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【人事課】新卒採用 完全マニュアル

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はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。

人事課の新卒採用:その意義と歴史的変遷

地方自治体における新卒採用の重要性

 地方自治体における人事課の新卒採用業務は、単に組織の欠員を補充するという事務的な作業にとどまりません。それは、組織の未来を形作り、地域社会への持続的な価値提供を可能にするための、極めて戦略的な活動です。新卒採用が持つ多面的な重要性を理解することは、採用担当者としての使命感と業務の質を向上させる第一歩となります。

 第一に、新卒採用は組織の代謝を促し、持続可能性を確保するという根源的な役割を担います。団塊世代の大量退職などを経て、組織の年齢構成は常に変化しています。新卒職員を毎年継続的に採用することは、組織の活力を維持し、先輩職員から若手職員へと知識、技術、そして「公務員としての魂」を継承していくために不可欠です。彼らは組織の生命線であり、長期的な安定性の礎となります。

 第二に、新卒職員は組織に新たな視点と革新をもたらす触媒です。現代の若者たちは、デジタル技術を当たり前のものとして使いこなし、多様な価値観を持っています。彼らが組織に加わることで、旧来の慣習や固定観念に疑問が投げかけられ、業務プロセスの改善やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進力となることが期待されます。彼らは、組織が時代の変化に対応し、自己改革を遂げるための貴重な原動力なのです。

 第三に、新卒採用は地域社会を映す鏡としての役割を果たします。多様な背景を持つ若者を継続的に採用することで、自治体の職員構成が、実際にサービスを提供する地域社会の姿を反映するものとなります。これにより、住民からの信頼を高め、多様化・複雑化する住民ニーズに対して、より的確で共感性の高い行政サービスを提供することが可能になります。

 一方で、現代の学生が地方公務員のキャリアに何を求めているかを理解することも極めて重要です。安定性や社会貢献度の高さは、依然として大きな魅力です。しかし、同時に「将来性」や「自己実現につながる仕事」といった価値観も重視されるようになっています。これは、地方自治体がもはや「安定」というだけで選ばれる時代ではなく、民間企業と同様に、才能ある若者たちを惹きつけるための魅力的な「Employer Value Proposition(雇用主としての価値提案)」を積極的に打ち出していく必要があることを示唆しています。採用担当者の役割は、単なる試験の管理者から、公務というキャリアの魅力を伝えるマーケターへと変化しているのです。この意識改革こそが、現代の採用活動を成功に導く鍵となります。

地方公務員採用制度の歴史的変遷

 現在の地方公務員採用制度を深く理解するためには、その歴史的背景を知ることが不可欠です。制度は時代ごとの要請に応じて変化し続けており、その変遷は現代の採用活動が直面する課題とも密接に関連しています。

  • 明治期~第二次世界大戦終結まで:能力主義の黎明
    • 明治政府は、近代的な官僚制度を構築するため、情実任用を排し、能力に基づく人材登用を目指しました。1887年(明治20年)に「文官試験試補及見習規則」が制定され、試験による採用が本格的に始まります。これにより、特に高等文官試験(高文試験)合格者がキャリアの中核を占めるようになり、専門知識を持つプロフェッショナルな行政官集団の基礎が築かれました。この時代に確立された「公正な試験によって人材を選抜する」という原則は、今日の公務員採用制度の根幹をなしています。
  • 戦後改革期:科学的人事管理の導入
    • 第二次世界大戦後、GHQの指導のもとで公務員制度改革が行われました。アメリカ式の科学的人事管理制度である「職階制」の導入が試みられるなど、より客観的で合理的な人事制度の構築が目指されました。戦前の官吏身分は廃止され、地方自治の確立とともに、地方公務員法が制定され、現在の採用制度の法的枠組みが整備されました。しかし、能力実証の根幹として競争試験を重視する文化は、色濃く受け継がれました。
  • 現代(1990年代以降):人物重視への転換
    • バブル経済崩壊後の1990年代半ばから、採用制度に大きな変化が見られるようになります。単なる筆記試験の点数だけでは、複雑化する行政課題に対応できる人材を見極めることが難しいという認識が広まりました。その結果、多くの自治体で、第一次試験(筆記試験)の合格者数を採用予定者数の3~4倍に増やし、その後の面接試験で人物をじっくりと見極めるという手法が主流となっていきました。これは、知識量だけでなく、コミュニケーション能力や問題解決能力といったコンピテンシーを重視する現代的な採用への明確なシフトを示すものでした。

 この歴史的変遷を振り返ると、現代の公務員採用が一つの大きな課題に直面していることがわかります。それは、「試験の公正性という伝統」と「現代的コンピテンシー評価の必要性」との間の緊張関係です。100年以上にわたり採用の公正性を担保してきた筆記試験という制度は、強力な慣性を持っています。しかし、現代の公務員には、法律知識だけでなく、住民との対話能力、デジタルツールを使いこなす能力、前例のない課題に立ち向かう創造性などが求められます。これらの能力は、従来の筆記試験だけでは測ることが困難です。東京都などがSPI方式の導入や複数回の面接を導入しているのは、この課題を乗り越えようとする先進的な試みです。本研修資料を通じて、この歴史的背景を理解し、公正性を維持しながらも、いかにして現代に求められる多様な能力を持つ人材を見出していくか、その方策を学んでいきましょう。

新卒採用業務の法的根拠

根拠法令の全体像

 地方自治体の新卒採用は、担当者の裁量や慣例だけで行われるものではなく、厳格な法的根拠に基づいて実施されなければなりません。採用活動の全てのプロセスは、法律の範囲内で、その趣旨に沿って行われる必要があります。採用担当者は、これらの法令を遵守する義務を負っており、その理解はコンプライアンス上、不可欠です。

 採用業務を規律する主要な法令は以下の通りです。

  1. 地方公務員法: 採用の根本原則(平等取扱、成績主義)、採用方法、欠格条項、条件付採用など、採用活動の根幹を定める最も重要な法律です。
  2. 男女雇用機会均等法: 直接的な適用除外規定があるものの、その理念は地方公務員法第13条の平等取扱の原則と軌を一にしており、性別による差別的な取り扱いを行わないことは当然の責務です。
  3. 障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法): 地方公共団体に対して、民間企業よりも高い法定雇用率を課し、障害のある方々の雇用を促進する義務を定めています。募集・採用における差別の禁止や合理的配慮の提供も義務付けられています。

 これらの法令は、採用活動における「やって良いこと」と「やってはならないこと」の明確な指針となります。以降の項で、それぞれの法律が実務にどう関わるかを具体的に解説します。

地方公務員法の主要条文と実務上の解釈

 地方公務員法は、新卒採用業務のバイブルです。ここでは、特に重要な条文をピックアップし、その内容と実務上の意義を解説します。これらの条文知識は、日々の業務判断の拠り所となり、また、受験生や内部からの問い合わせに自信を持って答えるための礎となります。

 以下の表は、採用に関連する主要条文をまとめたものです。この表を手元に置くことで、複雑な法文を都度読み解くことなく、実務上のポイントを迅速に確認できます。例えば、新たな選考方法を企画する際に、第17条の2を確認すれば、「競争試験」の原則と「選考」の例外規定のバランスをどう取るべきか、その法的根拠を明確に意識しながら制度設計を進めることができます。

条文番号原則・制度名条文の概要実務上の意義・留意点
第13条平等取扱の原則全ての国民に対し、任用において平等に取り扱わなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、門地等によって差別してはならないと規定。募集・選考の全過程で公平性を担保する根拠。面接での不適切な質問(例:支持政党、購読新聞、家族の職業など)の禁止に直結する最重要原則です。
第15条成績主義の原則職員の任用は、受験成績、勤務成績その他の能力の実証に基づいて行わなければならないと規定。縁故採用や情実人事の明確な排除。全ての評価基準が客観的で、能力を実証するものとして設計されているか、常に問われます。
第16条欠格条項禁錮以上の刑に処せられた者など、法律で定められた特定の事由に該当する者は職員となることができないと規定。採用内定後、最終合格者が欠格条項に該当しないことを、自己申告等を通じて必ず確認する必要があります。虚偽の申告が発覚した場合、採用取消の正当な事由となります。
第17条の2採用の方法職員の採用は、競争試験によることを原則とする。ただし、人事委員会規則等で定める場合には、選考によることができると規定。伝統的な筆記試験の根拠であると同時に、SPI等の民間企業のテストや面接のみの選考(選考)を導入する際の法的根拠ともなります。新方式の導入には、条例や規則の整備が必要です。
第18条の2採用試験の公開平等採用試験は、受験資格を有する全ての国民に対し、平等の条件で公開されなければならないと規定。試験日程や内容の事前公表の義務。特定の受験者に有利になるような情報の提供は、地方公務員法第19条第2項により固く禁じられています。
第22条条件付採用職員の採用は全て条件付きとし、その職において6月間の勤務を良好な成績で遂行したときに正式採用となると規定。いわゆる「試用期間」の法的根拠です。この期間中の勤務状況が著しく不良である場合、分限免職の対象となり得ますが、その適用は極めて慎重に行う必要があります。

男女雇用機会均等法と障害者雇用促進法の遵守

 地方公務員の採用においては、地方公務員法に加え、社会全体の要請であるダイバーシティ&インクルージョンの観点から、特にジェンダーと障害に関する法令の遵守が強く求められます。

  • 男女雇用機会均等法の理念の尊重
    • 地方公務員は、男女雇用機会均等法の一部の規定(募集・採用における性差別禁止など)の直接適用からは除外されています。しかし、これは性別による差別が許されるという意味では全くありません。地方公務員法第13条の「平等取扱の原則」が厳然として存在し、性別を理由とする不合理な差別は固く禁じられています。
    • 国の人事院が女性の採用・登用を増やす指針を示しているように、各自治体もこれをモデルとして、女性の活躍を推進する責務を負っています。具体的には、募集職種を「保母」から「保育士」のように性別を想起させない名称にすることや、採用目標において女性比率を意識すること、面接で性別による固定的な役割分担を前提とした質問をしないことなどが求められます。1997年の改正均等法で民間企業に禁止された「女性のみ募集」といった措置は、公務員においても当然許されません。
  • 障害者雇用促進法に基づく義務の履行
    • 障害者の雇用は、努力目標ではなく、法的に課された義務です。地方公共団体は、民間企業よりも重い法定雇用率が定められており、その達成は社会的な責務です。
    • 法的義務の具体的内容:
      • 法定雇用率の達成: 2024年4月時点で2.8%、2026年7月からは3.0%という法定雇用率を達成する義務があります。未達成の場合、国から「障害者採用計画」の作成を命じられ、その進捗を報告する義務が生じます。
      • 差別の禁止: 募集・採用において、障害があることを理由に不利な扱いをすることは禁止されています。
      • 合理的配慮の提供: 採用試験において、障害の特性に応じた必要な配慮(例:試験時間の延長、車椅子でアクセス可能な試験会場の確保、点字や拡大文字による問題冊子の提供、手話通訳者の配置など)を提供する義務があります。この配慮の提供を怠ることは、事実上の差別と見なされる可能性があります。
      • 障害者活躍推進計画の策定・公表: 各任命権者は、障害者である職員の活躍を推進するための計画を策定し、その実施状況を公表しなければなりません。
    • 障害者雇用は、単に法律上の数値を満たすためのコンプライアンス活動ではありません。多様な視点や経験を持つ職員が共に働くことは、組織全体の課題解決能力を高め、住民サービスの質を向上させることにつながります。例えば、庁舎のバリアフリー化を進める際、車椅子を利用する職員の意見は、机上の計画だけでは得られない貴重な知見をもたらします。障害者採用を、法的義務の履行から、組織の強みを創造する戦略的活動へと昇華させる視点が、これからの採用担当者には求められています。

新卒採用の標準業務フローと実務詳解

フェーズ1:採用計画の策定

 優れた採用活動は、優れた計画から始まります。行き当たりばったりの採用は、ミスマッチや非効率を生む最大の原因です。このフェーズでは、次年度の採用活動の羅針盤となる、緻密で戦略的な計画を策定します。

  • 1. 要員計画と採用人数の確定
    • 最初のステップは、各部署へのヒアリングや人事データ分析を通じて、組織全体の要員ニーズを把握することです。単に「退職者数=採用数」とするのではなく、事業計画や行政課題の変化を見据え、「5年後、10年後にどのようなスキルセットを持つ人材が必要か」という未来志向の視点で必要人数を算出します。これは、単なる人員補充ではなく、**戦略的なタレント・アクイジション(才能獲得)**への意識転換を意味します。
  • 2. 求める人物像(ペルソナ)の具体化
    • 「コミュニケーション能力が高い人材」といった曖昧な言葉で終わらせず、具体的な人物像、すなわち「ペルソナ」を定義します。
    • 例えば、「DX推進担当」であれば、「多様な関係者と粘り強く調整できる協調性」「既存の業務フローを批判的に分析し、改善案を論理的に提案できる能力」「新しい技術を学ぶことへの強い意欲」といった具体的なコンピテンシー(行動特性)レベルまで落とし込みます。このペルソナが、後の広報メッセージや面接での評価基準のブレない軸となります。
  • 3. 採用スケジュールの策定
    • 採用活動は、政府が要請する就職・採用活動日程を遵守する必要があります。内定式(10月1日)や入庁日(翌年4月1日)から逆算し、各フェーズ(広報開始、エントリー締切、一次試験、二次試験、内定出し)のデッドラインを明確に設定します。特に、現年度の採用活動と次年度のインターンシップ企画などが並行して進むため、俯瞰的な年間スケジュールを作成し、関係者間で共有することが重要です。
  • 4. 採用予算の計画
    • 求人媒体への広告掲載費、合同説明会への出展料、採用管理システム(ATS)の利用料、パンフレット等の制作費、遠隔地からの受験者への交通費補助など、必要な経費を洗い出し、予算を確保します。過去の実績を参考にしつつ、新たな広報戦略などを盛り込んだ、費用対効果の高い予算計画を立案します。

フェーズ2:母集団形成と広報活動

 採用計画で定めた「求める人物像」に合致する学生層に、いかにして自らの自治体の存在と魅力を届け、応募へと繋げるか。この母集団形成が、採用の成否を大きく左右します。現代の広報活動は、多様なチャネルを駆使した、戦略的な情報発信が求められます。

  • 1. 採用広報チャネルの多角化
    • ターゲットとなる学生層に確実に情報を届けるため、複数のメディアを組み合わせたアプローチが不可欠です。
      • トラディショナルメディア:
        • 広報紙・パンフレット: 依然として高齢者層やその保護者への情報伝達には有効であり、信頼性を醸成します。デザインや企画を工夫し、若者にも手に取ってもらえるような工夫が求められます。
        • 大学内説明会・合同企業説明会: 学生と直接対話できる貴重な機会です。仕事のやりがいを熱意をもって伝えることが重要です。
      • デジタルメディア:
        • 公式採用ウェブサイト: 全ての情報のハブとなる最も重要なメディアです。職員インタビューやプロジェクト紹介など、コンテンツを充実させ、魅力を多角的に伝えます。
        • SNS (X, Instagram, LINE): 若者世代へのリアルタイムな情報発信に絶大な効果を発揮します。Instagramでは写真や動画で職場の雰囲気を伝え、Xでは説明会情報などを迅速に拡散、LINEは登録者へのプッシュ型情報提供に活用できます。
        • 動画 (YouTubeなど): 職場の様子や職員の声を動画で伝えることで、文章だけでは伝わらないリアルな魅力を視覚的に訴求できます。
  • 2. 心に響くメッセージの発信
    • 広報の目的は、単なる情報提供ではありません。候補者の感情に訴えかけ、共感を呼び、「ここで働きたい」と思わせることです。
    • ストーリーテリング: 制度や業務内容を羅列するのではなく、一人の若手職員がどのような想いで仕事に取り組み、地域にどう貢献しているか、といった物語を通じて仕事の魅力を伝えます。
    • オーセンティシティ(本物らしさ): 加工されたイメージではなく、ありのままの職場の姿、職員の素顔を見せることが信頼につながります。東京都の「戦略広報」のように、1400万人の都民一人ひとりの生活にどう関わっているか、という視点で語りかけることが、共感を生む鍵です。広報とは、候補者との感情的なつながりを築くための対話なのです。

フェーズ3:選考プロセスの実施

 母集団形成を経て集まった応募者の中から、求める人物像に最も合致する人材を見極める、採用活動の中核となるプロセスです。公正性を担保しつつ、候補者の能力とポテンシャルを多角的に評価する制度設計が求められます。

  • 1. 申込受付・書類選考
    • 近年はインターネットによる申込が主流です。申込システムを通じてエントリーを受け付け、受験資格(年齢、資格等)を満たしているかを確認します。この段階で、エントリーシート(ES)の提出を求める自治体も増えています。
  • 2. 第一次試験(筆記試験)
    • 伝統的に、候補者の基礎学力や専門知識を測るための関門です。
      • 一般方式: 公務員として必要な基礎知識を問う「教養試験」と、法律・経済・土木といった専門分野の知識を問う「専門試験」で構成されるのが一般的です。
      • 新方式(SPI3等の活用): 近年、東京都や特別区などで導入が進んでいるのが、民間企業の採用で広く使われるSPI3などの適性検査を活用する方式です。これは、公務員試験のための特別な勉強をしていない多様なバックグラウンドを持つ学生にも門戸を広げる戦略的な取り組みです。
  • 3. 第二次・第三次試験(人物試験)
    • 筆記試験を通過した候補者に対し、面接等を通じて能力や人柄を深く評価します。
      • 個別面接: 最も一般的な形式で、ほぼ全ての公務員試験で実施されます。面接官は、ESや面接カードに基づき、志望動機や自己PR、過去の経験について深掘りの質問を行います。
      • 集団討論・グループワーク: 複数の受験者が与えられたテーマについて討議する形式です。協調性、リーダーシップ、論理的思考力、傾聴力など、ペーパーテストでは測れない対人スキルを評価するのに有効です。
      • プレゼンテーション面接: 東京都の新方式などで見られるように、事前に与えられた行政課題について分析し、解決策をプレゼンテーションする形式です。企画立案能力や課題解決能力を直接的に評価できます。
  • 4. 最終合格と採用候補者名簿への登載
    • 全ての選考プロセスを経て、最終的な合格者が決定されます。合格者は「採用候補者名簿」に登載されます。ここで重要なのは、「最終合格=即内定」ではないという点です。名簿の中から、各任命権者(市長、教育委員会など)からの面談等を経て、最終的な内定が出されます。

 選考プロセス全体を通じて忘れてはならないのは、これが自治体と候補者の双方向のマッチングの場であるということです。候補者が自治体を評価しているのと同様に、候補者もまた、選考プロセスを通じてその自治体の組織文化や職員の質を評価しています。非効率な手続き、高圧的な面接官、不透明な選考基準は、優秀な人材を遠ざける原因となります。選考の各ステップは、候補者に対する最高のプレゼンテーションの機会であると捉え、丁寧で誠実な対応を心がけることが、最終的な採用成功に繋がります。

フェーズ4:内定から採用まで

 最終合格を通知し、候補者から入庁の意思を得た後も、採用担当者の仕事は終わりません。むしろ、ここからが内定辞退を防ぎ、4月1日に確実に入庁してもらうための最も重要な期間、「内定者フォロー」の始まりです。

  • 1. 内定通知と意思確認
    • 最終合格の通知後、速やかに内定の連絡を行い、入庁の意思を確認します。この際、今後のスケジュールや手続きについて丁寧に説明し、候補者の不安を払拭します。
  • 2. 内定者フォローの戦略的実施
    • 学生が複数の内定を保持することが当たり前となった現代において、内定者フォローは内定辞退を防ぐための生命線です。目的は、内定者が抱える「入庁後の人間関係」「仕事内容への不安」「他の選択肢との迷い」といった不安を解消し、組織への帰属意識と入庁意欲を高めることです。
    • 具体的な施策例:
      • 懇親会: 内定者同士や若手職員との交流の場を設けます。同期となる仲間や、少し先のキャリアを歩む先輩との対話は、「この人たちと一緒に働きたい」という気持ちを醸成する上で非常に効果的です。
      • 個別面談: 人事担当者や配属予定先の管理職などが、一人ひとりの内定者と面談し、キャリアプランの相談に乗ったり、疑問に答えたりします。個別のケアが安心感につながります。
      • 職場見学・イベント参加: 実際に働くことになる庁舎を見学したり、職場のイベントに参加してもらったりすることで、入庁後のイメージを具体的に持たせ、リアリティショックを防ぎます。
      • 情報提供: 定期的にニュースレターや庁内報を送付し、組織の動向や先輩職員の活躍を伝えることで、継続的な関与を保ちます。
      • オンライン施策: 遠隔地の内定者向けに、オンラインでの座談会や庁舎のバーチャルツアー、eラーニングによる入庁前研修などを実施することも有効です。
  • 3. 入庁準備
    • 内定承諾者に対して、健康診断の案内、必要書類の提出依頼など、入庁に向けた事務手続きを進めます。同時に、庁内では配属先の決定、PCや制服などの備品準備、新人研修の企画など、受け入れ体制を万全に整えます。

 法的な雇用契約は4月1日に始まりますが、採用担当者は内定通知から入庁までの間に、候補者との「心理的な契約」を築き上げる必要があります。この期間の丁寧で一貫したコミュニケーションが、候補者の心を繋ぎ止め、他の魅力的なオファーから自らの組織を選んでもらうための最後の、そして最も重要な砦となるのです。

応用知識と先進事例研究

多様な人材の確保に向けた取組み

 現代の地方自治体には、複雑化・多様化する社会課題に対応するため、多様な背景、価値観、能力を持つ人材を結集させることが不可欠です。法定の義務を遵守するだけでなく、より積極的に多様な人材を確保し、その能力を最大限に活かす「ダイバーシティ&インクルージョン」の視点が、採用戦略の核となります。

  • ジェンダー・ダイバーシティの推進
    • 「女性活躍推進法」の趣旨に基づき、女性職員の採用比率や管理職登用率に関する数値目標を設定し、計画的に取り組むことが求められます。採用広報において、様々な部署で活躍する女性職員のロールモデルを積極的に紹介することや、育児休業後のキャリアパスを明確に示すことで、女性候補者にとって魅力的な職場であることをアピールします。
  • 障害者インクルージョン
    • 法定雇用率の達成は最低限の義務です。その一歩先へ進むためには、障害のある職員がその能力を存分に発揮できる環境整備が重要です。採用段階での合理的配慮はもちろん、入庁後も本人の能力と希望に応じてキャリア形成を支援する体制を整えることが、真のインクルージョンにつながります。障害のある職員が活躍できる組織は、障害のある住民にとっても利用しやすいサービスを提供できる組織へと成長します。
  • 性的マイノリティ(LGBTQ+)への配慮
    • 全ての職員が自分らしく働ける職場環境を目指し、採用活動においてもインクルーシブな姿勢を示すことが重要です。エントリーシートの性別欄に「その他」や「無回答」の選択肢を設ける、同性パートナーシップ制度を福利厚生の対象として明記するなど、具体的な取り組みが求められます。こうした姿勢は、多様性を尊重する組織文化の象徴となり、優秀な人材を惹きつけます。
  • 経験者・第二新卒の積極採用
    • 新卒一括採用という伝統的な枠組みにとらわれず、民間企業等での就業経験を持つ人材を積極的に採用することも、組織の多様性を高める上で有効です。東京都が実施しているように、第二新卒や社会人経験者を対象とした採用枠を設けることで、即戦力となるスキルや新たな視点を組織に取り入れることができます。

 多様な人材の確保は、単なる社会貢献活動ではありません。それは、組織のレジリエンス(回復力・適応力)を高めるための経営戦略です。均質な組織は、予期せぬ変化に対して脆弱です。多様な視点が交錯することで、組織は新たな課題に対する創造的な解決策を生み出し、変化にしなやかに対応する力を獲得するのです。採用担当者は、組織の未来を盤石にするため、多様性の担い手を戦略的に採用する役割を担っています。

先進事例:東京都・特別区の戦略と制度改革

 地方自治体の採用活動の中で、最も先進的かつ大胆な改革を進めているのが、東京都と特別区(東京23区)です。彼らの取り組みは、全国の自治体が直面する採用課題への解決策を示唆しており、深く学ぶ価値があります。

  • 1. 採用広報のプロフェッショナル化
    • 東京都は、2022年に「戦略広報部」を新設しました。これは、従来の「お知らせ」型広報から脱却し、民間企業と同様の専門的なPR・ブランディング手法を用いて、「東京都で働くこと」の魅力を戦略的に発信するための組織です。民間からPRのプロフェッショナルを積極的に採用し、「都政への共感と理解を生む情報発信」を強力に推進しています。
  • 2. 受験生の多様なキャリアプランに対応する柔軟な試験制度
    • 東京都は、受験生のライフプランやキャリア志向の多様化に対応するため、画期的な制度改革を断行しています。
      • 採用機会の複線化: 従来の春試験に加え、秋にも試験を実施することで、就職活動の途中で公務員志望に転向した学生や第二新卒にも門戸を開きました。
      • 採用候補者名簿有効期間の延長: 合格後の名簿有効期間を1年から3年に延長。これにより、合格後に大学院進学、海外留学、さらには民間企業での数年間の経験を経てから入庁するという、非線形なキャリアパスが可能になりました。これは、多様な経験を積んだ人材を確保するための革命的な施策です。
      • 試験内容の多様化: 従来の公務員試験対策が必須の「一般方式」に加え、民間企業で一般的なSPI3を一次試験に採用する「新方式」を導入。これにより、法学部や経済学部以外の、多様な専門性を持つ学生が受験しやすくなりました。
  • 3. 特別区における改革の動向
    • 特別区でも同様の改革が進んでいます。特に注目すべきは、事務職における「早期SPI枠」の新設です。これにより、公務員試験の準備を必要としないSPIだけで早期に選考を進め、優秀な人材を民間企業と競合しながら確保することを目指しています。また、福祉や心理などの専門職では、教養試験を廃止し専門試験のみに絞るなど、より専門性を重視した選考への転換を図っています。

 これらの改革に共通するのは、伝統的な「公務員試験予備校」を前提とした採用からの戦略的な脱却です。かつて公務員になるには、予備校に通い、長期間専門的な勉強をすることが半ば必須でした。しかし、このモデルは、その準備をしていない多くの優秀な理系学生や人文系学生を無意識のうちに排除してきました。東京都や特別区は、SPI方式や専門試験特化型の導入により、この参入障壁を意図的に取り払おうとしています。これは、選抜の発想を「最高のテストテイカーを選ぶ」から「あらゆる分野から最高のタレントを惹きつける」へと転換させる、まさにパラダイムシフトです。この先進事例は、他の自治体が自らの硬直化した試験制度を見直す上で、極めて重要な示唆を与えています。

広域連携による採用活動の可能性

 特に中小規模の自治体にとって、単独での採用活動は、知名度の低さや予算の制約から困難を極めることがあります。特に、土木技術職などの専門人材の確保は共通の課題です。こうした状況を打破する有効な手段が、近隣の自治体と連携して採用活動を行う「広域連携」です。

  • 共同採用試験の実施
    • 奈良県の事例: 奈良県では、県と県内の市町村が共同で土木技術職員の採用試験を実施しています。一次試験を共通化し、受験者は希望する自治体を第三希望まで選択できます。これにより、受験者は一度の試験で複数の自治体を受験できるメリットがあり、自治体側は、単独では応募者が集まりにくい小規模町村にも受験者を誘導できるほか、試験実施の事務コストを削減できます。
    • 千葉県香取地域の事例: 香取市・神崎町・多古町・東庄町が参加する香取広域市町村圏事務組合では、千葉県内の市町村等が合同で実施する採用試験に参加する形で、共同採用試験を行っています。
  • 共同での広報活動・説明会の開催
    • 複数の自治体が合同で、東京や大阪などの大都市圏で採用説明会を開催するケースも見られます。これにより、一自治体では難しい大規模なイベントが実施でき、各自治体の魅力を一度に多くの学生にアピールすることが可能になります。採用パンフレットの共同制作や、ウェブ広告の共同出稿なども、コストを分担しながら効果を高める有効な手段です。
  • 広域連合による人材確保・育成
    • 埼玉県と県内全市町村で構成される「彩の国さいたま人づくり広域連合」のように、職員研修や人材確保を共同で行うための特別地方公共団体を設立する先進的な事例もあります。このような組織は、採用合同説明会の開催など、広域的な採用活動のプラットフォームとして機能します。

 人材獲得競争が激化する現代において、中小規模の自治体にとって、もはや広域連携は単なる選択肢ではなく、生き残りのための必須戦略です。自治体間の競争という発想から、地域全体で人材を確保・育成するという協力の発想へと転換することが求められています。共同で活動することにより、個々の自治体では成し得ないスケールメリットと発信力を手に入れ、地域全体としての人材獲得力を高めることができるのです。

業務改革とDXの推進

ICT活用による採用業務の効率化

 採用担当者は、候補者とのコミュニケーションや採用戦略の立案といった創造的な業務に注力すべきですが、実際には日程調整、データ入力、書類管理といった多くの定型業務に時間を奪われがちです。ICT(情報通信技術)を戦略的に活用することで、これらのノンコア業務を自動化・効率化し、採用活動全体の質を向上させることができます。

  • オンライン(Web)面接の導入
    • 新型コロナウイルス感染症の拡大を機に急速に普及しましたが、今や採用活動のスタンダードです。遠隔地の優秀な候補者にとって、移動時間や交通費の負担なく選考に参加できる大きなメリットがあります。自治体側にとっても、面接官の移動時間が削減され、より柔軟なスケジュール調整が可能になります。また、面接を録画することで、後から複数の評価者で客観的に見直したり、面接官自身のスキルアップのための振り返りに活用したりすることも可能です。
  • 採用管理システム(ATS: Applicant Tracking System)の活用
    • 応募者の情報(履歴書、エントリーシート、選考評価など)を一元管理し、選考の進捗状況を可視化するシステムです。候補者へのメール連絡を自動化したり、面接日程の調整をシステム上で行ったりすることで、手作業によるミスを防ぎ、事務作業を大幅に削減します。これにより、採用担当者は煩雑な管理業務から解放されます。
  • RPA(Robotic Process Automation)による定型業務の自動化
    • RPAは、PC上で行うクリックやキーボード入力といった定型的な操作を自動化する技術です。採用業務においては、以下のような作業に活用できます。
      • 応募者データの転記: Webエントリーシステムからダウンロードした応募者情報を、庁内の人事システムへ自動で入力する。
      • 通知書作成: 合否結果のリストに基づき、通知書の文面を自動で作成し、印刷キューに送る。
      • データ集計: 応募者の属性(大学、学部など)を自動で集計し、分析用のレポートを作成する。
    • これらの作業をRPAに任せることで、職員はヒューマンエラーの心配なく、より付加価値の高い業務に集中できます。

 採用業務におけるDXの本質は、単なる効率化やコスト削減に留まりません。それは、ICTによって創出された時間とリソースを、人にしかできない高付加価値業務へと再配分することです。自動化によって生まれた時間で、大学とのリレーションを深めたり、候補者一人ひとりと丁寧に対話したり、採用データを分析して次年度の戦略を練ったりする。ICTは、採用担当者を事務作業者から、組織の未来を創る戦略的パートナーへと変革させるための強力な武器なのです。

民間活力の活用(RPO等)

 全ての採用業務を庁内だけで完結させることが、必ずしも最善とは限りません。特に、大規模な採用を行う場合や、専門的なノウハウが不足している場合、民間の専門サービスを戦略的に活用することが、費用対効果を高める有効な手段となります。その代表的なものがRPO(Recruitment Process Outsourcing)です。

  • RPO(採用代行)とは
    • 採用計画の立案から、求人広告の作成・出稿、スカウトメールの配信、応募者対応、面接日程の調整、内定者フォローに至るまで、採用プロセスの一部または全部を外部の専門企業に委託するサービスです。
  • RPO活用のメリット
    • 専門知識とノウハウの活用: 採用市場の最新動向や効果的な母集団形成の手法など、民間の採用のプロが持つ専門知識を活用できます。
    • リソースの柔軟な確保: 採用の繁忙期に合わせて外部リソースを活用することで、職員の業務負荷を平準化し、残業時間の削減にも繋がります。急な増員が必要になった場合にも迅速に対応できます。
    • コア業務への集中: 日程調整や応募者からの問い合わせ対応といったノンコア業務を委託することで、職員は面接や採用戦略の策定といった、自治体職員でなければできないコア業務に集中できます。
  • 自治体における活用例と留意点
    • 例えば、技術職など特定の専門職の採用において、その分野に特化した人材紹介会社やRPOサービスを活用し、スカウトメールの配信代行を依頼するケースが考えられます。また、大規模な採用説明会の企画・運営をイベント会社に委託することも有効です。
    • 活用にあたっては、地方自治法に基づく適切な契約手続きが必要です。また、応募者の個人情報を外部に渡すことになるため、委託先のセキュリティ体制を厳格に審査し、契約書に情報管理に関する条項を盛り込むことが不可欠です。RPOは単なる「外注」ではなく、自治体の採用目標を共有し、共にゴールを目指す「パートナー」として選定する視点が重要です。

生成AIの活用可能性と具体的用途

 ChatGPTに代表される生成AIは、採用業務のあり方を根底から変える可能性を秘めた革新的な技術です。現時点では試行錯誤の段階にある自治体が多いものの、将来的には採用活動のあらゆる場面で強力なアシスタントとして機能することが期待されます。以下に、具体的で実践的な活用例を挙げます。

  • 1. 採用広報・マーケティング業務
    • 求人票・広報文案の自動生成: 求める人物像(ペルソナ)や職務内容を指示するだけで、ターゲットに響く魅力的な求人票やSNS投稿文のドラフトを瞬時に作成できます。これにより、文章作成にかかる時間を大幅に短縮できます。
    • FAQコンテンツの作成: 採用サイトに掲載する「よくある質問(FAQ)」を、過去の問い合わせデータなどから自動生成させることができます。
  • 2. 候補者とのコミュニケーション
    • AIチャットボット: 採用サイトにAIチャットボットを設置し、勤務条件や試験日程といった定型的な質問に24時間365日自動で応答させます。これにより、候補者はいつでも疑問を解消でき、職員は個別対応が必要な複雑な問い合わせに集中できます。
    • メール文面のパーソナライズ: 説明会案内や面接結果通知などの定型メールを、候補者一人ひとりの状況に合わせて、丁寧でパーソナライズされた文面に自動で調整します。
  • 3. 選考プロセス
    • エントリーシートの初期スクリーニング: 膨大な数のエントリーシートから、必須要件(資格、経験など)を満たす候補者をAIが自動で抽出します。ただし、最終的な判断は必ず人間が行うという二重チェック体制が不可欠です。
    • 面接質問の生成: 職務記述書と求めるコンピテンシーをインプットし、「この候補者の協調性を確認するための具体的な行動質問を5つ提案してください」といった指示で、構造化された質の高い面接質問リストを作成できます。
    • 面接の文字起こしと要約: オンライン面接の録画データをAIで自動的に文字起こしし、発言の要点をまとめることで、面接官の評価記録作成の負担を劇的に軽減します。これにより、評価の客観性も高まります。
  • 4. 内部業務の効率化
    • 面接官トレーニング資料の作成: 「新任面接官向けのトレーニングで、コンピテンシー評価のポイントを解説する研修資料のアウトラインを作成して」といった指示で、研修コンテンツを効率的に作成できます。

 生成AIは、採用担当者の能力を代替するものではなく、その能力を飛躍的に拡張する**「コンピテンシー・アンプリファイア(能力増幅器)」**と捉えるべきです。一人の担当者が、プロのコピーライターのように広報文を書き、データアナリストのように応募者傾向を分析し、研修デザイナーのようにトレーニング資料を作成する。生成AIを使いこなす能力(プロンプトエンジニアリング)は、これからの採用担当者にとって必須のスキルとなるでしょう。

実践的スキル:採用成果を最大化するためのPDCAサイクル

組織レベルでの採用力強化PDCA

 採用活動は、一度実施して終わりではありません。組織として継続的に採用力を強化していくためには、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)を繰り返すPDCAサイクルを、採用プロセス全体に組み込むことが不可欠です。これにより、採用活動は経験や勘に頼る「属人的な業務」から、データに基づき改善を続ける「科学的なプロセス」へと進化します。

  • Plan(計画):目標とKPIの設定
    • まず、当該年度の採用活動における明確で測定可能な目標を設定します。これは単なる「採用人数」だけではありません。採用活動の質を測るための重要業績評価指標(KPI)を具体的に定義します。
    • KPI設定例:
      • 量に関するKPI: 応募者総数、説明会参加者数、各選考段階への移行率(歩留まり率)
      • 質に関するKPI: 内定承諾率、採用ターゲット層(例:理系学生、UIターン希望者)からの応募比率、入庁後1年以内の離職率
      • 効率に関するKPI: 採用コスト(一人当たり)、応募から内定までの平均所要日数
  • Do(実行):計画に基づく採用活動の実施
    • 設定した計画とスケジュールに基づき、広報活動、説明会、選考プロセスを着実に実行します。この段階では、各活動の状況(応募者数、説明会の評判など)を記録しておくことが、後の評価(Check)フェーズで重要になります。
  • Check(評価):データに基づく客観的な振り返り
    • 採用活動が一段落したら、結果を客観的に評価します。Planで設定したKPIが達成できたか、データを用いて検証します。
    • 評価の視点:
      • 目標達成度: 各KPIは目標値をクリアしたか? 未達だったKPIは何か?
      • ボトルネック分析: 応募から内定までのプロセスで、どこで最も多くの候補者が離脱したか(歩留まりが悪かったか)を特定します。
      • 施策の効果測定: 新たに導入した広報チャネル(例:SNS広告)は、どれくらいの応募に繋がったか? 費用対効果はどうだったか?
      • 定性評価: 内定辞退者へのアンケート(可能であれば)、新入職員や配属先上司へのヒアリングを通じて、採用プロセスの満足度や課題点を収集します。
  • Act(改善):次年度計画への具体的な反映
    • 評価(Check)で明らかになった課題に基づき、具体的な改善策を立案し、次年度の採用計画(Plan)に反映させます。
    • 改善アクションの例:
      • 課題: 「技術職の内定承諾率が低い」
      • 分析: 「ヒアリングの結果、仕事の魅力やキャリアパスが十分に伝わっていなかったことが判明」
      • 改善策: 「次年度は、技術職の若手・中堅職員が登壇する専門職向け座談会を新たに企画し、現場のリアルな声を伝える機会を増やす」

 このPDCAサイクルを組織的に回すことは、採用活動を「感覚論」から「データドリブン」へと転換させることを意味します。これにより、改善策の説得力が増し、予算要求の際にも客観的な根拠を示すことができます。これは、人事課が単なる事務部門から、組織の人的資本を戦略的にマネジメントする部門へと進化していくための重要なステップです。

個人レベルでのスキルアップPDCA

 組織全体の採用力が向上するためには、採用担当者一人ひとりのスキルアップが不可欠です。特に、候補者と直接対峙する「面接官」の能力は、採用の成否に直結します。なぜなら、候補者にとって、目の前にいる面接官こそが、その自治体の「顔」そのものだからです。個々の担当者が自身のスキル向上のためにPDCAサイクルを回す意識を持つことが、組織全体の採用力を底上げします。

  • Plan(計画):個人の能力開発目標を設定する
    • 自身の現状のスキルを客観的に見つめ、具体的な成長目標を立てます。
    • 目標設定例:
      • 「候補者の潜在能力を見抜くため、行動事実を深掘りする質問(行動面接法)のスキルを習得する」
      • 「オンライン面接において、対面と変わらないラポール(信頼関係)を築くためのコミュニケーション技術を向上させる」
      • 「自らの自治体の魅力を、3分間で簡潔かつ魅力的に語れるようになる」
  • Do(実行):学習と実践
    • 目標達成のために、具体的なアクションを起こします。
      • 学習: 面接官トレーニング研修に参加する。面接技術に関する書籍を読む。他のベテラン面接官の面接に同席させてもらい、技術を学ぶ。
      • 実践: 実際の面接の場で、学んだことを意識して実践します。新しい質問を試したり、傾聴の姿勢を徹底したりします。
  • Check(評価):自己のパフォーマンスを振り返る
    • 自身の面接を客観的に評価し、課題を洗い出します。
      • 自己評価: 面接終了後、自身の質問は適切だったか、候補者の本音を引き出せたか、時間配分は適切だったかを振り返るメモを作成する。
      • 他者評価: ペアを組んだ他の面接官や上司から、自身の面接の進め方についてフィードバックをもらう。
      • 録画の活用: 許可を得てオンライン面接を録画し、自身の表情、声のトーン、話す速度、非言語的コミュニケーション(相槌、頷きなど)を客観的に確認する。
  • Act(改善):次回の面接に向けた改善点の明確化
    • 評価(Check)で見つかった課題を克服するための、具体的な改善アクションを考えます。
    • 改善アクションの例:
      • 課題: 「つい自分が話過ぎてしまい、候補者の話す時間が短くなってしまう」
      • 改善策: 「次回の面接では、『質問1に対して、自分が話す時間は2、候補者が話す時間は8』という『2:8の法則』を意識する。そのために、質問リストの横にこのルールを書いて貼っておく」

 優秀な面接官は、単に候補者を「評価」するだけではありません。対話を通じて候補者の不安を和らげ、自らの組織の魅力を伝え、入庁意欲を高める「動機付け」の役割も担っています。個々の担当者が自身のスキルを磨き続ける文化を醸成すること。それこそが、どんな高額な広報活動にも勝る、最も効果的で持続可能な採用力強化策なのです。

まとめ:未来の地方自治を担う人材を迎えるために

本研修資料の要点整理

 本研修資料では、地方自治体における新卒採用業務について、その根底にある理念から、法的根拠、具体的な業務フロー、そして未来を見据えた先進的な取り組みまで、網羅的かつ体系的に解説してまいりました。

 改めて、その要点を整理します。

  1. 採用は「未来への投資」である: 新卒採用は、単なる欠員補充ではなく、組織の持続可能性を確保し、革新を生み出すための最も重要な戦略的活動です。採用担当者は、未来の地域を創造する人材を発掘する、という高い視座を持つ必要があります。
  2. 法令遵守は全ての土台である: 地方公務員法をはじめとする関連法令の深い理解と遵守は、公正・公平な採用活動を担保するための絶対的な基盤です。
  3. 採用は「科学」である: 採用活動は、もはや経験や勘に頼るものではありません。ペルソナ設定、多角的な広報、構造化された面接、そしてデータに基づくPDCAサイクルといった科学的なアプローチが、採用の精度と成果を最大化します。
  4. DXとAIは強力な「武器」である: ICT、RPA、そして生成AIといったテクノロジーは、採用担当者を煩雑な事務作業から解放し、より創造的で戦略的な業務に集中させるための強力なツールです。これらを使いこなす能力が、今後の採用担当者の競争力を決定づけます。
  5. 先進事例に学び、絶えず変革する: 東京都や特別区の事例が示すように、社会の変化に合わせて採用のあり方も絶えず変革していく必要があります。前例踏襲に安住せず、常に新しい手法を学び、挑戦する姿勢が求められます。

採用担当者へのエール

 地方自治体の採用担当者の皆様。皆様が日々向き合っている業務は、数ある行政事務の一つではありません。それは、自らのまちの未来を、そしてそこに住む人々の暮らしを、次の世代へと繋いでいくための、尊い使命を帯びた仕事です。

 皆様が採用選考で出会う一人ひとりの若者は、無限の可能性を秘めた原石です。その瞳の奥に輝く情熱や才能を見出し、公務という舞台で輝けるよう導くこと。それは、他の誰にもできない、採用担当者だけが担うことのできる、大きなやりがいに満ちた役割です。

 採用活動は、時に困難な壁に直面することもあるでしょう。しかし、皆様の真摯な努力が、一人の優秀な人材の採用に繋がり、その人材が将来、地域が抱える困難な課題を解決するかもしれません。皆様の丁寧な対応が、ある若者の心に火をつけ、生涯をかけて地域に貢献する決意を固めさせるかもしれません。

 皆様は、未来の同僚を探しているのではありません。未来の地域を共に創る「仲間」を探しているのです。

 この研修資料が、皆様のその崇高な使命を果たすための一助となることを、心から願っています。誇りと情熱を持って、未来の地方自治を担う人材を迎えるための素晴らしい仕事に、これからも邁進してください。

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あらゆる行政情報を分野別に構造化
行政情報ポータルは、「情報ストックの整理」「情報フローの整理」「実践的な情報発信」の3つのアクションにより、行政職員のロジック構築をサポートします。
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