16 福祉

生活保護施策

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はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。

概要(生活保護施策を取り巻く環境)

  • 自治体が生活保護施策を行う意義は「憲法第25条が保障する生存権の具現化」と「貧困の連鎖を断ち切り、全ての住民が尊厳をもって生活できる社会の実現」にあります。
  • 生活保護制度は、資産や能力等すべてを活用してもなお生活に困窮する方に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長することを目的とした国の制度です。
  • 東京都特別区においては、人口集中、単身世帯の増加、地域コミュニティの希薄化といった都市特有の課題を背景に、生活保護制度が最後のセーフティネットとして果たす役割は極めて重要です。

意義

住民にとっての意義

生存権の保障
自立への足掛かり
社会的孤立の防止

地域社会にとっての意義

社会の安定
貧困の世代間連鎖の防止
  • 子どもがいる困窮世帯に対し、義務教育に必要な学用品費や給食費等を支給する「教育扶助」や、高校就学費の支給、さらに「子どもの学習・生活支援事業」を提供することで、子どもの教育機会を保障し、貧困が次世代に引き継がれる悪循環を断ち切ることを目指します。
地域経済への貢献

行政にとっての意義

憲法上の責務の遂行
  • 「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定める日本国憲法第25条の理念を具現化するため、国が定めた基準に基づき、都道府県・市・特別区が実施機関として、生活保護という具体的な形で国民の生存権を保障する責務を遂行します。
地域課題の把握
  • ケースワーカーによる家庭訪問や相談業務は、単なる支援の提供に留まりません。貧困、失業、病気、障害、高齢、ひきこもり、家庭内暴力など、地域社会が抱える多様で深刻な課題を第一線で直接的に把握する貴重な機会です。ここで得られる質的な情報は、他の福祉施策や都市計画、保健医療政策を立案する上での重要な基礎資料となり得ます。

(参考)歴史・経過

明治時代~戦前
  • 1874年(明治7年): 日本初の全国統一的な救貧法制である「恤救規則」が制定されました。救済対象は身寄りのない困窮者(無告の窮民)に限定され、「人民相互の情誼(助け合い)」を基本理念としていました。
  • 1929年(昭和4年): 世界恐慌を背景に、救済を天皇の慈悲から「公的扶助の義務」へと転換した「救護法」が制定されました(施行は1932年)。
戦後~現行制度の確立
  • 1946年(昭和21年): 終戦後の混乱の中、GHQの「社会救済に関する覚書(SCAPIN775)」を受け、貧困救済を「国家責任」と明記した旧「生活保護法」が制定されました。「無差別平等の原則」「保護請求権の保障」などが盛り込まれ、日本の社会保障制度の基礎が築かれました。
  • 1950年(昭和25年): 日本国憲法第25条の生存権保障の理念に基づき、現行の「生活保護法」が全面改正・施行されました。申請に基づいて保護を開始する「申請保護の原則」が確立され、扶助の種類に「教育扶助」「住宅扶助」が加わるなど、現在の制度の骨格が確立しました。
2000年代以降の動向

生活保護に関する現状データ

被保護者数・保護率の推移

  • 全国の被保護実人員は、令和7年2月時点で1,998,606人(保護率1.62%)です。平成27年(2015年)3月の約217万人をピークに減少傾向にありましたが、近年は横ばいから微減で推移しており、依然として約200万人規模となっています。
  • 東京都の保護率は令和5年1月時点で19.6‰(パーミル、千人あたり)と、全国平均(16.3‰)を3.3ポイント上回っており、都市部における生活困窮のリスクの高さを示しています。
  • 特別区内での格差は極めて大きく、令和6年7月時点のデータでは、保護率が最も高い足立区(33.5‰)と最も低い中央区(7.0‰)では約4.8倍の開きがあります。台東区(30.1‰)、板橋区(29.5‰)、葛飾区(29.3‰)なども高い水準にあります。

世帯類型別の状況

  • 全国の被保護世帯(令和7年2月時点、1,646,229世帯)のうち、「高齢者世帯」が901,659世帯と全体の54.8%を占め、最大の割合となっています。このうち、約93%にあたる836,077世帯が「高齢者単身世帯」であり、高齢化と核家族化を背景に増加傾向が続いています。
  • 高齢者世帯に次いで、「障害者・傷病者世帯」が25.4%、「その他の世帯(稼働年齢層中心)」が16.0%、「母子世帯」が3.8%と続きます。「母子世帯」は就労支援策の充実などにより、長期的に減少傾向にあります。
  • 東京都の状況を見ると、高齢者世帯の割合が58.2%(令和5年度)と全国平均よりもさらに高く、また、全被保護世帯に占める単身世帯の割合が85.6%と、全国の傾向以上に単身化が顕著であることが特徴です。
    • (出典)(https://gentosha-go.com/articles/-/65945)令和6年度

申請・開始件数の動向

財政規模

  • 生活保護費の総額は、国と地方を合わせて年間約3.5兆円規模で推移しています。令和2年度の実績では3.5兆円(うち国費2.6兆円)であり、その内訳は医療扶助が約半分、生活扶助が約3割を占めています。
  • 地方自治体の歳出決算額に占める民生費の割合は年々増加しており、令和4年度には24.7%に達しました。民生費の中でも、生活保護費は老人福祉費や児童福祉費と並んで大きな割合を占め、地方財政の硬直化の要因の一つとなっています。

課題

住民の課題

申請をためらわせる社会的スティグマ(烙印)
  • 生活保護の利用に対して、「怠け者のレッテルを貼られる」「近所に知られたくない」といった根強い偏見や誤解が存在します。これにより、本来は制度を利用して生活を再建できるはずの人が申請をためらい、誰にも相談できずに孤立し、より深刻な困窮状態に陥るケースが後を絶ちません。これは、制度の利用資格がある人のうち、実際に利用している人の割合を示す「捕捉率」が低い水準に留まる大きな要因とされています。
高齢者の貧困と制度への依存の長期化
  • 被保護世帯の半数以上を高齢者世帯が占め、特に年金収入が低い、あるいは無年金の単身高齢者が増加しています。高齢者の場合、一度保護を受給すると、加齢による心身機能の低下や稼働能力の問題から就労による自立が極めて困難であり、結果として受給が亡くなるまで続く「長期化」の傾向が強い構造的な課題を抱えています。
    • 客観的根拠:
      • 令和7年2月時点で、被保護世帯の54.8%が高齢者世帯であり、そのうちの大多数にあたる83.6万世帯が単身世帯です。この数は前年同月と比較しても微減に留まっており、高止まりの状態が続いています。
      • 内閣府が公表した令和7年版高齢社会白書においても、高齢者世帯の所得はその他の世帯の平均所得と比較して低い水準にあることが指摘されており、高齢期の経済的脆弱性が浮き彫りになっています。
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 医療・介護扶助費を中心に社会保障給付費全体の増大を招くとともに、支援の手が届かない高齢者の社会的孤立がさらに深刻化します。
世代間の貧困の連鎖
  • 親の経済的な困窮は、子どもの教育環境に直接的な影響を及ぼします。塾や習い事に通えないことによる学力格差、経済的な理由による高校・大学等への進学断念、不安定な生活環境による心身の健康問題などが、子どもの将来の選択肢を狭め、結果として貧困が次世代に引き継がれてしまう「貧困の連鎖」が深刻な社会問題となっています。
    • 客観的根拠:
      • 各種調査において、生活保護世帯の子どもは、全世帯の子どもに比べて大学等への進学率が著しく低いことが一貫して示されています。
      • この課題に対応するため、厚生労働省は「子どもの学習・生活支援事業」を生活困窮者自立支援制度の任意事業として位置づけ、学習支援だけでなく、居場所づくりや進路相談、親への養育支援といった包括的な支援の必要性を強調しています。
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 個人の機会の不平等を社会構造として固定化させ、長期的に社会全体の活力や人的資本を削ぐことにつながります。

地域社会の課題

増大する財政負担と持続可能性
  • 高齢化の進展に伴う医療扶助や介護扶助の増加を主因として、生活保護費は高水準で推移しており、国および地方自治体の財政を継続的に圧迫しています。特に、保護費の4分の1を一般財源から負担する地方自治体、とりわけ保護率の高い東京都特別区にとって、その財政負担は極めて重く、制度の持続可能性そのものが問われる深刻な課題です。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 他の基礎的行政サービス(教育、道路・公園の維持管理、防災対策等)に充てるべき予算が削減され、行政サービス全体の質の低下を招きます。
制度に対する国民の理解と誤解
  • 一部の不正受給事例がメディアで大きく取り上げられることなどから、制度全体に対して「働くよりも楽に暮らせる」「不正受給が蔓延している」といった実態とは異なる誤解や厳しい目が向けられがちです。制度の本来の趣旨や、利用者の大多数が高齢者や障害・傷病により働けない人々であるという実態に関する正確な情報が国民に十分に浸透しておらず、これが受給者へのスティグマや、建設的でない安易な制度批判につながっています。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 真に支援を必要とする人々への共感を損ない、建設的な制度改革の議論が妨げられ、給付抑制ありきの非人道的な方向へ政治的圧力が強まります。

行政の課題

ケースワーカーの量的不足と経験の偏り
  • 福祉事務所の最前線で支援を担うケースワーカー(現業員)は、慢性的な人員不足に直面しています。社会福祉法で定める標準数(市部で被保護80世帯に1人)を満たしていない自治体が多く、一人のケースワーカーが100世帯以上を担当することも珍しくありません。さらに、頻繁な人事異動により専門性が蓄積されにくく、経験年数3年未満の職員が全体の6割を占めるなど、組織としての支援力の維持・向上が困難な状況です。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 個々の世帯の状況に応じた丁寧な相談援助(自立助長)が困難になり、訪問も形式的になるなど、事務的な給付決定業務に終始してしまいます。
複雑化・複合化する課題への対応困難
  • 現代の貧困は、単なる経済的な問題に留まりません。ひきこもり、発達障害、精神疾患、依存症、多重債務、DVなど、複数の困難が複雑に絡み合っているケースが少なくありません。しかし、ジェネラリストとしての育成が基本であるケースワーカーは、これらの専門的な課題に対応するための知識や技術を十分に有しているとは限らず、福祉事務所という単一の組織内だけで対応することには限界があります。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 問題の根本的な解決に至らず、保護が長期化するだけでなく、本人の状態がさらに悪化し、より支援が困難になる悪循環に陥ります。
「自立助長」の形骸化と実効性の欠如
  • 生活保護法の目的である「自立の助長」は、制度の根幹をなす理念です。しかし、現場ではケースワーカーの圧倒的な業務量と専門性不足から、就労支援が画一的なハローワークへの紹介に留まるなど、個々の能力や状況、意欲に応じた実効性のある自立支援が十分に機能していない実態があります。結果として、支援が保護費の支給という「最低生活の保障」に偏り、「自立助長」が形骸化しているという構造的な問題を抱えています。
    • 客観的根拠:
      • 国が実施する生活保護受給者等就労支援事業では、就職率が24.1%から51.3%と事業によって大きなばらつきがあり、安定した自立に結びつける支援の難しさを示しています。
      • 経済産業研究所(RIETI)の研究では、既存の就労支援事業の効果を厳密に分析した結果、就業率を上昇させる効果は限定的であり、生活保護からの脱却につながるほどの大きな効果は確認されなかったと指摘されています。
        • (出典)RIETI「生活保護受給者の就労支援事業の効果:政策評価におけるEBPMの重要性」令和5年度
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 就労可能な人がその能力を社会で活かせないまま保護に留まることになり、本人の尊厳や生きがいを損なうとともに、社会全体の大きな損失となります。

行政の支援策と優先度の検討

優先順位の考え方

※各支援策の優先順位は、以下の要素を総合的に勘案し決定します。

  • 即効性・波及効果: 施策の実施から効果発現までの期間が短く、複数の課題解決や多くの住民への便益につながる施策を高く評価します。
  • 実現可能性: 現行の法制度や財源、人員体制の中で、比較的速やかに着手できる施策を優先します。
  • 費用対効果: 投じるコストに対し、将来的な保護費の抑制や社会的便益といった効果が大きい施策を重視します。
  • 公平性・持続可能性: 特定の地域・年齢層だけでなく、幅広い住民に裨益し、長期的に効果が持続する施策を高く評価します。
  • 客観的根拠の有無: 先進事例や調査研究により、効果が実証されている、または期待できる施策を優先します。

支援策の全体像と優先順位

  • 生活保護施策の課題解決には、「入口(予防・申請)」「中(自立支援)」「出口(脱却後のフォロー)」の各段階に応じた総合的なアプローチが必要です。特に、制度の入口である「申請のしやすさ」と、中核である「実効性のある自立支援」が喫緊の課題です。
  • これを踏まえ、**優先度【高】として「支援策①:アウトリーチ強化と伴走型支援による『申請支援』と『社会的孤立防止』」「支援策②:就労段階に応じた多機関連携による『次世代・現役世代の自立促進』」**を位置付けます。これらは、スティグマの解消や貧困の連鎖防止といった根深い課題に直接アプローチするものであり、即効性・波及効果が高いと考えられます。
  • **優先度【中】として「支援策③:専門職の活用とICT導入による『ケースワークの質の向上』と『業務効率化』」**を位置付けます。これは、優先度【高】の施策を支えるための重要な基盤強化策であり、中長期的な視点で着実に進めるべきものです。

各支援策の詳細

支援策①:アウトリーチ強化と伴走型支援による「申請支援」と「社会的孤立防止」

目的
  • 生活保護を真に必要とする人が、社会的スティグマや手続きの煩雑さを感じることなく、尊厳を保ちながら速やかに申請できる体制を構築します。
  • 生活保護申請に至る前の段階から関わることで、生活困窮者の社会的孤立を防ぎ、問題が深刻化する前により早期の課題解決につなげます。
主な取組①:相談窓口の多角化とアウトリーチ(訪問支援)の強化
  • 福祉事務所の窓口だけでなく、各地域に設置されている社会福祉協議会、NPO法人が運営する相談拠点、地域包括支援センター等に「生活・しごと連携相談窓口」を設置し、住民が身近な場所で気軽に相談できる体制を整備します。
  • ひきこもり状態にある若者や、外出が困難な高齢者など、自ら相談に来ることが難しい人に対しては、自立相談支援機関の支援員が積極的に家庭を訪問(アウトリーチ)し、信頼関係を築きながら相談に応じます。
主な取組②:申請同行を含む「伴走型」申請サポートの導入
  • 申請者が一人で福祉事務所の窓口に臨む際の心理的負担や不安を軽減するため、本人の同意に基づき、自立相談支援機関の支援員や連携するNPO職員が福祉事務所への申請手続きに同行する「伴走型支援」を公式な支援メニューとして制度化します。
  • 申請に必要な書類(資産申告、収入申告、その他証明書類等)の準備や、制度に関する事前説明を丁寧に行い、申請手続きの円滑化を図ります。
    • 客観的根拠:
      • 生活困窮者自立支援制度では、一人ひとりの状況に合わせた支援プランを作成し、専門の支援員が相談者に寄り添いながら自立に向けて支援することが基本理念とされています。申請同行はこの理念を具現化する有効な手段です。
主な取組③:住居確保給付金等の「入口支援」の積極的活用
  • 離職や収入減少により住まいを失うおそれのある困窮者に対し、生活保護申請の前に、まずは生活の土台である住居を確保するための「住居確保給付金」制度の活用を徹底します。
  • 生活保護の対象にはならないものの、次の給料日までの生活費がないなど、緊急かつ一時的に資金が必要な場合には、「臨時特例つなぎ資金貸付」等の生活福祉資金貸付制度の活用を迅速に案内します。
主な取組④:制度に関する普及啓発とスティグマ解消キャンペーン
  • 生活保護制度の本来の目的、利用者の実態(高齢者や障害者が多数であること)、不正受給はごく少数であることなどについて、区報、公式ウェブサイト、SNS、地域イベント等を活用し、正確で分かりやすい情報発信を継続的に行います。
  • 「困ったときは、ためらわずに相談を」を統一キャッチフレーズとし、著名人やインフルエンサーの協力も得ながら、相談しやすい社会的な雰囲気の醸成を図るキャンペーンを定期的に実施します。
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 生活保護の捕捉率の向上(例:5年間で10ポイント向上)
      • データ取得方法: 厚生労働省社会保障審議会等の専門機関による推計値を活用し、国や研究機関と連携して区単位での推計を試行する。
    • 相談から申請に至るまでの平均日数の短縮(例:20%短縮)
      • データ取得方法: 自立相談支援機関の相談受付システムと福祉事務所の保護決定システムのデータ連携による分析。
  • KSI(成功要因指標)
    • 自立相談支援機関への新規相談件数(例:対前年比10%増)
      • データ取得方法: 各自立相談支援機関からの月次・年次実績報告。
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 「申請をためらった経験がある」と回答した新規保護開始者の割合の低下(例:15%減)
      • データ取得方法: 保護開始時に実施する匿名アンケート調査。
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • アウトリーチ(訪問支援)実施件数(例:年間500件)
      • データ取得方法: 自立相談支援機関の業務日報・活動記録。
    • 伴走型申請サポートの実施件数(例:年間200件)
      • データ取得方法: 福祉事務所の相談記録と支援機関の活動記録の照合。

支援策②:就労段階に応じた多機関連携による「次世代・現役世代の自立促進」

目的
  • 貧困の世代間連鎖を断ち切るため、被保護世帯の子ども一人ひとりの状況に応じた、包括的な学習・生活支援を強化します。
  • 稼働能力のある現役世代に対し、画一的な支援ではなく、個々の状況や就労準備の段階に応じた、きめ細やかで実効性のある就労支援を提供し、早期の経済的自立と社会参加を促進します。
主な取組①:「子どもの学習・生活支援事業」の拡充
  • 地域のNPO、社会福祉法人、学生ボランティア団体等と積極的に連携し、放課後や長期休暇中に子どもたちが安心して過ごせる学習支援の場(居場所)を、中学校区に1か所以上を目安に拡充します。
  • 単に宿題や受験勉強を教えるだけでなく、食事の提供、様々な大人や仲間と関わる機会、社会体験活動(職業体験等)、個別の進路相談、生活習慣形成の支援など、子どもの自己肯定感を育む包括的なプログラムを提供します。
    • 客観的根拠:
      • 東京都杉並区の「ほっとカフェコース」では、学習支援に加えて、軽食の提供やゲーム、スポーツ、さらには就労支援センターと連携した金銭教育プログラムなどを実施し、子どもの包括的な育ちを支援する好事例となっています。
主な取組②:就労準備段階に応じた支援メニューの体系化
  • 支援対象者の状態を専門員がアセスメントし、「①生活自立段階(生活リズムの改善等)」「②社会自立段階(コミュニケーション訓練、社会参加等)」「③就労自立段階(就職活動支援等)」の3段階に分類します。
  • 各段階に応じて、「就労準備支援事業」を活用した体系的な支援プログラム(生活習慣形成指導、ボランティア活動への参加、就労体験、模擬面接等)を提供し、着実なステップアップを支援します。
    • 客観的根拠:
      • 国の定める就労準備支援事業は、生活自立、社会自立、就労自立の3段階で支援を行うことを想定しており、個々のステージに応じたきめ細かな支援計画の策定が可能です。
主な取組③:福祉事務所とハローワークの一体的支援体制の構築
  • 福祉事務所内に、ハローワークの専門相談員(就職支援ナビゲーター)が週に数日常駐する「一体的支援窓口」を常設します。
  • ケースワーカーとハローワーク相談員が、対象者の生活状況や就労上の課題、支援履歴等の情報を本人の同意のもとで共有し、福祉的配慮を必要とする求人の開拓や、就職後の定着支援までをチームとして一体的に行います。
    • 客観的根拠:
      • 浜松市などでは、福祉事務所とハローワークが連携し、生活保護受給者へのチーム支援を行うことで就労率の向上といった成果を上げており、国もこのモデルを全国に推進しています。
主な取組④:就労訓練事業(中間的就労)の場の開拓・拡充
  • 地域のNPO法人や社会的企業、協同組合等と連携し、直ちに一般就労へ移行することが難しい人々のための、支援付きの緩やかな就労の場である「就労訓練事業(中間的就労)」の提供先を積極的に開拓し、区として認定します。
  • 本人の能力や特性、希望に応じて、施設の清掃、公園の管理、農作業、リサイクル作業、データ入力など、多様な就労訓練の機会を提供し、働く自信と習慣を取り戻す場とします。
    • 客観的根拠:
      • 就労訓練事業は、柔軟な働き方による支援付きの就労の場を提供し、中・長期的な支援を通じて一般就労を目指すものであり、就労準備支援事業と一般就労の間の重要なステップとなります。
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 稼働年齢層(15~64歳)の保護世帯における就労自立率(就労収入により保護廃止に至った割合)の向上(例:5年間で5ポイント向上)
      • データ取得方法: 福祉事務所の保護台帳および保護廃止記録の要因分析。
    • 被保護世帯の子どもの高校進学率を全世帯平均と同水準(98%以上)にする。
      • データ取得方法: 教育委員会と福祉事務所が連携した対象生徒の進路に関する追跡調査。
  • KSI(成功要因指標)
    • 就労支援プログラム参加者の就職率(例:40%以上)
      • データ取得方法: 就労支援事業の委託事業者からの実績報告。
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 就職後6ヶ月以上の就労定着率(例:80%以上)
      • データ取得方法: 就労支援事業者による定期的なフォローアップ調査結果。
    • 学習支援事業参加児童・生徒の学習習慣定着率(例:「毎日学習する習慣がついた」と回答した割合70%以上)
      • データ取得方法: 事業参加者および保護者への年度末アンケート調査、学校担任との連携による評価。
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • 子どもの学習・生活支援事業の参加者数(例:対象児童の50%以上)
      • データ取得方法: 事業委託先の参加者名簿の集計。
    • 中間的就労の提供事業所数(例:各区10事業所以上)
      • データ取得方法: 区の就労訓練事業の認定状況リスト。

支援策③:専門職の活用とICT導入による「ケースワークの質の向上」と「業務効率化」

目的
  • ケースワーカーの事務的業務負担を抜本的に軽減し、本来注力すべき、被保護者との信頼関係構築や個別の状況に応じた相談援助業務に時間を確保できる環境を整備します。
  • 福祉事務所外部の専門的知見を組織的に導入し、ひきこもりや精神疾患など複雑・複合化した課題を持つ世帯への支援の質を向上させます。
主な取組①:ケースワーカーの業務分担と専門職の配置
  • ケースワーカーの業務を、保護費の計算や各種手続きを行う「事務処理担当」と、家庭訪問や相談援助を行う「相談援助担当」に分離・分担する体制をモデル的に導入し、各職員の専門性を高めます。
  • 福祉事務所に、精神保健福祉士、臨床心理士、キャリアコンサルタント、消費生活相談員等の専門職を非常勤職員または委託契約により配置し、ケースワーカーへの専門的助言(コンサルテーション)や困難ケースへの共同対応(チームアプローチ)を行います。
主な取組②:ICT活用による事務作業の徹底的な効率化
  • AI-OCR(光学的文字認識)を導入し、毎月提出される手書きの収入申告書等の内容を自動で読み取り、基幹システムにデータ入力する作業を自動化します。
  • RPA(Robotic Process Automation)を活用し、他機関への定型的なデータ照会や、各種統計資料の作成といった反復的な事務作業を自動化します。
  • マイナンバー制度における情報連携を最大限活用し、課税情報や年金受給情報の照会をオンラインで完結させ、被保護者の書類提出負担と職員の確認作業を軽減します。
主な取組③:多機関連携のための「支援調整会議」の定例化
  • ひきこもり、精神疾患、DV、虐待など、複数の課題を抱える個別の困難ケースについて、福祉事務所が主宰し、自立相談支援機関、医療機関、保健所、学校、警察、NPO等の関係者が一堂に会する「支援調整会議」を定例開催します。
  • 会議を通じて、各機関が持つ専門的な知見や情報を共有し、対象者本人を中心に据えた統一的な支援計画(プラン)を策定します。各機関の役割分担を明確にし、進捗を共有することで、一体的で抜け漏れのない支援を実現します。
    • 客観的根拠:
      • 生活困窮者自立支援制度においても、支援調整会議を通じて、本人の状況に応じた適切な支援に繋げることが求められており、この仕組みを生活保護ケースにも応用することが有効です。
        • (出典)枚方市「生活困窮者等就労準備支援事業 成果水準書」令和5年度
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • ケースワーカー一人当たりの月平均時間外勤務時間の削減(例:3年間で20%削減)
      • データ取得方法: 職員の勤務時間管理システムのデータ分析。
    • ケースワーカーの職務満足度の向上(例:「現在の仕事にやりがいを感じる」と回答した職員の割合を15%向上)
      • データ取得方法: 人事部門が実施する職員意識調査(年1回)。
  • KSI(成功要因指標)
    • ケースワーカーの相談援助業務への投入時間の割合(例:全業務時間の50%以上を確保)
      • データ取得方法: BPR(業務プロセス改革)の一環として実施する業務量調査(タイムスタディ等)。
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 支援調整会議で扱った困難ケースの解決率(保護廃止または状態の明確な改善に至った割合)(例:年間10%)
      • データ取得方法: 支援調整会議のケース記録に基づくフォローアップ評価。
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • 配置された専門職によるケースワーカーへのコンサルテーション実施件数(例:年間300件)
      • データ取得方法: 配置専門職の業務活動記録。
    • 支援調整会議の開催数(例:月20回)
      • データ取得方法: 会議議事録の管理システムによる集計。

先進事例

東京都特別区の先進事例

足立区「未来へつなぐ あだちプロジェクトによる貧困の連鎖防止」

  • 足立区は、子どもの貧困が学力や健康、自己肯定感に与える影響をデータで明確化し、平成28年度から区の最重要課題として「未来へつなぐ あだちプロジェクト」を推進しています。このプロジェクトは、経済的支援に留まらず、学習支援、多様な体験機会の提供、保護者支援、相談体制の強化などをパッケージで提供する総合的な対策です。
  • 特に、地域やNPOと連携して区内各所に多様な「居場所」を設置し、支援が必要な家庭をアウトリーチ(訪問)で探し出し、適切なサービスにつなげる仕組みに強みがあります。
  • 成功要因として、区長の強いリーダーシップのもと、全庁的な課題として位置づけられたこと、EBPM(証拠に基づく政策立案)の手法で課題と成果を可視化したこと、「支援の届かない層をなくす」という明確な目標設定、そして関係部署が縦割りを越えて連携する推進体制の構築が挙げられます。

杉並区「子どもの学習・生活支援事業における居場所づくりと包括的支援」

  • 杉並区は、生活困窮世帯および生活保護受給世帯の子どもを対象に、学習支援の場「ほっとカフェコース」を運営しています。この取り組みの特徴は、単に勉強を教える場ではなく、食事の提供、ゲームやスポーツ、多様な大人や仲間との交流を通じて、子どもたちが安心して過ごせる「居場所」としての機能を重視している点です。
  • 高校卒業後を見据え、就労支援センターの専門員と協力して金銭教育プログラムを実施するなど、将来の自立に向けた包括的な支援を行っています。
  • 成功要因は、子どもの学習意欲の前提となる自己肯定感や安心感を育むことを重視したプログラム設計、地域のボランティアや専門職との有機的な連携、そして目先の学力向上だけでなく、長期的な視点に立ったキャリア形成支援の視点を導入している点にあります。

大田区「多様な就労支援プログラムと実践的なサポート」

  • 大田区は、ハローワークとの連携による一般的な就労支援に加え、障害者福祉の文脈で培われたノウハウを活かし、就労継続支援B型事業所での作業訓練や、就職後の定着支援など、対象者の状況に応じた多様な就労支援メニューを提供しています。
  • 特に、就職時に連帯保証人の確保が困難な被保護者に対し、費用を支給する(上限5万円)など、就労の障壁となる具体的な問題に対応する、きめ細やかで実践的な支援策を独自に講じている点が特徴です。
  • 成功要因は、利用者の準備段階に応じた多層的なプログラムを提供していること、就職活動から職場定着までを一貫してサポートする体制を構築していること、そして制度の隙間を埋める実践的な支援策を柔軟に導入している点です。
    • 客観的根拠:
      • 区の事業として、就労した障害のある方が安心して長く働けるよう、会社訪問や生活相談を通じて職場や生活面の悩みを一緒に解決する「就労定着支援事業」に力を入れています。
        • (出典)大田区「おおたの障がい福祉あらまし 働く」令和6年度
        • (出典)大田区例規集「大田区被保護者就労支援事業実施要綱」

全国自治体の先進事例

枚方市(大阪府)「成果連動型民間委託(PFS)による就労準備支援事業」

  • 枚方市は、生活困窮者や生活保護受給者を対象とした就労準備支援事業を、成果連動型民間委託(PFS: Performance-based Contracting)方式で実施しています。これは、委託事業者への支払額の一部が、「就労決定者数」や「就職決定率」といった事前に定めた成果指標の達成度に応じて変動する契約方式です。
  • これにより、委託事業者にはより高い成果を目指すインセンティブが働き、民間の持つノウハウや創意工夫を最大限に引き出し、より効果的な支援を実現することが期待されます。
  • 成功要因は、就労という最終成果だけでなく、コミュニケーション能力の向上といった「行動変容」も評価する多面的な成果指標を設定したこと、これにより官民が共通の目標を持って事業に取り組めること、そして民間事業者の裁量を広く認めることで柔軟な支援を可能にした点が挙げられます。
    • 客観的根拠:
      • 同市の事業成果水準書では、就労決定というアウトカム指標に加え、支援プロセスにおける行動変容なども評価の対象とする詳細な指標が設定されています。
        • (出典)枚方市「生活困窮者等就労準備支援事業 成果水準書」令和5年度
        • (出典)枚方市「生活保護受給者等就労支援事業委託に係る公募型プロポーザル実施要領」令和5年度

浜松市(静岡県)「福祉事務所とハローワークの一体的支援による就労自立の促進」

  • 浜松市は、福祉事務所内にハローワークの就労支援ナビゲーターが常駐する体制を構築し、生活保護受給者一人ひとりに対して、ケースワーカーとナビゲーターがチームを組んで支援計画を策定・実施しています。
  • これにより、対象者の生活状況や健康状態といった福祉的な視点と、労働市場の動向や求人情報といった雇用の専門的視点を組み合わせることが可能となり、きめ細やかな職業紹介や、就職後の職場定着支援を効果的に行っています。
  • 成功要因は、両機関の職員が同じ場所で働くことによる物理的なワンストップ体制の構築、それぞれの専門性を活かしたチームアプローチの実践、そして求職活動の開始から職場定着までの一貫した支援体制が確立されている点です。
    • 客観的根拠:
      • 市の実施要綱において、福祉事務所とハローワークが被保護者の求職活動状況や収入申告書等の情報を共有し、緊密に連携して支援を行うことが定められています。
        • (出典)浜松市「浜松市被保護者就労支援事業実施要綱」

参考資料[エビデンス検索用]

  • 厚生労働省
    • 被保護者調査(月次・年次統計)
    • 社会保障審議会 生活保護基準部会 報告書
    • 生活保護制度関連資料(制度概要、自立支援、子どもの学習支援等)
  • 内閣府
    • 経済財政諮問会議 資料
    • 高齢社会白書
  • 総務省
    • 地方財政白書
  • 東京都・特別区
    • 東京都福祉局 統計・調査資料
    • 足立区「未来へつなぐあだちプロジェクト」関連資料
    • 杉並区「子どもの学習・生活支援事業」関連資料
    • 大田区「就労支援」関連資料
  • 研究機関・その他
    • 生活保護のスティグマに関する研究報告
    • ケースワーカーの業務実態に関する調査報告
    • 生活困窮者自立支援制度関連資料

まとめ

 東京都特別区における生活保護施策は、憲法上の生存権保障の最後の砦として不可欠ですが、高齢化の進展や複雑化する社会課題を背景に、制度の持続可能性と支援の質の向上が急務です。現状は、被保護者の高齢化・単身化、根強い社会的スティグマによる利用の抑制、そして支援現場の疲弊という三重の課題に直面しています。これらを克服するためには、単なる金銭給付に留まらない、予防と自立を両輪とした総合的な政策への転換が求められます。具体的には、アウトリーチ強化による「申請支援」、多機関連携による実効的な「自立促進」、専門職活用とICT化による「ケースワークの質向上」を三本柱として推進することが重要です。これらの施策を通じて、すべての住民が尊厳を保ち、再び社会で活躍できる道筋を構築することが、これからの自治体に課せられた使命です。
 本内容が皆様の政策立案等の一助となれば幸いです。
 引き続き、生成AIの動向も見ながら改善・更新して参ります。

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