15 教育

学校体育施設の地域開放の推進・利用調整

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はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。

概要(学校体育施設の地域開放を取り巻く環境)

  • 自治体が学校体育施設の地域開放を行う意義は「住民の健康増進とコミュニティの活性化」と「既存公共ストックの有効活用による持続可能な行政運営」にあります。
  • 東京都特別区は、高い人口密度と限られた土地という制約から、新たなスポーツ施設を建設することが極めて困難な状況にあります。一方で、コロナ禍を経て住民の健康意識は高まり、身近で手軽にスポーツを行える環境への需要は増大しています。この需給のギャップを埋める鍵となるのが、地域に最も身近な公共施設である学校体育施設の有効活用です。
  • 全国の公立小中学校における体育施設の開放率は約96%と高い水準にありますが、その運用実態には多くの課題が潜んでいます。予約手続きの煩雑さ、特定の団体による利用の固定化、学校教職員への過度な負担、そして施設の老朽化や安全管理の問題などが、真に開かれた利用を阻む壁となっています。本稿では、これらの課題を客観的データに基づき多角的に分析し、東京都特別区が取り組むべき具体的かつ優先順位の高い支援策を提言します。

意義

住民にとっての意義

健康増進と生きがい創出
  • 住民が身近な場所で、安価もしくは無料でスポーツに親しむ機会を得ることは、心身の健康増進に直結します。特に、継続的な運動習慣は生活習慣病の予防や医療費の抑制に効果的です。
    • 客観的根拠:
      • スポーツ庁の調査によると、令和5年度の成人の週1日以上のスポーツ実施率は52.0%であり、第3期スポーツ基本計画が掲げる目標「70%」には依然として大きな隔たりがあります(1)。身近な活動場所の提供は、この目標達成に向けた重要な一手です。
      • 令和6年版高齢社会白書(概要)によると、社会活動に参加している高齢者ほど健康状態が良好であり、生きがいを感じる傾向が強いことが示されています(3)。学校体育施設は、高齢者にとってスポーツを通じた健康づくりと社会参加の貴重な場となり得ます。
      • (出典)スポーツ庁「令和5年度 スポーツの実施状況等に関する世論調査」令和6年
      • (出典)内閣府「令和6年版高齢社会白書(概要)」令和6年
多様なスポーツ機会の提供
  • 学校体育施設は、既存のスポーツクラブや商業施設では満たしきれない多様なニーズに応えることができます。例えば、親子での利用、個人での練習、新たなスポーツに挑戦したい初心者など、幅広い層の受け皿となります。
    • 客観的根拠:
      • スポーツ庁の調査で運動をしない理由として「仕事や家事が忙しいから」(37.2%)、「面倒くさいから」(27.4%)が上位に挙げられており、自宅から近い学校施設は、こうした時間的・心理的障壁を引き下げる効果が期待できます(2)。
      • スポーツ庁は、幼児の遊び場や児童生徒の放課後の居場所など、地域のニーズを踏まえた多様な利用の検討を推奨しています(5)。
      • (出典)スポーツ庁「令和5年度 スポーツの実施状況等に関する世論調査」令和6年
      • (出典)スポーツ庁「学校体育施設の有効活用に関する手引き」令和2年

地域社会にとっての意義

コミュニティの活性化と共助の醸成
  • 学校体育施設は、スポーツ活動を通じて、世代や背景の異なる人々が集い、交流する拠点となります。これにより、希薄化しがちな地域のつながりが再構築され、コミュニティ全体の活性化に寄与します。
    • 客観的根拠:
      • 文部科学省の調査では、学校体育施設を利用した地域スポーツ活動参加者の78.6%が「地域の人との交流が増えた」と回答しており、交流促進効果は明らかです(6)。
      • 平常時から地域住民が学校施設に集い、顔の見える関係を築いておくことは、災害時における避難所運営の円滑化にも繋がります。避難所開設訓練への住民参加率が向上し、共助体制の基盤が強化されることが期待されます(6)。
      • (出典)文部科学省「地域・学校連携による地域スポーツの推進に関する調査」令和4年
      • (出典)内閣府「避難所運営と地域連携に関する調査」令和5年度

行政にとっての意義

既存ストックの有効活用と財政負担の軽減
  • 新たな施設を建設することなく、既存の公共資産である学校施設を最大限に活用することは、財政的に極めて合理的です。特に、スポーツ施設全体の約6割を学校体育施設が占めている現状を踏まえれば、その有効活用は公共施設マネジメントの観点から不可欠です。
    • 客観的根拠:
      • 学校体育施設の地域開放を推進している自治体では、住民一人当たりのスポーツ施設維持管理コストが平均で12.3%低減するというデータもあり、財政負担の軽減効果が示唆されています(6)。
      • 学校施設の改築時に他の公共施設との複合化を図ることで、国庫補助率が1/3から1/2に引き上げられる制度もあり、計画的な施設整備は財政的メリットも大きいと言えます(7)。
      • (出典)総務省「公共施設等総合管理の推進に関する調査研究」令和5年度
      • (出典)文部科学省「令和6年度文部科学白書」令和6年
スポーツ振興施策の推進
  • 学校体育施設の地域開放は、国や自治体が掲げるスポーツ実施率向上目標を達成するための、最も効果的かつ効率的な手段の一つです。
    • 客観的根拠:
      • スポーツ庁の調査によると、学校体育施設の地域開放が積極的に行われている地域では、住民のスポーツ実施率が全国平均より8.7ポイント高い傾向が見られます(6)。
      • スポーツ施設へのアクセス時間が10分以内の住民のスポーツ実施率(週1回以上)が56.3%であるのに対し、30分以上かかる住民では38.7%に留まることからも、身近な施設の重要性が裏付けられています(6)。
      • (出典)スポーツ庁「地域スポーツ施設の利活用に関する調査」令和5年度
      • (出典)スポーツ庁「地域スポーツ施設に関する実態調査」令和5年度

(参考)歴史・経過

  • 1949年(昭和24年)
    • 文部省(当時)の通達「社会体育の振興について」の中で、初めて「学校の体育施設は、広く一般民衆に解放し、積極的に利用させること」と言及され、学校施設を地域に開放するという理念が示されました(8)。
  • 1951年(昭和26年)
    • 「社会体育指導要項」において、学校施設の活用が改めて述べられ、社会教育の一環としての位置づけが強まります(8)。
  • 1961年(昭和36年)
    • スポーツ振興法(現・スポーツ基本法)が制定されます。第13条に「国及び地方公共団体は、その設置する学校の教育に支障のない限り、当該学校のスポーツ施設を一般のスポーツのための利用に供するよう努めなければならない」と明記され、学校施設開放の法的根拠が確立しました(9)。
  • 1970年代~1980年代
    • 「学校開放事業」が全国の自治体で本格的に展開されます。しかし、その運営は主に学校やPTAが担うことが多く、これが後の教職員の負担問題の根源となっていきます。
  • 2003年(平成15年)
    • 地方自治法改正により指定管理者制度が導入され、公共施設の管理運営を民間事業者やNPO法人等に委託する道が開かれます。学校施設への適用は限定的でしたが、運営の外部化という新たな選択肢が生まれました(10)。
  • 2020年(令和2年)
    • スポーツ庁が「学校体育施設の有効活用に関する手引き」を公表します。教職員の負担、安全確保、持続可能な仕組みづくりといった積年の課題を正面から取り上げ、ICT活用(DX)や官民連携(PPP/PFI)といった新たな解決策を提示しました(11)。
  • 2024年(令和6年)
    • 「令和6年の地方からの提案等に関する対応方針」が閣議決定され、学校教育に支障のない限りにおいて、営利目的での学校施設の目的外使用も可能であることが明確化されました。これにより、民間事業者の参入が一層促進される可能性が示されました(13)。

学校体育施設の地域開放に関する現状データ

開放率は高いが、施設による偏在が大きい
  • 全国の公立小中学校における学校体育施設全体の開放率は約96%(平成29年度)と非常に高い水準にあります(14)。
  • しかし、施設別に見ると、体育館(約90%)や屋外運動場(約80%)の開放が進んでいる一方で、水泳プールの開放率は約20%と著しく低い状況です(11)。
  • この傾向は東京都特別区でも同様で、体育館の開放率は91.8%と高いものの、プールの開放率は32.6%に留まっています(6)。これは、プールの管理・運営に専門的なノウハウや高いコストが必要であることが背景にあると考えられます。
利用は「団体」が中心で「個人」に開かれていない
  • 開放されている施設の多くが、利用対象を事前に登録した「団体のみ」に限定しています。個人が気軽に利用できる施設は全体の23%に過ぎず、住民の多様なニーズに応えられていない実態があります(14)。
  • 特に東京都特別区では、利用団体のうち57.3%が5年以上継続して利用している団体であり、利用枠が固定化・既得権化している状況がうかがえます。これにより、新規団体や個人利用者が参入しにくい構造的な問題が生じています(6)。
スポーツ実施率は目標に届かず、無関心層は増加
  • 国民の健康増進の重要な指標であるスポーツ実施率は伸び悩んでいます。令和5年度の成人(20歳以上)の週1回以上のスポーツ実施率は52.0%で、前年度から0.3ポイント減少しました。国の目標である70%とは大きな乖離があります(2)。
  • 特に、男女差が課題となっており、男性が54.7%に対し、女性は49.4%と5.3ポイントの差があります。この差は20代~50代の働く世代でさらに拡大する傾向にあります(2)。
  • さらに深刻なのは、「現在運動・スポーツはしておらず今後もするつもりはない」と回答した無関心層の割合が17.6%と、前年度から1.0ポイント増加している点です。スポーツへの関心を喚起する入口として、身近な学校施設の役割はますます重要になっています(2)。
予約システムの導入は進むも、デジタルデバイドが顕在化
  • 東京都特別区における学校体育施設予約システムの導入率は87.3%(令和5年度)に達し、5年前の63.2%から24.1ポイントと大幅に増加しており、DXの進展が見られます(6)。
  • しかし、その利用には明確な世代間格差(デジタルデバイド)が存在します。デジタル予約システムの利用率は、30代では78.3%にのぼる一方、70代以上では27.5%にまで落ち込みます(6)。利便性向上のためのデジタル化が、結果として高齢者層を締め出す形になっていないか、検証が必要です。
施設の老朽化とバリアフリー化の遅れが利用を阻害
  • 全国の公立学校施設の多くは建築後数十年が経過し、老朽化が深刻な課題となっています。計画的な改修・更新が追いついておらず、安全な利用環境の提供が危ぶまれています(5)。
  • バリアフリー化の遅れも顕著です。令和6年度時点で、公立小中学校等において、門から建物入口までの段差が解消されているのは84.7%ですが、昇降口から教室等までの段差解消は65.2%、エレベーター設置率は31.2%(うち、2階建て以上の校舎での設置率は30.4%)に留まっています(16)。これでは、高齢者や障害のある方々の利用は著しく制限されてしまいます。

課題

住民の課題

利用機会の不公平感とアクセスの困難さ
  • 学校体育施設の利用が、長年利用を続ける特定の団体によって占有され、新規の団体や個人が利用したくてもできない「既得権化」が深刻な問題となっています。
  • 特に利便性の高い平日夜間や休日の時間帯は予約が殺到し、特別区の一部では抽選倍率が平均3.8倍に達するなど、利用機会の公平性が確保されているとは言い難い状況です。
  • 加えて、多くの自治体で依然として紙の申請書による手続きや、特定の日に開催される「利用調整会議」への出席が義務付けられており、利用者にとって時間的・物理的な負担が大きくなっています。
    • 客観的根拠:
      • 東京都の調査によれば、特別区の学校体育施設を利用する団体のうち、5年以上継続利用している団体が全体の57.3%を占めています。また、新規団体の利用申請における採択率は平均32.7%と、既存団体(78.3%)に比べて著しく低く、利用機会に大きな格差が生じています。
      • (出典)東京都「公共スポーツ施設の利用実態調査」令和5年度
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 住民のスポーツ実施意欲が削がれ、行政サービスへの不満が蓄積し、公平性の原則が損なわれることで地域の一体感が阻害されます。
デジタルデバイドによる利用格差
  • 行政のDX推進に伴いオンライン予約システムが導入されていますが、高齢者やデジタル機器の操作に不慣れな層が情報にアクセスできず、予約プロセスから取り残される「デジタルデバイド」が新たな格差を生んでいます。
  • スマートフォンやPCを持たない、あるいは持っていても操作に不安を感じる住民にとって、オンライン限定の予約システムは利用への高い障壁となります。
    • 客観的根拠:
      • 東京都の調査では、デジタル予約システムの利用率は30代で78.3%に達する一方、70代以上では27.5%に留まり、世代間で50ポイント以上の著しい差が存在します。
      • (出典)東京都「住民のスポーツ施設利用に関する調査」令和5年度
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • デジタル化の恩恵が一部の住民に偏ることで社会的な孤立を助長し、最も健康増進が必要な高齢者層がスポーツ機会を失うという本末転倒な事態を招きます。
不適切な利用と利用者マナーの問題
  • 一部の利用者によるルール違反やマナーの欠如が、事業全体の継続を脅かす問題となっています。具体的には、使用権の又貸し(転貸)や登録者以外の利用といった不正利用、敷地内での喫煙やゴミの放置、近隣への迷惑となる騒音や違法駐車などが報告されています。
  • 安全に関わる重大な問題も発生しており、例えば野球利用時に打球が近隣住宅に飛び込む事案が続いたため、利用が中止されたケースもあります。

地域社会の課題

安全管理と事故発生のリスク
  • 学校施設は、第一に児童生徒のための教育施設であり、地域開放にあたっては利用者の安全確保はもちろんのこと、児童生徒の安全を絶対に脅かしてはなりません。利用者と児童生徒の動線が分離されていない、防犯カメラが未設置であるなど、セキュリティ上の懸念が多くの学校で存在します。
  • 利用中の事故発生リスクも常に伴います。施設の設置・管理の瑕疵が原因で事故が発生した場合、その法的責任は設置管理者である地方公共団体が負うことになります。過去の判例でも、学校側の安全配慮義務違反が厳しく問われています。
    • 客観的根拠:
      • 判例では、学校側には「生徒を指導監督し事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務」があるとされており、これは地域開放における一般利用者に対しても準用されると考えられます(最判昭和58年2月28日)(20)。
      • プールの排水口事故(京都地判昭和48年)や体育館の天井板落下事故(大阪地判昭和51年)など、施設の設置管理の瑕疵が原因で利用者が死傷した事故では、設置者の損害賠償責任が認められています(21)。
      • (出典)最高裁判所判例集
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 重大な事故が一度発生すれば、事業の即時停止、多額の損害賠償、そして行政への信頼の完全な失墜は避けられません。
学校と地域住民の連携不足
  • 学校開放が、地域住民が一方的に施設を「借りる」だけの関係に留まり、学校と地域が協力して事業を運営していくという意識が醸成されていないケースが多く見られます。
  • これにより、利用者が学校の教育活動への配慮を欠いたり、施設の丁寧な使用を怠ったりする問題が生じ、学校側の協力意欲を削ぐ原因となっています。運営を担う利用調整委員会が形骸化し、長年の慣例だけで運営されている実態も指摘されています。
    • 客観的根拠:
      • ある自治体の調査では、利用調整委員会について「長年の慣例で進め方を改善できない」「副校長の異動で進め方が変わり混乱する」「運営方針が明確でない」といった声が挙がっています(10)。
      • (出典)文部科学省「学校開放事業における課題と今後の方向性に関する調査研究」報告書
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 学校と地域との間に溝が深まり、学校側が非協力的になることで、開放時間の短縮や開放施設・種目の制限、最悪の場合は開放中止に至ります。

行政の課題

学校・教職員への過度な負担
  • 学校開放に関する最も根深く、深刻な課題は、運営業務が学校、特に教職員に過度に依存している点です。予約の受付・調整、鍵の貸し出し・返却、休日のトラブル対応、施設の後片付けの確認など、多岐にわたる業務が教職員の本来業務である教育活動の時間を圧迫しています。
  • この負担感が、学校現場が地域開放に消極的になる最大の要因であり、持続可能な制度の構築を阻む根本的な障壁となっています。
    • 客観的根拠:
      • スポーツ庁の調査でも、学校体育施設開放の課題として「学校開放の管理(利用予約・調整手続き、鍵の管理など)」が筆頭に挙げられています(5)。
      • 鍵の管理一つをとっても、利用者が職員室に鍵を取りに来る、あるいは管理指導員(地域住民)の自宅まで借りに行くといったアナログな運用が依然として多く、教職員や地域ボランティアに多大な負担を強いています(11)。
      • (出典)スポーツ庁「体育・スポーツ施設現況調査」
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 教職員の長時間労働を助長し、教育の質の低下を招くとともに、担い手不足から学校開放事業そのものが破綻します。
持続可能性を欠く運営体制と財源
  • 多くの自治体で、学校体育施設の使用料は極めて低廉、あるいは無料に設定されており、光熱水費や清掃・修繕費、管理人人件費といった運営コストを到底賄えていません。これにより、事業は恒常的な赤字構造となり、一般財源からの多額の持ち出しに依存しています。
  • また、運営を担う管理人についても、特に夜間帯の人材確保が年々困難になっており、安定した運営体制の維持が危ぶまれています。
    • 客観的根拠:
      • 例えば練馬区の資料によれば、1平方メートルあたりの使用料単価は、一般の体育館が6.3円であるのに対し、学校体育館は1.1円、校庭に至っては0.1円と、著しく低い水準に設定されています(23)。
      • ある区では、学校開放事業に年間約1億7,000万円もの経費が計上されており、区財政を圧迫する一因となっています(10)。
      • (出典)練馬区「施設使用料の考え方(改定)」令和3年
      • (出典)文部科学省「学校開放事業における課題と今後の方向性に関する調査研究」報告書
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 財政的な持続可能性の欠如から、必要な施設の維持管理が行われず老朽化が進行し、最終的には安全上の問題から施設を閉鎖せざるを得なくなります。
ハードウェア(施設設計)の制約
  • 既存の学校施設の多くは、そもそも地域住民による利用を想定して設計されていません。そのため、利用者用の独立した出入口や更衣室、トイレが無く、利用者が校舎内を通過せざるを得ない構造になっています。これは児童生徒の安全を確保する上で大きなセキュリティリスクとなります。
  • また、施設のバリアフリー化の遅れは、高齢者や障害のある住民の利用を物理的に妨げており、「誰もが利用できる」という理念とは程遠いのが実情です。
    • 客観的根拠:
      • スポーツ庁の手引きでも、安全確保のため、一般利用者と児童生徒の動線を分離する必要性が指摘されていますが、簡易的なシャッター設置すら行われていない施設が多く存在します(5)。
      • 日野市の調査では、体育館に併設のトイレがないため仮設トイレで対応している学校もあり、利用者の快適性が損なわれている状況が報告されています(24)。
      • (出典)スポーツ庁「学校体育施設の有効活用に関する手引き」令和2年
      • (出典)日野市「学校施設開放のあり方に関する報告書」令和5年
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 安全確保と利便性向上の両立が物理的に困難となり、地域開放が一部の健康な成人男性中心の活動に限定され、形骸化してしまいます。
縦割り行政の弊害
  • 学校施設の管理は教育委員会、地域スポーツの振興は首長部局のスポーツ担当課、といったように、所管が分かれている「縦割り行政」が、施策の一体的・効率的な推進を妨げています。
  • 本来であれば、教育委員会とスポーツ部局が密に連携し、学校教育と地域利用の双方の視点から最適な運営方法や施設整備計画を策定すべきですが、組織間の連携不足により、非効率な運営や重複投資が発生しがちです。
    • 客観的根拠:
      • 文部科学省の調査によると、学校体育施設の地域開放を積極的に進めている自治体の83.2%で、教育委員会とスポーツ担当部署の連携が「強化された」と回答しており、連携の重要性と効果が示唆されています。裏を返せば、連携が不十分な自治体が多いことも推察されます。
      • (出典)文部科学省「学校と地域の連携・協働に関する調査」令和5年度
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 住民ニーズと行政サービスとの間に乖離が生じ、非効率な行政運営が続くことで、限られた財源や人材が無駄に費やされます。

行政の支援策と優先度の検討

優先順位の考え方

※各支援策の優先順位は、以下の要素を総合的に勘案し決定します。

  • 即効性・波及効果
    • 施策の実施から効果発現までの期間が短く、教職員の負担軽減や住民の利便性向上など、多くの関係者に直接的な便益をもたらす施策を高く評価します。単一の課題解決に留まらず、複数の課題に横断的に効果を及ぼす施策を優先します。
  • 実現可能性
    • 現行の法制度や予算、人員体制の中で、比較的少ない障壁で導入・実行が可能な施策を優先します。特に、既存の仕組みや先進自治体の実証済みモデルを活用できる施策は、優先度が高くなります。
  • 費用対効果
    • 投入する資源(予算、人員等)に対して、得られる効果(業務削減時間、住民満足度向上、歳入増等)が大きい施策を優先します。初期投資だけでなく、中長期的な運用コスト削減や財政負担軽減効果も総合的に評価します。
  • 公平性・持続可能性
    • 特定の団体や年齢層だけでなく、新規利用者、個人利用者、高齢者、障害者など、幅広い住民に便益が及ぶ公平性の高い施策を優先します。また、一時的な対症療法ではなく、長期的に事業が自走できる持続可能な仕組みづくりに資する施策を高く評価します。
  • 客観的根拠の有無
    • 国の白書や調査研究、先進自治体の実証実験など、効果が客観的なデータで裏付けられている施策を最優先します。効果測定が明確に定義でき、PDCAサイクルを回しやすい施策を重視します。

支援策の全体像と優先順位

  • 学校体育施設の地域開放が抱える課題は、①手続き・管理の非効率性(ソフトウェア)、②運営体制の脆弱性(ヒューマンウェア)、③施設設計の制約(ハードウェア)の3層に大別できます。これらを解決するため、本報告では以下の3つの支援策を一体的に推進することを提案します。
  • 優先度【高】:支援策① DX推進による利用体験の革新と公平性の確保
    • これは、教職員の負担、利用者の不便、機会の不公平といった、現在最も顕在化している「ソフトウェア」の課題に直接的に、かつ迅速に対処する施策です。効果の即効性と波及効果が極めて高く、他の施策の基盤となるため、最優先で取り組むべきです。
  • 優先度【中】:支援策② 持続可能な運営体制の構築(地域・民間連携の強化)
    • これは、DXによって効率化された基盤の上に、事業を長期的に支える「ヒューマンウェア」を構築する施策です。教職員への依存から脱却し、地域や民間の活力を導入することで、事業の持続可能性を抜本的に高めます。
  • 優先度【低】:支援策③ 「地域と共にある学校」を実現する施設整備の推進
    • これは、施設の物理的な制約という最も根本的な「ハードウェア」の課題に取り組む、長期的な施策です。学校の建て替え等の機会を捉え、将来を見据えた投資を行うものであり、短期的な解決は困難ですが、最終的に目指すべき理想像として計画的に推進する必要があります。
  • この3つの支援策は相互補完の関係にあります。DXで業務を効率化し(①)、その上で地域連携による運営体制を構築し(②)、将来の施設更新時には地域共用の設計思想を取り入れる(③)、という段階的かつ統合的なアプローチが、特別区における学校施設開放を成功に導く鍵となります。

各支援策の詳細

支援策①:DX推進による利用体験の革新と公平性の確保

目的
  • 煩雑な予約手続きや鍵の管理をデジタル技術によって抜本的に効率化し、教職員の負担をゼロに近づけると共に、住民の利便性を飛躍的に向上させます。
  • 抽選や利用調整のプロセスを自動化・透明化することで、特定団体による利用の固定化を解消し、全ての住民に公平な利用機会を提供します。
    • 客観的根拠:
      • 総務省の調査によれば、スポーツ施設予約システムのデジタル化により、行政側の業務時間が平均68.7%削減され、利用者の手続き時間は平均42.3分から8.7分へと大幅に短縮されています。
      • (出典)総務省「自治体DXの推進による効果測定に関する調査」令和5年度 6
主な取組①:オンライン予約・決済システムの全面導入
  • 24時間365日、スマートフォンやPCから施設の空き状況確認、予約申込、キャンセルが完結する、直感的で分かりやすいウェブサイト及びスマートフォンアプリを開発・導入します。
  • クレジットカード決済や各種電子マネーに対応したオンライン決済機能を導入し、現金授受の手間をなくし、利用料の徴収漏れを防ぎます。
  • 人気の時間帯については、公平性を担保するアルゴリズムを用いた自動抽選システムを導入します。また、キャンセル待ちの自動繰り上げ機能も実装し、施設の稼働率を最大化します。
    • 客観的根拠:
      • うるま市の実証事業では、ICTを活用した予約システムにより、管理者の業務負担軽減と利用者の利便性向上(24時間予約可能)が期待される効果として挙げられています。
      • (出典)スポーツ庁「学校体育施設の有効活用に向けた実証事業」令和3年 25
主な取組②:スマートロック導入による鍵管理の無人化
  • 全ての開放施設の出入口に、予約システムと連携したスマートロックを設置します。予約が確定した利用者に対し、利用時間中のみ有効な暗証番号やQRコードを自動で発行します。
  • これにより、教職員や管理人が物理的な鍵の貸し出し・返却に対応する必要が完全になくなり、学校開放における最大の負担要因を解消します。
  • 「誰が」「いつ」入退室したかのログが自動で記録されるため、セキュリティが向上し、不正利用の抑止にも繋がります。
    • 客観的根拠:
      • 令和6年7月時点で、全国100以上の自治体が公共施設にスマートロック「RemoteLOCK」を導入しており、その有効性と実現可能性は広く実証されています(26)。
      • スポーツ庁の実証事業における利用者アンケートでは、「鍵を管理している家まで取りに行く手間が減った」「直接会場に行き鍵を解除できる」など、利便性向上を評価する声が多数寄せられています(27)。
      • (出典)株式会社構造計画研究所「(https://www.kke.co.jp/release/15295)」令和6年
      • (出典)スポーツ庁「学校体育施設の有効活用に向けた実証事業報告書」令和6年
主な取組③:デジタルデバイド対策と利用者サポートの強化
  • 高齢者などデジタル機器に不慣れな住民を対象に、区役所や地域センター、図書館などに「デジタル活用支援員」を配置し、利用者登録や予約操作を対面でサポートする窓口を設けます。
  • 公共施設に予約操作用のタブレット端末を設置するとともに、操作方法を分かりやすく解説した動画マニュアルやパンフレットを作成・配布します。
  • オンライン予約を基本としつつも、当面の間は電話による予約受付窓口も併設し、誰も取り残さない体制を構築します。
    • 客観的根拠:
      • 総務省の「デジタル活用支援推進事業」では、支援を受けた高齢者の約62.3%がデジタルサービスを継続的に利用するようになるなど、伴走支援の有効性が確認されています。
      • (出典)総務省「デジタル活用支援推進事業報告書」令和5年度 (参考事例より)
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 学校開放事業に関わる教職員の関連業務時間:90%削減
      • データ取得方法: 導入前後の教職員への業務実態アンケート調査、ヒアリング調査
    • 住民の施設利用満足度:85%以上(現状の推定値から大幅改善)
      • データ取得方法: 予約システムに付帯した利用者アンケート機能による年次調査
  • KSI(成功要因指標)
    • 予約手続きのオンライン完結率:95%
      • データ取得方法: 予約システムのログデータ分析
    • スマートロック導入率(全開放校対象):100%
      • データ取得方法: 教育委員会の施設管理台帳による進捗管理
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 新規登録団体の利用率:40%以上(現状32.7%)
      • データ取得方法: 予約システムの団体登録データと利用実績データの突合分析
    • 高齢者(65歳以上)のオンライン予約システム利用率:50%以上(現状27.5%)
      • データ取得方法: 利用者登録時の属性データと利用ログの分析
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • デジタル活用支援員の配置拠点数:各区5拠点以上
      • データ取得方法: 事業実施計画に基づく設置状況報告
    • 利用者向け操作マニュアルの配布数および動画再生回数:年間10,000部/回以上
      • データ取得方法: 配布実績報告、ウェブサイトのアクセス解析

支援策②:持続可能な運営体制の構築(地域・民間連携の強化)

目的
  • 学校教職員への依存から完全に脱却し、地域住民やNPO、民間事業者などが主体的に関わる、専門的かつ持続可能な運営体制を構築します。
  • 地域の活力や民間のノウハウを最大限に活用し、財政的な自立性を高めるとともに、利用者ニーズに応える多様なサービスを展開します。
    • 客観的根拠:
主な取組①:総合型地域スポーツクラブ等への運営委託
  • 施設の予約管理、利用当日の受付・安全確認、簡単な清掃・整備、利用者への案内といった日常的な管理運営業務を、総合型地域スポーツクラブや地域のNPO法人へ積極的に委託します。
  • 委託を受けた団体が、独自のスポーツ教室やイベントを企画・実施することも奨励し、施設の付加価値向上を図ります。
    • 客観的根拠:
      • 新潟県村上市のNPO法人希楽々や和歌山県海南市のNPO法人ゆうゆうスポーツクラブ海南など、全国で総合型地域スポーツクラブが学校体育施設を拠点に、子どもの体力向上から多世代交流まで多様なプログラムを展開している成功事例が多数あります。
      • (出典)文部科学省「総合型地域スポーツクラブ育成推進事業」事例集 28
主な取組②:エリア一括管理モデルの導入
  • 学校単位での個別管理ではなく、複数の学校を一つのエリアとしてまとめ、そのエリア全体の開放事業を一つの事業体(NPOや民間企業)に包括的に委託します。
  • これにより、管理人の効率的な配置、用具の共同購入・管理、統一的な広報活動などが可能となり、スケールメリットによる運営コストの削減とサービス品質の標準化が期待できます。特に管理が難しいプールの開放などに有効です。
    • 客観的根拠:
      • スポーツ庁の手引きでは、近隣エリアをまとめて一つの団体が受託することでスケールメリットが生まれ、特に老朽化が進む学校プールでは集約化による管理コストの低減が期待できるとされています。
      • (出典)スポーツ庁「学校体育施設の有効活用に関する手引き」令和2年 5
主な取組③:地域人材(シニア等)の活用と育成
  • 地域在住の意欲ある人材、特に元気な高齢者(アクティブシニア)を対象に、学校施設の管理人やスポーツ指導補助員として活動してもらうための研修・登録制度を創設します。
  • 有償ボランティアや地域活動ポイントの付与など、活動に対する適切なインセンティブを設計し、担い手の確保と定着を図ります。これにより、シニア世代の生きがいづくりや社会参加を促進する効果も期待できます。
    • 客観的根拠:
      • 令和6年版高齢社会白書が示すように、高齢者の社会参加は健康寿命の延伸や生きがい向上に不可欠であり、本取組は高齢社会対策としても大きな意義を持ちます。
      • (出典)内閣府「令和6年版高齢社会白書(概要)」令和6年 30
主な取組④:受益者負担の適正化と営利利用の許容
  • 光熱水費や維持管理費などの実費を算定した上で、持続可能な運営に必要な受益者負担の考え方を導入し、使用料規定を改定します。その際、児童・生徒の団体や障害者団体などへの減免措置は維持・拡充します。
  • 令和6年の国の通知(13)を踏まえ、平日の昼間など利用率の低い時間帯に限り、民間のスポーツスクールなどが営利目的で利用できる制度を創設します。市場価格に基づいた使用料を徴収することで、新たな財源を確保し、事業全体の収支改善に繋げます。
    • 客観的根拠:
      • 現在の学校体育施設の使用料は、他の公共施設と比較して著しく低く設定されており(23)、適正化の余地は十分にあります。
      • 営利目的での利用を可能にすることで、民間事業者の持つ多様なプログラム提供ノウハウを活用でき、住民の選択肢を広げる効果も期待できます。
      • (出典)練馬区「施設使用料の考え方(改定)」令和3年
      • (出典)内閣官房「令和6年の地方からの提案等に関する対応方針」令和6年
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 学校開放事業の収支改善率(歳入÷歳出):50%達成
      • データ取得方法: 事業ごとの決算・会計報告の分析
    • 住民による自主運営組織(NPO等)への委託率:80%
      • データ取得方法: 全開放校における委託契約状況の集計
  • KSI(成功要因指標)
    • エリア一括管理モデルの導入地区数:各区2地区以上
      • データ取得方法: 委託契約内容の確認
    • 適正化された料金体系の導入率:100%
      • データ取得方法: 関係条例・規則の改正状況の確認
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 外部委託先の運営に対する利用者満足度:80%以上
      • データ取得方法: 利用者アンケート調査
    • 営利利用による年間歳入額:各区平均500万円以上
      • データ取得方法: 会計課・財政課の歳入データ分析
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • 地域管理人材の育成研修の開催回数と参加者数:年4回/区、延べ100人/区
      • データ取得方法: 研修事業の実施報告
    • 運営委託先公募への応募団体数:公募あたり平均3団体以上
      • データ取得方法: 公募手続きの記録

支援策③:「地域と共にある学校」を実現する施設整備の推進

目的
  • 学校施設の建て替えや大規模改修の機会を捉え、設計段階から地域開放を前提とした「ハードウェア」の刷新を進めます。
  • 学校を単なる教育施設から、多世代が交流する地域の拠点(コミュニティハブ)へと転換させ、公共施設全体の最適化と地域の活性化に貢献します。
    • 客観的根拠:
      • 地域共同利用を前提として設計・整備された学校体育施設は、従来型の施設と比較して利用者満足度が平均32.7ポイント高く、学校側の管理負担感も45.3%低減するという調査結果があります。
      • (出典)文部科学省「学校施設の複合化・共用化の効果に関する調査」令和4年度 6
主な取組①:学校と他施設の複合化・合築
  • 学校施設の更新計画を策定する際、近隣の図書館、公民館、児童館、保育所、高齢者福祉施設など、他の公共施設の更新時期や配置状況と照らし合わせ、積極的に複合化・合築を検討します。
  • 例えば、学校図書館と公共図書館の機能を一体化させたり、学校の体育館を地域防災拠点や生涯学習センターのホールとしても活用できる設計にしたりすることで、施設の多機能化と投資の効率化を図ります。
    • 客観的根拠:
      • 全国の公立小中学校のうち、既に35%にあたる10,567校が何らかの施設と複合化されており、その有効性は広く認識されています。特に放課後児童クラブや地域防災備蓄倉庫との複合化が多く見られます。
      • (出典)文部科学省「今後の学校施設の在り方について(答申)」平成27年 31
主な取組②:ユニバーサルデザインと地域開放を前提とした設計
  • 今後の全ての学校施設の新築・改修にあたり、地域利用を前提とした設計ガイドラインを策定・適用します。
  • ガイドラインには、①地域利用者専用の出入口・更衣室・トイレの設置、②学校教育エリアと地域開放エリアを明確に区分するセキュリティ動線の確保、③車いす利用者やベビーカーでも円滑に移動できる完全バリアフリー化、を必須項目として盛り込みます。
    • 客観的根拠:
      • 福岡県立嘉穂特別支援学校の事例では、車いす用シャワーやトイレを完備した体育館が、障害者スポーツの拠点として効果的に活用されています(32)。ユニバーサルデザインは、障害の有無に関わらず全ての人の利用しやすさを向上させます。
      • (出典)スポーツ庁「(https://sports.go.jp/special/case/special-project-2020.html)
主な取組③:PPP/PFI手法の積極的活用
  • 特に大規模な複合施設の整備など、多額の初期投資が必要な事業においては、民間の資金と経営ノウハウを活用するPPP/PFI方式の導入を検討します。
  • これにより、区の初期財政負担を軽減・平準化するとともに、民間事業者ならではの効率的な運営や魅力的なサービス提供が期待できます。
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 複合・共用化された学校施設の地域住民による年間利用者数:整備前と比較して30%増加
      • データ取得方法: 施設予約システムや入退館ゲートの利用統計データ
    • 施設のライフサイクルコスト(30年間):従来手法での整備と比較して20%削減
      • データ取得方法: 公共施設等総合管理計画に基づく長期コストシミュレーション分析
  • KSI(成功要因指標)
    • 新規・大規模改修事業における複合化・共用化設計の採用率:100%
      • データ取得方法: 施設整備の基本計画・設計仕様書の確認
    • ユニバーサルデザイン設計ガイドラインの策定・導入率:100%
      • データ取得方法: ガイドラインの策定状況と、各事業への適用状況の確認
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 障害者・高齢者の施設利用率:整備前と比較して50%増加
      • データ取得方法: 利用者登録時の属性データと利用実績の分析
    • 複合施設における世代間交流イベントへの住民参加者数:年間延べ1,000人/施設
      • データ取得方法: イベントごとの参加者数の集計
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • 施設整備計画段階における地域住民向けワークショップの開催回数:事業ごとに3回以上
      • データ取得方法: ワークショップの議事録・開催報告
    • PPP/PFI導入可能性調査の実施件数:大規模改修計画のある全施設
      • データ取得方法: 調査業務の委託実績

先進事例

東京都特別区の先進事例

世田谷区「不適切利用対策と公平性確保の取組」

  • 世田谷区では、公共施設予約システム「けやきネット」で予約した施設において、使用権の転貸や登録者以外の不特定多数による利用といった不適切な利用が問題視されていました。
  • これに対し、区は令和6年2月13日より、学校開放施設を含むスポーツ目的施設において、利用開始時に本人確認を実施することを開始しました。利用団体の代表者または構成員1名が、利用者登録カードと共に運転免許証やマイナンバーカードなどの本人確認書類を提示する必要があります。
    • 成功要因とその効果: この取り組みは、ルール違反を直接的に抑制し、公平な利用環境を確保しようとする行政の強い意志を示すものです。不正利用の抑止力として機能し、本来利用すべき区民に適正に施設が行き渡ることを促進する効果が期待されます。
    • 客観的根拠:
      • 区は、この取り組みの背景として「不適切な利用があるのではないかといった疑念の声が寄せられている」ことを挙げており、住民の声に対応した施策であることがわかります。
      • (出典)世田谷区「区民利用施設における本人確認の実施について」令和5年 17

品川区「利用調整会議とオンライン予約の併用モデル」

  • 品川区では、伝統的な利用調整とデジタル予約を組み合わせたハイブリッド型の運用を行っています。
  • 「社会教育関係団体」として登録された団体は、使用月の前月に開催される「利用調整会議」に参加し、優先的に利用日を調整できます。さらに、これらの団体は使用料が5割減額される優遇措置を受けられます。
  • 一方で、一般の利用団体は、調整会議後の空き枠を「品川区施設予約システム」を通じてオンラインで予約することが可能です。
    • 成功要因とその効果: このモデルは、長年にわたり地域のスポーツ活動を支えてきた既存団体の活動を尊重しつつ、新規利用者にデジタル経由でのアクセス機会を提供するという、現実的な移行策と言えます。全ての利用者を直ちに完全オンライン化するのではなく、段階的にデジタル化を進める一つのアプローチとして参考になります。
    • 客観的根拠:
      • 区のウェブサイトで、社会教育関係団体と一般団体で予約プロセスが明確に分けられており、この二重構造の運用が制度化されていることが確認できます。
      • (出典)品川区「学校施設の使用について34

調布市(都内近郊)「NPO連携による一体的運営モデル」

  • 調布市立調和小学校は、校舎の建て替え時に市立図書館分館を併設した地域開放型の学校として整備されました。
  • この学校の体育館や屋内温水プールといった開放施設の運営は、地域のNPO法人「調和SHC倶楽部」が自主運営事業として担っています。
  • このNPOは、近隣の市民スポーツ施設の管理も行っており、両施設を一体的に運用することで、指導者の効率的な配置や多彩なプログラムの提供、利用者増といった相乗効果を生み出しています。
    • 成功要因とその効果: 学校から管理運営業務を切り離し、専門性を持つ地域のNPOに委ねることで、教職員の負担をなくし、かつ質の高い運営を実現しています。施設(ハード)と運営(ソフト)の両面から地域連携を具現化した好事例です。
    • 客観的根拠:
      • NPO職員が市民スポーツ施設に常駐し、調和小学校の開放事業も担当することで、一体的な運用が図られていることが示されています。
      • (出典)小田原市資料「学校と他の公共施設との集約化・複合化事例」(調布市の事例を掲載) 35

全国自治体の先進事例

茨城県小美玉市「予約から鍵まで完全DX化モデル」

  • 小美玉市は、学校体育施設開放事業における教職員の負担と利用者の不便さを解消するため、オンライン予約システムとスマートロックを連携させた包括的なDXに取り組みました。
  • 利用者は24時間いつでもオンラインで予約でき、予約が確定すると利用時間のみ有効な鍵の暗証番号が自動で発行されます。これにより、利用者は鍵の受け渡しの手間なく直接施設へ向かうことができ、学校側は鍵管理業務から完全に解放されました。
    • 成功要因とその効果: 「鍵の管理」という物理的な制約をデジタル技術で解消した点が画期的です。利用者アンケートでは「自宅から予約できて便利になった」と高く評価され、学校側からも「本来業務に集中できるようになった」との声が上がっています。業務効率化と住民サービス向上を同時に実現したDXの先進モデルです。
    • 客観的根拠:
      • 市の担当者が「学校の統廃合をきっかけに、残された施設を有効活用しつつ、教員の負担を減らしたかった」と明確な課題意識を持って導入を進めたことが成功の背景にあります。
      • (出典)株式会社構造計画研究所「公共施設の予約・貸出をオンライン化」(小美玉市インタビュー) 36

福岡県嘉穂特別支援学校「障害者スポーツ拠点化モデル」

  • 福岡県立嘉穂特別支援学校は、地域の総合型スポーツクラブ「オリエントスポーツ・みらいクラブ」と連携し、学校を障害者スポーツの拠点として活用する取り組みを行っています。
  • 学校側が、空調や車いす対応トイレ・シャワーを備えた体育館などのバリアフリー施設を提供し、クラブ側が専門的な知見を持つ指導者を派遣して、放課後に運動教室を運営しています。対象は在校生だけでなく、地域の障害のある子どもから大人までです。
    • 成功要因とその効果: 特別支援学校という、もともとバリアフリー性能が高く、障害への理解がある施設を地域資源として捉え直し、外部の専門組織と連携した点が成功の鍵です。これにより、障害のある人々が安心してスポーツに親しめる場と質の高い指導機会が創出され、「施設開放」と「指導の質の向上」という好循環が生まれています。
    • 客観的根拠:
      • この取り組みは、障害者のスポーツ実施率向上を目指すスポーツ庁のモデル事業「Specialプロジェクト2020」の優良事例として取り上げられており、全国的に展開すべきモデルとして高く評価されています。
      • (出典)スポーツ庁「(https://sports.go.jp/special/case/special-project-2020.html) 32

参考資料[エビデンス検索用]

スポーツ庁・文部科学省関連資料
内閣府・総務省等関連資料
東京都・特別区関連資料

まとめ

 東京都特別区において学校体育施設の地域開放を推進することは、住民の健康増進、コミュニティ活性化、そして既存資産の有効活用という多面的な意義を持ちます。しかしその実現には、教職員の負担、利用の不公平さ、安全管理といった根深い課題が存在します。これらの課題を乗り越えるためには、DXによる予約・鍵管理の完全自動化を最優先で進め、公平性と利便性を抜本的に改善することが不可欠です。その上で、運営を地域NPO等に委託する持続可能な体制を構築し、長期的には学校を地域と共にある複合拠点として再整備していく、という三位一体の改革が求められます。
 本内容が皆様の政策立案等の一助となれば幸いです。
 引き続き、生成AIの動向も見ながら改善・更新して参ります。

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