04 東京都

【東京都医師会】東京都へ強く要望した重点医療政策

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はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。

出典:東京都医師会「定例記者会見(令和8年9月8日開催)」令和8年9月8日

概要

 東京都医師会は令和8年9月8日、令和9年度の東京都予算に対する要望として、重点医療政策13項目を都に伝えたと発表しました。同日の定例記者会見では「東京都へ強く要望した重点医療政策」をテーマに、会長と3人の副会長がそれぞれ項目を分担して説明しています。高齢化の進展に対応した医療提供体制の強化を軸としながら、医療DXの推進や加熱式たばこの規制強化まで、対象は広い範囲に及んでいます。

 13項目は、高齢者施設利用者のワクチン接種費用の無償化、児童生徒のメンタルヘルス対策の強化、区市町村在宅療養推進事業への支援と検証、医療介護人材不足への支援、TOKYOオレンジ医療システムの充実、フレイルサポート医地域連携支援事業の拡充、医療経営状況調査の継続と東京の医療レベル維持のための支援、医療介護福祉をまとめた通信訓練の実施、医療DXの推進、加熱式たばこに対する規制強化、下水を用いた感染症サーベイランスの強化、学校医の系統的研修システムの構築、積極的予防医療に向けた新規検査導入で構成されています。

 要望の前提として示されたのは、団塊の世代が全員後期高齢者となった段階に入ったこと、独居高齢者や夫婦のみの世帯が今後大幅に増える見通しであること、そして令和元年と比べて令和6年度の都内病院の経営が悪化していることです。医療提供体制の維持そのものが論点になっているという認識が、13項目に通底しています。

 特別区の実務にとって重要なのは、13項目の相当部分が都の単独判断では完結せず、区市町村の執行を前提としている点です。定期接種の実施主体、受動喫煙防止条例の指導・立入検査、特定健診やがん検診の項目設定、学校医の委嘱、在宅療養の地域連携。いずれも区が現場を持っています。都への要望として報じられた内容が、実際には区の予算編成と業務量に直結する構造になっており、令和9年度予算の検討時期と重なる今、内容を把握しておく実益は小さくありません。

意義

都への要望が区の執行課題に転化する構造

 医師会から都への予算要望は、形式上は都と医療関係団体の関係の中の出来事です。しかし内容を分解すると、都が財源と枠組みを用意し、区市町村が窓口と現場を担うという役割分担のもとで動く項目が多数を占めます。高齢者施設利用者のワクチン接種費用の無償化を例にとれば、新型コロナワクチンの定期接種は予防接種法上のB類疾病として区市町村が実施主体となり、自己負担額の設定も区市町村の判断に委ねられています。都が費用を負担する仕組みが整わなければ、無償化の判断と財政負担は区に残ります。

 加熱式たばこの規制強化も同じ構図です。東京都受動喫煙防止条例に基づく指導や立入検査は保健所が担い、特別区はそれぞれが保健所を設置しています。条例が改正されて加熱式たばこの扱いが変われば、施設への周知、相談対応、指導の実務は区の保健所に発生します。要望が実現した場合の執行コストが、要望の宛先ではない区に生じるという関係を意識しておく必要があります。

予防医療への重心移動が検診事業の設計を問う

 13項目のうち、フレイルサポート医の連携支援、下水を用いた感染症サーベイランス、健診・検診への新規検査の導入という3項目は、いずれも発症前や重症化前の段階に資源を投じるという方向性を共有しています。会見でも、高齢化が進む東京では予防医療の強化が重要になるとの認識が示されました。

 このうち健診・検診への新規検査の導入は、区の裁量が最も直接的に現れる領域です。特定健診や後期高齢者健診、がん検診の実施主体は区市町村であり、国が定める基本項目に何を上乗せするかは区の判断です。尿中微量アルブミン検査、NT-proBNP検査、便中ピロリ菌抗原検査という具体名まで示された要望は、都が補助制度を設けるかどうかにかかわらず、各区が単独で検討できる余地を持つ提案でもあります。

医療機関の経営という新しい論点

 従来の医療政策の議論は、医療提供体制の配置や連携の仕組みが中心でした。今回の要望では、医療経営状況調査の継続と支援の強化が独立した項目として立てられ、要望全体の前提としても病院経営の悪化が繰り返し言及されています。医療機関が事業体として存続できるかどうかが、地域医療を論じる際の前提条件として明示的に扱われるようになったことは、政策の重心の変化を示しています。

 この論点は区にとっても他人事ではありません。区立病院を持つ区では一般会計からの繰出しの規模に直結しますし、区立病院を持たない区でも、区が委託する健診や予防接種、休日・夜間診療体制は地域の医療機関の経営基盤の上に成り立っています。医療機関の経営環境が悪化すれば、区が確保しようとする医療機能の単価と担い手の両方に影響が及ぶ可能性があります。

歴史・経過

診療報酬改定の内訳が示すもの

 医療機関の経営環境をめぐる議論の背景には、診療報酬改定の水準があります。令和8年度の診療報酬改定は、令和7年12月24日の予算大臣折衝を経て、本体で3.09%の引上げと決まりました。ただしこの3.09%は令和8年度と令和9年度の2年度平均であり、令和8年度分は2.41%、令和9年度分は3.77%という配分です。薬価は0.86%、材料価格は0.01%のマイナスとされています。

 注目すべきは内訳です。3.09%のうち賃上げ分が1.70%、物価対応分が0.76%、食費・光熱水費分が0.09%、緊急対応分が0.44%、その他改定分が0.25%で、効率化分が0.15%のマイナスとして差し引かれています。物価対応分0.76%のうち病院に配分されるのは0.49%であり、都医師会が病院の物価対応分は0.49%にとどまると指摘しているのは、この内訳を指したものと考えられます。改定率の総額が大きく見えても、賃上げに紐づいた部分が大半を占め、物価上昇そのものへの手当ては限定的だという読み方です。

都が既に国へ提言していた経緯

 医療機関の経営悪化について、東京都自身も令和7年11月12日に診療報酬改定等に関する緊急提言を国に対して行っています。この提言では、診療報酬の改定率が物価高騰や医業費用の増加ペースに追い付いていないと指摘し、診療報酬の大幅な引上げと、物価や賃金の上昇を速やかに診療報酬に反映させる仕組みの導入を求めました。

 提言に付された数値は深刻です。都内で赤字となった病院の割合は、令和元年度の50.4%から令和6年度には67.9%へ上昇しました。都内一般病院の医業利益率はマイナス9.6%で、全国平均のマイナス2.3%を大きく下回っています。都は令和8年3月に地域医療に関する調査・分析等の報告書を公表しており、今回の要望で調査の継続が求められているのは、この一連の流れの延長線上にあります。

受動喫煙対策の到達点と残された論点

 東京都受動喫煙防止条例は令和2年4月1日に全面施行されました。健康増進法に上乗せする形で、従業員を雇用する飲食店は面積にかかわらず原則屋内禁煙とする規制が導入され、二人以上が利用する施設は原則として屋内禁煙、定められた場所以外では喫煙できないという枠組みが定着しています。

 一方で、加熱式たばこには別の扱いが残りました。通常の喫煙専用室では飲食等のサービス提供ができませんが、加熱式たばこ専用喫煙室では飲食が認められています。加熱式たばこの健康影響についての科学的知見が定まっていなかった時期に設けられた区分であり、今回の要望はこの区分の見直しを求めるものです。厚生労働省が健康への影響を否定できないとの見解を示したことを受けた要望と説明されており、条例改正の議論が動く場合には、飲食店の設備投資と保健所の指導実務の両方に影響が及びます。

こどもの自殺対策の制度化

 児童生徒のメンタルヘルス対策が要望に含まれた背景には、統計の悪化があります。令和6年の小中高生の自殺者数は529人となり、昭和55年の統計開始以降で最多を記録しました。内訳は小学生15人、中学生163人、高校生351人です。

 国の対応も進んでいます。令和5年6月2日にこどもの自殺対策緊急強化プランが決定され、自殺リスクの早期発見の取組や相談体制の整備が進められてきました。令和7年6月11日には改正自殺対策基本法が公布され、こどもに係る自殺対策が明記されるとともに、学校の責務や関係機関の連携が規定されています。都医師会の要望はスクールカウンセラーの配置体制と多機関連携の構築に焦点を当てており、法改正が求める連携の実効性をどう確保するかという論点に対応するものだと考えられます。

現状データ

在宅療養の地域展開はまだ全域に届いていない

 区市町村在宅療養推進事業への支援と検証を求める項目では、東京都在宅医療推進強化事業の実施状況が根拠として示されました。事業期間は令和5年度から令和7年度までで、実施地区は令和5年度の26地区から令和6年度に32地区、令和7年度に33地区へと拡大しています。3年間で7地区の増加であり、伸びは着実ですが急速とは言えません。

 都医師会が求めているのは、令和8年度以降の事業継続と地域格差の解消です。地区の広がりが頭打ちに近づいている状況で、未実施地区がなぜ参入していないのかを検証しなければ、単純な予算延長では格差が固定される可能性があります。事業の継続と併せて検証を求めている点に、要望の実務的な性格が表れています。

認知症医療の圏域展開は先行4圏域から始まった

 認知症の人が入院を要する身体疾患を抱えた際に入院先が見つかりにくいという課題に対し、東京都は地域の拠点病院を中心に医療機関が連携する仕組みとしてTOKYOオレンジ医療システムを創設しました。先行して実施する圏域は令和8年6月に決定され、区西南部、区東北部、区東部、南多摩の4圏域が選ばれています。4圏域のうち3圏域が区部であり、令和8年7月以降、準備が整った圏域から順次運用を開始するとされています。

 将来的には、12か所の地域拠点型認知症疾患医療センターを中核とし、40か所の地域連携型センターと連携する体制で、都内全域への展開を目指すとされています。都医師会が求めているのはこのシステムの充実であり、先行圏域での検証と見直しを経て展開をどれだけ加速できるかが問われます。区にとっては、圏域内の医療機関と区の高齢者施策や地域包括支援センターの接続をどう設計するかが、運用開始後の実務課題になると考えられます。

災害時に支援を要する施設の規模

 医療・介護・福祉をまとめた通信訓練の実施を求める項目では、都内の施設数が示されました。高齢者施設は2,387か所で定員150,187人、障害者施設は3,026か所で定員21,460人、合計で5,413施設・171,647人という規模です。いずれも令和7年4月1日現在の数値とされています。

 この規模の施設群と災害時に安定して連絡が取れるかどうかは、災害関連死の抑制に直結します。要望は災害時保健医療福祉活動支援システムを用いた実施訓練を求めるもので、システムの整備そのものではなく、整備されたものが実際に動くかを確かめる段階に議論が移っていることを示しています。

電子カルテの普及と連携基盤の整備

 医療DXの推進を求める項目では、電子カルテの普及率として病院75.1%、診療所62.2%という数値が示されました。都医師会は東京都医療情報連携基盤の整備推進を求めており、令和8年度第1回の東京都医療DX推進協議会が令和8年6月5日に開催され、電子カルテの導入状況と今後の見込み、導入促進、患者向けDX環境の整備、サイバーセキュリティ対策、電子カルテ・医療連携部会の設置などが議題とされています。

 普及率の水準は、病院と診療所で13ポイント程度の差があります。連携基盤は参加機関が増えるほど価値が高まる性質を持つため、導入が遅れている層をどう引き上げるかが基盤整備の実効性を左右すると考えられます。なお普及率の算定基礎は資料により異なる場合があるため、他の統計と比較する際には対象範囲と時点の確認が必要です。

予防医療の費用対効果として示された数値

 積極的予防医療に向けた新規検査導入の項目では、便中ピロリ菌抗原検査について具体的な数値が示されました。ピロリ菌感染者の胃がんリスクは非感染者の5倍とされ、検査費用が3,000円から5,000円であるのに対し、治療費は65万円から150万円かかるという対比です。スクリーニング目的であれば生涯1回で足りるという説明も付されています。

 尿中微量アルブミン検査は通常の尿蛋白検査では検出できない微量のタンパクを捉えるもので、糖尿病性腎症の早期発見に用いられます。NT-proBNP検査は心臓に負担がかかった際に血液中で増加する物質を測定し、自覚症状が現れる前の潜在性心不全を把握することを狙いとしています。いずれも、透析導入や入院という高額な医療費が発生する前段階での介入を想定した提案です。ただし示された費用の対比は特定の条件下での比較であり、検診として集団に導入した場合の費用対効果は、対象年齢や受診率、精密検査の実施率によって変わる可能性があります。

定期接種の自己負担は区の判断に委ねられている

 高齢者施設利用者のワクチン接種費用の無償化を求める項目の背景として、接種費用の負担が高い自治体で接種率が低下する傾向にあることが指摘されています。新型コロナワクチンの定期接種は予防接種法上のB類疾病に位置づけられ、実施主体は区市町村です。対象は原則65歳以上で、60歳から64歳の一定の障害がある方も含まれます。

 自己負担額は区市町村ごとに異なります。ある特別区の令和7年度の例では、実施期間が令和7年10月1日から令和8年3月31日までで、自己負担額は2,500円、生活保護受給者は無料とされていました。同じ都内でも負担額に差が生じており、要望が求める無償化は、この差をどう扱うかという問題を含んでいます。

政策立案の示唆

この取組を行政が行う理由

 医師会からの予算要望は、行政が自ら行う取組ではありませんが、行政の予算編成過程に組み込まれた恒例の手続として機能しています。行政がこれを受け止める理由の第一は、現場の情報を制度設計に取り込むためです。診療報酬の改定率が医療機関の実感とどれだけ乖離しているか、在宅療養の地区展開がなぜ広がらないか、健診項目に何が足りないか。こうした情報は、行政が独自に統計を集めるだけでは把握しにくい種類のものです。

 第二の理由は、予算要求の時期に合わせて論点を集約できることです。個別の陳情や個別事業ごとの協議として散発的に届く要望を、13項目として体系立てて受け取れば、優先順位の判断と部局間の調整がしやすくなります。要望する側にとっても、記者会見を通じて公開の場に置くことで、議論の透明性を高める効果があります。

 第三の理由は、医療という分野の性質にあります。医療提供体制は行政が直接運営するのではなく、大部分を民間の医療機関が担っています。行政が使える手段は財政支援と規制と調整に限られるため、担い手側が何を必要としているかを把握しなければ、政策手段の選択自体を誤る可能性があります。

行政側の意図

 都が要望をどう扱うかについては、令和9年度予算の編成過程を見なければ確定的なことは言えません。ただし、いくつかの項目については都の既存の動きと符合しています。医療経営状況調査の継続を求める項目は、都が令和7年11月に国へ行った緊急提言や令和8年3月の調査報告と連続しており、都が既に問題意識を共有している領域だと考えられます。医療DXの推進についても、都は医療DX推進協議会を設置して電子カルテの導入促進を議題としており、要望の方向と大きな齟齬はありません。

 一方で、加熱式たばこの規制強化は条例改正を要する可能性がある項目であり、事業者への影響が大きいため、他の項目とは検討の性質が異なります。ワクチン接種費用の無償化も、区市町村の実施主体性と都の財政負担の関係を整理する必要があり、単純な予算計上では済まない論点を含んでいます。

 全体としては、都が財源を用意する項目と、都と区市町村の役割分担の再整理を要する項目と、規制の枠組みを動かす項目が混在していると整理できます。どの類型に属するかによって、実現までの経路と所要時間は大きく異なるものと考えられます。

期待される効果

 要望が実現した場合に期待される効果は、項目によって性質が異なります。ワクチン接種費用の無償化や健診項目の追加は、住民が受ける給付が直接増える類型です。効果は接種率や受診率という形で比較的短期間に測定できます。

 在宅療養推進事業の継続や医療介護人材への支援は、体制の維持に関わる類型です。効果は目に見えにくく、事業が止まった場合に何が失われるかという形でしか把握しにくい性質を持ちます。それだけに、継続の是非を判断する際には検証の設計が重要になります。

 加熱式たばこの規制強化や下水サーベイランスの強化は、リスクを事前に抑える類型です。効果が現れるまでに時間がかかり、因果関係を特定することも困難ですが、対象となる集団が広いため、実現した場合の影響は大きくなります。

 医療DXの推進は、これらとは別の性質を持ちます。連携基盤が機能すれば、重複検査の削減、救急時の情報参照、災害時の診療継続といった複数の効果が同時に生じる可能性があります。ただし効果の発現は参加率に依存するため、普及が一定の水準を超えるまでは効果が見えにくいという特徴があります。

課題・次のステップ

 第一の課題は、要望と執行主体のずれです。前述のとおり、13項目の相当部分は区市町村が実施主体となる事業に関わります。都が予算化しても、区が執行体制を組めなければ実現しません。逆に、都の補助がないまま区が独自に対応すれば、区ごとの格差が生じます。要望の宛先が都であることと、効果が区の執行に依存することの間にある距離を、どう埋めるかが問われます。

 第二の課題は、財源の性質です。ワクチン接種費用の無償化や健診項目の追加は、いったん始めれば毎年度継続する経常的な支出になります。一方、災害時の通信訓練やシステム整備は初期投資の性格が強い支出です。両者を同じ予算要望として並べたとき、財政部門が見る論点は異なります。経常経費として定着する項目については、将来コストの見通しを併せて示すことが説得力を左右すると考えられます。

 第三の課題は、効果検証の設計です。区市町村在宅療養推進事業について要望が「支援」と併せて「検証」を求めていることは示唆的です。事業の継続を求める側が検証も求めるという構図は、継続の根拠を数字で示す必要性を認識していることの表れだと読めます。同様の姿勢は他の項目にも求められます。

 第四の課題は、規制強化に伴う調整です。加熱式たばこの規制を紙巻きたばこと同様にする場合、既に加熱式たばこ専用喫煙室を設置した事業者の投資が無駄になる可能性があります。経過措置の設計と周知の期間をどう取るかは、条例改正の議論と並行して検討すべき論点です。

 第五の課題は、区の側の準備です。令和9年度予算の要求作業はこれから本格化します。都の予算案が固まるのは年末から年明けであり、区が都の動きを見てから対応を決めると、要求のタイミングを逸する可能性があります。都の補助制度が設けられた場合に手を挙げられる状態を、要求段階で作っておけるかが実務上の分かれ目になります。

特別区への示唆

 第一の示唆は、この要望を都と医師会の間の出来事として扱わず、区の令和9年度予算検討の材料として読むことです。13項目のうち、定期接種の自己負担、健診項目の設定、学校医の委嘱と研修、受動喫煙防止条例の指導実務、在宅療養の地域連携は、いずれも区が主体となる領域です。都の補助が付く可能性がある項目については、要求段階で選択肢として並べておく価値があります。

 第二の示唆は、健診・検診の項目設定という裁量領域への注目です。特定健診やがん検診の実施主体は区市町村であり、国の基本項目に何を上乗せするかは区が決められます。尿中微量アルブミン、NT-proBNP、便中ピロリ菌抗原という具体的な検査名が示されたことは、区として検討に着手する材料が揃ったことを意味します。ただし、検診の追加は受診者数に単価を乗じた分だけ経常経費が増えるため、対象年齢の設定や実施間隔の設計によって所要額は大きく変わります。導入の可否を論じる前に、複数の設計案で試算しておくことが実務的です。

 第三の示唆は、保健所を持つことの意味です。特別区は保健所設置区として、受動喫煙防止条例の指導・立入検査、感染症サーベイランス、災害時の保健医療調整を担っています。加熱式たばこの規制強化も下水サーベイランスの強化も、実現すれば区の保健所の業務量に影響します。都への要望段階で区の執行負担が議論されることは少ないため、区の側から執行実務の実情を示していく経路を持っておくことが望ましいと考えられます。

 第四の示唆は、学校医研修という見落とされやすい論点です。学校保健安全法とその施行規則は、学校医の職務として学校保健計画の立案への参与、環境衛生の維持改善の指導、健康相談と保健指導、健康診断の実施、感染症対策を定めています。区立小中学校の学校医を委嘱するのは区であり、医療的ケア児への対応を含む研修体系の整備が進めば、区の学校保健の水準に直接影響します。日本の学校医制度が近隣の医師による非常勤の担当という形をとっており、諸外国の常勤専門職を配置する方式とは異なる点も、制度の限界と可能性を考える材料になります。

 第五の示唆は、医療機関の経営を区の政策の前提条件として捉え直すことです。都内で赤字となった病院の割合が令和元年度の50.4%から令和6年度に67.9%へ上昇し、都内一般病院の医業利益率が全国平均を大きく下回るという状況は、区が委託する健診や予防接種、休日・夜間診療の担い手の基盤が弱まっていることを意味します。委託単価の設定や協力医療機関の確保が従来どおりの前提で進められるかを、改めて点検する必要があるものと考えられます。

まとめ

 東京都医師会が令和8年9月8日に公表した令和9年度東京都予算への要望は、高齢化への対応を軸に13項目で構成されています。高齢者施設利用者のワクチン接種費用の無償化、児童生徒のメンタルヘルス対策、在宅療養推進事業の支援と検証、医療介護人材の確保、認知症医療の体制、フレイル対策、医療経営状況調査の継続、災害時の通信訓練、医療DXの推進、加熱式たばこの規制強化、下水サーベイランスの強化、学校医の研修体系、そして健診・検診への新規検査の導入。分野は広いものの、医療提供体制の維持と予防医療への重心移動という二つの軸で整理できます。

 背景には、医療機関の経営環境の悪化があります。都内で赤字となった病院の割合は令和元年度の50.4%から令和6年度に67.9%へ上昇し、都内一般病院の医業利益率はマイナス9.6%と全国平均のマイナス2.3%を大きく下回っています。東京都自身も令和7年11月に国へ緊急提言を行っており、令和8年度診療報酬改定は本体で3.09%の引上げとなったものの、その内訳を見ると賃上げ分が1.70%を占め、物価対応分は0.76%、うち病院に配分されるのは0.49%にとどまります。改定率の大きさと現場の実感の間に開きが生じる構造が、数値の内訳から読み取れます。

 特別区にとってこの要望が持つ意味は、宛先が都であっても効果と負担の多くが区の執行に帰属する点にあります。新型コロナワクチンの定期接種は予防接種法上のB類疾病として区市町村が実施主体となり、自己負担額の設定も区の判断です。特定健診やがん検診の項目設定、学校医の委嘱、受動喫煙防止条例に基づく指導・立入検査も同様に区の領域です。加熱式たばこ専用喫煙室で飲食が認められている現行の扱いが見直されれば、飲食店への周知と指導は区の保健所が担うことになります。

 令和9年度予算の要求作業がこれから本格化する時期に、この13項目を読む実益は明確です。都の補助制度が設けられた場合に手を挙げられる準備、健診項目の追加を複数の設計案で試算しておく作業、規制強化に伴う執行体制の見通し。いずれも要求段階で着手しておかなければ、都の予算案が固まってから動いても間に合いません。要望の実現可能性は項目によって大きく異なり、財源措置で済むもの、役割分担の整理を要するもの、条例改正を要するものが混在しています。どの類型に属するかを見極めたうえで、区として先回りできる領域から手をつけることが現実的な対応になると考えられます。


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