09 DX

職員支援システム

masashi0025

はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。

概要(職員支援を取り巻く環境)

  • 自治体が職員支援システムを構築・強化する意義は「持続可能な行政サービスの提供」と「組織としての競争力・魅力の向上」にあります。
  • 現代の職員支援システムは、単なる福利厚生の枠を超え、職員の心身の健康維持(メンタルヘルスケア)、業務プロセスの効率化(DX)、そして専門職としての成長と働きがい(キャリア形成・エンゲージメント)を統合的に支える、戦略的な人事・組織マネジメントの根幹をなすものです。
  • 東京都特別区をはじめとする自治体は、複雑化する行政課題、生産年齢人口の減少に伴う人材獲得競争の激化、そして職員の価値観の多様化といった厳しい環境に直面しています。このような状況下で、組織の最も重要な資源である「人」への投資、すなわち職員支援体制の抜本的な強化は、組織のレジリエンス(回復力・強靭性)を高め、質の高い住民サービスを将来にわたって安定的に提供し続けるための不可欠な経営課題となっています。

意義

住民にとっての意義

安定した質の高い行政サービスの提供
  • 心身ともに健康で、意欲の高い職員は、より質の高い、安定した行政サービスを提供します。職員の休職や離職は、業務の停滞やノウハウの喪失を招き、結果として住民サービスの質の低下に直結します。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 経験豊富な職員の流出により、複雑な相談や緊急時の対応力が低下し、住民の満足度と行政への信頼が損なわれます。

地域社会にとっての意義

行政への信頼感の醸成
  • 職員が活き活きと働き、離職率が低く安定した行政組織は、住民から見て「信頼できるパートナー」として認識されます。これは、協働のまちづくりを進める上での基盤となります。

行政にとっての意義

人材の確保と定着
生産性の向上と組織の強靭化
  • メンタル不調による休職や「プレゼンティーズム(出勤しているが生産性が低い状態)」を未然に防ぐことは、組織全体の生産性向上に直結します。また、心身ともに健康な職員は、災害時などの危機的状況においても高いパフォーマンスを発揮できます。
リスクマネジメントの強化
  • メンタルヘルス不調やハラスメントの問題に組織として適切に対応することは、職員個人の人権を守るだけでなく、自治体が法的・社会的な責任を問われるリスクを低減します。

(参考)歴史・経過

  • 明治時代〜戦前
    • 近代的な官吏制度が整備され、身分保障を基本とした人事管理が行われました。
  • 戦後〜1980年代
    • 日本国憲法の下、地方公務員法が制定され、労働基本権の一部が保障されるなど、職員の権利保護に重点が置かれました。
  • 1990年代〜2000年代
    • バブル崩壊後の行財政改革の流れの中で、NPM(ニューパブリックマネジメント)の考え方が導入され、能力・業績主義に基づく人事評価制度の議論が本格化しました。
  • 2010年代
  • 2020年代〜現在
    • 時間外労働の上限規制が地方公務員にも適用(2020年)されました。
    • 新型コロナウイルス感染症の流行を契機に、テレワークなど柔軟な働き方とDX(デジタルトランスフォーメーション)が急速に推進されました。
    • 職員のメンタルヘルス問題が深刻化し、従来の対策の限界が露呈。エンゲージメントやウェルビーイングといった、より包括的な職員支援の考え方が重要視されるようになりました。

職員支援に関する現状データ

深刻化するメンタルヘルス問題
  • 地方公務員の「精神及び行動の障害」による長期病休者(1か月以上)は、一貫して増加傾向にあります。
    • 客観的根拠:
      • 職員10万人当たりの長期病休者数は、平成25年度の1,142.1人から令和5年度には2,286.4人へと、10年間で約2.0倍に急増しています。
      • この「精神及び行動の障害」は、長期病休者全体の66.8%(令和5年度)を占め、他の疾病を圧倒しています。
  • 特に若年層のメンタルヘルス不調が深刻です。
    • 客観的根拠:
      • 令和5年度の調査では、精神及び行動の障害による長期病休者率(10万人当たり)は、20代が3,155.6人、30代が2,619.2人と、全年齢平均(2,286.4人)を大きく上回っています。
      • 新宿区の事例では、メンタルヘルス不調による休職者数が過去10年で約3.8倍に増加し、令和5年度には68人に達しました。
依然としてなくならない長時間労働
  • 働き方改革が進む中でも、依然として多くの職員が長時間労働を強いられています。
    • 客観的根拠:
      • 令和5年度の地方公務員(一般行政職)の1人当たり平均時間外勤務時間は月間11.8時間ですが、月45時間を超える職員の割合は4.8%、月100時間以上の職員も0.3%存在します。
      • 特に特別区では問題が深刻で、令和6年の報告においても、月100時間を超える超過勤務者が1,000人を超える状況が続いていると指摘されています。
高いストレスを抱える職員の実態
若年層の離職と人材確保の課題
  • 公務員全体の離職率は低い水準ですが、若年層の離職は増加傾向にあり、人材の定着が大きな課題となっています。

課題

職員の課題

悪化するメンタルヘルスと燃え尽き症候群
  • 職員、特に新しい環境や困難な業務に適応しようとする若年層において、メンタルヘルス不調による長期休職が急増し、キャリアの初期段階での燃え尽きが深刻な問題となっています。
    • 客観的根拠:
      • 地方公務員の「精神及び行動の障害」による長期病休者率は、令和5年度に10万人あたり2,286.4人に達し、10年前の約1.9倍に増加しています。特に20代の休職率(3,155.6人)は全年代で最も高く、顕著な増加傾向を示しています。
      • 新宿区の調査では、メンタルヘルス不調による休職者数がこの10年で3.8倍に急増し、その後の退職者のうち約7割(69.8%)が20~30代の若年層でした。
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 優秀な人材が心身の健康を損ない、個人のキャリアが断絶されるだけでなく、組織全体の活力が恒常的に低下します。
過重労働の常態化とワークライフバランスの崩壊
  • 一部の部署や職員に業務が集中し、月45時間を超える時間外勤務が常態化しています。特に特別区では月100時間超の極端な長時間労働も散見され、職員の私生活や自己研鑽の時間が著しく犠牲になっています。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 職員のプライベートな時間が犠牲になることで、心身のリフレッシュや新たな知識・スキルの習得が困難になり、長期的なキャリア形成と成長が阻害されます。
キャリア形成への不安とエンゲージメントの低下
  • 若手職員を中心に、自身のキャリアパスが不透明であることや、日々の業務に追われて成長を実感できないことから、昇進への意欲が低下し、組織への貢献意欲(エンゲージメント)が損なわれています。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 組織への帰属意識が低下し、前例踏襲や指示待ちの姿勢が蔓延することで、行政サービスの質の低下やイノベーションの停滞を招きます。

地域社会の課題

行政サービスの質の低下と不安定化
  • 職員の休職や離職が相次ぐことで、担当者不在による業務の遅延や、専門知識を要する窓口対応・政策立案の質の低下が発生し、行政サービス全体の信頼性が揺らいでいます。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 住民が必要な時に適切な行政サービスを受けられなくなり、行政に対する直接的な不満と根深い不信感が増大します。
人材流出による行政ノウハウの喪失
  • 特に実務の中核を担うべき若手・中堅職員の離職は、長年かけて組織内に蓄積されてきた専門知識や対人折衝スキルといった「暗黙知」の喪失に直結し、組織全体の課題解決能力を低下させます。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 災害時の即応体制や、複雑な背景を持つ住民への相談対応など、マニュアル化できないクリティカルな業務への対応能力が著しく低下します。

行政の課題

採用競争の激化と人材確保の困難
  • 民間企業との人材獲得競争が激化する中で、公務員の仕事の魅力が相対的に低下し、採用試験の申込者数が減少しています。特に、都市インフラやDXを支える技術職などの専門人材の確保は極めて困難な状況です。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 組織の専門性が低下し、社会資本の維持管理やデジタル社会への対応といった、将来の都市競争力を左右する重要政策が停滞します。
旧態依然としたサポート体制の限界
  • 多くの自治体で、既存のメンタルヘルス対策は問題が発生してからの事後対応に偏っており、不調を未然に防ぐ「一次予防」や、ストレスの原因となる職場環境の根本的な改善にまで踏み込めていません。
管理職の負担増大と機能不全
  • 部下のメンタルケア(ラインケア)、ハラスメントへの対応、休職者発生に伴う業務の再配分など、本来のマネジメント業務に加えて複合的な負担が管理職に集中し、管理職自身が疲弊し、適切なマネジメントが機能しなくなるリスクが高まっています。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 管理職が疲弊し、個々の職員への目配りができなくなることで、職場全体のパフォーマンスが低下し、ハラスメントやメンタル不調の発生を見過ごすなど、問題がさらに深刻化する悪循環に陥ります。

行政の支援策と優先度の検討

優先順位の考え方

  • 各支援策の優先順位は、以下の要素を総合的に勘案し決定します。
    • 即効性・波及効果:
      • 施策の実施から効果発現までの期間が短く、一部の職員だけでなく、多くの職員や複数の部署に良い影響が広がる施策を高く評価します。
    • 実現可能性:
      • 現行の法制度や予算、人員体制の中で、大きな障壁なく実行に移せる施策を優先します。既存の仕組みを活用できる施策は、優先度が高くなります。
    • 費用対効果:
      • 投入する予算や人員、時間といった経営資源に対して、職員の離職率低下や生産性向上、医療費削減といった形で得られる効果が大きい施策を優先します。
    • 公平性・持続可能性:
      • 特定の職種や年代だけでなく、全ての職員が公平にその恩恵を受けられる施策を優先します。また、一過性のイベントではなく、長期的に組織文化として定着し、効果が持続する施策を高く評価します。
    • 客観的根拠の有無:
      • 国の調査研究や他の自治体での先進事例など、その効果が客観的なデータやエビデンスによって裏付けられている施策を優先します。

支援策の全体像と優先順位

  • 職員支援の改革は、対症療法的なアプローチではなく、戦略的かつ体系的に進める必要があります。現在の危機的状況を踏まえ、「①危機介入による安定化」「②組織体質の強化」「③持続可能な文化の醸成」という3段階で施策を位置づけ、優先順位を設定します。
  • 優先度【高】:危機介入と安定化
    • 現在進行形で急増しているメンタルヘルス不調者に対応し、組織の崩壊を防ぐことが最優先課題です。これは、出血を止めるための緊急治療に相当します。
    • 該当施策:支援策① メンタルヘルス対策の抜本的強化(EAPの本格導入とラインケアの徹底)
  • 優先度【中】:システム強化と効率化
    • 危機の根本原因である「過重な業務負担」と「働きがいの低下」に直接アプローチします。DXによる業務効率化とエンゲージメント向上策は、組織の免疫力を高めるための体質改善にあたります。
    • 該当施策:支援策② 働きがい改革の推進(DXとエンゲージメント向上)
  • 優先度【低・長期的】:文化変革と予防的ウェルビーイング
    • 職員が真に安心して、意欲的に働き続けられる職場を構築するための、長期的な視点に立った文化の醸成です。これは、健康的な生活習慣を根付かせることに例えられます。
    • 該当施策:支援策③ ウェルビーイングを中核に据えた組織文化の醸成

各支援策の詳細

支援策①:メンタルヘルス対策の抜本的強化(EAPの本格導入とラインケアの徹底)

目的
  • メンタルヘルス不調の「一次予防(未然防止)」「二次予防(早期発見・対応)」「三次予防(復職支援・再発防止)」という一貫した支援サイクルを確立し、職員が誰でも、いつでも、安心して相談・療養できるセーフティネットを構築します。
主な取組①:外部EAP(従業員支援プログラム)の全庁的導入
  • 臨床心理士や産業カウンセラーといった外部の専門家によるカウンセリングサービスを導入します。
  • 職員本人だけでなく、その家族も利用対象とします。
  • 電話、オンライン(ビデオ通話)、対面など、利用者が選択できる多様な相談チャネルを確保します。
  • 相談内容のプライバシーは厳守され、個人の相談内容が人事評価等に影響しないことを徹底的に周知し、利用の心理的ハードルを下げます。
主な取組②:管理職向けラインケア研修の義務化と高度化
  • 全ての管理職(係長級以上)を対象に、ラインケアに関する研修を年1回以上、受講を義務付けます。
  • 研修内容には、部下の「いつもと違う様子」に気づくための具体的な着眼点、傾聴を基本とした相談対応スキル、産業保健スタッフへ適切に繋ぐための連携方法などを盛り込みます。
  • ケーススタディやロールプレイングを導入し、ハラスメントと指導の境界線など、現場で直面する具体的な場面への対応力を養います。
主な取組③:体系的な職場復帰支援プログラムの構築
  • 休職開始から円滑な職場復帰、そして再発防止までの一連のプロセスを標準化し、「職場復帰支援プログラム」として制度化します。
  • プログラムには、①休職中の定期的な連絡・面談、②主治医、産業医、所属長、人事担当者、本人が連携して作成する「職場復帰支援プラン」、③復帰前の「試し出勤制度」、④復帰後の業務負荷の段階的な調整、⑤定期的なフォローアップ面談、を明記します。
主な取組④:ストレスチェックの集団分析と職場環境改善の連動
  • ストレスチェックの結果を、個人へのフィードバックに留めず、部や課といった単位で集計・分析します。
  • 「仕事の量的負担」「仕事のコントロール度」「上司・同僚からの支援」などの指標を用いて、部署ごとのストレス要因を客観的に可視化します。
  • 分析結果に基づき、各部署の管理職が具体的な職場環境改善計画(例:業務分担の見直し、定例ミーティングの改善)を作成・実行し、その進捗と効果を安全衛生委員会等で検証するサイクルを確立します。
    • 客観的根拠:
      • ストレスチェック結果の集団分析と、それに基づく職場環境改善は、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ一次予防として、労働安全衛生法でも推奨されている効果的な手法です。
      • 墨田区では、集団分析の結果、全国平均と比較して「職場の支援」は良好だが「仕事の負担」は同等レベルであることなどを把握し、対策立案に活用しています。
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • メンタルヘルス不調による長期休職者率(対職員数)を5年間で20%削減する。
      • データ取得方法: 各区の人事データ、地方公務員安全衛生推進協会の年次調査
    • 職員の主観的健康感(職員意識調査における「自身を健康だと思う」との回答率)を75%以上に向上させる。
      • データ取得方法: 年1回実施する職員意識調査
  • KSI(成功要因指標)
    • 外部EAP相談窓口の利用率(全職員に対する年間実利用者数の割合)を10%まで引き上げる。
      • データ取得方法: EAP提供事業者から提供される匿名化された利用統計レポート
    • 管理職(係長級以上)のラインケア研修受講率100%を達成・維持する。
      • データ取得方法: 人事部門の研修管理システムにおける受講履歴
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • ストレスチェックにおける高ストレス者と判定される職員の割合を、全国平均(約10%)以下に抑制する。
      • データ取得方法: 毎年のストレスチェック結果
    • 職場復帰後1年以内に同じ理由で再休職する職員の割合を15%以下に抑制する。
      • データ取得方法: 人事部門における休職・復職データの追跡調査
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • ストレスチェックの集団分析結果に基づき、職場環境改善計画を策定・実施している部署の割合を100%にする。
      • データ取得方法: 安全衛生委員会等への各部署からの計画提出状況の確認
    • セルフケアに関する情報提供(庁内ポータルサイトへの掲載、メールマガジン配信等)を年12回以上実施する。
      • データ取得方法: 人事・広報部門の活動記録

支援策②:働きがい改革の推進(DXとエンゲージメント向上)

目的
  • デジタル技術の徹底活用により、職員を単純・定型業務から解放し、創出された時間を政策立案や住民との対話といった付加価値の高い創造的な業務へシフトさせます。これにより、業務の生産性向上と、職員の働きがい(エンゲージメント)向上を同時に実現します。
主な取組①:BPR(業務改革)と一体となったDX・RPAの推進
  • 現行の業務プロセスをゼロベースで見直すBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)を先行させ、非効率な業務や不要な手続きを洗い出します。
  • その上で、特に効果の高い、各種申請書のデータ入力、証明書発行、定型的な集計・報告書作成といった業務に、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAI-OCR(光学的文字認識)を積極的に導入し、自動化します。
    • 客観的根拠:
      • 練馬区では、保育施設の入所申請に関する入力業務等にRPA等を導入し、年間で約585時間の業務時間削減を達成しました。
        • (出典)Automation Anywhere「(https://automation.jp/research-report/2024-11-06-tokyo-dx-award-2024-report-sharing-scalable-dx-cases)」2024年度 31
      • 神戸市では、消耗品調達システムを全庁導入し、発注から支出までをオンライン化することで、4ヶ月間で約977時間の業務量削減を実現しています。
主な取組②:職員エンゲージメント調査の定期的実施と活用
  • 年1回、全職員を対象に、匿名形式でのエンゲージメント調査を実施します。
  • 調査項目には、「仕事のやりがい」「成長の機会」「上司のマネジメント」「職場の人間関係」「組織のビジョンへの共感」など、エンゲージメントを構成する複数の要素を含めます。
  • 結果は、部署別・職層別・年代別などに詳細に分析し、各管理職にフィードバックするとともに、全庁的な人事施策(研修内容の見直し、人事配置の最適化など)の立案に活用します。
    • 客観的根拠:
      • 大阪府四條畷市を始め、近年、職員エンゲージメント調査を導入する自治体が増加しています。調査を定点観測することで、組織の健康状態を把握し、的確な対策を講じることが可能になります。
      • 北海道庁では、約1万2千人の職員を対象にエンゲージメント調査を実施し、働きやすい職場環境整備のための基礎資料として活用しています。
主な取組③:キャリアデザイン研修とリスキリングの機会拡充
  • 特に若手・中堅職員を対象に、自身の強みや価値観を認識し、中長期的なキャリアプランを描くための「キャリアデザイン研修」を導入します。
  • 自治体DXやEBPM(証拠に基づく政策立案)といった新たな行政ニーズに対応するため、データ分析、デジタルツール活用、プロジェクトマネジメント等のスキルを習得できるリスキリング(学び直し)プログラムを、オンライン学習プラットフォームなども活用して提供します。
    • 客観的根拠:
      • 福岡市では、職員向けの「DX推進リーダー」育成プログラムを開発し、内部からの人材育成に注力しています。
        • (出典)日本都市センター「都市とガバナンス」『(https://www.toshi.or.jp/app-def/wp/wp-content/uploads/2025/03/report207_6.pdf)』2025年度 35
      • 名古屋市では、オンライン動画学習サービス「Udemy Business」を活用し、職員が時間や場所を選ばずにDX関連スキルを学べる環境を整備しています。
主な取組④:柔軟な働き方の選択肢拡大
  • テレワークやフレックスタイム制度について、育児や介護といった特定の事由に限定せず、職員が自律的に業務効率を高めるための選択肢として利用できるよう、制度の運用を緩和・拡大します。
  • フリーアドレスオフィスの導入や、Web会議システムの全庁的な活用を推進し、時間や場所にとらわれない働き方を支援します。
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 職員エンゲージメントスコア(総合指標)を3年間で10ポイント向上させる。
      • データ取得方法: 年1回実施する職員エンゲージメント調査
    • 20代職員の普通退職率を、現在の2%台から1.5%以下に抑制する。
      • データ取得方法: 人事部門が管理する職員の離職データ
  • KSI(成功要因指標)
    • DX・RPA導入による定型業務の自動化で、全庁で年間50,000時間の業務時間を削減する。
      • データ取得方法: DX推進部門による導入前後での業務量調査・効果測定
    • キャリアデザイン研修の受講率(対象となる若手・中堅職員層)90%以上を達成する。
      • データ取得方法: 人事部門の研修管理システムにおける受講履歴
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 職員一人当たりの平均時間外勤務時間を月間10時間以下に削減する。
      • データ取得方法: 勤怠管理システムのデータ集計
    • 職員エンゲージメント調査における「自身の成長を実感できる」「キャリアの見通しが持てる」といった項目への肯定的な回答率を15%向上させる。
      • データ取得方法: 年1回実施する職員エンゲージメント調査
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • 新たにRPA等を導入し業務改善を実現した業務件数を、年間50業務以上とする。
      • データ取得方法: DX推進部門における導入実績の集計
    • 職員向けに提供するリスキリングプログラムのコース数を、年間10コース以上とする。
      • データ取得方法: 人材育成部門の研修計画・実績

支援策③:ウェルビーイングを中核に据えた組織文化の醸成

目的
  • 職員一人ひとりの心身の健康、良好な人間関係、仕事への誇りとやりがい、そして私生活の充実といった、広範な「ウェルビーイング」の実現を組織運営の中核に据えます。これにより、職員が自律的に能力を最大限に発揮できる、持続可能で魅力的な職場文化を創造します。
主な取組①:経営層による「ウェルビーイング宣言」と実践
  • 区長をはじめとする幹部職員が、職員のウェルビーイング向上を区政運営の最優先課題の一つとすることを、内外に明確に宣言します。
  • 宣言に留まらず、管理職自らが率先して年次有給休暇を取得する、定時退庁を実践する、会議の効率化を図るなど、具体的な行動を通じてウェルビーイングを重視する姿勢を組織全体に示します。
    • 客観的根拠:
      • 組織トップのリーダーシップは、メンタルヘルス対策を含む職員支援策を効果的に実施するための推進体制の要です。トップの強いコミットメントがなければ、施策は形骸化します。
主な取組②:ピアサポート制度の導入
  • 新規採用職員や若手職員の職場での孤立を防ぐため、年齢の近い先輩職員が公私にわたる相談役となる「メンター制度」を正式に導入します。
  • 部署や職種の垣根を越えて、職員が自由に集まり、業務上の悩みや改善アイデアを共有し合える「ピアサポートグループ(自主勉強会など)」の活動を、場所の提供や活動経費の一部補助などを通じて支援します。
    • 客観的根拠:
      • 新宿区では、若手職員が相談しやすい仕組みづくりの一環として、メンター制度の導入を検討しています。
      • さいたま市桜区では、課の枠を超えて多忙な部署の業務を応援する「さくらサポートシステム(SSS)」を運用し、平成26年から4年間で延べ650人の職員が他課を支援した実績があり、職員間の連携強化に繋がっています。
        • (出典)ジチタイワークス「(https://jichitai.works/article/details/179)」2018年度 39
主な取組③:ハラスメント防止対策の徹底強化
  • パワーハラスメント、セクシャルハラスメント等、あらゆるハラスメントの根絶を目指し、全職員を対象としたハラスメント防止研修を年1回、受講を義務付けます。
  • 区内部の相談窓口に加え、弁護士や専門カウンセラーなど、守秘義務が徹底された第三者が対応する外部相談窓口を設置し、職員が安心して相談できる選択肢を確保します。
  • 相談したことによって相談者がいかなる不利益も被らないことを、規則等で明確に保証します。
主な取組④:カスタマーハラスメントへの組織的対応
  • 住民からの過剰な要求や暴言、威圧的な言動といったカスタマーハラスメントに対し、職員個人に責任を負わせず、組織として毅然と対応する体制を構築します。
  • 具体的には、①対応マニュアルの作成と全庁的な共有、②対応困難なケースにおける管理職や専門部署による対応の引き継ぎ、③警察や弁護士との連携体制の確立、④職員を守るための区としての公式な声明の発表、などを実施します。
    • 客観的根拠:
      • 新宿区の管理職アンケートでは、「区民の窓口対応に困難を伴う場面が増えた」が48.0%にのぼり、職員の大きなストレス要因となっています。
      • 特別区人事委員会は、令和6年の勧告において、任命権者に対しカスタマーハラスメント防止に向けた積極的な取り組みを推進するよう強く求めています。
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 「現在の職場は、働きがいがあり、心身ともに健康的に働くことができる場所だ」と肯定的に回答する職員の割合を80%以上にする。
      • データ取得方法: 年1回実施する職員エンゲージメント調査または職員意識調査
    • 特別区職員採用試験の申込者数を、対策実施前の水準から3年間で10%増加させる。
      • データ取得方法: 特別区人事委員会の採用試験実施状況公表データ
  • KSI(成功要因指標)
    • 職員の年次有給休暇の平均取得日数を15日以上とする。
      • データ取得方法: 勤怠管理システムのデータ集計
    • ハラスメントに関する相談件数のうち、外部相談窓口が利用される割合を30%以上にする(内部で抱え込ませない指標)。
      • データ取得方法: 内部・外部相談窓口の利用実績(匿名化)集計
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 職員エンゲージメント調査における「心理的安全性(安心して意見が言えるか)」や「上司・同僚との関係の質」に関する項目の肯定的な回答率を20%向上させる。
      • データ取得方法: 年1回実施する職員エンゲージメント調査
    • カスタマーハラスメントを主因とする心身の不調の申告件数を、対策実施前の水準から50%削減する。
      • データ取得方法: 健康管理室等への相談記録(匿名化・統計処理)
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • 全ての管理職を対象とした「ウェルビーイング・マネジメント研修」の受講率を100%にする。
      • データ取得方法: 人事部門の研修管理システム
    • カスタマーハラスメント対応マニュアルを全部署に配備し、関連研修の職員受講率を100%にする。
      • データ取得方法: 人事部門による実施状況の確認

先進事例

東京都特別区の先進事例

新宿区「データ分析に基づくメンタルヘルス計画策定」

  • 新宿区は、メンタルヘルス不調による休職者数が10年で3.8倍に急増した危機的状況を受け、詳細なデータ分析に基づいた計画を策定しました。休職者の年代、役職、休職に至った要因、復職・退職状況などを徹底的に分析し、「若年層の休職・退職問題」「管理職の負担増大」「ハラスメント」といった核心的な課題を特定しました。この客観的根拠に基づき、DXによる業務量削減、ハラスメント対策の強化、若手職員が相談しやすいメンター制度の検討など、具体的かつ的を射た施策を盛り込んでいる点が特徴です。
    • 客観的根拠:
      • 計画書では、令和3・4年度の休職者のうち、退職に至った53人のうち37人(69.8%)が20~30代であることや、休職原因として「仕事」「職場の人間関係」が約5割を占めることなどがデータで示されています。

大田区「数値目標を掲げた『心の健康づくり計画』」

  • 大田区は、職員のメンタルヘルス対策を推進するにあたり、具体的で測定可能な数値目標(KGI)を設定している点が先進的です。計画では、「高ストレス者割合を令和3年度の11.8%から全国平均と同等の10%に削減する」「メンタルヘルス不調による病気休職者の再休職率を令和3年度の28.6%から令和元年度水準の20%まで減少させる」という明確なゴールを掲げています。これにより、施策の進捗管理と効果検証が可能となり、PDCAサイクルを回しながら実効性を高めることができます。
    • 客観的根拠:
      • 計画書内に、目標達成のための具体的な取り組みとして、セルフケア、ラインケア、産業保健スタッフによるケア、事業場外資源によるケアという「4つのケア」に基づく施策が体系的に整理されています。

練馬区「BPRと一体となったDX推進による業務効率化」

  • 練馬区は、職員の負担軽減と生産性向上を目指し、DXを強力に推進しています。単にデジタルツールを導入するだけでなく、既存の業務プロセスそのものを見直すBPR(業務改革)と一体で進めている点が重要です。例えば、保育施設の入所選考事務ではAIを活用して年間585時間の業務時間を削減、税の滞納整理業務ではAIがベテラン職員のノウハウを学習し、業務の標準化と効率化を実現しています。これにより創出された時間を、職員がより質の高い住民サービスに振り向けることを目指しています。
    • 客観的根拠:
      • 練馬区は、これらの取り組みにより、ある調査機関からDX化の取り組みについて31点中30点という高い評価を受けており、全国でも先進的な自治体と位置づけられています。
        • (出典)株式会社RESERVA「(https://lg.reserva.be/lg-dxresearch-nerima-ward/)」2024年度 40
        • (出典)Automation Anywhere「(https://automation.jp/research-report/2024-11-06-tokyo-dx-award-2024-report-sharing-scalable-dx-cases)」2024年度 31

全国自治体の先進事例

神戸市「全部門横断での働き方改革」

  • 神戸市は、過去20年間で職員数を40%以上削減した厳しい経験から、業務の生産性向上が不可欠であるとの認識のもと、全部門横断的な「働き方改革推進チーム」を結成しました。在宅勤務やフレックスタイム制の普及、1万人の職員が利用するチャットツールの導入によるコミュニケーションの効率化、ペーパーレス化、消耗品調達などの共通事務のシステム化などを強力に推進しています。部署の垣根を越えた連携体制を構築し、全庁一丸となって働き方改革に取り組んでいる点が特徴です。

福岡市「外部専門人材の活用とDX人材育成」

  • 福岡市は、市のDXを強力に推進するため、民間のIT専門家からなる「DXデザイナー」を外部有識者チームとして設置しています。DXデザイナーは、電子申請システムのUI/UX改善など、専門的・技術的見地から市のプロジェクトに助言・支援を行っています。同時に、内部の職員を対象とした「DX推進リーダー」育成プログラムを開発・実施し、内製でのDX推進能力の向上にも注力しています。外部の最先端の知見と、内部の業務知識を融合させることで、持続可能なDX推進体制を構築している点が優れています。
    • 客観的根拠:
      • DXデザイナーが関わった電子申請システムの改善により、利用者数は前年度比で約3.0倍に増加し、満足度も5点満点中4.2点と高い評価を得ています。
      • 職員のDX推進リーダーは、業務時間外にも自主的に勉強会「Fukuoka Tech Community」を立ち上げるなど、主体的な学びの文化が醸成されています。
        • (出典)note「(https://note.com/fukuoka_tech/n/n61bfe93ad597)」2023年度 42

参考資料[エビデンス検索用]

総務省
厚生労働省
文部科学省
人事院
地方公務員安全衛生推進協会(JALSHA)
東京都特別区人事委員会
各自治体計画・資料

まとめ

 東京都特別区における職員支援は、今や単なる福利厚生の問題ではなく、行政サービスの質と持続可能性を左右する喫緊の経営課題です。メンタルヘルス不調者の急増と若手人材の流出という危機的状況は、過重労働、旧態依然としたサポート体制、そして働きがいの低下といった構造的な問題に起因しています。この悪循環を断ち切るには、対症療法的な施策の継ぎ接ぎでは不十分です。EAP導入などによる「危機介入」、DX推進による「システム強化」、そしてウェルビーイングを組織文化の中核に据える「文化変革」という、戦略的かつ多層的なアプローチが不可欠です。職員という最も重要な経営資源への投資こそが、変化の激しい時代において、区民の信頼に応え続ける強靭な行政組織を構築する唯一の道です。
 本内容が皆様の政策立案等の一助となれば幸いです。
 引き続き、生成AIの動向も見ながら改善・更新して参ります。

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