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【DX推進課】システム運用保守 完全マニュアル

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目次
  1. はじめに
  2. 情報システム課の役割とシステム運用保守の意義
  3. システム運用保守の基本業務
  4. 地方自治体情報システムの歴史的変遷と現代的課題
  5. 法的根拠と遵守すべきガイドライン
  6. ガバメントクラウドへの移行と影響
  7. 障害対応とインシデント管理
  8. 事業継続計画(BCP)と災害対策
  9. 業務改革とDXの推進
  10. 生成AIの活用可能性
  11. 運用保守業務の品質向上と効率化の実践
  12. 先進事例に学ぶ:東京都「スマート東京」の取組
  13. まとめ:未来を支える情報システム課職員へのエール

はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。

情報システム課の役割とシステム運用保守の意義

なぜシステム運用保守が重要なのか

 地方自治体における情報システムは、今や住民サービスと行政運営の根幹を支える社会インフラそのものです。住民票の写しや各種証明書の発行、税金の納付、オンラインでの申請手続きといった住民サービスから、財務会計、人事給与、文書管理といった内部業務に至るまで、そのすべてが情報システムの安定稼働を前提としています。もしシステムが何らかの原因で停止すれば、それは単なる業務の遅延に留まりません。窓口業務が麻痺し、住民は必要な行政サービスを受けられなくなり、最悪の場合、防災情報の発信が遅れるなど、住民の生命や財産に関わる事態に発展する可能性すらあります。

 したがって、システム運用保守とは、この社会インフラを決して止めないための、極めて重要な業務です。日々の監視、定期的なメンテナンス、セキュリティ対策、そして万が一の障害発生時の迅速な復旧。これら一連の活動は、住民の日常生活と行政活動の継続性を担保する生命線であり、その責任は非常に重いものであると認識する必要があります。

住民サービスと行政運営を支える「縁の下の力持ち」

 情報システム課の職員は、しばしば「機械の番人」と見られがちですが、その実態は大きく異なります。皆さんの仕事は、行政サービス全体の品質と効率を直接的に左右する、戦略的な役割を担っています。例えば、システムのパフォーマンスを維持・向上させることは、窓口の待ち時間短縮やオンライン申請の快適性向上に直結し、住民満足度を高めます。また、庁内システムの安定稼働は、全職員の業務効率化を支え、創出された時間をより質の高い住民サービスへと振り分けることを可能にします。

 特に現代は、国が主導するデジタル社会の実現に向け、地方自治体も大きな変革期を迎えています。後述する「ガバメントクラウド」への移行や、それに伴う業務システムの標準化は、まさにその象徴です。このような変革期において、情報システム課は単なるシステムの受け手ではなく、自団体の将来像を見据え、最適な形で変革を推進していく「改革のエンジン」としての役割が期待されています。皆さんの専門知識と日々の地道な業務が、自治体全体の未来を支えているのです。

求められる職員像:技術者、企画者、そして改革者として

 このような状況下で、情報システム課の職員に求められる資質も変化しています。従来のサーバーやネットワークの運用保守といった「技術者」としてのスキルはもちろんのこと、それに加えて新たな能力が不可欠となっています。

 第一に、「企画者」としての視点です。国の政策動向、例えばガバメントクラウドやシステム標準化といった大きな流れを正確に理解し、それを自団体の実情に落とし込み、どのようなシステム構成が最適なのか、どのようなサービスを導入すれば住民や職員の課題を解決できるのかを考え、企画・立案する能力です。

 第二に、「改革者」としての実行力です。新しいシステムの導入は、必ず業務プロセスの変更を伴います。情報システム課だけで改革は成し遂げられません。業務を所管する各部署の職員と密にコミュニケーションを取り、丁寧に説明し、時には粘り強く説得しながら、組織全体を巻き込んで改革を前に進めていく調整能力や推進力が求められます。技術、企画、そして改革。この三つの要素を兼ね備えた人材こそが、これからの地方自治体を支える情報システム課職員の理想像と言えるでしょう。

システム運用保守の基本業務

「運用」と「保守」の違いを理解する

 システム運用保守という言葉は一括りにされがちですが、「運用」と「保守」は明確に異なる概念です。この違いを理解することが、業務の全体像を把握する第一歩となります。

 総務省の定義によれば、「運用」とは、情報システムの設計された仕様及び構成の変更を原則として行わずに、情報システムの稼働状態を維持することを目的とした行為です。一方、「保守」とは、機能維持、品質維持等、情報システムを設計された仕様どおりに動作させることを目的とした行為を指します。

 これを分かりやすく例えるならば、運用は「日常の安定を守る活動」、保守は「未来の安定と改善のための活動」と言えます。運用がなければ日々のサービスが提供できず、保守がなければシステムの陳腐化や新たな脅威に対応できなくなります。両者は車の両輪であり、どちらが欠けてもシステムの健全な維持は不可能です。

日常業務の全体像

 情報システム課の日常業務は多岐にわたりますが、主に以下の活動に大別されます。これらの一つ一つが、システムの安定稼働に不可欠な要素です。

システム監視

 システム監視は、運用業務の中核をなす活動です。サーバー、ネットワーク機器、各種業務アプリケーションが正常に稼働しているかを、専用の統合監視ツールなどを用いて24時間365日体制でチェックします。CPU使用率、メモリ使用量、ディスク空き容量、ネットワークトラフィックなどの指標を常時監視し、異常な兆候が見られた場合には、システム障害に至る前にプロアクティブ(予防的)な対応を行います。監視システムから発せられるアラートは、障害の早期発見・早期対応の第一報であり、迅速かつ的確な初動対応の起点となります。近年では、長崎市や町田市のように、統合監視ツールを導入し、マルチベンダー環境の複雑なシステム群を一元的に監視することで、運用管理の負荷を軽減する事例も見られます。

データバックアップと復旧

 自治体が保有する住民情報や税情報などのデータは、万が一にも失うことが許されない極めて重要な行政資産です。このデータを守る最後の砦が、データバックアップです。定期的に(多くの場合は毎日)、システム上のデータを別の記録媒体や遠隔地のデータセンターに複製・保管します。しかし、バックアップは「取っておけば安心」というものではありません。最も重要なのは、「いざという時に、確実にデータを復旧できること」です。そのため、定期的に復旧テストを実施し、バックアップデータが破損していないか、定められた時間内に復旧手順を完了できるかを確認する訓練が不可欠です。

セキュリティ管理

 サイバー攻撃の脅威は年々高度化・巧妙化しており、自治体も常にその標的となっています。セキュリティ管理は、これらの脅威から情報資産を守るための継続的な活動です。具体的には、OSやソフトウェアで発見された脆弱性を解消するためのセキュリティパッチの適用、ウイルス対策ソフトの定義ファイルの更新、不正なアクセスを検知・防御するためのファイアウォールやIDS/IPS(不正侵入検知・防御システム)のログ監視などが挙げられます。また、職員のアカウント管理も重要です。異動や退職があった際に速やかにアクセス権限を見直す、必要最小限の権限のみを付与するといった地道な管理が、内部不正や情報漏えいのリスクを低減させます。

パフォーマンス管理

 「システムは動いているが、動作が非常に遅い」という状態も、実質的には住民サービスや業務に支障をきたす障害の一種です。パフォーマンス管理は、システムの応答時間や処理能力を継続的に測定・分析し、快適な利用環境を維持する活動です。将来的な利用者数やデータ量の増加を予測し、性能劣化が起こる前にサーバーの増強やネットワーク帯域の増速といった計画を立案・実行する、プロアクティブな視点が求められます。

ユーザーサポート業務(ヘルプデスク)

 庁内の職員から寄せられる「パソコンが動かない」「システムの操作方法が分からない」といった問い合わせに対応するのも、情報システム課の重要な役割です。このヘルプデスク業務は、単なるトラブルシューティングに留まりません。問い合わせの内容を分析することで、職員がどのような点でつまずきやすいのか、マニュアルのどこが分かりにくいのかといった課題が見えてきます。よくある質問とその回答をFAQとして整備・公開したり、問い合わせをきっかけに研修会を企画したりすることで、庁内全体のITリテラシー向上に貢献できます。また、職員からの「もっとこうなれば便利なのに」という声は、次のシステム改修に向けた貴重なヒントの宝庫です。ヘルプデスクは、現場の課題を吸い上げる重要な接点なのです。

ドキュメント管理の重要性

 システム運用保守業務において、各種ドキュメントの整備と適切な管理は、業務の品質と継続性を支える生命線です。具体的には、以下のようなドキュメントが挙げられます。

  • 手順書・マニュアル:
     障害発生時の復旧手順、定型的なメンテナンス作業の手順などを文書化したもの。
  • システム構成図:
     サーバーやネットワーク機器がどのように接続され、構成されているかを図示したもの。
  • 変更履歴:
     いつ、誰が、どのシステムに、どのような変更を加えたかを記録したもの。

 これらのドキュメントが正確に維持管理されていれば、担当者が不在の場合や、人事異動で担当者が代わった場合でも、迅速かつ的確な対応が可能となります。逆にドキュメントがなければ、業務が特定の個人の知識や経験に依存する「属人化」を招き、担当者の不在がそのまま業務の停滞や障害対応の遅れに直結してしまいます。地味な作業に見えますが、組織としての対応力を担保するために極めて重要な業務です。

地方自治体情報システムの歴史的変遷と現代的課題

汎用機からオープンシステム、そしてクラウドへ

 地方自治体の情報システムの歴史は、技術の進化と共に大きく変遷してきました。1970年代から80年代にかけては、大型の汎用機(メインフレーム)が主流でした。これは非常に高価で専門的な知識が必要でしたが、大量のデータを安定的に処理する能力に長けていました。

 1990年代以降になると、より安価で柔軟な「オープンシステム」が普及し始めます。特定のメーカーに依存しないサーバーやOS、ソフトウェアを組み合わせてシステムを構築するこの流れは、多くの自治体に採用されました。しかし、このオープン化の流れは、後述する「個別最適化」という課題を生む一因ともなりました。

 そして2010年代以降、インターネット経由で必要なITリソースを利用する「クラウドコンピューティング」が急速に普及しました。自前でサーバー等の資産を持つ必要がなく、コスト削減や運用の柔軟性向上といったメリットがあるため、自治体においてもクラウドの活用が積極的に進められています。この一連の変遷を理解することは、なぜ庁内に多種多様なシステムが混在し、複雑な構成になっているのかという歴史的背景を知る上で重要です。

個別最適化の限界とシステム標準化の流れ

 長年にわたり、日本の地方自治体は、それぞれの業務プロセスや地域独自の条例に合わせて、情報システムを個別にカスタマイズ(改造)してきました。これは「個別最適化」と呼ばれ、一見すると現場の使いやすさを追求した合理的な判断のように思えます。しかし、この個別最適化が積み重なった結果、全国の自治体は深刻な共通課題に直面することになりました。

 具体的には、以下のような問題が顕在化しました。

  • 高コスト化:
     自治体ごとに仕様が異なるため、システムの維持管理や、法改正のたびに行われる改修作業が個別対応となり、多大な費用が発生する。
  • ベンダーロックイン:
     特定のベンダーしか改修できない複雑なシステムとなり、競争原理が働かず、費用が高止まりする。
  • データ連携の阻害:
     自治体間でデータ形式やコードが異なるため、広域連携や国との情報連携がスムーズに進まない。
  • 人材不足への対応困難:
     専門的な知識を持つ職員の確保・育成が追いつかず、システムの維持すら困難になる。

 こうした「個別最適化の限界」という歴史的経緯こそが、国を挙げて「地方公共団体情報システムの標準化・共通化」を推進する最大の理由です。国が定める標準仕様に準拠したシステムを、後述する「ガバメントクラウド」上で共同利用することにより、これらの課題を抜本的に解決することを目指しているのです。

J-LIS(地方公共団体情報システム機構)の役割

 地方自治体の情報システムを語る上で、J-LIS(地方公共団体情報システム機構)の存在は欠かせません。J-LISは、地方公共団体が共同で運営する法人であり、国と地方を繋ぐ情報インフラの中核を担っています。

 その主な業務は以下の通りです。

  • 住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)の運営:
     全国の市区町村を結び、住民情報の確認を可能にするシステムの全国センターを管理しています。
  • マイナンバーカード関連業務:
     マイナンバーの生成や通知、マイナンバーカードの発行・管理システムの運用など、マイナンバー制度の根幹を支えています。
  • 公的個人認証サービスの提供:
     マイナンバーカードに搭載される電子証明書の発行・管理を行い、e-Taxなどのオンライン行政手続きを実現しています。
  • 総合行政ネットワーク(LGWAN)の運用:
     地方公共団体を相互に接続する、セキュリティが確保された行政専用のネットワークを運用しています。

 このように、J-LISは個々の自治体システムの上位に位置し、全国的な行政サービスの基盤を提供しています。J-LISが提供するサービスやシステムを理解することは、自治体システムの全体像を正しく把握する上で不可欠です。

法的根拠と遵守すべきガイドライン

システム運用保守に関わる主要法令

 地方自治体のシステム運用保守業務は、職員の判断だけで行われるものではなく、様々な法律や条例に基づいて実施されなければなりません。特に以下の法律は、業務の根幹に関わる重要なものです。

サイバーセキュリティ基本法

 この法律は、サイバーセキュリティに関する施策を総合的かつ効率的に推進することを目的としています。重要なのは、国の責務だけでなく、「地方公共団体は、国との適切な役割分担を踏まえて、サイバーセキュリティに関する自主的な施策を策定し、及び実施する責務を有する」と、地方公共団体の責務を明確に定めている点です。この法律に基づき、近年では地方自治法も改正され、各自治体はサイバーセキュリティに関する基本方針を策定し、公表することが義務付けられました。これにより、セキュリティ対策は「できればやる」という努力目標から、「必ずやらなければならない」法的義務へと位置づけが変わりました。

個人情報の保護に関する法律

 住民の氏名、住所、生年月日、そしてマイナンバー(特定個人情報)といった機微な情報を取り扱う地方自治体にとって、個人情報保護法は最も遵守すべき法律の一つです。この法律では、個人情報を取り扱う事業者(地方公共団体も含む)に対して、情報の漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置(安全管理措置)を講じることを義務付けています。

 システム運用保守の観点からは、以下のような措置が求められます。

  • 組織的安全管理措置:
     情報セキュリティに関する責任者を定め、インシデント発生時の報告連絡体制を整備する。
  • 人的安全管理措置:
     職員に対して定期的な研修を実施し、秘密保持に関する規定を就業規則等に盛り込む。
  • 物理的安全管理措置:
     サーバールーム等の重要な区域への入退室管理を徹底し、個人情報を含む媒体の盗難・紛失を防止する。
  • 技術的安全管理措置:
     アクセス制御を実施し、業務上必要な職員以外が個人情報にアクセスできないようにする。また、外部からの不正アクセスを防止する仕組みを導入する。

 特に、個人情報を含むシステムの運用を外部に委託する場合には、委託先が十分な安全管理措置を講じているかを監督する責任が自治体側にあります。

総務省「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」の徹底解説

 総務省が策定・公表しているこのガイドラインは、全国の地方公共団体が情報セキュリティ対策を講じる際の基本となる指針であり、自治体のセキュリティ担当者にとっての「バイブル」とも言えるものです。これは法的な強制力を持つものではありませんが、国からの技術的助言として、事実上の標準(デファクトスタンダード)となっており、すべての自治体はこのガイドラインに準拠したセキュリティポリシーを策定・運用することが求められます。

情報資産の分類(機密性・完全性・可用性)

 ガイドラインの基本的な考え方の一つに、リスクベースのアプローチがあります。これは、庁内にある全ての情報資産を同じレベルで保護するのではなく、その重要度に応じて分類し、適切なレベルの対策を講じるという考え方です。分類の軸となるのが、以下の3つの観点です。

  • 機密性 (Confidentiality):
     認可されていない個人、エンティティ、プロセスに対して、情報を使用させず、また開示しない特性。個人情報など、漏えいした場合の影響が大きい情報ほど機密性が高いとされます。
  • 完全性 (Integrity):
     情報が正確であり、改ざんされていない状態を維持する特性。決裁文書や会計データなど、正確性が求められる情報ほど完全性が高いとされます。
  • 可用性 (Availability):
     認可されたエンティティが、要求したときにアクセス及び使用が可能である特性。住民サービスに直結するシステムなど、停止した場合の影響が大きい情報ほど可用性が高いとされます。

 この3つの観点(CIA)で情報資産を評価・分類し、例えば「機密性3(最高レベル)」の情報には多要素認証を必須にするなど、分類に応じた対策を講じることが求められます。

ネットワーク分離(三層の対策)

 2015年に発生した日本年金機構における大規模な個人情報漏えい事件を教訓として、総務省が提唱した自治体情報システムの強靭化モデルが「三層の対策」です。これは、庁内ネットワークを以下の3つのセグメント(領域)に論理的に分離し、それぞれ異なるセキュリティレベルで管理するものです。

  1. マイナンバー利用事務系:
     マイナンバーを含む特定個人情報を取り扱う、最もセキュリティレベルが高いネットワーク。原則として他の領域との通信は遮断されます。
  2. LGWAN接続系:
     総合行政ネットワーク(LGWAN)に接続し、他の自治体との情報連携や内部の業務システム(財務会計など)で利用するネットワーク。
  3. インターネット接続系:
     インターネットへの接続やメールの送受信、ウェブサイトの閲覧などに利用するネットワーク。

 この分離により、万が一インターネット接続系の端末がマルウェアに感染しても、LGWAN接続系やマイナンバー利用事務系の重要な情報にまで被害が及ぶのを防ぐことができます。近年では、クラウドサービスの利用拡大やテレワークといった働き方の変化に対応するため、セキュリティを確保しつつ利便性を向上させた「βモデル」「β’モデル」といった新たなモデルも示されています。

クラウドサービス利用における留意点

 クラウドサービスの利用が一般化する中で、ガイドラインでは外部サービスを利用する際の留意点についても詳細に規定しています。システムを庁内で管理する(オンプレミス)場合と異なり、クラウドではデータセンターの物理的な管理や基盤となるソフトウェアのセキュリティ対策などをサービス事業者に委ねることになります。しかし、だからといって自治体の責任がなくなるわけではありません。

 ガイドラインでは、以下の点を確認・実施することを求めています。

  • 選定・契約時の対策:
     事業者が十分なセキュリティ対策を講じているか、データの保管場所は国内か、障害発生時のSLA(サービス品質保証)はどうなっているかなどを確認し、契約書に明記する。
  • 運用・保守時の対策:
     事業者の運用状況を定期的に報告させ、必要に応じて監査を行う。
  • 契約終了時の対策:
     契約終了後、クラウド上に保存されていた自治体のデータが、確実に消去されることを確認する。

 クラウド利用においては、情報システム課の役割が「作る・直す」から「事業者を選定し、管理・監督する」へと変化していることを認識する必要があります。

遵守事項のチェックリスト

 日々の業務において、これらの法令やガイドラインを遵守しているかを確認するために、以下のようなチェックリストを活用することが有効です。これは、自己点検や内部監査の際にも利用できます。

遵守事項根拠法令・ガイドライン条項具体的な確認項目(例)担当部署
アクセス制御の実施個人情報保護法 安全管理措置– 業務上不要なアクセス権限が職員に付与されていないか – 退職・異動者のアカウントは速やかに削除・無効化されているか – 特権ID(管理者権限)の利用は厳格に管理・記録されているか情報システム課
セキュリティ監査の定期的実施情報セキュリティポリシーに関するガイドライン– 年1回以上の内部監査または外部監査が計画・実施されているか – 監査で指摘された事項に対する改善計画が策定され、進捗が管理されているか情報システム課・監査担当
委託先の監督個人情報保護法 安全管理措置– 委託契約書に秘密保持義務や安全管理措置に関する条項が明記されているか – 委託先における個人情報の取扱状況について、定期的な報告徴収や実地調査を行っているか情報システム課・事業所管課
ログの取得と監視情報セキュリティポリシーに関するガイドライン– 主要なサーバーやネットワーク機器のアクセスログ、操作ログが取得・保管されているか – ログを定期的に監視し、不審なアクセスの有無を確認する体制があるか情報システム課
職員への教育・訓練個人情報保護法 安全管理措置– 全職員を対象とした情報セキュリティ研修が年1回以上実施されているか – 標的型攻撃メール訓練などを定期的に実施し、職員の意識向上を図っているか情報システム課・人事課
情報システムの脆弱性対策情報セキュリティポリシーに関するガイドライン– OSやソフトウェアのセキュリティパッチ情報を常に収集し、速やかに適用する手順が定められているか – 定期的に脆弱性診断を実施し、リスクを評価・対策しているか情報システム課

ガバメントクラウドへの移行と影響

ガバメントクラウドとは何か

 ガバメントクラウドとは、デジタル庁が整備・管理する、政府共通のクラウドサービス利用環境のことです。地方自治体は、この共通基盤上で提供される、国の標準仕様に準拠した業務アプリケーション(住民基本台帳、税、福祉など)を、サービスとして利用することになります。

 これまでの自治体システムは、各団体が個別にサーバーを購入・設置し、ソフトウェアを開発・改修してきました。これに対しガバメントクラウドは、インフラ(サーバー等)とアプリケーションを全国の自治体で共同利用するモデルです。これにより、各自治体が個別にシステムを調達・運用する必要がなくなります。

 類似の言葉に「自治体クラウド」がありますが、両者は異なります。「自治体クラウド」は、複数の自治体が共同でデータセンターやシステムを利用する取り組みですが、その範囲は共同利用するグループ内に限定されます。一方、ガバメントクラウドは国が主体となって構築する全国統一の基盤であり、標準化の度合いがより高く、全国レベルでの連携を可能にする点が大きな違いです。

移行によるメリットと期待される効果

 ガバメントクラウドへの移行により、地方自治体には多岐にわたるメリットが期待されています。

  • コストの削減:
     サーバー等のハードウェアを自前で保有する必要がなくなり、複数の自治体でアプリケーションを共同利用するため、個別の開発・改修費用や維持管理コストが削減されると期待されています。
  • 迅速かつ柔軟なシステム構築:
     共通基盤上に用意されたアプリケーションを選択して利用するため、新たなサービスを迅速に導入できます。法改正などにも、アプリケーション提供事業者が一括で対応するため、自治体ごとの改修作業が不要になり、迅速な対応が可能となります。
  • データ連携の容易化:
     全国の自治体が標準化されたシステムを利用するため、自治体内の部署間はもちろん、他の自治体や国とのデータ連携が円滑になります。これにより、例えば転出入の手続きにおいて、住民が提出する書類が削減されるといった「ワンスオンリー」サービスが実現しやすくなります。
  • セキュリティの強化:
     国が定める高いセキュリティ基準を満たしたクラウド環境を利用できるため、個々の自治体で対策を講じるよりも、高度で最新のセキュリティを確保できます。24時間365日の監視体制などにより、サイバー攻撃や情報漏えいのリスクを低減します。
  • 業務継続性の向上:
     堅牢なデータセンターでシステムが運用されるため、災害時においてもデータが保全され、業務を継続しやすくなります。庁舎が被災した場合でも、別の場所からシステムにアクセスして業務を再開することが可能です。

移行における課題と実務上の留意点

 ガバメントクラウドへの移行は、多くのメリットが期待される一方で、現場の実務においては複数の深刻な課題が顕在化しています。この移行は単なる技術的なシステムの入れ替えではなく、自治体の財政や組織運営のあり方そのものに構造的な変革を迫る、一種の「行政改革」と捉えるべきです。

運用コスト増加の可能性とその対策

 国の目標としては「3割のコスト削減」が掲げられていますが、デジタル庁が実施した先行事業の検証では、多くの自治体、特に既に複数の団体でシステムを共同利用する「自治体クラウド」を導入している団体において、ガバメントクラウド移行後に運用経費が増加する、あるいは大幅に増加するという試算結果が報告されています。

 このコスト増の主な要因は、これまでハードウェア等を共同利用することで得られていたスケールメリットが失われる一方で、新たにガバメントクラウドの利用料や、そこへ接続するための高度なセキュリティが確保された通信回線の費用といった、新たな固定費が発生するためです。この課題への対策として、都道府県が中心となって市町村の通信回線を一括で調達する「共同調達」が有効な手段として推奨されています。スケールメリットを働かせることで、個別に契約するよりも通信コストを大幅に抑制できる可能性があります。

人材不足への対応

 ガバメントクラウドへの移行と運用には、従来のシステム保守とは異なる、高度な専門知識を持つ人材が不可欠です。具体的には、クラウドサービスのコストが適正かを見極め最適化するスキルや、複数のベンダー(アプリケーション事業者、回線事業者など)と技術的な仕様について高度な調整を行う交渉力などが求められます。しかし、多くの自治体ではこうした専門人材が圧倒的に不足しているのが現状です。

 この深刻な人材不足に対応するため、自団体内での育成に加えて、外部の専門家を積極的に活用する視点が重要になります。国が支援する「CIO補佐官」の派遣制度を利用したり、近隣の自治体と連携して専門人材を共同で雇用・育成する「人材プール」を形成したりするなど、一つの自治体で抱え込まず、広域で課題解決を図る取り組みが求められています。

データ移行の難しさ

 現在利用しているシステムから、標準準拠システムへデータを移行する作業は、移行プロジェクトの中でも特に困難で時間のかかる工程です。これは、単にデータをコピー&ペーストするような単純な作業ではありません。各自治体が長年の「個別最適化」によって独自に設定してきた項目やコード体系を、国の定める標準仕様に合わせて変換・整理する必要があります。データの不整合や欠損を洗い出して修正する「データクレンジング」と呼ばれる作業には、膨大な時間と労力を要することを覚悟しなければなりません。

2025年度末に向けた移行スケジュールと職員の役割

 国は、原則として2025年度末までに、対象となる基幹業務システム(住民基本台帳、固定資産税、国民健康保険など20業務)をガバメントクラウド上の標準準拠システムへ移行することを目標としています。ただし、移行の難易度が特に高いシステムについては、国が「特定移行支援システム」と位置づけ、期限を猶予する方針も示されています。

 この大きな変革の中で、情報システム課の職員は、自団体が策定した移行計画を正しく理解し、プロジェクトの進行管理者としての役割を担うことが求められます。具体的には、アプリケーションを提供するベンダー、庁内の業務所管課、そして国や都道府県の関係機関との間に立ち、仕様の確認、スケジュールの調整、課題の整理といった重要な調整役を果たす必要があります。移行プロジェクトを円滑に進めるためには、技術的な知識だけでなく、高度なコミュニケーション能力とプロジェクトマネジメント能力が不可欠です。

障害対応とインシデント管理

標準的な障害対応フロー

 どれだけ万全な対策を講じていても、システム障害の発生を完全にゼロにすることはできません。重要なのは、障害が発生した際に、いかに迅速に検知し、影響を最小限に食い止め、復旧させるかです。そのためには、事前に標準的な対応フローを定め、関係者全員がそれを理解しておく必要があります。一般的な障害対応フローは以下の通りです。

初期対応(検知と一次切り分け)

 障害対応の第一歩は、異常の「検知」です。これは、監視システムからのアラートや、システムを利用している職員・住民からの報告によって行われます。通報を受けたら、まずは冷静に事象を確認します。「いつから」「どのシステムで」「どのような事象が」発生しているのか、5W1Hを意識して情報を整理します。

連絡とエスカレーション

 事象の概要を把握したら、あらかじめ定められた連絡・報告ルール(エスカレーションルール)に従い、速やかに関係部署や上司へ第一報を入れます。特に、住民サービスに広範囲な影響が及ぶような重大な障害の場合、詳細な原因調査よりも、迅速な情報共有が優先されます。防災情報の発信が遅延した事例のように、初動の遅れが深刻な事態を招くこともあるため、夜間・休日でも確実に担当者へ連絡がつく体制を構築しておくことが重要です。

影響範囲の調査と特定

 関係者への連絡と並行して、障害がどの業務、どの範囲の利用者に影響を及ぼしているのかを調査・特定します。例えば、特定の部署の端末だけで発生している問題なのか、庁内ネットワーク全体の問題なのか、あるいは外部の住民向けサービスにまで影響が及んでいるのかを切り分けます。影響範囲を正確に把握することで、対応の優先順位を決定し、適切な対応体制を組むことができます。

原因究明と恒久対策

 影響範囲を特定し、可能であれば暫定的な対処(代替機への切り替えなど)を行った後、本格的な原因究明に着手します。サーバーのログファイルや監視データの分析、過去の類似障害事例の確認などを通じて、障害の根本原因を突き止めます。原因が特定できたら、同じ障害が二度と発生しないようにするための恒久的な対策(システムの修正、設定変更など)を計画し、実施します。

報告とナレッジ化

 障害が完全に収束した後、一連の対応を「障害報告書」として文書化します。報告書には、障害の発生日時、影響範囲、原因、対応経緯、そして最も重要な「再発防止策」を明記します。この報告書を組織全体で共有し、得られた教訓をナレッジ(知識)として蓄積することで、組織全体の障害対応能力を向上させていくことができます。

ケーススタディ:過去の重大障害から学ぶ

 過去に発生した重大なシステム障害は、単なる技術的な失敗事例ではなく、組織が抱える構造的な課題を浮き彫りにする貴重な教訓の宝庫です。これらの事例を深く分析すると、障害の根本原因が、技術そのものよりも、契約の不備や委託先の管理体制、特定の事業者に依存するリスクといった、組織的・構造的な問題にある場合が少なくありません。

IaaS基盤の広域障害事例(日本電子計算の事例)

 2019年12月、日本電子計算が提供する自治体向けIaaS(Infrastructure as a Service)で大規模なシステム障害が発生し、このサービスを利用していた全国約50の自治体で、ウェブサイトの閲覧不可、証明書発行の停止、メールの送受信不能など、甚大な影響が長期間にわたりました。

 直接的な原因は、ストレージ機器のファームウェアのバグという技術的な問題でした。しかし、この障害がこれほど広範囲かつ長期化した背景には、より根深い問題が存在します。それは、多くの自治体が単一の事業者に基幹システムを依存していたという「サプライチェーンのリスク」と、クラウドサービスのSLA(サービス品質保証)や障害発生時の報告・復旧体制について、自治体側が契約内容を十分に精査し、リスクを評価できていなかったという「ベンダーマネジメントの課題」です。この事例は、クラウドサービスを利用する上で、自治体には提供事業者を適切に評価し、契約を通じて厳格に管理・監督する責任があることを強く示唆しています。

ランサムウェアによる業務停止事例

 近年、国内外で猛威を振るっているのが、システム内のデータを暗号化して使用不能にし、復号と引き換えに身代金を要求する「ランサムウェア」攻撃です。自治体も例外ではなく、攻撃を受け、住民票発行などの行政サービスが完全に停止に追い込まれた事例が報告されています。

 ランサムウェアの主な侵入経路は、VPN装置など外部との接続点の脆弱性を突いた攻撃や、職員がだまされて開いてしまう標的型攻撃メールです。この種の攻撃からシステムを守るためには、VPN装置のパスワードを強固なものに設定し、常に最新のセキュリティパッチを適用するといった侵入防止対策が不可欠です。しかし、それ以上に重要なのが、万が一侵入された場合を想定した「バックアップ」です。身代金を支払うことなく業務を復旧させる唯一の手段は、攻撃を受ける前の正常な状態のバックアップデータからシステムを復元することです。オフラインや遠隔地など、攻撃者の手が届かない場所にバックアップを保管しておくことが、事業継続の鍵となります。

標的型攻撃メールによる情報漏えい事例

 2015年の日本年金機構における約125万件の個人情報漏えい事件は、標的型攻撃メールの脅威を社会に知らしめました。業務委託先などを装った巧妙なメールの添付ファイルを開封したことで端末がマルウェアに感染し、内部ネットワークを通じて情報が窃取されたこの事件は、全国の自治体に衝撃を与えました。

 この事件の最大の教訓は、セキュリティ対策が「技術」と「人」の両輪でなければならないということです。この事件をきっかけに、総務省は前述の「三層の対策」によるネットワーク分離という技術的な強靭化モデルを全国の自治体に要請しました。しかし、どんなに強固な技術的対策を講じても、職員自身がだまされてマルウェアの侵入を許してしまっては意味がありません。そのため、全職員を対象とした定期的な「標的型攻撃メール訓練」の実施が極めて重要になります。訓練を通じて、不審なメールを見分ける目を養い、万が一開封してしまった場合に速やかに報告する意識を醸成することが、人的な脆弱性を補う上で不可欠です。

事業継続計画(BCP)と災害対策

なぜIT-BCPが必要なのか:東日本大震災の教訓

 2011年に発生した東日本大震災は、地方自治体の情報システムにおける災害対策のあり方を根本から見直す大きな契機となりました。多くの被災自治体では、津波や地震によって庁舎そのものが物理的に損壊し、サーバー等の情報機器が使用不能になりました。さらに、庁舎が無事だった自治体においても、長期間の停電や通信回線の途絶により、システムを稼働させることができず、行政機能が麻痺するという事態が相次ぎました。

 この震災から得られた最大の教訓は、「重要な情報システムとデータは、庁舎と同じ場所にあってはならない」ということです。災害は、庁舎もシステムも同時に機能不全に陥らせる可能性があるため、非常時においても行政サービスを継続するためには、あらかじめ事業継続計画(BCP: Business Continuity Plan)、特に情報システムに特化したIT-BCPを策定しておくことが不可欠です。

BCP策定のステップ

 IT-BCPの策定は、内閣官房(現・内閣サイバーセキュリティセンター)が示すガイドラインなどを参考に、以下のステップで進めるのが一般的です。

  1. 重要業務の洗い出しと目標復旧時間(RTO)の設定:
     災害発生後、優先的に復旧すべき業務(例:住民の安否確認、避難所運営支援、災害見舞金支給など)を特定します。そして、その業務を「何時間以内に」「どのレベルまで」復旧させる必要があるかという目標復旧時間(RTO: Recovery Time Objective)と目標復旧レベル(RRL: Recovery Point Objective)を設定します。
  2. 代替手段の確保:
     設定したRTO/RRLを達成するために、どのような代替手段が必要かを検討します。これには、後述する遠隔地のデータセンターの利用や、代替となる通信手段(衛星電話など)の確保が含まれます。
  3. 計画書の作成:
     非常時の体制、職員の役割分担、具体的な復旧手順などを明記したBCP文書を作成します。誰が見ても理解できるよう、具体的かつ分かりやすく記述することが重要です。
  4. 訓練と見直し:
     策定したBCPは、定期的な訓練を通じて、その実効性を検証する必要があります。訓練で見つかった課題や問題点を基に計画書を継続的に見直し、より現実的なものへと改善していくPDCAサイクルが重要です。

データセンターの選定と遠隔地バックアップ

 IT-BCPの技術的な核となるのが、堅牢なデータセンターの活用と、データの遠隔地保管です。自庁舎でサーバーを運用するのではなく、災害リスクの低い地域に立地し、免震・耐震構造や自家発電設備を備えた専門のデータセンターにシステムを預けることで、機器の物理的な安全性を確保します。

 さらに重要なのが、バックアップデータの遠隔地保管です。メインで利用しているデータセンターとは地理的に離れた(例えば、東日本と西日本など)別のデータセンターにもバックアップデータを保管することで、広域災害によってメインのデータセンターが被災した場合でも、遠隔地のデータを使ってシステムを復旧させることができます。自拠点との同時被災リスクを極小化することが、BCP対策の基本原則です。

非常時における職員の参集と代替庁舎での業務継続

 どれだけ優れたシステムが遠隔地で無事に稼働していても、それを操作する「人」がいなければ行政サービスは提供できません。BCPには、システムだけでなく、職員の安否確認方法や非常時の参集ルール、連絡体制などを明確に定めておく必要があります。

 また、本庁舎が使用不能になった場合に備え、代替拠点(代替庁舎)をあらかじめ指定しておくことも重要です。代替庁舎には、業務を再開するために最低限必要なPC端末や通信回線、電源などを確保し、職員が駆けつければすぐに業務を開始できるような準備を整えておく必要があります。システム、人、場所。この三位一体の対策が揃って初めて、実効性のあるBCPと言えるのです。

業務改革とDXの推進

ICT活用による業務効率化

RPA導入による定型業務の自動化(事例紹介)

 RPA(Robotic Process Automation)は、人間がPC上で行う定型的な繰り返し作業を、ソフトウェアのロボットが代行して自動化する技術です。近年、多くの自治体で導入が進んでおり、特に都道府県や指定都市ではほぼ100%の団体が導入済み(実証実験含む)となっています。

 RPAを導入する最大のメリットは、職員を単純作業から解放し、より創造的で付加価値の高い業務(企画立案や住民との対話など)に集中させられる点です。また、手作業による入力ミスなどを防ぎ、業務品質を向上させる効果もあります。さらに、繰り返しの単純作業がなくなることで、職員の精神的な負担が軽減されるという効果も報告されています。

 具体的な活用事例としては、以下のような業務が挙げられます。

  • 財務会計システムへの支出命令書入力(大阪府守口市):
     AI-OCR(光学的文字認識)と連携し、紙の請求書を読み取ってデータ化し、RPAが財務会計システムへ自動入力する。これにより、月に20時間かかっていた作業を自動化しました。
  • 各種情報照会業務(千葉県市川市):
     児童手当の受給資格を確認するための住民税情報や年金情報の照会作業を自動化し、年間約500時間の削減効果を見込んでいます。
  • ふるさと納税関連業務:
     ポータルサイトからの寄付データをダウンロードし、管理システムへ登録、お礼メールを自動送信するといった一連の作業を自動化します。

 RPA導入を成功させるポイントは、最初から大規模な業務を対象とせず、特定の部署の特定の業務から小さく始める「スモールスタート」を心掛けることです。小さな成功体験を積み重ね、そのノウハウを庁内で共有しながら、徐々に対象業務を拡大していくことが、着実な業務改革につながります。

民間活力の活用

ヘルプデスク業務の外部委託(メリット・デメリット)

 庁内職員からのITに関する問い合わせに対応するヘルプデスク業務は、専門的な知識が求められ、情報システム課の職員にとって大きな負担となる場合があります。この課題を解決する一つの手法が、ヘルプデスク業務の外部委託(アウトソーシング)です。

 外部委託の主なメリットは以下の通りです。

  • コア業務への集中:
     定型的な問い合わせ対応を外部に任せることで、情報システム課の職員は、システム企画やセキュリティ対策といった、より戦略的で専門性の高いコア業務にリソースを集中できます。
  • サービス品質の向上: 
    専門業者のオペレーターは、対応スキルに関する専門的な訓練を受けており、均質で質の高いサービスを提供できます。これにより、問い合わせをした職員の満足度向上が期待できます。
  • コスト削減と柔軟な人員配置:
     自前でヘルプデスク担当者を採用・育成するコストを削減できます。また、繁忙期のみ人員を増やすなど、問い合わせ量に応じて柔軟な体制を組むことが可能です。

 一方で、デメリットも存在します。

  • ノウハウの蓄積が困難:
     対応業務を外部に丸投げしてしまうと、どのような問い合わせが多いのか、現場が何に困っているのかといった貴重な情報や対応ノウハウが庁内に蓄積されません。
  • 情報セキュリティリスク:
     庁内の情報に外部の事業者がアクセスすることになるため、厳格な情報管理と契約内容の精査が不可欠です。

 外部委託を成功させる鍵は、委託先と密に連携し、定期的な報告会などを通じて対応状況や課題を共有すること、そして、万が一のインシデント発生時のエスカレーションルールを明確に定めておくことです。

コスト削減とサービス向上を両立する共同調達

 共同調達は、複数の自治体が連携して、共通で利用する情報システムやデジタルサービスを一括して契約・購入する取り組みです。これにより、個別に調達するよりも大きなスケールメリットが働き、大幅なコスト削減が期待できます。

 これは、前述したガバメントクラウド移行に伴う運用コスト増加に対する、極めて有効な対策の一つとなり得ます。総務省もこの取り組みを積極的に推進しており、全国で様々な先進事例が生まれています。

  • AI議事録作成システム(熊本県):
     熊本県が主導し、県内の市町村と共同でAI議事録作成システムを調達。県が一括して事業者と契約することで、市町村の事務負担を軽減しつつ、年間で3割以上のコスト削減を実現しました。
  • 電子契約システム(岐阜県):
     岐阜県が共同調達を主導し、参加する市町村は標準価格から大幅な割引率でサービスを利用可能になりました。

 共同調達を成功させるには、参加団体間での丁寧な合意形成が不可欠です。都道府県や中核市がリーダーシップを発揮し、仕様の検討段階から参加団体の意見を丁寧に吸い上げ、仕様書を共同で作成していくプロセスが重要となります。

生成AIの活用可能性

システム運用保守における生成AIの役割

 近年、急速に進化を遂げている生成AI(ジェネレーティブAI)は、地方自治体の情報システム部門が直面している「深刻な人材不足」と「システムの高度化・複雑化」という二大構造課題に対する、戦略的な解決策となる大きな可能性を秘めています。生成AIは、単に特定の作業を効率化するツールに留まりません。その活用は、情報システム課の組織構造や職員のスキルセット、ひいては自治体経営における部門の役割そのものを変革するポテンシャルを持っています。

 例えば、経験の浅い若手職員が、原因不明のエラーに直面したとします。従来であれば、マニュアルを読み解いたり、先輩職員に質問したりして、多くの時間を費やしていました。しかし生成AIがあれば、難解なエラーログをAIに投入し、「このエラーの原因と対処法を分かりやすく解説して」と指示するだけで、AIが過去のナレッジやインターネット上の情報を基に、原因の候補と具体的な対処手順を提示してくれます。これは、まさに24時間365日対応してくれる「AIメンター」がいるようなものです。

 また、退職を間近に控えたベテラン職員が持つ、マニュアル化しにくい「勘」や「コツ」といった暗黙知は、組織にとって大きな損失です。生成AIに、過去の障害対応履歴やベテラン職員が作成した報告書などを学習させることで、その知識や思考プロセスを組織の資産として継承することが可能になります。これにより、技術伝承という長年の課題に、新たな解決の道が開かれます。

 このように生成AIを導入・活用することで、職員は単純な調査や報告書作成といった作業から解放され、データ分析に基づく政策提言や、新たな住民サービスの企画・立案といった、より創造的で付加価値の高い業務に注力できるようになります。これまでコストセンターと見なされがちだった情報システム部門が、AIを駆使して自治体経営に積極的に貢献するプロフィットセンターへと進化する可能性を、生成AIは秘めているのです。

具体的な活用シナリオ

 生成AIは、システム運用保守の様々な場面で活用できます。以下に具体的なシナリオを挙げます。

AIコールセンター・チャットボットによる問い合わせ対応の自動化

 庁内ヘルプデスクや住民から寄せられる、「パスワードをリセットしたい」「〇〇の申請方法を教えてほしい」といった定型的な問い合わせに対して、AIチャットボットが24時間自動で一次対応を行います。これにより、職員はより複雑で専門的な問い合わせに集中でき、全体の対応品質と効率が向上します。特に夜間や休日の問い合わせにも対応できるため、住民サービスの向上にも繋がります。

障害発生時のログ解析と原因分析支援

 システム障害が発生した際、エンジニアは膨大な量のログデータの中から、原因を示す痕跡を探し出さなければなりません。これは非常に時間と手間のかかる作業です。AIを活用すれば、大量のログデータや監視データを自動的に分析し、平常時とは異なる異常なパターン(アノマリー)を検知します。さらに、検知した異常から考えられる原因の候補と、過去の類似事例に基づいた解決策を提示することで、エンジニアの分析作業を強力に支援し、障害からの復旧時間を劇的に短縮することが可能です。

障害報告書や運用マニュアルの自動生成

 障害対応が完了した後、対応内容をまとめた報告書を作成する作業は、担当者にとって大きな負担です。生成AIを活用すれば、障害対応中に関係者がやり取りしたチャットの履歴や、システムのログ、対応作業の記録などを基に、定型的な障害報告書のドラフトを自動で生成することができます。担当者は、AIが生成したドラフトを確認・修正するだけで済むため、報告書作成にかかる工数を大幅に削減できます。同様に、既存の設計書や手順書をAIに読み込ませ、最新のシステム構成に合わせた運用マニュアルを自動で生成・更新することも可能です。

熟練職員のナレッジ共有と技術伝承

 前述の通り、ベテラン職員が長年の経験で培った知識やノウハウは、組織にとってかけがえのない財産です。これらの暗黙知を形式知化し、組織全体で共有することは、人材育成における重要な課題です。生成AIに、過去の障害対応報告書、ベテラン職員が作成した手順書、技術メモなどを学習させます。そして、若手職員が自然言語で質問を投げかけると、AIが学習したナレッジの中から最適な回答を対話形式で提供する「AI専門家」のようなシステムを構築します。これにより、若手職員はいつでも気軽に専門的なアドバイスを得ることができ、自己解決能力の向上とスキルアップを促進することができます。

運用保守業務の品質向上と効率化の実践

組織レベルでの取組み:PDCAサイクル

 システム運用保守業務の品質を継続的に改善し、効率化を図るためには、場当たり的な対応ではなく、組織として体系的な改善活動に取り組むことが不可欠です。そのための有効なフレームワークが、総務省の「情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」でも推奨されているPDCAサイクルです。

Plan(計画)

 まず、年度初めなどに、その年度の目標と具体的な計画を策定します。これには、以下のようなものが含まれます。

  • 情報セキュリティポリシーの見直し:
     新たな脅威や技術動向、法改正などを踏まえ、現行のポリシーに改定が必要か検討する。
  • 監査計画の策定:
     いつ、どのシステムを対象に、どのような観点で内部監査または外部監査を実施するかの計画を立てる。
  • 研修・訓練計画の策定:
     全職員向けのセキュリティ研修や、特定の職員向けの専門研修、標的型攻撃メール訓練などの年間スケジュールを策定する。

Do(実行)

 策定した計画に基づき、具体的なアクションを実行します。

  • 新たなセキュリティ対策ソフトの導入や、システムの脆弱性診断の実施。
  • 計画に沿った職員研修や、標的型攻撃メール訓練の実施。
  • 日常的なシステム監視、バックアップ、パッチ適用などの定常業務の遂行。

Check(評価)

 実行した内容が計画通りに進んでいるか、そして期待した効果を上げているかを客観的に評価します。

  • 内部監査・自己点検の実施:
     監査計画に基づき、セキュリティポリシーが遵守されているか、手順書通りに作業が行われているかなどをチェックリストを用いて確認します。
  • 訓練結果の分析:
     標的型攻撃メール訓練の開封率などを集計・分析し、職員の意識レベルを評価する。
  • インシデント発生状況のレビュー:
     発生した障害やインシデントの件数、原因、対応時間などを分析し、傾向や課題を把握する。

Act(改善)

 評価(Check)の段階で明らかになった課題や問題点に対して、改善策を立案し、実行します。

  • 監査で指摘された不備事項を是正する。
  • 訓練の開封率が高かった部署に対して、追加の注意喚起や研修を実施する。
  • 頻発する特定の障害に対して、根本的な再発防止策を講じる。

 そして、これらの改善策を次期の計画(Plan)に反映させることで、継続的な改善のサイクルを回していきます。

個人レベルでの取組み:スキルアップと意識改革

 組織的な取り組みと同時に、職員一人ひとりが自身のスキルアップと意識改革に努めることも、業務品質の向上には不可欠です。

継続的な学習と資格取得

 IT技術の進化は非常に速く、常に新しい知識やスキルを学び続ける姿勢が求められます。情報処理推進機構(IPA)が実施する「ITパスポート試験」や「基本情報技術者試験」といった公的な資格の取得は、体系的な知識を身につける上で非常に有効です。また、特定の製品や技術に関するベンダー資格の取得も、専門性を高める上で役立ちます。研修への積極的な参加や、専門書籍・ウェブサイトなどから最新情報を収集する習慣を身につけることが重要です。

日常業務における改善提案

 日々の業務をただこなすだけでなく、「この作業はもっと効率化できないか」「この手順には無駄がないか」といった改善の視点を持つことが大切です。例えば、自分が担当している手作業でのデータ入力業務をRPAで自動化できないか検討し、上司に提案するといった主体的な行動が、個人と組織の成長に繋がります。

人材育成計画の策定と実行

 職員の成長を個人の努力だけに任せるのではなく、組織として体系的な人材育成計画を策定し、実行することが重要です。場当たり的なOJT(On-the-Job Training)だけでは、知識に偏りが生じたり、指導者によって育成レベルに差が出たりする可能性があります。

 職員の経験年数や役割(階層)に応じた研修プログラムを整備することが効果的です。

  • 新人・若手職員向け:
     コンピュータやネットワークの基礎知識、情報セキュリティの基本、自治体情報システムの全体像など、土台となる知識を習得する研修。
  • 中堅職員向け:
     プロジェクトマネジメント、システム調達の実務、ベンダーコントロール、業務分析・改善提案の手法など、より実践的なスキルを習得する研修。
  • 管理職・リーダー向け:
     リーダーシップ、組織マネジメント、IT戦略・企画立案、情報セキュリティガバナンスなど、組織を導くための知識とスキルを習得する研修。

 このような計画的な人材育成を通じて、組織全体の技術力と対応力を底上げしていくことが求められます。

先進事例に学ぶ:東京都「スマート東京」の取組

「スマート東京」が目指すもの

 全国の自治体がDX推進に取り組む中、東京都が掲げる「スマート東京」は、その先進性と包括性において、他の自治体が学ぶべき多くのヒントを含んでいます。スマート東京は、単に行政手続きをオンライン化するといったレベルに留まりません。5Gなどの先端技術や官民のデータを最大限に活用し、防災、ヘルスケア、教育、モビリティ、産業振興といった幅広い分野で都民の生活の質(QOL)を向上させる、新たな都市像の実現を目指す壮大な構想です。

データ連携基盤(都市OS)とサービス実装

 スマート東京の実現に向けた中核的な取り組みの一つが、都が整備を進めるデータ連携基盤、いわゆる「都市OS」です。これは、行政が持つデータと民間企業が持つデータを、安全かつ円滑に連携させるための共通プラットフォームです。この基盤の上で、独創性や機動力に溢れるスタートアップ企業などが、新たな住民サービスを迅速に開発・実装していくことを目指しています。

 この公民連携のアプローチにより、行政だけでは実現が難しい、革新的で利便性の高いサービスが次々と生まれています。例えば、仮想空間上に区役所の窓口を再現し、アバターを通じて相談や手続きができる「メタバース区役所」の実証実験などは、未来の行政サービスの形を示す象徴的な取り組みと言えるでしょう。

他の自治体が参考にできるポイント

 東京都のような巨大な予算や人材を持つ大規模自治体だからこそ可能な取り組みに見えるかもしれません。しかし、その根底にある考え方やアプローチには、団体の規模に関わらず、すべての自治体がDXを推進する上で参考にできる重要なポイントが含まれています。

  • 明確なビジョン設定:
     単なる「効率化」や「コスト削減」だけでなく、デジタル技術を使って「住民の暮らしをどのように豊かにしたいのか」という明確で魅力的なビジョンを掲げることが、庁内外の協力者を引きつけ、改革を推進する原動力となります。
  • 公民連携の積極的な推進:
     行政が全てのサービスを自前で開発・提供する時代は終わりました。地域の課題解決に意欲を持つ民間企業やスタートアップ、大学などと積極的に連携し、その知見や技術力を最大限に活用する「オープンな姿勢」が不可欠です。
  • スモールスタートでの実証実験:
     最初から完璧で大規模なシステムを目指すのではなく、特定のエリアや特定のサービスに絞って、まずは小さく実証実験(PoC: Proof of Concept)を始めてみることです。そこで得られた成果や課題を基に、改善を繰り返しながら少しずつ展開していくアジャイルなアプローチが、変化の速い時代には有効です。

まとめ:未来を支える情報システム課職員へのエール

 本研修を通じて、地方自治体における情報システム課のシステム運用保守業務の重要性、多岐にわたる業務内容、そして現代的な課題と未来への展望について、体系的に学んでいただきました。

 皆さんが日々向き合っているサーバーやネットワーク、そして無数のログデータは、決して無機質な機械や記号の羅列ではありません。その先には、証明書を必要とする住民の生活があり、日々の業務に励む同僚職員の姿があり、そして私たちが暮らす地域社会の営みがあります。システムを安定稼働させるという皆さんの地道な努力が、行政サービスという社会インフラを根底から支え、住民の安心・安全な暮らしを守っているのです。

 ガバメントクラウドへの移行、巧妙化するサイバー攻撃への対応、そして生成AIの台頭など、情報システム課を取り巻く環境は、目まぐるしいスピードで変化し続けています。時には、その変化の速さに戸惑い、困難に直面することもあるでしょう。しかし、その変化は、これまでのやり方を変革し、より良い行政サービスを創造する大きなチャンスでもあります。

 どうか、本研修で得た知識とスキルを糧に、日々の業務に誇りを持って取り組んでください。皆さんの仕事は、単なるシステムの維持管理ではありません。技術の力で行政の未来を創造し、住民の暮らしを豊かにする、極めて重要でやりがいのある仕事です。常に学び続け、挑戦し続ける皆さんが、それぞれの地域社会にとってかけがえのない存在となることを心から信じ、応援しています。

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