2025.05.26 2025.07.19

医療的ケア児・重度障害児等への支援

masashi0025

はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。

概要（医療的ケア児・重度障がい児を取り巻く環境）

自治体が医療的ケア児・重度障がい児の支援を行う意義は、「こどもの学習権と健やかな成長の保障」と「家族への過度な負担を軽減し、インクルーシブな社会を構築すること」にあります。
医療的ケア児とは、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」（医療的ケア児支援法）において、人工呼吸器による呼吸管理や喀痰吸引など、日常生活を営むために恒常的に医療的ケアを受けることが不可欠なこども（18歳未満の者及び18歳以上の高校等在籍者）と定義されています。
- （出典）厚生労働省「医療的ケア児について」令和3年度 ¹
- （出典）医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律 ²
また、重症心身障害児とは、重度の肢体不自由と重度の知的障害が重複している状態のこどもを指す行政上の定義であり、医療的ケアを必要とするこどもも多く含まれます。
- （出典）文部科学省「重度障害児等の学校生活」 ³
近年の新生児医療の進歩を背景に、複雑な医療ニーズを抱えながら地域で生活するこどもの数が増加しており、従来の医療・福祉・教育の枠組みでは対応しきれない、分野横断的な支援体制の構築が急務となっています。
- （出典）国立成育医療研究センター「今、改めて考える医療的ケア児のこと」 ⁴
- （出典）eleminist「医療的ケア児とは？その定義や数、抱える課題、必要な支援について解説」 ⁵

意義

こどもにとっての意義

学習権の保障と教育機会の確保

適切な支援体制が整備されることで、こどもたちは病院や自宅での療養生活に留まらず、地域の学校に通い、同年代の仲間と共に学ぶ権利が保障されます。
- （出典）(https://medi-blanca.co.jp/medical/medical-care-child-support-law/) ⁶
- （出典）国立国会図書館「医療的ケア児の教育をめぐる動向」 ⁷

社会的自立とインクルージョンの促進

学校生活への参加は、社会性やコミュニケーション能力を育み、将来の社会的自立に向けた重要な基盤を形成します。障害のないこどもと共に学ぶインクルーシブな環境は、こどもの自己肯定感を高め、社会の一員としての意識を育みます。
- （出典）(https://medi-blanca.co.jp/medical/medical-care-child-support-law/) ⁶
- （出典）文部科学省「学校における医療的ケアの実施に関する検討会議最終報告の概要」 ⁸

心身の健全な発達

多様な他者との交流や体系的な教育を受ける機会は、知的・情緒的な発達を促し、長期的な孤立がもたらす二次的な発達の遅れを防ぐ上で不可欠です。

保護者にとっての意義

介護負担の軽減とレスパイト（休息）の確保

こどもが学校に通う時間は、24時間体制のケアを担う保護者にとって、心身を休めるための貴重なレスパイト時間となります。これにより、介護による極度の疲労や精神的ストレスが軽減されます。
- （出典）全国医療的ケア児者支援協議会「医療的ケア児支援法特設ページ」 ⁹
- （出典）認定NPO法人フローレンス「都内在住の障害児・医療的ケア児家庭の学校付き添いを調査」2025年度 ¹⁰

就労継続と経済的安定の実現

保護者の付き添いが不要になることで、特に母親が離職せずに就労を継続したり、再就職したりすることが可能になります。これは、世帯収入の安定と保護者自身のキャリア形成に直結します。
- （出典）全国医療的ケア児者支援協議会「医療的ケア児支援法特設ページ」 ⁹
- （出典）認定NPO法人フローレンス「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定で医療的ケア児家庭への支援が拡充！」 ¹¹

社会的孤立の防止

こどもが日中、学校で過ごすことで、保護者は地域活動への参加や自己実現のための時間を確保でき、介護に起因する社会的な孤立から脱却するきっかけを得られます。

学校・教師にとっての意義

インクルーシブ教育の実現

看護師等の専門職が配置されることで、学校は医療的ケア児を含む全てのこどもを受け入れるという責務を果たし、真のインクルーシブ教育を実現するための基盤が整います。
- （出典）文部科学省「学校における医療的ケアの実施に関する検討会議最終報告の概要」 ⁸
- （出典）豊島区「豊島区特別支援教育推進計画」 ¹²

教職員の専門性向上と負担軽減

医療的ケアは看護師、教育は教員という明確な役割分担がなされることで、教員は教育活動に専念できます。これにより、医療行為に関する過度なプレッシャーや事故のリスクから解放され、専門性を発揮しやすくなります。
- （出典）文部科学省「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律の施行等について」 ¹³
- （出典）全国医療的ケア児支援協議会「医療的ケア児支援法成立までの道のり」 ¹⁴

多様性を尊重する学校文化の醸成

多様なニーズを持つこどもが共に学ぶ環境は、他の生徒にとっても、違いを認め合い、他者を思いやる心を育む貴重な機会となり、学校全体の文化を豊かにします。

地域社会にとっての意義

共生社会の実現

地域全体で医療的ケア児とその家族を支える姿勢は、基礎自治体の成熟度を示す指標となります。誰もが安心して暮らせる共生社会の実現は、地域の魅力を高め、住民の定住促進にも繋がります。
- （出典）(https://medi-blanca.co.jp/medical/medical-care-child-support-law/) ⁶
- （出典）全国医療的ケア児者支援協議会「医療的ケア児支援法特設ページ」 ⁹

労働力の確保と経済の活性化

保護者が就労を継続できることは、地域における貴重な労働力の維持に貢献し、地域経済の活性化にも寄与します。

将来的な社会保障コストの抑制

こどもの発達段階に応じた適切な教育・療育への早期投資は、将来の自立を促し、成人期におけるより手厚い公的支援への依存度を低減させ、長期的な社会保障コストの抑制に繋がる可能性があります。

行政にとっての意義

法的責務の履行

2021年に施行された「医療的ケア児支援法」により、地方公共団体には支援体制を構築する「責務」が課せられており、具体的な支援策の実施は、この法的責務を果たすことに他なりません。
- （出典）全国医療的ケア児者支援協議会「医療的ケア児支援法特設ページ」 ⁹
- （出典）(https://tcy.co.jp/media/iryoutekikeaji-shienhou-2/) ¹⁵

縦割り行政の打破と連携モデルの構築

医療的ケア児支援は、教育委員会、福祉保健部局、健康部局など、複数の部署にまたがるため、必然的に部署横断的な連携が求められます。この取り組みを通じて構築された連携モデルは、他の複雑な行政課題を解決する上での貴重なノウハウとなります。
- （出典）eleminist「医療的ケア児とは？その定義や数、抱える課題、必要な支援について解説」 ⁵
- （出典）神奈川県「医療的ケア児等コーディネーターハンドブック」 ¹⁶

住民満足度と信頼の向上

困難を抱える家庭への具体的な支援は、行政サービスの成果として住民に実感されやすく、行政に対する満足度と信頼を高める効果的な施策です。

（参考）歴史・経過

1997年以前
- 「医療的ケア」という言葉が、教育現場で教員等が行う医療的生活援助行為を指す用語として誕生。東京都教育委員会が医療的ケアを必要とするこどもの就学先を原則として訪問学級とする見解を示し、学校教育における課題が顕在化しました。
- （出典）全国医療的ケア児支援協議会「医療的ケア児支援法成立までの道のり」 ¹⁴
1998年～2004年
- 文部省（当時）が看護師の支援下で教員がケアを担う研究事業を開始するも、医療行為の担い手をめぐる議論が紛糾。その後、厚生労働省が一定の条件下で非医療職者が喀痰吸引等を行うことは許容されるとの法的解釈（実質的違法性阻却）を示し、教員による実施への道が開かれました。
- （出典）全国医療的ケア児支援協議会「医療的ケア児支援法成立までの道のり」 ¹⁴
2005年～2011年
- 文部科学省が全国で「養護学校における医療的ケアに関するモデル事業」を展開。校内委員会の設置や教員研修など、学校内での組織的な実施体制の整備が進みました。
- （出典）北翔大学「特別支援教育における医療的ケアの現状と課題」 ¹⁷
2012年
- 社会福祉士及び介護福祉士法が改正され、一定の研修を受けた介護職員や教員等が、喀痰吸引や経管栄養等の特定の行為を実施できることが法的に制度化されました。
- （出典）文部科学省「学校における医療的ケアの実施について」 ¹⁸
2016年
- 改正児童福祉法が施行され、初めて法律に「医療的ケア児」が明記されるとともに、地方公共団体に支援を行う「努力義務」が課されました。
- （出典）全国医療的ケア児者支援協議会「医療的ケア児支援法特設ページ」 ⁹
2021年
- 画期的な「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が全会一致で可決・成立。国や地方公共団体の支援が「努力義務」から、より強制力のある「責務」へと格上げされ、都道府県等に医療的ケア児支援センターを設置することが義務付けられました。
- （出典）(https://medi-blanca.co.jp/medical/medical-care-child-support-law/) ⁶
- （出典）全国医療的ケア児者支援協議会「医療的ケア児支援法特設ページ」 ⁹

医療的ケア児・重度障がい児支援に関する現状データ

全国の医療的ケア児数は増加傾向

在宅で生活する医療的ケア児（0～19歳）は、全国で約2万人と推計されており、新生児医療の進歩などを背景に年々増加しています。特に、人工呼吸器を必要とするこどもは直近10年間で約2.3倍に増加しており、支援ニーズの増大と高度化がうかがえます。
- （出典）こども家庭庁「医療的ケア児等への支援体制の強化に向けた全国研修資料」2025年度 ¹⁹
- （出典）厚生労働省「医療的ケア児について」 ²⁰

学校在籍者数は通常学級で急増

文部科学省の最新調査（令和6年度調査、令和7年7月公表）によると、学校に在籍する医療的ケア児の総数は増加を続けています。
特別支援学校の在籍者数は8,700人（前年度8,565人から1.6%増）であるのに対し、幼稚園や小・中学校等の在籍者数は2,559人（前年度2,199人から16.4%増）と、通常教育の場での受け入れが急増しています。この傾向は、インクルーシブ教育の推進を反映する一方で、地域の小中学校における支援体制の構築が喫緊の課題であることを示しています。
- （出典）文部科学省「令和6年度学校における医療的ケアに関する実態調査の結果について」令和7年度 ²¹
- （出典）文部科学省「令和5年度学校における医療的ケアに関する実態調査の結果について」令和6年度 ²²

保護者の付き添い負担は依然として深刻

「保護者の付き添いなき通学」が法律の理念として掲げられているにもかかわらず、その実現は道半ばです。
特に小・中学校等では、在籍する医療的ケア児の12.7%が、学校生活全般で保護者の付き添いを必要としています。これは特別支援学校の3.8%と比較して3倍以上の割合であり、通常教育の場における看護師等の支援体制の脆弱さを浮き彫りにしています。
登下校時のみの付き添いを含めると、小・中学校等では52.6%（12.7%+39.9%）、特別支援学校では59.5%（3.8%+55.7%）の保護者が何らかの付き添いを行っており、依然として大きな負担を強いられています。
- （出典）文部科学省「令和6年度学校における医療的ケアに関する実態調査の結果について」令和7年度 ²¹
- （出典）(https://reseed.resemom.jp/article/2025/07/17/11319.html) ²³

支援を担う看護職員等の数は増加するも、需要に追いつかず

学校に配置される看護職員等の数は年々増加しており、令和6年度調査では特別支援学校で7,818人（前年度比6.1%増）、小・中学校等で2,745人（前年度比18.3%増）となっています。
しかし、在籍児童数の伸び、特に小・中学校等での急増（16.4%増）と比較すると、マンパワーの確保が追いついていない実態がうかがえます。看護師不足が保護者の付き添いが必要となる最大の理由であり、単なる頭数の増加だけでなく、安定した雇用形態や処遇改善が不可欠です。
- （出典）文部科学省「令和6年度学校における医療的ケアに関する実態調査の結果について」令和7年度 ²¹
- （出典）損保ジャパン総合研究所「医療的ケア児の家族の就労とレスパイトに関する課題」2024年度 ²⁴

医療的ケア児支援センターの設置と機能

医療的ケア児支援法の施行を受け、支援の中核拠点となる「医療的ケア児支援センター」の設置が全国で進み、令和4年8月末時点で42都道府県で設置済みまたは設置予定となっています。
東京都では、都立大塚病院内に区部を対象とするセンターが設置されており、相談支援や関係機関との連携調整を担っています。行政としては、この都道府県レベルのセンターと、各特別区の現場をつなぐ「コーディネーター」の役割が極めて重要になります。
- （出典）厚生労働省「医療的ケア児支援センターに関する都道府県調査結果」 ²⁰
- （出典）港区「医療的ケア児の支援について」 ²⁵

課題

こどもの課題

教育機会の不均等と社会的孤立

学校側の看護師不足や受け入れ体制の不備を理由に、こどもが希望する地域の学校への就学を断られたり、通学できても登校日数や滞在時間を制限されたりする事例が発生しています。これは、こどもの「学ぶ権利」を実質的に制限するものです。
また、保護者の付き添いが常態化することは、こどもが教員や友人と自立した関係を築く上での障壁となり、学校という社会集団の中で孤立感を深める一因となり得ます。
- 客観的根拠：
  - 認定NPO法人全国医療的ケア児者支援協議会が、人工呼吸器を使用するこどもは特に通学のハードルが高く、看護師がいても通学できない場合があると指摘しています。
    - （出典）全国医療的ケア児者支援協議会「医療的ケア児に関する問題点」 ²⁶
  - 文部科学省は、保護者の付き添いがこどもの自立を促す観点から望ましくないとし、真に必要な場合に限定するよう求めています。
    - （出典）文部科学省「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律の施行について（通知）」令和3年度 ¹³
- この課題が放置された場合の悪影響の推察：
  - こどもの学習権が侵害され、将来の社会的自立に必要な知識やスキルの獲得が困難になります。

保護者の課題

「学校への付き添い」による心身・経済的負担の極大化

看護師が確保できないことを理由に、多くの保護者（特に母親）が、登下校から授業中まで学校での付き添いを余儀なくされています。これは事実上、保護者が無償の看護師として動員されている状態です。
認定NPO法人フローレンスが実施した都内での調査では、障害児・医療的ケア児の保護者の約9割が付き添いを経験し、その負担から約6割が「心身の不調」を、約4割が「退職・休職・時短勤務」など仕事への影響を訴えています。
24時間365日の在宅ケアに加え、日中の学校付き添いが重なることで、保護者は休息や睡眠時間を全く確保できず、心身ともに極限まで疲弊し、虐待や家庭崩壊のリスクを高める「ケアラークライシス」に陥る危険性が極めて高い状況です。
- 客観的根拠：
  - 文部科学省の全国調査で、小・中学校等に通う医療的ケア児の12.7%が学校生活全般で保護者の付き添いを必要としていることが明らかになっています。
    - （出典）文部科学省「令和6年度学校における医療的ケアに関する実態調査の結果について」令和7年度 ²¹
  - 都内在住の保護者を対象とした調査では、付き添いの理由は「学校からの要望」が88.2%を占め、付き添いにより「退職・休職・時短勤務」を余儀なくされた保護者は36.6%に上ります。
    - （出典）認定NPO法人フローレンス「都内在住の障害児・医療的ケア児家庭の学校付き添いを調査」2025年度 ¹⁰
  - 養育者を対象とした調査では、86%が介護のために深夜に起床し、57%は自分の自由時間が2時間未満であると回答しており、極度の睡眠不足と休息不足の実態が示されています。
    - （出典）東邦大学「東京都城南地区における医療的ケア児の教育と養育に関する調査」2022年度 ²⁷
- この課題が放置された場合の悪影響の推察：
  - 介護離職による世帯収入の減少や、保護者の心身の健康悪化が、家庭崩壊や虐待のリスクを高めます。

きょうだい児への支援不足と家庭内葛藤

保護者の時間的・精神的リソースが医療的ケア児に集中せざるを得ないため、その兄弟姉妹である「きょうだい児」は、寂しさや疎外感を抱えたり、「良い子でいなければ」という過度な責任感を背負ったりする傾向があります。
きょうだい児は、自身の進学や就職、結婚といった人生の重要な選択において、障害のある兄弟の将来を案じ、無意識のうちに自らの可能性を狭めてしまうことがあります。これは「ヤングケアラー」問題とも密接に関連しています。
- 客観的根拠：
  - きょうだい児は、家族のケア役割を担うことで心理的問題を抱えやすく、家族の中で孤立感を持つことが指摘されています。
    - （出典）生活経済学研究「きょうだい児のケア経験とライフコース」2023年度 ²⁸
  - きょうだい児は、障がいのある兄弟姉妹へのケアに時間を使うため、自身の学業や部活動、友人関係に影響が出ることがあります。
    - （出典）Civil Action for Carers「きょうだい児とは？ヤングケアラーとの違い、抱える問題や必要な支援について解説」 ²⁹
  - 支援が家族内で完結し、外部に届きにくい構造的な課題があります。
    - （出典）愛媛大学医学部附属病院「きょうだい支援を考える」 ³⁰
- この課題が放置された場合の悪影響の推察：
  - きょうだい児がヤングケアラー化し、自己肯定感の低下や精神的な問題を抱え、家族全体の機能が低下します。

学校・教師の課題

医療的ケアを担う看護師の慢性的不足と配置の困難

全国的な看護人材不足に加え、学校現場特有の課題として「給与水準の低さ」「非正規雇用など不安定な身分」「医療機関とは異なる勤務環境への不安」などが、看護師確保を一層困難にしています。
自治体が看護師配置の予算を計上しても、応募者が現れずに配置できない「有償無人」の状態が多くの学校で発生しており、結果として保護者の付き添いに頼らざるを得ない構造的な問題となっています。
- 客観的根拠：
  - 総務省の調査では、看護師確保の困難な理由として、人材不足に加え、給与水準の低さや勤務環境への不安が挙げられています。
    - （出典）総務省行政評価局「医療的ケア児とその家族に対する支援に関する調査」令和6年度 ³¹
  - 保護者の付き添いが必要な理由の55.1%が「看護職員が配置されていないため」であり、看護師不足が直接的な原因であることが示されています。
    - （出典）損保ジャパン総合研究所「医療的ケア児の家族の就労とレスパイトに関する課題」2024年度 ²⁴
- この課題が放置された場合の悪影響の推察：
  - インクルーシブ教育が形骸化し、学校が医療的ケア児の受け入れを拒否せざるを得ない事態に発展します。

教職員の役割分担の曖昧さと過重な責任

看護師が不在または不足している状況では、担任教員が緊急時の対応への極度の不安や、本来の教育活動とケアへの配慮という二重の精神的負担を抱えることになります。
学校内での医療的ケア実施に関する具体的な手順や緊急時対応を定めた「実施要領」や、関係者間の役割分担を協議する「安全委員会」の設置が遅れている学校も少なくなく、個々の教員の責任に依存した危険な状態となっています。
- 客観的根拠：
  - 文部科学省は、学校内に医療的ケア安全委員会を設置し、教職員と看護職員等の役割分担や連携方法を明確にした実施要領を策定するよう指導しています。
    - （出典）文部科学省「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律の施行等について」 ¹³
  - 特別支援学校に勤務する看護師を対象とした調査では、教員との連携や役割分担に関する困難が課題として挙げられています。
    - （出典）大阪物療大学「特別支援学校に勤務する看護師の困難と課題に関する調査」 ³³
- この課題が放置された場合の悪影響の推察：
  - 医療事故のリスクが増大し、教職員の離職や、学校全体の安全管理体制の崩壊につながります。

地域社会の課題

災害時における脆弱性の高さと避難計画の欠如

医療的ケア児の多くは、人工呼吸器、吸引器、酸素濃縮器など、生命維持に電力を不可欠とする医療機器を使用しており、災害による停電は直ちに生命の危機に繋がります。
しかし、指定避難所（一般避難所）は、多数の避難者が密集するため衛生環境が悪化しやすく、また医療機器用の電源確保やプライバシーの確保も困難であるため、感染症に弱い医療的ケア児にとっては極めて過酷な環境です。福祉避難所も、主に高齢者を想定しており、医療的ケア児の受け入れ体制は整っていないのが実情です。
こうした状況にもかかわらず、個々のこどもの状況に応じた避難先や支援者を定めた「個別避難計画」の作成が多くの自治体で進んでおらず、災害発生時に誰が、どこへ、どのように避難させるのかが不明確なままになっています。
- 客観的根拠：
  - 災害時には、停電による医療機器の停止、避難所の衛生環境の悪化、必要な医療物資の不足など、医療的ケア児は複合的なリスクに直面します。
    - （出典）内閣府「重度障害児・者及び家族の災害対策・支援について」 ³⁴
  - 福祉避難所は医療的ケア児の利用を想定した電源確保や資材の備蓄がされていないケースが多いと指摘されています。
    - （出典）厚生労働省「医療的ケア児の災害時の支援について」 ³⁵
  - 大阪市の調査では、人工呼吸器装着者など医療依存度の高いこどもの避難には、電源やスペースを確保した避難所の確保が必要であると課題認識されています。
    - （出典）大阪市「第２期大阪市障害者計画等策定のためのニーズ調査結果」 ³⁶
- この課題が放置された場合の悪影響の推察：
  - 災害時に医療的ケア児が適切な支援を受けられず、「災害関連死」に至るリスクが極めて高くなります。

行政の課題

医療・福祉・教育にまたがる「縦割り行政」の弊害

医療的ケア児支援は、保健（健康づくり）、福祉（障害福祉サービス）、教育（学校）など複数の部局にまたがりますが、部局間の情報連携が不十分なため、保護者は同じ説明を何度も繰り返したり、複数の窓口を「たらい回し」にされたりする負担を強いられています。
特に、保育園から小学校へ、小学校から中学校へ、そして学校卒業後の地域生活へといったライフステージの移行期（トランジション）において、情報がスムーズに引き継がれず、支援が途切れてしまう「切れ目のない支援」の欠如が深刻な課題です。
- 客観的根拠：
  - 医療的ケア児支援法は関係機関の緊密な連携を基本理念としていますが、自治体によって支援体制に地域差が生じているのが現状です。
    - （出典）(https://medi-blanca.co.jp/medical/medical-care-child-support-law/) ⁶
  - 相談支援専門員（コーディネーター）からは、医療的知識の不足から関係機関との連携が円滑に進まない、役割分担が不明確であるといった課題が挙げられています。
    - （出典）東洋大学「医療的ケア児の相談支援におけるコーディネーターの役割と課題」 ³⁷
- この課題が放置された場合の悪影響の推察：
  - 支援の漏れや重複が発生し、行政コストが増大するとともに、住民の行政不信を招きます。

支援の核となる「コーディネーター」の機能不全

縦割り行政の弊害を解消し、多分野の支援を繋ぐキーパーソンとして期待される「医療的ケア児等コーディネーター」ですが、多くの自治体でその役割を担う人材が絶対的に不足しています。
また、コーディネーターに任命されても、医療機関や学校に対する調整権限や予算が伴わないため、関係機関への協力を得られず、実質的に機能不全に陥っているケースが少なくありません。東京都の研修事業の遅れなど、育成体制の課題も指摘されています。
- 客観的根拠：
  - 東京都のコーディネーター養成研修が入札の遅れにより、開催時期が大幅にずれ込んでいる実態が自治体の協議会で報告されています。
    - （出典）日野市「令和6年第1回日野市医療的ケア児等支援協議会議事録」令和6年度 ³⁸
  - コーディネーターの役割として、地域の福祉サービス等の把握や関係機関との連絡調整が挙げられていますが、医療的知識の不足や、必要な社会資源自体の不足により、調整が困難な状況が指摘されています。
    - （出典）千代田区「医療的ケア児支援に関する地域協議会資料」令和5年度 ³⁹
    - （出典）東洋大学「医療的ケア児の相談支援におけるコーディネーターの役割と課題」 ³⁷
- この課題が放置された場合の悪影響の推察：
  - 縦割り行政の弊害を解消するはずのキーパーソンが機能せず、制度が形骸化し、家族の負担が継続します。

行政の支援策と優先度の検討

優先順位の考え方

※各支援策の優先順位は、以下の要素を総合的に勘案し決定します。

即効性・波及効果：
- 施策の実施から効果発現までの期間が短く、保護者の負担軽減など目に見える効果があり、かつ、こどもの教育機会確保や家族のQOL向上など、複数の課題解決に横断的に貢献する施策を高く評価します。
実現可能性：
- 現行の医療的ケア児支援法や障害者総合支援法等の法的枠組みを活用でき、予算的・人的制約の中で段階的にでも実行可能な施策を優先します。既存の仕組みを応用できる施策は、新たな体制構築が必要な施策より優先度が高くなります。
費用対効果：
- 投下する経営資源（予算・人員等）に対し、保護者の就労復帰による経済効果や、将来的な社会保障費の抑制など、長期的・社会的な便益が大きい施策を優先します。
公平性・持続可能性：
- 特定の家庭だけでなく、区内に在住する全ての医療的ケア児家庭が等しく恩恵を受けられる公平性を持ち、一過性の取り組みでなく、継続可能な制度として設計されている施策を高く評価します。
客観的根拠の有無：
- 国の調査データや、他の先進自治体における成功事例など、効果を示す客観的な根拠（エビデンス）が存在する施策を優先します。

支援策の全体像と優先順位

医療的ケア児支援における課題は複合的ですが、その根源には「学校現場でのケア提供者の不足」と「支援システムの分断」という二大要因があります。したがって、支援策は「①学校現場への直接支援」「②システム連携の強化」「③家族全体への支援」という3つの階層で体系的に構築することが効果的です。
最優先（High Priority）：支援策① 「保護者の付き添いなき就学」実現に向けた包括的支援体制の構築
- 保護者の付き添いは、こどもの教育権侵害、保護者の就労断念、心身の疲弊、きょうだい児問題など、あらゆる課題の根源となっています。この「付き添い」を解消することの波及効果は絶大であり、最も即効性が求められる喫緊の課題であるため、最優先とします。
次優先（Medium Priority）：支援策② 医療・福祉・教育の連携強化による「切れ目のない支援」の実現
- 支援策①を実効性のあるものにし、持続可能な制度として定着させるための基盤となる施策です。縦割り行政の解消は中長期的な課題ですが、その要となるコーディネーター機能の強化は比較的短期で着手可能であり、支援の質を根本から改善します。
推奨（Recommended）：支援策③ 家族全体のQOL向上を目指すレスパイトケアと「きょうだい児」支援の拡充
- こども本人への支援体制が安定した上で、家族全体のウェルビーイング（幸福）を向上させるために不可欠な施策です。既存の障害福祉サービス（一時預かり等）の拡充や、新規事業として展開しやすく、住民の満足度に直結するため、積極的に推進すべきです。

各支援策の詳細

支援策①：「保護者の付き添いなき就学」実現に向けた包括的支援体制の構築

目的

区立小中学校における看護師の安定的かつ柔軟な配置を実現し、保護者の付き添いを原則として不要とすることで、こどもの教育を受ける権利と、保護者の就労や社会参加の権利を両立させます。
- 客観的根拠：
  - 小・中学校等における保護者の付き添い率は12.7%に上り、その主な理由は看護職員の不足です。この課題の直接的な解決を目指します。
    - （出典）文部科学省「令和6年度学校における医療的ケアに関する実態調査の結果について」令和7年度 ²¹
    - （出典）総務省行政評価局「医療的ケア児とその家族に対する支援に関する調査」令和6年度 ³²

主な取組①：教育委員会主導による「スクールナース・バンク」制度の創設

区内在住または近隣で勤務可能な看護師有資格者（特に勤務から離れている潜在看護師）を対象に、「スクールナース・バンク」として事前登録を募ります。
教育委員会が登録者リストを一元管理し、各学校の医療的ケア児の状況や必要なケア内容に応じて、最適な人材をマッチング・派遣する仕組みを構築します。これにより、各学校が個別に採用活動を行う負担を軽減し、区全体で人材を効率的に活用します。
- 客観的根拠：
  - 大阪府豊中市では、市立病院が看護師の採用・研修・派遣を担うことで、安定した人材確保に成功しており、自治体が一元的に採用・派遣を担うモデルの有効性が示唆されています。
    - （出典）市立豊中病院「学校園医療的ケア看護職員派遣事業報告書」 ⁴⁰

主な取組②：多様な勤務形態と魅力的な処遇の提示

フルタイム勤務だけでなく、「週2日・午前中のみ」「特定の曜日の特定の時間帯のみ」といった短時間・柔軟な勤務形態を積極的に導入し、子育て世代や副業を希望する看護師が応募しやすい環境を整備します。
近隣自治体や医療機関の給与水準を調査し、医療的ケアという高度な専門性を要する業務内容に見合った、競争力のある報酬単価を設定します。正規職員だけでなく、登録型の非常勤職員に対しても適切な手当を支給します。
- 客観的根拠：
  - 看護師確保が困難な理由として「給与水準の低さ」「勤務環境への不安」が指摘されており、処遇改善が人材確保の鍵となります。
    - （出典）総務省行政評価局「医療的ケア児とその家族に対する支援に関する調査」令和6年度 ³²

主な取組③：地域の訪問看護ステーションとの積極的な連携協定

区内の複数の訪問看護ステーションと包括的な連携協定を締結し、学校への看護師派遣を制度化します。
在宅療養者の訪問の合間など、日中の比較的空き時間がある訪問看護師を学校に派遣してもらう「地域医療資源活用モデル」を構築します。これにより、新たな人材を一から探すことなく、既存の専門人材を有効に活用できます。
- 客観的根拠：
  - 令和3年度の障害福祉サービス等報酬改定では、外部の看護職員が事業所を訪問して支援した場合の評価が拡充されており、学校教育の場でも同様の連携が期待されます。
    - （出典）厚生労働省「令和3年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」 ⁴¹

主な取組④：ICTを活用した遠隔支援・モニタリング体制の導入

各学校に配置された看護師が、判断に迷う場面や緊急時に、タブレット端末等を通じて都立小児総合医療センター等の専門医や指導的看護師に即座に相談できる遠隔支援システムを導入します。
こども家庭庁が推進する「医療的ケア児等医療情報共有システム（MEIS）」を区として積極的に活用し、かかりつけ医以外でも迅速に医療情報にアクセスできる体制を整え、学校看護師の心理的負担を軽減し、安全性を高めます。
- 客観的根拠：
  - 新潟市では、ICTを活用して院内学級と原籍校をつなぎ、こどもの学習機会を保障した実績があり、ICTが物理的・心理的障壁を乗り越える有効なツールであることが示されています。
    - （出典）(https://niigata-giga.info/pdf/e-support/zyugyo_tukuri.pdf) ⁴³
  - 国はMEISの活用を推進しており、令和7年度概算要求でも関連予算が計上されています。
    - （出典）こども家庭庁「令和6年度こども家庭庁予算（案）の概要」 ⁴⁵
    - （出典）こども家庭庁「令和7年度障害児支援課概算要求概要」 ⁴⁶

KGI・KSI・KPI

KGI（最終目標指標）
- 区立小中学校における保護者の学校生活への付き添い率：0%（緊急時や入学当初の引継ぎ期間等、合理的な理由がある場合を除く）
  - データ取得方法： 教育委員会による全校対象の年2回の実態調査
KSI（成功要因指標）
- 医療的ケア児が在籍する全ての学校への看護師配置率：100%（常勤、非常勤、派遣等形態を問わず）
  - データ取得方法： 教育委員会の人事データ及び業務委託契約状況
KPI（重要業績評価指標）アウトカム指標
- 医療的ケア児の保護者（希望者）の就労率：前年度比10%向上
  - データ取得方法： 福祉主管課が実施する保護者への匿名アンケート調査（年1回）
KPI（重要業績評価指標）アウトプット指標
- 「スクールナース・バンク」の年間新規登録者数：10名以上
  - データ取得方法： 教育委員会の登録者リスト管理
- 地域の訪問看護ステーションとの連携協定締結数：区内5カ所以上
  - データ取得方法： 教育委員会の協定書管理台帳

支援策②：医療・福祉・教育の連携強化による「切れ目のない支援」の実現

目的

区内に「医療的ケア児等コーディネーター」を中核とした分野横断的な連携基盤を構築し、縦割り行政の弊害を解消します。これにより、こどものライフステージ（乳幼児期・学齢期・卒業後）に応じた切れ目のない支援を提供し、家族がワンストップで相談できる体制を確立します。
- 客観的根拠：
  - 医療的ケア児支援法は、国及び地方公共団体の責務として、保健、医療、福祉、教育等が緊密な連携の下、切れ目なく行われる支援体制の構築を求めています。
    - （出典）(https://medi-blanca.co.jp/medical/medical-care-child-support-law/) ⁶

主な取組①：区による「医療的ケア児等コーディネーター」の指名・委託と活動支援

区内の相談支援事業所や訪問看護ステーション等に所属する経験豊富な専門職（看護師、保健師、相談支援専門員等）を、区が「医療的ケア児等コーディネーター」として指名または委託します。
日野市や新宿区の事例を参考に、コーディネーターがサービス計画策定前の相談支援や関係機関との調整会議等を行った場合に、活動時間に応じた報酬を区が直接支払う制度を創設し、活動を経済的に支援します。
コーディネーターには、教育委員会、福祉事務所、保健センター等の担当者が一堂に会する「多職種連携会議」を必要に応じて招集できる権限を付与し、その役割を実質的に強化します。
- 客観的根拠：
  - 日野市では、コーディネーターの業務委託と活動に対する報酬支払制度を導入し、多摩地区で画期的な取り組みと評価されています。
    - （出典）日野市「令和6年第1回日野市医療的ケア児等支援協議会議事録」令和6年度 ³⁸
  - 新宿区では、コーディネーターを配置する民間事業所に対し、基盤整備や計画策定前の相談業務に係る経費を補助する制度を実施しています。
    - （出典）新宿区「医療的ケア児等コーディネーター配置事業補助金」 ⁴⁷

主な取組②：「個別支援計画」の統合プラットフォーム導入

保護者の同意を前提に、福祉分野の「サービス等利用計画」、教育分野の「個別の教育支援計画」、防災分野の「個別避難計画」など、各分野で作成される支援計画を、セキュアなICTプラットフォーム上で一元的に共有・管理する仕組みを導入します。
これにより、関係支援者は常に最新の情報を共有でき、重複した聞き取りをなくし、一貫性のある支援を提供することが可能になります。
- 客観的根拠：
  - こども家庭庁は、支援が必要なこどもや家庭の情報を関係機関で連携し、プッシュ型の支援に繋げる「こどもデータ連携」の取り組みを推進しており、自治体での活用が期待されています。
    - （出典）こども家庭庁「令和7年度こども政策の推進に係る主な経費概算要求」 ⁴⁸

主な取組③：ライフステージ移行期の「移行支援カンファレンス」の制度化

保育園・幼稚園から小学校へ、小学校から中学校へ、中学校から卒業後の進路（福祉事業所や就労等）へと移行する全てのタイミングで、コーディネーターが主催する「移行支援カンファレンス」の開催を制度化します。
カンファレンスには、移行前と移行先の両機関の担当者、保護者、本人、主治医等が参加し、ケアの方法、学習支援上の配慮、環境整備などについて具体的な情報を引き継ぎ、スムーズな移行を実現します。
- 客観的根拠：
  - 世田谷区の相談支援センター「Hi・na・ta」では、病院からの退院前カンファレンスに参加するなど、移行期支援の重要性が実践されています。この取り組みを就学・進級時にも応用します。
    - （出典）愛知県「医療的ケア児等コーディネーターの役割」 ¹
    - （出典）世田谷区「世田谷区医療的ケア相談支援センターHi・na・ta 事業実施状況報告書」 ²

KGI・KSI・KPI

KGI（最終目標指標）
- 保護者の支援制度に対する総合満足度：80%以上
  - データ取得方法： 福祉主管課が実施する保護者への匿名アンケート調査（年1回）
KSI（成功要因指標）
- 支援を必要とする全ての医療的ケア児家庭に対するコーディネーターの担当配置率：100%
  - データ取得方法： 福祉主管課のケース管理データ
KPI（重要業績評価指標）アウトカム指標
- 初回相談から具体的な支援（サービス利用等）開始までの平均日数：14日以内
  - データ取得方法： コーディネーターの相談記録・活動報告の分析
KPI（重要業績評価指標）アウトプット指標
- コーディネーターが主催する多職種連携会議の年間開催回数：50回以上
  - データ取得方法： コーディネーターの活動報告集計
- 対象者全員に対する「移行支援カンファレンス」の実施率：100%
  - データ取得方法： 教育委員会及び福祉主管課の実施記録の照合

支援策③：家族全体のQOL向上を目指すレスパイトケアと「きょうだい児」支援の拡充

目的

支援の対象を医療的ケア児本人だけでなく、その保護者や兄弟姉妹（きょうだい児）にも広げ、家族全体のQOL（生活の質）を向上させることで、家庭内のケア機能を維持・強化し、こどもの健やかな成長を支える基盤を強固にします。

主な取組①：在宅レスパイト事業の利用要件緩和と提供体制の拡充

看護師が自宅を訪問して一定時間ケアを代替する「在宅レスパイト事業」について、利用時間や年間利用回数の上限を緩和し、保護者がより柔軟に休息を取れるようにします。
地域の児童発達支援事業所や放課後等デイサービス事業所が、緊急時の一時預かりや短時間のレスパイト機能を担えるよう、看護師配置に対する区独自の補助制度を拡充し、身近な地域でのレスパイト先の確保を推進します。
- 客観的根拠：
  - 東京都は「重症心身障害児（者）等在宅レスパイト事業」を実施しており、これを区市町村が主体となってさらに拡充することが求められています。
    - （出典）東京都福祉保健局「東京都の医療的ケア児支援について」 ³
  - 練馬区では令和7年度から、医療的ケア児者を一時的に預かる事業を充実させる計画です。
    - （出典）練馬区「医療的ケア児者・障害児の家族を応援します」 ⁵

主な取組②：「きょうだい児」専門の相談窓口と交流プログラムの創設

子ども家庭支援センターや児童館等に、きょうだい児の心理に詳しい相談員を配置し、きょうだい児が安心して自身の悩みや気持ちを話せる専門の相談窓口を開設します。
NPO等と連携し、きょうだい児同士が気兼ねなく遊んだり、同じ立場だからこそ分かり合える気持ちを共有したりできるワークショップやレクリエーション活動を定期的に開催します。
- 客観的根拠：
  - 練馬区では令和7年秋頃を目途に、きょうだい児の不安を解消し、家族の安定を図るための支援事業を開始する予定です。
    - （出典）練馬区「障害児の兄弟姉妹（きょうだい児）を支援します」 ⁵
  - きょうだい児支援を行うNPOの実践では、きょうだい同士の交流が孤立感の解消に繋がることが示されています。
    - （出典）愛媛大学医学部附属病院「きょうだい支援を考える」 ⁶

主な取組③：令和6年度障害福祉サービス等報酬改定の活用促進

区内の障害児通所支援事業所を対象に、令和6年度報酬改定で新設・拡充された「子育てサポート加算」（きょうだい支援やペアレント・トレーニング等を評価）や「入浴支援加算」の算定要件や活用方法に関する説明会を実施します。
これにより、事業者が家族支援サービスを提供する経済的インセンティブを高め、区内での支援サービスの多様化と質の向上を後押しします。
- 客観的根拠：
  - 令和6年度報酬改定では、こどもの発達支援と合わせて家族を支える観点から、きょうだいへの配慮や入浴支援などが新たに評価対象となりました。
    - （出典）厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定の概要」 ⁷
    - （出典）認定NPO法人フローレンス「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定で医療的ケア児家庭への支援が拡充！」 ⁸

KGI・KSI・KPI

KGI（最終目標指標）
- 保護者の介護負担感の20%軽減
  - データ取得方法： ザリット介護負担尺度日本語版（J-ZBI）等、標準化された指標を用いた保護者アンケート調査（事業開始前後で比較）
KSI（成功要因指標）
- レスパイトサービスの年間利用延べ日数：前年度比50%増加
  - データ取得方法： 福祉主管課が管理するサービス利用実績データ
KPI（重要業績評価指標）アウトカム指標
- きょうだい児向けプログラム参加者の自己肯定感・QOLスコアの改善
  - データ取得方法： プログラム参加前後での尺度を用いたアンケート調査
KPI（重要業績評価指標）アウトプット指標
- きょうだい児向けプログラムの年間開催回数：12回以上
  - データ取得方法： 事業実施団体からの事業報告書
- レスパイトサービスを提供可能な区内事業所数：5カ所増加
  - データ取得方法： 福祉主管課の事業者指定・登録状況の確認

先進事例

東京都特別区の先進事例

世田谷区「相談支援センター『Hi・na・ta』を核とした伴走型支援」

世田谷区は、地域の医療拠点である国立成育医療研究センターの敷地内に「医療的ケア相談支援センター Hi・na・ta」を設置し、医療機関との物理的・人的な近接性を最大限に活用しています。このセンターの最大の特徴は、病院からの退院調整段階からコーディネーターが介入し、在宅生活への移行をスムーズに支援する点です。さらに、就学相談、福祉サービスの利用調整、災害時個別支援計画の作成支援まで、一人のコーディネーターが家族に寄り添い、切れ目なく伴走する包括的な支援体制を構築しています。
- 客観的根拠：
  - （出典）世田谷区「世田谷区医療的ケア相談支援センターHi・na・ta 事業実施状況報告書」令和5年度 ⁹
  - （出典）千代田区「（参考）世田谷区医療的ケア相談支援センターHi・na・taの概要」 ²

江戸川区「多様なサービスを網羅したガイドブックと官民連携による受入体制整備」

江戸川区は、情報提供のアクセシビリティ向上に注力しています。相談窓口、利用可能な各種手当、福祉サービス、学校関連、防災対策といった多岐にわたる情報を一冊にまとめた「えどがわ医療的ケア児ガイド」を作成・配布することで、保護者が膨大な情報の中から必要な支援を探し出す負担を大幅に軽減しています。また、行政サービスだけでなく、民間事業者が運営する重症児対応のインクルーシブ保育園の開設を後押しするなど、官民が連携して地域に受け入れの場を創出している点も特筆されます。
- 客観的根拠：
  - （出典）江戸川区「えどがわ医療的ケア児ガイド」 ¹⁰
  - （出典）おれんじハウス「重心児のお子さんも通えるインクルーシブ保育園が新規オープン」 ¹²

杉並区「看護師の複数配置と応援体制による保育所・学童での受入推進」

杉並区は、医療的ケア児の受け入れにおける最大の障壁である「看護師不在のリスク」に正面から取り組んでいます。区立保育園において、看護師を複数名配置することを基本とし、さらに急な欠勤等に備える「応援看護師」の体制を構築しています。これにより、常に看護師が園内にいる状態を確保し、安全で安定した受け入れを実現しています。この成功モデルを学童クラブにも展開し、放課後の居場所づくりを進めている点は、他の自治体にとっても大いに参考になります。
- 客観的根拠：
  - （出典）杉並区「杉並区保育園における医療的ケア児の受入れに関するガイドライン」 ¹³
  - （出典）杉並区議会山本ひろ子区議「一般質問の概要医療的ケア児・重症心身障害児の支援」2023年 ¹⁴

全国自治体の先進事例

大阪府豊中市「病院・教育委員会の連携による看護師採用・定着モデル」

豊中市は、学校への看護師確保という全国共通の課題に対し、市立豊中病院と教育委員会が連携するという画期的な解決策を打ち出しました。具体的には、採用・研修・労務管理を専門とする市立病院が看護師を雇用し、教育委員会に派遣するモデルです。これにより、病院の持つ採用ブランド力や安定した雇用条件、専門的な研修体制を活用でき、質の高い人材の確保と定着に成功しています。病院だよりや市の広報誌、紹介動画など、積極的な広報戦略も成功の重要な要因です。
- 客観的根拠：
  - （出典）市立豊中病院「学校園医療的ケア看護職員派遣事業の取組」 ¹⁶

新潟市「ICT活用による院内学級と原籍校のインクルーシブ教育」

新潟市では、長期入院を余儀なくされているこどもたちの「学びの保障」と「所属感の維持」を、ICTの活用によって実現しています。院内学級に在籍するこどもが、タブレット端末を通じて原籍校の授業にリアルタイムで参加。体力的な問題で難しかった音楽の授業では演奏アプリを、図工の授業では描画アプリを使うことで、これまで参加が困難だった実技教科にも主体的に取り組めるようになりました。ICTが物理的な距離や身体的な制約を乗り越え、真のインクルージョンを促進した好事例です。
- 客観的根拠：
  - （出典）(https://leadingdxschool.mext.go.jp/feature/1754/) ¹⁷
  - （出典）(https://niigata-giga.info/pdf/e-support/zyugyo_tukuri.pdf) ¹⁸

参考資料［エビデンス検索用］

国・政府機関関連資料

東京都・特別区関連資料

その他自治体・研究機関・NPO等資料

まとめ

　東京都特別区における医療的ケア児・重度障がい児支援は、こどもの成長と家族の生活を支える根幹的な施策です。喫緊の課題である「保護者の付き添い」を解消するため、看護師の安定的確保を中心とした学校現場への直接支援を最優先で進めるべきです。同時に、コーディネーターを核とした分野横断的な連携体制を構築し、ライフステージを通じた切れ目のない支援を実現することが求められます。これらの取り組みは、法的責務の履行に留まらず、誰もが安心して暮らせる共生社会の実現に向けた重要な一歩となります。
　本内容が皆様の政策立案等の一助となれば幸いです。
　引き続き、生成AIの動向も見ながら改善・更新して参ります。

#15 教育 #16 福祉 #1602 福祉（障害福祉）

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