建築物の脱炭素化

はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。

概要（建築物の脱炭素化を取り巻く環境）

• 自治体が建築物の脱炭素化を行う意義は「地域最大の排出源である建築物分野の対策による気候変動目標の達成」と「住民の健康・快適性の向上と光熱費負担の軽減」にあります。
• 建築物の脱炭素化とは、建物の省エネルギー性能の向上や再生可能エネルギーの導入により、暖房、冷房、給湯、照明などで消費されるエネルギー（運用時エネルギー）を削減するとともに、建材の製造から建設、解体・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体での二酸化炭素（CO2​）排出量を実質ゼロにすることを目指す取り組みです。
  • （出典）国土交通省「令和4年版 国土交通白書」令和4年度
  • （出典）国土交通省「建築物分野における地球温暖化対策について」令和6年度
• 日本の部門別CO2​排出量において、業務その他部門（商業・サービス・事業所等）と家庭部門を合わせた建築物関連の排出量は全体の約3割を占める重要な排出源です。特に東京都特別区においては、産業部門の割合が低いため、建築物からのCO2​排出が全体の約7割を占めており、脱炭素化の実現に向けた最重要課題となっています。
  • （出典）東京都環境局「東京都建築物環境計画書制度」令和6年度
• 国は「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、その中間目標として2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減する目標を掲げています。この達成に向け、2025年4月からは改正建築物省エネ法が施行され、原則全ての新築建築物への省エネ基準適合が義務化されます。東京都も「2030年カーボンハーフ」を掲げ、同年月から新築建物への太陽光発電設備設置を義務付けるなど、規制強化の動きが加速しています。
  • （出典）内閣官房「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」令和元年
  • （出典）東京都「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例（環境確保条例）」令和4年改正

意義

住民にとっての意義

快適で健康的な居住環境の実現

• 断熱性能の高い住宅は、夏は涼しく冬は暖かい室温を保ちやすく、急激な温度変化によるヒートショックのリスクを低減します。
  • 客観的根拠：
    • 国土交通省の調査では、断熱改修後に居住者の起床時血圧が有意に低下したという結果や、室温が18℃未満の住宅では心電図異常所見のある人が多いという分析結果が示されています。
    • （出典）国土交通省「令和4年版 国土交通白書」令和4年度

光熱費の削減と経済的負担の軽減

• 省エネ性能の向上により、冷暖房等に使用するエネルギーが削減され、月々の光熱費が大幅に減少します。
  • 客観的根拠：
    • 東京都の試算によると、4kWの太陽光パネルを設置した場合、電気代の削減や売電収入により、年間約92,400円の経済的メリットが生まれ、設置費用は6年程度で回収可能とされています。
    • （出典）東京都「太陽光パネルの設置を義務付ける制度が2025年4月から始まります」令和7年

防災力（レジリエンス）の向上

• 太陽光発電設備と蓄電池を導入することで、災害による停電時にも照明や通信機器などの電力を確保でき、在宅避難生活の継続が可能になります。
  • 客観的根拠：
    • 総務省の事例集では、公共施設に太陽光発電と蓄電池を導入したことで、地震による停電時にも災害対策本部の機能を維持できた事例が報告されています。
    • （出典）総務省「公共施設等の脱炭素化の先行事例」令和7年

地域社会にとっての意義

地域経済の活性化と雇用創出

• 省エネ改修や再生可能エネルギー設備の導入は、地域の建設事業者や設備工事業者にとって新たな市場を創出し、雇用の創出につながります。
  • 客観的根拠：
    • 環境省は、地域脱炭素の取り組みが地域資源を最大限活用することで経済を循環させ、地方創生に貢献する「地域の成長戦略」であると位置付けています。
    • （出典）環境省「地域脱炭素の実現に向けた再エネの最大限導入のための計画づくり及び合意形成の進め方」

エネルギーの地産地消と安定供給

• 地域内に分散型の太陽光発電設備等が増えることで、エネルギーの地産地消が進み、外部のエネルギー供給網への依存度が低下します。
  • 客観的根拠：
    • 総務省の資料によると、地域での再エネ導入は、域外へのエネルギー費用流出を防ぎ、地域経済の循環につながるとされています。
    • （出典）総務省「公共施設等における脱炭素化の取組推進に関するガイドブック」令和6年

都市ブランドの向上と新たな価値創造

• 脱炭素化への先進的な取り組みは、「環境先進都市」としての都市ブランドを向上させ、環境意識の高い住民や企業の誘致につながります。
  • 客観的根拠：
    • 国土交通省は、都市の中で面的にカーボンニュートラルに取り組むことで、都市ブランディングにつながるとしています。
    • （出典）国土交通省「都市の脱炭素化の推進に関するあり方検討会 とりまとめ」令和4年

行政にとっての意義

気候変動目標の達成

• 地域最大の排出源である建築物分野の対策は、国の2030年46%削減目標や2050年カーボンニュートラル目標の達成に不可欠です。
  • 客観的根拠：
    • 国の地球温暖化対策計画では、新築住宅・建築物における最終エネルギー消費の削減量が、全体の省エネ努力の12.8%を占めると試算されています。
    • （出典）国土交通省「建築物分野における地球温暖化対策について」平成28年

行政コストの削減

• 公共施設のZEB（ネット・ゼロ・エネルギー・ビル）化や省エネ改修により、庁舎等の光熱費を大幅に削減できます。
  • 客観的根拠：
    • 総務省の事例では、庁舎のZEB化改修により一次エネルギー削減率86.5%を達成し、旧庁舎と比較して電力使用量を14.5%、ガス使用量を55.8%削減した事例が報告されています。
    • （出典）総務省「公共施設等の脱炭素化の先行事例」令和7年

住民の環境意識の醸成

• 公共施設の率先した取り組みや、住民への支援策を通じて、地域全体の環境意識を高め、自発的な行動変容を促すことができます。
  • 客観的根拠：
    • 環境省は、自治体が率先導入し、その経験を民間企業等に横展開することで、地域全体の再エネ導入が促進されるとしています。
    • （出典）環境省「自治体保有施設への太陽光発電設備の導入検討・導入手順書」令和4年

（参考）歴史・経過

2015年

• パリ協定が採択され、産業革命前からの世界の平均気温上昇を2℃より十分低く保つ目標が設定されました。日本もこの協定を批准しました。
  • （出典）経済産業省 資源エネルギー庁「建築物省エネ法の今後の円滑な執行について」平成29年

2016年

• 「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律（建築物省エネ法）」が全面施行され、大規模非住宅建築物に対する省エネ基準適合義務などが導入されました。
  • （出典）一般社団法人 住宅性能評価・表示協会「建築物省エネ法改正案の経緯」

2020年

• 菅義偉内閣総理大臣（当時）が所信表明演説にて「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しました。
  • （出典）国土交通省「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会 とりまとめ」令和3年

2021年

• 日本政府が、2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減するという新たな目標を表明しました。
  • （出典）首相官邸「気候変動問題に関する懇談会」

2022年

• 建築物省エネ法が改正され、2025年度から原則全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合を義務付けることが決定しました。また、建築物分野での木材利用促進も盛り込まれました。
  • （出典）牛島総合法律事務所「2022年改正建築物省エネ法の概要と実務上の留意点」令和6年

2022年12月

• 東京都議会が「環境確保条例」の改正案を可決し、2025年4月から都内の大手住宅メーカー等が供給する新築建物に太陽光発電設備の設置を義務付ける制度を導入しました。
  • （出典）ソーラージャーナル「東京都の太陽光義務化」令和4年

2025年4月（施行予定）

• 改正建築物省エネ法及び東京都の改正環境確保条例が全面施行され、建築物の脱炭素化に向けた規制が本格化します。
  • （出典）東京都「太陽光パネルの設置を義務付ける制度が2025年4月から始まります」令和7年

建築物の脱炭素化に関する現状データ

温室効果ガス排出量の動向

• 日本の温室効果ガス総排出量は2013年度をピークに減少傾向にあり、2022年度の排出量は10億8,500万トンで、前年度比2.3%減、基準年度の2013年度比では22.9%減となりました。2023年度の速報値ではさらに減少し、過去最低値を記録しています。
  • （出典）環境省「2022年度（令和4年度）の温室効果ガス排出・吸収量（確報値）について」令和6年
  • （出典）環境省「2023年度の温室効果ガス排出量及び吸収量（速報値）の概要」令和7年
• 部門別に見ると、2022年度の家庭部門の排出量は1億5,800万トン（2013年度比24.5%減）、業務その他部門の排出量は1億7,900万トン（同23.6%減）であり、両部門を合わせた建築物関連の排出量は、依然として大きな割合を占めています。
  • （出典）(https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/pdf/honbun2022fykaku.pdf)令和6年
• 一方で、東京都特別区における2021年度の温室効果ガス排出量は前年度比1.5%増となっており、新型コロナウイルス感染症の影響からの経済活動回復に伴い、排出量が増加に転じるなど、継続的な削減には課題が見られます。
  • （出典）特別区長会「特別区（23区）の温室効果ガス排出量等の状況について（2021年度速報値）」令和6年

建築物ストックの省エネ性能

• 日本の建築物ストックの省エネ性能は依然として低い水準にあります。2022年の環境省の資料によると、既存の非住宅建築物のうち、延床面積ベースで6割以上が現行の省エコレ基準を満たしていないとされています。
  • （出典）(https://sii.or.jp/zeb07/planner/)
• 国土交通省の将来推計によると、現状の対策のままでは2050年時点の住宅ストックの平均BEI（Building Energy-efficiency Index）は0.90程度に留まりますが、高効率設備の導入や断熱改修を積極的に進めることで0.80程度まで改善可能と試算されており、既存ストック対策の重要性が示されています。
  • （出典）国土交通省「住宅・建築物ストックの省エネルギー性能の将来推計（～2050）」令和3年

ZEH・ZEBの普及状況

• 住宅分野におけるZEH（ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス）の普及は、事業者によって大きな差が見られます。2022年度の新築注文戸建住宅におけるZEH化率は全体で33%ですが、大手ハウスメーカーでは68.2%に達する一方、地域の工務店等では13.3%に留まっています。
  • （出典）経済産業省 資源エネルギー庁「2022年度 ZEH（ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス）の普及・実態調査」令和5年
• 特に課題となるのが建売戸建住宅で、2022年度のZEH化率は全体でわずか4%と極めて低い水準です。これは、ZEHがまだ高付加価値な仕様と認識され、コストを重視する建売市場では普及が進んでいないことを示唆しています。
  • （出典）経済産業省 資源エネルギー庁「2022年度 ZEH（ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス）の普及・実態調査」令和5年
• 非住宅分野におけるZEB（ネット・ゼロ・エネルギー・ビル）の普及も道半ばです。2023年度に新築・増改築された非住宅建築物における「ZEB基準の水準」の達成率は19.7%（件数ベース）で、国の2030年目標達成にはさらなる加速が必要です。
  • （出典）国土技術政策総合研究所「オフィスビル等の省エネ性能に関する最新調査結果を公表」令和7年

再生可能エネルギーの導入状況

• 住宅用太陽光発電の新規導入件数は、固定価格買取制度（FIT）開始直後の2012〜2013年度にピーク（年平均27.2万件）を迎えましたが、その後減少し、2017〜2021年度は年平均14.5万件と約半減しています。
  • （出典）太陽光発電協会「太陽光発電の現状とJPEAの活動」令和5年
• 2022年度には、電気料金高騰を背景に導入件数が約19万件と増加に転じましたが、国の目標である「2030年までに新築戸建住宅の6割に設置」を達成するには、さらなる導入促進策が不可欠です。
  • （出典）経済産業省 資源エネルギー庁「第88回 調達価格等算定委員会 資料1」令和5年
• 東京都内には膨大な導入ポテンシャルが残されています。例えば調布市の調査では、2021年度末時点の太陽光発電の年間発電量に対し、約45倍の導入ポテンシャルがあると推計されています。
  • （出典）調布市「調布市地球温暖化対策実行計画（区域施策編）改定（素案）」令和4年

住宅リフォーム市場の動向

• 住宅リフォーム市場は、脱炭素化の鍵を握る既存ストック改修の受け皿ですが、その市場規模は不安定です。2023年の市場規模は約7.4兆円（前年比0.6%増）と推計されましたが、2024年はコロナ禍の内向き消費からの反動で約7.1兆円（同3.2%減）に縮小すると予測されています。
  • （出典）株式会社矢野経済研究所「住宅リフォーム市場に関する調査（2024年）」令和6年
• 省エネ改修を促進するためには、縮小が予測される市場の中で、いかに断熱改修や高効率設備導入といった脱炭素に資するリフォームへの投資を誘導するかが政策的な課題となります。

課題

住民の課題

高い初期投資と費用対効果の不確実性

• 省エネ改修には多額の初期費用がかかります。例えば、一般的な戸建住宅を現行の省エネ基準に適合させるための追加コストは約87万円と試算されています。
• 光熱費削減による投資回収期間は、戸建住宅で約35年と長期にわたる場合があり、多くの世帯にとって経済的な負担感や将来の不確実性が、改修の大きな障壁となっています。
  • 客観的根拠：
    • 国土交通省の試算によると、戸建住宅（120㎡）の省エネ基準適合に必要な追加コストは約87万円で、建設費の約4.0%に相当します。光熱費削減による回収期間は約35年とされています。
    • （出典）国土交通省「住宅・建築物の省エネ性能の実態等に関する研究会とりまとめ（参考資料）」平成30年
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察：経済的負担を理由に省エネ改修が進まず、既存ストックの大部分が低性能なまま放置されます。

情報不足と専門知識へのアクセス困難

• 多くの住民は、省エネ改修がもたらす光熱費削減以外のメリット、特に健康改善や快適性向上といった付加価値について十分に認識していません。
• どの改修が自宅にとって最も効果的か、信頼できる施工事業者をどう選べばよいかといった専門的な情報へのアクセスが難しく、行動に移せないケースが多く見られます。
  • 客観的根拠：
    • 環境省の調査では、脱炭素型ライフスタイルを取り入れるためには、費用負担軽減に加え、「生活の不便さを伴わないこと」や「二酸化炭素削減以外の付加価値（快適、健康、安全・安心など）」に対するサポートが必要であることが指摘されています。
    • （出典）環境省「脱炭素型ライフスタイルへの転換に資する施策検討会 とりまとめ」令和5年
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察：不適切な情報や誤解に基づき改修が見送られたり、効果の低い工事が行われたりする可能性があります。

集合住宅（マンション）における合意形成の困難さ

• 外壁や窓などの共用部分の省エネ改修は、管理組合の総会で区分所有者の4分の3以上の賛成を必要とする「特別決議」が求められることが多く、合意形成のハードルが非常に高いです。
• 居住者の価値観の多様化や高齢化、賃貸化の進行により、大規模な修繕工事に対する合意形成はますます困難になっています。
  • 客観的根拠：
    • 国土交通省の「マンションの省エネ改修ガイドライン」では、円滑な合意形成が省エネ改修を進める上での重要なポイントであると繰り返し強調されており、その難しさを示唆しています。
    • （出典）国土交通省「マンションの省エネ改修ガイドライン（改訂版）」令和6年
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察：特別区の住宅ストックの大きな割合を占めるマンションの脱炭素化が停滞し、地域全体の目標達成が困難になります。

地域社会の課題

建設業界の高齢化と深刻な人材不足

• 建設業界は深刻な高齢化に直面しており、就業者の約34%が55歳以上である一方、29歳以下は約11%に過ぎません。
• 2025年には約90万人の担い手が不足すると予測されており、省エネ改修やZEH建設の需要が高まっても、施工を担う人材が不足するという供給面の制約が深刻な課題となっています。
  • 客観的根拠：
    • 国土交通省のデータによると、建設業就業者のうち55歳以上が約34%、29歳以下が約11%であり、高齢化が顕著です。2025年には約90万人の労働力が不足すると予測されています。
    • （出典）(https://process.uchida-it.co.jp/itnavi/info/20220610/)2025年6月2025年6月)
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察：省エネ改修やZEH建設の需要が高まっても、施工能力の不足により工事の遅延やコスト高騰が発生します。

サプライチェーンの脆弱性と特定国への依存

• 太陽光パネルのサプライチェーンは、原材料のポリシリコンから最終製品のモジュールまで、全ての主要製造工程で80%以上のシェアを中国が占めるという極端な寡占状態にあります。
• この特定国への過度な依存は、地政学的リスクや供給途絶リスクを内包しており、東京都の再生可能エネルギー導入目標の安定的な達成を脅かす可能性があります。また、インバーター等のネットワーク機器にはサイバーセキュリティ上の懸念も指摘されています。
  • 客観的根拠：
    • IEA（国際エネルギー機関）の報告によると、太陽光パネルの主要製造工程すべてで中国が80%以上のシェアを占めています。EUは太陽光パネルの約9割を中国から輸入しており、供給途絶時のリスクが懸念されています。
    • （出典）大和総研「太陽光発電サプライチェーンの地政学リスク」2025年7月
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察：国際情勢の変化により、太陽光パネル等の調達が困難になり、再生可能エネルギー導入計画が停滞するリスクがあります。

行政の課題

膨大な既存ストックの改修という課題の規模

• 最大の課題は、省エネ性能の低い膨大な数の既存建築物をいかに改修していくかという点です。新築対策だけでは排出削減効果は限定的であり、既存ストックへの対策がなければ2050年目標の達成は不可能です。
• 前述の通り、既存の非住宅建築物の6割以上が現行省エネ基準に適合しておらず、これらの建築物への対策は喫緊の課題です。
  • 客観的根拠：
    • 国の第6次エネルギー計画では、2050年に建築物の「ストック平均」でZEH・ZEB水準の省エネ性能の確保を目指すとしており、既存建築物の性能向上が不可欠です。
    • （出典）一般社団法人 環境不動産普及促進機構「わが国の建築物・不動産分野におけるカーボンニュートラル達成に向けた課題」
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察：新築対策のみでは排出削減量が限定的となり、2050年のカーボンニュートラル目標の達成が不可能になります。

中小事業者への支援策の浸透

• ZEHの普及状況に見られるように、大手ハウスメーカーと中小工務店との間には、技術力や対応力に大きな格差が存在します。
• 補助金制度や技術支援策が、実際に地域の建設市場の大半を占める中小事業者に届き、活用されなければ、市場全体の底上げは実現しません。
  • 客観的根拠：
    • 2022年度のZEH化率は、大手ハウスメーカーの注文戸建で68.2%に達する一方、地域の工務店等では13.3%、建売住宅全体では4%と、事業者規模や住宅タイプによる著しい格差があります。
    • （出典）経済産業省 資源エネルギー庁「2022年度 ZEH（ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス）の普及・実態調査」令和5年
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察：大手事業者と中小事業者の間で技術・経営格差が拡大し、市場の健全な競争が阻害され、脱炭素化が一部に留まります。

縦割り行政の弊害と分野横断的連携の必要性

• 建築物の脱炭素化は、環境政策だけでなく、都市計画、住宅政策、産業振興、防災、福祉など、多岐にわたる行政分野と関連します。
• 効果的な施策を展開するためには、これらの分野を所管する部署間の縦割りを排し、総合的な視点で政策を立案・実行する連携体制の構築が不可欠です。
  • 客観的根拠：
    • 総務省の報告書では、地域の課題解決には民間企業の専門知識やノウハウを活用した官民連携が有効であると指摘されており、分野横断的なアプローチの重要性を示唆しています。
    • （出典）総務省「地域における効果的な脱炭素の取組に関する調査研究会報告書」令和6年
  • この課題が放置された場合の悪影響の推察：施策が断片的になり、相乗効果が生まれず、限られた行政リソースが非効率に投下されます。

行政の支援策と優先度の検討

優先順位の考え方

※各支援策の優先順位は、以下の要素を総合的に勘案し決定します。

• 即効性・波及効果
  • 施策の実施から効果発現までの期間が短く、複数の課題解決や多くの住民への便益につながる施策を高く評価します。
• 実現可能性
  • 現在の法制度、予算、人員体制の中で実現可能な施策を優先します。既存の仕組みを活用できる施策を重視します。
• 費用対効果
  • 投入する経営資源（予算・人員等）に対して得られるCO2​削減効果や社会的便益が大きい施策を優先します。
• 公平性・持続可能性
  • 特定の層だけでなく、幅広い住民に便益が及び、長期的・継続的に効果が持続する施策を高く評価します。
• 客観的根拠の有無
  • 政府の白書や調査、先行自治体の成功事例など、効果が実証されているエビデンスに基づく施策を優先します。

支援策の全体像と優先順位

• 建築物の脱炭素化を加速させるためには、「①既存建築物」「②新築建築物」「③それを支える地域エコシステム」という3つの領域に対して、総合的かつ戦略的にアプローチする必要があります。
• 排出量への影響が最も大きく、対策が遅れている「①既存建築物の断熱・省エネ改修の抜本的強化」を最優先課題（優先度：高）と位置づけます。これは、2050年カーボンニュートラル達成の成否を分ける最大の鍵です。
• 次に、将来にわたって低性能な建築物を増やさないための「②新築建築物における脱炭素化の標準化と誘導」を重要な課題（優先度：中）とします。2025年の法改正を円滑に施行させ、市場のスタンダードをZEH・ZEB水準へと引き上げることが目的です。
• そして、これらの取り組みを中長期的に持続可能なものにするための基盤として、「③脱炭素化を支える地域エコシステムの構築」を foundational な課題（優先度：中長期）と位置づけ、人材育成や住民意識の醸成に継続的に取り組みます。

各支援策の詳細

支援策①：既存建築物の断熱・省エネ改修の抜本的強化

目的

• 区内に存在する膨大な既存住宅・建築物ストックのエネルギー性能を飛躍的に向上させ、家庭・業務部門からのCO2​排出量を大幅に削減します。
• エネルギー価格高騰に対する住民の経済的負担を軽減するとともに、健康・快適性の向上、災害時のレジリエンス強化に貢献します。
  • 客観的根拠：
    • 東京都や国は、既存住宅の省エネ改修を促進するため、断熱窓やドア、高効率給湯器等に対する大規模な補助事業を実施しており、既存ストック対策の重要性を示しています。
    • （出典）東京都環境局「（令和7年度）既存住宅における省エネ改修促進事業」令和7年度
    • （出典）環境省「先進的窓リノベ2025事業」令和6年度

主な取組①：ワンストップ相談窓口の設置と診断・計画支援

• 区ごとに、建築士やエネルギー診断士などの専門家が常駐する「（仮称）脱炭素リフォーム・サポートセンター」を設置します。
• 住民や中小ビルオーナーに対し、電話や窓口での相談対応のほか、無料の簡易省エネ診断を実施し、個々の建物に応じた効果的な改修メニューを提案します。
• 複雑な補助金制度の案内から申請書類の作成支援までをワンストップで行い、利用者の負担を軽減します。
  • 客観的根拠：
    • 脱炭素先行地域に選定された世田谷区の計画では、住民に直接働きかける「プッシュ型の相談・診断体制」の構築が、事業の成功の鍵として位置付けられています。
    • （出典）世田谷区「脱炭素先行地域計画提案書」令和6年

主な取組②：性能向上レベルに応じた補助金制度の拡充

• 断熱改修（窓、壁、屋根等）や高効率設備（給湯器、空調等）の導入に対し、省エネ性能の向上レベル（BEIの削減率や断熱等級など）に応じて補助額を上乗せするインセンティブ設計を導入します。
• 国の「子育てエコホーム支援事業」や「先進的窓リノベ事業」、都の「既存住宅における省エネ改修促進事業」等の補助金との併用を前提とし、区独自の横出し・上乗せ補助を行うことで、利用者の自己負担を最小限に抑えます。
  • 客観的根拠：
    • 国の各種支援事業では、ZEHレベルや長期優良住宅レベルなど、より高い性能を達成した場合に補助額が加算される仕組みが採用されており、性能向上を強力に誘導しています。
    • （出典）国土交通省「長期優良住宅化リフォーム推進事業」令和6年度
    • （出典）国土交通省「子育てエコホーム支援事業について」令和5年

主な取組③：マンション管理組合への専門家派遣と合意形成支援

• 省エネ改修に関心のあるマンション管理組合に対し、マンション管理士や建築士等の専門家を無料で派遣する制度を創設します。
• 専門家が、建物の現状診断、長期修繕計画との整合性を踏まえた改修計画の提案、住民向け説明会の開催支援、総会での合意形成プロセスの助言など、計画の初期段階から実行までを伴走支援します。
  • 客観的根拠：
    • 国土交通省のガイドラインでは、省エネ改修の検討体制の構築段階から、専門家の技術的支援や合意形成支援を得ることが円滑な事業推進に不可欠であると指摘されています。
    • （出典）国土交通省「マンションの省エネ改修ガイドライン（改訂版）」令和6年
    • （出典）国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」

KGI・KSI・KPI

• KGI（最終目標指標）
  • 区内の家庭・業務部門からのCO2​排出量を2030年度までに2013年度比50%削減
    • データ取得方法： 特別区が公表する温室効果ガス排出量インベントリ（年次算定値）
• KSI（成功要因指標）
  • 区内の既存住宅ストックにおける省エネ基準適合率を2030年度までに50%に向上
    • データ取得方法： 補助金交付実績に基づく改修済み住宅戸数からの推計、定期的な住宅・土地統計調査データの分析
• KPI（重要業績評価指標）アウトカム指標
  • 補助事業を活用した省エネ改修住宅におけるエネルギー消費量の平均削減率30%
    • データ取得方法： 補助金申請時に提出されるBELS評価書や省エネ計算書、改修前後の光熱費データの任意提出による追跡調査
• KPI（重要業績評価指標）アウトプット指標
  • ワンストップ相談窓口の年間相談件数 500件
    • データ取得方法： 窓口の相談記録システムによる集計
  • 区の補助金制度を活用した年間改修戸数（戸建・集合住宅） 1,000戸
    • データ取得方法： 補助金交付実績の集計
  • マンション管理組合への専門家派遣 年間50組合
    • データ取得方法： 派遣事業の実施記録による集計

支援策②：新築建築物における脱炭素化の標準化と誘導

目的

• 2025年4月から施行される省エネ基準適合義務化を円滑に実施するとともに、国の目標であるZEH・ZEB水準を区内の標準仕様として早期に定着させます。
• 特に、地域の建設市場を支える中小工務店等の技術力・対応力を向上させ、区内全体の建築物の質を高めます。
  • 客観的根拠：
    • 国の目標は、2030年までに新築される住宅・建築物についてZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能を確保することです。
    • （出典）国土交通省「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」令和3年

主な取組①：中小工務店向け技術講習会・設計サポート

• 省エネ基準適合義務化やZEH・ZEB設計に関する実務的な技術講習会を、地域の建築士会や建設業団体と連携して定期的に開催します。
• 「（仮称）脱炭素リフォーム・サポートセンター」に、中小工務店向けの設計相談デスクを併設し、具体的な断熱・気密の施工方法や、省エネ計算（一次エネルギー消費量計算）に関する技術的支援を無料で行います。
  • 客観的根拠：
    • ZEH普及率において、大手ハウスメーカーと中小工務店との間に存在する著しい格差は、中小事業者への技術支援が不可欠であることを示しています。
    • （出典）経済産業省 資源エネルギー庁「2022年度 ZEH（ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス）の普及・実態調査」令和5年

主な取組②：「東京ゼロエミ住宅」等の高水準住宅への上乗せ補助

• 国の省エネ基準を上回る、東京都独自の高い環境性能基準「東京ゼロエミ住宅」の認証を取得した住宅に対し、区独自の上乗せ補助金（例：認証取得費用の一部補助、固定資産税の減免等）を提供します。
• これにより、市場における高付加価値住宅の供給を促進し、区全体の建築物の質の向上を牽引します。
  • 客観的根拠：
    • 「東京ゼロエミ住宅」は、令和5年12月末時点で累計1万件を超える設計確認が行われるなど、市場に広く認知された制度であり、これを活用することで効果的な誘導が期待できます。
    • （出典）東京都環境局「東京ゼロエミ住宅」基準・制度の概要」令和6年

主な取組③：ライフサイクルカーボン（LCCM）の評価導入と普及啓発

• 建築物の環境性能評価において、運用時のCO2​だけでなく、建材製造や建設、解体時を含むライフサイクル全体でのCO2​排出量（ライフサイクルカーボン）の視点を導入します。
• 区が実施する建築物環境計画書制度等において、ライフサイクルカーボン評価の報告を奨励し、優れた取り組みを表彰・公表することで、先進的な事業者へのインセンティブを与え、市場の意識改革を促します。
  • 客観的根拠：
    • 国の最新の方針である「令和7年版環境白書」では、ライフサイクルカーボン算定・削減の取組促進が明記されており、今後の政策の主流となることが確実です。
    • （出典）環境省「令和7年版 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」令和7年
    • （出典）内閣官房「建築物のライフサイクルを通じた脱炭素化に向けた取組の推進に係る関係省庁連携会議」令和5年

KGI・KSI・KPI

• KGI（最終目標指標）
  • 2030年度以降、区内で新築される住宅のZEH水準適合率100%達成
    • データ取得方法： 建築確認申請に紐づくBELS（建築物省エネルギー性能表示制度）評価書のデータ集計
• KSI（成功要因指標）
  • 区内の中小工務店が供給する新築戸建住宅のZEH水準適合率を2030年度までに80%に向上
    • データ取得方法： 補助金申請データ、事業者アンケート調査、BELSデータ分析
• KPI（重要業績評価指標）アウトカム指標
  • 区内における「東京ゼロエミ住宅」の年間認証取得件数 300件
    • データ取得方法： 東京都への認証実績照会、補助金交付実績
• KPI（重要業績評価指標）アウトプット指標
  • 中小工務店向け技術講習会の年間開催回数 12回、年間延べ参加者数 300人
    • データ取得方法： 講習会の実施記録
  • ライフサイクルカーボンに関する普及啓発セミナーの開催回数 年間4回
    • データ取得方法： セミナーの実施記録

支援策③：脱炭素化を支える地域エコシステムの構築

目的

• 建築物の脱炭素化を実際に担う地域の事業者や技術者の人材育成と確保を進め、地域内での経済循環を促進します。
• 住民の環境意識を高め、脱炭素化に向けた自発的な行動変容を促す社会的な土壌を醸成します。

主な取組①：地域連携による担い手育成プログラム

• 地域の建設業団体、専門学校、工業高校等と連携し、高断熱・高気密住宅の設計・施工技術に関する実践的な研修プログラムや、学生向けのインターンシップ機会を提供します。
• 省エネ診断士やZEHプランナーといった専門資格の取得費用を補助する制度を創設し、若手技術者のスキルアップを支援します。
  • 客観的根拠：
    • 建設業界は深刻な人材不足に直面しており、次世代の担い手育成は喫緊の課題です。厚生労働省も助成金等による支援を行っており、自治体レベルでの連携強化が求められます。
    • （出典）厚生労働省「建設労働者等の雇用の安定等を図るための取組」令和6年

主な取組②：区民向け普及啓発キャンペーンの展開

• 「快適・健康・お得なゼロエミぐらし」といったキャッチフレーズで、省エネ住宅の多様なメリットを分かりやすく伝えるキャンペーンを、区報、ウェブサイト、SNS、地域イベント等で多角的に展開します。
• 実際に省エネ改修を行った区民の体験談を紹介したり、区内のモデルハウスの見学会を開催したりすることで、住民が「自分ごと」として脱炭素化を捉える機会を提供します。
  • 客観的根拠：
    • 脱炭素型ライフスタイルへの転換には、金銭的インセンティブだけでなく、快適性や健康など、CO2削減以外の付加価値を訴求し、共感を呼ぶことが重要です。
    • （出典）環境省「脱炭素型ライフスタイルへの転換に資する施策検討会 とりまとめ」令和5年

主な取組③：公共施設の率先的な脱炭素化と情報公開

• 区が所有する庁舎、学校、公民館等の公共施設について、ZEB化改修や太陽光発電設備の導入を計画的に進め、そのプロセスと効果（エネルギー削減量、コスト、導入技術等）をウェブサイト等で積極的に公開します。
• これにより、区の率先した姿勢を示すとともに、民間事業者や住民にとって具体的なモデルケースを提供し、地域全体の取り組みを牽引します。
  • 客観的根拠：
    • 公共施設の脱炭素化は、CO2削減効果に加え、光熱費削減による財政負担の軽減、防災機能の向上、環境教育の場の提供など、多様なメリットをもたらします。
    • （出典）総務省「公共施設等の脱炭素化の先行事例」令和7年

KGI・KSI・KPI

• KGI（最終目標指標）
  • 区民の脱炭素化への意識・行動レベル（5段階評価アンケートによる平均スコア）を4.0以上に向上
    • データ取得方法： 2年に1度実施する区民意識調査
• KSI（成功要因指標）
  • 区内の省エネ建築関連の事業者数・雇用者数の増加率を5年間で10%向上
    • データ取得方法： 経済センサス-活動調査、事業者アンケート調査
• KPI（重要業績評価指標）アウトカム指標
  • 区の普及啓発イベント・セミナーの参加者満足度 90%以上
    • データ取得方法： イベント・セミナー後のアンケート調査
• KPI（重要業績評価指標）アウトプット指標
  • 担い手育成プログラムの年間修了者数 50人
    • データ取得方法： プログラム実施記録
  • 区有施設のZEB化達成率（延床面積ベース）を2030年度までに50%達成
    • データ取得方法： 公共施設台帳と改修実績の照合
  • 普及啓発キャンペーンの年間リーチ数（ウェブサイトPV、SNSインプレッション、広報誌発行部数等） 100万リーチ
    • データ取得方法： 各媒体のアクセス解析データ、発行部数記録

先進事例

東京都特別区の先進事例

千代田区「建築物環境計画書制度による先進的誘導」

• 千代田区は、東京都の制度に先行して独自の「建築物環境計画書制度」を平成22年から運用し、区内の建築物の環境性能向上を強力に誘導しています。本制度では、延床面積300㎡以上の新築・増改築を対象に、計画の初期段階から区との事前協議を義務付けています。
• 成功の要因は、省エネ基準を上回るCO2​削減目標（非住宅35%、住宅20%）を設定し、その達成度に応じて「特別優良環境建築」「優良環境建築」として評価・公表する仕組みと、その評価結果と「低炭素建築物助成制度」を直結させている点にあります。令和6年度からは助成金をCO2​削減量1トンあたり50万円（上限2,000万円）に拡充するなど、事業者にとって強力な経済的インセンティブを提供しています。
  • 客観的根拠：
    • （出典）千代田区「千代田区建築物環境計画書制度」令和6年度

世田谷区「脱炭素先行地域における住民参加型モデルの創造」

• 世田谷区成城地域は、国の「脱炭素先行地域」に選定され、住民参加を核とした先進的な取り組みを進めています。この取り組みは、単なる設備導入に留まらず、「地域で再エネを分かち合う成城コミュニティの育成」をビジョンに掲げています。
• 成功の要因は、行政主導だけでなく、地域団体や大学、東京電力パワーグリッド等の民間事業者と強固な連携体制を構築している点です。具体的には、プッシュ型の無料省エネ相談・診断体制を構築し、太陽光発電・蓄電池の最大限導入を支援するほか、電力センサーを活用したデータ分析や、将来的には地域内での電力融通（P2P個人間電力取引）モデルの構築を目指しています。これにより、技術導入とコミュニティ形成を両輪で進めています。
  • 客観的根拠：
    • （出典）世田谷区「脱炭素先行地域づくり」令和6年
    • （出典）世田谷区「脱炭素先行地域計画提案書」令和6年

江戸川区「太陽光発電・蓄電池の共同購入事業による普及促進」

• 江戸川区は、住民が共同で太陽光発電システムや蓄電池を購入することで、スケールメリットによる価格低減を図る「みんなでいっしょに自然の電気」事業を推進しています。
• 成功の要因は、行政が信頼できる支援事業者を選定し、購入希望者を募ることで、住民が安心して市場価格よりも安価に高品質な設備を導入できる仕組みを構築した点です。区が主催する説明会を通じて、制度の透明性を確保し、住民の不安を解消しています。これにより、個々の家庭ではハードルの高い設備導入を、地域ぐるみで後押しする効果的なモデルとなっています。
  • 客観的根拠：
    • （出典）ソーラーパートナーズ「江戸川区の太陽光発電・蓄電池の補助金」令和6年

全国自治体の先進事例

横浜市「Zero Carbon Yokohamaの推進と公共施設のZEB化」

• 横浜市は「Zero Carbon Yokohama」を宣言し、2050年までの脱炭素化を目指す先進都市です。その象徴的な取り組みが、2021年に供用開始した市役所新庁舎のZEB化です。
• 成功の要因は、地中熱や地下水、自然換気といった地域のエネルギー資源を最大限活用し、多様な省エネ技術を統合的に導入した点にあります。これにより、計画段階で一次エネルギー消費量を52%削減し、「ZEB Ready」認証を取得しました。さらに、市立学校へのPPAモデルによる太陽光発電・蓄電池の導入を計画的に進めるなど、公共施設が率先して脱炭素化と防災力向上を両立させるモデルを全市的に展開しています。
  • 客観的根拠：
    • （出典）環境省 地中熱ポータルサイト「横浜市庁舎」
    • （出典）(https://windjournal.jp/121431/)令和6年令和6年)

京都市「既存公共施設の戦略的省エネ改修によるZEB化」

• 京都市は、既存の公共施設である上下水道局総合庁舎の大規模改修において、先進的な省エネ技術を導入し、エネルギー消費量を45%削減するという高い目標を達成しました。
• 成功の要因は、既存の躯体を活かしつつ、外断熱工法やLow-E真空複層ガラスの採用による外皮性能の抜本的な向上と、アースチューブ（地中熱利用）や全熱交換器、BEMS（ビルエネルギー管理システム）といった最先端の設備技術を組み合わせた点です。これにより、新築だけでなく、改修によっても高い省エネ性能が実現可能であることを実証し、全国の既存ストック対策における重要なモデルケースとなっています。
  • 客観的根拠：
    • （出典）(https://www.mlit.go.jp/gobuild/content/001747223.pdf)令和4年令和4年)

参考資料［エビデンス検索用］

政府（省庁）白書・計画等

• 環境省「令和7年版 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」令和7年
• 経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」令和3年
• 国土交通省・経済産業省・環境省「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」令和3年
• 国土交通省「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律（令和４年法律第６９号）について」令和6年
• 国土交通省「令和4年版 国土交通白書」令和4年
• 内閣官房「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」令和元年

統計・調査データ

• 環境省「2022年度（令和4年度）の温室効果ガス排出・吸収量（確報値）について」令和6年
• 環境省「2023年度の温室効果ガス排出量及び吸収量（速報値）の概要」令和7年
• 経済産業省 資源エネルギー庁「2022年度 ZEH（ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス）の普及・実態調査」令和5年
• 国土交通省「住宅・建築物の省エネ性能の実態等に関する研究会とりまとめ（参考資料）」平成30年
• 国土技術政策総合研究所「オフィスビル等の省エネ性能に関する最新調査結果を公表」令和7年
• 株式会社矢野経済研究所「住宅リフォーム市場に関する調査（2024年）」令和6年
• (https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/pdf/honbun2022fykaku.pdf)令和6年令和6年)

東京都・特別区資料

• 東京都環境局「東京都建築物環境計画書制度」令和6年度
• 東京都環境局「建築物環境報告書制度」令和7年度
• 東京都環境局「（令和7年度）既存住宅における省エネ改修促進事業」令和7年度
• 東京都「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例（環境確保条例）」令和4年改正
• 特別区長会「特別区（23区）の温室効果ガス排出量等の状況について（2021年度速報値）」令和6年
• 千代田区「千代田区建築物環境計画書制度」令和6年度
• 世田谷区「脱炭素先行地域づくり」令和6年

その他

• 総務省「公共施設等の脱炭素化の先行事例」令和7年
• 国土交通省「マンションの省エネ改修ガイドライン（改訂版）」令和6年
• 大和総研「太陽光発電サプライチェーンの地政学リスク」2025年7月

まとめ

　東京都特別区において、建築物の脱炭素化は気候変動対策の最重要課題です。現状では、国の目標達成に向けて既存建築物の省エネ性能の低さや、中小事業者へのZEH普及の遅れといった課題が山積しています。これらの課題を克服するためには、既存建築物の断熱改修支援を最優先とし、新築建築物の高性能化誘導、そしてそれを支える人材育成や住民意識の醸成という3つの柱を統合的に推進することが不可欠です。
　本内容が皆様の政策立案等の一助となれば幸いです。
　引き続き、生成AIの動向も見ながら改善・更新して参ります。

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