【東京都】都営住宅の空き住戸を水害時の緊急避難先に:江戸川区と協定、12自治体へ
はじめに
※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。
出典:東京都「都営住宅等の空き住戸を活用した水害時の緊急避難先の確保について江戸川区と協定を締結しました」令和8年9月15日
概要
東京都住宅政策本部は令和8年9月15日、都営住宅等の空き住戸を水害時の緊急避難先として活用する協定を江戸川区と締結したと発表しました。協定書名は「水害時の緊急避難先としての都営住宅等の空き住戸使用に関する協定書」です。大規模な水害が発生し、都営住宅等やその周辺の住民が避難場所等へ避難する時間的余裕がない場合に備えるもので、都はこの枠組みを各区市との間で順次広げてきました。
協定の内容は四つの要素で構成されています。都は区の依頼に応じて、緊急避難先として使用可能な住戸のリストを毎年度提供します。区は浸水が発生するおそれがあると判断した際に都へ空き住戸の使用を要請し、都は区に空き住戸を無償で一時提供します。緊急避難先として使用する住戸の管理運営は区が実施します。そして水が引き、本来の避難場所等への移転等が完了した後、区は住戸を都に返還します。要請から返還までの一連の流れが、あらかじめ文書で定められている点が特徴です。
この協定は江戸川区が初めてではありません。令和2年度に足立区、八王子市、清瀬市、北区および葛飾区と、令和4年度に板橋区、狛江市、稲城市および江東区と、令和7年度に墨田区と、令和8年7月16日に品川区と、同様の協定が締結されています。江戸川区との締結により、空き住戸の協定を結んだ自治体は12となりました。都営住宅等のストックを活用した災害対応力の強化という位置づけが、発表資料でも示されています。
特別区の実務にとって重要なのは、この協定が公共施設を新たに建設せずに避難先を確保する手法だという点です。都が保有するストックの一時的な余剰を、区が災害時に借り受けて運営する構造になっており、区の負担は施設整備費ではなく運営体制の確保に集中します。避難先の絶対量が足りないという課題を抱える区にとって、既存ストックの転用という発想は他の資源にも応用が利く可能性があります。
意義
既存ストックの余剰を災害時に転用する手法
避難先の確保は、通常は施設の整備か民間施設との協定という形をとります。前者は用地取得と建設に時間と費用がかかり、後者は相手方の営業活動との調整が必要です。今回の協定は、行政がすでに保有している住宅ストックのうち、入居者がいない期間の住戸に限って災害時に転用するという第三の選択肢を示しています。
都営住宅の空き住戸は、退去後の補修中や入居手続中のもの、建替事業等の移転先として確保しているものなど、常に一定数が存在します。平時には収益も効用も生まないこの状態を、水害時に限って避難先として使うという設計は、新規投資をほとんど伴わずに避難先を増やす手法です。無償提供とされている点も、区の財政負担を抑える方向に働きます。
広域避難が成り立たない場面を前提にした備え
江戸川区を含む江東5区は、大規模水害の際に区民全員が原則として浸水区域外へ避難するという広域避難の方針を掲げてきました。しかし広域避難は、発災の1日以上前に判断して移動を開始しなければ成立しにくく、判断の早期化そのものが難しいという構造的な問題を抱えています。公共交通機関が停止した段階では、広域避難から垂直避難へ移行せざるを得ないとされています。
今回の協定は、この移行後の局面に備えるものです。避難場所等へ向かう時間的余裕がない住民が、近くの都営住宅の空き住戸に一時的に身を寄せるという想定であり、広域避難が成功した場合には出番のない仕組みです。理想的な避難行動が実現しなかったときの受け皿をあらかじめ用意しておくという考え方は、避難計画の設計思想として重要な意味を持ちます。
住宅部局と防災部局の接続
この協定を都の側で所管しているのは住宅政策本部であり、防災部局ではありません。区の側でも、都営住宅の情報を扱う住宅部門と、避難の判断や避難所運営を担う防災部門の両方が関わります。災害対応の資源が防災部局の所管する施設に限られないという事実を、協定という形で可視化した点に組織論上の意義があります。
同じ発想は他の分野にも及びます。都営住宅等については、空き住戸の協定とは別に、エレベーターホールや廊下といった共用部分を緊急避難先として使う覚書の枠組みも用意されており、江東区、墨田区、大田区、足立区、葛飾区、江戸川区、荒川区、北区、台東区、八王子市、清瀬市、品川区の12自治体が締結しています。空き住戸と共用部分という二つの枠組みを重ねることで、提供できる避難先の幅が広がる構造になっています。
歴史・経過
江東5区の広域避難計画が示した限界
江東5区大規模水害対策協議会は、平成28年8月に江東5区大規模水害避難等対応方針を公表しました。荒川の計画規模以上の洪水と、中心気圧930ヘクトパスカルという伊勢湾台風級以上の台風が同時期に発生する事態を想定し、江東5区のほぼ全域が浸水するという前提に立った検討です。排水施設が機能しない最悪の場合には、広範囲で2週間以上にわたって浸水が継続すると想定されています。
この方針では、避難を三つの段階に整理しています。発災の72時間前から24時間前にかけては自主的な広域避難を呼びかけ、24時間前には広域避難勧告として浸水区域外への避難を促し、暴風等により公共交通機関が停止する発災6時間前から4時間前の段階では、広域避難から垂直避難へ移行させるという組み立てです。
同時に、方針は広域避難の実現可能性についても率直な検討を示しています。広域避難は遠方への移動を要するため公共交通機関が停止する前から開始する必要があるものの、早い段階で確実に判断することは困難であること。シミュレーション分析では大規模な渋滞の発生が想定され、河川に囲まれた地形ゆえに橋梁部がボトルネックとなって渋滞が深刻化すること。移動手段を持たない人が存在すること。こうした制約を踏まえ、当面の目標を100万人以上の広域避難の実現とし、垂直避難は不可避な選択肢として位置づけられました。
その後、江東5区広域避難推進協議会が平成28年8月に設置され、平成30年8月22日に検討結果が公表されて、大規模水害ハザードマップと大規模水害広域避難計画が策定されています。江戸川区は令和7年7月に水害ハザードマップの第2版を公表し、概要版を同月末から全戸配布しました。
協定の広がり方
都営住宅等の空き住戸を水害時の緊急避難先とする協定は、令和2年度に5団体で始まりました。足立区、八王子市、清瀬市、北区、葛飾区の内訳を見ると、河川沿いの低地を抱える区と多摩地域の市が混在しており、水害リスクの所在に応じた選定であったことがうかがえます。令和4年度には板橋区、狛江市、稲城市、江東区の4団体が加わりました。
その後は間隔が空き、令和7年度に墨田区、令和8年7月16日に品川区、そして令和8年9月15日に江戸川区が締結しています。6年をかけて12団体という広がり方であり、急速に普及した制度とは言えません。都営住宅の立地状況や区の防災計画との整合など、締結に至るまでに調整すべき事項が少なくないことが背景にあるものと考えられます。
指定緊急避難場所の制度と協定の関係
災害対策基本法上、避難先には指定緊急避難場所と指定避難所という二つの類型があります。内閣府の手引きによれば、指定緊急避難場所は災害から命を守るために緊急的に避難する施設又は場所であり、指定避難所は災害の危険がなくなるまで一定期間滞在し、又は災害により自宅へ戻れなくなった居住者等が一時的に滞在する施設です。両者は相互に兼ねることができます。
洪水に対して指定緊急避難場所を指定する場合、安全区域の外にある施設については、当該異常な現象に対して安全な構造であること、想定水位以上の高さに居住者等を受け入れる部分があり、かつその部分までの避難上有効な経路があることが求められます。市町村以外が所有する施設を指定する際には施設管理者の同意が必要であり、多くの場合は市町村と施設管理者の間で協定が締結されます。
一方で手引きは、指定緊急避難場所の確保が困難な場合に、指定基準外の比較的安全な避難場所を確保することも考えられるとしつつ、そうした場所は一定のリスクを抱えている場合があることを住民に周知する必要があるとしています。今回の協定に基づく空き住戸が、法に基づく指定緊急避難場所として位置づけられるのか、それとは別の緊急避難先にとどまるのかは、発表資料からは読み取れません。位置づけによって住民への説明の仕方と区の責任の範囲が変わるため、実務上は確認を要する論点です。
なお手引きは令和8年1月に改定され、令和7年7月のカムチャツカ半島沖地震に伴う津波対応で明らかになった課題を踏まえて、熱中症対策や防寒対策のための備蓄、高齢者や障害者等のためのバリアフリー環境の整備など、指定緊急避難場所の機能面の充実を図ることが追加されています。避難先を数として確保するだけでなく、そこでの滞在環境を問う方向に議論が動いていることがうかがえます。
現状データ
江戸川区の浸水想定
江戸川区の水害ハザードマップ概要版によれば、区の陸域の約7割がゼロメートル地帯、すなわち満潮時の水面より低い土地です。大雨や台風がなくても河川の水位より低いという地形条件にあります。大規模水害の際には最大で10メートル以上の深い浸水が想定され、浸水は1週間から2週間以上続き、長いところでは2週間以上に及ぶとされています。
避難の考え方も明示されています。超巨大台風の上陸が予測される際には江東5区が共同で判断し、区民全員が原則として広域避難を行います。3日前から段階的に情報を発表して避難を呼びかける設計です。垂直避難は最終手段として位置づけられ、広域避難指示の段階を過ぎた直前・緊急時、または警戒レベル5の緊急措置として機能するとされています。今回の協定は、この最終手段の局面で使われる備えだと理解できます。
避難の需要と収容力の差
江東5区大規模水害避難等対応方針は、需要と収容力の差を数値で示しています。5区の人口は平成28年1月1日現在で258.1万人で、内訳は墨田区26.2万人、江東区50.2万人、足立区67.9万人、葛飾区45.3万人、江戸川区68.6万人です。このうち浸水想定区域内の人口は約250万人に上ります。
浸水想定区域内の249.6万人は、避難行動の観点から三つに分類されています。建物の条件などから立ち退き避難が必須となる人が44.4万人で17.8%、上階への避難が可能な人が43.4万人で17.4%、自宅での待避が可能な人が161.9万人で64.8%です。一方、5区内の避難所の収容規模は49.4万人とされており、浸水域内人口との差は大きく開いています。
救出能力にも限界があります。同方針では、関東の警察・消防・自衛隊が保有するボートを総動員しても救出には2週間以上の時間を要し、1日あたりの救出者数は約6万人に限られると試算されています。また、障害者13.5万人、独居高齢者5.5万人、未就学児13.3万人などを含む約59万人の要配慮者が存在し、その一部は広域避難が困難とされています。これらはいずれも平成28年時点の推計であり、その後の人口動態や対策の進展は反映されていない点に留意が必要です。
都営住宅のストックと空き住戸
都営住宅等の管理戸数は、都の資料では平成26年3月末現在で約25万6千戸とされており、同時点の都内の公的住宅ストック全体は約55万戸でした。約26万戸のうち約11万戸は昭和40年代以前に建設されたものとされています。時点が古い数値であるため現在の規模を直接示すものではありませんが、都営住宅が都内の公的住宅の中で大きな比重を占めることは読み取れます。
空き住戸については、都営住宅団地ごとの数が公表されており、直近では令和8年3月31日現在の数値が示されています。ここでいう空き住戸数には、入居者の退去後に補修中のものや入居手続中のもののほか、建替事業等の移転先として確保している住戸が含まれます。したがって公表されている空き住戸数のすべてが緊急避難先として使えるわけではなく、実際に使用可能な住戸は都が毎年度作成して区に提供するリストで確定する仕組みになっています。対象団地は毎年度異なるとされ、具体的な緊急避難先は各区市町に問い合わせる扱いです。
協定締結自治体の広がり
空き住戸の協定を締結しているのは、足立区、八王子市、清瀬市、北区、葛飾区、板橋区、狛江市、稲城市、江東区、墨田区、品川区、江戸川区の12団体です。このうち特別区は8区であり、23区の3分の1程度にとどまります。
共用部分の覚書を締結しているのは、江東区、墨田区、大田区、足立区、葛飾区、江戸川区、荒川区、北区、台東区、八王子市、清瀬市、品川区の12団体です。両方の枠組みを持つ自治体と、いずれか一方の自治体が混在しています。荒川区、台東区、大田区は共用部分の覚書のみ、板橋区、狛江市、稲城市は空き住戸の協定のみという状況であり、どちらの枠組みをどう使うかについて、自治体ごとに異なる判断がなされてきたことがうかがえます。
政策立案の示唆
この取組を行政が行う理由
第一の理由は、避難先の絶対量が不足していることです。浸水想定区域内の人口が約250万人であるのに対し、区内の避難所の収容規模が49.4万人という数値は、広域避難が前提として組み立てられていることの裏返しでもあります。しかし広域避難が成立しない事態を想定すれば、区域内で使える避難先を一つでも増やす必要があります。既存ストックの転用は、その最も手近な手段です。
第二の理由は、避難行動の実態に合わせる必要があることです。高齢者や障害のある方、乳幼児を抱える世帯にとって、遠方への移動を伴う広域避難は負担が大きく、実行できない場合があります。自宅から徒歩圏内にある都営住宅の上階に一時的に避難できる選択肢は、移動困難な層にとって現実的な選択肢になり得ます。
第三の理由は、都と区の資源配分の合理性です。都営住宅は都が保有し、避難の判断と住民対応は区が担います。それぞれが持つ資源を持ち寄る形をとれば、どちらか一方が新たな投資をするよりも効率的です。協定という形式は、この持ち寄りの条件をあらかじめ明文化しておく手段として機能しています。
行政側の意図
第一の意図は、判断から使用開始までの時間を短縮することだと考えられます。災害が迫った局面で都と区が交渉を始めていては間に合いません。使用可能な住戸のリストを毎年度あらかじめ提供しておき、区の要請だけで使用を開始できる状態を作っておくことが協定の主眼です。平時の準備で有事の判断を軽くするという設計です。
第二の意図は、責任の所在を明確にすることです。管理運営は区が実施し、水が引いた後は区が住戸を都に返還するという取り決めは、使用期間中の管理責任が区にあることを示しています。避難所運営の主体が曖昧なまま施設を借り受ければ、現場での混乱や事後の紛議につながります。
第三の意図は、無償提供という条件により、区が費用を理由に躊躇する余地をなくすことにあると考えられます。緊急時に使用料の扱いを協議していては判断が遅れます。あらかじめ無償と定めておくことは、意思決定の速度に直結します。
期待される効果
最も直接的な効果は、避難先の選択肢が物理的に増えることです。特に都営住宅が多く立地する地域では、住民にとって徒歩圏内の避難先が増えることになります。
次に期待されるのは、要配慮者への対応の改善です。学校の体育館のような大空間ではなく住戸単位で受け入れられることは、プライバシーの確保や、集団生活が困難な方への対応という点で利点があります。浸水が1週間から2週間以上続くという想定を踏まえると、滞在環境の質は無視できない要素です。
第三に、都と区の連携の実績が蓄積される効果があります。協定を結び、毎年度リストをやり取りするという運用を続けること自体が、有事の連絡体制を維持することにつながります。
第四に、他のストックへの応用可能性が開かれます。都営住宅で成立した枠組みは、公社住宅や区営住宅、さらには民間の集合住宅との協定にも応用できる考え方を含んでいます。
課題・次のステップ
第一の課題は、住民への事前周知です。使用可能な住戸は毎年度変動し、具体的な緊急避難先は各区市町に問い合わせる扱いとされています。避難先が事前に特定できなければ、住民は当日どこへ向かえばよいか分かりません。リストの変動を前提としたうえで、どの団地が候補になり得るかを平時にどこまで示せるかが、実効性を左右すると考えられます。
第二の課題は、避難先としての位置づけの整理です。前述のとおり、この空き住戸が災害対策基本法上の指定緊急避難場所に当たるのか、指定基準外の緊急避難先にとどまるのかによって、住民への説明の仕方と区が負う責任の範囲が変わります。指定基準外であれば、一定のリスクを抱えている場合があることを住民に周知する必要があるとされており、周知の内容を設計しておくことが求められます。
第三の課題は、滞在環境の確保です。空き住戸には家具も寝具も備蓄もありません。浸水が長期化した場合、電気や水道が使えない住戸での滞在は過酷なものになります。江東5区の方針でも、ライフラインが途絶した環境での長期滞在が課題として挙げられていました。内閣府の手引きが指定緊急避難場所の機能面の充実を求める方向に改定されたことも踏まえると、住戸を確保するだけでなく、何をどこまで持ち込むかを決めておく必要があります。
第四の課題は、管理運営体制です。管理運営は区が実施すると定められていますが、水害発生が迫った局面で区の職員を各団地に配置できるかは別の問題です。避難所運営の職員配置計画に、協定に基づく緊急避難先が組み込まれているかを点検する必要があります。地域の自主防災組織や団地の自治会との事前の役割分担も論点になります。
第五の課題は、返還時の扱いです。水が引き、本来の避難場所等への移転等が完了した後に区が住戸を返還すると定められていますが、使用後の清掃や損傷への対応、返還までに要する期間、その間の入居者募集への影響といった事項をどこまで詰めているかは、発表資料からは分かりません。有事の判断を速くするために平時の取り決めを厚くするという協定の趣旨からすれば、この部分の具体化も準備の一部になります。
特別区への示唆
第一の示唆は、避難先確保の発想を「作る」から「借りる」へ広げることです。この協定の本質は、平時に遊休している資源を有事に限って転用する点にあります。同じ発想は、区が把握できる範囲の他のストックにも適用できます。区営住宅の空き住戸、指定管理施設の使われていない諸室、区が関与する福祉施設の空きスペース。いずれも、平時の用途を変えずに有事の用途を重ねられるかという観点で棚卸しする価値があります。
第二の示唆は、都営住宅の立地が区によって大きく異なるという前提の確認です。空き住戸の協定を結んでいる特別区は8区にとどまり、共用部分の覚書を含めても限られています。都営住宅の立地が少ない区では、この手法で確保できる避難先はわずかです。そうした区では、民間の集合住宅や事業所との協定など、別の相手方を探す必要があります。都の枠組みがあるからといって自区に適用できるとは限らないという点は、検討の入口で確認すべき事項です。
第三の示唆は、二つの枠組みの使い分けです。空き住戸の協定と共用部分の覚書は別個の仕組みであり、締結状況も一致していません。共用部分は数を確保しやすい反面、エレベーターホールや廊下での滞在は長時間には向きません。空き住戸は滞在環境が優れる一方、使用可能な戸数は限られます。短時間の緊急退避と数日以上の滞在では求められる条件が異なるため、想定する浸水継続時間に応じてどちらをどう位置づけるかを整理しておくことが実務的です。
第四の示唆は、理想的な避難行動が実現しない場合の備えを計画に書き込むことです。江東5区の方針は、広域避難を目標としながら、判断の困難さ、渋滞の発生、移動手段を持たない人の存在という制約を率直に記載し、垂直避難を不可避の選択肢として位置づけました。計画に理想だけを書かず、実現しなかった場合の次善策まで含めて記述するという姿勢は、水害に限らずあらゆる災害対応計画に共通する示唆を含んでいます。
第五の示唆は、防災部局の外に資源を探す習慣です。今回の協定は都の住宅政策本部が所管しており、区の側でも住宅部門と防災部門の双方が関わります。災害対応の資源が防災部局の所管する施設に限られないという事実を前提にすれば、庁内の他部局が持つ資産や権限を災害時にどう使えるかを洗い出す作業には、まだ余地が残されている可能性があります。
まとめ
東京都が令和8年9月15日に江戸川区と締結した協定は、都営住宅等の空き住戸を水害時の緊急避難先として活用するものです。都が毎年度リストを提供し、区が浸水のおそれを判断した時点で使用を要請すれば、都は無償で一時提供します。管理運営は区が担い、水が引いて本来の避難場所等への移転等が完了した後に区が返還します。令和2年度に5団体で始まったこの枠組みは、令和4年度に4団体、令和7年度に1団体、令和8年に2団体が加わり、12団体に広がりました。
この協定が意味を持つのは、広域避難が成立しなかった場合の局面です。江戸川区は陸域の約7割がゼロメートル地帯で、大規模水害時には最大10メートル以上の浸水が想定され、浸水は1週間から2週間以上継続するとされています。江東5区は区民全員の広域避難を原則としつつ、公共交通機関が停止する段階では垂直避難へ移行せざるを得ないと整理してきました。浸水想定区域内の人口が約250万人であるのに対し、区内の避難所の収容規模は49.4万人にとどまるという数値は、区域内で使える避難先を一つでも増やす必要があることを示しています。
この手法の要点は、新たな施設を作らずに既存ストックの余剰を転用する点にあります。都営住宅の空き住戸は、退去後の補修中や入居手続中のものを含めて常に一定数が存在し、平時には効用を生みません。それを水害時に限って避難先に振り向ける設計は、区の負担を施設整備費ではなく運営体制の確保に集中させます。同じ発想は、区営住宅の空き住戸や指定管理施設の未使用スペースなど、区が把握できる他のストックにも応用できる可能性があります。
残された論点は少なくありません。使用可能な住戸が毎年度変動するなかで住民に何をどこまで事前周知できるか。この空き住戸が災害対策基本法上の指定緊急避難場所に当たるのか、指定基準外の緊急避難先にとどまるのか。家具も備蓄もない住戸での長期滞在をどう支えるか。水害が迫る局面で区の職員を各団地に配置できるのか。返還時の清掃や損傷への対応をどこまで定めているのか。協定の趣旨が平時の取り決めによって有事の判断を軽くすることにある以上、これらの具体化もまた準備の一部です。都営住宅の立地は区によって大きく異なるため、この枠組みをそのまま適用できない区も少なくありません。自区で使える資源は何かという問いから始めることが、現実的な出発点になると考えられます。




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