20 スポーツ・文化

文化芸術の公演・上映・展示支援

masashi0025

はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。

概要(文化芸術の公演・上映・展示を取り巻く環境)

  • 自治体が文化芸術の公演・上映・展示支援を行う意義は「心豊かな国民生活及び活力ある社会の実現」と「文化を基軸とした持続可能な地域社会の構築」にあります。
  • 文化芸術は、もはや一部の愛好家のための「贅沢品」や「あれば良いもの」ではありません。平成29年に改正された文化芸術基本法では、文化芸術が人々の豊かな人間性を涵養し、創造力を育むだけでなく、観光、まちづくり、国際交流、福祉、教育、産業といった多様な分野と連携し、社会全体の活力を生み出す「社会の基盤」として明確に位置づけられました。
  • 東京都特別区は、日本における文化芸術活動の最大の集積地であり、その振興は区民の生活の質を向上させるだけでなく、都市の魅力と国際競争力を高める上で極めて重要な役割を担っています。本稿では、客観的データに基づき現状と課題を多角的に分析し、実効性のある政策提言を行うことを目的とします。

意義

住民にとっての意義

人間性の涵養と創造性の育成
  • 文化芸術への接触は、個人の感性や思考力を刺激し、固定観念にとらわれない創造的な発想を育むとともに、人生の質(QOL)を本質的に向上させます。
  • 文化庁の調査によれば、子どもの文化芸術体験に期待する効果として「創造性や工夫をする力が高まる」(52.3%)、「美しさなどへの感性が育まれる」(43.0%)が上位に挙げられており、住民が文化芸術に自己実現や能力開発の価値を見出していることが明確に示されています。
生きがいと幸福度の向上
  • 文化芸術活動への参加や鑑賞は、日々の生活に喜びや潤い、精神的な充足感をもたらし、個人のウェルビーイング(幸福度)を高める上で不可欠な要素です。
  • この関係性は、コロナ禍において逆説的に証明されました。文化庁の調査では、公演等の直接鑑賞が困難になったことにより、「楽しみが減った」と回答した人は87.2%、「幸せが減った」と回答した人は66.3%にものぼり、文化芸術が人々の幸福感にいかに直結しているかが浮き彫りになりました。

地域社会にとっての意義

地域経済の活性化と観光振興
コミュニティの形成と社会的包摂の促進
  • 文化芸術は、言語や世代、国籍、障害の有無といった様々な違いを超えて人々をつなぐ共通の体験を提供し、相互理解を深め、インクルーシブな共生社会を実現するための強力な触媒となります。
  • 障害当事者を対象とした調査では、文化芸術活動を通じて「障害者を取り巻く地域住民との交流、相互理解や関係を築くこと」(42.5%)が成果として実感されており、社会的包摂のツールとしての有効性が示されています。
  • また、子どもの文化芸術体験の効果として「日本の文化を知り、国や地域に対する愛着を持つようになる」(60.2%)が高い期待を集めており、文化が地域アイデンティティやシビックプライド(市民の誇り)の醸成に大きく寄与することもわかります。

行政にとっての意義

都市魅力の向上と国際競争力の強化
  • 独創的で質の高い文化政策は、都市のブランドイメージを飛躍的に向上させ、国内外から才能ある人材、先進的な企業、そして感度の高い観光客を惹きつけるための重要な戦略的要素です。
  • 改正された文化芸術基本法では、文化芸術を観光、まちづくり、国際交流等の関連分野と有機的に連携させることが国の責務として明記されており、文化が都市戦略の中核であることが法的に位置づけられています。
  • 国民意識調査においても、国際的な文化交流の意義として「日本と諸外国との間の相互理解や信頼関係が深まり、国際関係の安定につながる」(45.1%)が最も多く挙げられており、文化がソフトパワーとして都市の国際的地位向上に貢献することへの強い期待がうかがえます。

(参考)歴史・経過

  • 現在の文化政策が抱える課題は、一朝一夕に生まれたものではなく、戦後日本の文化行政の歴史的変遷の中にその根源を見出すことができます。
戦後~1970年代:文化財保護中心と国の「不作為」
1980年代:ハコモノ行政の時代と民間メセナの勃興
1990年代:ソフト重視への転換と支援基盤の整備
  • 乱立したハコモノが「貸し館」業務に終始しているとの批判を受け、施設を活かすための「ソフト事業」の重要性が認識され始めました。1990年には芸術文化振興基金が、1994年には(財)地域創造が設立され、公的な芸術文化支援の基盤が整備されました。
2001年:文化芸術振興基本法の制定
  • 文化芸術関係者の長年の要望が実り、議員立法によって日本初の文化に関する基本法として「文化芸術振興基本法」が制定されました。これにより、初めて国の文化振興に関する責務が法律で明記され、総合的な政策推進の礎が築かれました。
2010年代:劇場法の制定と地方創生との連携
  • 2012年に「劇場、音楽堂等の活性化に関する法律(通称:劇場法)」が制定され、文化施設のソフト面での機能強化、すなわち専門人材の配置や自主事業の企画制作能力の向上が法的に後押しされました。また、地方創生の文脈で文化の活用が注目されるようになりました。
2017年:文化芸術基本法への改正
2020年代:コロナ禍とデジタル化、文化経済戦略
  • 新型コロナウイルスのパンデミックは、文化芸術界に甚大な被害をもたらし、特にフリーランスで活動する担い手の脆弱性を露呈させました。一方で、オンライン配信などデジタル技術の活用が急速に進展しました。これを機に、文化を経済成長のエンジンと捉える「文化経済戦略」の議論が本格化し、文化への「投資」という視点が強まっています。
    • (出典)内閣府 経済財政諮問会議「経済財政運営と改革の基本方針2022」令和4年

文化芸術の公演・上映・展示に関する現状データ

ライブ・エンタテインメント市場の回復と構造変化
  • コロナ禍で壊滅的な打撃を受けたライブ・エンタテインメント市場は、力強い回復を見せています。ぴあ総研の調査によると、2023年の市場規模は6,857億円に達し、コロナ禍前の2019年(6,295億円)を上回る過去最高水準となりました。
  • しかし、その内実を詳細に見ると、市場の構造変化がうかがえます。ACPC(コンサートプロモーターズ協会)の調査では、2024年の総公演数は2019年同期比で107.4%と微増に留まる一方、総売上高は167.0%と大幅に増加しています。
  • この公演数と売上高の大きな乖離は、チケット単価の上昇と、アリーナ・スタジアム級の大規模公演への集中が主な要因です。実際に、平均チケット価格は2020年の7,480円から2021年には8,076円へと上昇しています。
  • これは、市場全体が一様に回復しているのではなく、大規模公演や一部の人気アーティストが市場を牽引する一方で、地方や中小規模の公演の回復は遅れている「K字回復」とも言える状況を示唆しています。この二極化の進行は、支援策を検討する上で極めて重要な視点です。
東京都特別区の公演開催状況
  • 東京都は日本のライブ・エンタテインメント市場の中核をなし、その活動は特別区に著しく集中しています。2024年のデータでは、関東地方で開催された公演数15,014本のうち、実に11,277本(約75.1%)が東京都で行われています。
  • この圧倒的な集中は、文化施設、アーティスト、関連企業、そして鑑賞者人口といった文化資本が東京に集積していることの現れです。これは東京の「強み」であると同時に、区内での過度な競争や、他地域との文化格差を生み出す要因ともなっています。特別区の行政には、この集積を活かして国際的な文化都市としての魅力を高める政策と、その負の側面を緩和する政策の両面が求められます。
文化関係予算の国際比較と国内格差
  • 日本の文化に対する公的投資は、国際的に見て極めて低い水準にあります。国の文化予算(文化庁予算)の対GDP比は0.11%であり、フランス(0.44%)や韓国(0.34%)と比較して3分の1から4分の1程度に過ぎません。
  • さらに、この10年間で韓国やドイツが文化予算を大幅に増額したのに対し、日本の文化庁予算は平成15年(2003年)に初めて1,000億円を突破して以来、約20年間にわたりほぼ横ばいで推移しており、相対的な地位は低下しています。
  • 国の支援が限定的であるため、文化振興の成否は地方自治体の財政力や政策意欲に大きく依存する構造となっています。これが、東京都特別区内においても、区民一人当たりの文化予算に大きな格差を生む一因となっています。
文化施設の現状
  • 地域創造の調査によれば、全国に公立文化施設は3,442館(専用ホール1,483、美術館648など)存在します。近年、上演機能を持つ公民館等の統廃合が進んだため、施設総数としては減少傾向にありますが、美術館は微増しており、「選択と集中」が進んでいる様子がうかがえます。
  • 運営形態を見ると、直営が53.5%、指定管理者制度が46.1%となっています。特に、都道府県や政令指定都市が設置する大規模施設ほど指定管理者制度の導入率が高く、政令市では80.9%に達しています。
  • これは、文化施設の運営が「量の時代」から「質の時代」へと移行しつつあることを示していますが、その「質」を担保すべき運営方法である指定管理者制度が、後述するような構造的課題を抱えている点は、政策上の大きな矛盾点と言えます。

課題

住民の課題

【担い手】不安定な活動基盤とキャリアパスの不確実性
  • 文化芸術活動を実際に担う実演家やスタッフの多くはフリーランスとして活動しており、その収入は極めて不安定かつ低い水準にあります。この脆弱性は、特にコロナ禍で深刻な形で露呈しました。
    • 客観的根拠:
      • 文化庁がコロナ禍直後に行った調査では、芸術家等のうち「文化芸術活動から収入の75%~100%を得ている」者はわずか38.9%で、多くが他の仕事との兼業で生計を立てている実態が明らかになりました。
      • 同調査では、コロナ禍の影響で79.8%が「仕事の機会がなくなった(中止・延期された)」と回答し、40.1%が「文化芸術活動からの収入がほぼ0になった」と回答するなど、その影響は壊滅的でした。
      • 日本芸能実演家団体協議会(芸団協)による最新の調査(令和6年速報)でも、2019年と比較して収入が「減った」と回答した実演家は依然として多く、活動環境の厳しさが継続していることが示されています。
      • (出典)文化庁「文化芸術活動に携わる方々へのアンケート」令和2年度 20
      • (出典)日本芸能実演家団体協議会「第11回芸能実演家・スタッフの活動と生活実態調査」令和6年度 21
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 才能ある人材が経済的理由で活動を断念し、文化の担い手不足と創造性の質の低下を招きます。
【鑑賞者】鑑賞機会へのアクセス障壁と情報格差
  • 住民が文化芸術を鑑賞したくてもできない理由として、チケット代などの経済的制約や時間的制約に加え、「どのような公演や展示があるか情報が入手できない」「魅力あるコンテンツが少ない」といった、情報面やコンテンツ面での課題が指摘されています。
    • 客観的根拠:
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 文化芸術への関心層が一部に固定化・先鋭化し、新たな鑑賞者層の開拓が進まず、文化市場全体が先細りになります。

地域社会の課題

文化芸術団体の脆弱な経営基盤
  • 公演や展示を企画・制作する文化芸術団体の多くは、自己収入(チケット代、物販等)と公的助成金に大きく依存しており、その経営基盤は極めて脆弱です。コロナ禍のような大規模な外的ショックに対して、活動を継続する体力が乏しい構造的な問題を抱えています。
多様な資金調達手段の未確立
  • 公的な助成金や補助金以外の、寄付や企業メセナ(協賛)、クラウドファンディングといった多様な資金調達手段が、日本の文化芸術セクターでは十分に確立されていません。
    • 客観的根拠:
      • 文化庁の調査によると、文化芸術に関するプロジェクトで「クラウドファンディング型ふるさと納税」を現在実施している地方公共団体は、全体のわずか5%(90団体)に留まっています。その実施上の課題として「寄附者の共感を得られるようなプロジェクトのアイディア出しが大変」(63%)が最多となっており、団体の企画力や情報発信力に課題があることがうかがえます。
      • 企業メセナ協議会の調査では、企業がメセナ活動を行う目的として、従来の「芸術文化支援のため」に加え、「社業との関連、企業価値創造のため」が同数でトップとなりました。これは、企業側が単なる社会貢献だけでなく、事業戦略と連動した文化支援を求めていることを示しており、文化団体側には新たな視点でのアプローチが求められています。
      • (出典)文化庁「文化芸術に関する多様な資金の活用状況に関する調査結果」令和4年 26
      • (出典)公益社団法人企業メセナ協議会「2024年度メセナ活動実態調査」令和6年 27
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 公的財源の制約がそのまま文化活動の制約となり、財政状況に左右されない持続可能な文化芸術エコシステムが構築されません。

行政の課題

指定管理者制度の構造的課題
  • 多くの公立文化施設の運営に導入されている指定管理者制度は、一定のコスト削減効果をもたらす一方で、その制度設計自体が文化振興を阻害する要因となっています。特に、3~5年という短期の契約期間が、長期的な視点での事業展開や専門的人材の育成・確保を著しく困難にしています。
    • 客観的根拠:
      • 制度のデメリットとして、専門家会議等で「指定管理者の撤退によるサービスの停止」「極端なコスト縮減等によるサービスの低下」「適切な人材確保の困難」「事業の質が保てなくなるおそれ」などが繰り返し指摘されています。
      • 全国公立文化施設協会の提言では、自治体による指定管理料の積算根拠の不透明性や、事業者の努力で生み出した利益を自治体に返還させる「戻し入れ」といった不合理な運用が、事業者の経営努力や創意工夫へのインセンティブを削いでいる実態が厳しく批判されています。
      • (出典)文化庁「文化施設における指定管理者制度のデメリット」 28
      • (出典)全国公立文化施設協会「指定管理者制度に関する提言」令和5年 29
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 文化施設が単なる「貸し館」業務に留まり、地域文化の創造拠点としての役割を果たせず、多額の税金で整備された公的資産が有効活用されません。
アートマネジメントを担う専門人材の不足と育成の遅れ
  • 文化政策を企画・推進し、アーティストと社会、行政と現場をつなぐ「アートマネジメント」を担う専門人材が、行政組織の内外で慢性的に不足しています。人事異動で担当者が頻繁に変わるため、専門性やネットワークが蓄積されにくい構造になっています。
    • 客観的根拠:
      • 文部科学省の審議会では、平成17年の時点で既に「地域における文化芸術活動を支える人材の育成・登用を行う」ことが重要な方策として提言されており、課題が長年にわたって認識されながらも、抜本的な解決には至っていないことがわかります。
      • アーツカウンシル東京の「アーツアカデミー事業」や東京藝術大学大学院の専門コースなど、人材育成の取り組みは存在しますが、育成された人材が特別区の行政組織内に専門職として定着し、キャリアパスを形成できる仕組みはまだ不十分です。
      • (出典)文部科学省「今後の地方文化振興の在り方について(答申)」平成17年 30
      • (出典)アーツカウンシル東京「アーツアカデミー事業」 31
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 文化政策が現場の実態から乖離し、効果の薄い前例踏襲型の施策に予算が費やされるといった、非効率な行政運営が続くことになります。
政策効果の評価手法(EBPM)の未導入
  • 文化政策は、その効果が「感動」や「創造性の涵養」といった定性的な側面に現れることが多く、費用対効果を客観的なデータで示すことが難しいとされてきました。その結果、EBPM(証拠に基づく政策立案)の導入が他分野に比べて遅れており、予算要求時の説明責任を十分に果たせないという課題を抱えています。
    • 客観的根拠:
      • 文化政策分野におけるEBPMの先進事例はまだ少なく、滋賀県や兵庫県神戸市などの取り組みが参考に挙げられる段階にあります。文化分野に特化したKPI(重要業績評価指標)の設定や、効果測定のためのデータ収集手法の確立が今後の課題です。
      • (出典)内閣府「地方創生におけるEBPMの取組状況」令和4年
      • (出典)(https://machiage.microad.jp/blog/38-ebpm) 32
    • この課題が放置された場合の悪影響の推察:
      • 文化予算が客観的根拠に乏しいと見なされ、「聖域」または「財政難の際の削減対象の筆頭」という両極端な扱いを受け、戦略的な投資が行われず場当たり的な施策に終始します。

行政の支援策と優先度の検討

優先順位の考え方

※各支援策の優先順位は、以下の要素を総合的に勘案し決定します。

  • 即効性・波及効果
    • 施策の実施から効果発現までの期間が短く、担い手、文化施設、鑑賞者など複数のステークホルダーに良い影響を及ぼす、または複数の課題解決に横断的に貢献する施策を高く評価します。
  • 実現可能性
    • 現行の法制度、予算規模、人員体制の中で、比較的速やかに着手できる施策を優先します。大規模な条例改正や新規組織の設立を要するものより、既存の仕組みの改善で対応できる施策の優先度を高くします。
  • 費用対効果
    • 投入する経営資源(予算・人員・時間等)に対して、文化振興、経済活性化、社会的価値創出など、多面的なリターンが大きい施策を優先します。短期的なコストだけでなく、将来的な財政負担の軽減効果も考慮します。
  • 公平性・持続可能性
    • 特定のジャンルや大規模な団体だけでなく、広く文化芸術セクター全体に裨益し、一過性のイベントではなく、長期的に効果が持続する「仕組みづくり」に資する施策を高く評価します。
  • 客観的根拠の有無
    • 国の基本計画や他の自治体における成功事例など、効果に関するエビデンス(証拠)が存在する施策を優先します。先行事例から効果測定の手法が明確になっている施策を重視します。

支援策の全体像と優先順位

  • 山積する課題に対応するため、支援策を「①担い手の活動基盤強化」「②文化拠点の機能強化」「③文化エコシステムの創造」という3つの柱で体系化します。これらは個別の施策ではなく、相互に深く関連しており、三位一体で推進することが不可欠です。
  • 優先度(高):支援策① 文化芸術の担い手に対する持続可能な活動基盤の構築
    • 文化創造の源泉である「人」が経済的理由で活動を断念すれば、他の全ての施策が意味をなさなくなるため、最優先で取り組むべきです。特にコロナ禍で露呈した担い手の脆弱性への対応は急務であり、即効性が求められます。
  • 優先度(中):支援策② 文化施設の戦略的マネジメントと機能強化
    • 区が保有する既存の公的資産(文化施設)の価値を最大化することは、費用対効果の高い施策です。特に指定管理者制度の運用見直しは、制度的な課題の根幹に触れるものであり、波及効果が大きいですが、関係者との合意形成に一定の時間を要する可能性があるため、中位とします。
  • 優先度(低→高):支援策③ 多様な主体との連携による文化芸術エコシステムの創造
    • 資金調達の多様化や分野横断的な情報プラットフォームの構築は、持続可能性の観点から極めて重要ですが、効果が定着するまでに時間を要する中長期的な施策です。しかし、早期に着手し、官民連携の土壌を育むことで、将来的な行政の財政負担を軽減する効果が期待できるため、継続的に取り組むべき重要施策です。

各支援策の詳細

支援策①:文化芸術の担い手に対する持続可能な活動基盤の構築

目的
  • フリーランスを含む全ての文化芸術の担い手が、経済的な不安を軽減し、安心して創造活動に専念できる環境を整備します。
  • デジタル化といった社会変化に対応できるスキルを習得し、多様なキャリアパスを構築できる機会を提供します。
主な取組①:適正な取引環境の整備と「フリーランス保護新法」の周知徹底
  • 区が発注する文化事業において、内閣官房や公正取引委員会が示すガイドラインに基づき、書面での契約締結、報酬の支払期日の明記、一方的なキャンセル料不払いの禁止などを徹底した適正な契約を率先して実施します。
  • 区内の文化芸術団体や施設運営者に対し、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス保護新法)」の内容や事業者の義務に関する説明会や、専門家による相談窓口を設置し、業界全体の取引慣行の改善を促します。
    • 客観的根拠:
      • 内閣官房等が実施してきたフリーランスの実態調査は、その働き方の多様性と取引上の課題を明らかにしており、法的な保護と、その実効性を担保するための自治体による周知・啓発活動の必要性を裏付けています。
      • (出典)内閣官房「フリーランス実態調査」各年度 33
主な取組②:芸術家等への活動奨励金(マイクログラント)制度の創設
  • 大規模な公演への補助金とは別に、個人の芸術家や小規模なグループが、新たな創作の試み、国内外での調査研究、スキルアップのための研修参加などに活用できる、少額(例:10万円~30万円程度)かつ申請手続きが簡素な奨励金(マイクログラント)制度を創設します。
  • 審査を迅速化し、機動的に資金を提供することで、創造活動の初期段階(シード期)をきめ細かく支援し、多様な才能の萌芽を育みます。
    • 客観的根拠:
      • 文化庁の予算においても、「新進芸術家育成事業」や「海外研修支援」などが重点項目となっており、組織への助成だけでなく、個人の才能への直接的な投資の重要性が国のレベルでも認識されています。
      • (出典)文化庁「令和6年度 文化庁予算のポイント」令和5年 34
主な取組③:デジタル技術活用支援とオンライン収益化プログラム
  • オンライン配信の技術、効果的なプロモーション手法、デジタルアーカイブの構築方法、著作権の基礎知識と管理方法など、デジタル時代に必須のスキルを習得するための実践的な研修プログラムを、専門家や先進的な団体と連携し、無償または安価で提供します。
  • 文化庁が整備を進める権利情報集約検索システム「J-OPOLIS」の活用を促し、デジタルコンテンツからの適正な対価還元(収益化)をサポートします。
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 区内在住・在勤の芸術家等のうち「文化芸術活動が主たる収入源」と回答する割合の3年間での10ポイント向上
      • データ取得方法: 芸術家等を対象とした定点アンケート調査(2年に1回実施)
  • KSI(成功要因指標)
    • 区の文化事業におけるフリーランス等との書面契約率100%達成
      • データ取得方法: 文化政策担当課による全発注事業の契約実績の確認
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • マイクログラント採択者による新規作品発表率70%以上
      • データ取得方法: 採択者への事後ヒアリングおよび実績報告書の分析
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • マイクログラントの年間採択件数50件以上
    • デジタル技術活用研修の年間延べ参加者数200人以上
      • データ取得方法: 事業実施報告書に基づく実績集計

支援策②:文化施設の戦略的マネジメントと機能強化

目的
  • 区立文化施設が、単に施設を貸し出すだけの「貸し館」機能から脱却し、地域の文化創造と交流を能動的に牽引する「創造拠点」へと転換することを目指します。
  • 指定管理者制度が抱える構造的課題を克服し、専門性・継続性・発展性を備えた、持続可能で質の高い施設運営モデルを特別区として確立します。
主な取組①:指定管理者制度の運用ガイドライン改定
  • 指定管理期間を原則として5年以上に長期化し、事業者が腰を据えた事業計画や人材育成を行える環境を整えます。
  • 事業者選定において、安易な価格競争に陥ることを避け、企画提案能力、専門性、地域連携の実績などを重視した総合評価方式を徹底し、その評価項目と配点を公募段階で明確に示します。
  • 事業者の創意工夫による収益増分を、施設のサービス向上や職員の処遇改善に再投資できるインセンティブ条項(超過収益の分配、利益の安易な「戻し入れ」の禁止など)を導入します。
    • 客観的根拠:
      • 総務省は平成22年の通知で、指定期間の適切な設定(施設の目的や事業内容に応じた柔軟な設定)や、価格だけでなく事業の実施能力を総合的に評価する重要性を示しており、本取組は国の指針にも合致するものです。
      • (出典)総務省「指定管理者制度の運用について」平成22年 36
主な取組②:アートマネジメント専門人材の配置と育成
  • 区の文化施設を所管する部署や、特に中核となる文化施設に、民間の劇場、美術館、芸術団体等での実務経験を持つ専門人材(プログラム・ディレクター、エデュケーター等)を、任期付き職員や専門委員として登用します。
  • 指定管理者と区が連携し、施設職員を対象とした研修プログラム(企画立案、ファンドレイジング、広報マーケティング、地域連携、著作権実務等)を共同で開発・実施し、施設全体の専門性向上を図ります。
    • 客観的根-拠:
      • アーツカウンシル東京が実施する「アーツアカデミー事業」は、公的機関で活躍するアートマネジメント人材の育成を目的としており、こうした外部の専門機関と連携して研修を実施することも有効な手段です。
      • (出典)アーツカウンシル東京「アーツアカデミー事業」 31
主な取組③:「文化施設白書」の作成と公開
  • 区が保有する全ての文化施設(ホール、美術館、博物館、図書館、地域文化センター等)について、施設概要、建設年度、延床面積、運営状況(利用者数、施設稼働率、収支状況)、維持管理コスト、課題などを網羅した「文化施設白書」を定期的に作成・公開します。
  • これにより、施設の統廃合や機能転換、大規模改修の優先順位付けといった重要な意思決定を、客観的データに基づいて透明性の高いプロセスで行うための基礎資料とします。
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 区立文化施設の利用者アンケートにおける総合満足度85%以上
      • データ取得方法: 各施設で実施する利用者アンケート調査(年1回)
  • KSI(成功要因指標)
    • 指定管理期間が5年以上の施設の割合80%以上
      • データ取得方法: 文化政策担当課による指定管理契約状況の内部調査
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 施設の自主企画事業(主催・共催)の年間実施数 前年比10%増
      • データ取得方法: 指定管理者からの事業報告書に基づく集計
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • アートマネジメント専門研修の年間開催数4回以上
    • 「文化施設白書」の2年に1回の更新・公表
      • データ取得方法: 事業実施報告書、区ウェブサイトでの公表実績の確認

支援策③:多様な主体との連携による文化芸術エコシステムの創造

目的
  • 行政、民間企業、NPO、大学、住民など、多様な主体が連携・協働し、公的資金だけに依存しない、持続可能な文化芸術支援の生態系(エコシステム)を地域に構築します。
  • 文化芸術を、観光、福祉、教育、まちづくりといった他分野の政策と有機的に結合させ、新たな社会的・経済的価値を創出します。
    • 客観的根拠:
      • 平成29年に改正された文化芸術基本法は、文化芸術を社会の様々な分野と連携させることを強く打ち出しており、この支援策は国の政策方向性と完全に一致するものです。
      • (出典)文化庁「文化芸術基本法」平成29年 1
主な取組①:文化芸術情報ポータルサイトとSNSの一元的な運用
  • 区内で行われる公演・展示・上映等の情報を、主催者の規模やジャンルを問わず網羅的に集約し、ジャンル、エリア、料金、バリアフリー情報、オンライン配信の有無などで横断的に検索できる公式ポータルサイトを構築・運用します。
  • X(旧Twitter)、Instagram、Facebook等のSNSアカウントと連動させ、ターゲット層(若者、ファミリー層、高齢者など)に応じたプッシュ型の情報発信を強化し、潜在的な鑑賞者を掘り起こします。
主な取組②:企業版ふるさと納税・クラウドファンディング活用支援
  • 地域の文化芸術団体が、企業版ふるさと納税やクラウドファンディングを有効に活用できるよう、プロジェクトの企画立案、寄付者の共感を呼ぶストーリー作り、魅力的なリターン(返礼品)設計、効果的な情報発信に関する専門家相談会や実践的なセミナーを実施します。
  • 区自身も、文化施設の大規模改修や、国際的な文化イベントの開催費用など、具体的なプロジェクトを立ち上げ、これらの制度を積極的に活用するモデルケースを示し、地域全体の機運を醸成します。
主な取組③:分野横断型プロジェクトの推進(文化×福祉・教育・観光)
  • 文化×福祉
    • 障害のある人々の表現活動を支援するNPOや福祉施設と連携し、区立施設での作品展や発表会を定期的に開催します。また、障害当事者が文化施設の運営や企画に関わる機会を設けます。
  • 文化×教育
    • 地域の芸術家を「アーティスト・イン・レジデンス」として小中学校に一定期間派遣し、図工や音楽の授業、部活動を支援するプログラムを制度化します。これにより、子どもたちの創造性を育むと同時に、芸術家の安定的な活動機会を創出します。
  • 文化×観光
    • 地域の歴史的建造物や商店街、公園などを舞台にしたアートプロジェクトや演劇祭を、観光協会や商店街振興組合、町会・自治会と連携して企画・実施し、地域の新たな魅力を創造・発信します。
    • 客観的根拠:
KGI・KSI・KPI
  • KGI(最終目標指標)
    • 区内の主要文化芸術団体における総収入に占める民間資金(寄付・協賛金等)の割合を3年間で20%増加させる
      • データ取得方法: 区内の主要文化芸術団体を対象とした経営実態ヒアリング調査(年1回実施)
  • KSI(成功要因指標)
    • 文化芸術情報ポータルサイトの年間ユニークユーザー数 10万人
      • データ取得方法: ウェブサイトのアクセス解析データによる計測
  • KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
    • 区内文化芸術団体によるクラウドファンディングの年間成功件数10件以上
      • データ取得方法: 活用支援セミナー参加団体への追跡調査および主要プラットフォームのモニタリング
  • KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
    • 分野横断型プロジェクトの年間実施数5件以上
    • 情報ポータルサイトへのイベント情報年間掲載件数1,000件以上
      • データ取得方法: 事業実施報告書、ポータルサイトの登録データベースによる集計

先進事例

東京都特別区の先進事例

豊島区「国際アート・カルチャー都市構想」

  • 2014年に「消滅可能性都市」と指摘されたことをバネに、「まち全体が舞台の、誰もが主役になれる劇場都市」という明確で力強いビジョンを掲げ、文化を都市再生の核に据えたトップダウン型の政策を展開しています。
  • 8つの劇場を備える「Hareza池袋」の整備というハード面の投資と、南池袋公園の規制緩和によるオープンカフェの常設化やイベント開催の柔軟化、アニメ・マンガといったサブカルチャーの積極的な活用といったソフト施策を両輪で推進している点が特徴です。
  • 成功要因は、①明確なビジョンに基づく強力な政治的リーダーシップ、②Hareza池袋という拠点施設と公園等のオープンスペース活用というソフト施策の戦略的連動、③演劇やクラシック音楽からアニメ、コスプレまでを包摂する「多様性」を尊重する姿勢にあると考えられます。

港区「多様な主体との協働による文化芸術振興」

  • 大使館、外資系企業、美術館、放送局などが数多く集積する区の特性を最大限に活かし、「多様な人と文化が共生し 文化芸術を通じて皆の幸せをめざす 世界に開かれた『文化の港』」を将来像に掲げた政策を展開しています。
  • 行政が全ての事業を直接主導するのではなく、「港区文化芸術ネットワーク会議」の開催などを通じて、多様な文化主体間の交流・連携を促進する「プラットフォーム」としての役割に徹している点が特徴です。また、「港区文化芸術活動サポート事業」により、担い手の自立的・継続的な運営を財政面から支援しています。
  • 成功要因は、①地域の特性(国際性・多様性)を深く分析し、独自のビジョンを設定した点、②行政が「支援者」「調整役」に徹するボトムアップ型のアプローチを採用した点、③担い手への直接支援により、地域の文化活動の活性化を促している点にあります。

渋谷区「EBPM推進による政策の最適化」

  • 渋谷区は、子育て支援策など他分野においてデータに基づく政策立案(EBPM)を先進的に推進しており、この手法を文化政策にも応用するポテンシャルを有しています。
  • 例えば、住民データやGIS(地理情報システム)を活用して、どの地域の住民が文化施設へのアクセスが困難か、どの年齢層や所得層が文化イベントに参加していないかをデータで可視化することが可能です。これにより、アウトリーチ事業(移動図書館、出張コンサート、地域でのワークショップ等)を、勘や経験に頼らず、最も必要とされる地域・対象者に効果的に届けることができます。
  • 成功要因は、①客観的データに基づき政策課題の真因を特定する分析力、②限られた予算を最も効果的な施策に集中投下できる効率性、③政策効果を数値で測定し、PDCAサイクルを回すことによる継続的な事業改善が可能になる点にあります。
    • (出典)(https://machiage.microad.jp/blog/38-ebpm) 32

全国自治体の先進事例

横浜市「クリエイティブシティ・ヨコハマ」

  • 2004年から継続して文化芸術を都市戦略の中核に据えている、日本の創造都市政策のパイオニアです。旧都心部の空洞化という課題に対し、歴史的建造物をリノベーションして「BankART1929」のような創造拠点に変え、アーティストやクリエーターを集積させる「創造界隈」を形成しました。
  • さらに、現代アートの国際展「横浜トリエンナーレ」と連動させることで、都市のブランド価値を飛躍的に高めてきました。2008年度には創造界隈への来場者が約30万人に達し、経済波及効果は約120億円と推計されています。
  • 成功要因は、①「文化芸術創造都市」という長期的なビジョンと継続的な政策投資、②歴史的資源の保存と創造的活用の両立、③行政、専門NPO(アーツコミッション・ヨコハマ等)、大学、民間企業の効果的な公民連携体制の構築にあります。

金沢市「伝統と現代が共存する創造都市」

  • 加賀百万石の歴史に育まれた伝統工芸や伝統芸能、茶の湯文化といった豊かな文化資源を単に「保存」するだけでなく、「金沢21世紀美術館」に代表される現代アートと「共存・融合」させることで、独自の都市文化を創造し続けています。
  • 2009年にはユネスコ創造都市ネットワークにクラフト分野で世界で初めて認定され、国際的なブランドを確立しました。また、紡績工場跡を再生した「金沢市民芸術村」は、市民が24時間365日利用できる創造活動の場として機能しています。
  • 成功要因は、①「伝統」と「現代」を二項対立で捉えず、両者を融合させる戦略的視点、②文化に対する市民の誇り(シビックプライド)を醸成し、文化活動への主体的な参加を促進している点、③文化を質の高い観光資源として戦略的に活用し、経済的価値へと転換させている点にあります。

参考資料[エビデンス検索用]

まとめ

 東京都特別区における文化芸術支援は、コロナ禍を経てその重要性と担い手の脆弱性が改めて浮き彫りになりました。市場は回復傾向にあるものの、その恩恵は大規模公演に偏り、担い手の不安定な活動基盤や文化施設の機能不全、資金調達手段の未確立といった構造的な課題が山積しています。本レポートで提言する「担い手の活動基盤強化」「文化拠点の機能強化」「文化エコシステムの創造」という三位一体の政策を推進することで、文化を一部の愛好家のものから、全ての住民が享受し、参加できる社会の共有財産へと転換させることが可能です。文化への戦略的投資は、心豊かな市民生活と、創造的で活力ある地域社会の実現に不可欠です。
 本内容が皆様の政策立案等の一助となれば幸いです。
 引き続き、生成AIの動向も見ながら改善・更新して参ります。

ABOUT ME
行政情報ポータル
行政情報ポータル
あらゆる行政情報を分野別に構造化
行政情報ポータルは、「情報ストックの整理」「情報フローの整理」「実践的な情報発信」の3つのアクションにより、行政職員のロジック構築をサポートします。
記事URLをコピーしました