10 総務

【人事課】中途採用・キャリア採用 完全マニュアル

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目次
  1. はじめに
  2. 中途採用・キャリア採用の意義と潮流
  3. 中途採用業務の法的根拠
  4. 中途採用業務の標準フローと実務詳解
  5. 先進事例に学ぶ採用戦略の高度化
  6. 業務改革とDXによる採用力の強化
  7. 採用成功率を高める実践的スキル
  8. まとめ:未来の自治体を担う仲間を迎えるために

はじめに

※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。

中途採用・キャリア採用の意義と潮流

なぜ今、中途採用・キャリア採用が重要なのか

 現代の地方自治体は、デジタル化の急速な進展、少子高齢化に伴う社会構造の変化、そして住民ニーズの多様化・複雑化といった、かつてないほど困難な課題に直面しています。このような状況下で、新規学卒者のみに頼る従来の人材確保モデルは限界を迎えつつあります。行政サービスの水準を維持し、さらに向上させていくためには、民間企業等で培われた専門的な知識、スキル、そして課題解決能力を持つ人材を、即戦力として組織に迎え入れることが不可欠です。

 特に、新型コロナウイルス感染症の拡大は、行政のデジタル化の遅れを浮き彫りにし、ICT分野の専門知識を持つ人材の必要性を加速させました。もはや、中途採用・キャリア採用は、単なる欠員補充の手段ではありません。それは、組織に変革をもたらし、新たな価値を創造するための「戦略的な投資」と位置づけられるべきものです。民間企業での経験を持つ人材が持つ、既存の枠組みにとらわれない発想や効率的な業務遂行ノウハウは、行政組織に新たな風を吹き込み、イノベーションを創出する起爆剤となり得ます。基本的な住民サービスの提供すら危ぶまれる人材不足が懸念される中、多様なバックグラウンドを持つ人材を確保することは、自治体の持続可能性を左右する重要な経営課題なのです。

地方自治体における中途採用の歴史的変遷

 かつて地方公務員の採用は、新規学卒者を対象とした画一的な競争試験が中心であり、中途採用は極めて限定的でした。しかし、地方分権の進展とともに、自治体には独自の政策立案能力や課題解決能力が求められるようになり、従来型の公務員像とは異なる、多様なスキルセットを持つ人材の必要性が高まっていきました。

 この変化に対応するため、多くの自治体で導入されたのが「経験者採用枠」です。当初は、公務員試験の準備が困難な社会人受験者の負担を軽減する目的もありましたが、次第にその主眼は、特定の職務経験年数(例えば5年以上)や専門分野を持つ人材を戦略的に獲得することへとシフトしていきました。この変遷は、公務員採用が単なる「門戸開放」から、組織が必要とする能力をピンポイントで獲得する「戦略的タレントアクイジション」へと進化したことを示しています。これにより、かつては高く隔てられていた官民の壁に風穴が開き、人材の流動性が高まることで、組織全体の活性化が図られるようになりました。この流れは、硬直的だった日本の雇用システム全体の変化を映し出す縮図とも言えるでしょう。

組織と候補者、双方にとってのメリット

 中途採用・キャリア採用は、自治体と候補者の双方に大きなメリットをもたらす、まさに「Win-Win」の関係を築くことができる制度です。

 組織側の最大のメリットは、外部からの新たな視点やスキルの導入による組織の活性化です。民間企業で常識とされている業務効率化の手法や、徹底した顧客目線のサービス設計思想は、行政の現場に大きな刺激を与え、イノベーションを促進します。これにより、より合理的で能率的な職場環境が実現されることが期待されます。

 一方、候補者側にとっての魅力は、雇用の安定性、ワークライフバランスの実現、そして社会貢献へのやりがいです。特に、民間企業の厳しい競争環境や長時間労働に疲弊した人材にとって、地方公務員の安定した身分と将来設計の立てやすさは大きな魅力となります。

 ここで興味深いのは、組織が求める「変革者」と、候補者が求める「安定」という、一見矛盾した動機が両立している点です。しかし、これは矛盾ではなく、むしろ相補的な関係にあります。民間での豊富な経験とスキルを持ちながらも、持続可能な働き方を求める人材にとって、公務員の職場は自らの能力を存分に発揮できる理想的なプラットフォームとなり得ます。組織は彼らのスキルを獲得し、個人は安定した環境を得る。採用担当者としては、候補者の志望動機が何であれ、その人物が持つ経験やスキルを行政の場で活かし、成果を出せるかどうかを見極めることが重要です。

近年の採用市場の動向と自治体が直面する課題

 近年、人材獲得競争は激化しており、地方自治体も民間企業と直接競合する時代に突入しています。もはや「公務員」というブランドだけで安泰に優秀な人材が集まるわけではありません。多くの候補者は、自治体に対して「堅い」「旧態依然」といったイメージを抱いており、実際の職場の雰囲気や働きがいに関する情報が不足していると感じています。

 この課題を克服するためには、自治体自身が「選ばれる職場」になるための努力、すなわち「エンプロイヤー・ブランディング」の視点が不可欠です。単に求人情報を公開して待つのではなく、自らの組織の魅力を積極的に発信し、候補者とのミスマッチを防ぐための情報提供を徹底する必要があります。なぜこの自治体で働くのか、どのような社会貢献ができるのか、どのようなキャリアパスが描けるのか。これらの問いに対して、具体的で魅力的な答えを提示できなければ、熾烈な人材獲得競争を勝ち抜くことはできません。人事部門には、従来の管理業務に加え、自らの組織をマーケティングし、ブランド価値を高めていくという新たな役割が求められているのです。

中途採用業務の法的根拠

地方公務員法にみる任用の根本原則

 全ての中途採用・キャリア採用業務は、地方公務員法に定められた厳格なルールの下で行われなければなりません。その最も根幹をなすのが、同法第15条に規定される「成績主義の原則」です。これは、職員の任用(採用、昇任など)が、情実や縁故ではなく、受験成績、人事評価、その他の能力の実証といった客観的な基準に基づいて行われなければならないとする原則です。

 この原則は、採用活動における公平性と公正性を担保するための絶対的な基盤です。一見すると、柔軟な採用を妨げる制約のように感じられるかもしれません。しかし、この原則は現代的な採用手法を可能にする「推進力」でもあります。「能力の実証」の解釈を筆記試験の点数のみに限定せず、職務経歴や面接における対話を通じて示されるコンピテンシー(行動特性)の評価まで広げることで、中途採用にふさわしい、より実践的な能力評価が可能になります。人事担当者の役割は、この成績主義の原則を遵守しつつ、いかにして候補者の真の能力を多角的かつ客観的に「実証」する選考プロセスを設計するかにあるのです。

採用方法の法的整理(競争試験と選考)

 地方公務員法は、職員の採用方法として主に二つの道を定めています。第17条の2によれば、採用は「競争試験」によることを原則としつつも、人事委員会規則等が定める場合には「選考」によることができるとされています。

  • 競争試験 (Competitive Examination): 主として筆記試験などにより、相対的な成績順で合格者を決定する方法。新規学卒者採用で多く用いられます。
  • 選考 (Selection): 競争試験以外の能力の実証に基づく試験と定義されています。職務経歴書の評価、経験論文、個別面接などを通じて、候補者が持つ資格や経験、能力が、特定の職務の遂行基準を満たしているかを絶対的に評価する方法です。

 中途採用・キャリア採用の多くは、この「選考」という手法によって実施されます。この法的区分こそが、現代の地方自治体における採用活動の多様化と高度化を支える法的根拠です。「選考」という選択肢があるからこそ、私たちは画一的な筆記試験に頼ることなく、求める職務に最も適した人材を、その実務能力や経験に基づいて見極めることができるのです。この法的枠組みを正しく理解し活用することが、効果的な中途採用の第一歩となります。

主要な関連法令と条文の解説

 中途採用業務を遂行する上で、特に重要となる地方公務員法の条文を以下にまとめます。これらの条文は、日々の業務における判断の拠り所となるため、その概要と実務上の意義を正確に理解しておく必要があります。

条文 (Article)概要 (Summary)実務上の意義 (Practical Significance)
第15条 (任用の根本基準)職員の任用は、受験成績、人事評価その他の能力の実証に基づいて行う(成績主義の原則)。全ての選考プロセス(書類選考、面接等)は、候補者の能力を客観的に実証・評価するものである必要がある。恣意的な判断を排除し、公平性を担保する根拠となる。
第17条 (任命の方法)欠員が生じた場合、任命権者は採用、昇任、降任、転任により職員を任命できる。採用は職員を任命する一つの方法として法的に位置づけられていることを確認する。
第17条の2 (採用の方法)採用は競争試験が原則だが、人事委員会規則等により選考も可能。中途採用・キャリア採用において、筆記試験によらない「選考」(職務経歴評価や面接中心)を実施する法的根拠。この条文が柔軟な採用活動を可能にする。
第18条 (試験又は選考の実施機関)採用試験・選考は人事委員会等が行う。他機関との共同実施や委託も可能。採用業務の実施主体を明確化。広域連携(複数の自治体での共同募集)や外部委託の法的根拠となる。
第22条 (条件付採用)職員の採用は全て条件付とし、6ヶ月間の良好な勤務を経て正式採用となる。採用後の試用期間の根拠。この期間中の勤務状況を注意深く観察し、最終的な適性を判断する重要なプロセスであることを示す。

任期付職員制度の活用と留意点

 高度な専門性が求められるDX人材や弁護士、デザイナーなどを確保する際に極めて有効なのが、「地方公共団体の一般職の任期付職員の採用に関する法律」に基づく任期付職員制度です。この制度は、任期を定める(原則5年以内など)ことで、恒久的なポストを設置することなく、特定のプロジェクトや期間に必要な専門人材を柔軟に採用することを可能にします。

 この制度は、自治体組織の「機動性(アジリティ)」を高めるための戦略的なツールと捉えるべきです。例えば、3年間のスマートシティ推進プロジェクトのためにデータサイエンティストを確保する場合、プロジェクト終了後もそのポストを維持する必要はありません。このように、必要な時に、必要なスキルを、必要な期間だけ組織に注入することを可能にするのが任期付職員制度の最大の利点です。これにより、組織は変化する行政課題に対して、より迅速かつ効果的に対応することができます。活用にあたっては、任期の長さや処遇など、候補者に対して明確な条件を提示し、双方に誤解がないよう丁寧なコミュニケーションを心がけることが重要です。

中途採用業務の標準フローと実務詳解

採用計画の策定(Plan)

 効果的な中途採用は、緻密な計画から始まります。単に欠員を補充するという発想ではなく、組織の未来像から逆算し、どのような能力を持つ人材が必要かを定義することが成功の鍵を握ります。

人材要件の定義(ペルソナ設計)

  採用活動の出発点は、「誰を」採用したいのかを具体的に定義することです。単に「DX推進担当者」といった曖昧な職務名ではなく、その人物が持つべきスキル、経験、価値観、行動特性を詳細に言語化した「ペルソナ」を設定します。例えば、DX人材であれば、戦略立案を担うリーダーなのか、現場でシステムを構築する技術者なのか、あるいは各部署との調整役を担うコミュニケーション人材なのかによって、求める要件は全く異なります。民間企業の求める人物像(例:変革を恐れない柔軟な思考力、プロジェクトマネジメント能力)なども参考に、具体的で測定可能な要件を定義しましょう。このペルソナが、後の募集広報から書類選考、面接に至るまで、全てのプロセスの判断基準となります。

採用スケジュールの策定と予算計画

  募集開始から入庁日まで、全ての工程を洗い出し、現実的なスケジュールを策定します。各選考段階に要する期間、合格発表日、内定者フォローの期間などを具体的に計画に落とし込みます。同時に、求人広告費、採用管理システムの利用料、外部委託費など、採用活動に必要な予算を確保します。

選考方法の決定と評価基準の策定

  ペルソナに基づき、最適な選考方法を組み合わせます。書類選考、職務経験論文、適性検査、一次面接、最終面接など、候補者の能力を多角的に評価できるプロセスを設計します。最も重要なのは、募集を開始する「前」に、各選考段階での評価基準を明確に定めておくことです。例えば、面接で「課題解決能力」を問うのであれば、「A評価:課題の根本原因を分析し、複数の解決策を提示できる」「B評価:指示された課題に対して、一つの解決策を実行できる」のように、具体的な評価尺度を設けます。事前の基準設定が、面接官による評価のブレを防ぎ、公平性を担保します。この計画段階での徹底した準備こそが、採用ミスマッチという最大のリスクを回避するための最も有効な戦略なのです。

募集と広報(Do – Part 1)

 計画が固まったら、次は候補者を集める「募集」のフェーズです。現代の採用は、候補者が自ら応募してくるのを待つ「待ち」の姿勢では成功しません。自治体の魅力を積極的に発信し、潜在的な候補者にアプローチする「攻め」の広報戦略が不可欠です。

魅力的な求人情報の作成

  求人情報は、候補者が最初に自治体に触れる重要な接点です。単なる職務内容の羅列ではなく、その仕事を通じてどのような社会貢献ができるのか、どのようなやりがいがあるのか、そしてこの自治体で働くことの独自の魅力は何かを、候補者の心に響く言葉で伝える必要があります。職務経験年数や任期、給与といった条件面も、誤解を招かないよう正確かつ明確に記載しましょう。

多様な募集チャネルの活用

  求める人材層に応じて、最適な募集チャネルを選択します。自治体の公式ウェブサイトはもちろんのこと、大手転職サイト、特定の専門職種に特化した求人サイト、SNS、さらには地域の情報誌やハローワークなど、複数のメディアを組み合わせることが効果的です。特に、Uターン・Iターン希望者をターゲットにする場合は、都市部で開催される移住相談会や、地方就職を支援するNPOとの連携も有効な手段となります。

採用広報とエンプロイヤー・ブランディング

  採用広報は、単発の募集活動に留まりません。日頃からSNS(Facebook, Instagram, Xなど)を活用し、職場の雰囲気、先輩職員のインタビュー、自治体が取り組む先進的なプロジェクトなどを発信することで、「働きがいのある魅力的な職場」としてのブランドイメージを構築していくことが重要です。これは、マーケティングにおける「ファネル」の考え方と同様です。まずSNSの日常的な投稿で自治体への「認知」を高め、具体的な求人情報で「興味」を喚起し、詳細な採用サイトで「検討」を促し、最終的に「応募」へと繋げる。このように、候補者の心理段階に合わせた情報発信を戦略的に行うことで、採用力を中長期的に高めていくことができます。

選考プロセスの設計と実施(Do – Part 2)

 募集・広報によって集まった候補者の中から、組織にとって最適な人材を見極めるのが選考プロセスです。ここでは、公平性、客観性、そして候補者への配慮が強く求められます。

書類選考・職務経歴評定

  応募書類を、事前に定めた人材要件(ペルソナ)と評価基準に照らし合わせて評価します。単に経験年数の長短で判断するのではなく、応募者がこれまでの職務でどのような役割を果たし、どのような成果を上げてきたのか、その経験が自治体の課題解決にどう貢献できるのか、という視点で深く読み解くことが重要です。特に、職務経験論文は、候補者の経験の質と、それを公務に活かす意欲や思考力を測る上で極めて有効なツールです。

面接の設計と実施(構造化面接の導入)

  面接は、候補者の能力や人柄を直接評価する最も重要な場です。評価の客観性と公平性を担保するため、「構造化面接」の導入を強く推奨します。これは、全ての候補者に対して、あらかじめ定めた評価項目に基づき、同じ核心的な質問を行う手法です。これにより、面接官の主観や印象による評価のブレを最小限に抑え、候補者同士を公平に比較することが可能になります。評価項目としては、志望動機、課題解決能力、コミュニケーション能力、そして公務員としての倫理観などが挙げられます。

中途採用で頻出する質問と評価のポイント

  中途採用の面接では、以下のような質問が頻繁になされます。

  • 「なぜ民間企業から公務員へ、そしてなぜ当自治体を志望されるのですか?」
  • 「これまでのご経験を、当自治体が抱える〇〇という課題にどのように活かせるとお考えですか?」
  • 「前職で最も困難だったプロジェクトについて、どのように乗り越えたか具体的に教えてください。」 これらの質問に対し、候補者が自身の経験をSTARメソッド(Situation: 状況, Task: 課題, Action: 行動, Result: 結果)に沿って具体的に語れるかを評価します。単なる経験の羅列ではなく、その経験から何を学び、次にどう活かすかを論理的に説明できるかが重要な評価ポイントです。

アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)対策

  人は誰しも、無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)を持っています。例えば、「〇〇大学出身だから優秀だろう」(ハロー効果)や、「自分と似た経歴だから好感が持てる」(類似性バイアス)といった偏見が、公正な評価を歪める可能性があります。これを防ぐため、面接官への事前研修を実施し、バイアスの存在を自覚させることが重要です。また、応募書類の氏名や年齢、性別などを隠して評価する「ブラインド選考」や、多様なバックグラウンドを持つ職員で面接パネルを構成することも有効な対策となります。面接は、自治体が候補者を評価する場であると同時に、候補者が自治体を評価する場でもあります。プロフェッショナルで公平な選考プロセスそのものが、優秀な人材を惹きつける強力なメッセージとなるのです。

内定者フォローと入庁準備(Do – Part 3)

 採用の成否は、内定通知を出した瞬間に決まるわけではありません。内定から入庁までの期間は、候補者の入庁意欲が揺らぎやすい、極めて重要な時期です。この期間の丁寧なフォローが、内定辞退を防ぎ、スムーズな入庁を促します。

内定辞退を防ぐためのコミュニケーション戦略

  内定通知後も、定期的なコミュニケーションを維持することが不可欠です。月に一度の電話やメールでの近況確認、庁内のニュースレターの送付、ささやかなお祝い品の贈呈など、内定者が「自分は歓迎されている」と感じられるような働きかけを継続します。内定者が抱える不安や疑問にいつでも応えられるよう、人事課内に相談窓口を設けることも有効です。

内定者懇談会や先輩職員との交流

  内定者同士や、配属予定部署の先輩職員と交流する機会を設けることは、入庁前の不安を解消する上で非常に効果的です。オンラインまたは対面での懇談会や座談会を企画し、内定者が入庁後の自分の姿を具体的にイメージできるように支援します。特に、同じように中途採用で入庁した先輩職員の話は、内定者にとって大きな安心材料となります。

オンボーディング・プログラムの設計

  入庁後の早期離職を防ぎ、即戦力として活躍してもらうためには、戦略的なオンボーディング(受け入れ・定着支援)プログラムが欠かせません。これは、単なる事務手続きや初期研修に留まるものではありません。

 中途採用者は、いわば異なる文化を持つ国からの「移住者」です。彼らは高い専門スキルを持っていても、自治体特有の文化、言語(専門用語や略語)、意思決定プロセス、そして「暗黙のルール」を知りません。オンボーディングは、この「文化の壁」を乗り越えるための翻訳機として機能する必要があります。

 具体的なプログラムとしては、メンター制度の導入、庁内の主要人物や関連部署の紹介、自治体の歴史や理念の共有、そして中途採用者が陥りがちな課題について学ぶ研修などが挙げられます。この文化的な翻訳プロセスを丁寧に行うことこそが、採用という投資の価値を最大化する最後の、そして最も重要なステップなのです。

採用活動の評価と改善(Check & Action)

 採用活動は、一度実施して終わりではありません。PDCAサイクルを回し、常により良いものへと改善していくプロセスが不可欠です。

採用活動における重要業績評価指標(KPI)

  採用活動の成果を客観的に評価するため、具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定し、継続的に測定します。主なKPIには以下のようなものがあります。

  • 採用充足までの期間 (Time-to-Fill): 募集開始から採用決定までの日数。
  • 一人当たりの採用コスト (Cost-per-Hire): 採用活動にかかった総費用を採用人数で割ったもの。
  • 応募経路別効果 (Source-of-Hire): どの求人媒体や紹介ルートから質の高い応募があったか。
  • 内定承諾率 (Offer Acceptance Rate): 内定通知者数に対する承諾者数の割合。
  • 採用の質 (Quality-of-Hire): 採用後1年間の人事評価や定着率など。

候補者アンケートの実施とフィードバックの活用

  選考に参加した全ての候補者(不合格者を含む)に対して、匿名でアンケートを実施し、採用プロセスに関するフィードバックを収集します。選考のスピード、面接官の対応、情報提供の質などについて尋ねることで、自らの採用活動の強みと弱みを候補者目線で把握することができます。

PDCAサイクルによる継続的な改善

  収集したKPIデータと候補者からのフィードバックを定期的に分析・評価(Check)し、次回の採用活動に向けた具体的な改善策を立案・実行(Action)します。例えば、「特定の求人サイトからの応募者の内定承諾率が高い」というデータが得られれば、次回はそのサイトへの広告予算を増額する、といった判断が可能になります。この地道な改善の繰り返しが、採用活動全体の質を継続的に向上させていくのです。

先進事例に学ぶ採用戦略の高度化

東京都の先進的取組:DX人材確保と組織改革

 東京都は、「スマート東京」の実現を掲げ、極めて戦略的にDX人材の確保に取り組んでいます。その特徴は、単なる人材採用に留まらず、採用をテコにした組織全体の変革を志向している点にあります。

 具体的には、専門部署である「デジタルサービス局」を設置し、民間企業出身者などを対象とした「ICT職」という新たな職種を創設しました。さらに、都と区市町村のDXを一体的に推進する新組織「GovTech東京」を設立するなど、採用した人材が最大限に能力を発揮できる環境整備を同時に進めています。過去最大規模で民間からICTのプロフェッショナルを任期付職員として採用し、海外大学院への派遣研修など高度な育成プログラムも用意しています。

 東京都の事例が示すのは、採用活動が組織改革の強力な触媒となり得るという事実です。新たな専門職を定義し、専門組織を立ち上げるというプロセスは、必然的に既存の人事制度や業務フローの見直しを迫ります。このように、外部から新たな人材を迎え入れるという行為そのものが、組織を未来に適応させるためのダイナミックな変革の起点となっているのです。

特別区(23区)の経験者採用:人物重視の徹底

 東京23区が共同で実施する特別区の経験者採用は、「人物重視」を徹底した選考プロセスにその最大の特徴があります。面接時間は約40分と、他の自治体に比べて非常に長く設定されており、候補者の能力や経験、人柄を深く掘り下げることに主眼が置かれています。

 選考では、「もしあなたが職場の主任だとして、このような問題が発生した場合、どう対応しますか?」といった「職場事例問題」が出題され、知識だけでなく、現場での判断力や対応力が問われます。また、社会人経験年数に応じて、係員クラス(1級職)や主任クラス(2級職)など、入庁時の職階が異なる複数の採用区分が設けられている点も特徴的です。最終的な合否や採用区の決定において、この面接での評価が極めて大きな比重を占めると言われています。

 なぜこれほどまでに時間をかけた徹底的な人物評価を行うのか。それは、公務員という雇用の安定性が高い制度においては、一度採用した人材と長期的に組織運営を共にしていくことになるからです。採用のミスマッチは、組織にとって長期的な負担となりかねません。したがって、多大な時間をかけてでも、候補者のスキルだけでなく、価値観や協調性、ストレス耐性といった「人物」を深く見極めることは、長期的な組織の安定と発展を見据えた、極めて合理的なリスク管理戦略であると言えるのです。

デザイン・クリエイティブ人材等の専門職採用事例(神戸市など)

 行政に求められる専門性は、ICTや法律といった従来型の分野に限りません。神戸市では、全国的にも珍しい「デザイン・クリエイティブ枠」という採用区分を設けています。これは、デザインやアート、映像などの分野で培われた思考や感性を、行政サービスやまちづくりに活かすことを目的としたものです。

 特筆すべきは、彼らをデザイナーという専門職として採用するのではなく、あくまで「総合事務職」として採用する点です。採用後は、広報、観光、まちづくりといった親和性の高い部署に初期配属され、デザイン思考を活かした企画立案などを担いますが、将来的には他の行政分野にも異動し、幅広いキャリアを歩むことが期待されています。

 この神戸市の事例は、「専門性を持つジェネラリスト」という新しい人材像の台頭を示唆しています。特定の分野で深い専門知識を持ちながらも、その思考法やアプローチを多様な行政課題に応用できる人材。これは、単に専門業務を外部委託するのではなく、新たな発想そのものを組織内部に取り込み、行政のあり方自体を変革していこうとする、より高度な人材活用戦略と言えるでしょう。

広域連携による採用活動の可能性

 単独での採用活動に困難を抱える小規模な自治体にとって、「広域連携」は有効な解決策となり得ます。近隣の市町村が共同で採用試験や募集広報を実施することで、一人当たりの採用コストを削減できるだけでなく、より多くの候補者に対して情報を届けることが可能になります。

 受験者にとっても、一度の申し込みで複数の自治体を併願できるというメリットがあります。また、採用活動だけでなく、人材育成の面でも連携は有効です。例えば広島県では、県と市町が連携してDX人材の育成やシェアリングを行う「DXShipひろしま」といった取り組みも始まっており、自治体の垣根を越えた協力体制が、地域全体の行政力強化に繋がることが期待されます。

業務改革とDXによる採用力の強化

採用管理システム(ATS)の導入と活用

 採用管理システム(ATS: Applicant Tracking System)は、応募者情報の一元管理、選考進捗の可視化、候補者とのコミュニケーションの自動化などを実現するツールです。Excelや紙媒体での管理から脱却し、採用業務を抜本的に効率化します。

 三重県津市では、従来の郵送による応募から、ATSを導入したWeb応募に切り替えたところ、事務職の応募者数が414人から746人へと大幅に増加しました。これは、応募者の手続き負担を軽減したことが、応募意欲の向上に直結したことを示す好事例です。

 しかし、ATSの真の価値は単なる業務効率化に留まりません。応募者の流入経路、選考の各段階での通過率、内定承諾率といったデータが自動的に蓄積されるため、採用活動全体をデータに基づいて分析し、改善することが可能になります。どの求人媒体が最も効果的だったのか、選考プロセスのどこにボトルネックがあるのかを客観的に把握できるのです。ATSは、経験と勘に頼りがちだった採用活動を、データドリブンな戦略的人事へと進化させるための基盤となるテクノロジーです。

ダイレクトリクルーティングとタレントプールの構築

 従来の「待ち」の採用から脱却し、「攻め」の採用へと転換するための手法が、ダイレクトリクルーティングとタレントプールです。

  • ダイレクトリクルーティング: 人事担当者が、転職サイトのデータベースやSNSなどを活用して、求める要件に合致する人材を自ら探し出し、直接アプローチする採用手法です。
  • タレントプール: 今回の採用では縁がなかったものの、将来的に候補者となりうる優秀な人材(例:最終選考で不合格となった候補者、過去の応募者、イベント参加者など)の情報をデータベース化し、継続的に関係を構築していく仕組みです。定期的なメールマガジンの配信や、イベントへの招待などを通じて、自組織への関心を維持してもらい、将来の採用ニーズが発生した際に迅速にアプローチします。

 これらの手法は、採用活動を「一回限りの取引」から「中長期的な関係構築」へと変革するものです。今すぐには転職を考えていない潜在層とも繋がりを持つことで、未来の採用候補者のパイプラインを形成します。これにより、将来的な募集コストや時間を大幅に削減できるだけでなく、人事担当者の役割を、単なる事務処理者から、組織の未来を担う人材とのネットワークを構築・管理するリレーションシップ・マネージャーへと進化させるのです。

オンライン面接・Web説明会の効果的な活用法

 オンライン面接やWeb説明会は、もはや特別な手法ではなく、採用活動のスタンダードとなりつつあります。その最大のメリットは、地理的な制約を取り払える点にあります。遠隔地に住む優秀な人材や、Uターン・Iターンを希望する都市部の人材に対して、移動の負担やコストをかけることなくアプローチすることが可能です。

 また、候補者・面接官双方のスケジュール調整が容易になるため、選考プロセス全体のスピードアップにも繋がります。効果的に活用するためには、安定した通信環境の確保、オンラインでのコミュニケーションに適した面接官のトレーニング、そして参加者が一方的に話を聞くだけでなく、双方向のやり取りができるような説明会のプログラム設計などが重要となります。これらのツールを使いこなすことが、全国から多様な人材を惹きつけるための鍵となります。

生成AIの活用可能性と具体的な応用例

 生成AIは、採用業務のあり方を根底から変える可能性を秘めています。定型的な業務を自動化することで、人事担当者がより創造的で付加価値の高い業務に集中できる環境を生み出します。

採用業務の自動化・効率化

  • 文書作成の支援: 職務記述書(ジョブディスクリプション)や求人広告の文案、面接の質問リスト、候補者への各種通知メールのドラフトなどを、AIが数秒で生成します。
  • 書類選考の補助: 大量の応募書類をAIが解析し、あらかじめ設定した要件(必須スキル、経験年数など)との合致度をスコアリングすることで、一次スクリーニングの時間を大幅に削減します。ソフトバンク社では、AI活用でエントリーシートの選考時間を4分の1に短縮した事例もあります。
  • AIチャットボットによる問い合わせ対応: 採用サイトにチャットボットを導入し、勤務条件や福利厚生、選考プロセスに関するよくある質問に24時間365日自動で応答させることが可能です。

候補者体験の向上

  • パーソナライズされたアプローチ: 候補者の職務経歴やスキルに合わせて、AIが個別に最適化されたスカウトメールの文面を生成し、返信率の向上に貢献します。
  • AIによる日程調整: 複数の面接官と候補者の空き時間をAIが自動で照合し、最適な面接日時を提案・確定させることで、煩雑な調整業務から解放されます。

トップ徴収吏員のナレッジ共有(応用例)

  生成AIの応用範囲は、既存業務の効率化に留まりません。例えば、庁内で高い成果を上げているトップクラスの職員(徴税吏員に限らず、あらゆる職種のハイパフォーマー)にインタビューを実施し、その録音データをAIで文字起こし・要約します。そこから、彼らの思考プロセス、課題解決のアプローチ、行動特性といった「暗黙知」を抽出・構造化します。このナレッジベースを基に、ハイパフォーマーに共通するコンピテンシーを定義し、それを測るための面接質問や評価基準を作成するのです。これにより、採用の段階から、将来的に高い成果を上げる可能性のある人材を、より高い精度で見極めることが可能になります。

 生成AIは、人事担当者の仕事を奪うものではありません。むしろ、煩雑な事務作業から解放し、候補者一人ひとりと向き合う時間、採用戦略を練る時間といった、本来人間がやるべき「人間的な業務」に集中させてくれる、強力なパートナーなのです。

採用成功率を高める実践的スキル

組織レベルで取り組むべきこと

 採用活動は人事課だけの仕事ではありません。組織全体で取り組むことで、その成功率は飛躍的に高まります。

PDCAサイクルの確立

  採用活動を継続的に改善していくためには、組織としてPDCAサイクルを回す仕組みを構築することが不可欠です。

  • Plan (計画): 年度の初めに、「採用充足までの期間を前年比15%短縮する」「県外からの応募者比率を20%に高める」といった、具体的で測定可能な目標を設定します。
  • Do (実行): 計画に基づき、ターゲットを絞ったSNS広報キャンペーンや、特定の大学での説明会など、具体的な採用活動を実施します。
  • Check (評価): 採用管理システム(ATS)などを活用して、活動の成果をKPIと照らし合わせて評価します。どの媒体からの応募者が最終選考に残りやすいか、といったデータを分析します。
  • Action (改善): 分析結果に基づき、次回の採用戦略を修正します。効果の高かった施策は強化し、効果の薄かった施策は見直す、といった改善活動に繋げます。

候補者体験(Candidate Experience)の向上

  候補者が応募してから選考結果を受け取るまでの一連の体験を「候補者体験」と呼びます。この体験の質が、候補者の入庁意欲や、自治体に対するイメージを大きく左右します。応募後の迅速な連絡、丁寧な面接対応、そして不合格者に対しても敬意を払った通知など、全ての接点において誠実な対応を心がけることが重要です。良い候補者体験は、たとえ今回ご縁がなかったとしても、その候補者を将来の応募者や、自治体の「ファン」に変える力を持っています。

全庁的な採用協力体制の構築

  採用は、全庁を挙げたプロジェクトです。現場の所属長を人材要件の定義段階から巻き込み、面接官として協力してもらうためのトレーニングを実施します。また、全職員が自らの仕事の魅力を語れる「広報担当」であるという意識を醸成し、リファラル採用(職員紹介)などを促進する文化を育むことも重要です。

個人レベルで高めるべきスキル

 採用担当者一人ひとりが専門性を高めることも、採用成功の鍵となります。

PDCAサイクルの実践

  組織レベルだけでなく、個人の業務においてもPDCAを意識します。

  • Plan (計画): 面接前には必ず応募書類を深く読み込み、候補者の経験と求める人物像を照らし合わせ、確認すべき点を整理し、質問を準備します。
  • Do (実行): 面接では、準備した質問を軸に、傾聴の姿勢で候補者の話を深く掘り下げます。
  • Check (評価): 面接直後に、記憶が鮮明なうちに評価シートへの記入を完了させます。「計画通りに候補者の能力を測れたか」「自分の質問の仕方に偏りはなかったか」などを自己評価します。
  • Action (改善): 評価の振り返りを次の面接に活かし、質問の仕方や話の引き出し方を改善していきます。

カウンセリング・コーチングスキル

  現代の採用担当者は、候補者を「評価する」だけでなく、彼らのキャリアの悩みや希望に寄り添い、自治体でのキャリアがその解決策となりうることを提示する「キャリアアドバイザー」としての役割も担います。カウンセリングやコーチングのスキルを学び、候補者の本質的な動機を引き出す能力を磨くことが求められます。

マーケティング・広報スキル

  候補者の心を動かす求人広告のコピーライティング、効果的なSNSの活用法など、マーケティングや広報の基礎知識を身につけることで、採用広報の質を格段に向上させることができます。

データリテラシー

  採用管理システム(ATS)から得られるデータを正しく読み解き、採用活動の課題や改善点について、データに基づいた提案ができる能力は、これからの採用担当者にとって必須のスキルとなります。

まとめ:未来の自治体を担う仲間を迎えるために

 本研修資料を通じて、中途採用・キャリア採用が、単なる人事部門の一業務ではなく、自治体の未来を創造するための極めて重要な戦略的機能であることをご理解いただけたかと存じます。

 社会が複雑化し、行政に求められる役割が日々変化する中で、私たちはもはや過去の成功体験や前例だけでは立ち行かなくなっています。多様な経験、専門的なスキル、そして何よりも「地域をより良くしたい」という熱い情熱を持った新しい仲間を、組織の外部から積極的に迎え入れること。これこそが、変化の時代を乗り越え、住民の期待に応え続けるための鍵です。

 採用担当者である皆様の仕事は、単に「空席を埋める」ことではありません。それは、未来の自治体を担う人材という「種」を見つけ出し、組織という土壌に迎え入れ、成長のきっかけを作ることです。それは、時に困難で、多大な労力を要する仕事かもしれません。しかし、皆様の努力によって迎え入れられた一人の人材が、やがて組織全体を、そして地域社会を大きく変える原動力になるかもしれないのです。

 このマニュアルが、皆様の誇りある仕事の一助となり、素晴らしい仲間たちとの出会いを一つでも多く生み出すきっかけとなることを、心から願っています。さあ、未来の自治体を共に創る仲間を、迎えにいきましょう。

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