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【2025年東京都政策】「女性活躍推進・新条例」と「補正予算」から読み解く自治体政策

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はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。

エグゼクティブサマリー

 2025年12月、東京都議会第4回定例会において、日本の地方自治史上、極めて重要な転換点となる条例案が提出されました。それは、企業の女性活躍推進を「努力義務」から「責務」へと昇華させる「女性活躍推進条例(仮称)」の制定です。同時に提案された総額1,726億円規模の補正予算案は、この条例の実効性を経済的側面から担保する強力なエンジンとして機能します。

 本記事は、東京都特別区(23区)をはじめとする自治体職員の皆様が、この巨大な政策転換の背景を深く理解し、自区の政策立案や議会対応、企画調整業務において、論理的かつ説得力のある説明を行うための「完全ガイド」です。なぜ今、東京都は国に先駆けてここまで踏み込んだ規制と投資を行うのか。その背景には、年間3.4兆円にも上る「女性の健康課題による経済損失」や、男性育休取得率40%超という「労働市場の不可逆的な変化」といった、確固たる客観的データが存在します。

 もはや「女性活躍」は、福祉や人権の文脈だけで語られるテーマではありません。それは都市の生存戦略であり、経済成長の必須条件です。本記事では、条例の法的意義から、その根拠となる最新の統計データ、先行する特別区の事例、そして現場の公務員が明日から着手すべき具体的なアクションプランまでを、約15,000字にわたり徹底的に解説します。政策のプロフェッショナルとして、この潮流を読み解き、実務に活かしていただくための一助となれば幸いです。

東京都「女性活躍推進条例(仮称)」の衝撃とパラダイムシフト

条例案の全体像と歴史的必然性

 2025年12月2日に開会した東京都議会第4回定例会。ここで小池百合子知事は所信表明演説において、「全国初となる条例の制定」を高らかに宣言しました。この条例案の核心は、これまで多くの自治体で「推奨」や「協力依頼」にとどまっていた企業の女性活躍推進策を、明確な「責務」として法的に位置づけた点にあります。

 具体的には、就業している男女間の賃金格差解消や、女性特有の健康課題への配慮について、企業が主体的に取り組むことを規定しています。これは、従来の男女共同参画社会基本法(1999年施行)や女性活躍推進法(2015年制定)の流れを汲みつつも、地方自治体が独自の権限で、より踏み込んだ「結果」を求めるフェーズへと移行したことを意味します。

 日本のジェンダー平等政策は、1985年の男女雇用機会均等法の制定から始まりました。当時は「募集・採用・配置・昇進」における差別禁止が主なテーマでしたが、初期の法制度は努力義務規定が多く、実効性に課題を残しました。その後、1999年の基本法制定により「社会のあらゆる分野への参画」が謳われましたが、経済分野、特に意思決定層への女性登用は世界的に見ても遅れをとってきました。世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数において、日本が長年低迷を続けている事実は、これまでの「啓発中心のアプローチ」の限界を示しています。

 今回の東京都の条例案は、こうした「失われた30年」への痛烈な反省と、国レベルの動きを待っていられないという首都・東京の危機感が凝縮されています。都知事が「女性も男性も共に活躍できる社会づくりをリードする」と述べた通り、これは単なる条例制定ではなく、東京という巨大都市のOS(基本ソフト)を書き換える試みと言えるでしょう。

なぜ「努力義務」ではなく「責務」なのか

 行政職員として注目すべきは、法文における「責務」という言葉の重みです。通常、自治体の条例において民間企業に「責務」を課すケースは、公害防止や廃棄物処理など、放置すれば地域社会に直接的な害悪をもたらす分野に限られてきました。今回、女性活躍推進をこれらと同等の「公共の福祉に関わる重大事」と定義した点に、行政側の並々ならぬ意図が読み取れます。

 その背景には、以下の3つの「市場の失敗」があります。

 第一に、情報の非対称性です。求職者は、入社するまでその企業の男女間賃金格差や、女性特有の健康課題への配慮状況を知ることが困難でした。これにより、本来淘汰されるべき「女性が働きにくい企業」が存続し続け、労働市場の流動性が阻害されてきました。条例による責務化は、情報開示を促し、健全な競争環境を取り戻すための装置です。

 第二に、外部不経済の内部化です。女性が健康課題により離職したり、キャリアを断念したりすることは、企業にとっては一義的な損失ですが、長期的には税収減や社会保障費の増大という形で社会全体にコストを転嫁します。この「ただ乗り」を許さず、企業に社会的費用を負担(=対策への投資)させるための法的根拠として「責務」が必要とされたのです。

 第三に、コーディネーションの失敗です。「他社がやらないなら、うちもやらなくていい」という横並び意識が、日本企業の変革を遅らせてきました。行政が「全企業共通のルール」として責務を課すことで、この均衡を打破し、一斉に行動変容を促す狙いがあります。

特別区への波及効果と示唆

 東京都がこの条例を制定することで、特別区(23区)への影響は甚大です。特別区の条例や施策は、広域自治体である東京都の施策と整合性を保つことが求められます。都が企業に「責務」を課した以上、区レベルの産業振興施策や契約条例においても、同等の基準を求める論理的根拠が生まれます。

 例えば、区の発注する工事や委託業務において、都条例に基づく取り組みを行っていない企業を排除したり、逆に取り組んでいる企業を加点評価したりすることが、よりスムーズに行えるようになります。また、区内中小企業からの相談対応においても、「都の条例で決まったから」という強力な説得材料を得ることになります。これは、現場の職員にとって非常に大きな武器となるはずです。

政策立案のための「客観的根拠」とデータ分析

 政策の説得力は、理念ではなく「数字」に宿ります。今回の条例案や予算案がどのようなエビデンスに基づいているのか。ここでは、自治体職員が議会答弁や企画書作成でそのまま引用できるレベルの、詳細なデータ分析を行います。

「女性の健康課題」による経済損失:年間3.4兆円の衝撃

 まず押さえるべきは、経済産業省が2024年に公表した衝撃的な試算です。女性特有の健康課題により、社会全体で生じている経済損失は、年間約3.4兆円に上るとされています。この数字は、一つの地方自治体の予算規模を遥かに凌駕する額であり、この課題を放置することがいかに非合理的であるかを物語っています。

 この3.4兆円の内訳を詳細に見ると、政策のターゲットとすべき層が浮き彫りになります。

 最も大きな損失を生んでいるのが「更年期症状」で、約1.9兆円を占めています。更年期は一般的に45歳から55歳前後の女性に訪れます。この年齢層は、企業においては管理職や熟練のリーダーとして、組織の中核を担うべき時期と重なります。この層が、健康課題によりパフォーマンスを低下させたり(プレゼンティズム)、離職に追い込まれたりすることは、企業にとってノウハウの喪失という致命的なダメージとなります。

 次いで、「月経随伴症(月経痛やPMSなど)」による損失が約0.6兆円、「婦人科がん」が約0.6兆円、「不妊治療」が約0.3兆円と続きます。

 ここで重要なのは、これらの損失額には「欠勤」や「離職」といった目に見える損失だけでなく、「パフォーマンス低下」や「追加採用活動にかかる費用」も含まれている点です。特に、出勤していても体調不良で生産性が落ちる「プレゼンティズム」のコストは見えにくく、企業側が過小評価しやすい領域です。行政が啓発を行う際は、この「見えない損失」に光を当てることが重要です。

 また、更年期離職による経済損失単体でも6,300億円と試算されています。これは、労働力不足が深刻化する日本において、看過できない数字です。逆に言えば、日本中の企業がこれらの支援に取り組めば、年間約1.1兆円のポジティブな経済効果が生まれる可能性も示されています。これは、女性活躍推進が「コスト」ではなく「成長への投資」であることを証明する強力なデータです。

 比較対象として男性特有の健康課題(男性更年期障害など)による損失も試算されていますが、女性の更年期症状による損失(1.9兆円)に対し、男性更年期は約1.2兆円(参考値)となっています。人数ベースでは女性の方が更年期症状を訴える割合が高いにもかかわらず、金額差が約1.6倍にとどまっている背景には、男女間の平均賃金の格差(男性の方が賃金が高いため、一人当たりの損失額が大きく算出される)が影響しているとの分析もあります。この点からも、健康課題と賃金格差は密接にリンクした問題であることがわかります。

男性育休取得率の劇的な変化:40%時代の到来と「ティッピング・ポイント」

 ジェンダーギャップの解消には、女性側の支援だけでなく、男性側の働き方の変革が不可欠です。この点において、日本の労働市場では今、歴史的な変化が起きています。厚生労働省の「2024年度雇用均等基本調査」(2024年10月公表)によれば、男性の育児休業取得率は40.5%に達しました。

 この数字の推移を見ると、その変化の急激さが際立ちます。

 2022年度調査では約17%でした。それが2023年度には30.1%となり、2024年度には40.5%へと急上昇しました。わずか2年間で20ポイント以上、倍増以上の伸びを見せているのです。社会学における普及理論では、普及率が16%を超えると一気に加速し(キャズム越え)、40%を超えるとそれが「当たり前」の社会規範になると言われています。つまり、日本の男性育休は、完全に「ティッピング・ポイント(転換点)」を超えたのです。

 特に注目すべきは、雇用の安定性が相対的に低いとされる「有期契約労働者」の男性においても、取得率が33.2%(前回比プラス6.3ポイント)まで上昇している点です。また、事業所単位で見ても、男性育休取得者がいた事業所の割合は41.0%に達しており、大企業だけでなく中小企業にも裾野が広がっていることが確認できます。

 このデータが自治体職員に示唆することは、「もはや男性育休取得を『特別なこと』として扱う時代は終わった」ということです。窓口に来る父親が平日の昼間に育児をしていることは当然の光景となり、行政サービスもそれを前提に再設計されなければなりません。例えば、男性用トイレへのオムツ交換台やお着替えボードの設置率が100%でない公共施設は、もはや「時代遅れ」ではなく「行政の怠慢」と評価されるリスクがあります。

 また、区役所内部の男性職員の育休取得率がこの「世間の平均値(40.5%)」を下回っているようであれば、それは公的機関としての責務を果たしていないという批判に直結しかねません。民間がこれだけのスピードで変化している中、行政組織の硬直性が改めて問われているのです。

女性管理職比率の停滞:10.7%の壁

 一方で、意思決定層への女性登用は、依然として厳しい現実があります。帝国データバンクが実施した「女性登用に対する東京都企業の意識調査(2023年)」によると、都内企業の女性管理職割合は平均10.7%でした。

 政府は「2020年代の可能な限り早期に30%程度」という目標(いわゆる「203030」)を掲げていますが、現状はまだその3分の1程度にとどまっています。この「10.7%」という数字は、前述の「男性育休40%」という変化のスピードと対比すると、その遅さが際立ちます。

 業界別に見ると、「小売業」が20.4%と比較的高く、「不動産業」が14.8%で続きますが、依然として一桁台の業界も少なくありません。また、女性役員の割合は平均10.8%と過去最高を更新しましたが、「役員が全員男性」という企業は依然として約6割を占めています。

 なぜ、管理職比率はこれほどまでに上がらないのか。調査の中で企業が挙げている課題には「候補となる女性人材の不足」「女性自身の昇進意欲の低さ」などがありますが、これらは表層的な理由に過ぎません。深層には、前述した「女性特有の健康課題への無理解」や「長時間労働を前提とした評価制度(アンコンシャス・バイアス)」が存在します。

 管理職適齢期となる40代前後の女性が、更年期障害や介護負担(女性に偏りがち)によってキャリアのアクセルを緩めざるを得ない構造がある限り、自然増で30%に達することは不可能です。だからこそ、今回の東京都条例案のように、企業に対して「主体的な取り組み」を責務として課し、構造的な障壁を取り除く外科手術的な介入が必要となるのです。

2025年12月補正予算案の戦略的解剖

 政策を実現するためには、「ルール(条例)」と「リソース(予算)」の両輪が必要です。条例案とセットで提出された2025年度12月補正予算案は、総額1,726億円規模に上ります。この予算配分の意図を読み解くことで、東京都がどこに「勝機」を見出しているかが分かります。

中小企業への「賃上げ」と「生産性向上」のパッケージ支援

 補正予算の最大の柱の一つは、物価高騰対策と連動した中小企業支援です。しかし、これは単なる「バラマキ」ではありません。キーワードは「賃上げの原資を稼ぐための生産性向上」です。

 具体的には、「男女間賃金格差改善促進奨励金」などの既存事業を拡充し、賃金格差の是正に取り組む企業へのインセンティブを強化しています。都は、従業員の「手取り時間」の創出や、介護等のライフステージ支援に向けた取り組み、そして賃金の引き上げを行う中小企業に対して、直接的な財政支援を行うスキームを構築しています。

 また、「100億企業創出」を目指す大規模成長投資支援や、中小企業成長加速化補助金の拡充も盛り込まれています。これらは、中小企業が規模を拡大(スケールアップ)し、収益性を高めることで、女性活躍を含む人的資本経営への投資余力を生み出すことを狙っています。

 行政職員としては、これらの都の補助金メニューを熟知し、区内の中小企業に的確に案内(プッシュ型支援)できるかどうかが問われます。「都の制度は使いにくい」「知らない」という事業者の声を行政が拾い上げ、都の制度と区の独自上乗せ補助を組み合わせるなどの「政策ミックス」を提案することが、地域経済の活性化に直結します。

TOKYO強靱化プロジェクトとの統合

 予算案には「TOKYO強靱化プロジェクト」の推進も含まれています。一般的に強靱化(レジリエンス)というと、堤防強化や無電柱化などのハード整備が想起されますが、今回の予算案の文脈では「社会システムの強靱化」も重要な要素です。

 ゼロエミッション東京の実現(次世代型ソーラーセルの普及、断熱化推進)や、多摩・島しょ地域の持続的発展と並んで、女性活躍推進も広い意味での「都市のサステナビリティ(持続可能性)」確保策として位置づけられています。人口減少が進む中で、女性や高齢者が労働市場から脱落してしまう社会は、災害や経済ショックに対して極めて脆弱です。

 つまり、都の予算戦略は、「ハードの防災」と「ソフトの人材活用」を、どちらも「強靱な東京を作るための投資」として同列に扱っていると解釈できます。区の予算編成においても、男女共同参画費を「民生費・福祉費」の一部としてではなく、「産業経済費」や「危機管理費」とリンクした戦略的予算として再定義する視点が必要です。

先進自治体の事例分析:特別区における「現在地」

 東京都の動きに呼応するように、あるいは先行する形で、各特別区でも独自色豊かな政策が展開されています。これらの事例は、他の自治体が施策を検討する際の重要なベンチマーク(比較指標)となります。ここでは、特徴的な3区の取り組みを深掘りします。

渋谷区:「権利」としてのジェンダー平等と実効性の追求

 渋谷区は、全国に先駆けてパートナーシップ証明制度を導入するなど、ジェンダー・多様性政策のフロントランナーとして知られています。「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」は、単なる理念条例にとどまらず、区民や事業者の「権利」と「責務」を明確に定義しています。

 特筆すべきは、条例改正や施策推進のプロセスにおいて、パブリックコメント(区民意見)を徹底的に活用している点です。提出された意見の中には、「人権の基本に男女平等を位置付けてほしい」「女性の経済的自立(賃金格差是正)を具体的に進めてほしい」といった切実な声が多数寄せられており、区はそれらに対し「条例の実効性を高める」「全国の手本となる内容を目指す」と真摯に回答しています。

 また、渋谷区は「アイリス(男女平等・ダイバーシティセンター)」を拠点に、啓発活動だけでなく、具体的な相談支援やコミュニティ形成を行っています。区の姿勢として、「住み慣れた地域で静謐に暮らす権利」の中に、性別による差別を受けない権利が含まれることを明確にしており、これは「人権」を「生活環境」の一部として捉え直す先進的なアプローチです。

港区:半世紀の蓄積と「広告・表現」への介入

 港区の取り組みの歴史は古く、1981年(昭和56年)に「港区婦人総合計画」を策定したことに遡ります。以来、半世紀近くにわたり、社会情勢の変化に合わせて条例や計画をアップデートし続けてきました。現在の「港区男女平等参画条例」は、性別だけでなく、性的指向や性自認(SOGI)を含む差別禁止を明記しています。

 港区の条例で特に注目すべきは、第8条の「公衆に表示する情報についての留意」です。ここでは、「何人も、公衆に表示する情報において、女性に対する暴力的行為を助長する表現その他の性別等による差別を助長する表現を行わないよう努めなければならない」と規定しています。

 港区は、大手広告代理店やメディア企業が多数集積する「情報の受発信地」です。そのような自治体が、公共空間における広告表現に対して、ジェンダー視点からの自主規制を促す条項を設けたことの意義は極めて大きいです。これは、地域の産業特性を踏まえた「ご当地条例」の好例であり、他の区が自区の産業特性(例えば、製造業が多い大田区や板橋区なら工場での女性活躍、商店街が多い区なら女性起業家支援など)に合わせた条項を検討する際の参考になります。

世田谷区:行政自らの「不都合な真実」の公表

 世田谷区は、女性活躍推進法に基づく「職員の給与の男女の差異」の情報公表において、非常に詳細かつ分析的なデータを公開しています。

 2022年度の実績データを見ると、興味深い事実が浮かび上がります。部長相当職における女性の給与は、男性を100とした場合に104.2%となっており、むしろ女性の方が高いのです。これは、女性管理職の勤続年数が長い傾向にあることなどが影響しています。

 一方で、全職員平均で見ると、女性の給与水準は男性の63.5%にとどまります。この乖離について、世田谷区は「説明欄」で明確に理由を述べています。「常勤職員と比較して勤務時間が短い会計年度任用職員(非常勤職員)の女性の割合が大きいため」という構造的な要因です。

 多くの自治体が、数字だけをさらっと公表して終わらせがちな中で、世田谷区のように「正規・非正規のジェンダー偏在」という公務員制度の根幹に関わる課題を直視し、公表資料の中で分析を加えている姿勢は評価に値します。政策立案は、まず自らの組織の「不都合な真実」を直視することから始まります。世田谷区の事例は、EBPM(証拠に基づく政策立案)の第一歩として、データの透明性を確保することの重要性を教えてくれます。

特別区への政策提言:行政は何をすべきか

 以上の東京都の動向、客観的データ、先進区の事例を踏まえ、特別区(自治体)職員が具体的に取り組むべき政策アクションを提言します。

庁内人事データの「完全可視化」と「男性育休の義務化」

 まず行うべきは、隗(かい)より始めよ、すなわち役所内部の改革です。世田谷区の例に倣い、自区の職員給与データを「役職別」「雇用形態別」「勤続年数別」「採用区分別」にクロス集計し、男女間格差の真因を特定してください。おそらく多くの区で、会計年度任用職員の女性比率の高さが格差の主因となっているはずです。この構造を短期的に変えることは困難ですが、正規職員への登用試験における運用の見直しや、会計年度任用職員の処遇改善(ボーナス支給など)は、区の裁量で可能な範囲があります。

 また、男性職員の育休取得率については、民間の「40.5%」という数字を最低ラインのKPI(重要業績評価指標)に設定すべきです。もはや「取りやすい雰囲気づくり」という段階ではありません。「原則取得」をルール化し、取得しない場合には所属長と本人に理由書の提出を求めるなど、強力なオプトアウト方式(申請しないと休めないのではなく、申請しないと休むことになる方式、あるいはその逆の強力な推奨)を導入する時期に来ています。管理職の人事評価項目に、部下の育休取得率を高いウェイトで組み込むことも有効です。

公共調達(契約)への「インセンティブ条項」の導入

 行政が企業に行動変容を促す最強のツールは「予算執行権限(発注)」です。総合評価落札方式の評価項目において、ワーク・ライフ・バランスや女性活躍に関する認定(えるぼし認定、くるみん認定など)への加点を大幅に強化することを推奨します。

 さらに一歩進んで、都条例の「責務」化を踏まえ、一定規模以上の契約においては「男女間賃金格差の状況」や「女性活躍推進行動計画」の提出を入札参加条件(あるいは契約時の提出義務)とすることを検討してください。これにより、区の税金が投入される事業においては、ジェンダー平等に取り組む企業が有利になるという市場メカニズムを人工的に作り出すことができます。これは「官製市場」を活用した強力な政策誘導です。

中小企業向け「フェムテック導入支援」と「健康経営」のパッケージ化

 3.4兆円の経済損失を防ぐため、区内中小企業が従業員の健康管理に投資することを支援すべきです。従来、この分野は「福利厚生」と捉えられがちでしたが、今後は「生産性向上設備投資」と同様に扱うべきです。

 具体的には、産業振興課の既存の設備投資助成金のメニューに、生理休暇や更年期休暇を有給で取得できる制度の整備費用や、オンライン健康相談サービス、フェムテック機器(搾乳機や体調管理アプリの法人契約など)の導入費用を追加することを提案します。

 また、区内の医師会や産業医と連携し、「女性の健康経営アドバイザー」を中小企業に派遣する事業も効果的です。経営者(特に男性高齢層)に対して、「女性の健康課題を放置することは、御社の利益を月間数万円単位でドブに捨てているのと同じです」と、医学と経営の観点から説得できる専門家を送り込むのです。

「男性の地域進出」を前提としたコミュニティ再編

 男性育休の普及により、平日の昼間に地域にいる男性が増えています。これは、高齢化と固定化に悩む地域コミュニティ(町会・自治会、消防団、PTA、民生委員)にとって千載一遇のチャンスです。

 しかし、既存の組織は「平日昼間は高齢者か主婦」という前提で動いていることが多く、現役世代の男性が入りにくい雰囲気があります。行政主導で、これらの組織の会議開催時間の柔軟化(オンライン併用や夜間開催)を支援したり、男性が育休期間中に地域活動に「お試し参加」できるようなプログラム(「パパの地域デビュー講座」など)を仕掛けたりすることが必要です。

 また、子育て支援の現場においても、「母親学級」という名称を廃止し、「両親学級」や「ペアレンティング・クラス」への名称変更と内容刷新を急ぐべきです。男性用トイレへのサニタリーボックス(尿漏れパッド等の廃棄用)設置も、前立腺がんサバイバー等の男性の外出支援という観点だけでなく、ジェンダー平等の観点からも必要な配慮です。

まとめ:データが示す「待ったなし」の現状

 本記事で詳述した通り、東京都の「女性活躍推進条例」制定と巨額の補正予算投入は、もはや「理想の追求」という段階を超え、人口減少社会における東京の経済基盤を守るための「実利的な生存戦略」です。

 自治体職員の皆様は、日々の業務の中で以下の3つの数値を常に意識してください。

  • 3.4兆円:女性の健康課題を放置することによる社会的損失。これを解消することは、新たな経済効果を生む最大の「埋蔵金」発掘である。
  • 40.5%:男性の育休取得率。社会の風景はすでに変わった。行政サービスや組織文化が、この変化に追いついていないことはリスクである。
  • 10.7%:いまだ低い女性管理職比率。ここを引き上げることが、多様な視点によるイノベーション創出(=都市強靱化)のラストワンマイルである。

 「女性活躍」を「人権担当部署の仕事」から、「全庁的な経営課題」すなわち、財政、産業振興、防災、都市計画を含むあらゆる政策領域のメインストリームへと昇華させることができるか。それが、2025年以降の自治体経営の質の分水嶺となります。皆様の担当する現場から、ぜひ「根拠ある変革」を仕掛けていってください。

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