【東京都】待機児童が9年ぶり増加、増加分の6割超は特別区:2026年データで読む需要予測の限界
はじめに
※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。
エグゼクティブサマリー
待機児童とは、保育の必要性の認定を受けて保育所等の利用を申し込んだにもかかわらず、利用できていない児童のうち、こども家庭庁が定める調査要領に基づき特定の除外要件に該当しないものを指します。市区町村が子ども・子育て支援法に基づく子ども・子育て支援事業計画において需給を管理し、毎年4月1日時点で国が全国集計を行っています。
こども家庭庁が2026年8月28日に公表した「保育所等関連状況取りまとめ(令和8年4月1日)」によれば、全国の待機児童数は2,435人となり、前年の2,254人から181人増加しました。増加は2017年(平成29年)以来9年ぶりです。ピーク時の26,081人(2017年4月)と比べれば90.7%減という水準にあり、絶対量としては小さな数字です。
しかし、この181人の内訳を開くと、特別区の保育行政にとって看過できない構造が現れます。東京都以外の46道府県は合計で593人減少している一方、東京都だけが339人から1,113人へと774人増加し、3.3倍になりました。そして東京都の増加774人のうち、501人(64.7%)を特別区23区が占めています。23区の合計は前年99人から600人へと6.1倍に膨らみました。さらに、全国で待機児童が100人以上となった自治体は3団体のみですが、その3団体はすべて特別区です(世田谷区166人、足立区106人、北区103人)。
つまり今回の「9年ぶり増加」は、全国的な保育供給不足の再燃ではありません。特別区という限定された地理的範囲で、需要側の政策変更が供給計画の想定を超えたという、きわめて局所的な現象です。そして、その局所的な現象が全国統計の符号を反転させるだけの重みを持ってしまうところに、特別区の保育行政の特殊性があります。
以下では、こども家庭庁の全国集計と、東京都福祉局が同日公表した「都内の保育サービスの状況」(表1から表4)の一次データをもとに、需要予測はなぜ外れたのか、なぜ区によってここまで結果が分かれたのか、なぜ1歳児に集中したのかという三つの論点を分解し、令和9年度予算編成と第3期子ども・子育て支援事業計画の見直しに向けた実務上の論点を整理します。
2026年4月時点の待機児童数:全国と東京都の到達点
全国の待機児童は2,435人、9年ぶりの増加
令和8年4月1日時点の全国値を確認します。待機児童数は2,435人で前年比181人の増加です。一方、保育所等の利用定員は約302万人となり前年から1.3万人減少しました。利用児童数は2,646,756人で前年から31,661人(1.2%)減り、5年連続の減少です。定員充足率は87.7%で前年から0.7ポイント低下しました。
ここで注目すべきなのは、待機児童が増えたのと同じ年に、定員も利用児童数も減っているという点です。全国レベルで見れば保育所は明確に縮小局面に入っており、待機児童の増加はその全国トレンドとは無関係に、局所的に発生しています。全国1,741市区町村のうち89.1%にあたる1,552自治体が待機児童ゼロであり、待機児童のいる自治体は189団体(前年から22団体減少)にとどまります。他方で、待機児童100人以上の自治体は前年の1団体から3団体へと増えました。分布は「ほとんどの自治体でゼロ、ごく一部に集中」という形にさらに先鋭化しています。
待機児童が生じた自治体へのヒアリングでは、主な要因として「申込者数の増加」が29.1%で最多となり、次いで「保育人材の確保が困難」が26.5%、「保育需要の地域偏在」が20.8%と続きました。申込増、人材難、地域偏在という三つの語が、現在の待機児童問題を説明する枠組みになっています。
東京都は1,113人、全国の45.7%を占める
東京都福祉局の集計を見ると、事態はさらに明瞭になります。就学前児童人口は令和7年4月の527,763人から令和8年4月の515,815人へと11,948人減少しました。ところが保育所等利用申込者数は320,062人から323,891人へと3,829人増加しています。この結果、申込率は60.6%から62.8%へと2.2ポイント上昇しました。保育サービス利用児童数も323,420人から325,918人へと2,498人増え、利用率は61.3%から63.2%へと1.9ポイント上昇しています。そして待機児童数は339人から1,113人へと774人増加し、3.3倍になりました。東京都の1,113人は全国2,435人の45.7%を占めます。
この一連の数字のうち、最も重要なのは分母と分子の動きが逆を向いている点です。分母である就学前児童人口が1年で11,948人減っているにもかかわらず、分子である申込者数は3,829人増えました。仮に申込率が前年の60.6%のまま横ばいであったなら、申込者数は約312,600人となり、前年より約7,500人減っていた計算になります。実際の申込者数は323,891人ですから、約1万1,300人分の申込が、人口動態から予測される水準を上回って発生したことになります。
この上振れの主因として指摘されているのが、東京都が令和7年(2025年)9月から、それまで原則自己負担であった0歳から2歳児クラスの住民税課税世帯の第1子についても保育料を無償化した措置です。3歳から5歳児と住民税非課税世帯はすでに無償化の対象でしたので、この措置により0歳から2歳児の保育料負担が事実上ゼロになりました。価格がゼロになれば需要が増えるという、政策としてはきわめて素直な帰結です。
特別区の内訳:待機児童ゼロの11区と100人超の3区
東京都の表4「区市町村別の状況」から特別区の待機児童数を抽出すると、23区の合計は600人で、前年の99人から501人増加し6.1倍となりました。東京都全体の増加774人のうち64.7%を特別区が占めた計算です。残る273人は多摩・島しょ地域の増加分であり、同地域の待機児童数は240人から513人になりました。
区別に見ますと、増加が最も大きかったのは世田谷区で166人(前年比119人増)、次いで足立区106人(同99人増)、北区103人(同85人増)と続きます。江戸川区は前年ゼロから75人、大田区も前年ゼロから48人へと増加しました。以下、板橋区35人(同28人増)、練馬区21人(同21人増)、墨田区17人(同12人増)、荒川区14人(同3人増)、文京区6人(同2人増)、台東区5人(同5人増)、中央区4人(同4人増)となっており、待機児童が増加したのは12区です。
一方で、千代田区、港区、新宿区、江東区、品川区、目黒区、渋谷区、中野区、杉並区、豊島区、葛飾区の11区は、令和7年に続き令和8年も待機児童ゼロを維持しました。
ここで確認しておきたいのは、特別区の増加率6.1倍が、東京都全体の3.3倍を大きく上回っているという事実です。保育料無償化は東京都全域に適用される政策であるにもかかわらず、その影響は特別区により濃く現れました。この非対称性が、後述する第二の論点につながります。
第一の論点:需要予測はなぜ外れたのか
「量の見込み」は人口を見て価格を見ていない
市区町村が策定する子ども・子育て支援事業計画の「量の見込み」は、就学前児童人口の推計に、家庭類型別の利用意向率を掛け合わせて算出するのが基本形です。特別区の多くは令和6年度中に第3期計画(令和7年度から令和11年度)を策定しており、その基礎数値は令和5年度から6年度時点のニーズ調査に基づいています。
ここに構造的な弱点があります。利用意向率は、調査時点の制度環境を前提とした値だという点です。計画策定後に保育料という価格変数が大きく動いた場合、意向率そのものが上方にシフトします。人口推計をどれだけ精緻にしても、意向率が固定されていれば需要の上振れは捕捉できません。今回の東京都の申込率は2.2ポイント上昇して62.8%となりましたが、この伸びは人口減のトレンドとは独立に発生しています。価格弾力性を計画に織り込む枠組みが現在の「量の見込み」には組み込まれていない、というのが第一の教訓です。
なお、申込率の上昇自体は今回に限った現象ではありません。東京都の申込率は令和3年51.9%、令和4年53.8%、令和5年56.2%、令和6年58.8%、令和7年60.6%、令和8年62.8%と一貫して上昇を続けており、対前年の伸びも順に1.2ポイント、1.9ポイント、2.4ポイント、2.6ポイント、1.8ポイント、2.2ポイントと推移しています。つまり、需要側は共働き世帯の増加と女性就業の拡大を背景に構造的に伸び続けており、無償化はその上に上乗せされた加速要因と理解するのが妥当です。人口減少という下押し要因と申込率上昇という押し上げ要因の綱引きの結果、申込者数は令和6年に322,578人、令和7年に320,062人と一度は減少に転じたものの、令和8年に323,891人へと反転しました。
待機児童の保護者の内訳が示す価格反応
東京都の表3「待機児童の保護者の状況」は、この点を裏づける示唆を含んでいます。主に保育に当たる者の状況を見ると、就労中(常勤)が720人で64.7%、就労中(非常勤)が158人で14.2%、求職中が162人で14.5%、その他(出産・看護等)が73人で6.6%という構成です。
常勤就労が64.7%と多数派である一方、非常勤と求職中を合わせた層が28.7%(320人)を占めている点は重要です。保育料が有償であった時期には、非常勤や求職中の世帯にとって「保育料を払ってでも預けるか」という費用便益の判断が働いていました。無償化はこの判断を一方向に押します。限界的な層ほど価格変化に反応するという経済行動の一般則が、そのまま申込行動に現れたと読むのが自然です。
裏を返せば、この層の需要は今後も価格や制度環境の変化に敏感に反応します。令和8年度から本格実施される「こども誰でも通園制度」(乳児等通園支援事業)は、就労要件を問わず0歳から2歳児を月一定時間の枠内で時間単位等により柔軟に預けられる新たな給付です。就労要件というハードルをさらに下げる制度であり、無償化で顕在化した潜在需要の上に、もう一段の制度変更が重なる年になります。
計画の見直しは中間年を待つ必要がない
こども家庭庁が令和7年9月29日に示した「第三期市町村子ども・子育て支援事業計画等における『量の見込み』の算出等の考え方(改訂版ver.3)」には、利用状況等が量の見込みと大きくかい離している場合には、計画期間の中間年を待たずして適切に見直しを行うこと、という趣旨の記載があります。
第3期計画の計画期間は令和7年度から令和11年度であり、中間年は令和9年度です。しかし今回のかい離は、計画2年目にして既に発生しました。中間年の到来を待って見直すという運用は、今回のケースでは制度の趣旨に照らして遅いと言わざるを得ません。令和8年4月時点で待機児童が発生した12区は、令和8年度中に量の見込みの再推計に着手し、令和9年度予算および整備計画に反映させる実務上の必要があります。
第二の論点:同じ制度でなぜ区ごとに結果が分かれたのか
保育サービス利用率の低い区で上振れが大きい
保育料無償化は東京都の政策であり、23区すべてに等しく適用されます。にもかかわらず、結果は11区がゼロ、3区が100人超と大きく分かれました。この差を生んだのは、各区がもともと持っていた供給の余裕と、潜在需要の規模です。
東京都の表4には区ごとの保育サービス利用率が併記されています。待機児童ゼロを維持した区には利用率の高い区が並んでおり、目黒区69.9%、江東区69.1%、葛飾区68.5%、豊島区68.4%といった水準です。これに対して、増加が大きかった区の利用率は世田谷区57.1%、足立区61.6%、江戸川区62.5%、北区69.3%と、北区を除けば相対的に低い水準にとどまります。
利用率が低いということは、未就園の0歳から2歳児という潜在需要のプールが相対的に大きいことを意味します。無償化はこのプールに直接働きかける政策でしたから、プールが大きい区ほど上振れの絶対量が大きくなります。世田谷区は就学前児童人口35,148人と23区で最大でありながら、利用率57.1%は23区で最も低い水準にあります。母数が大きく利用率が低い区で最大の上振れが起きたという結果は、事後的には整合的です。この関係は、他区が自区のリスクを見積もる際の簡便な指標として使えます。
もっとも、北区のように利用率が69.3%と高い水準にありながら103人の待機児童を出した例もあります。利用率だけで説明が尽きるわけではなく、年齢別の定員構成、年度途中の受入余力、隣接自治体との位置関係といった要因が重なった結果と見るべきです。単一の指標に依存せず、複数の要因を組み合わせて自区の脆弱性を評価する姿勢が求められます。
区境の需要移動という新しい変数
日本経済新聞は2026年8月28日の記事で、世田谷区や足立区など都境の自治体で増加が目立った点を指摘し、周辺3県に流出していた子育て世帯が、手厚い支援を求めて住宅価格が比較的安く都心へのアクセスもよい区にとどまった可能性を示唆しています。
これが事実であるならば、区の保育需要予測は自区の人口動態だけでは閉じないことになります。隣接自治体(他区および隣接県)の子育て支援策との相対的な魅力度が、転入や定住の判断を通じて自区の保育需要を左右するからです。
実務上の含意は明快です。第一に、需要予測に転入超過の要因分解を組み込むことです。転入世帯が子育て世帯かどうか、児童の年齢構成はどうか、転入元はどこかという情報は、住民基本台帳の移動データから相当程度把握できます。第二に、隣接区および隣接県の支援策改定を制度モニタリングの定常業務に位置づけることです。第三に、区の住宅政策や住宅取得支援と保育需要予測を同じテーブルで議論する体制を整えることです。
特別区は面積が小さく区境が多いという地理的条件を持ちます。世田谷区は神奈川県川崎市と、足立区、葛飾区、江戸川区は埼玉県および千葉県と接しています。境界を越えた需要移動の影響を最も受けやすい自治体類型であるという自覚が必要です。
待機児童ゼロを維持した11区の運用こそ情報価値が高い
政策立案の材料としては、待機児童が増えた区の分析だけでなく、ゼロを維持した11区がどのように吸収したのかという情報の価値が高いと考えられます。同じ無償化を受けながら待機児童を出さなかった区の運用、すなわち年齢別定員の弾力化、認証保育所や地域型保育事業の活用、年度途中の受入枠の設定、利用調整の運用といった実務の中身は、そのまま他区の対策メニューになります。
特別区長会や特別区協議会の枠組みを活用した運用実務レベルの相互照会は、追加の予算をほとんど要さずに効果が見込める施策です。統計上の「ゼロ」は結果であって、そこに至る運用の中身は公表資料からは読み取れません。この情報を取りに行くことは職員の仕事の範囲に十分収まります。
第三の論点:なぜ1歳児に集中したのか
東京都の待機児童の83.4%は1歳児
東京都の表3による年齢別内訳を見ると、令和8年4月の待機児童1,113人の構成は、0歳児76人、1歳児928人、2歳児103人、3歳児4人、4歳以上2人となっています。1歳児だけで83.4%、1歳児と2歳児を合わせると1,031人で92.6%、0歳児から2歳児では1,107人で99.5%に達します。全国値では1歳児と2歳児の合計が2,117人で86.9%ですから、東京都はさらに低年齢児への偏りが強い構造です。
前年からの増加774人の内訳を年齢別に見ると、1歳児が244人から928人へと684人増えており、増加分の88.4%を1歳児が占めます。今回の待機児童増加は、実質的に「1歳児問題」であると言い換えることができます。
この偏りは制度設計上、必然性のある部分を含みます。育児休業を取得した世帯の多くが、子が1歳に達する時期に復職を計画するため、1歳児クラスへの申込が集中する構造があるからです。ゼロ歳児クラスから在園している児童が持ち上がることで、1歳児クラスの新規受入枠は当初定員から在園児数を差し引いた残りに限られます。この「1歳の壁」は従来から指摘されてきた論点ですが、無償化によって申込者が増えたことで、壁の高さが可視化されたと理解できます。
認可保育所の定員は純減に転じた
供給側の状況を東京都の表2「保育所等の設置状況」から確認します。認可保育所は令和6年に3,623か所で定員320,389人、令和7年に3,640か所で定員320,637人、令和8年に3,650か所で定員320,530人と推移しています。令和8年は施設数が10か所増えた一方で、定員は107人減少しました。認証保育所は令和3年の500か所・定員16,718人から、令和8年には390か所・定員13,208人へと、5年間で110か所・3,510人が失われています。
一方で保育サービス利用児童数は325,918人であり、認可保育所の定員320,530人を上回っています。認証保育所、認定こども園、小規模保育事業、家庭的保育事業、事業所内保育事業、居宅訪問型保育事業、定期利用保育事業、企業主導型保育、区市町村単独施策等を合わせて受け皿が構成されているためです。とはいえ、認可の定員が純減に転じた年に需要が急増したという重なりは押さえておく必要があります。
そして最も重要なのは、定員には年齢別の内訳があるという点です。0歳児室、1歳児室、2歳児室は児童一人当たりの面積基準と職員配置基準が異なるため、単純に融通することはできません。少子化によって0歳児枠に空きが生じても、それがそのまま1歳児枠の不足を解消するわけではありません。総量では余っているのに1歳児で詰まるという状態は、全国の定員充足率87.7%という数字からは見えてこない現象です。
保育人材の不足が定員を空席にする
全国のヒアリングで「保育人材の確保が困難」が26.5%と第2位に挙がった意味も、この文脈で理解できます。認可上の定員が存在していても、保育士が確保できなければクラスを開けません。待機児童は「施設がない」ことによってだけでなく、「人がいない」ことによっても発生します。
1歳児の職員配置基準については、令和7年度から「1歳児配置改善加算」により6対1から5対1への改善が進められています。ただしこれは最低基準の改正ではなく公定価格上の加算措置であり、処遇改善加算の取得、ICTの活用、職員の平均経験年数10年以上といった要件を満たす施設が対象となります。なお4歳児と5歳児については、令和6年度に30対1から25対1への基準改善が行われました。制度発足以来75年間改善されてこなかった基準の見直しとして注目された措置です。
配置を手厚くすることは保育の質の向上として望ましい一方で、同じ児童数を受け入れるために必要な保育士数は増えます。人材確保に制約がある状況下では、質の改善と受入量の確保が緊張関係に立ち得ることを認識しておく必要があります。この関係を意識せずに加算取得の推進だけを進めると、量の面で足を引っ張る結果を招きかねません。
待機児童数という指標の限界と補完指標の設計
隠れ待機児童6万1,448人という規模
全国の待機児童数2,435人に対し、いわゆる「隠れ待機児童」は61,448人です。前年から3,041人減少したものの、待機児童数の約25倍という規模にあります。
「隠れ待機児童」は正式な統計用語ではなく、待機児童の定義から除外される児童の総称です。具体的には、特定の保育所等のみを希望している場合、求職活動を休止している場合、育児休業中である場合、地方公共団体が単独で実施する保育施策(東京都の認証保育所等)を利用している場合などが該当します。
この除外自体には合理性があります。例えば認証保育所を利用している児童を待機児童に算入すれば、認証保育所を熱心に整備した自治体ほど統計上の数字が悪化するという逆転が生じるからです。除外要件は自治体間の比較可能性を担保するための工夫でもあります。
ただし、待機児童数だけを政策目標に置くと、25分の1の事象を管理して25分の24を視野の外に置くことになります。特別区の場合、認証保育所の利用者が相当数を占めるため、この乖離はより大きくなりやすい構造にあります。
特別区が持つべき補完指標
議会答弁や計画のKPIとして、待機児童数に加えて次のような指標を並置することを提案します。
第一に、年齢別かつ地域別の入所内定率です。第1希望での内定率、第3希望までの充足状況を年齢別・地区別に集計することで、区内のどこの何歳が詰まっているかが特定できます。第二に、申込率の推移とその年齢別内訳です。東京都全体で60.6%から62.8%へと動いたこの指標は、待機児童数が動く前に需要の変化を捉えられる先行指標であり、計画のモニタリングに組み込む価値が高いと考えられます。第三に、年齢別の定員充足率です。総量ではなく1歳児枠の逼迫を可視化するために不可欠です。第四に、開設可能クラス数に対する保育士の実配置率です。供給制約が施設にあるのか人にあるのかを切り分けられます。第五に、年度途中入所の待機状況です。4月1日時点は年間を通じて最も条件のよい時点であり、その一時点のみを見ることは実態の過小評価につながります。
これらの指標はいずれも、区が既に保有しているデータから算出可能です。新たな調査を要するものではなく、集計軸を変えるだけで得られる情報である点に、着手の容易さがあります。
特別区の政策立案への示唆
量の見込みに制度変更シナリオを組み込む
人口推計に利用意向率を掛けるという単線の推計から、複数シナリオによる推計へ切り替えることが第一の示唆です。少なくとも、現行制度が継続するケース、都および国の制度変更が需要を押し上げるケース(無償化の定着、こども誰でも通園制度の利用進展)、転入超過が変動するケースの三つを置き、上振れケースでの必要枠を明示することが望まれます。
財政部門との協議においては、推計値そのものよりも、どの前提が崩れると何人ぶれるのかという感度を示すことが効果を持ちます。「上振れが生じる確率を20%と見込み、その場合の追加所要額は年間で数千万円規模」という形にできれば、リスク対応枠としての予算議論に持ち込めます。単一の推計値だけを示して外れた場合、翌年の説明が難しくなるという実務上の事情からも、幅を持たせた提示のほうが説得力を持ちます。
中間年を待たず令和8年度中に再推計に着手する
前述のとおり、国の考え方は量の見込みと利用状況が大きくかい離している場合に中間年を待たない見直しを求めています。令和8年4月に待機児童が発生した12区は、この要件に該当する可能性が高いと考えられます。
再推計の着手を令和8年度中に位置づけ、令和9年度予算要求および整備計画の改定に接続することが実務上の道筋です。逆に、令和8年4月に待機児童ゼロであった区についても、申込率の伸びが大きい場合には同様の点検を行うべきです。江戸川区と大田区がいずれも前年ゼロから75人・48人へと一気に増加した事実は、今年ゼロであったことが来年ゼロであることを保証しないという事実を端的に示しています。
整備は総定員ではなく1歳児枠で議論する
新規整備や定員拡大を検討する際には、総定員ではなく年齢別定員、とりわけ1歳児枠を単位として議論することが求められます。既存園における年齢別定員の組み替え、例えば0歳児枠を1歳児枠に振り替える措置は、新設よりも早く、かつ安価に実現できる可能性があります。面積基準、職員配置基準、保育士確保の三点を園ごとに確認し、組み替え可能量を洗い出す作業は、令和8年度中に着手できる実務です。
同時に、0歳児枠の余剰をこども誰でも通園制度の受け皿として活用する設計も検討に値します。令和8年度の公定価格の見直しでは、定員に余裕のある園がこども誰でも通園制度や障害児支援、地域子育て支援拠点機能を担う場合の質向上加算の強化が検討されています。空き枠を遊ばせずに別の政策目的に接続するという発想であり、区の施設整備計画もこの方向と整合させる余地があります。
供給制約の所在を施設から人へ切り替えて把握する
「認可定員」ではなく「実際に開設できるクラス数」を管理指標に据えることが第四の示唆です。区内各園について、保育士の充足状況、欠員数、採用見込みを定期的に把握し、定員はあるが人が足りずに受け入れられていない枠を定量化します。
そのうえで、区独自の処遇改善策、すなわち宿舎借上げ支援、キャリアアップ補助、就職支援金等の投入先を、この「人が足りずに空いている枠」に優先配分する設計に切り替えます。面的に薄く配分するよりも、ボトルネックに集中して投下するほうが、待機児童の解消に対する費用対効果は高くなります。区独自施策の費用対効果を議会に説明する際にも、この論理は使いやすいものです。
隣接自治体を外生変数ではなく観測対象にする
隣接区および隣接県の子育て支援策の改定、大規模住宅の供給計画、転入超過の年齢構成を定常的にモニタリングする体制の構築が第五の示唆です。
特に大規模住宅開発は、保育需要の増加を竣工の2年から3年前に予見できる数少ない情報です。開発事業者との協議の場、すなわち開発指導要綱やまちづくり条例に基づく手続の中で、想定入居世帯の年齢構成を早期に把握し、保育部門と共有する仕組みは多くの区に既に存在しているはずです。問題は、その情報が需要予測に実際に接続されているかどうかです。ここを点検することは、追加の予算を要さずに精度を上げられる領域です。
待機児童ゼロを維持した区に学ぶ
同じ制度環境で結果が分かれた以上、差は運用にあります。特別区長会、特別区協議会、保育担当課長会といった既存の枠組みを活用し、待機児童ゼロを維持した区の利用調整の運用、年齢別定員の弾力化、年度途中枠の設定、認証保育所や地域型保育事業の位置づけについて、実務レベルの照会を行うことが望まれます。
これは予算を要さない施策であり、着手が最も早い領域でもあります。「なぜ増えたのか」の分析と同じ熱量で、「なぜ増えなかったのか」を調べる姿勢が求められます。
令和8年度に重なる三つの制度変更
こども誰でも通園制度の本格実施
令和8年度から、こども誰でも通園制度(乳児等通園支援事業)が子ども・子育て支援法に基づく新たな給付として全国の自治体において実施されます。就労要件を問わず、月一定時間までの利用可能枠の中で時間単位等により柔軟に利用できる制度です。
この制度は未就園児の保育所等へのアクセスを広げるものであり、無償化によって顕在化した潜在需要と同じ層に働きかけます。国の「量の見込み」算出の考え方も、令和8年度以降の給付化に対応して改訂されており、乳児等通園支援事業に係る量の見込みの算出方法が新たに規定されました。同改訂では、利用ニーズが政策動向や地域の実情によって変動する可能性があることから実態を適切に把握すべきこと、把握の方法として利用希望調査への設問追加や乳児家庭全戸訪問事業での意向確認が挙げられています。ニーズ把握の手法自体が政策課題として明示されている点は、需要予測に取り組む部署にとって追い風になります。
保育公定価格の見直しと定員余裕の活用
令和8年度の公定価格の見直しでは、児童数が急減した園の収入が急激に低下しないよう調整する激変緩和措置と、定員に余裕がある状態を活用してこども誰でも通園制度の実施、障害児支援、地域子育て支援拠点機能などを充実させた園への加算強化が検討されています。
これは「定員が余っている」ことをマイナスとして扱うのではなく、政策資源として位置づける方向への転換です。全国の定員充足率が87.7%まで低下し、利用定員が前年から1.3万人減少する中で、供給側の再編を促す制度設計が動き始めています。特別区の場合、区全体では待機児童が発生していても、区内の一部地域や一部年齢では定員割れが生じている二重構造が珍しくありません。この加算の活用は、区内の需給ミスマッチを緩和する手段になり得ます。
1歳児配置改善加算の展開
1歳児の職員配置基準について、6対1から5対1への改善が加算措置として進められています。令和7年度予算では109億円が措置され、処遇改善加算の取得、ICTの活用、職員の平均経験年数10年以上といった要件を満たす施設が対象とされました。
保育の質の向上として重要な措置である一方、同じ児童数を受け入れるために必要な保育士数が増える点は、量の確保との関係で意識が必要です。特に今回、待機児童の83.4%が1歳児に集中したという事実を踏まえると、1歳児クラスの配置改善と1歳児枠の拡大は、保育士確保という同じ資源を奪い合う関係にあります。区としてどちらを優先するのか、あるいは両立させるためにどれだけの保育士確保策を追加投入するのかという判断が、令和9年度予算編成の論点になります。
この三つの制度変更はいずれも、待機児童が増加した年に重なります。量の確保と質の向上と余剰の活用を同時に扱わなければならないのが令和8年度以降の保育政策であり、これらを別々の担当が別々の資料で議論している限り、整合をとることは困難です。子ども・子育て支援事業計画の見直しを、この三つを統合的に扱う場として位置づけることが実務上の解になります。
令和9年度予算編成に向けた点検の視点
秋の予算編成を前に、区として点検すべき視点を整理します。
第一に、令和8年4月1日時点の申込率と年齢別の待機状況を、第3期計画の量の見込みと突合したかという点です。突合の結果かい離が生じている場合には、中間年である令和9年度を待たずに再推計する方針を庁内で決定する必要があります。第二に、需要予測に東京都の無償化、こども誰でも通園制度、転入動向を反映した複数シナリオを置いたかという点です。第三に、年齢別、とりわけ1歳児の定員充足率を算出し、既存園における年齢別定員の組み替え可能量を園ごとに洗い出したかという点です。
第四に、定員はあるが保育士が確保できずに開けていない枠を定量化したかという点です。そのうえで、処遇改善や宿舎借上げ等の区独自支援を、そのボトルネックに集中して配分する設計になっているかを確認します。第五に、0歳児枠の余剰をこども誰でも通園制度や一時預かりに接続する検討を行ったかという点です。第六に、隣接区および隣接県の支援策改定と大規模住宅開発の情報を、需要予測に接続する経路が庁内に存在するかという点です。
第七に、待機児童数以外の補完指標、すなわち申込率、年齢別定員充足率、年度途中の待機状況等を、議会説明や計画のモニタリングにおいて並置しているかという点です。そして第八に、待機児童ゼロを維持した区の運用実務について、照会や情報交換を行ったかという点です。
これらの点検は、いずれも新規の予算措置を前提とせずに着手できます。予算要求の前段階として、区が自らの状況を正確に把握しているかどうかを確認する作業として位置づけることができます。
まとめ
2026年4月の待機児童増加は、全国的な保育供給不足の再燃ではありませんでした。東京都の保育料無償化という価格政策が需要を動かし、その動きを量的整備計画が捉えきれなかったという、需要予測の失敗として理解すべき現象です。そして増加分の6割超を特別区が占め、全国で待機児童100人以上となった3団体はすべて特別区でした。
読み取るべき教訓は三つあります。第一に、需要は人口だけでは決まらないという点です。価格と制度が動けば、人口が減少していても需要は増加します。東京都では就学前児童人口が11,948人減った年に、申込者数が3,829人増えました。計画の推計はこの可能性を織り込む必要があります。第二に、同じ制度環境でも結果は運用によって分かれるという点です。11区が待機児童ゼロを維持し、3区が100人を超えました。この差は事後的に説明可能であり、したがって事前に対策することも可能です。第三に、制約は総量ではなく配置と人にあるという点です。全国の定員充足率は87.7%であり、施設は余っています。それでも1歳児で詰まります。管理すべきは総定員ではなく、年齢別の枠と、それを開けられる保育士の数です。
令和8年度は、こども誰でも通園制度の本格実施、公定価格の見直し、1歳児配置改善加算の展開という三つの制度変更が重なる年です。需要側の制度変更が続く年に、供給側の計画を据え置くことのリスクは、今回の数字が示したとおりです。待機児童2,435人という数字は、ピーク時の1割以下という到達点を示すと同時に、需要予測の前提が変わったことを告げる警告でもあります。この警告をどう受け止めるかは、各区の令和8年度中の判断にかかっています。




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