母子健康診査

はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。

概要（母子健康診査を取り巻く環境）

• 自治体が母子健康診査を行う意義は「全てのこどもの健やかな成長の保障」と「育児における孤立の防止と早期の課題発見」にあります。
• 母子健康診査は、母子保健法に基づき市町村が実施する普遍的な公的サービスです。これは、単に乳幼児の身体的な発育や発達の遅れをスクリーニングするだけでなく、保護者の育児不安の軽減、産後うつや児童虐待といった潜在的なリスクの早期発見、そして孤立しがちな家庭を地域社会の支援につなぐための極めて重要な接点として機能します。
  • （出典）こども家庭庁「成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針」令和5年
  • （出典）厚生労働省「母子保健法」昭和40年

意義

住民にとっての意義

こどもの健康と発達の早期発見・早期対応

• 乳幼児期は心身の発達が著しい時期であり、定期的な健康診査を通じて、身体発育、栄養状態、精神発達の状況、言語障害の有無などを専門家が継続的に確認します。
• これにより、疾病や発達上の課題を早期に発見し、適切な医療や療育、専門機関への紹介といった支援に迅速につなげることが可能となります。
  • （出典）日本産婦人科医会「1か月児健康診査の目的と問診の注意点」
  • （出典）厚生労働省「母性、乳幼児に対する健康診査及び保健指導の実施について（局長通知）」

保護者の育児不安の軽減とエンパワーメント

• 特に初めての子育てでは、多くの保護者が授乳、睡眠、発達などに関する不安や悩みを抱えます。
• 健康診査は、医師や保健師、助産師といった専門家に直接相談できる公的な機会を提供します。個別の状況に応じた具体的な助言や指導を受けることで、保護者は育児への自信を深め、主体的に子育てに取り組む力を得ることができます。
  • （出典）厚生労働省「母性、乳幼児に対する健康診査及び保健指導の実施について（局長通知）」
  • （出典）公益財団法人母子衛生研究会「家族の支援と地域との結びつき強化」

経済的負担の軽減

• 妊婦健診や乳幼児健診の費用は、公費によって助成されます。
• これにより、家庭の経済状況にかかわらず、全てのこどもが必要な健康管理を定期的に受けられる体制が保障されています。
  • （出典）こども家庭庁「「１か月児」及び「５歳児」健康診査支援事業」令和5年

地域社会にとっての意義

児童虐待の早期発見・予防

• 健康診査は、こどもの身体的な状況（体重増加不良、不自然な傷など）や、保護者の言動、親子関係の様子などを専門家が直接観察できる数少ない機会です。
• ネグレクトや虐待の兆候を早期に察知し、児童相談所や福祉部門と連携して介入することで、事態の深刻化を防ぐセーフティネットとしての役割を担っています。
  • （出典）厚生労働省「母性、乳幼児に対する健康診査及び保健指導の実施について（局長通知）」
  • （出典）こども家庭庁「こども家庭センターの設置等について」令和5年

社会的孤立の防止と地域連携の促進

• 核家族化や地域社会との関係の希薄化が進む現代において、特に乳幼児期の子育て家庭は社会的に孤立しがちです。
• 健康診査をきっかけとして、保健師等が家庭の状況を把握し、地域の子育て支援センターや親子サークル、NPO法人などが提供する多様なサポートにつなげることで、家庭の孤立を防ぎ、地域社会全体で子育てを支える体制を強化します。
  • （出典）公益財団法人母子衛生研究会「家族の支援と地域との結びつき強化」
  • （出典）日本看護科学学会「乳幼児健診における保健師の気づきと支援」

行政にとっての意義

ハイリスク家庭のスクリーニング機能

• 健康診査への未受診や、健診時の問診、観察から、支援を必要とするハイリスク家庭（特定妊婦、経済的困窮、精神的な課題など）を体系的に把握することが可能です。
• これは、プッシュ型の支援を展開し、問題が深刻化する前に行政が介入するための重要な情報源となります。
  • （出典）こども家庭庁「乳幼児健診未受診者等に係る安全確認の実施について」令和6年

地域保健データの収集と政策立案への活用

• 健康診査で得られるデータ（有所見率、肥満・やせの傾向、予防接種率など）を集計・分析することで、地域全体の母子保健に関する課題を客観的に把握できます。
• このエビデンスに基づき、地域の実情に即した効果的な保健政策（EBPM：証拠に基づく政策立案）を策定・評価することが可能になります。
  • （出典）日本小児保健協会「母子保健施策の変遷」
  • （出典）厚生労働省「「健やか親子２１（第２次）」の最終評価等に関する検討会報告書」

（参考）歴史・経過

• 1937年（昭和12年）
  • 保健所法が制定され、保健所業務として母子保健が位置づけられます。
    • （出典）日本小児保健協会「母子保健施策の変遷」
• 1942年（昭和17年）
  • 国民体力法に基づき「妊産婦手帳制度」（現在の母子健康手帳の前身）が創設されます。
    • （出典）日本小児保健協会「母子に対する保健指導の必要性の高まり」
• 1947年（昭和22年）
  • 児童福祉法が制定され、母子保健は児童福祉行政の一環として推進されることになります。翌年には母子手帳が交付開始され、保健所による乳幼児健診が本格化します。
    • （出典）JICA「日本の母子保健の経験」
• 1965年（昭和40年）
  • 「母子保健法」が制定（翌年施行）され、児童福祉法から独立した母子保健施策の体系が確立されます。これにより、国および地方公共団体の責務が明確化されました。
    • （出典）厚生労働省「母子保健法の施行について」昭和41年
    • （出典）国立国会図書館「母子保健法」
• 1977年（昭和52年）
  • 市町村事業として「1歳6か月児健康診査」が開始され、3歳児健診と合わせて乳幼児期の主要な健診体制が整います。
    • （出典）国立成育医療研究センター「乳幼児健康診査の歴史」
• 1997年（平成9年）
  • 地域保健法の施行に伴う母子保健法の改正により、3歳児健診を含む住民に身近な母子保健サービスの実施主体が、都道府県から市町村へ全面的に委譲されます。
    • （出典）日本評論社「母子保健法と市町村」
    • （出典）日本小児保健協会「母子保健施策の変遷」
• 2013年（平成25年）
  • 低体重児の届出や未熟児訪問指導、養育医療の給付なども市町村に委譲され、母子保健施策は原則として市町村が実施する体制となります。
    • （出典）日本評論社「母子保健法と市町村」
• 2021年（令和3年）以降
  • こども家庭庁が創設され、母子保健施策が移管されます。出産・子育て応援交付金による伴走型相談支援と経済的支援の一体的実施や、1か月児・5歳児健診への公費助成、母子保健情報のデジタル化（DX）の推進など、切れ目のない支援の強化が図られています。
    • （出典）こども家庭庁「母子保健・不妊症・不育症など」
    • （出典）こども家庭庁「「１か月児」及び「５歳児」健康診査支援事業」令和5年

母子健康診査に関する現状データ

乳幼児健康診査の受診率

• 全国の市区町村が実施する乳幼児健康診査の受診率は、極めて高い水準で安定して推移しています。
• 令和5年度（2023年度）の全国データでは、法的に実施義務のある「1歳6か月児健診」の受診率は96.9%、「3歳児健診」は96.0%でした。
• また、多くの自治体が任意で実施している「3～5か月児健診」の受診率も96.1%に達しています。
• この高い受診率は、母子健康診査が国民に広く浸透し、普遍的なサービスとして定着していることを示しています。一方で、受診に至らない約3～4%の家庭には、何らかの困難やリスクが集中している可能性があり、この未受診層へのアプローチが行政の重要な課題となっています。
  • （出典）厚生労働省「令和5年度 地域保健・健康増進事業報告」令和6年

健診における有所見率の動向

• むし歯（う歯）
  • 3歳児健診におけるう歯有病者率は、長期的に改善傾向にありますが、依然として課題は残ります。「健やか親子21（第2次）」では、目標値を「むし歯のない3歳児の割合90%以上」と設定していましたが、令和2年度（2020年度）の実績は88.2%（有病者率11.8%）と、目標には未達でした。食生活の乱れや仕上げ磨きの習慣化などが背景にあると考えられます。
    • （出典）厚生労働省「健やか親子２１（第２次）最終評価報告書」令和5年
• 低出生体重児
  • 出生体重が2,500g未満の低出生体重児の割合は、令和2年度（2020年度）で9.2%でした。これは平成25年度の9.6%から微減しており改善傾向は見られますが、依然として出生児の約1割を占めています。特に女児（10.6%）は男児（8.4%）より割合が高い傾向があります。低出生体重児は、その後の成長や発達において特別な配慮が必要となるケースが多く、継続的な支援が求められます。
    • （出典）厚生労働省「健やか親子２１（第２次）最終評価報告書」令和5年
    • （出典）国立保健医療科学院「低出生体重児の出生割合の年次推移」

産後うつスクリーニングの状況

• 産後ケアの重要性が認識される中、産婦健診や新生児訪問時にエジンバラ産後うつ病質問票（EPDS）を用いたスクリーニングが普及しています。
• こども家庭庁の調査によると、令和3年度（2021年度）において、産後1か月時点でのEPDSスコアが9点以上（産後うつのハイリスク）であった産婦の割合は9.7%に上りました。
• 他の調査では、産後数か月間のうつ傾向の割合が13%～16%に達するとの報告もあり、少なくとも10人に1人の母親が産後のメンタル不調のリスクを抱えている深刻な状況がうかがえます。これは、母子健康診査がメンタルヘルス不調の早期発見に果たす役割の大きさを示唆しています。
  • （出典）こども家庭庁「成育医療等協議会（第14回）資料」令和6年
  • （出典）京都市「伏見区における産後うつ病スクリーニングの検討」
  • （出典）国立保健医療科学院「産後うつ病スクリーニングの実施状況」

児童虐待相談対応件数の推移

• 全国の児童相談所が対応した児童虐待相談件数は増加の一途をたどっており、令和4年度（2022年度）には21万9,170件と過去最多を更新しました。これは30年以上連続の増加です。
• 虐待の種別では、こどもの目の前で配偶者に暴力を振るうなどの「心理的虐待」が最も多く、全体の半数以上を占めています。また、通告経路としては「警察等」からが最も多く、事態が深刻化してから表面化するケースが多いことを示唆しています。
• 東京都においても同様に深刻な状況が続いており、令和元年度（2019年度）の相談対応件数は2万1,659件に達しました。この絶え間ない増加は、子育て家庭が抱えるストレスや孤立の深刻化を反映しており、母子健康診査を通じた予防的アプローチの重要性を浮き彫りにしています。
  • （出典）こども家庭庁「令和4年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数（速報値）」令和5年
  • （出典）東京都福祉局「東京都の児童相談所における相談対応件数」
  • （出典）厚生労働省「令和2年度の児童虐待相談対応件数（速報値）」令和3年

課題

住民の課題

健診未受診とそれに伴うリスクの潜在化

• 高い受診率の裏で、義務である1歳6か月児健診や3歳児健診を様々な理由で受診しない、あるいはできない家庭が存在します。
• 未受診の理由は、単なる「うっかり忘れ」だけでなく、保護者の精神疾患、経済的困窮、育児への関心の低さ、外国籍で制度を理解していないなど、深刻な背景が隠れている場合が少なくありません。
• これらの家庭は、行政からの支援が最も必要であるにもかかわらず、健診という公的な接点を失うことで、そのリスクが潜在化・深刻化する傾向にあります。
  • 客観的根拠：
    • 奈良県が実施した調査では、乳幼児健診の未受診率は7.9%で、未受診の理由には保護者の精神不安定やネグレクトの可能性が挙げられていました。また、未受診者の母親は妊娠の届出時期が遅い傾向にあることも示されています。
    • （出典）奈良県「乳幼児健診未受診者実態調査報告書」
    • 大阪府の未受診妊婦調査では、妊婦健診を受けなかった理由として「経済的問題」（32%）、「家族に言えず、どうしていいかわからなかった」（27%）などが上位を占め、経済的・社会的な孤立が未受診の大きな要因であることが示されています。
    • （出典）大阪府「平成22年度未受診妊婦実態調査報告書」
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察：
    • 最も支援を必要とする子どもと家庭が行政のセーフティネットから抜け落ち、発達の遅れや虐待が見過ごされ、深刻な事態に至るリスクが高まります。

特別な配慮を要する家庭への支援不足

• 画一的な集団健診の形式では、特別な支援を必要とする家庭のニーズに対応しきれていないという課題があります。
• 外国人家庭
  • 言語の壁により、健診の案内が理解できなかったり、問診票の記入や医師・保健師とのコミュニケーションが困難であったりします。また、母国の医療・育児文化との違いから日本の制度に戸惑い、孤立感を深めるケースも少なくありません。
    • （出典）順天堂大学「在留外国人妊産褥婦が日本での妊娠・出産・育児において直面する課題」
    • （出典）関西学院大学「外国人母子に対する母子保健サービスの現状と課題」
• 障害児・医療的ケア児のいる家庭
  • 集団健診の場で他の子どもと比較されることへの心理的抵抗感や、医療的ケアが必要なため外出自体が困難であるなど、受診のハードルが非常に高い状況です。かかりつけ医での個別受診や、訪問による健診など、柔軟な対応が求められます。
    • （出典）野村総合研究所「乳幼児健診における配慮が必要な児への対応に関する調査」
• 多胎児家庭
  • 双子や三つ子を連れて健診会場へ移動することは、保護者にとって極めて大きな身体的・精神的負担となります。外出の困難さから、健診受診をためらってしまう家庭も存在します。
    • （出典）厚生労働省「多胎児家庭への支援のポイント」
  • 客観的根拠：
    • 全国の自治体を対象とした調査では、障害や発達特性のある子どもへの配慮として「別室での受診」や「個別健診への切り替え」といったニーズが把握されている一方で、対応する上での課題として38.9%の自治体が「人員不足」、次いで「専門的知見の不足」を挙げており、ニーズと提供体制の間にギャップがあることが明らかになっています。
    • （出典）野村総合研究所「乳幼児健診における配慮が必要な児への対応に関する調査」
    • 外国人への母子保健サービスに関する調査では、多くの保健師が言語や文化の違いにより業務に困難を感じており、特に「家庭訪問」や「乳幼児健診」でのコミュニケーションに課題を抱えている実態が報告されています。
    • （出典）関西学院大学「外国人母子に対する母子保健サービスの現状と課題」
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察：
    • 支援の必要性が高い家庭ほど既存の画一的なサービスから排除され、格差が拡大し、親子ともに心身の健康を損なうリスクが増大します。

特別区間における支援の格差

• 東京都特別区内では、財政力の違いを背景に、子育て支援策に大きな格差が生じています。
• 出産祝い金や保育料補助、独自の給付金など、居住する区によって受けられる経済的支援の内容や金額が大きく異なります。
• この「自治体間格差」は、子育て世帯の居住地選択に影響を与え、公平性の観点から問題視されています。
  • 客観的根拠：
    • 出産費用の助成において、港区は上限81万円と自己負担ゼロを目指す一方、他の区では助成額が異なります。また、私立認可外保育所の保育料補助も、港区の最大月額10万円に対し、区によって差があります。こうした手厚い支援は、各区の財政力指数（港区は1.46、足立区は0.82など）と相関が見られます。
    • (https://www.youtube.com/watch?v=WdPZubWTiUg)
    • （出典）東京新聞「東京23区で少子化対策のサービス合戦が過熱」
    • (https://magazine.ad-cast.info/town/991/)
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察：
    • 居住地によって受けられる子育て支援の質が固定化し、子育て世帯の自治体間移動を助長するとともに、社会的な不公平感が増大します。

地域社会の課題

産後うつと孤立する母親へのアプローチの困難さ

• 産後のホルモンバランスの急激な変化や育児による睡眠不足、社会からの孤立感などから、多くの母親が精神的に不安定な状態に陥ります。
• しかし、「母親なのだからしっかりしなければ」「弱音を吐いてはいけない」といった社会的プレッシャーや、相談相手がいない孤立した環境から、自ら助けを求めることができずに一人で抱え込んでしまうケースが後を絶ちません。
• この「サイレント・クライシス」は、健診などの機会を通じて外部から積極的に働きかけなければ、発見が非常に困難です。
  • 客観的根拠：
    • 産後うつを経験した女性からは、「家族に心配をかけたくない」「甘えていると思われそうで言えない」といった心理的な壁や、「職場に属しておらず相談しづらい」「子どもが小さくて外出できない」といった環境的な障壁が指摘されています。
    • （出典）Views「一人で悩まないで。相談先が見つからない産後」
    • （出典）東京都女性活躍推進協議会「産後うつは誰にでも起こりうる。でも、気づけない」
    • 核家族化や地域の人間関係の希薄化は子育ての孤立化を招き、「育てにくさ」を感じる親を増加させています。
    • （出典）国立成育医療研究センター「子育て世代の孤立化と『育てにくさ』」
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察：
    • 母親のメンタルヘルスの悪化が慢性化し、子どもの健全な発達に悪影響を及ぼすほか、最悪の場合、育児放棄や虐待、母子心中といった悲劇につながります。

健診後のフォローアップ体制の脆弱性

• 乳幼児健診で発達の遅れや養育上の課題など、何らかの「気づき」があったとしても、それが継続的な支援に結びついていないケースが多く存在します。
• 健診後のフォローアップは、保健師個人の力量に依存している部分が大きく、組織的な体制が十分に構築されていません。
• 保護者が課題の指摘を受け入れられなかったり、専門機関への受診や相談につながるまでに時間がかかったり、関係機関間での情報共有が不十分であったりするなど、多くの障壁が存在します。
  • 客観的根拠：
    • 自治体の保健師を対象とした調査では、健診後のフォローアップにおける課題として、75%が「保護者支援・対応の困難さ」を挙げています。具体的には、保護者との発達認識の共有の難しさや、紹介できる支援サービス（受け皿）の不足が指摘されています。
    • （出典）沖縄県総合精神保健福祉センター「乳幼児健診事後フォローにおける課題」
    • 「健やか親子21」の評価報告書でも、母子保健事業における課題として「関連機関の間での情報共有が不十分なこと」や「健診内容や手技が標準化されていないこと」が指摘されており、健診で得た情報を利活用できていない実態が浮き彫りになっています。
    • （出典）厚生労働省「「健やか親子２１（第２次）」の最終評価等に関する検討会報告書」
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察：
    • 「早期発見」が「早期支援」につながらず、健診が単なるスクリーニングで終わってしまい、子どもの発達機会の損失や家庭の課題の深刻化を招きます。

行政の課題

母子保健情報のデジタル化（DX）の遅れ

• 多くの自治体では、母子健康手帳や健診の問診票、結果の記録などが依然として紙媒体で運用されています。
• これにより、保護者は手書きの問診票を何度も記入する手間がかかり、自治体職員は膨大な紙の情報を手作業でデータ入力するという非効率な業務が発生しています。
• また、医療機関と自治体、あるいは転居時の自治体間での情報連携が困難であり、切れ目のない支援を提供する上での大きな障壁となっています。
  • 客観的根拠：
    • 国の調査では、83.5%の市町村で職員が健診結果を紙から手入力しており、大きな業務負担となっていることが指摘されています。また、医療機関から自治体へ電子的に情報をつなぐ仕組みがないことが、現行プロセスの課題として挙げられています。
    • （出典）内閣府「規制改革推進会議 人への投資ワーキング・グループ」令和5年
    • こども家庭庁は、この課題を解決するため、全国共通の情報連携基盤「PMH（Public Medical Hub）」の構築を進めており、令和9年度（2027年度）を目途にデジタル化の全国展開を目指しています。
    • （出典）こども家庭庁「母子保健ＤＸの推進」令和6年
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察：
    • 行政の非効率性が温存され、職員が対人支援などの専門業務に注力できなくなるほか、データの利活用が進まず、EBPMの推進が阻害されます。

専門人材（特に保健師）の不足と業務負担の増大

• 母子保健活動の中核を担う保健師の人材確保は、多くの自治体にとって深刻な課題です。
• 発達障害や外国人家庭、児童虐待への対応など、業務は年々複雑化・多様化しており、一人ひとりの保健師にかかる負担は増大しています。
• 慢性的な人員不足と業務量の増加は、丁寧な個別対応や継続的なフォローアップを困難にし、サービスの質の低下を招く恐れがあります。
  • 客観的根拠：
    • 近年の母子保健分野における業務拡大に伴い、地方自治体で非常勤保健師が増加する傾向にあり、正規職員の確保が追いついていない状況がうかがえます。
    • （出典）全国保健師長会「地域保健の現状と課題」
    • 日本公衆衛生協会の調査では、保健師の定数を満たしていない自治体のうち、半数以上が「募集しても充足できていない」と回答しており、人材確保の困難さが示されています。
    • （出典）日本公衆衛生協会「令和4年度 自治体保健師の人材確保と育成に関する調査」
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察：
    • 保健師が疲弊し、本来行うべき予防的・継続的な支援が手薄になり、対症療法的な対応に終始することで、地域全体の母子保健水準が低下します。

縦割り行政による連携不足

• 子育て家庭が抱える課題は、保健、医療、福祉、教育など複数の領域にまたがることが多いですが、行政の組織は分野ごとに縦割りになっているため、効果的な連携ができていません。
• 例えば、健診で把握した発達の懸念を保育所や幼稚園、療育機関とスムーズに共有する仕組みや、産後うつの疑いがある母親を精神保健福祉の専門機関へつなぐルートが十分に機能していない場合があります。
• この連携不足は、支援の重複や抜け漏れを生み、利用者にとっては「たらい回し」と感じられる原因にもなっています。
  • 客観的根拠：
    • 「健やか親子21」の報告書では、母子保健事業に関わる機関間の情報共有や有機的な連携体制の強化が重要課題として繰り返し指摘されています。特に、養育支援を必要とする家庭へのアプローチにおいて、医療機関との連携強化が不可欠とされています。
    • （出典）厚生労働省「「健やか親子２１」の今後の推進の方向性に関する検討会報告書」
    • 産後ケア事業の推進においても、受け皿となる委託先の確保（広域調整）や、メンタルヘルス対応のための医療体制の構築において、都道府県レベルでの関係機関ネットワークの重要性が強調されています。
    • （出典）厚生労働省「産後ケア事業の実施状況に関する調査」
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察：
    • 複合的な課題を抱える家庭に対して一体的な支援が提供できず、問題が解決されないまま放置され、より深刻な状況へと発展するリスクが高まります。

行政の支援策と優先度の検討

優先順位の考え方

※各支援策の優先順位は、以下の要素を総合的に勘案し決定します。

• 即効性・波及効果
  • 施策の実施から効果発現までの期間が短く、単一の課題解決にとどまらず、複数の課題解決や多くの住民への便益に横断的につながる施策を高く評価します。
• 実現可能性
  • 現在の法制度や予算、人員体制の中で、大幅な変更を伴わずに着手・実現できる施策を優先します。既存の仕組みや国の動向を活用できる施策は優先度が高くなります。
• 費用対効果
  • 投入する資源（予算・人員等）に対して、得られる効果（業務効率化、住民の健康増進、将来的な社会的コストの削減等）が大きい施策を優先します。
• 公平性・持続可能性
  • 特定の住民層だけでなく、全ての住民に便益が及ぶ普遍的な施策や、特に支援が必要な層に確実に届く公平性の高い施策を重視します。また、一過性でなく、長期的に効果が持続する仕組みづくりを高く評価します。
• 客観的根拠の有無
  • 国の白書や調査研究、先進自治体の成功事例など、効果がエビデンスによって裏付けられている施策を優先します。

支援策の全体像と優先順位

• 母子健康診査をめぐる課題解決には、「基盤整備」「個別支援の深化」「普遍的支援の拡充」という3つの柱から総合的に取り組むことが不可欠です。
• 最優先で取り組むべきは、**支援策①「母子保健DXの抜本的推進」**です。これは、紙ベースの非効率な業務を解消し、全ての支援の土台となるデータ連携基盤を構築するものであり、他の施策の効果を最大化するための根幹となります。即効性、波及効果、実現可能性のいずれの観点からも優先度は最高位です。
• 次に優先すべきは、**支援策②「ハイリスク家庭へのアウトリーチ強化と多機関連携」**です。健診未受診や特別な配慮を要する家庭など、最も支援を必要としながらも見過ごされがちな層に確実にアプローチすることは、公平性の観点から極めて重要です。DXで得られた情報を活用することで、より効果的なアウトリーチが可能となります。
• そして、これらと並行して進めるべきが、**支援策③「産後ケアの拡充と家族全体のメンタルヘルス支援」**です。これは、特定のハイリスク層だけでなく、全ての子育て家庭を対象とした普遍的な支援であり、産後うつや育児不安を予防し、地域社会全体の子育て基盤を底上げする持続可能性の高い施策です。
• これら3つの支援策は相互に連携しており、DXを基盤として、ハイリスク層への「深い支援」と全家庭への「広い支援」を両輪で進めることで、相乗効果を生み出します。

各支援策の詳細

支援策①：母子保健DXの抜本的推進による「切れ目ない支援」の基盤構築

目的

• 母子保健情報の管理・運用を紙媒体からデジタルへ完全に移行させます。
• これにより、住民・医療機関・行政間の情報共有を円滑にし、業務効率化と住民の利便性向上を両立させます。
• 蓄積されたデータを活用し、証拠に基づく政策立案（EBPM）を推進するための基盤を構築します。
  • 客観的根拠：
    • 国は、母子保健情報のデジタル化と利活用を推進するため、全国共通の情報連携基盤（PMH）の整備と電子版母子健康手帳の普及を国の重要政策として進めています。
    • （出典）こども家庭庁「母子保健ＤＸの推進」令和6年
    • （出典）こども家庭庁「こども政策の強化に関する関係府省会議（第８回）資料」令和6年

主な取組①：国のPMH（Public Medical Hub）への早期対応と連携システム構築

• 国が推進する情報連携基盤「PMH」を活用した乳幼児・妊婦健診の先行実施自治体として、積極的にプロジェクトに参加します。
• 国の定める標準仕様に準拠した自治体内の健康管理システムを早期に導入・改修し、PMHとの確実なデータ連携を実現します。これにより、里帰り出産時の情報共有の課題などを根本的に解決します。
  • 客観的根拠：
    • 改正母子保健法により、PMHを活用して自治体間でオンラインでの情報共有が可能となる仕組みが整備されました。自治体はこれに対応するシステム改修が求められます。
    • （出典）こども家庭庁「成育医療等協議会（第14回）資料」令和6年
    • （出典）こども家庭庁「こども政策協議会（第７回）資料」令和6年

主な取組②：電子版母子健康手帳アプリの導入と普及促進

• 住民がスマートフォンで利用できる「電子版母子健康手帳アプリ」を導入します。
• このアプリを通じて、健診問診票のオンライン事前入力、健診結果や成長曲線の閲覧、予防接種スケジュールの自動管理とリマインダー通知、区からの個別のお知らせ（プッシュ通知）などの機能を提供します。
• 妊娠届出時や各種健診時にアプリの利用を強力に推奨し、高い利用率を目指します。
  • 客観的根拠：
    • 既に半数以上の自治体で何らかの電子母子保健ツールが導入されており、住民の利便性向上や自治体の業務効率化が期待されています。国も2026年度以降の電子版母子健康手帳の本格普及を目指しています。
    • （出典）こども家庭庁「母子保健分野におけるＤＸの推進について」令和5年
    • （出典）中野区「母子保健ＤＸの推進に伴う準備業務委託」令和7年度

主な取組③：「書かない窓口」「来ない窓口」の実現

• マイナンバーカードを活用し、PMHと連携することで、住民は一度入力した情報を再度記入する必要がなくなります（ワンスオンリー）。
• 健診の予約や各種申請手続きをオンラインで完結できるようにし、住民が区役所に来庁する負担を軽減します。
• 特に、里帰り出産における自治体間の煩雑な手続きを、PMHを介したオンラインでの情報共有に切り替えることで、住民と職員双方の負担を大幅に削減します。
  • 客観的根拠：
    • 国の母子保健DXは、マイナンバーカード1枚で健診が受診可能になることや、紙の受診券の管理・提出が不要になることを目指しています。
    • （出典）こども家庭庁「母子保健ＤＸの推進」令和6年
    • (https://www.youtube.com/watch?v=mbWCJBmVUkw)

主な取組④：母子保健データのEBPMへの活用体制整備

• デジタル化によって蓄積された母子保健データを、個人情報保護に最大限配慮した上で匿名化・統計処理し、地域の健康課題を分析します。
• 例えば、「どの地域で低出生体重児が多いか」「どの月齢で発達相談のニーズが高いか」などを可視化し、客観的データに基づいた資源配分や施策立案に活用します。
• データ分析を担う専門人材を育成・配置し、EBPMを推進する体制を構築します。
  • 客観的根拠：
    • こども家庭庁は、データ・統計を活用したエビデンスに基づく政策立案と実践、評価、改善を重要な方針として掲げています。
    • （出典）全国保健師長会「こども家庭庁の概要と母子保健施策の方向性」令和6年

KGI・KSI・KPI

• KGI（最終目標指標）
  • 健診結果のデータ化・システム反映に要する職員の作業時間：90%削減
  • データ取得方法： 業務量調査（BPR前後での実測）
• KSI（成功要因指標）
  • 電子版母子健康手帳アプリの対象者利用率：80%以上
  • データ取得方法： アプリ管理システムの利用統計データ
• KPI（重要業績評価指標）アウトカム指標
  • 乳幼児健診問診票のオンライン提出率：70%以上
  • データ取得方法： アプリおよび電子申請システムのログデータ
• KPI（重要業績評価指標）アウトプット指標
  • 国のPMHとのシステム連携：令和8年度までに完了
  • データ取得方法： システム開発プロジェクトの進捗管理報告

支援策②：ハイリスク家庭へのアウトリーチ強化と多機関連携による包括的支援

目的

• 健診未受診や、特別な配慮を要するなど、自ら支援を求めにくいハイリスク家庭を早期に発見し、行政から積極的に働きかける（アウトリーチ）ことで、課題の深刻化を未然に防ぎます。
• 関係機関が連携し、個々の家庭の状況に応じたオーダーメイドの包括的支援を提供します。
  • 客観的根拠：
    • こども家庭庁は、乳幼児健診未受診等の家庭を市町村が把握し、目視等により状況確認を進める取り組みを推進しており、アウトリーチの重要性を国レベルで認識しています。
    • （出典）こども家庭庁「こどもの状況の確認・安全の確保の取組」

主な取組①：健診未受診者への徹底したアウトリーチ

• 全ての法定健診（1歳6か月児、3歳児）の未受診者をリスト化し、標準的な対応フローを確立します。
• フローには、①電話・手紙による受診勧奨、②複数回の連絡に応じない場合の家庭訪問による安否確認（現認）、③必要に応じた児童相談所等への情報提供・連携、を含めます。
• この取り組みを、懲罰的ではなく、あくまで「支援を届ける」という姿勢で実施することを徹底します。
  • 客観的根拠：
    • 三重県熊野市などでは、特定健診の未受診者に対し、はがきの送付や電話勧奨、戸別訪問などを実施し、受診率向上に取り組んでいます。この手法は母子保健分野にも応用可能です。
    • （出典）熊野市「特定健診・特定保健指導」

主な取組②：特別な配慮を要する家庭への個別支援プラン策定

• 外国人家庭支援
  • 母子保健専門の医療通訳者を育成・配置し、健診や相談に同席できる体制を整備します。
  • 主要言語（英語、中国語、韓国語、タガログ語、ベトナム語等）に対応した母子保健制度の案内資料や問診票を作成・配布します。
  • (https://japan-who.or.jp/wp-content/themes/rewho/img/PDF/library/081/book8304.pdf)
• 障害児・医療的ケア児支援
  • 集団健診が困難な家庭に対し、保健師や看護師による「訪問健診」を選択肢として提供します。
  • かかりつけの専門医療機関で受けた健診結果を、公的な健診の代替として認定する制度を設けます。
  • （出典）こども家庭庁「令和７年度 母子保健対策関係予算の概要」
• 多胎児家庭支援
  • 健診や予防接種など、母子保健サービスを利用するための外出にかかるタクシー費用を助成する「移動支援チケット」を交付します。
  • 産後ケア事業において、多胎児家庭向けのヘルパー派遣時間や利用回数を上乗せするなどの優遇措置を講じます。
  • （出典）板橋区「多胎児家庭支援事業」
  • （出典）墨田区「多胎児家庭移動経費補助事業」

主な取組③：「こども家庭センター」を核とした多機関連携体制の構築

• 令和6年度から設置が努力義務化された「こども家庭センター」を、ハイリスク家庭支援の司令塔として明確に位置づけます。
• 保健師、保育士、社会福祉士、心理士、教育関係者（スクールソーシャルワーカー等）が一堂に会する「要保護児童対策地域協議会（要対協）」の個別ケース検討会議を定期的に開催し、支援が必要な家庭ごとに役割分担と連携方法を定めた「個別支援計画」を策定・共有します。
  • 客観的根拠：
    • 改正児童福祉法により、市区町村は「こども家庭センター」の設置に努めることとされ、母子保健機能と児童福祉機能を一体的に提供し、包括的な相談支援を行うことが期待されています。
    • （出典）厚生労働省「令和４年児童福祉法等改正の概要」
    • （出典）福島県「ヤングケアラー支援体制マニュアル」

主な取組④：ヤングケアラーの早期発見と支援

• 健診時の問診や保健師の家庭訪問の際に、保護者の健康状態（身体・精神）や家庭環境を注意深く観察し、こどもが過度な家事や家族のケアを担っていないか（ヤングケアラーとなっていないか）をアセスメントする視点を導入します。
• ヤングケアラーの可能性が疑われる場合は、こども家庭センターが中心となり、高齢福祉、障害福祉、医療等の関係部署と連携し、ケアを必要とする家族への公的サービス導入を進め、こどもの負担を軽減します。
  • 客観的根拠：
    • ヤングケアラー支援では、こども本人だけでなく、ケアを必要とする家族を含めた「家族まるごと支援」の視点が不可欠であり、教育、福祉、医療など多分野の連携が求められます。
    • （出典）京都府「ヤングケアラー総合支援センター資料」
    • （出典）三重県「ヤングケアラー支援のための手引き」

KGI・KSI・KPI

• KGI（最終目標指標）
  • 健診未受診に起因する重篤な児童虐待事例の発生：ゼロ件
  • データ取得方法： 児童相談所との連携による事例分析
• KSI（成功要因指標）
  • 法定健診未受診家庭への家庭訪問による安否確認（現認）率：100%
  • データ取得方法： 母子保健システムの訪問記録と未受診者リストの照合
• KPI（重要業績評価指標）アウトカム指標
  • 特別な配慮を要する家庭（外国人・障害児・多胎児）の個別支援サービス利用率：対前年度比30%増
  • データ取得方法： 各支援事業の利用実績データの集計・分析
• KPI（重要業績評価指標）アウトプット指標
  • 多機関連携による個別ケース検討会議の開催件数：年間50件以上
  • データ取得方法： こども家庭センターの会議開催記録

支援策③：産後ケアの拡充と家族全体のメンタルヘルス支援

目的

• 出産後の心身ともに不安定な時期にある全ての母子に対し、専門家によるケアとサポートを提供することで、産後の円滑な回復を促し、育児への移行を支援します。
• 産後うつを予防・早期発見し、母親だけでなく父親も含めた家族全体のメンタルヘルスを維持・向上させます。
  • 客観的根拠：
    • 令和元年の母子保健法改正により、産後ケア事業は市町村の努力義務と位置づけられ、妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援体制の中核事業として期待されています。
    • （出典）こども家庭庁「母子保健施策の動向」

主な取組①：産後ケア事業の多様化と利用促進

• 利用者のニーズや家庭状況に合わせて選択できるよう、多様なサービス形態を提供します。
  • 宿泊型： 助産所や病院等に宿泊し、24時間体制で心身のケアや育児指導を受ける。
  • デイサービス型： 日中に施設へ通い、休息や専門家からの指導、母親同士の交流の機会を得る。
  • アウトリーチ型（訪問型）： 助産師や保健師が自宅を訪問し、慣れた環境でケアや相談支援を行う。
• 利用料の負担を軽減するため、所得に応じた減免制度を導入・拡充します。特に住民税非課税世帯や多胎児家庭への配慮を強化します。
  • 客観的根拠：
    • 国の産後ケア事業の補助制度では、宿泊型、デイサービス型、アウトリーチ型の3類型が示されており、利用料減免に対する補助も行われています。令和7年度からは、きょうだいや生後4か月以降の児を受け入れる際の加算も創設され、多様なニーズへの対応が推進されています。
    • （出典）こども家庭庁「令和７年度 母子保健対策関係予算の概要」

主な取組②：全妊産婦へのメンタルヘルススクリーニングと相談支援

• 妊婦健診時および産婦健診時（産後2週間、1か月など）に、エジンバラ産後うつ病質問票（EPDS）によるスクリーニングを全ての妊産婦に実施します。
• スクリーニングでハイリスクと判断された場合、速やかに心理士や精神科医などの専門家によるカウンセリングや診察につなげるための明確な連携パスを構築します。
• 専門相談にかかる費用の一部を助成し、経済的な理由で受診をためらうことがないようにします。
  • 客観的根拠：
    • 産婦健診の費用助成事業では、健診結果を市町村が把握し、支援が必要な産婦を産後ケア事業につなげることが要件とされており、スクリーニングと支援の連携が重視されています。
    • （出典）厚生労働省「産婦健康診査事業の概要」

主な取組③：父親の育児参加とメンタルヘルス支援の推進

• 母親だけでなく、父親も対象とした両親学級を土日開催やオンライン開催などで実施し、参加を促進します。
• 学級の内容には、沐浴やオムツ交換といった育児スキルだけでなく、産後の女性の心身の変化や、父親自身のメンタルヘルス（父親の産後うつ）に関する知識も含めます。
• 母子健康手帳や区の広報物で、父親向けの相談窓口を周知します。
  • 客観的根拠：
    • 「健やか親子21」の中間評価では、産後の父親の約1割が産後うつの傾向にあると指摘されており、父親支援の重要性が増しています。
    • （出典）厚生労働省「「健やか親子２１（第２次）」の中間評価等に関する検討会報告書」

主な取組④：ピアサポート活動の育成と支援

• 同じような経験を持つ親同士が支え合うピアサポート活動を推進します。
• 多胎児の親の会、障害児の親の会、あるいは地域の子育てサークルなど、当事者団体やNPOの活動拠点確保や運営経費の一部を補助します。
• 行政が主催するイベントなどで、これらの団体の活動を紹介し、孤立しがちな親たちがつながるきっかけを作ります。
  • 客観的根拠：
    • 国の産前・産後サポート事業では、地域の子育て経験者やシニア世代などが相談相手となる取り組みが推進されており、ピアサポートが妊産婦の孤立化を防ぐソーシャル・キャピタルとして期待されています。
    • （出典）こども家庭庁「妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援」

KGI・KSI・KPI

• KGI（最終目標指標）
  • 産後1年以内の母親の自殺率：全国平均以下に抑制
  • データ取得方法： 人口動態統計および警察庁統計
• KSI（成功要因指標）
  • 産後ケア事業の利用率（出産数に対する利用実人員の割合）：50%以上
  • データ取得方法： 事業実施報告と人口動態統計の比較分析
• KPI（重要業績評価指標）アウトカム指標
  • EPDS高得点者のうち、専門相談または産後ケア事業に繋がった割合：80%以上
  • データ取得方法： こども家庭センターのケース記録・フォローアップ管理
• KPI（重要業績評価指標）アウトプット指標
  • 産後ケア事業の提供体制（宿泊・デイ・訪問の年間延べ提供可能日数）：対前年度比20%増
  • データ取得方法： 事業委託契約および実施計画に基づくキャパシティ算定

先進事例

東京都特別区の先進事例

世田谷区「せたがや版ネウボラによる切れ目ない支援体制」

• フィンランドの「ネウボラ（相談・アドバイスの場所）」を参考に、妊娠期から就学前まで一貫した支援を提供する体制を構築しています。区内5か所の総合支所に母子保健コーディネーターを中心とする「ネウボラ・チーム」を配置し、妊娠届出時の「ネウボラ面接」を全ての妊婦に実施しています。面接を受けた家庭には、産前産後の多様なサービス（ベビーシッター、産後ケア、マタニティヨガ、タクシー利用等）に使える1万円分の「せたがや子育て利用券」を配布し、地域の社会資源へのアクセスを促しています。地域のNPOや医療機関との緊密な連携が、この制度を支える強みとなっています。
  • 客観的根拠：
    • 子育て利用券の利用率は年々上昇し、令和元年度配付分では約70%に達しています。利用先は移動支援、産後ケア、子育て関連事業者の順に多く、利用者のニーズを的確に捉えています。
    • （出典）世田谷区議会「令和5年第1回定例会会議録」
    • （出典）世田谷区「せたがや版ネウボラ」
    • (https://kuramore.jp/article/497/)

江戸川区「出産・子育て応援交付金を活用した伴走型相談支援」

• 国の「出産・子育て応援交付金」制度を活用し、経済的支援と相談支援を一体的に提供する「伴走型相談支援」を強力に推進しています。具体的には、①妊娠届出時の「ぴよママ相談（全数面接）」、②妊娠8か月頃のアンケートと希望者へのオンライン面談、③出産後の「新生児訪問」という3つのタッチポイントを設け、切れ目なく家庭の状況を把握し、必要な支援につなげる体制を構築しています。経済的支援をフックとしながら、対面での相談機会を確実に確保するモデルです。
  • 客観的根拠：
    • この事業は、国の示す「妊婦・子育て家庭への伴走型相談支援と経済的支援の一体的実施」のモデルを忠実に実施するものであり、核家族化や地域のつながりの希薄化が進む中での孤立感や不安感の解消を目的としています。
    • （出典）江戸川区「妊婦等包括相談支援事業」
    • （出典）江戸川区「妊婦のための支援給付事業(国事業）」
    • （出典）いくはく「出産・子育て応援給付金」

板橋区・墨田区など「多胎児家庭への手厚い移動支援」

• 双子や三つ子などの多胎児を育てる家庭が直面する大きな課題の一つが「外出の困難さ」です。これに対し、板橋区や墨田区、八王子市など複数の自治体が、乳幼児健診や予防接種といった母子保健事業への参加を支援するため、タクシー利用に使える商品券や費用補助を提供しています。板橋区では3歳未満の多胎児を対象に、墨田区ではこども商品券24,000円分を交付するなど、具体的な支援策を講じています。これは、物理的な障壁を取り除くことで、必要なサービスへのアクセスを保障する、効果的かつ的を絞った支援策です。
  • 客観的根拠：
    • 板橋区では3歳未満の多胎児家庭を対象にタクシー費用を助成。墨田区では予防接種や乳幼児健診等で利用できるこども商品券24,000円分を交付。八王子市でも2歳までの多胎児家庭に移動支援パッケージを配布しています。
    • （出典）板橋区「多胎児家庭支援事業」
    • （出典）墨田区「多胎児家庭への支援」
    • （出典）八王子市「多胎児家庭への移動支援」

全国自治体の先進事例

千葉県市川市「AIチャットボットとLINEを活用した24時間相談体制」

• 市川市は、市の公式LINEアカウントを通じて、AIチャットボットによる24時間365日対応の問い合わせサービスを提供しています。「子育て情報」や「ごみの分別」など、市民から頻繁に寄せられる質問に対し、AIが自動で回答します。これにより、市民は時間や場所を問わずに情報を得られる一方、市職員は定型的な問い合わせ対応から解放され、より専門的な相談業務に集中できます。デジタル技術を活用して住民サービスを向上させ、同時に業務効率化を実現した好事例です。
  • 客観的根拠：
    • 令和2年5月からサービスを開始し、LINEや市公式ウェブサイトから利用可能です。特に「ごみの分別」に関する問い合わせで高い利用実績があります。
    • （出典）市川市「AIチャットボットによる問い合わせ対応について」
    • （出典）市川市「市川市LINE公式アカウント」
    • (https://mobilus.co.jp/press-release/16649)

青森県鰺ヶ沢町「産科医療機関と連携した退院直後からの訪問ケア」

• 町内に分娩を取り扱う産科医療機関がないというハンディキャップを逆手に取り、行政と域外の医療機関が緊密に連携する支援体制を構築しました。妊婦が町外の病院で出産し退院した直後から、町役場内に設置した「母子支援センター」の助産師が家庭を訪問し、専門的なケアを提供します。医療機関との間で「妊産婦連携カード」を用いて情報を共有し、スムーズな支援の引き継ぎを実現しています。医療資源が乏しい地域でも、連携と工夫によって切れ目のない支援が可能であることを示す先進的なモデルです。
  • 客観的根拠：
    • 助産師による専門的な訪問ケアにより、児の発育不安や乳腺炎などで産科へ再通院する負担が軽減されるなどの効果が報告されています。この取り組みは、厚生労働省の「健康寿命をのばそう！アワード」で表彰されています。
    • （出典）厚生労働省「第3回 健康寿命をのばそう！アワード 事例集」

参考資料［エビデンス検索用］

こども家庭庁関連資料

• 「令和6年版 こども白書」令和6年
• 「母子保健・不妊症・不育症など」施策ページ
• 「母子保健ＤＸの推進」関連資料 令和6年
• 「令和７年度 母子保健対策関係予算の概要」令和6年
• 「成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針」令和5年
• 「乳幼児健診未受診者等に係る安全確認の実施について」
• 「令和4年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数（速報値）」令和5年

厚生労働省関連資料

• 「母子保健法」昭和40年法律第141号
• 「地域保健・健康増進事業報告」各年度
• 「健やか親子２１（第２次）」関連報告書
• 「令和４年児童福祉法等改正の概要」
• 「人口動態統計」各年度

東京都・特別区関連資料

• 東京都福祉局「東京都の児童相談所における相談対応件数」
• 世田谷区「せたがや版ネウボラ」関連資料
• 江戸川区「妊婦等包括相談支援事業」関連資料
• 板橋区「多胎児家庭支援事業」関連資料

その他研究機関・団体資料

• 野村総合研究所「乳幼児健修における配慮が必要な児への対応に関する調査」
• JICA「日本の母子保健の経験」
• 日本小児保健協会「母子保健施策の変遷」
• 全国保健師長会「地域保健の現状と課題」
• 日本公衆衛生協会「自治体保健師の人材確保と育成に関する調査」

まとめ

　東京都特別区における母子健康診査は、高い受診率に支えられ、こどもの健やかな成長を保障する上で重要な役割を果たしています。しかしその一方で、健診未受診家庭や特別な配慮を要する家庭への支援不足、産後うつや児童虐待といった深刻なリスク、そして行政のデジタル化の遅れや縦割り構造など、多くの課題に直面しています。これらの課題を克服し、全ての子育て家庭が安心して暮らせる社会を実現するためには、①母子保健DXの抜本的推進による情報基盤の構築、②アウトリーチ強化と多機関連携によるハイリスク家庭への包括的支援、③産後ケア拡充による普遍的な家族支援、という3つの柱を統合的に推進することが不可欠です。
　本内容が皆様の政策立案等の一助となれば幸いです。
　引き続き、生成AIの動向も見ながら改善・更新して参ります。

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