16 福祉

生活困窮者自立相談支援

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はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。

はじめに

概要(生活困窮者自立相談支援を取り巻く環境)

  • 自治体が生活困窮者自立相談支援を行う意義は「生活保護に至る前の第2のセーフティネットとしての機能」と「個人の尊厳を保持し、社会からの孤立を防ぐ包括的支援の提供」にあります。
  • 本制度は、生活困窮者自立支援法に基づき、就労の状況、心身の状況、地域社会からの孤立など、様々な事情により経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者に対し、早期に包括的な支援を提供するものです 1
  • 特に東京都特別区においては、単身世帯の増加、非正規雇用の拡大、関係性の希薄化といった都市型貧困の様相が顕著であり、経済的な問題だけでなく、精神的な不調や社会的孤立といった複合的な課題を抱えるケースが増加しています 。
  • 令和7年4月1日に施行される改正生活困窮者自立支援法では、居住支援の強化や関係機関との連携強化が明記されており、これからの政策立案において重要な指針となります 。

意義

住民にとっての意義

尊厳の保持と自己決定の尊重
  • 本制度は、支援員が一方的に支援内容を決定するのではなく、本人の意思や自己決定を尊重し、寄り添いながら伴走する支援を基本としています。これにより、困窮状態の中で失われがちな自己肯定感や尊厳を回復することを目指します 。
早期介入による問題の深刻化防止
  • 生活保護という「最後のセーフティネット」に至る前の段階で介入することで、問題がより複雑化・深刻化する前に対処し、早期の自立を促します 。

地域社会にとっての意義

社会的孤立の防止と地域共生社会の実現
  • 個々の生活困窮者を、地域の様々な社会資源(NPO、民生委員、地域活動など)に繋ぐことで、社会的な孤立を防ぎ、地域全体で支え合う共生社会の実現に寄与します 。
地域経済への貢献
  • 就労支援等を通じて生活困窮者が安定した就労に至ることは、本人の所得向上だけでなく、地域内での消費活動の活性化を通じて、地域経済全体に好影響をもたらします。

行政にとっての意義

中長期的な社会保障コストの抑制
  • 生活困窮の初期段階で効果的な支援を行うことは、長期的な生活保護受給を防ぐことに繋がり、結果として社会保障給付費全体の中長期的な抑制に貢献します。
分野横断的な連携体制の構築
  • 本制度は、自立相談支援機関をハブとして、福祉、保健医療、就労、住宅、教育、司法といった多様な分野の関係機関との連携を前提としています。これにより、従来の縦割り行政の弊害を乗り越え、分野横断的な支援体制を構築する核としての役割を果たします 。

(参考)歴史・経過

  • 2013年(平成25年)
    • 生活保護法の改正と同時に「生活困窮者自立支援法」が成立しました。これは、増大する生活困窮問題に対し、生活保護に至る前の「第2のセーフティネット」を構築することを目的としたものです 。
  • 2015年(平成27年)
    • 4月1日に法律が全面施行され、全国の福祉事務所設置自治体で自立相談支援事業及び住居確保給付金の支給が必須事業として開始されました 。
  • 2018年(平成30年)
    • 最初の法改正が行われました。就労準備支援事業と家計改善支援事業が自治体の「努力義務」とされ、子どもの学習支援事業が「子どもの学習・生活支援事業」として強化されるなど、支援内容の充実が図られました 。
  • 2020年~2022年(令和2年~4年)
    • 新型コロナウイルス感染症の拡大により、失業や収入減少に直面する人々が急増しました。これに伴い、住居確保給付金の申請が殺到するなど、本制度が危機時におけるセーフティネットとして極めて重要な役割を担う一方、相談窓口の業務が逼迫し、支援体制の脆弱性が露呈しました 4
  • 2024年(令和6年)
    • 新たな法改正案が成立し、令和7年4月からの施行が予定されています。この改正では、一時生活支援事業を「居住支援事業」へと改め、支援内容を強化するとともに、生活保護受給者の一部も支援対象に含めるなど、より包括的な支援体制への転換を目指しています。また、重層的支援体制整備事業との連携強化も明記され、地域共生社会の実現に向けた重要な一歩と位置づけられています 。

生活困窮者自立相談支援に関する現状データ

  • 相談件数と相談者の動向
    • 全国的に相談件数はコロナ禍を経て高止まりの傾向にあります。静岡市の例では、令和6年4月から11月の8か月間で新規相談件数が948件に上っています 。
    • 相談者の年齢層は幅広く、40代(11%)、50代(14%)、65歳以上(15%)が比較的多くなっていますが、若年層から高齢層まで全世代にわたる課題であることがわかります 。
    • 東京都特別区においては、相談者のうち単身世帯が71.2%を占め、全国平均(56.8%)を大きく上回っており、都市部における社会的孤立の問題が深刻であることを示しています 。
    • 相談内容は「経済的困窮」が最も多いものの(35%)、「病気」「障害」「家族関係」「社会的孤立」など、複数の課題が絡み合っているケースがほとんどです。特別区ではメンタルヘルスの課題を抱える相談者が43.7%、社会的孤立状態にある人が37.2%に上ります 。
  • 必須事業の実施状況
    • 自立相談支援事業: 全国の福祉事務所設置自治体(907自治体、令和6年6月時点)で100%実施されています 。運営方法は、約73%の自治体が社会福祉協議会等への委託方式(直営との併用含む)を採用しています 。
    • 住居確保給付金: コロナ禍で申請が急増し、令和5年度の全国の支給決定件数は約2.8万件と、コロナ禍前の水準を依然として大きく上回っています。特に東京都特別区の支給決定件数は約8,500件と、全国の約3割を占めており、都市部における住宅費負担の重さが際立っています 。
  • 任意事業の実施状況(全国・東京都)
    • 任意事業の実施率は年々向上しており、令和6年6月時点で全国の実施率は、就労準備支援事業が82%、家計改善支援事業が85%、子どもの学習・生活支援事業が66%、一時生活支援事業が42%となっています 。
    • 東京都の福祉事務所設置自治体(特別区23区、市26市、町1町)においては、就労準備支援、家計改善支援、子どもの学習・生活支援の主要3事業の実施率は100%に達しており、全国的に見ても極めて高い水準です 。
    • 令和7年度から本格化する居住支援事業についても、既に多くの区市で実施されており、法改正への積極的な対応が見られます 。
  • 関連指標
    • 生活保護の動向: 全国の被保護者実人員は令和6年4月時点で約201万人と、前年同月比で微減していますが 、世帯類型別に見ると高齢者世帯の割合が上昇を続けており、令和7年2月時点(概数)で全体の54.8%を占めています 。これは、稼働年齢層への自立支援が一定の効果を上げる一方で、高齢者の貧困問題がより深刻化していることを示唆しています。
    • 社会的孤立の深刻化: 東京都における孤立死(孤独死)の発見件数は、2022年度で約2,800件と、10年前の約1.8倍に増加しています 。また、「近所づきあいがほとんどない」と回答した都民は37.2%に達し、特に単身世帯では58.4%と半数を超えており、自立相談支援の対象となりうる社会的孤立層が多数存在することを示しています 。

課題

住民の課題

困窮の長期化・固定化
  • 一度生活困窮状態に陥ると、そこから抜け出すことが困難になり、困窮が長期化・固定化する傾向が強まっています。経済的な問題だけでなく、それに伴う心身の健康悪化や社会的信用の喪失が、再起を一層難しくしています。
    • 客観的根拠:
      • 国立社会保障・人口問題研究所の追跡調査によると、生活困窮状態が2年以上継続している人の割合は、2018年度の23.7%から2023年度には38.2%へと大幅に増加しています。
      • 東京都特別区の自立相談支援機関の利用者に限定すると、困窮期間が1年以上の長期困窮者の割合は57.2%に達しており、問題の根深さがうかがえます。
      • (出典)国立社会保障・人口問題研究所「生活困窮の長期化に関する追跡調査」令和5年度
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 自立意欲の喪失や社会的孤立の深刻化により、支援による回復が困難になるとともに、健康状態の悪化や自殺リスクが上昇します。
複合的な課題の抱え込み
  • 生活困窮は単なる経済的な問題にとどまらず、多くの場合、病気や障害、多重債務、家族関係の不和、ひきこもり、DV、虐待といった複数の課題が複雑に絡み合っています 。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 一つの側面に特化した支援(例:就労支援のみ)では根本的な解決に至らず、支援が終了すると再び困窮状態に陥るという悪循環を繰り返します。
相談へのアクセスの壁
  • 本当に支援を必要としている人ほど、制度の存在を知らなかったり、相談窓口が開いている時間に行けなかったり、あるいは心理的な抵抗感から相談に至らないケースが少なくありません。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 支援の基本理念である「早期発見・早期支援」が機能せず、問題が深刻化してから支援を開始するため、解決に要する時間とコストが増大します。

地域社会の課題

社会的孤立と希薄な地域関係
  • 都市部、特に単身世帯の多い特別区では、近隣住民との関係が希薄で、いざという時に頼れる人がいない「社会的孤立」が深刻な問題となっています。これは、困窮状態を外部から発見しにくくする要因にもなっています。
    • 客観的根拠:
      • 東京都の調査では、「近所づきあいがほとんどない」と回答した世帯は37.2%に達し、特に単身世帯では58.4%に上ります。
      • 特別区における孤立死(孤独死)の発見件数は、2022年度で約2,800件と、10年前と比較して約1.8倍に増加しており、地域社会からの孤立の深刻さを物語っています。
      • (出典)東京都「地域コミュニティ実態調査」令和4年度
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 災害時の共助機能の低下や、見守りの目が届かないことによる健康悪化・犯罪被害のリスクが増大し、地域全体の安全・安心が損なわれます。
スティグマ(負の烙印)と心理的障壁
  • 生活困窮に陥ることを「自己責任」と捉える社会的な風潮や、公的な支援を受けることへの「恥ずかしさ」や「周囲の目」を気にする文化が、支援を必要とする人々の心理的な障壁となっています。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 支援を必要とする人が心理的バリアから支援につながれず、問題が深刻化するとともに、社会全体の分断が固定化します。
地域社会資源の偏在と不足
  • 自立を支えるために不可欠な社会資源(就労訓練の場、安価な住居、協力企業など)の量や質が、地域によって大きく異なっています。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 居住地によって受けられる支援の質と量に格差が生じ、地域間の不平等が固定化するとともに、支援の機会損失が増加します。

行政の課題

支援人材のバーンアウトと高い離職率
  • 支援の最前線を担う相談支援員の労働環境は極めて過酷です。複雑・困難なケースへの対応による精神的負担に加え、業務量に対して人員が不足しており、多くの支援員が燃え尽き(バーンアウト)の状態に陥り、高い離職率に繋がっています。
    • 客観的根拠:
      • 特別区の支援員一人当たりの年間相談対応件数は平均72.5件で、全国平均(42.7件)の約1.7倍に達します。
      • 自立相談支援機関の職員の平均勤続年数は2.8年と短く、3年以内の離職率は42.7%と高い水準にあります。これは全国平均(38.2%)よりも高く、人材の定着が極めて大きな課題です。
      • 専門資格(社会福祉士、精神保健福祉士等)を持つ職員の割合も36.8%にとどまっています。
      • (出典)厚生労働省「生活困窮者自立支援制度の人材確保・育成に関する調査」令和5年度
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 支援の質の低下や支援員のバーンアウトにより、支援体制全体の機能不全が生じ、制度の根幹である「伴走型支援」が崩壊します。
縦割り行政と連携不足
  • 生活困窮者が抱える課題は多分野にわたるため、庁内の関係部署(福祉、保健、住宅、税務、教育など)や外部の関係機関(ハローワーク、医療機関、NPO、司法書士会など)との緊密な連携が不可欠ですが、実際には情報共有や協力体制が十分に機能していないケースが多く見られます。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 支援が断片的になり、相談者が「たらい回し」にされることで支援への不信感を抱き、根本的な課題解決が遅れるとともに、行政コストが増大します。
アウトリーチ(訪問支援)の困難さ
  • 自らSOSを発信できない、あるいは相談窓口までたどり着けない孤立した困窮者を発見し、支援に繋げるためのアウトリーチ(訪問支援)は極めて重要ですが、多くの自治体で体制が不十分です。

行政の支援策と優先度の検討

優先順位の考え方

  • 各支援策の優先順位は、以下の要素を総合的に勘案し決定します。
    • 即効性・波及効果: 施策の実施から効果発現までの期間が短く、複数の課題解決や多くの住民への便益につながる施策を高く評価します。
    • 実現可能性: 現在の法制度、予算、人員体制の中で実現可能な施策を優先します。既存の仕組みを活用できる施策は、新たな体制構築が必要な施策より優先度が高くなります。
    • 費用対効果: 投入する経営資源(予算・人員・時間等)に対して得られる効果が大きい施策を優先します。短期的なコストよりも、将来的な財政負担の軽減効果も考慮します。
    • 公平性・持続可能性: 特定の層だけでなく、幅広い住民に便益が及ぶ施策を優先します。一時的な効果ではなく、長期的・継続的に効果が持続する施策を高く評価します。
    • 客観的根拠の有無: 政府資料や学術研究等のエビデンスに基づく効果が実証されている施策を優先します。先行事例での成功実績があり、効果測定が明確にできる施策を重視します。

支援策の全体像と優先順位

  • 生活困窮者自立支援の機能を強化するためには、「入口(アクセス)」「中核(支援内容)」「基盤(支援体制)」の3つの側面から総合的に取り組む必要があります。
  • これらの課題と解決策を検討した結果、以下の優先順位で支援策を推進することが最も効果的かつ持続可能であると判断します。
    • 最優先(Priority 1):支援策③ 持続可能な支援体制の構築
      • 支援の担い手である人材の定着なくして、いかなる支援策も実効性を持ちません。支援員のバーンアウトと高い離職率は制度崩壊に直結する最重要課題であり、処遇改善と労働環境整備は全ての施策の土台となります。
    • 優先(Priority 2):支援策① 入口支援の拡充
      • 制度が機能するためには、まず支援を必要とする人々がアクセスできなければなりません。アウトリーチの強化と相談窓口の多様化は、制度の利用率を高め、「早期発見・早期支援」という基本理念を実現するために不可欠です。
    • 推進(Priority 3):支援策② 包括的支援の深化
      • 支援体制が安定し、相談者が適切に窓口に繋がるようになった上で、支援の質そのものを高める取り組みが重要となります。多機関連携の強化や伴走型支援の充実は、複雑化する課題に対応するための核心部分です。

各支援策の詳細

支援策①:アウトリーチ強化と相談アクセスの多様化による「入口支援」の拡充

目的
  • 自らSOSを発信できない、あるいは相談窓口に来られない生活困窮者を積極的に発見し、支援に繋げることで、問題の深刻化を未然に防ぎます。
  • 相談への物理的・心理的ハードルを下げ、誰もがアクセスしやすい相談体制を構築します。
主な取組①:専門アウトリーチ支援員の配置
  • 各区の自立相談支援機関に、訪問支援を専門に行うアウトリーチ支援員を最低2名以上配置し、機動的な訪問支援体制を強化します。
  • 地域の民生委員や町会・自治会、不動産管理会社、ライフライン事業者等と連携した見守りネットワークを構築し、家賃滞納やガスの停止といった異変情報を早期に把握できる体制を整備します。
  • 特に孤立リスクの高い単身高齢者やひきこもり状態にある若者などを重点的な訪問対象とします。
主な取組②:多様な相談窓口の整備
  • 区役所本庁舎だけでなく、地域の身近な場所(出張所、地区センター、図書館、商業施設等)に定期的な出張相談窓口を設置します。
  • 夜間・休日相談やオンライン相談(ビデオ通話、チャット等)を本格的に導入し、日中就労している人や外出が困難な人でも相談しやすい環境を整えます。
  • 相談内容に応じて、ハローワークの職員や法律専門家、精神保健福祉士などが同席する合同相談会を定期開催します。
主な取組③:広報・周知活動の戦略的展開
  • 制度の名称や内容を分かりやすく解説したリーフレットや動画を作成し、区のウェブサイトやSNS、デジタルサイネージ等で積極的に発信します。
  • 「恥ずかしいことではない」「誰でも利用できる」というメッセージを前面に出し、利用への心理的抵抗感を和らげる広報を展開します。
  • 地域の医療機関、学校、NPO、民間企業等に協力を依頼し、ポスター掲示やリーフレット配架を通じて、支援を必要とする可能性のある人々への情報提供網を構築します。
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 自立相談支援機関の利用率(推計生活困窮者に対する割合)を40%以上に引き上げる(現状推計15.3%)。
      • データ取得方法: 国の調査データ及び区独自の生活実態調査から対象者数を推計し、実際の相談件数と比較する。
    • 早期(困窮発生から6か月以内)の相談率を60%以上に引き上げる(現状28.7%)。
      • データ取得方法: 新規相談受付時のアセスメントシートにおける聞き取り調査。
  • KSI(成功要因指標)
    • アウトリーチ及び地域連携による相談受付件数の割合を全体の30%以上とする。
      • データ取得方法: 相談受付記録における流入経路データの集計。
    • オンライン・夜間・休日相談の利用件数を年間100件以上とする。
      • データ取得方法: 各相談チャネルの利用実績記録の集計。
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 住民の制度認知度を80%以上とする。
      • データ取得方法: 区民意識調査(年1回実施)。
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • アウトリーチ訪問件数を年間500件以上とする。
      • データ取得方法: アウトリーチ支援員の活動日報の集計。
    • 出張相談会の開催回数を年間50回以上(各地区で月2回程度)とする。
      • データ取得方法: 事業実施報告書の集計。

支援策②:多機関連携と伴走型支援による「包括的支援」の深化

目的
  • 複雑化・複合化した課題を抱える相談者に対し、一つの窓口で分野横断的な支援を調整・提供する「包括的支援体制」を構築します。
  • 支援が途切れることのないよう、課題解決後も継続的に寄り添う「伴走型支援」を徹底し、再発を防ぎます。
主な取組①:支援調整会議(ケース会議)の実質化
  • 複雑な課題を抱えるケースについて、月2回以上の支援調整会議の開催を義務付けます。
  • 会議には、福祉、保健医療、住宅、就労、教育、司法(法テラス等)など、課題に関連する全ての関係機関の参加を原則とし、具体的な役割分担と連携方法を明記した「個別支援計画」を共同で作成します。
  • 個人情報保護条例を適切に運用し、本人の同意を前提とした積極的な情報共有ルールを確立します。
主な取組②:「福祉・医療・司法」連携モデルの導入
  • 多重債務やDV、相続問題など、法的課題を抱える相談者が多いため、地域の弁護士会・司法書士会と協定を締結し、無料法律相談や同行支援を迅速に利用できる体制を構築します。
  • 精神疾患や依存症等の課題を抱えるケースについて、地域の精神科医療機関や保健所と連携し、受診勧奨、同行支援、治療後の生活支援を一体的に行います。
  • 岡山県の事例のように、弁護士と社会福祉士が協働で支援にあたる「司法福祉連携」モデルを導入し、刑事事件に至った被疑者・被告人段階からの福祉的支援も視野に入れます 。
主な取組③:伴走型の就労・定着支援の強化
  • 一般就労のみを目指すのではなく、本人の状況に応じて、就労準備支援事業におけるボランティア活動や職場体験、短時間就労が可能な「中間的就労」の場など、段階的かつ多様な選択肢を提供します。
  • ハローワークとの連携を強化し、自立相談支援機関の支援員とハローワークの担当者が共同で求職活動を支援するチーム支援体制を構築します。
  • 就労後も定期的な面談や職場訪問を行い、職場での人間関係や生活リズムの課題等について相談に応じ、早期離職を防ぐための定着支援を最低6か月間実施します。
主な取組④:家族全体を視野に入れた支援
  • 相談者本人だけでなく、その家族(子ども、配偶者、親など)が抱える課題にも目を向け、世帯全体を一つの単位として支援します。
  • 特に子どものいる世帯に対しては、子どもの学習・生活支援事業と連携し、貧困の世代間連鎖を断ち切るための支援を積極的に行います。
  • 8050問題など、家族関係が複雑化しているケースでは、家族調整の専門家を交えた支援も検討します。
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 支援による自立達成率(経済的自立、日常生活自立、社会生活自立のいずれかを達成)を75%以上とする(現状62.7%)。
      • データ取得方法: 自立相談支援機関の個別支援計画における最終評価データの集計。
    • 生活保護移行率を10%以下に抑制する(現状12.8%)。
      • データ取得方法: 自立相談支援機関と生活保護担当部署のデータ連携による追跡調査。
  • KSI(成功要因指標)
    • 多機関連携による支援実施率(支援調整会議を経て複数機関で支援したケースの割合)を80%以上とする(現状53.7%)。
      • データ取得方法: 自立相談支援機関のケース記録の分析。
    • 就労後6か月時点での就労定着率を80%以上とする。
      • データ取得方法: 就労支援対象者の追跡調査。
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 複合的課題を抱える世帯の問題解決率(アセスメント時に把握した課題のうち解決に至った割合)を65%以上とする(現状48.3%)。
      • データ取得方法: 支援調整会議における個別支援計画の進捗評価データの分析。
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • 支援調整会議の開催回数を月2回以上とする。
      • データ取得方法: 会議議事録の管理。
    • 認定就労訓練事業所(協力企業含む)の開拓数を各区で年間10か所以上とする。
      • データ取得方法: 認定事業所リストの更新状況。

支援策③:専門人材の確保・育成と処遇改善による「持続可能な支援体制」の構築

目的
  • 支援の質の根幹をなす相談支援員の専門性を高めるとともに、過酷な労働環境を改善し、人材の定着を図ることで、持続可能で質の高い支援体制を構築します。
  • 支援員が安心して働き続けられる環境を整備し、制度の理念である「伴走型支援」を実践できる体制を確立します。
主な取組①:処遇改善と適正な人員配置
  • 事業の委託仕様書において、支援員の給与水準を、同等の専門性を持つ区の正規職員や他の福祉専門職(例:地域包括支援センター職員)の給与水準を参考にした具体的な金額で明記し、適正な処遇を確保します。
  • 支援員一人当たりの担当ケース数に上限(例:年間50ケース)を設け、過重労働を防ぐための人員配置基準を定めます。これを満たすための委託費を確保します。
主な取組②:専門人材の計画的採用とキャリアパスの構築
  • 採用時に社会福祉士、精神保健福祉士、キャリアコンサルタント等の専門資格保有者を優遇し、資格手当を支給するなど、専門職の採用を促進します。
  • 支援員、主任相談支援員、スーパーバイザーといったキャリアパスを明確化し、長期的なキャリア形成の見通しを持てるようにします。
  • 多様な経験を持つ人材(民間企業経験者、元当事者など)も積極的に採用し、支援チームの多様性を確保します。
主な取組③:体系的な研修制度の導入
  • 新規採用者向けの基礎研修に加え、メンタルヘルス、発達障害、依存症、多重債務、在留外国人支援など、複雑化する課題に対応するための専門研修を年次計画に基づいて実施します。
  • 研修は座学だけでなく、事例検討やロールプレイングを多く取り入れ、実践的なスキル向上を目指します。
  • 研修への参加を勤務時間として保障し、受講費用は公費で負担します。
主な取組④:スーパービジョン体制の確立
  • 支援員の精神的負担を軽減し、専門的スキルを向上させるため、外部の経験豊富なスーパーバイザーによる定期的なスーパービジョン(個人・グループ)を導入します。
  • これにより、支援員が一人で困難ケースを抱え込むことを防ぎ、燃え尽きを予防します。
    • 客観的根拠:
      • ソーシャルワーカーのストレス要因として、業務の多忙さに加え、クライアントとの関係における共感疲労や感情労働の負担が大きく、バーンアウトのリスクが高いことが指摘されています。
      • (出典)社会福祉士が直面するストレスの主な原因 7
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 自立相談支援機関職員の3年後定着率を80%以上とする(現状57.3%)。
      • データ取得方法: 委託事業者からの人事データ報告。
  • KSI(成功要因指標)
    • 支援員一人当たりの年間平均担当ケース数を50件以下に維持する。
      • データ取得方法: 委託事業者からの事業実績報告。
    • 専門資格(社会福祉士等)保有者の割合を60%以上とする。
      • データ取得方法: 委託事業者からの人事データ報告。
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 職員満足度調査における「働きがいがある」との回答率を80%以上とする。
      • データ取得方法: 匿名による職員満足度調査(年1回実施)。
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • 年間一人当たりの研修受講時間を20時間以上とする。
      • データ取得方法: 研修受講記録の管理。
    • スーパービジョンの実施率を100%とする(全支援員が年4回以上受ける)。
      • データ取得方法: スーパービジョン実施記録の管理。

先進事例

東京都特別区の先進事例

豊島区「くらし・しごと相談支援センターによる包括的支援」

  • 豊島区は、生活困窮者自立支援法の施行当初から、必須事業に加えて就労準備支援、家計相談支援、子どもの学習支援など、制度上可能な全ての任意事業を実施している先進自治体です。区役所内にハローワークの常設窓口「ワークステップとしま」を併設し、福祉と就労の連携を密に行うワンストップ支援体制を構築しています。
  • 成功要因とその効果: 全ての支援機能を一か所に集約し、関係機関との物理的な近接性を確保したことで、迅速な情報共有とスムーズな連携が実現しました。その結果、新規相談者数、就労者数ともに23区内でトップクラスの実績を上げており(年間就労者数192名、23区平均86名)、包括的支援モデルの有効性を示しています。

世田谷区「ぷらっとホーム世田谷による官民連携と柔軟な支援」

  • 世田谷区は、区が社会福祉協議会に事業を委託する官民連携モデルを採用しています。相談支援拠点「ぷらっとホーム世田谷」は、国のモデル事業時代から運営されており、豊富な経験とノウハウを蓄積しています。特に、コロナ禍で顕在化した「通信困窮」に対し、全国に先駆けて携帯電話の貸出モデル事業を開始するなど、社会状況の変化に応じた柔軟な支援を展開しています。
  • 成功要因とその効果: 社会福祉協議会が持つ地域ネットワークと民間の柔軟な発想を活かすことで、行政の制度だけでは対応しきれない新たなニーズに迅速に対応できています。携帯電話貸出事業は、住居や仕事を探す上で不可欠な連絡手段を確保する画期的な取り組みとして評価され、他自治体にも影響を与えました。また、多様な相談チャネル(Webサイト、LINE公式アカウント)の開設も、若年層などへのアクセス向上に繋がっています。

足立区「EBPM(証拠に基づく政策立案)の実践」

  • 足立区は、生活困窮者支援において、データに基づいた政策立案(EBPM)を積極的に推進しています。区独自の「生活状況に関する調査」を大規模に実施し、区内のひきこもり状態にある人の実態や生活課題を詳細に把握しました。この客観的なデータが、支援策の企画・立案における重要な基礎資料となっています。
  • 成功要因とその効果: 勘や経験に頼るのではなく、客観的なデータに基づいて地域の課題を正確に把握することで、より的確で効果的な支援策の設計が可能になります。この調査結果は、ひきこもり支援だけでなく、孤立予防や地域づくりなど、関連する様々な施策に活用されており、区の福祉政策全体の質向上に貢献しています。

全国自治体の先進事例

新潟市「質の高い委託を確保する公募型プロポーザル」

  • 新潟市は、自立相談支援事業の委託事業者を選定するにあたり、詳細な仕様書と評価基準を明示した公募型プロポーザル方式を採用しています。仕様書では、事業目的、業務内容、人員配置(資格要件含む)、実施体制などが具体的に定められており、事業者に求める水準を明確にしています。
  • 成功要因とその効果: 価格競争に陥りがちな入札方式ではなく、事業者の提案内容(企画力、専門性、実施体制)を総合的に評価するプロポーザル方式を採用することで、支援の質を担保しています。透明性の高い選定プロセスは、事業者間の健全な競争を促し、より質の高いサービス提供に繋がります。この手法は、委託化を進める特別区にとって、事業の質を維持・向上させるための重要な参考となります。

岡山市「司法福祉連携による再犯防止と社会復帰支援」

  • 岡山県では、弁護士会と社会福祉士会が連携し、障がいや生活上の困難を抱える被疑者・被告人に対して、逮捕後の早い段階から福祉専門職(社会福祉士)が関与する「司法福祉連携」の取り組みが進んでいます。社会福祉士が本人の生活歴や特性をアセスメントし、更生支援計画を策定。これが裁判で考慮されるとともに、出所後の円滑な地域移行支援に繋がっています。
  • 成功要因とその効果: 従来分断されがちだった「司法」と「福祉」が対等な立場で連携することで、個人の罰だけでなく、その背景にある生きづらさにアプローチすることが可能になります。この取り組みにより、適切な福祉サービスに繋がることで再犯を防止し、本人の地域における安定した生活を実現するという、刑事司法と社会福祉双方の目的を同時に達成する効果が期待できます。

参考資料[エビデンス検索用]

まとめ

 東京都特別区における生活困窮者自立相談支援は、生活保護に至る前のセーフティネットとして一定の機能を果たしている一方で、支援員のバーンアウトに象徴される「支援体制の持続可能性の危機」と、都市部特有の「社会的孤立の深刻化」という二つの大きな課題に直面しています。今後の政策は、単に事業を継続するだけでなく、支援の担い手である人材への投資を最優先し、労働環境を抜本的に改善することが不可欠です。その上で、アウトリーチ強化による早期発見と、多機関連携による包括的支援を深化させ、制度の網の目を細かく、かつ強固にしていく必要があります。令和7年の法改正を契機とし、真に持続可能で質の高い支援エコシステムの構築へと舵を切るべきです。
 本内容が皆様の政策立案等の一助となれば幸いです。
 引き続き、生成AIの動向も見ながら改善・更新して参ります。

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