16 福祉

緊急小口資金等の貸付支援

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はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。

概要(緊急小口資金等を巡る環境)

  • 自治体が緊急小口資金等の貸付支援を行う意義は「生活困窮者のセーフティネットとしての即時的支援」と「より専門的な相談支援への橋渡し」にあります。
  • 緊急小口資金を含む生活福祉資金貸付制度は、低所得世帯等が失業や病気などにより一時的に生活が困難になった場合に、当座の生活費を貸し付けることで、その世帯の自立を支援する社会福祉施策です。
  • しかし、この制度を取り巻く環境は、新型コロナウイルス感染症対策として実施された「緊急小口資金等の特例貸付」(以下、コロナ特例貸付)によって激変しました。
  • コロナ特例貸付は、迅速な支援を最優先とするため、貸付対象を拡大し、審査を簡素化する異例の措置が取られました。その結果、貸付件数・金額は過去に例のない規模に膨れ上がり、本来の「相談支援を伴う貸付」という機能は形骸化し、実質的な「給付」に近い性格を帯びることとなりました。
  • 令和5年1月からこの特例貸付の償還(返済)が本格的に開始されましたが、借受人の多くが依然として困窮状態から脱却できず、償還困難な事態が多発しています。これは、貸付・償還業務を担う社会福祉協議会(以下、社協)の業務を著しく圧迫するとともに、制度そのものの持続可能性を揺るがす深刻な課題となっています。
  • したがって、東京都特別区における今後の施策検討においては、このコロナ特例貸付がもたらした膨大な償還困難者への対応という短期的な課題と、将来の危機に備えた持続可能なセーフティネットとしての制度再構築という中長期的な課題の両面から、包括的な支援策を講じる必要があります。

意義

住民にとっての意義

迅速な生活資金の確保
  • 失業や収入の急減といった危機的状況において、無利子・保証人不要で迅速に当座の生活資金を確保できるため、生活破綻を回避するための重要な命綱となります。
    • 出典)厚生労働省「緊急小口資金等の特例貸付について」令和4年 1
    • 出典)社会福祉法人 全国社会福祉協議会「生活福祉資金貸付制度のご案内」令和7年 2
多重債務への転落防止
  • 公的な貸付制度であるため、消費者金融等の高金利な借入れに頼ることなく、生活を立て直す機会を得ることができます。これにより、多重債務問題の未然防止に繋がります。
    • 出典)厚生労働省「生活福祉資金貸付制度について」令和5年 3
尊厳の維持と社会参加への入口
  • 生活保護制度に比べて心理的な抵抗感が少なく、貸付という形をとることで利用者の尊厳を保ちやすい側面があります。また、社協との関わりをきっかけに、他の公的支援や地域活動に繋がる第一歩となる場合があります。
    • 出典)厚生労働省 社会保障審議会資料「生活困窮者支援のあり方に関する調査研究事業報告書」令和4年 4
    • 出典)厚生労働省「生活福祉資金は全額公費(税金)が財源」 5

地域社会にとっての意義

生活破綻の予防と社会の安定
  • 個々の世帯の経済的破綻が、ホームレス化や家庭崩壊、それに伴う子どもの貧困といったより深刻な社会問題へ発展することを防ぎ、地域社会全体の安定に寄与します。
    • 出典)内閣府「生活福祉資金貸付制度とは」令和2年 6
潜在的困窮層の可視化
  • コロナ特例貸付では、これまで福祉制度と接点のなかった自営業者や非正規雇用の若者など、多くの潜在的な生活困窮者が可視化されました。この事実は、今後の地域福祉政策を策定する上で極めて重要なデータとなります。
    • 出典)龍谷大学「新型コロナウイルス感染症特例貸付の創設と社協現場への影響」令和5年 7
    • 出典)全国社会福祉協議会「コロナ特例貸付等の経験をふまえ、今後のわが国の社会保障・セーフティネットの再構築に向けて」令和5年 8

行政にとっての意義

生活保護への移行抑制(防貧機能)
  • 生活保護に至る前の段階で経済的支援を行うことで、より多くの費用と人員を要する生活保護制度への移行を防ぐ「防貧」としての重要な役割を担っています。
    • 出典)佛教大学総合研究所紀要「生活福祉資金貸失制度の現状と課題」平成13年 9
相談支援への「つなぎ」機能
  • 貸付の申請窓口である社協が、借受人の抱える複合的な課題(多重債務、失業、心身の不調等)を把握し、自立相談支援機関やハローワーク等の専門機関へつなぐ「ゲートウェイ(入口)」としての機能を果たします。
    • 出典)内閣府「総合支援資金を利用するかたには、生活困窮者自立支援制度の支援も併せて行い、生活の立て直しを包括的にサポートします。」令和2年 6
    • 出典)東京都社会福祉協議会「総合支援資金、緊急小口資金、臨時特例つなぎ資金の借入を希望される場合には、生活困窮者自立支援制度における自立相談支援事業の利用が原則として要件となります。」令和6年 10

(参考)歴史・経過

1955年(昭和30年)
  • 制度の前身である「世帯更生資金貸付制度」が創設されます。民生委員の「世帯更生運動」を背景に、低所得世帯が生活保護に陥ることを防ぐ「防貧」を目的としていました。
    • 出典)横浜市社会福祉協議会「生活福祉資金貸付制度は、昭和30年に世帯更生資金貸付制度として創設」令和6年 11
    • 出典)一橋大学「生活福祉資金貸付制度の現状と課題」平成22年 12
1950年代~1980年代
  • 当初は生業資金が中心でしたが、次第に生活資金、医療費、災害援護などへと貸付対象が拡大し、収入増だけでなく支出減による生活安定へと重点が移っていきます。
    • 出典)一橋大学「生活福祉資金貸付制度の現状と課題」平成22年 12
    • 出典)厚生労働省「生活福祉資金貸付制度の概要」平成19年 13
1990年(平成2年)
  • 制度名称が「生活福祉資金貸付制度」に改められ、目的も経済的自立に加え、高齢者や障害者の在宅福祉・社会参加の促進へと広がります。
    • 出典)一橋大学「生活福祉資金貸付制度の現状と課題」平成22年 12
2002年(平成14年)
  • 緊急かつ一時的な少額の費用に対応するため、「緊急小口資金」が創設されます。
    • 出典)一橋大学大学院「生活福祉資金貸付制度における相談支援」平成22年 12
2009年(平成21年)
  • リーマンショック後の経済情勢悪化を受け、制度が再編されます。失業者等を対象とする「総合支援資金」が創設され、新たなセーフティネットの中核として位置づけられました。
    • 出典)横浜市社会福祉協議会「リーマンショックを契機に創設された資金」令和6年 11
    • 出典)Kotobank「平成21年(2009)に見直され、総合支援資金、福祉資金、教育支援資金、不動産担保型生活資金の四つに整理統合された。」 14
2015年(平成27年)
  • 「生活困窮者自立支援法」が施行され、総合支援資金等の利用には自立相談支援事業の利用が原則として要件となり、「支援付き貸付」の理念が法的に強化されます。
    • 出典)内閣府「平成27年(2015年)4月より、生活に困窮している人を支援する生活困窮者自立支援制度が始まりました。」令和2年 6
    • 出典)SBIエフィナンス「平成27年4月から生活困窮者自立支援制度の施行に伴って、資金種類によって借入申込の流れが一部変更になりました。」令和7年 15
2020年3月~2022年9月
  • 新型コロナウイルス感染症のパンデミックに対応するため、「コロナ特例貸付」が実施されます。貸付上限額の引き上げ、対象者の拡大、審査の簡素化、償還免除規定の導入など、前例のない規模と内容で運用され、制度の性格を根底から変えました。
    • 出典)厚生労働省「緊急小口資金について、申請期間は令和4年9月30日で終了となりました。」令和4年 1
    • 出典)龍谷大学「新型コロナウイルス感染症特例貸付の創設と社協現場への影響」令和5年 7
2023年1月~
  • コロナ特例貸付の償還が順次開始されます。しかし、物価高騰なども重なり、多くの借受人が償還困難な状況に直面し、膨大な未返済債権の管理と、借受人へのフォローアップ支援が行政の喫緊の課題となっています。
    • 出典)神奈川県社会福祉協議会「令和5年より償還開始となる資金」令和6年 16
    • 出典)全国社会福祉協議会「この特例貸付の償還(返済)が本年 1 月から開始され」令和5年 17

緊急小口資金等に関する現状データ

貸付実績の爆発的増加
  • 全国のコロナ特例貸付の実績は、令和2年3月から令和4年9月末までの約2年半で、累計約382万件、貸付決定総額は約1兆4,431億円に達しました。
    • 出典)厚生労働省「緊急小口資金等の特例貸付の評価に関する調査研究事業 報告書」令和6年 18
    • 出典)会計検査院「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた生活福祉資金貸付制度における緊急小口資金等の特例貸付の実施に当たり」令和6年 19
  • これは、平常時(令和元年度の全国貸付件数 約1万件)と比較して、件数ベースで約82倍から100倍以上という、まさに桁違いの規模です。この異常事態は、本制度が本来の目的を超え、国民への大規模な緊急経済支援策として機能したことを示しています。
    • 出典)龍谷大学「生活福祉資金の申請を平常時の2019年度とコロナ禍の2020年度を単年度で比較すると、約82倍の申請件数となる程の未曾有の事態となった。」令和5年 7
    • 出典)民医連「リーマンショック時の約54倍、初年度は前年度比200倍と言われる貸付実績」令和4年 20
  • 東京都においても、特例貸付の申請件数は累計で60万件を超え、全国の中でも突出して多くの住民が利用しました。
    • 出典)東京都福祉局「60万を超える申請を受け、貸付決定することになりました。」令和6年 21
償還(返済)状況の深刻さ
  • 令和5年1月から償還が開始された初期の貸付(約246万件)のうち、令和5年1月時点で約89万件(約36%)が住民税非課税を理由に償還が免除されています。
    • 出典)全国社会福祉協議会「本年 1 月に償還開始となった債権は約 246 万件を数え、このうち約 89 万件は住民税非課税等を理由に償還免除となり」令和5年 17
  • 神奈川県川崎市の詳細なデータ(令和6年9月時点)では、借受人のうち、現に返済している層は少数派であり、全体の64.7%が返済できていない状況です。その内訳は、住民税非課税等による免除が31.9%、返済猶予が3.3%、そして社協からの連絡に応答しない「未応答者」が29.5%にも上ります。
    • 出典)川崎市社会福祉協議会「借受人の64.7%が返済できていない」令和6年 22
  • この高い未返済・免除率は、貸付利用者の多くがコロナ禍後も経済的困窮から脱却できていない厳しい現実を浮き彫りにしています。
借受人の属性変化
  • コロナ特例貸付は、従来の生活福祉資金の利用者層を大きく変えました。これまでの低所得者層に加え、コロナ禍で初めて困窮した「自営業者」「契約・派遣社員」「会社員」などの現役世代の利用が急増しました。特に自営業者の借受人は、通常貸付の120倍に達するという驚異的な数字が報告されています。
    • 出典)全国社会福祉協議会「コロナ特例貸付の借受人は通常貸付の借受人と比べると、職業も「自営業者」「契約社員・派遣社員」「会社員・会社役員」等が増加していた。とくにコロナ特例貸付では、「自営業者」の借受人が通常貸付の 120 倍になっている。」令和5年 8
  • 東京都の調査では、外国籍の借受人の割合が高いことも特徴として挙げられています。在留資格の不安定さや言語の壁などが重なり、より複雑な支援が必要なケースが増加しています。
    • 出典)東京都福祉局「貸付データで目を引くのは、外国籍の借受人の存在です。」令和6年 21
  • また、コロナ前後で雇用形態が悪化した借受人も多く、東京都の調査では、雇用形態が変わったと回答した人のうち、約3割が「無職」、約2割が「パート・アルバイト」となっており、雇用の不安定化が償還困難の直接的な要因であることが強く示唆されます。
    • 出典)東京都福祉局「コロナ前後で雇用形態の変化「あり」と回答した人の現在の雇用形態」令和6年 23
会計検査院による指摘
  • 令和6年10月に公表された会計検査院の報告書は、この特例貸付事業の構造的な問題を鋭く指摘しています。
  • 17都府県社協の調査で、償還免除者(71万2,403件)や滞納者(63万1,348件)に対する生活状況の把握や自立相談支援機関へのつなぎといったフォローアップ支援が十分に実施されていない実態が明らかになりました。
    • 出典)参議院「令和5年度決算検査報告」令和6年 24
  • さらに、迅速性を優先するあまり審査が形骸化した結果、本来は貸付対象外である生活保護受給者に対して、16都府県社協で4,428件、総額14億3,620万円の貸付が行われていたことが判明しました。これは、国の制度設計と現場の執行体制の双方に重大な欠陥があったことを示しています。
    • 出典)会計検査院「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた生活福祉資金貸付制度における緊急小口資金等の特例貸付の実施に当たり」令和6年 19
    • 出典)福祉新聞「本来対象とならない生活保護受給者への貸し付けが14億円に上ることが分かった。」令和6年 25

課題

住民の課題

償還負担による生活の圧迫と多重債務化のリスク
  • コロナ特例貸付は、総合支援資金の再貸付まで利用した場合、最大200万円に達し、償還期間も10年以上に及ぶ長期の債務となります。物価高騰が続く中で収入が十分に回復していない借受人にとって、この返済は生活を著しく圧迫する重荷です。
    • 客観的根拠:
      • 日本弁護士連合会の声明では、特例貸付の借入総額が単身世帯で155万円、複数世帯で200万円に達し、長期の返済が生活破綻の引き金になる危険性を指摘しています。
        • 出典)日本弁護士連合会「新型コロナウイルス感染症対応の生活福祉資金特例貸付に関する会長声明」令和4年 26
  • 東京都社会福祉協議会の調査では、特例貸付の利用以前から既に複数の借金を抱える「多重債務」状態にあった借受人が少なくないことが明らかになっています。特例貸付が既存の債務に上乗せされる形で、多重債務問題を一層深刻化させ、自己破産以外の選択肢を失わせる危険性があります。
    • 客観的根拠:
      • 東京都の調査では、月収20万円未満で特例貸付以外の借金が100万円以上ある借受人が一定数存在することが示されています。
        • 出典)東京都福祉局「新型コロナ特例貸付~貸付の記録と今後~」令和6年 21
      • 厚生労働省の調査研究でも、特例貸付の借受人における多重債務の問題が指摘されています。
        • 出典)厚生労働省「令和5年度 厚生労働省社会福祉推進事業 緊急小口資金等の特例貸付の評価に関する調査研究事業 報告書」令和6年 18
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 返済のための新たな借入れによる多重債務の悪循環や、自己破産に至る世帯が急増します。
複雑な償還免除制度と情報格差
  • 償還免除の要件は、緊急小口資金、総合支援資金(初回・延長・再貸付)の4つの資金ごと、かつ判定年度(令和3~6年度)ごとに細かく設定されており、極めて複雑です。
    • 客観的根拠:
      • 厚生労働省や東京都社会福祉協議会の案内では、資金種類と判定年度によって免除対象となる住民税の課税年度が異なるなど、詳細な条件が定められています。
        • 出典)厚生労働省「緊急小口資金等の特例貸付について」令和4年 1
        • 出典)東京都社会福祉協議会「新型コロナウイルス感染症の影響による特例貸付 償還に関するご案内」令和6年 27
  • 借受人自身がこの複雑な制度を正確に理解し、適切なタイミングで住民票や非課税証明書といった必要書類を揃えて申請することは、特に情報アクセスに困難を抱える層にとっては非常に高いハードルです。高齢者、障害のある方、日本語の読解が困難な外国籍の方などが、本来受けられるはずの免除機会を逃してしまう「制度の谷間」が生じるリスクが深刻です。
    • 客観的根拠:
      • 川崎市社会福祉協議会の調査では、未応答者の中に高齢や障害、外国籍で日本語が読めない方が含まれている可能性が指摘されています。
        • 出典)川崎市社会福祉協議会「新型コロナ特例貸付フォローアップ支援から見える生活困窮のリアル」令和6年 22
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 本来免除対象となるべき最も困窮した人々が不利益を被り、制度の公平性が著しく損なわれます。

地域社会の課題

償還免除をめぐる不公平感とモラルハザード
  • 制度開始当初、政府・与党が「実質的な給付措置」「返済免除特約付き」といった説明を行ったことで、「返さなくてもよいお金」という認識が広く浸透しました。
    • 客観的根拠:
      • 龍谷大学の研究では、国会審議等で償還免除が強調された結果、多くの相談者が「返す必要のない資金」と解釈して窓口に訪れた経緯が指摘されています。
        • 出典)龍谷大学「新型コロナウイルス感染症特例貸付の創設と社協現場への影響」令和5年 7
      • 全国社会福祉協議会の報告書でも、政府が給付に近い印象を与えていたことが、後の課題の一因となったと分析されています。
        • 出典)全国社会福祉協議会「開始当初から政府が国会審議において「実質的な給付措置の性格を有する」と説明」令和5年 17
  • このため、厳しい状況ながらも懸命に返済している人や、借入れをためらった人々と、結果的に返済を免除された人々との間で深刻な不公平感が生じています。また、一部では免除要件である「住民税非課税」を満たすために、意図的に収入を抑制するといったモラルハザードの発生も懸念されています。
    • 客観的根拠:
      • 厚生労働省の審議会資料では、現場からの声として「返済免除を基準で収入抑制を考えるモラルハザードが起きている」「貸付を受けずに頑張って来た人との不公平感あり」といった課題が報告されています。
        • 出典)厚生労働省 社会保障審議会資料「生活困窮者支援のあり方に関する調査研究事業報告書」令和4年 4
      • 政府の行政レビューにおいても、自治体によって回収方針が異なると「逃げ得」が生じ、不公平感に繋がるとの指摘がなされています。
        • 出典)内閣府「秋の年次公開検証(行政事業レビュー)」令和3年 28
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 納税や公的債務の履行に対する社会全体の規範意識が低下し、地域社会の連帯感が損なわれます。
支援からこぼれ落ちる人々の孤立深化
  • 社協からの償還に関する案内や督促に全く応答しない「未応答者」が、全国で約4分の1、大都市部である川崎市では約3割にも上るという事実は、極めて憂慮すべき事態です。
    • 客観的根拠:
      • 川崎市社会福祉協議会のデータでは、未応答者が29.5%を占めています。
        • 出典)川崎市社会福祉協議会「新型コロナ特例貸付フォローアップ支援から見える生活困窮のリアル」令和6年 22
      • 全社協の集計でも、未応答の割合は24.1%に達しています。
        • 出典)川崎市社会福祉協議会「全国、川崎市とも3割前後ですが、償還が遅滞することなく返済を続けている人は多くありません。未応答の借受人も少なくなく、全国で1/4、川崎市では約3割を占めています。」令和6年 22
  • この「未応答」は単なる返済意思の欠如ではなく、多重債務、心身の不調、DVからの避難、ひきこもりといった、より深刻で複合的な課題を抱え、社会的に孤立している危険信号である可能性が高いです。彼らは自ら助けを求めることが困難であり、行政からのプッシュ型のアウトリーチ支援がなければ、必要な支援に繋がることができません。
    • 客観的根拠:
      • 厚生労働省の通知では、償還猶予の対象として、DV被害や病気、失業、多重債務など、深刻な状況にある人々が想定されています。
        • 出典)厚生労働省「緊急小口資金等の特例貸付における償還猶予期間中の支援の取扱いについて」令和5年 29
      • 日本福祉大学の研究では、特例貸付利用者が多重債務や不安定就労といった問題を抱え続けている実態が指摘されています。
        • 出典)日本福祉大学 社会福祉論集「コロナ特例貸付の事後評価と今後の生活福祉資金貸付制度のあり方」令和5年 30
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 誰にも発見されないまま孤独死や自殺、犯罪といった最悪の事態に至る社会的リスクが著しく増大します。

行政の課題

社会福祉協議会(社協)の業務過多と機能不全
  • コロナ特例貸付は、地域福祉の中核を担う社協の現場に、処理能力をはるかに超える負担を強いました。全国の社協職員を対象とした調査では、回答者の72%が「業務量の過度な増加」を、85.9%が「ストレス・危険を感じた」と回答しており、心身ともに極限状態であったことがうかがえます。特に東京都特別区のような大都市部の社協では、その負担はより深刻でした。
    • 客観的根拠:
      • 関西社協コミュニティワーカー協会の調査では、都道府県・政令指定都市・特別区社協職員に絞ると、ストレスを感じた割合は90%前後に達します。
        • 出典)住民と自治「生活福祉資金特例貸付の現状と課題」令和3年 31
      • 龍谷大学の研究では、職員の49%が「心身の不調を感じた」、22%が「離職を考えたことがある」と回答しており、バーンアウトが深刻な問題となっています。
        • 出典)龍谷大学「新型コロナウイルス感染症特例貸付の創設と社協現場への影響」令和5年 7
  • 迅速な貸付を最優先した結果、本来の強みである「貸付と一体となった丁寧な相談支援(ソーシャルワーク)」を行う余裕は完全に失われました。そして今、償還局面においては「債権回収機関」としての役割を強く求められ、職員は「支援者」と「取り立て役」という矛盾した立場に置かれています。この役割葛藤は、職員のモチベーションを著しく低下させ、地域福祉の担い手である社協の機能不全を招いています。
    • 客観的根拠:
      • 全国社会福祉協議会は、特例貸付が本来の「寄り添い支援」とは大きくかけ離れたものであったと総括しています。
        • 出典)全国社会福祉協議会「今回の特例貸付は本来の姿とは大きくかけ離れたものといえます。」令和5年 17
      • 文京区社会福祉協議会の事例では、職員が地域に出る時間を捻出するためにDXを進めていた背景が語られており、対人援助業務への注力が課題であったことが示唆されます。
        • 出典)Works Human Intelligence「社会福祉協議会の支援を支えるテクノロジー」令和4年 32
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 地域福祉の要である社協が疲弊・機能不全に陥り、いざという時のセーフティネットが機能しなくなります。
債権管理の専門性欠如と非効率な業務プロセス
  • 社協は福祉の専門機関であり、金融機関が有するような高度な債権管理システムやノウハウを持ち合わせていません。特例貸付の申請受付から償還管理に至るまで、その多くが紙ベースのアナログな手法で行われ、非効率で属人的な業務プロセスが課題となっています。
    • 客観的根拠:
      • 厚生労働省の調査研究事業では、特例貸付が全て紙ベースで実施され、事務の煩雑さや申請数の急増により、社協の事務負担と利用者の利便性双方に課題があったと指摘されています。
        • 出典)厚生労働省「令和4年度社会福祉推進事業 生活福祉資金貸付事業におけるオンライン化に関する調査研究事業報告書」令和5年 33
      • 愛知県常滑市社協の事例では、貸付管理を紙で行っており、アナログで属人的な管理体制であったことが導入前の課題として挙げられています。
        • 出典)Lecto株式会社「【導入事例:常滑市社会福祉協議会 様】」令和6年 34
  • 会計検査院は、フォローアップ支援の委託契約の内容や実施方法が不明確である点、また、長期にわたる債権管理に必要な事務費(債権管理積立額)の執行管理について、国の監督が不十分である点も指摘しており、事業全体のガバナンス体制の脆弱性が露呈しています。
    • 客観的根拠:
      • 会計検査院は、国に対し、都道府県社協と市町村社協等の役割分担や実施方法を明確化し、委託契約書等に明示すべきであるとの意見を表示しています。
        • 出典)会計検査院「令和5年度決算検査報告」令和6年 35
        • 出典)全国社会福祉協議会「コロナ特例貸付に関する会計検査院「意見表示」と本会見解」令和6年 36
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 不適切な債権管理により、国の貴重な財源が損なわれるとともに、借受人への対応の質が著しく低下します。
制度の財源と持続可能性の問題
  • 生活福祉資金貸付制度は、国庫補助金(税金)を原資とし、貸付金の償還によって財源を循環させ、限られた原資を有効活用することを基本理念としています。
    • 客観的根拠:
      • 厚生労働省の資料では、本制度の財源は全額公費であり、償還により貸付原資を循環させることが明記されています。
        • 出典)厚生労働省「生活福祉資金貸付制度について」 3
        • 出典)愛知県社会福祉協議会「この制度は、「貸付-償還」というサイクルで運用され、一定の財源を地域住民が繰り返し利用できるという重要な意義をもつ方策です。」 37
  • しかし、コロナ特例貸付における3割を超える高い免除率と、それに迫る未応答・滞納率により、この「循環モデル」は事実上破綻しています。1.4兆円という巨額の貸付に対し、相当額が回収不能または免除となる見込みであり、制度の財源的持続可能性そのものが根底から揺らいでいます。
    • 客観的根拠:
      • 全国社会福祉協議会の調査では、総合支援資金を中心に貸付実績が減少する一方で償還率の低下が続いており、根本的な課題が指摘されています。
        • 出典)全国社会福祉協議会「これからの生活福祉資金貸付事業のあり方に関する検討委員会報告書」平成31年 38
      • 償還免除額だけでも4,684億円(令和6年3月末時点)に上っており、今後さらに増加が見込まれます。
        • 出典)会計検査院「令和5年度決算検査報告」令和6年 35
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 将来、新たな感染症のパンデミックや大規模災害、経済危機が発生した際に、セーフティネットとして機能すべき本制度が財源枯渇により活用できなくなります。

行政の支援策と優先度の検討

優先順位の考え方

※各支援策の優先順位は、以下の要素を総合的に勘案し決定します。

  • 即効性・波及効果
    • 施策の実施から効果発現までの期間が短く、複数の課題解決や多くの住民への便益につながる施策を高く評価します。単一の課題解決よりも、複数の課題に横断的に効果を及ぼす施策を優先します。
  • 実現可能性
    • 現在の法制度、予算、人員体制の中で実現可能な施策を優先します。既存の体制・仕組みを活用できる施策は、新たな体制構築が必要な施策より優先度が高くなります。
  • 費用対効果
    • 投入する経営資源(予算・人員・時間等)に対して得られる効果が大きい施策を優先します。短期的コストよりも長期的便益を重視し、将来的な財政負担軽減効果も考慮します。
  • 公平性・持続可能性
    • 特定の地域・年齢層だけでなく、幅広い住民に便益が及ぶ施策を優先します。一時的な効果ではなく、長期的・継続的に効果が持続する施策を高く評価します。
  • 客観的根拠の有無
    • 政府資料や学術研究等のエビデンスに基づく効果が実証されている施策を優先します。先行事例での成功実績があり、効果測定が明確にできる施策を重視します。

支援策の全体像と優先順位

  • コロナ特例貸付が残した課題への対応は、単なる債権回収問題ではなく、日本のセーフティネットのあり方そのものを問い直す機会と捉えるべきです。そこで、行政の支援策は「短期的な危機対応」と「中長期的な制度再構築」の両輪で進める必要があります。
  • **最優先(優先度:高)で取り組むべきは「支援策①:償還困難者への包括的フォローアップ体制の強化」**です。これは、生活破綻や社会的孤立という人命に関わる喫緊の課題に対応するものであり、最も即効性が求められます。
  • **次点(優先度:中)として、「支援策②:貸付・償還管理業務のDXと効率化」**を推進します。これにより社協職員を過重な事務作業から解放し、最優先課題であるフォローアップ支援に注力できる環境を整備します。これは支援の質を担保するための不可欠な基盤整備です。
  • これらと並行して、**長期的視点(優先度:長期的)「支援策③:生活福祉資金制度の再設計とセーフティネットの重層化」**に着手します。今回の教訓を活かし、将来の危機に備えるための持続可能で実効性のある制度へと抜本的な改革を進めることを目指します。

各支援策の詳細

支援策①:償還困難者への包括的フォローアップ体制の強化

目的
  • 償還が困難な状況にある借受人の生活再建を具体的に支援し、多重債務化や社会的孤立、生活破綻を防ぎます。
  • 貸付を入口として、借受人が抱える就労、家計、心身の健康、家族関係といった根本的な課題の解決につなげ、真の自立を促進します。
    • 客観的根拠:
      • 会計検査院は、令和5年度決算検査報告において、償還免除者や滞納者に対するフォローアップ支援が多くの自治体で不十分であると指摘しており、この体制強化は国レベルでの急務とされています。
        • 出典)参議院「令和5年度決算検査報告」令和6年 24
        • 出典)会計検査院「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた生活福祉資金貸付制度における緊急小口資金等の特例貸付に係るフォローアップ支援」令和6年 39
主な取組①:アウトリーチ(訪問・プッシュ型)支援チームの設置
  • 各区の社会福祉協議会内に、特例貸付のフォローアップを専門に行う「生活再建支援室」のような時限的または恒久的な専門チームを設置します。
  • 郵便や電話に応答しない「未応答者」のリストに基づき、積極的に自宅訪問(アウトリーチ)を実施します。その際、単に返済を督促するのではなく、「お困りごとはありませんか」という姿勢で、食料支援(フードパントリー)や各種相談会の案内などをきっかけに接触を図り、信頼関係の構築を第一とします。
    • 客観的根拠:
      • 神奈川県川崎市社会福祉協議会が全国に先駆けて設置した「生活再建支援室」は、アウトリーチによるプッシュ型支援の有効なモデルケースです。
        • 出典)川崎市社会福祉協議会「生活再建支援室は、全国に先駆けて、相談支援を行う専門の支援員を配置した部署として立ち上げ」令和6年 22
      • 厚生労働省も、償還困難者への支援として、訪問等のアウトリーチによるフォローアップを推奨しています。
        • 出典)厚生労働省「緊急小口資金等の特例貸付の借受人へのフォローアップ支援の推進について」令和5年 40
主な取組②:自立相談支援機関との一体的運営・情報共有
  • 生活福祉資金の相談窓口(社協)と、生活困窮者自立支援法に基づく自立相談支援機関の連携を抜本的に強化します。理想的には、北区社協のように、両事業を同一部署が所管し、一体的に運営する体制を目指します。
  • 貸付相談の初期段階から両機関でアセスメント情報を共有し、貸付の要否判断だけでなく、包括的な支援プランを共同で作成します。
  • 償還猶予の申請に際して、自立相談支援機関による「生活状況から償還猶予が適当である」との意見書を要件に加えるなど、制度的に連携を促す仕組みを導入します。
    • 客観的根拠:
      • 厚生労働省は、償還猶予の要件の一つに「自立相談支援機関に相談が行われた結果、当該機関において、借受人の生活状況から償還猶予を行うことが適当であるとの意見が提出された場合」を挙げており、両者の連携を制度上も後押ししています。
        • 出典)厚生労働省「緊急小口資金等の特例貸付における償還猶予期間中の借受人へのフォローアップ支援の推進について」令和4年 41
      • 東京都北区社会福祉協議会は、生活困窮者自立支援係が生活福祉資金貸付事業を所管し、一体的な相談支援体制を構築した先進事例です。
        • 出典)ふくし実践事例ポータル「地域のネットワークを活かした生活困窮者自立支援の取組み」平成29年 42
主な取組③:多重債務問題解決に向けた専門機関との連携強化
  • 法テラス(日本司法支援センター)、弁護士会、司法書士会、クレジットカウンセリング協会といった法律・債務整理の専門機関と、区レベルでの定期的な連携会議を設置します。
  • これらの専門機関と社協、自立相談支援機関が連携し、区役所や社協の施設内で「多重債務・生活再建 合同相談会」を定期的に開催します。
  • 相談の結果、任意整理や自己破産などの法的手続きが必要と判断された借受人を、迅速かつ円滑に専門家(弁護士・司法書士)の無料相談や代理援助(費用立替)制度につなげるための紹介フローを確立・共有します。
    • 客観的根拠:
      • 特例貸付利用者の多くが多重債務問題を抱えている実態があり、福祉的支援だけでは根本解決に至らないケースが多数存在します。
        • 出典)東京都福祉局「特例貸付を除く借金が100万円以上」「月の返済額が5万~10万円」と答える借受人が一定数見られました。」令和6年 21
      • 厚生労働省も、返済困難者への案内として、法テラスや司法書士総合相談センター等の多重債務相談窓口の利用を推奨しています。
        • 出典)厚生労働省「返済困難な方へ関係機関のご案内」令和4年 43
主な取組④:多様な背景を持つ借受人への配慮
  • 外国籍の借受人が多い特別区の実情を踏まえ、償還や免除に関する案内資料を多言語(英語、中国語、韓国語、やさしい日本語等)で作成し、配布します。また、通訳を配置した専門の相談日を設けます。
  • 高齢や障害により、書類の理解や手続きが困難な借受人に対しては、職員や委託相談員が訪問して説明を行ったり、本人の同意を得て代理で申請手続きを支援したりするなど、個別の状況に応じた柔軟な対応を徹底します。
    • 客観的根拠:
      • 東京都社会福祉協議会は、すでに償還案内において11言語での対応を行っており、こうした取り組みを各区社協レベルでも展開・強化する必要があります。
        • 出典)東京都社会福祉協議会「新型コロナウイルス感染症の影響による特例貸付 償還に関するご案内」令和6年 27
      • 川崎市社協の調査では、高齢化する借受人(8050問題など)への長期的な支援の必要性が課題として挙げられており、個別の状況への配慮が不可欠です。
        • 出典)川崎市社会福祉協議会「特例貸付借受人の高齢化」令和6年 22
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 支援対象者の生活保護移行率の前年比5%減
      • データ取得方法: 区福祉事務所の被保護者統計データと、社協の支援対象者リストとの突合による追跡調査
    • 支援対象者における自殺者数のゼロ化
      • データ取得方法: 警察庁の自殺統計データ(地域別)と区の人口動態統計、社協の支援対象者リストの照合分析
  • KSI(成功要因指標)
    • 未応答者に対するアウトリーチ成功率(接触・対話に至った割合)50%以上
      • データ取得方法: 社協の訪問記録・相談記録システムからのデータ集計
    • 支援対象者のうち自立相談支援機関の支援プラン策定に至った割合 70%以上
      • データ取得方法: 社協と自立相談支援機関の連携システムによる実績管理
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 支援対象者のうち、就労または増収に繋がった者の割合 30%以上
      • データ取得方法: フォローアップ面談時の定期的なアセスメントシートによる自己申告および収入証明の確認
    • 支援対象者の家計収支(赤字額)の平均20%改善
      • データ取得方法: 家計改善支援事業における家計診断シートの前後比較
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • アウトリーチ訪問件数(月間目標値設定)
      • データ取得方法: 専門チームの業務日報・活動記録
    • 多機関連携による合同相談会の開催数(四半期に1回以上)と延べ参加者数
      • データ取得方法: 相談会実施報告書および参加者名簿
    • 多言語対応の案内資料の作成・配布数
      • データ取得方法: 作成・配布実績の記録

支援策②:貸付・償還管理業務のDXと効率化

目的
  • 膨大かつ長期にわたる貸付・償還管理業務を、紙ベースのアナログなプロセスから脱却させ、抜本的に効率化・標準化します。
  • 事務負担の大きい定型業務をデジタル技術で自動化することにより、職員を対人援助(ソーシャルワーク)という本来の専門業務に再配置し、支援の質を向上させます。
    • 客観的根拠:
      • コロナ特例貸付では、申請から貸付決定までが全て紙ベースで実施され、社協の事務負担が爆発的に増大しました。この非効率なプロセスが、相談支援機能の低下を招いた一因です。
        • 出典)厚生労働省「令和4年度社会福祉推進事業 生活福祉資金貸付事業におけるオンライン化に関する調査研究事業報告書」令和5年 33
      • 愛知県常滑市社会福祉協議会では、債権管理プラットフォームを導入し、担当者の業務負荷を削減し、個別フォローアップ対応の時間を捻出することに成功しており、DXの有効性を示しています。
        • 出典)Lecto株式会社「【導入事例:常滑市社会福祉協議会 様】」令和6年 34
主な取組①:債権管理システムの導入
  • 借受人の基本情報、貸付・償還状況、相談記録、督促履歴などを一元的に管理できるクラウド型の債権管理システムを導入します。東京都社会福祉協議会が主導し、特別区統一のシステムを導入することが望ましいです。
  • これにより、情報の属人化を防ぎ、担当者間でのスムーズな情報共有を可能にし、対応品質の均一化を図ります。
    • 客観的根拠:
      • 愛知県常滑市社協は、Lecto社のプラットフォームを導入し、紙ベースの管理から脱却し、貸付管理のシステム化を実現しました。
        • 出典)Lecto株式会社「【導入事例:常滑市社会福祉協議会 様】」令和6年 34
        • 出典)PR TIMES「常滑市社会福祉協議会が「Lectoプラットフォーム」で運用を開始」令和5年 44
主な取組②:連絡・通知業務の自動化
  • 導入する債権管理システムを活用し、償還期日の事前案内、入金確認の通知、滞納者への初期督促などを、SMS(ショートメッセージサービス)や電子メールで自動送信する機能を構築します。
  • これにより、従来手作業で行っていた大量の電話連絡や郵便物の封入・発送作業を大幅に削減し、コストと時間を圧縮します。
    • 客観的根拠:
      • 債権管理システムを提供するLecto社の導入事例では、SMS活用により郵便通知の負荷を90%削減した企業もあり、福祉分野でも同様の効果が期待できます。
        • 出典)Lecto株式会社「回収業務の改善で生産性アップ& 時間的コスト削減へ」 45
      • 東京都社会福祉協議会も、すでにSMSを使った案内を実施しており、その有効性が認められています。
        • 出典)東京都社会福祉協議会「SMS(ショートメッセージサービス)を使った案内について」令和6年 27
主な取組③:オンライン申請・手続きの導入
  • 将来の生活福祉資金貸付制度を見据え、申請から契約、住所変更等の各種届出までをスマートフォンやPCで完結できるオンライン手続きの仕組みを構築します。
  • マイナンバーカードの公的個人認証サービス(JPKI)を活用した本人確認や、マイナポータル連携による住民票・課税情報等の行政内情報連携を可能にし、申請者の書類準備の負担と行政の確認作業を軽減します。
    • 客観的根拠:
      • 厚生労働省は社会福祉推進事業として「生活福祉資金貸付事業におけるオンライン化に関する調査研究事業」を進めており、国レベルでデジタル化が検討されています。この流れに乗り、特別区として先行的に取り組む意義は大きいです。
        • 出典)株式会社NTTデータ経営研究所「令和5年度社会福祉推進事業 11 生活福祉資金貸付事業におけるオンライン化に関する調査研究事業」令和6年 46
        • 出典)厚生労働省「令和4年度社会福祉推進事業 生活福祉資金貸付事業におけるオンライン化に関する調査研究事業報告書」令和5年 33
主な取組④:データ分析機能の活用とEBPMの実践
  • システムに蓄積された貸付・償還データを分析し、償還遅延のリスクが高い層(特定の職業、年齢層、債務状況など)を早期に特定します。
  • この分析結果に基づき、滞納が発生する前に相談を勧奨する文書を送付するなど、予防的なアプローチ(EBPM:証拠に基づく政策立案)を実践します。
  • 事業報告に必要な統計データ(貸付件数、償還率、免除率など)をダッシュボードで可視化し、報告書作成業務を効率化します。
    • 客観的根拠:
      • 厚生労働省の調査研究では、将来的な構想として、蓄積されたデータを活用して相談、審査、償還指導等の業務における「高度な判断支援」を実現することが示されています。
        • 出典)厚生労働省「令和4年度社会福祉推進事業 生活福祉資金貸付事業におけるオンライン化に関する調査研究事業報告書」令和5年 33
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 職員一人当たりの対人相談支援時間の前年度比20%増加
      • データ取得方法: 職員の業務日報や勤怠管理システムを用いたタイムスタディ調査(導入前後比較)
  • KSI(成功要因指標)
    • 貸付・償還管理に関わる定型事務作業時間の50%削減
      • データ取得方法: BPR(業務プロセス改革)分析による対象業務の作業時間測定(導入前後比較)
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 償還案内・督促通知にかかる郵送・通信コストの前年度比30%削減
      • データ取得方法: 会計システムからの経費データ抽出・分析
    • 償還の初期滞納率(償還開始後3か月以内)の前年比5%改善
      • データ取得方法: 債権管理システムのデータ分析
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • クラウド型債権管理システムの導入完了
      • データ取得方法: 事業進捗管理表
    • SMS・メールによる自動通知機能の実装と送信件数
      • データ取得方法: システムのログデータ
    • 全担当職員を対象としたシステム操作研修の実施率100%
      • データ取得方法: 研修実施報告書および受講者名簿

支援策③:生活福祉資金制度の再設計とセーフティネットの重層化

目的
  • コロナ特例貸付の混乱と課題を徹底的に総括し、緊急時における「貸付」と「給付」の役割分担を明確化し、制度の目的と位置づけを再定義します。
  • 将来、同様の社会経済的危機が発生した際に、迅速かつ効果的に機能する、持続可能で重層的なセーフティネットを構築します。
    • 客観的根拠:
      • 特例貸付は「実質的な給付」と説明されながらも「貸付」の枠組みで実施されたため、現場に多大な混乱と矛盾をもたらしました。この経験から、制度の根本的なあり方を見直す必要があります。
        • 出典)龍谷大学「新型コロナウイルス感染症特例貸付の創設と社協現場への影響」令和5年 7
        • 出典)全国社会福祉協議会「コロナ特例貸付からみえる生活困窮者支援のあり方に関する検討会 報告書」令和4年 47
      • 全国社会福祉協議会は、国に対し、緊急時や災害時における困窮者支援措置のあり方そのものを抜本的に検討するよう提言しています。
        • 出典)全国社会福祉協議会「コロナ特例貸付等の経験をふまえ、今後のわが国の社会保障・セーフティネットの再構築に向けて」令和5年 47
主な取組①:「貸付」と「給付」の役割分担の明確化を国に提言
  • 大規模な災害やパンデミック等の国家的危機に際しては、生活困窮者に対しては迅速性を最優先する「給付金」を第一の支援策とすべきであると、国に対して強く提言します。
  • その上で、生活福祉資金貸付制度は、あくまで個別の事情に応じた「自立に向けた伴走支援を伴う貸付」という本来の役割に徹するべきであると、その役割分担の明確化を求めます。
    • 客観的根拠:
      • 日本弁護士連合会は、特例貸付の経験を踏まえ、限定的な償還免除要件では不十分であり、より給付に近い形での支援の必要性を指摘しています。これは、緊急時には貸付という手法が馴染まないことを示唆しています。
        • 出典)日本弁護士連合会「新型コロナウイルス感染症対応の生活福祉資金特例貸付に関する会長声明」令和4年 26
主な取組②:償還免除要件の柔軟化と簡素化を国に提言
  • 現行の複雑な年度別・資金種類別の償還免除要件を抜本的に見直し、より利用者の生活実態に即した、分かりやすく柔軟な基準(例:申請時点から一定期間、収入が困窮水準以下である状態が継続した場合に免除するなど)への変更を国に提言します。
  • 申請手続きについても、マイナポータル連携などを活用し、利用者が役所で何種類もの証明書を取得する負担を軽減するよう、プロセスの簡素化を求めます。
    • 客観的根拠:
      • 複雑な制度と手続きは、最も支援を必要とする情報弱者が制度から脱落する原因となります。現場からも柔軟な運用を求める声が強く上がっています。
        • 出典)練馬区議会議員かとうぎ桜子氏ブログ「実際には非課税世帯などごく一部にしか適用されないため、返済によって更なる困窮が起こるのではないかと懸念されています。」令和5年 48
        • 出典)大津市議会「県や国に償還免除の取扱いについて柔軟な実施を求めることは予定しておりません。」令和4年 49
主な取組③:安定的・継続的な財源の確保を国に要望
  • 償還金の循環利用に過度に依存する現行の財源モデルは、大規模な危機時には機能不全に陥ることが明らかになりました。これを踏まえ、償還金の動向に左右されない、安定的な国庫補助による財源モデルの構築を国に強く要望します。
  • 特に、社協が本来の相談支援機能(ソーシャルワーク)を十分に発揮できるよう、人件費や事業費を支えるための運営費交付金を恒久的に拡充するよう求めます。
    • 客観的根拠:
      • 生活福祉資金の財源は全額公費ですが、償還金の循環利用を前提としたモデルは、コロナ特例貸付の高い免除率と滞納率によって事実上破綻しています。
        • 出典)厚生労働省「貸付は償還により貸付原資を循環させることで限られた財源を有効活用」 3
      • 全国社会福祉協議会は、少子化対策等の財源確保が進む中でも、福祉制度に必要な財源は確実に確保するよう政府に強く要望しています。
        • 出典)福祉新聞「福祉拡充へ財源確保を 全社協が来年度予算要望」令和6年 50
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 将来の同規模の危機発生時における、生活福祉資金貸付の申請件数の抑制(給付制度が主たる受け皿となることの指標)
      • データ取得方法: 将来の危機発生後の貸付申請件数の実績値
  • KSI(成功要因指標)
    • 国の災害・経済危機時における新たな「給付制度」の創設
      • データ取得方法: 国の法改正・予算措置の状況モニタリング
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 住民(特に貸付利用者)の制度(貸付と給付の違い)に対する理解度の向上
      • データ取得方法: 住民意識調査、貸付利用者へのアンケート調査
    • 償還免除申請手続きの簡素化(申請に要する平均時間の短縮、必要書類数の削減)
      • データ取得方法: 申請者へのアンケート調査、手続きマニュアルの改訂前後比較
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • 国(厚生労働省、財務省等)への政策提言の実施回数
      • データ取得方法: 活動報告書
    • 関係団体(全国市長会、他自治体等)との合同要望活動の実施回数
      • データ取得方法: 会議議事録、共同声明等の文書

先進事例

東京都特別区の先進事例

東京都新宿区社会福祉協議会「細くてもつながり続ける支援」

  • 新宿区社協は、コロナ特例貸付の償還が困難な状況にある相談者に対し、性急な解決を求めるのではなく、まず関係性を維持し、信頼関係を構築することを最優先しています。区社協の「暮らしの相談窓口」が中心となり、電話や面談を通じて「細くても、長くつながり続ける」ことを目指した伴走支援を実践しています 1
  • 成功要因は、貸付を単なる事務手続きとして捉えず、あくまで相談支援の一環と位置づけている点にあります。償還に関する事務的な連絡は東京都社協の「特例貸付事務センター」に集約し、区社協は生活課題そのものに寄り添うという役割分担を明確にすることで、借受人の心理的負担に配慮した質の高いソーシャルワークを可能にしています 3
    • 客観的根拠:
      • 全国社会福祉協議会が発行した「コロナ特例貸付の借受人へのフォローアップ支援事例集」において、自立相談支援機関との連携・協働によるフォローアップ支援の好事例として、その丁寧なアプローチが紹介されています 4

東京都北区社会福祉協議会「自立相談支援機関との一体的運営」

  • 北区社協は、生活困窮者自立支援法に基づく区の相談窓口「北区くらしとしごと相談センター」の運営を受託し、その組織内に生活福祉資金貸付事業を位置づけることで、相談の入口から貸付、その後のフォローアップまでを一体的に行える体制を構築しています 6
  • 成功要因は、組織的に貸付担当と自立相談支援担当が「生活困窮者自立支援係」という同一係に所属している点です。これにより、担当者間の情報共有が極めて円滑に行われ、借受人が抱える複合的な課題に対して、多角的な視点から迅速に支援計画を立案・実行することが可能です 6。この体制が、貸付が「貸しっぱなし」になることを防ぎ、生活再建という本来の目的に結びつける上で大きな力となっています。
    • 客観的根拠:
      • 北区社協は生活困窮者自立支援制度の開始当初から、貸付事業と自立相談支援事業を一体的に運営する先進的な体制を構築しており、その取り組みが報告されています 6

東京都江東区社会福祉協議会「区独自の応急小口福祉資金との連携」

  • 江東区社協は、東京都社会福祉協議会からの受託事業である国の生活福祉資金(緊急小口資金等)に加えて、江東区の独自事業である「応急小口福祉資金」を運営しています 9。これにより、国の制度では対象とならない、より緊急性の高いニーズや、貸付上限額に満たない少額の資金ニーズにも柔軟に対応することが可能です。
  • 成功要因は、国と区という二段構えの貸付制度を持つことで、支援の選択肢が格段に広がっている点です。相談者の状況に応じて最適な制度を案内できるため、制度の狭間で支援からこぼれ落ちてしまう区民を減らすことに貢献しています。
    • 客観的根拠:
      • 江東区社会福祉協議会のウェブサイトでは、都の事業である「緊急小口資金」と、区の独自事業である「応急小口福祉資金」の両方を案内しており、地域の実情に応じた複合的な支援体制を構築していることが示されています 9

全国自治体の先進事例

神奈川県川崎市社会福祉協議会「生活再建支援室の設置とアウトリーチ強化」

  • 川崎市社協は、コロナ特例貸付の膨大なフォローアップ業務に専門的に対応するため、全国に先駆けて「生活再建支援室」を設置しました 10。この部署は、アウトリーチ(訪問)によるプッシュ型支援を基本戦略とし、特に連絡の取れない未応答者や、今後長期的な支援が必要となる高齢化する借受人への寄り添いに注力しています 11。また、若年層との接点を持つため、LINE公式アカウントを活用した相談対応も行っています 13
  • 成功要因は、既存部署の業務に上乗せするのではなく、専門部署を立ち上げたことで、集中的かつ計画的な支援が可能になった点です。これにより、8050問題や外国籍住民といった、特に複雑で困難な課題を抱える層へのアプローチに成果を上げています 11
    • 客観的根拠:
      • 川崎市内の特例貸付借受人約2万人を対象にプッシュ型の支援を展開しており、市内の貸付決定額176億円超、未応答者が約3割存在するなど、具体的な課題データを把握し、それに基づいた戦略的な支援を行っていることが報告されています 10

愛知県常滑市社会福祉協議会「債権管理プラットフォーム導入によるDX推進」

  • 常滑市社協は、人的リソースが限られる中で、コロナ特例貸付の膨大な管理業務に対応するため、Lecto株式会社が提供する債権管理プラットフォームを導入しました 15。これにより、従来のアナログで属人的な紙ベースの管理から脱却し、貸付情報のデータ化や返済通知の自動化といったデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現しました。
  • 成功要因は、テクノロジーを活用して定型業務を徹底的に効率化した点です。これにより創出された貴重な人的リソース(時間)を、職員が本来最も注力すべき、利用者一人ひとりへの個別具体的なフォローアップ対応(相談支援)に再配分することを可能にしました 17
    • 客観的根拠:
      • 同社の導入事例報告によれば、システム導入により「担当者の業務負荷を削減し、個別のフォローアップ対応の時間を捻出」できたと報告されており、これは人員体制が脆弱な中小規模の自治体社協にとって、福祉現場におけるDXの有効なモデルケースと言えます 18

参考資料[エビデンス検索用]

厚生労働省関連資料
会計検査院関連資料
内閣府関連資料
全国社会福祉協議会関連資料
東京都・特別区関連資料
その他自治体・研究機関・団体関連資料

まとめ

 コロナ特例貸付は、緊急時のセーフティネットとして機能した一方、制度設計と実施体制の脆弱性を露呈させました。東京都特別区においては、償還困難者へのアウトリーチ支援を核とした包括的フォローアップ体制の強化が急務です。同時に、社協業務のDXを進め、将来的には貸付と給付の役割を明確化した持続可能な制度へと再設計する必要があります。
 本内容が皆様の政策立案等の一助となれば幸いです。
 引き続き、生成AIの動向も見ながら改善・更新して参ります。

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