masashi0025
はじめに
※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。
概要(母子保健を取り巻く環境)
- 自治体が母子保健の支援を行う意義は、**「次世代を担う子どもの健やかな成長の保障」と「安心して子どもを産み育てられる社会基盤の構築」**にあります。
- これは、単なる個別の家庭支援に留まらず、少子化という国難に対応し、持続可能な地域社会を維持するための根幹的な行政責務です。
- 本稿では、東京都特別区における母子保健の現状と課題をデータに基づき分析し、実効性の高い政策を提案します。
意義
住民にとっての意義
- 心身の健康維持と不安軽減
- 妊娠期から育児期にかけての専門的な保健指導や相談支援により、母親の産後うつや育児ノイローゼを予防・軽減し、子どもの健全な発育を促進します。
- 経済的負担の軽減
- 妊婦健診や医療費の助成、出産・子育て応援給付金等の経済的支援により、子育てに伴う家計への負担を直接的に軽くします。
- 社会的孤立の防止
- 産後ケア事業や地域の子育て拠点を通じて、同じ境遇の親同士や地域社会とのつながりを創出し、育児の孤立感を解消します。
地域社会にとっての意義
- 少子化対策への貢献
- 子育てしやすい環境を整備することで、出生率の向上や子育て世代の定住を促し、地域の活力維持に貢献します。
- 児童虐待の予防
- 妊娠期からの切れ目のない支援を通じて、支援が必要な家庭を早期に把握し、適切な介入を行うことで、深刻な児童虐待の発生を未然に防ぎます。
- 地域共生社会の実現
- 多様な背景を持つ家庭(外国人家庭、障害児家庭など)を含め、全ての親子が地域の一員として尊重され、支え合えるインクルーシブなコミュニティを形成します。
行政にとっての意義
- 長期的医療・社会保障費の抑制
- 幼少期の健康課題や発達障害への早期介入、虐待予防は、将来的な医療費や社会的コストの増大を抑制する効果が期待できます。
- 行政への信頼向上
- 住民のライフステージに寄り添ったきめ細やかな支援を提供することで、行政への信頼と満足度を高めます。
- データに基づく政策立案(EBPM)の推進
- 母子保健分野におけるデータ収集・分析を通じて、より効果的・効率的な政策立案と事業評価が可能となります。
(参考)歴史・経過
- 母子保健政策の歴史は、その時代の社会課題を反映し、その中心的な使命を変化させてきました。当初は母子の生命を守る「生存」が至上命題でしたが、現在は心身の健康や育児環境の質を高める「幸福な育ち」の保障へと進化しています。
- 戦前〜戦後復興期(〜1960年代):生存への挑戦
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- 1947年: 児童福祉法が制定され、全ての児童の健全育成が目的とされ、母子保健が法的に位置づけられました。
- 1965年: 母子保健法が制定されました。児童福祉法から独立し、妊産婦と乳幼児の健康保持・増進を目的とする専門法として確立しました。背景には、依然として高かった乳児死亡率・妊産婦死亡率の改善という喫緊の課題がありました。
- 経済成長期〜安定期(1970年代〜1990年代):質の向上と市町村への移管
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- 1994年: 母子保健法が改正され、基本的な母子保健サービスの実施主体が都道府県から市町村へと移管されました(平成9年施行)。これにより、より住民に身近な基礎自治体が地域の実情に応じたサービスを提供する体制が基本となりました。
- (出典)日本家族計画協会「我が国の母子保健行政のあゆみ」2019年 12
- 現代(2000年〜現在):「切れ目のない支援」と新たな課題への対応
- 2000年: **「健やか親子21」**が策定されました。少子化、核家族化、女性の社会進出といった社会構造の変化に対応し、「切れ目ない支援」を基本理念とする新たな母子保健の方向性が示されました。課題は生命の危機から、育児の孤立や不安といった心理・社会的なものへと移行しました。
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母子保健に関する現状データ
出生数・合計特殊出生率の動向
- 全国的な少子化の加速
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- 令和6年(2024年)の全国の出生数は68万6,061人となり、統計開始以来初めて70万人を下回りました。前年の72万7,288人から4万1,227人もの大幅な減少です。
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- 全国で最も深刻な東京都の状況
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- 東京都の合計特殊出生率は、令和3年(2021年)時点で1.08と全国で最も低く、6年連続で低下しました。
- さらに、令和5年(2023年)には0.99と、ついに1.0を割り込む事態となっています。これは全国平均を常に下回る水準であり、極めて危機的な状況です。
- 東京のパラドックス:人口流入と出生率低下の乖離
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- 東京都は埼玉県と並び、全国で2都県しかない人口増加自治体です(令和6年、対前年比0.66%増)。この増加は、地方からの転入者が転出者を上回る「社会増」によるものです。
- この事実は、東京が若者や労働力人口を惹きつける魅力的な都市である一方で、その流入した人々が子どもを産み育てるには極めて厳しい環境であることを示唆しています。高い生活コスト、長時間労働、住宅の狭さなどが、家族形成の大きな障壁となっている可能性が考えられます。母子保健施策は、こうした強力な負の圧力に対抗し、子育て世帯を支える重要な役割を担います。
- 特別区内の地域差
母子の健康状態に関する指標
- 依然として高い低出生体重児の割合
- 世界最高水準の周産期医療
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- 東京都の乳児死亡率(出生千対)は1.4(令和2年)、妊産婦死亡率も全国的に極めて低い水準にあります。これは、日本の周産期医療体制がいかに高いレベルにあるかを示しています。
- (出典)豊島区「令和3年度版豊島区の保健統計」令和4年 22
- 深刻な産後うつとメンタルヘルス問題
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- 産後うつのスクリーニング検査(EPDS)で、支援が必要と判断される母親は**約10%**に上ると推定されています。
- さらに、東京都監察医務院が行った調査では、自殺により亡くなった妊産婦の**33%**が産後うつ病であったと報告されており、メンタルヘルス対策は母子の生命を守る上で喫緊の課題です。
- 高い健診受診率とその裏にある課題
- 1歳6か月児健診の受診率は96.3%、3歳児健診は95.7%(令和4年度)と、極めて高い水準を維持しています。
- 妊婦健診についても、東京都では平均102,388円の公費助成が行われており、ほぼ全ての妊婦が必要な回数(14回程度)を受診できる体制が整っています。
- しかし、この高い受診率にもかかわらず、産後うつによる自殺や児童虐待といった深刻な問題が後を絶ちません。これは、現行の健診制度が「受診させる」という量的な目標は達成しているものの、保護者が抱える精神的な苦痛や家庭内のリスクを的確に把握し、具体的な支援につなげるという「質的な機能」が十分に果たせていない可能性を示唆しています。国が「伴走型相談支援」を推進する背景には、この「健診のパラドックス」とも言える課題認識があります。
子育て環境に関する指標
- 増加し続ける児童虐待
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- 全国の児童相談所における児童虐待相談対応件数は、令和4年度に21万9,170件と過去最多を更新し続けています。
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- 東京都における児童虐待の状況
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- 東京都(都及び特別区設置の児童相談所)における令和4年度の相談対応件数は2万7,798件でした。
- 警察からの通告が増加傾向にあり、関係機関の連携強化が引き続き重要な課題となっています。
課題
住民の課題
- 産後うつとメンタルヘルス不調の深刻化
- 出産後、ホルモンバランスの急激な変化や24時間体制の育児へのプレッシャー、睡眠不足などから、多くの母親が精神的に不安定な状態に陥りやすくなります。特に、産後2週間から1か月の産褥期は発症リスクが最も高い時期とされています。
- 客観的根拠: 東京都監察医務院が2005年から10年間にわたり調査した結果、自殺した妊産婦63例の原因・背景として最も多かったのが「産後うつ病」であり、全体の33%を占めていました。これは、産後うつが単なる「気分の落ち込み」ではなく、母の命を脅かす深刻な疾患であることを示しています。
- (出典)厚生労働省科学研究費補助金「自殺の実態に基づく予防対策の促進に関する研究」2016年
- この課題が放置された場合の悪影響の推察: 母親の自殺や育児放棄、ひいては子どもへの虐待といった最も悲劇的な事態につながるリスクが著しく高まります。
- 核家族化・地域関係の希薄化による育児の孤立
- 特に都市部である特別区では、祖父母などの親族から日常的な支援を得にくい核家族世帯が大多数を占めます。さらに、近隣住民との関係も希薄化しており、保護者、特に母親が一人で育児の全責任と精神的負担を抱え込みやすい構造的な問題を抱えています。
- 客観的根拠: こども家庭庁が実施した全国調査によると、産後ケア事業の利用者からは「身近に支援者がいない」「里帰り出産をしなかった」といった声が多く寄せられており、物理的・精神的なサポートの不在が事業利用の大きな動機となっています。
- この課題が放置された場合の悪影響の推察: 保護者の精神的な孤立が深刻化し、産後うつの発症や、ストレスからくる不適切な養育につながる可能性が増大します。
- 外国人住民が直面する言語・文化・制度の三重の壁
- 日本語能力の不足は、行政サービスに関する情報を得たり、医療機関で症状を正確に伝えたりする上で大きな障壁となります。また、日本の医療・保健制度(定期健診や予防接種の重要性など)への不理解や、母国の文化との違いから、必要なサービスを敬遠したり、利用の機会を逃したりするケースが少なくありません。
- 客観的根拠: ある調査では、母子保健業務に携わる保健師の8割近くが外国人対応に困難を感じており、その原因として「言語の壁」だけでなく、「制度や文化の違い」「『保健師』という職種への不理解」を挙げています。同調査では、外国人母親の21.3%が、本来は全戸訪問の対象である保健師の家庭訪問を受けていないという衝撃的なデータも示されています。
- 客観的根拠: 東京都の調査によると、外国人保護者のうち、子育てに関する相談窓口の存在を知っているのはわずか27.3%で、実際に利用した経験があるのは16.5%に留まっています。特に「予防接種制度」(57.8%)や「保育所の入園手続き」(63.2%)といった、子どもの健康と生活に直結する重要な情報が不足していると感じています。
- (出典)東京都福祉保健局「外国人家庭の子育て支援ニーズ調査」令和4年度
- この課題が放置された場合の悪影響の推察: 子どもの予防接種の遅れや健診未受診による健康リスクの増大、保護者の社会的孤立による虐待リスクの上昇を招きます。
- 支援が必要なハイリスク家庭へのアプローチの困難さ
- 若年での妊娠、予期せぬ妊娠、多胎児、保護者の精神疾患の既往、経済的困窮といった複数のリスクを抱える家庭は、社会的に孤立しがちで、自ら行政に助けを求めることが困難な場合があります。これらの「サイレント」な家庭をいかに発見し、支援につなげるかが大きな課題です。
- 客観的根拠: 産後ケア事業は、こうしたハイリスクな産婦の利用を特に想定していますが、市町村から委託先の事業者へ事前に共有される情報は「精神疾患の既往歴」等が6割程度に留まっており、リスクアセスメントに必要な情報連携が十分とは言えない状況がうかがえます。
- この課題が放置された場合の悪影響の推察: 支援が必要な特定妊婦等の見逃しにつながり、適切なサポートが行われないまま家庭環境が悪化し、最終的に深刻な児童虐待に至るケースが増加します。
地域社会の課題
- 深刻化する少子化と地域活力の低下
- 出生数の継続的な減少は、将来の生産年齢人口の減少に直結します。これは、税収の減少、社会保障制度の維持困難、地域経済の縮小、さらには祭りや地域活動といったコミュニティの担い手不足など、社会全体の持続可能性を根底から揺るがす構造的な問題です。
- 客観的根拠: 日本の総人口は14年連続で減少しており、死亡数が出生数を上回る「自然減」は18年連続で続いており、その減少幅は年々拡大しています。令和6年(2024年)の出生数は過去最少の約68.6万人でした。
- この課題が放置された場合の悪影響の推察: 行政サービスのレベル維持が困難になり、インフラの老朽化への対応も遅れ、地域全体の生活の質が徐々に低下していきます。
- 増加し続ける児童虐待と社会的養護の負担増
- 児童虐待の相談対応件数は増加の一途をたどっており、児童相談所や一時保護所など、社会的養護に関わる行政機関の業務は逼迫しています。特に都市部では、面前DVなどの心理的虐待が深刻化しており、対応の複雑化・長期化が現場の負担をさらに増大させています。
- 客観的根拠: 全国の児童虐待相談対応件数は、統計を開始した1990年度から32年連続で増加し、令和4年度には約21.9万件に達しました。通告経路として最も多いのは「警察等」であり、全体の約半数を占め、年々増加していることから、事態の深刻化がうかがえます。
- この課題が放置された場合の悪影響の推察: 児童相談所や一時保護所の機能が飽和状態に陥り、救えるはずの子どもの命が失われるリスクが高まるとともに、被虐待児の心身の傷が将来にわたって医療費や福祉コストといった形で社会的な負担を生み続けます。
行政の課題
- 専門職(保健師等)の人材不足と業務負担の増大
- 母子保健の最前線を担う保健師は、従来の健康相談や健診業務に加え、近年ではメンタルヘルス、児童虐待、発達障害、外国人対応など、より高度な専門性と時間を要する業務への対応が求められています。しかし、専門職の数は業務の多様化・複雑化に追いついておらず、一人当たりの業務負担が限界に近づいています。
- 客観的根拠: 全国の自治体保健師の数は近年横ばい傾向にありますが、この数は人口が少なかった昭和58年(1983年)のピーク時の約7割の水準に過ぎません。業務が質・量ともに増大する一方で、担い手は増えていないという構造的な問題を抱えています。
- この課題が放置された場合の悪影響の推察: 専門職がバーンアウトし、離職が増加することで、住民へのサービスの質が低下し、支援が必要な家庭への対応が手薄になるという負のスパイラルに陥ります。
- 「切れ目のない支援」の理念と実態の乖離
- 「妊娠期から子育て期まで一貫した支援」という理念は広く共有されていますが、実際の行政現場では、医療機関、保健センター、保育所、子育て支援施設といった関係機関が縦割りで運営されており、情報連携が不十分なため、支援が分断されがちです。保護者は機関を移るたびに同じ説明を繰り返さなければならず、機関側も対象者の全体像を把握できないまま断片的な支援に終始するケースが少なくありません。
- 客観的根拠: 国が策定する令和7年度予算案においても、産後ケア事業の強化、乳幼児健診の推進、妊産婦のメンタルヘルスに関するネットワーク構築事業などが新規・拡充項目として盛り込まれています。これらは、既存の支援体制に「切れ目」や「不足」が存在することを、行政自身が認識していることの証左と言えます。
- この課題が放置された場合の悪影響の推察: 支援が必要な家庭の情報が関係機関の間で途切れてしまい、リスクが見過ごされる危険性が高まります。また、住民にとっては手続きの煩雑さが利用のハードルとなり、本来届くべき支援が届かなくなります。
- 母子保健分野におけるDXの遅れとデータ利活用の不備
- 母子健康手帳や各種健診結果、相談記録など、母子の健康に関する重要な情報がいまだに紙媒体で管理されている自治体が多く、情報の集約・分析・共有が極めて困難な状況にあります。これにより、効果的な支援や政策立案の妨げとなっています。
- 客観的根拠: 政府は母子保健情報の利活用を重要課題と捉えており、令和5年度の補正予算において、これまで任意であった1か月児健診と5歳児健診を国庫補助事業の対象としました。また、母子保健情報の電子化を支援する事業も開始されています。これは裏を返せば、現状では多くの自治体で健診情報が分断され、電子化と利活用が不十分であることを示しています。
- この課題が放置された場合の悪影響の推察: 個々の職員の勘と経験に頼った非効率な業務が継続し、EBPM(証拠に基づく政策立案)が進みません。リスクの早期発見や支援効果の可視化ができず、限られた行政資源の最適な配分が阻害され続けます。
行政の支援策と優先度の検討
優先順位の考え方
- 各支援策の優先順位は、以下の要素を総合的に勘案し決定します。
- – 即効性・波及効果: 課題解決に直結し、住民が早期に効果を実感できるか。また、産後うつ対策が虐待予防につながるなど、他の課題にも良い影響を与えるか。
- – 実現可能性: 財源、人材、法制度、関係機関との調整等の観点から、実現の見込みが高いか。特に国の交付金や補助事業を活用できる施策は実現可能性が高いと評価します。
- – 費用対効果: 投じるコストに対して、得られる社会的・経済的便益が大きいか。虐待予防など、将来的な社会的コストの削減に繋がる施策は費用対効果が高いと評価します。
- – 公平性・持続可能性: 特定の住民だけでなく、広く公平に恩恵が及ぶか。また、一過性のイベントでなく、継続可能な制度設計となっているか。
- – 客観的根拠の有無: 国の計画(「こども大綱」等)や白書、統計データ等でその必要性や有効性が裏付けられているか。
支援策の全体像と優先順位
- 本報告書では、山積する課題の中から、特に**「支援の質の深化」「対象の拡大」「基盤の強化」**という3つの戦略的アプローチに基づき、以下の優先順位で支援策を提案します。
- 優先度【高】:支援策① 伴走型相談支援と産後ケアの抜本的強化
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- 位置づけ: 全ての親子の心身の健康を守るセーフティネットの根幹であり、産後うつや児童虐待といった深刻な課題に直接的にアプローチする最重要施策です。国の「出産・子育て応援交付金」の柱でもあり、財源確保も比較的容易であるため、最優先で取り組むべきです。
- 優先度【高】:支援策② 多様なニーズに対応するインクルーシブな母子保健体制の構築
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- 位置づけ: 従来の支援の枠組みからこぼれ落ちやすい外国人家庭や社会的ハイリスク家庭に焦点を当てる施策です。「誰一人取り残さない」という行政の基本理念と公平性の観点から喫緊の課題であり、放置した場合の社会的リスクが極めて高いため、優先度は高いと判断します。
- 優先度【中】:支援策③ 母子保健DXの推進とデータ利活用基盤の整備
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- 位置づけ: 支援策①と②の効果を最大化し、持続可能なものにするための不可欠なインフラ投資です。即効性には欠け、初期コストもかかりますが、長期的な業務効率化とEBPMの推進による費用対効果は絶大です。計画的かつ着実に推進すべき中長期的な基盤整備施策と位置づけます。
各支援策の詳細
支援策①:伴走型相談支援と産後ケアの抜本的強化
目的
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- 妊娠期から出産・子育て期にわたる全ての親子に対し、身近な場所で継続的な相談支援(伴走型支援)と心身のケア(産後ケア)を一体的に提供することで、育児に伴う不安や孤立感を解消し、産後うつや児童虐待を未然に防止します。
- 客観的根拠: 国は「出産・子育て応援交付金」事業により、全国の市町村で伴走型相談支援(面談等)と経済的支援(計10万円相当の給付)の一体的実施を推進しています。また、令和7年度予算案では産後ケア事業の体制強化(きょうだい児受入加算の新設等)が重点項目となっており、本支援策は国の政策方向性と完全に合致しています。
主な取組①:こども家庭センターを核とした伴走型相談支援の機能強化
- 妊娠届出時、妊娠8か月前後、出産後の全てのタイミングで専門職(保健師等)による面談を徹底し、個々の家庭状況に応じた「応援プラン」を作成・更新します。
- 全ての面談や家庭訪問の機会を捉え、産後うつのスクリーニング(エジンバラ産後うつ病質問票:EPDS等)を確実に実施し、ハイリスク者を早期に発見する体制を構築します。
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- スクリーニングでハイリスクと判断されたケースについては、精神科医や臨床心理士、地域の支援機関等へ確実につなぐための多職種連携によるケース会議を定期的に開催し、支援の進捗を管理します。
- 客観的根拠: 令和4年の児童福祉法改正で設置が法定化された「こども家庭センター」は、母子保健機能と児童福祉機能を一体的に担い、個別のサポートプランを作成・管理する中核的役割を担うことが期待されています。
主な取組②:産後ケア事業の利用促進とサービス多様化
- 利用の経済的・心理的ハードルを下げるため、所得制限の撤廃や利用料の低廉化を推進します。特に、国の加算制度(住民税非課税世帯に1回あたり5,000円、その他世帯に2,500円の利用料減免加算)を最大限活用し、利用者の負担を軽減します。
- 利用者の多様なニーズに応えるため、「宿泊型」「デイサービス型」「アウトリーチ(訪問)型」の各サービスをバランス良く整備します。特に、外出が困難な産後直後の母親や多胎児の母親のために、助産師等が自宅を訪問するアウトリーチ型の担い手を確保・育成します。
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- 多胎児や医療的ケア児など、特に支援ニーズの高い親子を受け入れるための加算制度や、上の子(きょうだい児)を一緒に預かることができる体制を整備し、利用を諦めざるを得ない状況を解消します。
- 客観的根拠: 令和7年度予算案では、産後ケア事業において「きょうだいや生後4か月以降の児を受け入れる施設への加算」(月額174,200円)や、「支援の必要性の高い利用者の受け入れ加算」(日額7,000円)が拡充される予定であり、これらの国の財源を活用できます。
主な取組③:父親の育児参加とメンタルヘルス支援の推進
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- 従来母親が対象の中心であった両親学級の内容を抜本的に見直し、父親が主体的に育児に関わるための具体的なスキル(沐浴、寝かしつけ、調乳等)や、産後の女性の心身の劇的な変化に関する科学的知識を学べる実践的なプログラムを充実させます。
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- 父親自身の産後うつや育児の悩み、孤立に対応するため、男性保健師や子育て経験のある父親(ピアサポーター)による相談会や、匿名で利用できるオンライン相談窓口を開設します。
- 客観的根拠: 国の産前・産後サポート事業において、「出産や子育てに悩む父親支援」が正式な支援項目として挙げられており、父親のピアサポート支援や産後うつへの対応が推進されています。
KGI・KSI・KPI
- – KGI(最終目標指標):
- 指標例:特別区における妊産婦死亡率(特に自殺による死亡率)の低下
- データ取得方法: 厚生労働省「人口動態統計」、東京都監察医務院の公表データ
- – KSI(成功要因指標):
- 指標例:EPDS等で把握されたハイリスク妊産婦の専門機関(精神科等)への連携率
- データ取得方法: 各区こども家庭センターの業務記録・統計報告
- – KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標:
- 指標例:産後ケア事業利用者の育児不安・負担感の軽減度(利用前後でのアンケートスコア比較)
- データ取得方法: 各区が実施する産後ケア事業利用者アンケート調査結果
- – KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標:
- 指標例:産後ケア事業の年間延べ利用者数(宿泊型・デイサービス型・アウトリーチ型別)
支援策②:多様なニーズに対応するインクルーシブな母子保健体制の構築
目的
- - 言語・文化の壁や社会経済的な困難を抱えるなど、従来の支援の枠組みからこぼれ落ちやすい親子を確実に支援の輪につなぎ、誰一人取り残さない母子保健を実現します。
- 客観的根拠: 東京都の調査では、外国人保護者のうち子育て相談窓口の存在を知っているのはわずか27.3%に留まっています。また、保健師の約8割が外国人対応に困難を感じており、その原因として言語だけでなく制度や文化の違いを挙げています。
主な取組①:外国人親子への多言語・多文化対応の強化
- 母子健康手帳の交付時や健診時に、必ず医療通訳を配置するか、多言語対応のタブレット端末等を活用できる体制を整備します。
- 主要な行政手続きの案内や子育て情報(予防接種、保育所入所、相談窓口一覧等)を多言語で提供するポータルサイトを構築し、SNS等で積極的に周知します。
- 地域の国際交流協会やNPO、外国人コミュニティと連携し、母国の文化を尊重した形での両親学級や子育てサロンを開催します。
主な取組②:社会的ハイリスク家庭へのアウトリーチ支援の徹底
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- 特定妊婦(若年妊娠、経済的困窮、精神疾患の既往など)を把握した場合、こども家庭センターが中心となり、医療機関、民生委員、NPO等の関係機関と連携した個別支援チームを編成し、定期的な家庭訪問や相談支援を実施します。
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- 児童相談所や警察との連携を密にし、虐待リスクの高い家庭の情報を早期に共有し、合同で家庭訪問を行うなど、迅速な介入体制を構築します。
- 客観的根拠: 児童虐待の通告経路として最も多いのは「警察等」であり、全体の約半数を占めています。関係機関の連携強化が虐待の早期発見に不可欠です。
KGI・KSI・KPI
- – KGI(最終目標指標):
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- データ取得方法: 各区の健診・予防接種記録データ(国籍別集計)
- – KSI(成功要因指標):
- 指標例:外国人保護者のための多言語ポータルサイトのアクセス数、相談窓口の利用件数
- データ取得方法: ウェブサイトのアクセス解析データ、各相談窓口の利用記録
- – KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標:
- 指標例:多言語対応の子育てサロン等に参加した外国人保護者の孤立感・不安感の軽減度(参加前後でのアンケートスコア比較)
- データ取得方法: 各区が実施するイベント参加者アンケート調査結果
- – KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標:
- 指標例:医療通訳の年間派遣件数、特定妊婦に対する個別支援チームの編成件数
- データ取得方法: 各区こども家庭センターの業務記録・統計報告
支援策③:母子保健DXの推進とデータ利活用基盤の整備
目的
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- 紙媒体での管理が主流となっている母子保健情報をデジタル化し、区、医療機関、保育所等の関係機関で安全に共有・活用できる基盤を整備します。これにより、職員の業務負担を軽減するとともに、データに基づいた科学的なアプローチ(EBPM)を推進し、支援の質の向上と効率化を図ります。
- 客観的根拠: 国は母子保健情報の電子化と利活用を重要政策と位置づけ、令和5年度補正予算で1か月児・5歳児健診を国庫補助対象とし、母子保健情報の電子化支援事業を開始しています。これは、現状のデータ管理体制が不十分であることの裏返しです。
主な取組①:電子母子健康手帳の導入と普及促進
- マイナポータルと連携可能な標準化された電子母子健康手帳アプリを導入し、住民への利用を積極的に勧奨します。
- 保護者がスマートフォン等で健診結果や予防接種履歴を手軽に確認・記録できるだけでなく、区からの個別のお知らせ(健診案内、子育てイベント情報等)をプッシュ通知で受け取れる機能を実装します。
主な取組②:関係機関との情報連携システムの構築
- 保護者の同意に基づき、電子母子健康手帳の情報を、かかりつけ医や保育所、こども園、児童相談所等の関係機関がセキュアなネットワークを通じて参照できるシステムを構築します。
- これにより、健診未受診者や支援が必要な家庭の情報を関係機関がタイムリーに共有し、切れ目のない支援を実現します。
主な取組③:データ分析に基づくEBPM(証拠に基づく政策立案)の推進
- 集約された母子保健データを匿名加工し、地域ごとの課題(例:低出生体重児の多い地域、産後うつハイリスク者の多い地域など)を可視化・分析します。
- 分析結果に基づき、特定の地域や対象層に資源を重点的に投入するなど、より効果的・効率的な事業計画の立案や評価を行います。
KGI・KSI・KPI
- – KGI(最終目標指標):
- 指標例:保健師等の専門職一人当たりの時間外勤務時間の削減率
- – KSI(成功要因指標):
- 指標例:電子母子健康手帳の利用登録率、関係機関(医療機関、保育所等)のシステム接続数
- – KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標:
- 指標例:乳幼児健診の未受診者に対するフォローアップ完了までの平均日数
- データ取得方法: 各区こども家庭センターの業務記録・統計報告
- – KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標:
- 指標例:データ分析に基づき策定・改善された事業の件数
(別添)先進自治体の取組事例
- 兵庫県明石市:「こどもを核としたまちづくり」による好循環の創出
- 概要: 「高校生までの医療費無料」「第2子以降の保育料無料」など、所得制限のない徹底した5つの無料化を断行 5。財源は、不要不急の公共事業の見直しや職員手当のカット等で捻出 5。
- 成果: 9年連続の人口増加(特に子育て世代の転入増)、出生率の上昇、市税収入の増加、地域経済の活性化(駅前商業施設の売上過去最高)という「経済の好循環」を生み出した 5。
- 示唆: 子育て支援は「コスト」ではなく、地域経済を活性化させる「未来への投資」であるという発想の転換の重要性を示している。ただし、急激な人口増による待機児童問題という新たな課題も抱えている 5。
- 東京都江戸川区:「江戸川方式」と呼ばれる独自のきめ細やかな支援
- 概要:
- 乳児養育手当(ゼロ歳児支援): 保育園を利用せず家庭で0歳児を育てる世帯に月額13,000円を支給 10。
- 保育ママ制度: 区認定の保育ママが0歳児を預かる、60年近い歴史を持つ制度 10。
- 家事・育児支援: 「えどがわママパパ応援隊」が多胎児家庭等を訪問し家事・育児を支援 11。おむつ等を届ける「子育て応援定期便」で見守りも実施 11。
- 成果: 「子育てしやすいまち」としてファミリー層から選ばれ、高い評価を得ている 10。
- 示唆: 現金給付だけでなく、多様な家庭の状況に応じた現物支給やマンパワーによる支援(保育ママ、ヘルパー派遣)を組み合わせることで、保護者の負担感を具体的に軽減している。
- 千葉県流山市:充実した産後ケアと切れ目のない支援体制
- 概要:
- 産後ケア事業: 宿泊型、デイケア型、訪問型を整備し、産後の心身の不調や育児不安を抱える母子を支援 14。
- 切れ目のない支援: 母子手帳交付時の面談から始まり、新生児訪問、乳幼児健診、離乳食教室など、子どもの成長段階に応じた多様なプログラムを提供 15。
- 経済的支援: 国の交付金に加え、市独自の経済的支援も実施 17。
- 成果: 子育て世代の転入が増加し、人口が増え続けている。
- 示唆: 妊娠期から子育て期まで、途切れることのない多様な相談・支援メニューを用意し、保護者がいつでもアクセスできる安心感を提供することの重要性を示している。
まとめ
- 現状認識: 東京都特別区は、全国で最も低い合計特殊出生率(令和5年:0.99) 19、増加し続ける児童虐待 21、深刻な産後うつ 22 など、極めて厳しい状況にあります。これは単なる福祉の問題ではなく、地域社会の持続可能性を揺るがす危機です。
- 課題の本質: 課題の根底には、都市部特有の「育児の孤立」と、支援が必要な家庭ほど声が届きにくい「サイレント・ニーズ」の存在があります。また、行政内部の「縦割り構造」と「人材不足」、そして「データ活用の遅れ」が、効果的な支援を阻害しています。
- 政策の方向性:
- 全ての親子へのセーフティネット強化: 国の制度も活用し、「伴走型相談支援」と「産後ケア」を抜本的に強化し、育児の孤立と産後うつを防ぐことが最優先課題です。
- 誰一人取り残さない支援: 外国人家庭やハイリスク家庭など、これまで支援が届きにくかった層へのアウトリーチを徹底し、インクルーシブな体制を構築する必要があります。
- 持続可能な支援基盤の構築: 上記の支援を効果的かつ効率的に行うため、DXを推進し、データに基づき政策を立案・評価するEBPMへの転換が不可欠です。
- 結論: 母子保健支援は、未来への最も確実な投資です。本報告書で提案した3つの支援策を、優先順位に基づき、迅速かつ着実に実行することが、次世代を担う子どもたちの健やかな成長を保障し、持続可能で活力ある地域社会を築くための鍵となります。
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