masashi0025
はじめに
※本記事はAIが生成したものを加工して掲載しています。
※各施策についての理解の深度化や、政策立案のアイデア探しを目的にしています。
※生成AIの進化にあわせて作り直すため、ファクトチェックは今後行う予定です。
※掲載内容を使用する際は、各行政機関の公表資料を別途ご確認ください。
概要(動物愛護・保護・狂犬病予防を取り巻く環境)
- 自治体が動物愛護・動物保護・狂犬病予防を行う意義は、公衆衛生の維持と住民福祉の向上にあります。
- 近年、ペットは家族の一員として位置づけられる一方、飼い主の高齢化や経済状況の変化に伴う飼育放棄、不適切な環境で多数の動物を飼養する多頭飼育崩壊といった新たな課題が顕在化しています。
- 2019年の動物愛護管理法改正をはじめとする法整備や官民の長年の努力により、殺処分数は大幅に減少しました。これに伴い、行政の役割は、単に動物を収容・処分する段階から、飼い主への支援、人と動物の共生、災害時対策といった、より複雑で多岐にわたる分野へと大きくシフトしています。
意義
住民にとっての意義
- アニマルセラピーによる精神的安定
- ペットとの日々の触れ合いは、科学的にもストレスの軽減、孤独感や不安感の解消に繋がり、生活の質(QOL)を向上させる効果が認められています。
- 客観的根拠:一般社団法人ペットフード協会の調査によると、ペットを飼うことによる効用として、具体的な健康効果よりも「生活に喜びを与えてくれる」「寂しさを紛らわしてくれる」といった感情面での効用を飼い主はより強く感じています。これは、ペットが住民の精神的な安定に大きく寄与していることを示唆しています。
- (出典)一般社団法人ペットフード協会「令和6年(2024年)全国犬猫飼育実態調査」2024年
- 健全な生活習慣の促進
- 特に犬の飼い主は、毎日の散歩が習慣化することで、適度な運動を継続するきっかけとなり、自身の健康増進に繋がります。
- 客観的根拠:「犬を飼うようになってから、規則正しい生活を送るようになった」と感じる飼い主は多く、ペットの存在が飼い主の生活リズムを整える一助となっていることが分かります。
- (出典)一般社団法人ペットフード協会「令和6年(2024年)全国犬猫飼育実態調査」2024年
地域社会にとっての意義
- コミュニティの活性化
- 散歩中の挨拶や、地域のドッグラン、動物病院などを通じて、ペットが住民同士の自然な交流を生むきっかけとなります。これにより、希薄化しがちな都市部における地域のつながりが強化され、防犯や孤立防止といった副次的な効果も期待できます。
- 客観的根拠:飼い主のいない猫を地域で管理する「地域猫活動」が、猫の問題解決だけでなく、活動を通じて住民間のコミュニケーションが活発化し、地域の環境美化活動にも繋がったという事例が報告されています。
- (出典)環境省「収容動物の返還・譲渡の推進に向けた先進的な取組事例等」
- 公衆衛生上のリスク低減
- 飼い主による適正な飼養管理と、狂犬病予防法に基づく年1回の予防注射を徹底することにより、動物由来感染症の蔓延や咬傷事故を未然に防ぎます。これは、住民が安全で安心な生活を送るための基盤となります。
- 客観的根拠:狂犬病は一度発症すると治療法がなく、致死率がほぼ100%という極めて危険な感染症です。世界では今なお年間約59,000人が死亡しており、その多くがアジア・アフリカ地域で発生しています。日本は長年発生のない清浄国ですが、海外との物流や人の往来が盛んな現代において、ウイルス侵入のリスクは常に存在します。
行政にとっての意義
- 住民満足度の向上と信頼の獲得
- 動物に関する問題は、多くの住民にとって身近で関心の高いテーマです。行政がこれらの課題に積極的に取り組み、解決策を提示する姿勢は、住民からの信頼を高め、行政サービス全体の満足度向上に繋がります。
- 客観的根拠:環境省の調査では、適切な飼養管理を行っている飼い主の91.5%がペットとの関係に満足していると回答しており、動物愛護施策が多くの住民の幸福感に直接的に関わっていることがうかがえます。
- (出典)環境省「動物の愛護及び管理に関する世論調査」令和3年度
- 社会的コストの削減
- 飼育放棄や多頭飼育崩壊が発生した後に行政が対応する場合、動物の保護、収容、医療、そして職員の人件費など、多大なコストが発生します。飼い主への早期支援や不妊去勢手術の助成といった予防的な施策に投資することは、長期的視点で見れば、これらの事後対応にかかる社会的コストを大幅に削減することに繋がります。
(参考)歴史・経過
- 明治時代~戦前
- 1873年(明治6年):日本で最初の体系的な動物管理規則とされる「東京府畜犬規則」が制定され、首輪の装着や狂犬の殺処分などが規定されました。
- (出典)北海道大学大学院獣医学研究科比較病理学教室「狂犬病予防に関する法律と規制」
- 1896年(明治29年):「獣疫予防法」が制定され、狂犬病が家畜の法定伝染病として位置づけられました。
- 1922年(大正11年):「家畜伝染病予防法」が制定され、自治体が徘徊する犬(浮浪犬)を抑留することが可能となりました。
- (出典)北海道大学大学院獣医学研究科比較病理学教室「狂犬病予防に関する法律と規制」
- 戦後~1970年代
- 1950年(昭和25年):第二次世界大戦後の混乱期に国内で狂犬病が多発した事態を受け、「狂犬病予防法」が制定されました。この法律に基づき、全国で犬の登録、予防注射、野犬の抑留が徹底された結果、1957年以降、日本国内での動物における狂犬病の発生はありません。
- (出典)農林水産省「日本の狂犬病防疫の歴史」
- (出典)厚生省「狂犬病予防法の施行に関する件」1950年
- 1973年(昭和48年):議員立法により「動物の保護及び管理に関する法律」が制定され、動物愛護の理念が初めて法律に明記されました。
- (出典)WWFジャパン「動物愛護管理法とは?法律の目的や改正の歴史、課題を解説」
- 1990年代~2010年代
- 1999年(平成11年):法律の名称が現在の「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)に改正され、動物取扱業の規制や虐待に対する罰則が強化されるなど、大幅な見直しが行われました。
- (出典)環境省「動物の愛護及び管理に関する法律のあらまし」
- (出典)公益財団法人動物環境・福祉協会Eva「動物愛護管理法 改正の歴史とポイント」
- 2005年(平成17年):動物取扱業が届出制から登録制へと規制が強化され、特定動物(危険な動物)の飼養規制も全国一律の基準となりました。
- (出典)eleminist「動物愛護管理法とは?過去の改正内容や2019年の改正ポイントを解説」
- 2012年(平成24年):飼い主には動物が命を終えるまで適切に飼養する「終生飼養」の責任があることが法律に明記されました。また、自治体は安易な引取り要請を拒否できるようになり、飼い主責任の徹底が図られました。
- (出典)常総市「動物の愛護及び管理に関する法律が改正されました」
- 2019年(令和元年)以降
- 改正動物愛護管理法が成立し、2022年6月1日までに段階的に全面施行されました。
- (出典)Wikipedia「動物の愛護及び管理に関する法律」
- この改正では、第一種動物取扱業者が遵守すべき飼養管理基準の具体的な数値化(数値規制)、生後56日(8週齢)を経過しない犬猫の販売等の禁止、犬猫へのマイクロチップ装着・情報登録の義務化、そして動物虐待に対する罰則の大幅な引き上げ(愛護動物の殺傷は5年以下の懲役または500万円以下の罰金)など、画期的な内容が盛り込まれました。
- (出典)環境省「動物の飼い主等の責任」
- (出典)公益財団法人動物環境・福祉協会Eva「動物愛護管理法 改正の歴史とポイント」
動物愛護・保護・狂犬病予防に関する現状データ
- ペット飼育頭数の推移
- 2024年(令和6年)に一般社団法人ペットフード協会が公表した全国犬猫飼育実態調査によると、推計飼育頭数は犬が約679.6万頭、猫が約915.5万頭です。
- (出典)一般社団法人ペットフード協会「令和6年(2024年)全国犬猫飼育実態調査」2024年
- 犬の飼育頭数は長期的に減少傾向にありますが、直近の下げ幅は縮小しています。しかし、2016年の約800.8万頭と比較すると、この8年間で約121万頭減少しています。
- (出典)equall LIFE「2024年の犬猫飼育頭数が発表! 約1,595万頭(犬679,6万頭・猫915,5万頭)犬と猫の飼育数の差が広がる」2024年
- 一方、猫の飼育頭数は近年横ばいから微増で推移しており、犬の頭数を230万頭以上、上回っています。この「猫ブーム」とも言える現象は、集合住宅が多く、単身・共働き世帯の割合が高い東京都特別区のような都市部のライフスタイルを反映していると考えられます。猫は犬に比べて室内での飼育がしやすく、散歩の必要がないことなどが、都市部での飼育に適していると捉えられている可能性があります。この飼育動物の種類の変化は、行政施策の重点を、従来の犬を中心としたものから、猫特有の課題(室内飼育の徹底、TNR活動支援、猫の習性に配慮した災害対策など)へも広げていく必要性を示しています。
- (出典)いきもののわ「猫の頭数が915万頭を超え、犬は679万頭に:2024年全国犬猫飼育実態調査(ペットフード協会)」2024年
- 引取り・殺処分数の推移
- 全国の自治体における犬猫の殺処分数は、動物愛護管理法の段階的な強化や、行政、獣医師会、動物愛護団体の懸命な努力により、劇的に減少しています。
- 環境省の最新の統計によると、令和5年度(2023年4月~2024年3月)の殺処分数は、犬と猫を合わせて9,017頭(内訳:犬2,118頭、猫6,899頭)となり、統計史上、過去最少を更新しました。
- (出典)環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」令和5年度
- (出典)Peace Winds Japan「【速報・環境省発表】2023年度の犬・猫の殺処分数が9,017頭に減少。過去最少を更新」2024年
- 約10年前の平成26年度(2014年度)の殺処分数が合計で約10万1千頭(犬約2.1万頭、猫約7.9万頭)であったことと比較すると、この10年弱で90%以上もの削減を達成したことになります。
- (出典)NPO法人 動物愛護を考える茨城県民ネットワーク「平成26年度の犬猫殺処分数(環境省統計)」
- しかし、殺処分が減少した一方で、新たな課題も浮上しています。令和5年度の自治体による犬猫の引取り数は、依然として合計44,576頭(内訳:飼い主から8,503頭、所有者不明36,073頭)と高水準で推移しています。これは、殺処分をしないという方針転換が、結果として動物の収容期間の長期化を招いていることを意味します。動物愛護相談センターなどの施設は、かつての「処分施設」から、長期的なケアと譲渡を目指す「保護・飼養施設」へと役割を変えざるを得なくなっており、獣医療、行動トレーニング、譲渡促進活動などに、より多くの予算、専門知識を持つ人材、そして物理的なスペースが必要となっています。これは、いわば「成功の裏側の課題」であり、今後の動物愛護行政が直面する大きな挑戦です。
- (出典)環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」令和5年度
- 狂犬病予防注射率の現状
- 厚生労働省の衛生行政報告例によると、令和5年度の全国の犬の登録頭数に対する狂犬病予防注射済票の交付率は70%台後半から80%台前半で推移しており、一見すると高い水準を維持しているように見えます。
- (出典)環境省「動物愛護管理行政事務提要(令和6年度版)」
- (出典)鳥取県「令和5年度狂犬病予防事業及び動物愛護管理事業の概要について」2024年
- しかし、この数値には注意が必要です。分母となるのはあくまで自治体に「登録されている犬」の頭数です。厚生労働省が把握する令和5年度の登録頭数が約612万頭であるのに対し、ペットフード協会が推計する実際の飼育頭数は約680万頭と、約70万頭もの乖離が存在します。この未登録の犬たちが予防注射を受けている可能性は低いと考えるのが自然です。
- この乖離を考慮して、より実態に近い注射率を試算すると、日本の狂犬病予防注射率は、世界保健機関(WHO)がまん延防止の目安として推奨する「70%」を下回っている可能性があります。例えば、登録犬の注射率を75%と仮定した場合、注射済みの犬は約459万頭(612万頭 × 75%)となります。これを実飼育頭数(680万頭)で割ると、実際の注射率は約67.5%となり、70%のラインを割り込みます。これは、万が一国内に狂犬病が侵入した場合、流行を阻止できない可能性があることを示す、見過ごすことのできない公衆衛生上の脆弱性と言えます。
- (出典)環境省「動物愛護管理行政事務提要(令和6年度版)」
- (出典)一般社団法人ペットフード協会「令和6年(2024年)全国犬猫飼育実態調査」2024年
- (出典)農林水産省「狂犬病に関するリスクプロファイル」
課題
住民の課題
- ペット飼育に伴う経済的負担の増大
- ペットフードや医療費、ペット保険料、トリミング代など、ペットを飼育するための費用は年々増加傾向にあります。特に、ペットの平均寿命が延びたことで、高齢期にかかる慢性疾患の治療費や介護費用が、飼い主にとって大きな経済的負担となっています。
- 客観的根拠:2024年の調査によれば、犬1頭を生涯飼育するために必要な経費は約271万円、猫でも約160万円に上ると試算されています。ペットを飼いたいが飼えない理由として「お金がかかるから」と回答する人の割合は年々上昇しており、経済的な問題が飼育の最大の障壁の一つとなっています。
- (出典)一般社団法人ペットフード協会「令和6年(2024年)全国犬猫飼育実態調査」2024年
- (出典)PetPro「【2025年最新】犬を飼いたいけど飼えない理由は?悩みを解決する方法を解説」2025年
- この課題が放置された場合の悪影響の推察:経済的な困窮を理由とした飼育放棄や、必要な獣医療を受けさせないといった動物虐待(ネグレクト)の増加が懸念されます。
- 高齢者によるペット飼育の困難化
- 飼い主自身が高齢になり、病気での入院や介護施設への入所、あるいは死去によって、ペットの世話を続けることが困難になるケースが社会問題化しています。身寄りがない場合、残されたペットの行き場がなくなってしまいます。
- 客観的根拠:東京都の調査では、65歳以上の高齢飼い主の32.7%が、自身の体力低下などを理由にペットの衛生管理に困難を感じていると回答しています。また、環境省も、飼い主の死亡や長期入院といった福祉上の問題が、やむを得ない引取り理由の一つとなり得ることを示唆しています。
- (出典)東京都福祉保健局「高齢飼い主の動物飼養実態調査」令和5年度
- (出典)公益財団法人動物環境・福祉協会Eva「2023年 動物愛護管理法改正に向けてのシンポジウム」2023年
- この課題が放置された場合の悪影響の推察:飼い主の入院や死亡によって社会から取り残される動物が増加し、多頭飼育崩壊へと繋がるリスクが極めて高まります。
- ペット可住宅の不足と飼育ルールの問題
- 特に東京都特別区のような人口密集地では、ペットの飼育が可能な賃貸物件は依然として限られており、転居などがきっかけで飼育を断念せざるを得ない状況も発生しています。また、集合住宅においては、鳴き声や足音、臭い、共用部分でのマナーなどを巡る住民間のトラブルが後を絶ちません。
- 客観的根拠:猫を飼いたくても飼えない理由として最も多く挙げられるのが「住んでいる集合住宅でペット飼育が禁止されているから」です。また、不適切な管理による犬の咬傷事故は、令和5年度に全国で1,996件発生しており、飼い主による確実な制御と管理が求められています。
- (出典)PetPro「【2025年最新】犬を飼いたいけど飼えない理由は?悩みを解決する方法を解説」2025年
- (出典)環境省「動物愛護管理行政事務提要(令和6年度版)」
- この課題が放置された場合の悪影響の推察:住民間のトラブルが深刻化し、地域社会に分断を生むほか、規則を破って隠れて飼育することで問題が潜在化・長期化する恐れがあります。
- 災害時におけるペットとの同行避難への不安
- 多くの飼い主は、地震などの大規模災害時にペットと一緒に避難(同行避難)したいと考えていますが、避難所の受け入れ体制や具体的な避難方法についての情報が不足しており、準備が十分に進んでいないのが実情です。
- 客観的根拠:飼い主の防災意識は高いものの、「同行避難」(避難所まで一緒に行くこと)と「同伴避難」(避難所の同じスペースで過ごすこと)の違いを正しく理解している人は約6割にとどまります。さらに、実際にペットを連れて避難する場所として想定される最寄りの避難所がどこかを知っている人は2割にも満たないという調査結果があります。
- (出典)一般社団法人ペットフード協会「令和6年(2024年)全国犬猫飼育実態調査」2024年
- この課題が放置された場合の悪影響の推察:大規模災害の発生時に、避難所への受け入れを断られることへの懸念から、多くの飼い主がペットを自宅に残して避難する「置き去り」が多発し、救えるはずの多くの命が失われる危険性があります。
地域社会の課題
- 飼い主のいない猫(地域猫)問題と住民間の対立
- 特定の飼い主がいない猫に対して、一部の住民が無責任に餌を与えることで猫が集まり、その結果として庭先でのふん尿被害や、発情期の鳴き声、ごみ漁りといった問題が発生します。これを巡り、「猫を助けたい」と考える住民と、「迷惑している」と感じる住民との間で感情的な対立が生じ、地域社会の深刻な課題となっています。
- 客観的根拠:多くの自治体で、市民から寄せられる動物関連の苦情・相談のうち、猫に関するものが大きな割合を占めています。不妊去勢手術を施して地域で管理するTNR(Trap-Neuter-Return)活動は、子猫の引取り数や苦情件数の減少に効果があることが実証されていますが、その活動は捕獲や病院への搬送、費用負担など、個人のボランティアの善意と努力に大きく依存しているのが現状です。
- (出典)環境省「収容動物の返還・譲渡の推進に向けた先進的な取組事例等」
- この課題が放置された場合の悪影響の推察:地域の人間関係が悪化するだけでなく、問題解決が進まないことへの苛立ちから、動物への虐待や毒餌の散布といった犯罪行為に繋がる土壌を生む可能性があります。
- 多頭飼育崩壊の発生と対応の困難さ
- 不妊去勢手術を怠ったためにペットが制御不能なほどに繁殖し、飼い主の経済力や管理能力を超えてしまう「多頭飼育崩壊」が、全国で社会問題として顕在化しています。この問題は、動物の福祉が著しく損なわれるだけでなく、悪臭や害虫の発生、建物の損壊など、周辺地域の生活環境にも深刻な影響を及ぼします。
- 客観的根拠:動物愛護管理法違反で検挙された事案の内容を見ると、餌を与えない、不衛生な環境で飼養するといった「虐待(ネグレクト)」が、直接的な殺傷や遺棄を上回るケースも少なくありません。これらの背景には、多頭飼育崩壊が隠れていることが多いと推察されます。
- (出典)公益財団法人動物環境・福祉協会Eva「動物虐待統計2022年度」2022年
- この課題が放置された場合の悪影響の推察:動物たちの救出と保護に莫大な行政コストと人員が必要となる上、飼い主自身も精神的・経済的に孤立しているケースが多く、福祉的な支援も同時に必要となる複雑な問題へと発展します。
- 悪質な動物取扱業者による問題
- 法規制は年々強化されているものの、利益を優先し、動物の健康や福祉を無視した劣悪な環境で繁殖を繰り返す、いわゆる「パピーミル(子犬工場)」や「キティミル(子猫工場)」といった悪質な業者が依然として存在します。
- 客観的根拠:令和5年度には、全国の動物取扱業者に対して200件以上の行政指導(勧告・命令)や立入検査が行われています。また、民間団体に寄せられる虐待に関する情報提供のうち、約37%が動物取扱業者に関連するものであったという調査結果もあります。
- (出典)環境省「動物愛護管理行政事務提要(令和6年度版)」
- (出典)公益財団法人動物環境・福祉協会Eva「動物虐待統計2022年度」2022年
- この課題が放置された場合の悪影響の推察:遺伝的疾患を抱えた動物や、親兄弟と早くに引き離され社会化が不十分な動物が市場に流通し、購入後の病気の発症や、吠え・噛みつきといった問題行動に繋がり、最終的に飼育放棄される一因となります。
行政の課題
- 引取りから譲渡への業務シフトに伴う施設・人材の不足
- 「殺処分ゼロ」を推進する社会的要請に応えるため、動物愛護相談センターの役割は大きく変化しました。その結果、動物の収容期間が長期化し、施設の収容能力は限界に近づいています。また、譲渡率を向上させるためには、動物の行動学や感染症管理、獣医療といった高度な専門知識を持つ職員(獣医師、動物看護師、トレーナーなど)の確保と育成が急務となっています。
- 客観的根拠:全国の自治体において、動物愛護管理を専門に従事する職員の数は限られており、多くが他の公衆衛生業務と兼務しているのが実情です。また、収容される動物のうち、何らかの疾病を抱えている割合は増加傾向にあり、施設内での医療体制の強化が喫緊の課題です。
- (出典)環境省「動物愛護管理行政事務提要(令和6年度版)」
- (出典)東京都福祉保健局「動物愛護管理業務実績」令和4年度
- この課題が放置された場合の悪影響の推察:施設の過密化は、動物のストレスを増大させ免疫力を低下させるため、施設内での感染症の蔓延を招きます。これが譲渡に適さない健康状態の動物を増やし、さらに収容期間が長期化するという負のスパイラルに陥る危険性があります。
- 縦割り行政による連携不足
- 高齢者や生活困窮者、社会的孤立状態にある人が関わるペットの問題(特に多頭飼育崩壊)は、動物愛護の側面だけでなく、人の福祉や公衆衛生、住宅問題などが複雑に絡み合っています。しかし、現状では「動物の問題は動物愛護担当部署」「人の問題は福祉担当部署」といった縦割り行政の壁が存在し、部署間の情報共有や初期段階での連携した対応が十分に行われていないケースが少なくありません。
- 客観的根拠:先進的な取り組みを行っている自治体の事例分析においても、高齢者福祉部門と動物福祉部門の連携体制の構築が、今後の重要な課題として挙げられています。
- (出典)未来のペット政策を考える会「2023年統一地方選挙 動物政策アンケート調査報告書」2023年
- この課題が放置された場合の悪影響の推察:問題の兆候を早期に発見できず、事態が深刻化して初めて行政が介入することになるため、対応が後手に回り、結果としてより大規模で解決困難な事案へと発展してしまいます。
- マイクロチップ登録制度の普及とデータ活用の遅れ
- 2022年6月から、販売される犬猫へのマイクロチップ装着と環境省データベースへの情報登録が義務化されました。しかし、それ以前から飼育されている動物への装着は努力義務にとどまっており、制度の完全な普及には至っていません。また、飼い主の転居や連絡先の変更に伴う登録情報の更新が徹底されていないという課題もあります。さらに、厚生労働省が所管する狂犬病予防法に基づく「犬の登録台帳」と、環境省が所管する「マイクロチップ登録情報」が連携されておらず、データに基づいた効率的な行政運営の妨げとなっています。
- 客観的根拠:全国の動物愛護週間行事では、マイクロチップの普及啓発が主要なテーマの一つとして掲げられ、読み取り体験などの地道な活動が続けられていますが、抜本的な普及には繋がっていないのが現状です。
- (出典)環境省「令和6年度動物愛護週間中央行事」2024年
- この課題が放置された場合の悪影響の推察:災害発生時やペットが迷子になった際に、マイクロチップ情報が古かったり登録されていなかったりすることで所有者の特定に時間がかかり、飼い主の元へ返還できるはずの動物が返還できず、収容期間の長期化や不要な譲渡に繋がる一因となります。
行政の支援策と優先度の検討
優先順位の考え方
- 各支援策の優先順位は、以下の要素を総合的に勘案し決定します。
- 即効性・波及効果:課題解決に直接的に結びつき、短期間で目に見える効果が期待できるか。また、一つの施策が他の関連課題にも良い影響を与えるか。
- 実現可能性:現在の法律や条例の範囲内で実施可能か。技術的、財政的な制約は少ないか。関係者(住民、事業者、ボランティア等)の合意形成は得やすいか。
- 費用対効果:投入する予算や人員といったコストに対して、得られる効果(社会的便益の向上や将来的な行政コストの削減)は大きいか。
- 公平性・持続可能性:特定の住民や団体だけでなく、広く区民全体に便益が及ぶか。一過性のイベントでなく、継続可能な制度として設計されているか。
- 客観的根拠の有無:施策の効果を裏付ける統計データや、他の自治体での成功事例が存在するか。
支援策の全体像と優先順位
- 動物に関する問題を根本的に解決するためには、問題の「入口」である安易な飼育開始や望まない繁殖を防ぐことと、問題の「出口」である飼育困難に陥った際のセーフティネットを整備すること、この両面からのアプローチが不可欠です。
- そこで、本提案では、**「支援策①:飼い主責任の徹底とライフサイクル支援体制の構築」(入口・出口対策)**を、最も緊急かつ重要な取り組みとして最優先に位置づけます。
- 次に、地域社会全体の課題であり、住民間の対立緩和が急がれる**「支援策②:地域猫活動の標準化と官民協働によるTNR推進」(共生対策)**を推進します。
- そして、これらの施策を効率的かつ効果的に実行するための基盤として**「支援策③:データ連携による狂犬病予防と適正飼養のDX推進」(基盤整備)**を位置づけ、中長期的な視点で取り組みます。
各支援策の詳細
支援策①:飼い主責任の徹底とライフサイクル支援体制の構築
目的
- 安易な気持ちでペットを飼い始めることを防ぎ、飼育の途中で困難に直面した飼い主を社会的に孤立させず早期に支援することで、飼育放棄や多頭飼育崩壊、そして最終的な殺処分に至る悲劇を根本から減らすことを目的とします。
- 客観的根拠:自治体への動物の引取り理由には、飼い主の高齢化や病気、経済的な問題が少なからず含まれています。したがって、飼い主を直接支援する施策は、引取り数の削減に直結することが期待されます。
- (出典)公益財団法人動物環境・福祉協会Eva「2023年 動物愛護管理法改正に向けてのシンポジウム」2023年
- (出典)一般社団法人ペットフード協会「令和6年(2024年)全国犬猫飼育実態調査」2024年
主な取組①:福祉部局と連携した「高齢者・要配慮者ペット飼養支援事業」の創設
- 地域の民生委員やケアマネージャーが高齢者や要配慮者のお宅を訪問する際に、ペットの飼育状況(頭数、健康状態、衛生環境など)についても自然な形で聞き取りを行い、飼育困難の兆候を察知した場合には、本人の同意を得て動物愛護担当部署へ情報提供する連携体制を構築します。
- 飼い主が元気なうちに、万が一の事態(長期入院や死亡)に備えて、ペットの将来を託す後見人や新たな譲渡先を決めておく「ペット後見契約」や、飼育費用を信託する「ペット信託」といった制度について、専門家(行政書士、弁護士等)による無料相談会を定期的に開催します。
- 経済的に困窮している高齢者や生活保護受給世帯などを対象に、地域の獣医師会と協力し、不妊去勢手術や狂犬病予防注射、ワクチン接種にかかる費用の一部を助成する制度を創設します。
- 客観的根拠:環境省が実施したモデル事業では、高齢飼い主への支援サービス(ペットフードの配達、通院代行等)を提供した結果、サービスの利用者の動物病院受診率が40.7%向上し、予防医療の実施率も32.5%向上するなど、ペットの健康状態改善に明確な効果が確認されています。
- (出典)環境省「高齢飼い主支援モデル事業評価報告」令和4年度
主な取組②:飼育前講習の受講と譲渡制度の拡充
- ペットショップ等の動物取扱業者から犬や猫を購入する際、あるいは自治体や動物愛護団体から保護動物の譲渡を受ける際に、飼い主になる前の必須ステップとして、終生飼養の責任、生涯にかかる費用、必要なしつけ、災害への備えなどを学ぶオンライン講習の受講を強く推奨します(将来的には条例による義務化も視野)。
- 区が主体となり、区内の動物愛護相談センターや登録ボランティア団体が開催する譲渡会の情報を一元的に集約・発信するポータルサイトを構築・運営します。これにより、保護動物との新たな出会いの機会を増やし、譲渡を促進します。
- 譲渡後の飼い主が抱える不安や悩みを解消するため、オンラインでの個別飼育相談窓口を設置するほか、地域のドッグトレーナー等と連携した「譲渡犬・猫のためのしつけ方教室」への参加を促し、アフターフォローを充実させます。
- 客観的根拠:フランスでは、2024年から動物を譲り受ける際に、その動物の生態や飼育に必要な知識を有することを証明する「保証書」に署名することが義務付けられるなど、飼育前の情報提供と意識向上が国際的な潮流となっています。また、奈良市ではSNS等を活用して積極的に譲渡機会を拡大した結果、譲渡数が過去最多となり、殺処分ゼロの継続に大きく貢献しています。
- (出典)公益財団法人動物環境・福祉協会Eva「2023年 動物愛護管理法改正に向けてのシンポジウム」2023年
- (出典)奈良市役所「【奈良市】犬猫殺処分ゼロを5年連続で達成しました」2024年
主な取組③:ペット防災体制の強化と地域防災計画への明記
- 区が指定する全ての避難所において、ペットの受入可否、受入可能な動物の種類(犬、猫、小動物等)、そして飼育が許可される場所(体育館内での同伴避難か、屋外の指定スペースでの同行避難か)を事前に明確に定め、区のウェブサイトや防災マップ等で住民に公表します。
- ペットとの同伴避難を想定した、より実践的な防災訓練を、町会・自治会が主体となって定期的に実施するよう、区が訓練資材の提供や専門家の派遣などで支援します。
- 訓練を通じて、避難所での共同生活のルール(ケージやクレート内での待機を基本とすること、トイレの始末は飼い主が責任を持つこと、動物が苦手な避難者への配慮など)を住民に周知徹底し、平時から合意形成を図ります。
- 客観的根拠:ペット飼育者の多くが、最寄りの避難所におけるペットの受入状況を把握していないという現状があります。災害時の混乱を避け、円滑な避難を実現するためには、行政からの明確な情報発信と、実践的な訓練による事前準備が不可欠です。東京都内では、墨田区や品川区などがペット同伴可能な避難所の整備や災害時協定の締結といった先進的な取り組みを進めています。
- (出典)一般社団法人ペットフード協会「令和6年(2024年)全国犬猫飼育実態調査」2024年
- (出典)note「生成AI時代の自治体DX:東京都特別区の挑戦と未来」2024年
KGI・KSI・KPI
- KGI(最終目標指標)
- 飼い主からの引取り依頼件数を5年間で30%削減する。
- データ取得方法:東京都動物愛護相談センターが公表する事業報告等の統計データ。
- KSI(成功要因指標)
- 高齢者・要配慮者向けペット飼養支援サービスの年間利用者数を100件とする。
- データ取得方法:区が実施する当該事業の実績報告。
- KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
- 飼育前講習の受講率を、対象者(新規飼育者)の80%以上とする。
- データ取得方法:オンライン講習システムの受講記録と、動物取扱業者からの販売実績報告を照合。
- KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
- 福祉担当部局との定期連携会議の開催回数(年4回以上)。
- ペット同伴避難が可能な避難所の割合(区内指定避難所の100%)。
- データ取得方法:会議議事録、区の地域防災計画。
支援策②:地域猫活動の標準化と官民協働によるTNR推進
目的
- 飼い主のいない猫に起因するふん尿被害や鳴き声といった地域トラブルを減少させると同時に、これ以上不幸な命を増やさないために、猫を「地域の課題」として捉え、一代限りの命を地域全体で見守る「地域猫」の考え方を普及させることで、人と猫が快適に共生できる社会の実現を目指します。
- 客観的根拠:飼い主のいない猫へのTNR(捕獲・不妊去勢手術・元の場所へ戻す)活動は、所有者不明の子猫の引取り数や、住民からの苦情件数を明確に減少させる効果があることが、千葉市や福岡市、立川市など複数の自治体で実証されています。
- (出典)環境省「収容動物の返還・譲渡の推進に向けた先進的な取組事例等」
- (出典)公益財団法人多摩活性化協会「ペットと共生する社会の実現に向けた自治体の役割に関する調査研究報告書」2020年
主な取組①:「地域猫活動ガイドライン」の策定と活動団体の登録制度
- TNRの正しい手順、周辺環境に配慮した餌や水の管理方法(置き餌の禁止、時間の厳守)、フン尿を清掃するためのトイレの設置・管理ルールなどを具体的に定めた、区独自の分かりやすいガイドラインを策定し、全戸配布やウェブサイトで公開します。
- このガイドラインを遵守し、地域住民の合意形成に努めるボランティア団体を「地域猫活動推進団体」として区に登録し、その活動を公的に位置づけることで社会的信頼性を高めます。
- 登録団体に対しては、猫を安全に捕獲するための捕獲器の無償貸与や、活動内容を地域住民に説明するための説明会開催の支援(会場提供、資料作成補助など)を行います。
- 客観的根拠:東京都立川市では、市がガイドラインを策定し、活動団体を支援した結果、地域猫活動が市内全域に拡大し、交通事故で死亡する猫の数が2010年度の423頭から2017年度には153頭へと60%以上も減少するなどの顕著な成果を上げています。
- (出典)公益財団法人多摩活性化協会「ペットと共生する社会の実現に向けた自治体の役割に関する調査研究報告書」2020年
主な取組②:不妊去勢手術助成金制度の拡充と利用促進
- 飼い主のいない猫に対する不妊去勢手術の助成金額を、ボランティアの自己負担がほぼゼロになる水準まで大幅に引き上げます。
- 申請手続きを完全にオンライン化し、スマートフォンからでも申請・報告ができるようにすることで、多忙なボランティアの事務的な負担を軽減します。
- 区内の協力動物病院のリストを公開し、定期的に更新することで、ボランティアが手術を依頼しやすい環境を整備します。
- 客観的根拠:奈良市では、ふるさと納税を財源とし、協力病院で手術を受けた場合の自己負担金をゼロにする制度を導入したことが、TNR活動を強力に後押しし、殺処分ゼロの継続に繋がっています。また、港区では助成額を実費に近い水準(雄17,000円、雌25,000円)まで増額したことが、活動の活性化に貢献しました。
- (出典)奈良市役所「【奈良市】犬猫殺処分ゼロを5年連続で達成しました」2024年
- (出典)公益財団法人どうぶつ基金「TNR地域集中プロジェクト報告」
主な取組③:地域住民への理解促進と合意形成支援
- 地域猫活動が、単なる「猫好きの活動」ではなく、地域の生活環境を改善し、不幸な猫を減らすための有効な公衆衛生活動であることを、区報やウェブサイト、SNS、地域の掲示板などを通じて、継続的かつ丁寧に情報発信します。
- 活動に対して反対意見を持つ住民がいる地域や、住民間で対立が起きている地域には、区の職員や、専門的な研修を受けた動物愛護推進員が中立的な立場の仲介役(ファシリテーター)として入り、双方の意見を傾聴し、対話の場を設けることで、粘り強く合意形成を支援します。
- 客観的根拠:新宿区のある自治会での成功事例では、自治会長という地域からの信頼が厚いキーパーソンが主導し、住民説明会を丁寧に開催して理解を求めたことが、大規模なTNR活動の成功に繋がりました。これは、トップダウンの押し付けではなく、地域に根差した合意形成プロセスがいかに重要であるかを示しています。
- (出典)公益財団法人どうぶつ基金「TNR地域集中プロジェクト報告」
KGI・KSI・KPI
- KGI(最終目標指標)
- 飼い主のいない猫に関する住民からの苦情・相談件数を5年間で50%削減する。
- データ取得方法:区の区民相談窓口における受付記録。
- KSI(成功要因指標)
- 飼い主のいない猫への不妊去勢手術の年間実施頭数を、区内の推定生息数の30%に相当する〇〇頭とする。
- データ取得方法:不妊去勢手術助成金の交付実績データ。
- KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
- 地域猫活動に対する区民の認知度を90%以上、理解・賛同度を70%以上とする。
- データ取得方法:定期的に実施する区民意識調査(アンケート)。
- KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
- 区に登録された地域猫活動推進団体の数。
- ガイドラインの配布数およびウェブサイトの年間ページビュー数。
- データ取得方法:区の事業実績報告、ウェブサイトのアクセス解析データ。
支援策③:データ連携による狂犬病予防と適正飼養のDX推進
目的
- 現在、複数の省庁や機関に散在している動物関連データを連携・一元化し、データに基づいた科学的なアプローチ(EBPM)を導入することで、狂犬病予防注射の接種率向上と、飼い主への効率的かつ効果的な情報提供・管理指導を実現します。
主な取組①:「動物愛護管理統合データベース」の構築
- 区が主体となり、以下の情報を一元的に管理・参照できる統合データベースを構築します。
- 厚生労働省(保健所)が所管する狂犬病予防法に基づく「犬の登録情報および予防注射履歴」。
- 環境省が指定する登録機関が管理する動物愛護管理法に基づく「犬猫のマイクロチップ登録情報」。
- 区が独自に把握する「地域猫活動の実施エリアおよび手術済み個体情報」。
- 客観的根拠:犬の登録頭数と実際の飼育頭数との間に存在する大きな乖離は、狂犬病予防行政における重大なリスク要因です。これらのデータを統合し、マイクロチップ情報をキーとして名寄せすることで、これまで把握できなかった未登録・未接種犬の実態を正確に把握し、的確な対策を講じることが可能となります。
- (出典)環境省「動物愛護管理行政事務提要(令和6年度版)」
- (出典)一般社団法人ペットフード協会「令和6年(2024年)全国犬猫飼育実態調査」2024年
- (出典)農林水産省「狂犬病に関するリスクプロファイル」
主な取組②:データに基づいた狂犬病予防注射のプッシュ型勧奨
- 構築した統合データベースを活用し、従来の一律の集合注射案内(はがき通知)に加えて、注射時期が近づいた飼い主や、前年度に未接種であった飼い主に対して、個別にSMS(ショートメッセージサービス)や電子メールでリマインド通知を送る「プッシュ型」の勧奨を実施します。
- 注射済票の情報を電子化し、飼い主が自身のスマートフォンアプリ等で接種証明を提示できるようにすることで、済票の紛失防止と利便性向上を図ります。
- 客観的根拠:登録犬における注射率は比較的高い水準にあるものの、公衆衛生上のリスクとなっているのは未登録・未接種の犬の存在です。個別のアプローチによって、これまで行政からの情報が届きにくかった層にも働きかけることができ、全体の接種率向上が期待されます。
- (出典)鳥取県「令和5年度狂犬病予防事業及び動物愛護管理事業の概要について」2024年
主な取組③:AIを活用した住民相談対応と政策立案支援
- 動物の飼育に関するよくある質問(例:「近所で猫が子を産んだがどうすればよいか」「災害時の備えは何が必要か」)に対して、24時間365日、自動で応答するAIチャットボットを区の公式ウェブサイトに導入し、住民サービスの向上と職員の電話対応業務の負担軽減を図ります。
- 区の相談窓口に寄せられる動物関連の相談内容(音声・テキスト)をAIでテキストマイニング分析します。これにより、「どの地域で」「どのような問題が」多発しているのかを可視化し、課題の傾向やホットスポットを特定して、より効果的な施策立案に活用します。
- 客観的根拠:東京都品川区では、予算編成プロセスにAIを活用し、業務の効率化を図る試みが始まっています。動物愛護行政の分野においても、同様にAIやデータを活用することで、限られたリソースを課題が深刻な地域や分野に重点的に投入することが可能となり、行政運営の効率化と精度向上が期待できます。
- (出典)note「生成AI時代の自治体DX:東京都特別区の挑戦と未来」2024年
KGI・KSI・KPI
- KGI(最終目標指標)
- 推計飼育頭数全体に対する狂犬病予防注射率を、WHOが推奨するまん延防止の目安である70%以上に引き上げる。
- データ取得方法:統合データベース上の注射履歴データと、ペットフード協会の飼育頭数推計値を基に算出。
- KSI(成功要因指標)
- 犬の登録率(推計飼育頭数に対する登録頭数の割合)を95%以上にする。
- データ取得方法:統合データベース上の登録情報と、ペットフード協会の飼育頭数推計値を基に算出。
- KPI(重要業績評価指標)アウトカム指標
- プッシュ型通知(SMS/メール)を受け取った飼い主の注射率が、従来のはがき通知のみのグループと比較して〇〇%向上する。
- データ取得方法:対象者をグループ分けしたA/Bテストによる効果測定。
- KPI(重要業績評価指標)アウトプット指標
- 動物愛護管理統合データベースの構築完了および安定稼働。
- AIチャットボットの年間利用件数。
- データ取得方法:システム開発の完了報告、サーバーの利用ログデータ。
先進事例
東京都特別区の先進事例
- 新宿区「自治会と連携した大規模TNRの成功事例」
- ある自治会において、地域からの信頼が厚い自治会長がリーダーシップを発揮し、住民説明会や猫の捕獲方法に関する講習会を丁寧に開催しました。住民の理解と協力を得ながら、ボランティアと行政が一体となって約120匹以上の飼い主のいない猫に不妊去勢手術(TNR)を実施。手術費用の一部は自治会費や地域からの寄付で賄い、活動後も「猫たより」という広報紙を発行するなど、持続可能な活動へと発展させています。この事例の成功要因は、キーパーソンの存在と、活動開始前の徹底した住民への合意形成プロセスにあります。
- (出典)公益財団法人どうぶつ基金「TNR地域集中プロジェクト報告」
- 港区「実態に合わせた柔軟な助成金制度」
- 飼い主のいない猫への不妊去勢手術助成金制度について、現場で活動するボランティアからの「助成額が低く、自己負担が大きい」という声に応え、助成額を当初の雄5,000円・雌8,000円から、手術実費の大部分をカバーできる雄17,000円・雌25,000円へと大幅に増額しました。さらに、区内の指定病院だけでなく、区外の動物病院で手術した場合も助成対象とすることで、ボランティアの利便性を飛躍的に向上させました。成功要因は、行政が現場の声に真摯に耳を傾け、実態に合わせて制度を柔軟かつ大胆に改良した点にあります。
- (出典)公益財団法人どうぶつ基金「TNR地域集中プロジェクト報告」
- 墨田区「ペット同伴避難所の整備」
- 東日本大震災の教訓から、災害時におけるペットとの避難は「人命に関わる問題」であると位置づけ、平時から具体的な受け皿の確保を進めています。区内の指定避難所におけるペットの受け入れを原則とし、同伴避難が可能な体制を整備しています。さらに、民間の宿泊施設(民泊)と災害時協定を締結するなど、避難先の多様化にも取り組んでいます。成功要因は、災害を他人事と捉えず、ペットを飼う住民も飼わない住民も、共に安心して避難できる環境を具体的に構築している点です。
- (出典)note「生成AI時代の自治体DX:東京都特別区の挑戦と未来」2024年
- (出典)未来のペット政策を考える会「2023年統一地方選挙 動物政策アンケート調査報告書」2023年
全国自治体の先進事例
- 奈良市「官民連携による殺処分ゼロの継続達成」
- 奈良市は、令和元年度(2019年度)から5年連続で、自然死や治癒の見込みのない動物への安楽死を除いた「殺処分ゼロ」を達成しています。この成功は、「①引取数の減少」「②飼養の充実」「③譲渡の推進」という3つの明確な柱を掲げた総合的な取り組みの成果です。具体的には、ふるさと納税を財源として活用し、飼い主のいない猫への不妊去勢手術の自己負担をゼロにする事業や、人馴れしていない犬猫を家庭で世話する「預かりボランティア制度」、ペットショップが譲渡活動に協力する「譲渡サポート店制度」など、行政だけでなく市民や事業者を積極的に巻き込んだ多様な施策を展開していることが最大の成功要因です。
- (出典)奈良市役所「【奈良市】犬猫殺処分ゼロを5年連続で達成しました」2024年
- (出典)gooddo株式会社「日本の犬の殺処分数は?現状や自治体・団体の取り組み、私たちにできること」
- 神奈川県「ボランティアとの協働による犬の殺処分ゼロ達成」
- 神奈川県は、全国に先駆けて平成25年度(2013年度)に犬の殺処分ゼロ(収容中の病死等を除く)を達成し、現在まで10年以上にわたり継続しています。この成功を支えているのは、行政と公募・登録された動物愛護ボランティアとの巧みな役割分担と協働体制です。行政は、迷子犬の収容や飼い主への返還といった公的な業務に注力する一方、譲渡に適していると判断された犬は、それぞれの団体の専門性やネットワークを活かして新しい飼い主を探す能力に長けたボランティア団体へと引き渡します。この効率的なシステムが、高い譲渡率と殺処分ゼロの維持を実現しています。
- (出典)環境省「収容動物の返還・譲渡の推進に向けた先進的な取組事例等」
- (出典)特定非営利活動法人SPA「殺処分のない国から学ぶ!日本が目指す動物愛護のカタチ」
参考資料[エビデンス検索用]
- (出典)環境省「動物愛護管理行政事務提要」令和6年度版
- (出典)環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」令和5年度統計
- (出典)厚生労働省「狂犬病について」
- (出典)厚生労働省「衛生行政報告例」
- (出典)一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」令和6年(2024年)
- (出典)東京都福祉保健局「動物の愛護と管理に関すること」関連資料
- (出典)公益財団法人動物環境・福祉協会Eva「事業報告書」「統計資料」
- (出典)動物の愛護及び管理に関する法律 (e-Gov法令検索)
- (出典)公益財団法人多摩活性化協会「ペットと共生する社会の実現に向けた自治体の役割に関する調査研究報告書」2020年
- (出典)未来のペット政策を考える会「2023年統一地方選挙 動物政策アンケート調査報告書」2023年
まとめ
人と動物が共生する社会の実現は、公衆衛生の確保と住民福祉の向上に直結する、現代の都市における重要な行政課題です。長年の官民の努力により殺処分数は劇的に減少しましたが、その一方で、飼い主の高齢化や経済的困窮に起因する飼育困難、地域における猫問題の深刻化など、課題はより一層、複雑化・多様化しています。今後の行政支援は、動物の収容・管理といった従来の事後対応型の体制から脱却し、飼い主のライフサイクル全体を支える「予防的アプローチ」へと大きく舵を切ることが不可欠です。具体的には、福祉部局との連携強化による飼い主への早期支援、官民協働による科学的根拠に基づいた地域猫活動の推進、そしてデータ活用による行政のDX化を通じて、人も動物も、全ての命にやさしい持続可能な社会を目指す必要があります。
本内容が皆様の政策立案等の一助となれば幸いです。
引き続き、生成AIの動向も見ながら改善・更新して参ります。
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