高い職員を中心に、少人数のパイロットユーザーを募集します。

フェーズ2:ガイドライン策定・初期研修

  • 目的:パイロットユーザーが安全かつ効果的にAIを利用するためのルールと知識を提供する。
  • アクション:
    • ガイドライン(暫定版)の策定: 第2部で詳述する必須項目を盛り込んだ、実証実験用のガイドラインを作成し、周知します。
    • 初期研修の実施: パイロットユーザー向けに、ガイドラインの説明、基本的な操作方法、プロンプトのコツなどをレクチャーする研修会を実施します。

フェーズ3:試行利用・データ収集

  • 目的:実際の業務でAIを利用してもらい、定量的・定性的な効果を測定する。
  • アクション:
    • 試行利用の開始: 1ヶ月から3ヶ月程度の期間を設定し、パイロットユーザーに日常業務での積極的な活用を促します。
    • 効果測定:
      • 定量的データ: 利用ログの分析(利用回数、頻度など)、業務時間削減効果の試算。
      • 定性的データ: 利用後のアンケート調査(満足度、有用性など)、ヒアリングによる具体的な成功事例や課題の収集。

フェーズ4:評価・本格展開

  • 目的:PoCの結果を評価し、全庁展開に向けた計画を策定する。
  • アクション:
    • 結果分析と報告: 収集したデータを分析し、費用対効果(ROI)を含む実証実験結果報告書を作成し、経営層に報告します。
    • ガイドライン・研修内容の改善: パイロットユーザーからのフィードバックを基に、ガイドラインや研修資料を本格展開用に改訂します。
    • 本格展開計画の策定: 全職員を対象とした段階的な導入計画(利用環境の整備、研修スケジュールなど)を策定します。

フェーズ5:継続的改善・高度化

  • 目的:全庁的な活用を定着させ、より高度な活用へと発展させる。
  • アクション:
    • 恒常的なサポート体制の構築: 専門の相談窓口を設置し、定期的な勉強会や情報提供を行います。
    • ナレッジの蓄積と共有: 庁内ポータル等で、優れたプロンプト事例や各部署での活用事例を継続的に共有し、組織全体の知見として蓄積します。
    • 高度な活用の検討: RPAとの連携による業務自動化、自治体独自のデータを活用した専用AIの開発など、次のステップとなる高度な活用方法を検討・検証します。

第2部:法的・倫理的基盤の理解

根拠となる国のガイドラインと法規制

 生成AIの活用を推進する上で、法的・倫理的なリスクを適切に管理することは、住民の信頼を確保し、持続可能な運用を実現するための大前提です。DX推進課は、国が示すガイドラインや関連法規を正確に理解し、それらを遵守するための具体的な仕組みを構築しなければなりません。

デジタル庁「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」の解説

 2025年5月にデジタル庁が公表したこのガイドラインは、政府機関における生成AI活用のための統一的な指針であり、地方自治体においても強く参考にすべきものです。

 このガイドラインの核心は、「利活用の促進」と「リスク管理」を表裏一体で進めるという思想にあります。単にリスクを恐れて利用を制限するのではなく、適切なガードレール(安全策)を設けることで、行政サービスの向上に繋がる挑戦的な活用を後押しすることを目的としています。

 主なポイントは以下の通りです。

  • リスクベース・アプローチ:AIシステムの利用範囲や業務への影響度など4つの軸でリスクを評価し、リスクのレベルに応じた対策を講じることを求めています。高リスクと判断される案件については、専門家への事前相談を義務付けるなど、慎重な対応が求められます。
  • AI統括責任者(CAIO)の設置:各機関にAI活用に関する統括責任者(Chief AI Officer)を設置し、ガバナンス体制の構築やリスク管理、職員のリテラシー向上などを推進する体制を求めています。地方自治体においては、DX推進課の長などがこの役割を担うことが想定されます。
  • 職員向け利用ルールの策定:機密情報や個人情報の入力禁止、生成物のファクトチェック義務、著作権侵害の禁止など、職員が遵守すべき具体的なルールを定めることを求めており、これは各自治体がガイドラインを作成する際の基礎となります。

総務省「AI事業者ガイドライン」と自治体への示唆

 総務省と経済産業省が策定した「AI事業者ガイドライン」は、主にAI開発者や提供者を対象としていますが、AIを利用する組織(自治体も含む)にとっても重要な原則を示しています。特に、「人間中心のAI社会原則」を掲げ、AIの利用はあくまで人間を補助するものであり、最終的な判断や責任は人間が負うという点が強調されています。DX推進課は、この原則を職員に徹底させ、AIの出力結果を鵜呑みにせず、必ず人間の目で確認・判断するプロセスを業務に組み込む必要があります。

個人情報保護法と著作権法の遵守

 生成AIの利用において、特に注意すべき法律が個人情報保護法と著作権法です。

  • 個人情報保護法:住民の氏名、住所、生年月日などの個人情報や、公開されていない内部情報(要機密情報)を、外部の生成AIサービスに入力することは、原則として厳禁です。多くのサービスでは、入力された情報がAIモデルの学習データとして利用される可能性があり、これは個人情報の目的外利用や情報漏洩に繋がりかねません。たとえ学習に利用されない設定(オプトアウト)が可能であっても、情報が外部サーバーに送信されること自体がリスクとなり得ます。したがって、ガイドラインで入力禁止を明確に定め、全職員に徹底することが不可欠です。
  • 著作権法:著作権法は複雑な側面を持ちます。他者の著作物をAIに入力する行為自体は、著作権法第30条の4(情報解析のための複製等)により、著作権者の許諾なく行える場合があります。しかし、問題はAIが生成した「出力物」です。生成物が既存の著作物と類似している場合、それを公開・利用する行為は著作権侵害(複製権や公衆送信権の侵害)にあたる可能性があります。したがって、AIが生成した文章や画像を外部に公開する前には、既存の著作物と酷似していないかを確認するプロセスが必須となります。

表1:生成AI活用に関連する主要法令・ガイドラインの概要

法令・ガイドライン名所管DX推進課職員が理解すべき要点具体的な対策
個人情報保護法個人情報保護委員会原則として個人情報や要機密情報の入力は厳禁。API経由等、学習データとして利用されない安全な環境の利用が必須。利用ガイドラインで入力禁止情報を明記。職員研修での徹底周知。個人情報マスキングツールの導入検討。
著作権法文化庁AIへの入力は限定的に許容されるが、生成物(出力)が既存著作物と類似している場合、その利用は著作権侵害となりうる。生成物を外部公開・利用する際は、必ず既存著作物との類似性チェックを行うプロセスを義務化。著作権チェックツールを導入。
行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドラインデジタル庁リスクベース・アプローチに基づき、AIのリスクを評価し、レベルに応じた対策を講じる必要がある。最終的な判断・責任は人間が負う。自治体の実情に合わせたリスク評価基準を策定。ガイドラインに「最終判断は職員が行う」旨を明記。
AI事業者ガイドライン総務省・経済産業省「人間中心の原則」が基本。AIはあくまで人間の判断を補助するツールであり、AIに意思決定を委ねてはならない。職員研修でAIの役割と限界を教育。AIの出力を鵜呑みにせず、必ずファクトチェックを行う文化を醸成。

自治体における利用ガイドライン策定の実務

ガイドラインの必須項目

 国の指針や法規制を踏まえ、各自治体は自身の実情に合わせた利用ガイドラインを策定する必要があります。東京都、神戸市、鹿嶋市などの先行事例を参考にすると、実効性の高いガイドラインには以下の項目が含まれていることがわかります。

  • 1. 目的:ガイドラインが、懲罰や制限のためではなく、「生成AIの安全かつ効果的な活用を推進する」ためのものであることを明確に示します。
  • 2. 対象:
    • 対象ツール: 利用を許可する生成AIサービスを具体的に明記する「ホワイトリスト方式」を採用します。これにより、セキュリティリスクの高い野良AI(シャドーAI)の利用を防ぎます。
    • 対象職員: 正規職員、会計年度任用職員など、対象となる職員の範囲を定義します。
  • 3. 利用上のルール(禁止事項):
    • 入力禁止情報: 個人情報、非公開の政策情報、他者との秘密保持契約(NDA)に関わる情報など、入力してはならない情報を具体的かつ明確にリストアップします。
    • 禁止用途: 行政処分や職員の懲戒、入札の評価など、最終的な意思決定に直接利用することを禁止します。
  • 4. 生成物の取り扱い:
    • ファクトチェックの義務: 生成された情報には誤り(ハルシネーション)が含まれる可能性があるため、利用前に必ず職員自身が内容の正確性を確認(ファクトチェック)することを義務付けます。
    • 著作権の確認: 外部公開する前には、既存の著作物との類似性チェックを行うことを義務付けます。
    • 責任の所在: AIの生成物であっても、その内容に関する最終的な責任は利用した職員自身が負うことを明記します。
    • 出典の明記: 生成物をそのまま外部文書に利用する場合は、「生成AIにより作成」といった注記を推奨します。
  • 5. 相談窓口:利用方法や判断に迷った際の相談先として、DX推進課の連絡先を明記します。

 ここで重要なのは、ガイドラインを単なる「禁止集」にしないことです。優れたガイドラインは、職員を守るための「ルール」と、活用を促すための「ヒント」の両輪で構成されています。例えば、東京都や神戸市のガイドラインでは、禁止事項と並行して、「効果的な活用事例」や「プロンプトのコツ」といったポジティブな情報も豊富に掲載しています。このような構成にすることで、職員の萎縮を防ぎ、安全な範囲内での積極的・創造的な活用を促す「イネーブラー(実現を後押しするもの)」としての役割を果たすことができるのです。

AI倫理と向き合うための重要原則

 法規制の遵守に加え、DX推進課はより広い視野で「AI倫理」という課題に向き合う必要があります。AIが社会に与える影響は大きく、行政利用においては特に高い倫理性が求められます。

ハルシネーション、バイアス、透明性の課題

  • ハルシネーション(もっともらしい嘘):生成AIは、事実に基づかない情報を、あたかも事実であるかのように生成することがあります。これはAIの技術的な特性に起因するものであり、完全な解消は困難です。したがって、政策の根拠や住民への回答など、正確性が求められる場面では、必ず一次情報にあたって裏付けを取る「ファクトチェック」が不可欠です。
  • バイアス(偏見):AIは、その学習データに含まれる社会的な偏見(ジェンダーバイアス、人種的バイアスなど)を再生産し、増幅させてしまう危険性があります。例えば、過去のデータから特定の属性を持つ住民に不利な判断を導き出す可能性があります。AIの生成物を利用する際は、特定の集団に対する差別や偏見を助長する内容になっていないか、人間の目で批判的に吟味することが重要です。
  • 透明性(ブラックボックス問題):現在の生成AIは、なぜそのような回答を生成したのか、その思考プロセスを完全に説明することが困難です。行政には住民に対する説明責任があるため、AIの判断をそのまま根拠とすることはできません。必ず「人間が介在(Human in the Loop)」し、人間が自身の言葉で論理的に説明できる形で最終的な意思決定を行う必要があります。

住民の信頼を確保するための倫理的配慮

 行政がAIを利用する上で最も大切なことは、住民からの信頼です。そのためには、技術的な対策だけでなく、倫理的な配慮が欠かせません。

  • 透明性の確保:住民向けサービスでAIを利用する際には、その旨を明示し、AIがどのような目的で、どのように機能するのかを分かりやすく説明することが望ましいです。
  • 人間の尊厳の尊重:特に福祉や教育、生命に関わるような分野では、AIはあくまで人間の専門家の判断を支援する補助的な役割に徹するべきです。最終的な判断は、個々の状況を深く理解できる人間が行うことで、一人ひとりの尊厳を守ります。
  • 公平性・公正性の担保:AIの利用によって、特定の住民が不利益を被ることのないよう、常に公平性の観点からシステムの運用を監視し、必要に応じて見直しを行う体制を構築することが重要です。

第3部:具体的な活用事例と応用知識

庁内業務の効率化・高度化事例

 生成AIの導入効果を職員に実感してもらう最も確実な方法は、日々の業務ですぐに使える具体的な活用例を示すことです。多くの職員は、生成AIという言葉は知っていても、自身の仕事にどう活かせばよいかイメージできずにいます。このギャップを埋めることが、DX推進課の重要な役割です。以下に、部署や業務に応じた具体的なユースケースと、そのまま使えるプロンプト例を提示します。


表2:部署別・業務別 生成AI活用ユースケースとプロンプト例

対象部署活用業務プロンプト例期待される効果
総務課・秘書課首長・幹部職員の挨拶文(スピーチ原稿)の起案あなたは[自治体名]の優秀な秘書です。以下の条件に基づき、市長が[イベント名]で行う挨拶文の草案を、800字程度の丁寧な言葉遣いで作成してください。#条件- 挨拶の目的: [目的を記述]- 聴衆: [対象者を記述]- 必ず含めるべきキーワード: [キーワード1, キーワード2]- 伝えたいメッセージ: [メッセージを記述]原稿作成時間を50%以上削減し、より推敲に時間をかけられる。
広報課SNS(X, Facebook)の投稿文作成あなたは[自治体名]の広報担当者です。以下のイベント情報を元に、子育て世代の母親に響くような、親しみやすく、絵文字を適度に使ったFacebook投稿文を3案作成してください。#イベント情報- イベント名: 親子ふれあいフェスティバル- 日時: 〇月〇日(土) 10:00-15:00- 場所: 市民公園- 内容:...- 参加費: 無料複数の投稿案を短時間で比較検討でき、住民エンゲージメントが向上する。
福祉課困難ケースに関するケアプランの論点整理あなたは経験豊富なケアマネージャーです。以下の架空のケースについて、多職種連携会議で検討すべき論点を5つ、箇条書きで整理してください。#ケース情報- 対象者: 80代男性、独居、軽度認知症- 課題: 服薬管理が不安定、社会的孤立- 家族構成: 遠方に長女#制約条件- 個人情報は一切含めないこと。複雑なケースの課題を構造化し、会議での議論の質を高める。
税務課住民からの問い合わせメールへの返信文案作成あなたは[自治体名]の税務課職員です。住民からの「固定資産税の納付書を紛失した場合の手続き」に関する問い合わせメールへの返信文案を作成してください。#条件- 丁寧かつ分かりやすい言葉遣いで作成する。- 再発行手続きの窓口、必要な持ち物を明記する。- 自治体のウェブサイトの関連URLを記載する。定型的な返信文の作成時間を80%削減し、回答の迅速化と標準化を実現する。
議会事務局委員会での答弁内容の要約作成以下の議会答弁のテキストを、新聞記事で使われるような客観的かつ簡潔な言葉で、300字以内に要約してください。#答弁テキスト[ここに答弁の全文を貼り付け]長時間の議事録を確認する手間を省き、迅速な情報共有と報告書作成を可能にする。

分野横断的な活用法

 上記の部署別ユースケースに加え、ほぼ全ての部署で共通して活用できる汎用的な用途が存在します。

  • 文書作成・要約・校正:最も基本的かつ効果的な活用法です。各種報告書、通知文、メール、企画書のドラフト作成、長文資料の要約、誤字脱字のチェックなど、あらゆる文書業務の質とスピードを向上させます。
  • アイデア出し(ブレインストーミング):新しい市民向けサービスの企画、イベントのキャッチコピー、業務改善のアイデアなど、行き詰まった際に多様な視点を提供させることができます。一人では思いつかないような斬新な切り口が得られることも少なくありません。
  • プログラミング支援:専門的な知識がなくても、簡単な業務自動化ツールを作成できます。「こういう処理をするExcelマクロのコードを書いて」と指示するだけで、VBAやPythonのコードを生成させることが可能です。これにより、データ入力や集計作業を大幅に効率化できます。
  • 翻訳・多言語対応:外国人住民向けの案内文の作成や、海外の先進事例を調査する際の文献翻訳など、多言語コミュニケーションを円滑にします。特に、複数の言語に同時に翻訳させることができるため、広報活動の効率が飛躍的に向上します。

住民サービス向上のための先進的取組

 生成AIの活用は、庁内業務の効率化に留まらず、住民サービスの質を直接的に向上させるための強力な武器となります。

AIチャットボットによる24時間365日の問い合わせ対応

 多くの自治体で導入が進んでいるのが、AIチャットボットです。従来のシナリオ型チャットボットと異なり、生成AIを活用したチャットボットは、より自然な対話形式で住民の質問の意図を汲み取り、的確な回答を生成できます。

  • 活用例:
    • 総合案内: 引っ越し、子育て、ごみ分別など、住民からの幅広い問い合わせに24時間対応。
    • 専門分野特化: 子育て支援制度に関する専門チャットボットを導入し、複雑な制度内容を分かりやすく案内する(京都市の例)。
  • 効果:職員の問い合わせ対応業務の負荷を大幅に軽減すると同時に、住民は市役所の開庁時間を気にすることなく、いつでも情報を得られるようになり、利便性が大きく向上します。

福祉・介護分野での応用

 福祉・介護分野は、個々の状況に応じたきめ細やかな対応が求められるため、AIのデータ分析能力が特に活きる領域です。

  • AIケアプラン作成支援:広島県や愛媛県西条市などでは、ケアマネージャーのケアプラン作成を支援するAIシステムを導入しています。AIが利用者の状態や過去の事例データを分析し、自立支援に繋がるサービスの選択肢を提案することで、ケアマネージャーの作業時間を65%削減し、要介護度の改善率を3.4ポイント向上させたという成果も報告されています。AIはあくまで選択肢を提示するだけで、最終的な判断はケアマネージャーが行うという、人間とAIの協業モデルの好例です。
  • 認知症予防プログラム:横須賀市では、高齢者と自然な対話を行うAIを活用したトークセラピーの実証実験を行い、参加者の認知機能テストのスコアが8.5%向上するという結果を得ています。これは、AIが社会的孤立の解消や認知機能の維持に貢献できる可能性を示しています。

議会活動の高度化

 生成AIは、執行部だけでなく、議会活動の質を高めるためにも活用できます。

  • 活用例:
    • 質問作成支援: 議員が膨大な資料を読み込み、論点を整理し、質の高い質問を作成するプロセスをAIが支援します。
    • 答弁の予測: 過去の議事録データを学習させることで、質問に対する執行部からの答弁を予測させ、より深い議論に備えることができます。
  • 効果:新人議員でもベテラン議員と同水準の準備が可能となり、議会全体の質問レベルの底上げに繋がります。これにより、議会のチェック機能が強化され、より質の高い政策形成が期待できます。

東京都・特別区の先進事例と広域連携の動向

 生成AIの導入においては、特に大都市圏の自治体が先進的な取り組みを進めており、その知見は他の自治体にとって非常に有益です。一方で、自治体の規模によって導入状況に大きな格差があるという現実も直視しなければなりません。

東京都の全庁的展開モデル

 東京都は、全国に先駆けて全庁的な生成AI活用に踏み切ったモデルケースです。その成功の鍵は、周到な準備と職員を巻き込む巧みな推進手法にあります。

  • 安全な利用環境の早期整備:マイクロソフト社の「Azure OpenAI Service」を活用し、入力した情報が外部に漏洩したり、AIの学習に使われたりしない、セキュリティが担保された専用環境を構築しました。
  • ガイドラインと活用事例の同時提供:利用開始と同時に、詳細なガイドラインを策定・公表しました。特筆すべきは、禁止事項だけでなく、「効果的な活用方法」として具体的なプロンプト例やユースケースを豊富に盛り込んだ点です。
  • 職員参加型のアイデアソン:「自分の業務で生成AIをどう使えるか」をテーマに、全庁の職員からアイデアを募集する「アイデアソン」を実施しました。これにより、現場のニーズに即した約600件もの具体的な活用アイデアが集まり、それらをガイドラインに反映させることで、より実践的な内容へと進化させています。

横須賀市の「生成AI開国」アプローチ

 横須賀市は、全国の自治体で最も早く全庁的な活用実証に踏み切った「パイオニア」として知られています。その特徴は、スピード感と徹底した情報公開にあります。

  • 迅速な意思決定と実証開始:市長のトップダウンにより、2023年4月という早い段階で全庁約4,000人を対象とした実証実験を開始しました。
  • 徹底した情報公開とナレッジ共有:実証実験の結果を、成功体験(ポジティブな点)だけでなく、課題(ネガティブな点)も含めて詳細に公表しました。この透明性の高い姿勢が多くの自治体の関心を集め、60を超える自治体からの問い合わせに繋がりました。横須賀市は、蓄積したノウハウを他自治体向けの研修という形で積極的に提供しており、「生成AI開国の地」としてナレッジハブの役割を担っています。
  • 外部専門家の登用と職員のスキルアップ:AI分野の第一人者である深津貴之氏を「AI戦略アドバイザー」に迎え、職員向けのスキル強化プログラムやプロンプトコンテストを実施するなど、継続的なスキルアップに取り組んでいます。

神戸市の条例制定とリスクアセスメント

 神戸市は、全国で初めてAIの活用に関する包括的な条例を制定するなど、ガバナンスを重視した先進的なアプローチをとっています。

  • AI活用条例の制定:単なるガイドラインに留まらず、条例という形でAI活用の基本原則(非公開情報の入力禁止など)や市の責務を定めました。
  • リスクアセスメントの義務化:特に、市民の権利利益に影響を与える行政処分などにAIを活用する際には、事前にリスクを評価する「リスクアセスメント」の実施を義務付けています。これは、国のガイドラインが示すリスクベース・アプローチを具体化したものであり、AIの安全な活用に向けた成熟したモデルと言えます。

 これらの先進事例が示す一方、都道府県レベルでは95%以上が導入・実証に着手しているのに対し、市区町村レベルでは導入済みが10%に満たないという大きな「導入格差」が存在します。この格差を埋める鍵は「広域連携」です。都城市が開発し、多くの自治体が共同利用するLGWAN対応プラットフォーム「zevo」のように、導入コストやノウハウ(プロンプト、ガイドライン等)を複数の自治体で共有する仕組みは、特にリソースの限られた中小規模の自治体にとって極めて有効です。DX推進課は、自庁内での推進活動と並行して、都道府県や近隣自治体との連携を積極的に模索し、共同での導入やナレッジ共有を進めていく視点が不可欠です。

第4部:実践的スキルと推進手法

成果を生み出すプロンプトエンジニアリング

 生成AIを効果的に活用できるかどうかは、利用者からの指示、すなわち「プロンプト」の質に大きく左右されます。質の高いプロンプトを作成する技術は「プロンプトエンジニアリング」と呼ばれ、全職員が習得すべき基本的なスキルです。

良いプロンプトの基本構造

 漠然とした指示では、期待する回答は得られません。良いプロンプトは、AIが役割を理解し、文脈を把握し、何をすべきかを明確に認識できるような構造を持っています。以下の4つの要素を意識することが基本です。

  • 1. 役割 (Role):AIに特定の専門家や立場になりきってもらう。「あなたはプロの編集者です」「あなたは自治体の広報担当者です」のように、役割を与えることで、回答のトーンや専門性が向上します。
  • 2. 背景・文脈 (Context):タスクの目的や背景情報を提供します。「〇〇という目的で、〇〇向けの資料を作成しています」といった文脈を与えることで、AIはより的確な回答を生成できます。
  • 3. 指示 (Task):実行してほしい作業を具体的かつ明確に伝えます。「要約してください」ではなく、「箇条書きで3点に要約してください」のように、具体的に指示します。
  • 4. 出力形式 (Format):回答の形式を指定します。「表形式で出力してください」「〇〇字以内で記述してください」など、望ましいアウトプットの形を明確に伝えます。

 【悪いプロンプト例】

 DXに関するセミナーテーマを考えて。

 【良いプロンプト例】

 #役割あなたは自治体のDX推進課職員向けの研修を企画する担当者です。#背景・文脈若手職員を対象に、生成AIの業務活用への関心を高めることが目的です。専門用語は避け、実践的な内容が求められています。#指示上記の目的と背景を踏まえ、魅力的で参加したくなるようなセミナーのテーマ案を5つ提案してください。#出力形式・各テーマはキャッチーなタイトルと、その内容を説明する短い文章(100字程度)のセットで出力してください。

回答精度を高めるテクニック

 基本構造に加え、以下のテクニックを用いることで、さらに回答の精度を高めることができます。

  • 段階的思考(Step-by-Step Thinking):複雑なタスクを依頼する際に、「ステップバイステップで考えてください」という一文を加えることで、AIは論理的な思考プロセスを経て回答を生成するため、精度が向上する傾向があります。
  • 対話による改善(Iterative Refinement):一度で完璧な回答を求めず、AIとの対話を繰り返すことが重要です。最初の回答に対して、「その視点は良いですね。では、〇〇という要素も加えて修正してください」のようにフィードバックを与えることで、段階的に理想の回答に近づけていくことができます。
  • 具体例の提示(Few-shot Prompting):AIに回答してほしい形式の具体例を1つか2つ示すことで、AIはその形式を模倣して回答を生成します。これにより、期待通りのフォーマットで出力される確率が格段に高まります。

リスク管理ツールの活用

 ガイドラインの策定や職員研修といった人的な対策に加えて、技術的なツールを活用してリスクを管理することも、安全なAI活用環境を構築する上で非常に有効です。

入力情報の安全性を確保する:個人情報マスキングツール

 職員が誤って個人情報や機密情報をプロンプトに入力してしまうヒューマンエラーは、完全には防ぎきれません。このリスクを技術的に低減するのが「個人情報マスキングツール」です。

  • 機能:これらのツールは、AIがテキストデータの中から氏名、住所、電話番号、マイナンバーといった個人情報を自動で検出し、「〇〇〇〇」のような伏字にしたり、別の無意味な文字列に置き換えたり(マスキング)します。
  • 活用:職員が生成AIを利用する際に、このツールを介してプロンプトを入力する仕組みを構築することで、万が一個人情報が含まれていても、それがマスキングされた状態で外部のAIサービスに送信されるため、情報漏洩のリスクを大幅に低減できます。これは、職員が安心してAIを利用するための技術的なセーフティネットとなります。

出力情報の正当性を確認する:著作権チェックツール

 生成AIが作成した文章が、意図せず既存のウェブサイトや文献の内容と酷似してしまうリスクは常に存在します。特に広報物や報告書など、外部に公開する文書については、著作権侵害を避けるための確認が不可欠です。

  • 機能:「コピペチェックツール」とも呼ばれるこれらのツールは、入力された文章がインターネット上の膨大なコンテンツとどの程度類似しているかを判定し、類似箇所を具体的に示してくれます。
  • 活用:生成AIで作成した文章を外部公開する前の最終チェック工程として、このツールの利用を義務付けることが有効です。無料のツールから高機能な有料ツールまで様々な種類があるため、用途や予算に応じて適切なツールを選定し、著作権侵害のリスクを組織的に管理する体制を構築します。

生成AI活用を組織に浸透させるためのPDCAサイクル

 生成AIの活用を一部の先進的な職員の取り組みで終わらせず、組織全体の文化として定着させるためには、継続的な改善活動が不可欠です。そのためのフレームワークが「PDCAサイクル」です。効果的な推進のためには、DX推進課が主導する「組織レベルのPDCA」と、職員一人ひとりが実践する「個人レベルのPDCA」を両輪で回していくことが重要です。この二つのサイクルが連動することで、個人の気づきが組織の改善に繋がり、組織の支援が個人の成長を促すという好循環が生まれます。

組織レベルのPDCA

  • Plan(計画):
    • 目標設定: 「全職員の8割が月1回以上利用する」「研修参加者の満足度90%以上」「プロンプト共有サイトに月10件の新規投稿」など、生成AI活用推進に関する具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定します。
    • 行動計画: KPI達成のための具体的な行動計画(研修会の開催スケジュール、活用事例の広報計画、パイロット部署の拡大計画など)を策定します。
  • Do(実行):
    • 計画に基づき、利用環境の整備、ガイドラインの改訂、研修会の実施、広報活動など、具体的な施策を実行します。
  • Check(評価):
    • 効果測定: 設定したKPIの達成度を定期的に測定します。利用ログの分析、職員へのアンケート調査、ヒアリングなどを通じて、施策の効果と課題を客観的に評価します。
    • 課題分析: 「なぜ利用率が伸び悩んでいるのか」「どの部署で活用が進んでいないのか」など、評価結果から課題の根本原因を分析します。
  • Act(改善):
    • 計画の見直し: 評価・分析結果に基づき、行動計画を改善します。例えば、「研修内容が実践的でない」という声が多ければ、より業務に即した演習中心のプログラムに見直します。「プロンプトの作り方が分からない」という課題が明らかになれば、優れたプロンプトのテンプレート集を作成・配布するなどの対策を講じます。

個人レベルのPDCA

  • Plan(計画):
    • 業務の特定: 自身の日常業務の中から、「議事録の要約」「イベントの案内文作成」など、生成AIを活用できそうな具体的なタスクを一つ選びます。
  • Do(実行):
    • プロンプトの作成・実行: そのタスクを達成するためのプロンプトを作成し、生成AIに指示を出します。
  • Check(評価):
    • 出力の確認: 生成された回答が期待通りであったか、正確性や質は十分か、作業時間の短縮に繋がったかを評価します。
  • Act(改善):
    • プロンプトの改良: 期待通りの回答でなかった場合、「もっと具体的な指示を加えよう」「役割設定を変えてみよう」など、プロンプトを改良して再度試します。
    • ナレッジ化: うまくいったプロンプトは、自分用のテンプレートとして保存したり、部署内の同僚と共有したりします。この小さな成功体験の積み重ねと共有が、組織全体のスキル向上に繋がります。

第5部:事業立案と効果測定

費用対効果の高い事業立案のヒント

 生成AIの導入や活用推進には、ライセンス費用や研修費用などのコストが発生します。これらの投資に対する理解を経営層や議会から得るためには、その効果を定量的・定性的な両面から明確に示すことが重要です。

定量的効果の算出方法

 最も分かりやすく、説得力のある定量的効果は「業務時間削減による人件費換算コストの削減」です。愛知県尾張旭市の実証実験報告書で示されている算出方法は、他の自治体でも応用可能です。

 年間業務時間削減効果(人件費相当額) = 利用者数 × 一人当たり年間業務削減時間 × 平均時間単価

  • 利用者数:実際に生成AIを利用している職員数。
  • 一人当たり年間業務削減時間:アンケート調査やヒアリングに基づき、「1回の利用で平均〇分短縮」「月に平均〇回利用」といったデータから算出します。
  • 平均時間単価:自治体の職員の平均給与から、時間あたりの人件費単価を算出します。

 この他にも、以下のような指標で定量的な効果を示すことができます。

  • アウトソーシング費用の削減額:これまで外部に委託していた文字起こしや翻訳業務などを内製化した場合の費用削減額。
  • 印刷・用紙費用の削減額:会議資料の要約機能などを活用し、ペーパーレス化が進んだ場合の費用削減額。
  • 時間外勤務の削減時間:RPAと組み合わせることで、夜間のバッチ処理などを自動化した場合の時間外勤務の削減時間。

定性的効果の重要性

 生成AIの真の価値は、数字だけでは測れない定性的な効果にこそ現れる場合が多くあります。事業立案や成果報告の際には、これらの質的な変化も積極的にアピールすることが重要です。

  • 成果物の品質向上:AIによる多角的な視点の提供により、企画書や政策案の質が向上する。文章校正機能により、誤字脱字の少ない、質の高い文書を作成できる。
  • 職員の満足度・創造性の向上:単純作業から解放されることで、職員の仕事に対する満足度が向上し、より創造的な業務に取り組む意欲が湧く。
  • 住民サービスの質の向上:問い合わせへの回答が迅速化・正確化する。AIチャットボットにより24時間対応が可能になり、住民の利便性が向上する。
  • 意思決定の迅速化・高度化:AIによるデータ分析や要約により、経営層や管理職が迅速かつ的確な状況把握と意思決定を行えるようになる。

DX推進指標を活用した成果の可視化

 生成AIの活用は、自治体全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の一環です。その進捗状況を客観的に評価し、次なる一手へと繋げるために有効なツールが、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が提供する「DX推進指標」です。

IPA「DX推進指標」とは

 DX推進指標は、企業や組織が自らのDXへの取り組み状況を自己診断するためのフレームワークです。経営、IT、人材など様々な観点から設けられた質問に回答することで、組織のDX成熟度を可視化することができます。これは、組織の健康状態を把握する「健康診断」のようなものと捉えることができます。

自己診断による課題の特定と目標設定

 DX推進課が中心となり、経営層や各事業部門を巻き込んでこの自己診断を実施するプロセス自体に大きな価値があります。

  • 現状認識の共有:「ビジョンの共有」「人材育成・確保」といった項目について関係者が議論しながら回答を作成する過程で、組織が抱えるDXの現状や課題に対する共通認識が生まれます。
  • 課題の明確化:診断結果から、「経営層のコミットメントは強いが、現場のITスキルにばらつきがある」といった具体的な強みと弱みが明らかになります。
  • アクションプランの策定:明確化された課題に基づき、「全職員向けのAIリテラシー研修を拡充する」といった、次に取り組むべき具体的なアクションプランを策定しやすくなります。

ベンチマークによる客観的な立ち位置の把握

 自己診断の結果をIPAに提出することで、全提出団体の中での自組織の立ち位置を示した「ベンチマークレポート」を受け取ることができます。

  • 客観的な比較:同規模の他の自治体や、異業種の民間企業と比較して、自らのDXの進捗がどのレベルにあるのかを客観的に把握できます。
  • 説得力のある報告:この客観的なデータは、経営層や議会に対して、現状の課題や新たな予算要求の必要性を説明する際の、強力な根拠となります。

 DX推進指標を定期的に活用し、PDCAサイクルを回していくことで、生成AIの活用を含むDXの取り組みを、場当たり的ではない、データに基づいた戦略的なものへと昇華させることができるのです。

まとめ:未来を拓くDX推進課職員へのエール

 本研修マニュアルを通じて、生成AI活用推進という重要な任務を担うDX推進課の皆様が、その役割を全うするための知識、スキル、そして視座を体系的にお伝えしてまいりました。

 生成AIは、私たちの働き方、そして行政のあり方を根底から変える力を持っています。しかし、その力は、ただツールを導入するだけで自動的に発揮されるものではありません。明確なビジョンを掲げ、全庁的なコンセンサスを形成し、法的・倫理的なリスクを賢明に管理し、職員一人ひとりがその可能性を最大限に引き出せるよう粘り強く支援していく。その全てのプロセスにおいて、皆様DX推進課の職員が果たすべき役割は、まさに組織変革の「エンジン」そのものです。

 この道のりは、決して平坦ではないかもしれません。新しい技術に対する職員の戸惑いや不安、予算確保の難しさ、予期せぬ技術的課題など、様々な壁に直面することでしょう。しかし、先行する自治体の数々の成功事例が示すように、その先には、職員がより創造的で人間らしい仕事に喜びを見出し、住民がより質の高いサービスを享受できる、新しい自治体の姿が待っています。

 皆様は、単なる技術の導入者ではありません。皆様は、自らの手で自治体の未来を設計し、創造していくアーキテクトです。本マニュアルで得た知識を羅針盤とし、仲間と連携し、そして何よりも住民のためにという情熱を燃やし続けてください。皆様の挑戦が、自らの自治体だけでなく、日本の地方自治全体の未来を明るく照らす一筋の光となることを、心から信じています。

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