新時代の地方公務員に求められるスキルセット

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目次
  1. はじめに
  2. 新時代の地方公務員に求められるスキルセット
  3. 「計画」:自治体の夢を描く総合計画
  4. 「予算」:政策を財政的に裏付ける技術
  5. 「契約」:公正性と経済性を両立させる入札制度
  6. 「会計」:財政の透明性を確保する新公会計制度
  7. 「説明責任」:住民と議会の信頼を得るためのコミュニケーション術
  8. 「未来」:生成AIの活用による行政サービスの革新
  9. まとめ:未来を担う職員へのエール

はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。

新時代の地方公務員に求められるスキルセット

変化する社会と公務員の役割

 現代の日本社会は、人口減少、少子高齢化、価値観の多様化、そして急速なデジタル化といった大きな変革の渦中にあります。このような時代において、地方公務員に求められる役割もまた、静的な管理者から動的な実践者へと大きく変化しています。かつてのように、定められた法令や前例に則って事務を執行するだけでは、複雑化・多様化する地域の課題に対応することは困難です。

 今、地方公務員には、単なる「行政官」ではなく、地域の未来を住民と共に創造する「地域運営のコーディネーター」としての役割が強く求められています
(出典)- 総務省「新たな時代に対応した地方公務員制度のあり方に関する研究会 報告書」2024年

 具体的には、以下のような多岐にわたる能力が必要不可欠です。

  • 多様な主体との連携・協働能力:
     住民、NPO、民間企業など、地域の様々な主体と対等なパートナーとして連携し、協働しながら課題解決に取り組む力です。行政だけでは解決できない問題に対して、多様な知見や資源を結集させるハブとしての機能が期待されます。
  • 住民視点での課題発見・解決能力:
     常に住民の立場に立ち、現場に足を運び、声なき声にも耳を傾けることで、真のニーズを的確に把握し、一人ひとりに寄り添った支援を企画・実行する力です。ユーザー視点で施策を考え、行動することが全ての基本となります。
    (出典)- 総務省「新たな時代に対応した地方公務員制度のあり方に関する研究会 報告書」2024年
  • デジタル技術の活用能力:
     AIやRPAといった先端技術を積極的に活用し、業務プロセスの見直しや行政サービスの質の向上を推進する力です。これにより、職員はより創造的な業務に集中できるようになり、住民の利便性も向上します。
  • 政策形成能力と創造性:
     前例踏襲に陥ることなく、社会経済情勢の変化を的確に捉え、新たな視点で課題解決に取り組む創造的な発想力と、それを具体的な政策として体系立てる能力です。
    (出典)- 総務省「地方公務員の人材育成に関する研究会報告書」1997年
  • プロフェッショナルとしての自己研鑽と挑戦する姿勢:
     常に自己研鑽に励み、専門知識を深め続けるプロ意識と、失敗を恐れずに困難な課題にも果敢に挑戦する姿勢が不可欠です。変化を恐れず、自ら積極的に行動を起こすことが、組織全体の活力を生み出します。
    (出典)- 総務省「新たな時代に対応した地方公務員制度のあり方に関する研究会 報告書」2024年

 これらの能力は、従来の行政事務スキルとは一線を画すものです。もはや公務員は、単にサービスを「管理・提供」する存在ではありません。地域の多様なステークホルダーを巻き込み、対話を通じて合意形成を図り、新たな価値を共に創り出す「コミュニティ・プロデューサー」へと、その役割を昇華させていくことが求められているのです。この役割転換は、予算や契約といった日々の業務遂行においても、常に意識されるべき基本姿勢となります。

本研修の目的と構成

 本研修資料は、こうした新時代の要請に応え、若手からベテランまで全ての地方自治体職員が、自身のスキルを体系的にアップデートし、日々の業務に自信と誇りを持って臨めるようになることを目的としています。

 本資料は、行政運営の根幹をなす「計画」「予算」「契約」「会計」という4つの実務スキルと、それら全ての土台となる「説明責任」、そして未来の行政を切り拓く「生成AIの活用」というテーマで構成されています。各章は独立した知識を提供するだけでなく、相互に連携し、政策の企画立案から実行、評価、そして住民への説明までの一連の行政サイクルを円滑に回すための、総合的な能力を涵養することを目指します。

 この研修を通じて、皆さんが直面するであろう様々な課題に対して、確かな知識と柔軟な思考、そして揺るぎない自信を持って立ち向かうための一助となれば幸いです。

「計画」:自治体の夢を描く総合計画

総合計画の意義と法的根拠

 総合計画は、自治体が目指すべき将来像と、その実現に向けた施策を総合的かつ体系的に示す、自治体経営における最上位の計画です。それは、自治体が描く「夢」や「ビジョン」を明文化したものであり、全ての個別計画や事業の指針となる羅針盤の役割を果たします。

 歴史的には、1969年の地方自治法改正により、市町村に対して基本構想の策定が義務付けられ、全国の自治体で総合計画の策定が進みました。しかし、国の地域主権改革の一環として、2011年(平成23年)の地方自治法改正により、基本構想の策定を義務付けていた同法第2条第4項の規定は削除されました。
(出典)- 西東京市「地方自治法の一部改正に伴う総合計画の策定について」2012年公益財団法人日本生産性本部「地方自治体の総合計画に関する調査研究報告書」

 この法改正は、総合計画の重要性が低下したことを意味するものではありません。むしろ、国の画一的な義務付けから脱し、各自治体が自らの意思と責任において、地域の実情に即した計画を策定することの重要性を浮き彫りにしました。法的な策定義務がなくなったにもかかわらず、調査によれば9割以上の団体が今後も総合計画を策定する意向を示しており、その根拠を地方自治法から自治基本条例や総合計画条例へと移行させています。
(出典)- 公益財団法人日本生産性本部「地方自治体の総合計画に関する調査研究報告書」

 これは、計画策定の根拠が「国の法律で決まっているから」という形式的な理由から、「私たちのまちの未来のために、住民の代表である議会の議決を経て、自らの条例で定める」という、より民主的で主体的な理由へと転換したことを示しています。したがって、職員は「なぜ我々の自治体にこの計画が必要なのか」という本質的な問いに対して、議会や住民に明確に説明できる能力が、これまで以上に求められるのです。

策定プロセスと住民参加

 総合計画の策定は、行政内部だけで完結するものではなく、そのプロセスにおいて多様な住民の意見を反映させることが極めて重要です。住民参加を確保することで、計画の実効性が高まり、完成した計画は「行政の計画」から「私たちのまちの計画」へと昇華します。

 一般的な策定プロセスは以下の通りです。

  1. 策定方針の決定と体制の構築:
     計画策定の目的、スケジュール、推進体制(審議会の設置など)を決定します。
  2. 現状分析と課題の整理:
     人口、産業、財政などの各種データを分析し、自治体の現状と将来予測を把握します。この段階で、住民アンケート調査などを実施し、住民が感じている課題やニーズを客観的に把握します。
  3. 住民意見の聴取:
     ワークショップ、タウンミーティング、パブリックコメントなど、多様な手法を用いて、幅広い層の住民から意見を聴取します。特に、特定のテーマについて住民同士が議論を深めるワークショップは、新たな気づきや協働のきっかけを生む有効な手法です。
    (出典)- 総務省「地域づくりのための話し合いの手法(ワークショップ)事例集」2024年
  4. 基本構想・基本計画の素案作成:
     現状分析と住民意見を踏まえ、計画の骨子となる素案を作成します。
  5. 審議会等での審議:
     学識経験者や住民代表などで構成される審議会で、素案について専門的・多角的な見地から審議を行います。
  6. 議会への提出と議決:
     審議会の答申等を踏まえて最終案をとりまとめ、条例に基づき議会に提出し、議決を得て計画が確定します。

基本構想・基本計画・実施計画の体系的理解

 総合計画は、一般的に「基本構想」「基本計画」「実施計画」の3層構造で構成されており、長期的な視点から具体的な事業へと段階的に落とし込まれていきます。
(出典)- 公益財団法人日本生産性本部「地方自治体の総合計画に関する調査研究報告書」

  • 基本構想 (Basic Concept):
    • 位置づけ:
       自治体の将来像やまちづくりの基本理念、目標を示す最上位の計画。
    • 計画期間:
       10年以上の長期にわたる場合が多い。
    • 内容:
       「緑豊かな文化都市」「誰もが安心して暮らせる健康長寿のまち」といった、自治体が目指す普遍的な価値や理想像を掲げます。
  • 基本計画 (Basic Plan):
    • 位置づけ:
       基本構想で示された将来像を実現するために、分野別の施策の大綱を体系的に示す中期的な計画。
    • 計画期間:
       5年から10年程度。
    • 内容:
       「子育て支援」「産業振興」「防災・安全」といった政策分野ごとに、現状と課題、施策の方向性、目標指標(KPI)などを具体的に定めます。
  • 実施計画 (Implementation Plan):
    • 位置づけ:
       基本計画に掲げられた施策を具体化するための、個別の事業計画。毎年度の予算編成の指針となります。
    • 計画期間:
       1年から3年程度で、ローリング方式(毎年度見直し)で策定されることが多い。
    • 内容:
       「〇〇保育所の整備事業」「△△商店街活性化補助金事業」といった具体的な事業名、事業内容、事業費、財源内訳などを明記します。

 この3層構造を理解することは、自らが担当する日々の業務が、自治体の長期的なビジョンのどの部分に貢献しているのかを意識し、目的意識を持って職務を遂行するために不可欠です。

「予算」:政策を財政的に裏付ける技術

予算の役割と地方財政の基本原則

 予算とは、単なるお金の計算書ではありません。それは、総合計画で描かれた自治体の「夢」やビジョンを、具体的な事業として実現するための財政的な裏付けであり、「政策の優先順位を数値で示したもの」と言えます。限られた財源をどの分野に重点的に配分するかを決定する予算編成プロセスは、自治体経営の根幹をなす極めて重要な意思決定過程です。

 地方自治体の予算は、地方自治法に定められたいくつかの基本原則に基づいて編成・執行されます。

  • 会計年度独立の原則:
     各会計年度(4月1日から翌年3月31日まで)の歳出は、その年度の歳入をもって賄わなければならないという原則です。これにより、各年度の財政責任が明確になります。
    (出典)- 総務省「地方公共団体の契約制度の概要」2023年
  • 総計予算主義の原則:
     一会計年度における一切の収入を歳入とし、一切の支出を歳出として、それぞれ予算に計上しなければならないという原則です。歳入と歳出を相殺して一部だけを計上する(純計予算)ことは認められず、財政の全体像を明確に把握することを目的としています。
    (出典)- 総務省「地方公共団体の契約制度の概要」2023年

予算編成プロセスの詳解(編成方針から議決まで)

 予算編成は、前年度の秋頃から始まり、翌年3月の議会議決まで、約半年にわたる緻密なプロセスを経て成立します。その権限と責任は地方自治法で明確に定められており、予算案を調製・提出する権限は首長に、そしてそれを審議し最終的に議決する権限は議会にあります。
(出典)- 裾野市「財政出前講座」

 一般的な予算編成のスケジュールと各段階における実務は以下の通りです。

  1. 9月〜11月:予算編成方針の策定と予算要求
    • 予算編成方針の策定:
       まず、首長が次年度の施政方針や国の経済見通し(骨太の方針など)を踏まえ、予算編成の全体的な方向性を示す「予算編成方針」を決定します。同時に、財政担当部署(財政課)が、地方税や地方交付税、国庫支出金などの歳入見積もりを行います。
    • 各部局による予算要求:
       各部局は、この予算編成方針に基づき、所管する事業について次年度に必要な経費を見積もり、事業の目的や効果を記述した「予算要求書」を作成し、財政課に提出します。新規事業はもちろん、既存の事業(継続事業)についても、その必要性や効果を改めて精査し、要求を行います。
  2. 12月〜1月:財政課による査定と復活要求
    • 財政課による査定:
       財政課は、各部局から提出された全ての予算要求を、歳入の見積もりと照らし合わせながら精査します。この過程を「査定」と呼びます。査定では、事業の優先順位、費用対効果、法令等との整合性などが厳しくチェックされ、要求額が削減(カット)されることも少なくありません。
    • ヒアリングと復活要求:
       財政課は、査定内容について各部局とヒアリングを行い、査定結果を伝えます。部局側は、査定に納得できない場合や、削減されると事業の実施が困難になる重要な経費について、その必要性を再度主張し、予算の復活を求める「復活要求(または復活折衝)」を行うことができます。
  3. 2月〜3月:首長査定、予算案の確定と議会議決
    • 首長査定と予算案の確定:
       復活要求が出された案件など、部局と財政課の間で調整がつかない事項については、最終的に首長が判断を下します(首長査定)。全ての査定が完了すると、次年度の予算案が一つの文書としてとりまとめられ、確定します。
    • 議会への提出と議決:
       首長は、確定した予算案を、年度開始前に議会に提出しなければなりません(地方自治法第211条)。議会では、予算特別委員会などで詳細な審議が行われ、最終的に本会議で採決され、可決されることで正式に予算として成立します。
      (出典)- 裾野市「財政出前講座」

当初予算・補正予算・暫定予算の実務

 自治体の予算には、編成される時期や目的に応じていくつかの種類があります。

  • 当初予算 (Initial Budget):
    • 概要:
       一会計年度(4月1日から翌年3月31日まで)の全ての歳入・歳出を網羅した、その年度の基本となる予算です。通常、2月または3月の定例議会で審議・議決されます。
  • 補正予算 (Supplementary Budget):
    • 概要:
       当初予算の成立後に発生した、予測できなかった事態(大規模な自然災害への対応、国の経済対策への連動、法律改正に伴う新たな経費など)に対応するため、年度の途中で当初予算の内容を修正(増額または減額)する予算です。地方自治法第218条に基づき、必要に応じて定例議会や臨時議会に提出されます。
  • 暫定予算 (Provisional Budget):
    • 概要:
       何らかの理由で、年度開始前(3月31日まで)に当初予算が成立しない見込みの場合に、新年度開始後の一定期間(通常1〜3ヶ月)の必要最小限の経費(人件費や光熱水費などの義務的経費)について編成される、つなぎの予算です。暫定予算も議会の議決が必要であり、当初予算が成立した時点でその効力を失い、暫定予算に基づく支出は当初予算に吸収されます。

「契約」:公正性と経済性を両立させる入札制度

地方自治法における契約事務の原則

 自治体が行う売買、貸借、請負その他の契約は、税金という公金を用いて行われるため、その手続きには極めて高い公正性、競争性、経済性、透明性が求められます。この要請に応えるため、地方自治法第234条は、契約方法の原則を明確に定めています。

 その大原則は「一般競争入札」です。
(出典)- 総務省「地方公共団体の契約制度の概要」2023年福島県「地方自治法における契約制度の概要」

 一般競争入札とは、契約に関する情報を広く公告し、参加を希望する不特定多数の事業者を競争させ、自治体にとって最も有利な条件(通常は最も低い価格)を提示した者と契約を締結する方法です。この方法は、特定の業者への利益誘導を防ぎ、機会均等を保障する上で最も優れた方式であるとされています。
(出典)- 国土交通省「公共調達における基本的な枠組みについて」

 一方で、指名競争入札や随意契約といった他の契約方法は、あくまで例外的な位置づけであり、地方自治法施行令で定められた特定の要件に該当する場合にのみ、採用することが許されています。
(出典)- 福島県「地方自治法における契約制度の概要」

一般競争入札、指名競争入札、随意契約の詳解

 契約事務を担当する職員は、これら3つの契約方法の特性と、それぞれの適用条件を正確に理解しておく必要があります。安易な判断で例外的な方法を選択することは、法令違反や住民からの信頼失墜につながるリスクを伴います。

 以下に、各契約方法の概要と法的根拠、適用ケースを整理します。

契約方法法的根拠概要適用ケース(地方自治法施行令の規定に基づく)金額の目安(一般競争入札が通常必要となるライン)
一般競争入札地方自治法 第234条第1項原則となる契約方法。広く公告し、不特定多数の参加者による競争で契約相手を決定する。随意契約または指名競争入札の要件に該当しない、全ての契約。工事・製造: 都道府県・指定都市 250万円超、市町村 130万円超 – 物品購入: 都道府県・指定都市 300万円超、市町村 150万円超 – 役務(サービス): 都道府県・指定都市 200万円超、市町村 100万円超
指名競争入札地方自治法 第234条第2項 地方自治法施行令 第167条自治体があらかじめ指名した複数の事業者間で競争させる方法。① 契約の性質又は目的が一般競争入札に適しない場合 ② 競争参加者の数が少なく、一般競争入札に付する必要がない場合 ③ 一般競争入札に付することが不利と認められる場合上記の一般競争入札の金額以下で、かつ①〜③のいずれかに該当する場合に検討される。
随意契約地方自治法 第234条第2項 地方自治法施行令 第167条の2競争入札によらず、特定の事業者を選んで契約する方法。最も例外的な方法。① 予定価格が少額な場合(例:工事130万円以下、物品購入50万円以下など) ② 契約の性質・目的が競争に適さない場合(例:特定の者しか履行できない契約) ③ 緊急の必要により競争入札に付することができない場合(例:災害復旧) ④ 競争入札に付することが不利と認められる場合 ⑤ 競争入札で入札者がない、または落札者がない場合 など上記の①〜⑤などの法定の要件に厳密に合致する場合のみ適用可能。

(出典)- 総務省「地方公共団体の契約制度の概要」2023年福島県「地方自治法における契約制度の概要」を基に作成。

実務上の留意点と不正防止

 契約事務を適正に執行するためには、法令の知識だけでなく、実務上の細かな点にも注意を払う必要があります。

  • 仕様書の作成:
     契約の目的を達成するために必要な性能や品質を、過不足なく、かつ特定の業者に有利にならないように公平・中立に記述することが重要です。曖昧な仕様書は、後のトラブルの原因となります。
  • 予定価格の積算:
     契約の基準となる予定価格は、市場の実勢価格や過去の契約実績などを基に、客観的かつ合理的に積算しなければなりません。不当に高く、あるいは低く設定することは許されません。
  • 入札・開札の執行:
     入札から開札に至るプロセスは、定められた手続きに則って厳格に行い、その過程の透明性を確保することが求められます。
  • 検査・監督:
     契約が締結された後も、納品された物品や完成した工事が、仕様書通りに履行されているかを厳しく検査・監督する責任があります。

 これらの契約事務全般にわたる詳細な実務知識については、専門のハンドブックなどを活用し、常に最新の法令や判例を学び続ける姿勢が不可欠です。職員一人ひとりが高い倫理観を持ち、適正な手続きを遵守することが、官製談合などの不正行為を防止し、行政への信頼を守るための最後の砦となります。

「会計」:財政の透明性を確保する新公会計制度

「統一的な基準」による地方公会計の目的

 これまで地方自治体の会計は、予算が適正に執行されたかを現金収支の観点から記録する「現金主義・単式簿記」が主流でした。これは予算統制には優れていますが、企業の会計基準とは異なり、資産や負債の全体像(ストック情報)や、減価償却費のような現金支出を伴わないコスト(フルコスト情報)を把握しにくいという課題がありました(出典)- 総務省「今後の地方公会計のあり方に関する研究会報告書」2024年

 そこで、総務省は2015年(平成27年)に「統一的な基準による地方公会計マニュアル」を示し、全ての地方公共団体に対して、企業会計的な手法である「発生主義・複式簿記」に基づく財務書類を作成するよう要請しました。
(出典)- 総務省「統一的な基準による地方公会計マニュアル」2015年

 この新しい公会計制度(新地方公会計制度)の主な目的は以下の通りです。

  1. 財政情報の「見える化」と説明責任の向上:
     資産、負債、コストといった財政情報を網羅的に把握し、住民や議会に対してより分かりやすく説明責任を果たすこと。
    (出典)- 総務省「今後の地方公会計のあり方に関する研究会報告書」2024年
  2. 財政マネジメントの強化:
     フルコスト情報を基に、事業評価や行政評価、予算編成を行うことで、より効率的で効果的な行財政運営を目指すこと。
    (出典)- 千代田町「統一的な基準による地方公会計」
  3. 団体間の比較可能性の確保:
     全ての団体が同じ基準で財務書類を作成することにより、他の自治体との財政状況の比較分析が可能となり、自団体の立ち位置を客観的に把握すること。
    (出典)- 袖ケ浦市「統一的な基準による地方公会計制度の概要」

発生主義・複式簿記と財務書類4表の読み解き方

 新地方公会計制度を理解する上で鍵となるのが、「発生主義」と「複式簿記」です。

  • 発生主義 (Accrual Basis):
     現金の収入・支出があった時点ではなく、経済的な価値の変動(取引や事象)が発生した時点で費用や収益を認識する考え方です。これにより、まだ支払っていなくても支払義務が確定した費用(未払金)や、減価償却費などを計上することができます。
    (出典)- 総務省「今後の地方公会計のあり方に関する研究会報告書」2024年
  • 複式簿記 (Double-Entry Bookkeeping):
     一つの取引を、「原因」と「結果」など二つの側面から捉え、借方(左側)と貸方(右側)に同じ金額を記録する方法です。これにより、貸借対照表の「資産=負債+純資産」という等式が常に成り立ち、記録の正確性が担保されます。
    (出典)- 総務省「今後の地方公会計のあり方に関する研究会報告書」2024年

 この発生主義・複式簿記に基づいて作成されるのが、以下の「財務書類4表」です。

  1. 貸借対照表(バランスシート):
  2. 行政コスト計算書:
    • 内容:
       一会計年度の行政サービス(福祉、教育、ごみ処理など)に、人件費や物件費に加え、減価償却費などの現金支出を伴わないコストを含めて、総額でいくらかかったか(行政コスト)を示す計算書です。企業の「損益計算書」に相当し、自治体の「活動の成果」を表します。
      (出典)- 千葉県「令和4年度決算における財務書類(統一的な基準)の概要」2024年
  3. 純資産変動計算書:
  4. 資金収支計算書(キャッシュ・フロー計算書):
    • 内容:
       一会計年度における現金の流れ(キャッシュ・フロー)を、「業務活動」「投資活動」「財務活動」の3つの区分で表示する計算書です。どのような活動で現金が増減したのかを分析することができます。

固定資産台帳の整備とアセットマネジメントへの活用

 新地方公会計制度の導入と一体で進められるのが、「固定資産台帳」の整備です。これは、自治体が保有する全ての固定資産(土地、建物、道路、橋梁など)について、取得年月日、取得価額、耐用年数などの情報を網羅的に記録した台帳です。
(出典)- 袖ケ浦市「統一的な基準による地方公会計制度の概要」

 この固定資産台帳の整備は、単なる会計処理上の手続きにとどまりません。それは、自治体のインフラ資産を戦略的に管理する「公共施設アセットマネジメント」の根幹をなす、極めて重要な取り組みです。

 かつての会計制度では、自治体が保有する膨大な公共施設が「いつ、いくらで造られ、あと何年くらい使えるのか」という情報が体系的に管理されていませんでした。しかし、固定資産台帳が整備されることで、以下のことが可能になります。

  • 老朽化状況の可視化:
     各施設の築年数や耐用年数がデータ化されることで、どの施設がいつ頃更新時期を迎えるのか、将来の更新需要を客観的に予測できます。
  • 将来コストの推計:
     更新需要の予測に基づき、今後数十年間にわたって必要となる公共施設の維持・更新費用の総額を推計することができます。
  • 戦略的な優先順位付け:
     限られた財源の中で、全ての施設を更新することは不可能です。台帳データを基に、施設の重要度や利用状況、劣化度などを評価し、どの施設から優先的に更新・修繕・統廃合していくべきか、データに基づいた客観的な意思決定が可能になります。

 このように、会計制度の改革は、単なる経理部門の業務改善ではなく、将来の財政負担を見据えた持続可能なまちづくりを実現するための、全庁的な経営改革の土台となるのです。固定資産台帳から得られる客観的データは、公共施設の再編計画などを住民に説明する際の、強力な根拠となります。

「説明責任」:住民と議会の信頼を得るためのコミュニケーション術

なぜ説明責任(アカウンタビリティ)が重要なのか

 地方自治体の行政活動は、住民から負託された権限と、住民が納めた税金を財源として行われます。したがって、行政はその活動の目的、内容、成果、そして意思決定のプロセスについて、主権者である住民およびその代表である議会に対して、分かりやすく説明する責任を負っています。この責任を「説明責任(アカウンタビリティ)」と呼びます。
(出典)- 留萌市「(仮称)留萌市自治基本条例(素案)逐条解説」徳島市「徳島市コンプライアンス基本方針」

 地方分権が進展し、自治体の自己決定権が拡大する中で、この説明責任の重要性はますます高まっています。住民や議会からの信頼は、円滑な行政運営の基盤です。説明責任を果たすことは、単なる義務ではなく、住民との協働関係を築き、行政への理解と協力を得るための最も重要なコミュニケーション活動なのです。
(出典)- 公益財団法人東京財団政策研究所「議会は住民への説明責任を果たせ」2014年

 しかし、行政活動は多様な利害関係者の中にあり、全ての人が満足する完璧な正解は存在しないことが常です。どのような優れた政策であっても、必ず何らかの批判は伴うものと覚悟する必要があります。重要なのは、そうした批判に直面した際に、なぜその判断が最善であると考えるのかを、論理的かつ誠実に説明しきれるかどうかなのです。

「客観的根拠に基づくロジック」の構築手法

 あらゆる立場からの質問や批判に耐えうる、説得力の高い説明を行うためには、担当者の主観や思い込みではなく、「客観的根拠(エビデンス)」に基づいた強固なロジックを構築することが不可欠です。そのロジックは、「マクロ(社会経済状況)」と「ミクロ(現場)」の両方の視点から情報を収集し、それらを統合することで、より強固なものとなります。

マクロ(社会経済状況)の視点:国の白書・統計データの活用

 政策の妥当性を主張するためには、まず、より大きな視点、すなわち国全体の社会経済の動向や、他の自治体との比較における自団体の立ち位置を把握することが重要です。これにより、個別の政策が場当たり的なものではなく、大きな潮流を踏まえたものであることを示すことができます。

ミクロ(現場)の視点:多様な住民意見の把握と分析

 マクロな視点だけでは、現場の実情から乖離した「机上の空論」になりかねません。ロジックに血を通わせ、住民の納得感を得るためには、現場の「生の声」、すなわちミクロな情報の収集が不可欠です。内部管理部門の職員であっても、事業部門が把握している現場の状況を最大限尊重する姿勢が求められます。

EBPM(証拠に基づく政策立案)の基本と実践

 このようにして集めたマクロとミクロの情報を、政策立案に体系的に活用する手法が「EBPM(Evidence-Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)」です。EBPMは、勘や経験、場当たり的なエピソードに頼るのではなく、客観的なデータ(エビデンス)を用いて政策の効果を最大化することを目指すアプローチです。

 EBPMを実践する上では、「ロジックモデル」というツールが非常に有効です。ロジックモデルとは、政策がどのようなプロセス(ロジック)を経て成果(アウトカム)に結びつくのかを、投入(インプット)→活動(アクティビティ)→産出物(アウトプット)→成果(アウトカム)という一連の流れで図式化したものです。

 例えば、「高齢者の健康寿命延伸」という政策を考える際、単に「健康教室を開催する」というだけでなく、ロジックモデルを用いて以下のように整理します。

  1. インプット(投入):
     予算、職員、会場
  2. アクティビティ(活動):
     健康教室の企画・運営
  3. アウトプット(産出物):
     教室の開催回数、参加者数
  4. アウトカム(成果):
    • 短期的 :参加者の健康知識の向上、運動習慣の定着
    • 中長期的:要介護認定率の低下、健康寿命の延伸

 このモデルを作成する過程で、「本当に健康教室への参加が運動習慣の定着につながるのか?」「その裏付けとなるデータはあるか?」といった問いが生まれ、政策の論理的なつながりを客観的なエビデンスで裏付けていく作業が可能になります。マクロとミクロの情報を統合し、このような強固なロジックを構築することで、説明の説得力は飛躍的に高まります。

「行政意図(ストーリー)」の構築と伝達

データだけでは伝わらない「なぜ」を語る

 客観的なデータと論理的な正しさは、説明責任の必要条件ですが、十分条件ではありません。人々は、数字や理屈だけで心を動かされるわけではないからです。より多くの住民や関係者の深い理解と共感を得るためには、構築したロジックに血肉を与え、共感を呼ぶ「行政意図(ストーリー)」として語ることが重要です。

 ストーリーとは、単なる事実の羅列ではありません。「何が課題で(背景)、私たちはどこを目指していて(ビジョン)、そのためにどのような挑戦をし(施策)、その結果として地域はどのように良くなるのか(未来像)」という、一貫した物語です。この物語は、政策の背景にある行政の「想い」や「価値観」を伝え、住民が政策を「自分ごと」として捉える手助けをします。客観的なデータ(What)に、共感を呼ぶストーリー(Why)が加わることで、説明は初めて人々の心に届くのです。

ケーススタディ:住民説明会における効果的なプレゼンテーション

 住民説明会は、行政意図(ストーリー)を直接住民に伝える重要な機会です。効果的なプレゼンテーションを行うためには、以下の点を意識することが求められます。

  • 構成の基本(導入・本論・結論):
     聴衆の関心を引きつける「導入」、データとストーリーを交えて分かりやすく説明する「本論」、そして最も伝えたいメッセージを要約して締めくくる「結論」という、明確な構成で組み立てます。
  • 聴衆分析:
     参加者は誰で、どのような関心や不安を持っているのかを事前に分析し、それに合わせた言葉遣いや説明の重点を考えます。
  • 視覚資料(スライド)の工夫:
    • 文字は大きく、少なく:
       スライドの文字は、キーワードや要点に絞り、読みやすい大きなフォントサイズ(本文でも20pt以上)を心がけます。文字だらけのスライドは、聴衆の集中力を削ぎます。
    • 専門用語を避ける:
       行政内部でしか通用しない専門用語や略語は避け、誰にでも分かる平易な言葉で説明します。
      (出典)- 文化庁「「分かり合うための言葉」について(報告)」2020年
    • 図や写真、グラフを活用する:
       視覚的な情報を効果的に使い、直感的な理解を促します。
  • 誠実な対話姿勢:
     一方的に説明するだけでなく、質疑応答の時間を十分に確保し、どのような意見や質問に対しても、真摯に耳を傾け、誠実に応答する姿勢が信頼を築きます。

「未来」:生成AIの活用による行政サービスの革新

自治体業務における生成AIの活用可能性

 生成AI(Generative AI)は、文章作成、要約、アイデア出し、コード生成など、人間の知的作業を支援・代替する能力を持つ革新的なテクノロジーです。地方自治体においても、その活用は、単なる業務効率化にとどまらず、行政サービスのあり方を根本から変革する大きな可能性を秘めています。

 既に多くの自治体で生成AIの導入が進んでおり、総務省の調査によれば、令和5年12月末時点で都道府県の51.1%、指定都市の40.0%が導入済みであり、その活用は急速に広がりつつあります。職員の発想次第で、その活用範囲は無限に広がります。

具体的な活用事例と導入効果

 生成AIは、既に様々な自治体業務の現場で具体的な成果を上げています。

  • AIコールセンター(ボイスボット)による住民対応の自動化・高度化:
    • 用途:
       ワクチン接種の予約受付、ごみ分別の問い合わせ、各種証明書の発行案内、税の納付勧奨、高齢者の安否確認(みまもりコール)など、定型的な電話対応をAIが自動で行います。
    • 効果:
       24時間365日対応が可能となり、住民の利便性が向上します。また、職員はより複雑で専門的な相談業務に集中でき、特に督促業務など精神的負担の大きい業務を自動化することで、職員のストレス軽減にもつながります。大阪府守口市では、チャットボットとAI電話の併用で電話相談件数が約15%減少したという報告もあります。
  • 会議録・相談記録の自動文字起こし・要約:
  • トップ徴収吏員のナレッジ共有(庁内Q&Aシステム):
    • 用途:
       膨大なマニュアル、例規集、過去の通達などをAIに学習させ、職員からの専門的な質問にチャット形式で回答するシステムを構築します。これにより、ベテラン職員が持つ暗黙知を形式知化し、組織全体で共有することが可能になります。
      (出典)- 総務省「地方自治体における生成AIの活用に関するワーキンググループ 報告書」2025年
    • 効果:
       若手職員が気軽に質問できる環境が整い、人材育成が促進されます。また、担当者不在時でも迅速に正確な情報を得られるようになり、業務の属人化を防ぎます。
  • 催告文書・答弁書等の文書自動生成:

利用ガイドラインとリスク管理

 生成AIは強力なツールである一方、その利用には情報漏洩、誤情報(ハルシネーション)、著作権侵害といったリスクも伴います。これらのリスクを適切に管理し、安全にAIを活用するため、国や各自治体では利用ガイドラインの策定が進められています。
(出典)- デジタル庁「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」総務省「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック」2022年

 職員が生成AIを利用する際には、特に以下の点を遵守することが極めて重要です。

 これらのルールを遵守し、リスクを正しく理解した上で活用すれば、生成AIは地方自治体の未来を切り拓く強力なパートナーとなり得るでしょう。

まとめ:未来を担う職員へのエール

 本記事では、新時代の地方公務員に求められるスキルセットを、「計画」「予算」「契約」「会計」「説明責任」そして「未来の技術」という多角的な視点から体系的に解説してきました。もはや、公務員の仕事は、決められたことを正確にこなすだけの仕事ではありません。皆さんは、地域の課題解決の最前線に立ち、多様な住民や団体と対話し、限られた資源を最大限に活用して未来への道筋を描き出す、創造性豊かな「プロフェッショナル」です。

 総合計画で地域の夢を描き、予算でその夢に命を吹き込み、公正な契約で実行力を担保し、透明な会計で信頼を築く。そして、客観的根拠と熱意あるストーリーで住民の共感を得る。この一連のサイクルを回す力こそが、これからの公務員に求められる核心的なスキルです。

 その実現に向けては、マクロ(社会経済状況等)の状況をとらまえて、ミクロ(現場)の実情を抑えることが必要で、これができればあらゆる批判に対しても揺るぐことのないロジックを構築することができます。その上で、ロジックが整理されていることは前提として、最後は「この人が言うなら仕方ない」と相手側に思ってもらえるかが重要です。特に、相手側の意向にそぐわない話である場合には、その過程において、どれだけ真摯に向き合ったかが問われます(これが真の「調整力」だと思います)

 繰り返しになりますが、ここは皆様でしか担えない領域です。これはAI時代が到来しても、皆様でしか担うことができない領域であると確信しています。当サイトを効果的に活用して頂き、本来力を入れるべき領域に全力で取り組んで頂ける社会に一歩でも近づければと願っています。

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