17 健康・保健

歯科保健

masashi0025

はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。

概要(歯科保健を取り巻く環境)

  • 自治体が歯科保健を行う意義は「住民の健康寿命の延伸」と「持続可能な医療・介護制度の構築」にあります。
  • 歯科保健は、単にう蝕(むし歯)や歯周病の予防・治療に留まらず、全身の健康を維持し、生活の質(QOL)を高めるための根幹をなすものです。特に超高齢社会を迎えた東京都特別区においては、口腔機能の維持が「食べること」「話すこと」といった人間の基本的な営みを支え、ひいてはフレイル(虚弱)や要介護状態への移行を防ぐ重要な鍵となります。
  • 近年の政策は、従来の疾患治療中心から、ライフステージに応じた切れ目のない予防と口腔機能の維持・向上へと大きく転換しています。これは、生涯を通じて自らの歯で健康な生活を送ることを目指す「8020運動」の新たな展開であり、個人の幸福と社会保障制度の持続可能性を両立させるための重要な行政課題です。

意義

住民にとっての意義

生活の質(QOL)の向上
  • 健全な口腔機能は、「おいしく食べること」「楽しく会話すること」「豊かに笑うこと」を可能にし、日々の生活に満足感と喜びをもたらします。
    • 客観的根拠:
      • 80歳で20本以上の歯を有する者は、そうでない者と比較して生活の質(QOL)を良好に保ち、社会活動への意欲も高いとの調査結果があります。
全身の健康維持と疾病予防
  • 歯周病が糖尿病、心血管疾患、誤嚥性肺炎、認知症など様々な全身疾患と関連することが科学的に明らかにされており、口腔ケアはこれらの重篤な疾病を予防する上で極めて重要です。
    • 客観的根拠:
      • 歯科専門職による口腔機能管理は、入院患者の誤嚥性肺炎の発症率を低下させ、在院日数を短縮させる効果が報告されています。
        • (出典)厚生労働省「(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000936327.pdf)」令和4年度
生涯にわたる医療費負担の軽減
  • 幼少期からの予防習慣の定着や定期的な歯科検診の受診は、将来的に必要となるであろう高額な歯科治療費や、関連する全身疾患の医療費を抑制する効果があります。

地域社会にとっての意義

健康寿命の延伸
  • 地域住民の口腔機能が維持されることは、フレイルやサルコペニア(筋肉減少症)の予防につながり、自立して生活できる期間、すなわち健康寿命の延伸に直結します。
    • 客観的根拠:
      • オーラルフレイル(口腔機能の虚弱)の状態にある高齢者は、そうでない高齢者と比較して、身体的フレイルの発生リスクが2.4倍、要介護認定の発生リスクが2.35倍、総死亡リスクが2.09倍高いことが報告されています。
社会保障給付費(医療・介護)の抑制
  • 歯科保健への投資は、将来の医療費や介護給付費を抑制する効果的な先行投資です。特に誤嚥性肺炎予防や低栄養改善による効果は、地域全体の財政負担を軽減します。
健康格差の是正
  • 行政が主体となって歯科検診や保健指導の機会を提供することは、経済状況や地理的条件によらず、全ての住民が等しく質の高い歯科保健サービスへアクセスできる環境を整備し、健康格差の是正に貢献します。

行政にとっての意義

持続可能な社会保障制度の構築
  • 予防歯科の推進は、疾病の重症化を防ぎ、将来の医療需要をコントロールすることで、社会保障制度の持続可能性を高めるための重要な戦略です。
    • 客観的根拠:
      • 日本の歯科診療医療費は令和4年度で約3兆2,275億円に達しており、高齢化の進展に伴い今後も増加が見込まれるため、予防による費用抑制は喫緊の課題です。
EBPM(証拠に基づく政策立案)の実践
  • 歯科保健分野は、検診受診率や疾患有病率など、施策の効果を測定しやすい客観的データが豊富に存在し、EBPMを実践・推進するモデルケースとなり得ます。
    • 客観的根拠:
住民の行政への信頼向上
  • 住民の健康増進という目に見える成果をもたらす歯科保健施策は、行政サービスの価値を住民に実感させ、行政への信頼感を醸成することにつながります。

(参考)歴史・経過

1980年代
  • 昭和62年(1987年)、神奈川県厚木市で開かれたワークショップにて、80歳で喪失歯を10本までとする「8010運動」が提唱されました。
1989年(平成元年)
  • 厚生省(当時)と日本歯科医師会が、「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」という「8020運動」を提唱し、国民的な歯科保健運動として本格的にスタートしました。
1990年代
  • 平成3年(1991年)に国の予算事業として普及啓発が開始され、全国のモデル地区で成人歯科保健対策が進められました。
2000年代
  • 平成15年(2003年)施行の健康増進法に基づく「健康日本21」に8020達成率が目標として盛り込まれ、国の健康政策の柱の一つに位置づけられました。
  • 平成17年(2005年)の調査で、8020達成者率が初めて20%を超えました(実績値25%)。
2010年代
  • 平成23年(2011年)に「歯科口腔保健の推進に関する法律」が施行され、施策推進の法的基盤が整備されました。
  • 8020達成者率は飛躍的に向上し、平成23年(2011年)調査で40%超、平成28年(2016年)調査で50%超を達成しました。
2020年代
  • 「国民皆歯科健診」の実現が政府方針に盛り込まれ、生涯を通じた切れ目のない歯科健診体制の構築が目指されるようになりました。
  • 令和5年(2023年)には「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」が全面改正され、8020達成者率の目標値が60%から85%へと大幅に引き上げられました。

歯科保健に関する現状データ

8020達成率は6割を突破、目標達成に向け加速
  • 令和6年に公表された最新の歯科疾患実態調査によると、80歳で20本以上の歯を有する者(8020達成者)の割合は推計値で61.5%に達しました。
  • これは、令和4年調査の51.6%から2年間で約10ポイントも上昇する驚異的な伸びであり、国民の口腔衛生意識の向上と長年の歯科保健施策の成果が結実していることを示しています。
歯科検診受診率も過去最高を更新
  • 過去1年間に歯科検診を受診した者の割合は63.8%となり、初めて6割を超えました。
  • 令和4年調査の58.0%、令和5年国民健康・栄養調査の58.8%から着実に増加しており、「治療から予防へ」という意識が国民に浸透しつつあることがうかがえます。
若年層のう蝕は激減する一方、成人期の未処置歯が課題
  • 5~14歳の未処置う蝕有病率はそれぞれ1.4%、2.9%と極めて低い水準にあり、学校歯科保健の成果が顕著です。
  • しかし、15~29歳になると22.3%へと急増し、学校卒業後の「ケアの谷間」が存在することを示唆しています。
  • 特に男性は女性より未処置う蝕有病率が高い傾向があり、50~54歳では男性44.1%に対し女性22.3%と2倍近い差が見られます。
歯周病は依然として国民病、高齢層で高い有病率
  • 歯周ポケット(4mm以上)を有する者の割合は、令和4年調査で全体で47.9%と、依然として高い水準にあります。
  • 特に高齢層で割合が高く、65~74歳で56.2%、75歳以上で56.0%となっており、歯の喪失の最大原因である歯周病対策が、健康寿命延伸の鍵を握っています。
東京都の学齢期は全国トップレベルの口腔健康状態
  • 東京都の12歳児の一人平均う歯数(DMFT指数)は0.68本(令和2年度)と、全国平均と比較しても低い水準を維持しています。
  • 小学校でのむし歯被患率は37.11%、中学校では33.28%であり、経年的に減少傾向が続いています。これは、特別区を含む都内自治体の学校歯科保健活動が高いレベルにあることを示しています。

課題

住民の課題

就労世代における低い歯科検診受診率
  • 毎日多忙な就労世代は、自覚症状がない限り歯科医院から足が遠のきがちで、これが成人期以降の口腔環境悪化の主因となっています。
    • 客観的根拠:
      • 厚生労働省「令和4年歯科疾患実態調査」によると、過去1年間の歯科検診受診率は、30代から50代前半にかけて全体の平均(58%)を下回っており、特に男性でその傾向が顕著です。
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 歯周病が静かに進行し、40代以降に急速な歯の喪失を招くことで、将来的なQOLの低下と医療費増大に直結します。
オーラルフレイルの進行と認識不足
  • 高齢期における「食べこぼし」「むせ」「滑舌の低下」といった口腔機能のささいな衰え(オーラルフレイル)が、全身の虚弱(フレイル)の入口となっていることへの認識が、住民・医療介護関係者ともにまだ十分ではありません。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 低栄養やサルコペニア(筋肉減少症)を招き、要介護状態への移行を早め、個人の尊厳を損なうとともに社会全体の介護負担を増大させます。
経済的理由による受診抑制と健康格差
  • 歯科治療は保険適用外の選択肢も多く、経済的な負担感から必要な治療を先送りしたり、予防のための定期受診をためらったりする住民が少なくありません。
    • 客観的根拠:
      • JAGESプロジェクトの調査では、所得や資産が少ない高齢者ほど定期的な歯科受診率が低いことが示されており、経済格差が口腔健康格差に直結している実態が明らかになっています。
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 治療可能な疾患が重症化し、結果としてより高額な医療費や歯の喪失という回復困難な事態を招き、貧困と健康悪化の負のスパイラルに陥ります。

地域社会の課題

在宅・施設等での歯科医療提供体制の不足
  • 寝たきりや認知症などにより通院が困難な高齢者が急増する中、訪問歯科診療や施設での口腔ケアを担う専門職の確保と連携体制の構築が追いついていません。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 口腔衛生状態の悪い要介護高齢者が増加し、誤嚥性肺炎のまん延や地域全体の医療・介護費用の高騰を招きます。
医科歯科連携の不備による機会損失
  • がん治療、糖尿病管理、脳血管疾患後のリハビリなど、医科の治療効果を最大化し、副作用を軽減するために口腔管理が不可欠であるにもかかわらず、日常的な医科歯科連携はまだ限定的です。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 本来防ぎ得た術後合併症や生活習慣病の悪化が発生し、患者の身体的苦痛が増すだけでなく、不要な医療費が社会全体の負担となります。

行政の課題

ライフステージの切れ目における支援の断絶
  • 手厚い学校歯科保健によって達成された良好な口腔健康状態が、卒業・就職を機に途切れ、就労期に悪化し、高齢期に再び行政サービスの対象となるという「支援の谷間」が存在します。
    • 客観的根拠:
      • 未処置う蝕有病率は、10~14歳の2.9%から15~29歳で22.3%へと約7.7倍に急増しており、この時期に予防習慣が失われていることが明確に示されています。
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 幼少期に投じた公衆衛生リソースの効果が成人期に失われ、非効率な行政運営と将来の医療費増大を招きます。
事業所歯科健診の未整備と推進の遅れ
  • 労働安全衛生法で一般的な健康診断が義務付けられているのに対し、歯科健診は努力義務に留まっており、特に中小企業ではほとんど実施されていません。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 労働者の健康悪化による生産性の低下(プレゼンティーズム)や、将来の医療費増大という形で、地域経済全体に負の影響を及ぼします。
データに基づいたハイリスク者へのアプローチ不足
  • 国民健康保険のレセプトや健診データを保有しているにもかかわらず、歯科疾患の重症化リスクが高い住民を特定し、予防的に介入するデータヘルス事業が十分に展開されていません。
    • 客観的根拠:
      • 各特別区でデータヘルス計画は策定されているものの、糖尿病患者の歯周病管理など、医科歯科連携を前提とした具体的なハイリスクアプローチの実施事例はまだ多くありません。
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 予防可能な重症化を見過ごし、結果として高額な医療費の発生を許容することになり、保険財政の圧迫につながります。

行政の支援策と優先度の検討

優先順位の考え方

  • 各支援策の優先順位は、以下の要素を総合的に勘案し決定します。
    • 即効性・波及効果:
      • 施策の実施から効果発現までの期間が短く、歯科保健だけでなく全身の健康や医療費適正化など、複数の課題解決に貢献する施策を高く評価します。
    • 実現可能性:
      • 現行の法制度や予算、人員体制の中で、地域の関係機関(歯科医師会等)との協力も得ながら、着実に実行可能な施策を優先します。
    • 費用対効果:
      • 投下する予算や人員に対して、将来的な医療費・介護費の削減効果や、住民の生産性向上といった便益が大きい施策を優先します。
    • 公平性・持続可能性:
      • 特定の年齢層や地域だけでなく、全ての住民に恩恵が及び、一過性でなく長期的に継続できる制度設計となっている施策を高く評価します。
    • 客観的根拠の有無:
      • 国の白書や学術研究等で有効性や費用対効果が実証されており、先進自治体での成功事例がある施策を重視します。

支援策の全体像と優先順位

  • 課題分析の結果、特別区の歯科保健行政が直面する核心的な問題は、「ライフステージ間の切れ目」「社会的アクセス障壁」「データ活用の遅れ」の3点に集約されます。これらの課題を克服するため、以下の3つの支援策を相互連携させながら、統合的に推進する必要があります。
    • 優先度【高】:支援策① ライフステージに応じた切れ目のない予防歯科の推進
      • 全ての住民の生涯にわたる健康の基盤を築く最も根源的な施策です。特に、課題の震源地である就労世代への介入は、将来の医療・介護費を抑制する上で最も費用対効果が高く、最優先で取り組むべきです。
    • 優先度【中】:支援策② 社会的脆弱層へのアクセス向上と健康格差の是正
      • 公平性の観点から極めて重要であり、放置すれば深刻な健康格差と社会全体のコスト増大を招くため、次いで優先すべき施策です。地域包括ケアシステムの深化にも不可欠です。
    • 優先度【低】:支援策③ データヘルスと官民連携による歯科保健基盤の強化
      • 上記2つの施策を科学的根拠に基づき、効率的かつ持続可能に実施するためのインフラ整備に位置づけられます。即効性は低いものの、中長期的な政策の質を担保するために不可欠な土台となります。

各支援策の詳細

支援策①:ライフステージに応じた切れ目のない予防歯科の推進

目的
  • 学齢期に獲得した良好な歯科保健習慣を成人期以降も維持・向上させ、生涯を通じた健康の保持増進を図ります。
  • 特に歯科保健サービスから遠ざかりがちな就労世代へのアプローチを強化し、「予防の谷間」を解消します。
    • 客観的根拠:
主な取組①:事業所歯科健診の導入支援と受診率向上策
  • 区内の中小企業を対象に、歯科健診の導入・実施にかかる費用の一部を助成する制度を創設します。
  • 歯科医師会と連携し、事業所へ歯科医師・歯科衛生士を派遣する「出張健診モデル」を構築・提供します。
  • 健診受診を福利厚生として位置づけ、積極的に推進している企業を「健康経営・歯科推進企業」として認証し、区のウェブサイト等で公表します。
    • 客観的根拠:
      • 職域での歯科保健プログラムは、労働者の歯科・医科医療費を抑制する効果が報告されており、企業にとっても費用便益の高い投資となり得ます。
主な取組②:20歳・30歳代を対象とした節目歯科健診の創設
  • 学校卒業後、公的な健診機会がなくなる20歳および30歳の区民を対象に、歯周病検査を含む無料の歯科健診を実施します。
  • 国の歯周疾患検診対象年齢拡大(令和6年度~)と連動し、対象者へ受診券を個別送付するとともに、SNSや若者向け情報サイトを活用したデジタル広報を重点的に行います。
    • 客観的根拠:
      • 未処置う蝕有病率は15~29歳で急増しており、この年代での早期発見・早期介入が将来の口腔健康を大きく左右します。
主な取組③:「かかりつけ歯科医」普及啓発キャンペーン
  • 「痛くなってから行く場所」から「悪くならないために行く場所」へと、歯科医院に対する意識変革を促すキャンペーンを区報やデジタルサイネージ等で展開します。
  • 区内歯科医師会と連携し、各歯科医院が提供する予防メニュー(PMTC、フッ化物塗布等)や相談体制を「見える化」したポータルサイトを構築します。
    • 客観的根拠:
      • 歯周病等の重症化を防ぎ、8020を達成するためには、定期的なプロフェッショナルケアが不可欠であり、その受け皿となるかかりつけ歯科医の定着が重要です。
        • (出典)公益財団法人8020推進財団「8020運動とは」令和6年度
主な取組④:学校におけるフッ化物洗口の推進支援
  • 区内の公立小中学校におけるフッ化物洗口の実施率100%を目指し、未実施校に対し、導入準備(保護者説明会の開催、資材提供等)を区と歯科医師会が全面的に支援します。
  • 実施校のう蝕罹患状況データを経年的に分析し、その予防効果を客観的なデータとして全校にフィードバックすることで、未実施校の合意形成を後押しします。
    • 客観的根拠:
      • 集団でのフッ化物洗口は、う蝕予防効果が高く、費用対効果にも優れた公衆衛生手法であることが確立されています。新潟県の事例では、高い費用便益比(1.84~2.42)が報告されています。
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 40歳代における28歯以上の現在歯を有する者の割合:80%以上
      • データ取得方法: 5年ごとに実施する区民歯科保健実態調査
  • KSI(成功要因指標)
    • 過去1年間の歯科検診受診率(30~59歳):70%
      • データ取得方法: 住民健康意識調査、国民健康保険特定健診データとのクロス集計
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 40歳代における進行した歯周病(4mm以上の歯周ポケット)を有する者の割合:対現状比20%減
      • データ取得方法: 区民歯科保健実態調査、節目歯科健診データ
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • 事業所歯科健診導入企業数:年間50社増
      • データ取得方法: 区の助成事業申請・実績報告の集計
    • 節目歯科健診受診者数:対象者の50%
      • データ取得方法: 健診実施医療機関からの実績報告の集計

支援策②:社会的脆弱層へのアクセス向上と健康格差の是正

目的
  • 通院困難な高齢者や障害者、経済的に困窮する住民など、歯科医療へのアクセスに障壁のある層への支援を強化し、口腔の健康格差を是正します。
  • オーラルフレイル予防を地域包括ケアシステムに位置づけ、多職種連携による包括的支援体制を構築します。
    • 客観的根拠:
      • 「歯科口腔保健の推進に関する法律」では、障害者や要介護者等への歯科医療提供体制の整備が、国および地方公共団体の責務として明記されています。
主な取組①:訪問歯科診療の連携拠点機能強化
  • 地域の歯科医師会、ケアマネジャー連絡会、地域包括支援センターが参画する「在宅歯科医療連携協議会」を設置し、情報共有と事例検討を定期的に行います。
  • ケアマネジャーや介護職員が、担当利用者の口腔内の問題を気軽に相談できる歯科衛生士による専門相談窓口を設置します。
  • 住民向けに、訪問歯科診療の具体的なサービス内容、費用、申込方法をまとめた動画コンテンツを作成し、区のウェブサイトや介護事業者向け研修で活用します。
    • 客観的根拠:
      • 専門職による在宅口腔ケアは、要介護高齢者の誤嚥性肺炎による死亡リスクを低減させる効果(リスク比0.43)が示されており、生命予後を改善する重要な介入です。
主な取組②:オーラルフレイル予防の多職種連携プログラム
  • 高齢者が集まる地域の通いの場や介護予防教室において、歯科衛生士、管理栄養士、理学療法士等が連携し、「食・栄養・運動・口腔」を一体的に支援するプログラムを実施します。
  • 東京都健康長寿医療センター研究所が開発した簡易チェックリストを活用し、住民自身によるセルフチェックと早期の気づきを促します。
    • 客観的根拠:
      • オーラルフレイルは早期の適切な対応により健康な状態に回復可能(可逆的)です。栄養指導や口腔機能訓練を含む複合的な介入が有効とされています。
主な取組③:障害者(児)歯科診療ネットワークの構築
  • 地域の歯科医師会と協力し、障害特性に応じた診療が可能な歯科医療機関をリスト化し、「障害者歯科協力医」として区が認定・公表します。
  • 協力医に対し、行動調整や鎮静法などに関する専門研修の受講費用を助成するとともに、診療に必要な機材(車椅子用レントゲン等)の導入を支援します。
  • 特別支援学校や障害者施設での定期歯科検診と口腔保健指導を、学校保健安全法・労働安全衛生法に準ずる必須事業として位置づけ、区が実施を保証します。
    • 客観的根拠:
主な取組④:国民健康保険被保険者への歯科健診無償化と受診勧奨
  • 国民健康保険に加入する40歳から74歳までの全被保険者を対象に、自己負担なしで受診できる歯周病検診を実施します。
  • 特定健診の結果、血糖値が高い(HbA1c 6.5%以上)被保険者に対し、糖尿病と歯周病の関連性を説明し、歯科受診を強く推奨する個別通知を送付します。
    • 客観的根拠:
      • 経済的負担は受診の大きな障壁であり、無償化は受診率向上に直結します。特に糖尿病患者にとって歯周病管理は血糖コントロールにも影響するため、医科歯科連携による受診勧奨は極めて重要です。
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 75歳以上の要介護認定者の肺炎による入院率:対現状比10%減
      • データ取得方法: 国民健康保険・後期高齢者医療レセプトデータの分析
  • KSI(成功要因指標)
    • 在宅療養者(要介護3以上)における訪問歯科診療利用率:50%
      • データ取得方法: 介護保険・医療保険レセプトデータの分析
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • オーラルフレイル該当者の割合(75歳以上):対現状比15%減
      • データ取得方法: 高齢者実態調査における口腔機能に関する質問項目の追加・集計
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • 訪問歯科診療の新規利用者数:年間300人増
      • データ取得方法: 在宅歯科医療連携窓口の受付・実績データの集計
    • オーラルフレイル予防教室の参加延べ人数:年間5,000人
      • データ取得方法: 各教室の実施報告の集計

支援策③:データヘルスと官民連携による歯科保健基盤の強化

目的
  • 健診やレセプト等のデータを活用し、地域の歯科保健課題を正確に把握し、科学的根拠に基づく効果的な施策立案(EBPM)を推進します。
  • 行政、歯科医師会、企業、大学等の多様な主体との連携を強化し、地域全体で歯科保健を支える体制を構築します。
    • 客観的根拠:
      • データヘルス計画は、保険者がレセプト・健診情報等のデータ分析に基づき、PDCAサイクルで効果的・効率的な保健事業を実践するための計画として国が推進しています。
主な取組①:歯科分野におけるデータヘルス計画の高度化
  • 区の国民健康保険データヘルス計画において、「歯周病重症化予防」を重点課題として明確に位置づけ、具体的な目標値(KPI)を設定します。
  • レセプトデータから「糖尿病で治療中だが、過去2年間歯科受診がない」等のハイリスク者を抽出し、かかりつけ医と連携して受診勧奨を行うプログラムを構築します。
  • 事業の効果を、対象者の歯科受診率、歯周病治療の実施率、さらには将来的な医療費の変化によって経年的に評価します。
    • 客観的根拠:
      • 品川区のデータヘルス計画では、糖尿病患者の歯科未受診者の減少を目標に掲げ、具体的な受診勧奨事業を計画しており、特別区における先進的な取り組みです。
主な取組②:周術期口腔機能管理における地域連携パスの導入
  • 地域の基幹病院、歯科医師会、区が三者協定を締結し、がん手術等の対象患者に対する「周術期口腔機能管理地域連携パス」を導入・運用します。
  • 病院の医科医師からパスを用いて地域の「かかりつけ歯科医」へ術前管理を依頼し、歯科医は実施内容をパスに記入して病院へ返送。術後は再びかかりつけ歯科医が継続管理するという円滑な情報共有と役割分担の仕組みを構築します。
    • 客観的根拠:
主な取組③:歯科保健に関する普及啓発の官民連携
  • 区内の鉄道会社やバス会社と連携し、交通広告や駅構内のデジタルサイネージを活用した歯科健診の受診勧奨キャンペーンを実施します。
  • オーラルケア製品メーカー等と協働し、区民まつり等のイベントで、最新のセルフケア製品のサンプリングと専門家によるブラッシング指導を組み合わせた体験型啓発ブースを出展します。
    • 客観的根拠:
      • 住民の行動変容を促すには、行政からの情報発信だけでなく、日常生活の様々な場面で繰り返し情報に接触する機会を創出することが有効です。
主な取組④:歯科衛生士・歯科技工士の人材確保・育成支援
  • 地域の歯科衛生士会に委託し、出産・育児等で離職した潜在歯科衛生士を対象とした復職支援研修(最新の知識・技術、訪問口腔ケアの実習等)を実施します。
  • 国の事業(1)と連携し、デジタル技術(CAD/CAM等)の導入による生産性向上を目指す歯科技工所に対し、設備投資費用の一部を助成する制度を検討します。
    • 客観的根拠:
      • 歯科医療の需要が治療から予防・管理へ、また外来から在宅へとシフトする中で、その担い手となる歯科衛生士の確保・育成は喫緊の課題です。国の令和7年度予算概算要求でも歯科専門職の確保が重点項目に挙げられています。
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 一人当たり歯科医療費の伸び率:同区の医科医療費の伸び率以下に抑制
      • データ取得方法: 国民健康保険・後期高齢者医療レセプトデータの経年分析
  • KSI(成功要因指標)
    • 歯周病ハイリスク者(糖尿病未受診者等)への保健指導実施率:対象者の60%
      • データ取得方法: データヘルス計画に基づく事業実績報告の集計
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 周術期口腔機能管理の実施による平均在院日数の短縮効果:-1.5日
      • データ取得方法: 連携病院から提供されるDPCデータの分析
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • 地域連携パスの運用件数:年間200件
      • データ取得方法: 連携病院および歯科医師会からの実績報告の集計
    • 官民連携による啓発イベントの開催回数:年間10回
      • データ取得方法: 事業実施報告の集計

先進事例

東京都特別区の先進事例

世田谷区「訪問口腔ケア推進事業」

  • ケアマネジャーからの相談を起点に、区の歯科衛生士が利用者の自宅を訪問して口腔状態をアセスメントし、必要に応じて地域の歯科医師会と連携して訪問歯科診療につなげる、多職種連携による切れ目のない支援体制を構築しています。
  • 成功要因は、相談の入口をケアマネジャーに一本化し、顔の見える関係を構築した点にあります。行政の専門職(歯科衛生士)がコーディネーター役を担うことで、医療と介護のスムーズな橋渡しを実現しています。

品川区「データヘルス計画に基づく歯科受診勧奨」

  • 国民健康保険のレセプトデータを詳細に分析し、糖尿病等の生活習慣病で医科にかかっているにもかかわらず、長期間歯科を受診していない重症化ハイリスク者を特定。対象者を絞り込み、個別通知による歯科受診勧奨を行っています。
  • 成功要因は、データに基づき介入の優先順位を明確にしたEBPMの実践にあります。医師会、歯科医師会、薬剤師会など関係機関と連携した評価委員会を設置し、事業のPDCAサイクルを回す体制を構築している点も特徴です。
    • 客観的根拠:
      • 計画では「糖尿病・心疾患患者の歯科未受診者の20%減少」といった具体的なアウトカム指標を設定しており、成果志向の事業運営を行っています。

大田区「ねたきり高齢者訪問歯科支援事業」

  • 昭和52年から続く先駆的な取り組みで、通院困難な寝たきり高齢者等からの相談に対し、まず区の歯科衛生士が家庭を訪問して状況を調査。その上で、地域の歯科医師会が調整役となり、訪問可能な協力歯科医を紹介する仕組みです。
  • 成功要因は、行政(区)と地域の専門職団体(歯科医師会)がそれぞれの役割を明確にし、長年にわたって円滑な連携体制を維持・発展させてきた点です。相談から実際の診療まで、一貫した支援の流れが確立されています。

全国自治体の先進事例

新潟県・新潟市「歯科保健推進条例に基づく総合的展開」

  • 平成20年に全国に先駆けて県が「歯科保健推進条例」を制定。これに基づき、県および市町村が具体的な歯科保健計画を策定し、ライフステージに応じた施策を体系的・継続的に実施しています。
  • 成功要因は、条例という強力な根拠を持つことで、首長の交代や財政状況に左右されない安定した施策展開を可能にした点です。学校でのフッ化物洗口の普及や、学校健診で要観察(CO)とされた児童をかかりつけ医につなげる「8020育成事業」など、科学的根拠に基づく具体的なプログラムが効果を上げています。
    • 客観的根拠:

豊田市「事業所と連携した歯科健診の推進」

  • 豊田市では、行政が実施する節目年齢の成人歯科健診に加え、地域の基幹産業であるトヨタ自動車の健康保険組合が、被保険者(15歳以上)を対象に費用無料の歯科健診(いい歯キャンペーン)を独自に実施しています。
  • 成功要因は、地域の多数の歯科医院と健保組合が直接契約を結ぶことで、従業員が勤務先や自宅の近くで気軽に健診を受けられる利便性の高い環境を整備した点です。健診後の治療移行もスムーズで、企業の健康経営と地域歯科医療の活性化を両立させています。
    • 客観的根拠:
      • 健診費用を健保組合が全額補助することで、経済的負担なく予防歯科にアクセスできる機会を提供し、就労世代の受診率向上に大きく貢献しています。

参考資料[エビデンス検索用]

まとめ

 東京都特別区における歯科保健施策は、8020運動の推進等により着実な成果を上げてきましたが、超高齢社会の進展と社会構造の変化に伴い、新たな局面を迎えています。就労世代における「予防の谷間」、高齢者の「オーラルフレイル」、そして通院困難者への「アクセスの障壁」という課題に対し、これまでのライフステージごとの分断されたアプローチから脱却し、生涯にわたる切れ目のない支援体制へと転換することが急務です。事業所歯科健診の推進、社会的脆弱層への包括的支援、そしてデータヘルスに基づく科学的政策運営を三位一体で進めることで、住民一人ひとりのQOL向上と、持続可能な社会保障制度の構築を両立させることが可能となります。
 本内容が皆様の政策立案等の一助となれば幸いです。
 引き続き、生成AIの動向も見ながら改善・更新して参ります。

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