80 スキルアップ

今後の展望を見据える!将来推計の作り方

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はじめに

 この連載で扱ってきたフレームワーク(5つの軸)のうち、最も強力でありながら、最も教わる機会がないのが将来推計です。「今はいいが、将来はどうするのか」という問いは、議会でも、財政査定でも、住民説明でも、必ず出ます。そして多くの説明は、この問いの前で立ち往生するか、「引き続き注視してまいります」という空答弁に逃げ込みます。将来を語れないことが、説明のいちばんの弱点になるのです。

 しかし、将来推計は専門機関だけの仕事ではありません。公開データと表計算ソフトがあれば、担当者レベルでも、意思決定に足る精度の見通しは作れます。結論から言えば、推計とは、対象者数・需要・コストという三段の掛け算に分解する作業であり、その各段の前提を開示しさえすれば、誰でも検証可能なたたき台を組み立てられます。

 この記事では、推計の設計思想から、三段の作成手順、感度分析とバックキャスティング、前提条件の文書化、よくある失敗、そして推計を説明の場でどう使うかまでを、数値例を交えて解説します。読み終えれば、自分の事業の10年推計の初版を、半日で作れるようになります。

設計思想:当てることではなく、備えること

予測と推計は違う

 最初に押さえるべきは、行政の将来推計の目的は、未来を言い当てることではなく、意思決定の材料を揃えることだという点です。10年後の対象者数を、一人の誤差もなく予測することは、誰にもできませんし、その必要もありません。必要なのは、「この前提が続けば、概ねこの規模になる」という見通しの構造を関係者で共有し、今の判断(拡充か、維持か、縮小か)の根拠にすることです。推計は、占いではなく、判断の道具なのです。

 この目的から、二つの設計原則が導かれます。第一に、単一の予測値より、前提を変えた複数シナリオの幅で示すこと。第二に、結論の数字より、計算の分解式と前提を開示すること。精度で信頼を得ようとする推計は、一度の反証で崩れます。しかし、透明性で信頼を得る推計は、反証すら「では前提を更新して再計算しましょう」という建設的な議論に変換します。当てにいかないことが、かえって推計を強くするのです。

典型的な批判に、設計で先回りする

 推計を出すと、決まった批判が来ます。「そんな先のことは分からない」には、分からないからこそ幅で示している、という複数シナリオの構造で答えます。「前提が恣意的だ」には、前提の出典と設定根拠の一覧で答えます。「外れたらどうする」には、毎年、実績と突き合わせて更新する運用(ローリング)を、あらかじめ宣言しておくことで答えます。推計は、一度作って終わりの静的な文書ではなく、実績で校正され続ける動的な道具として設計する。この構えがあれば、批判は想定の範囲に収まります。

手順:三段の掛け算に分解する

第一段:対象者数を推計する

 推計の土台は、人口です。全体の将来人口は、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の地域別将来推計人口が標準の出発点で、5歳階級別・男女別の数字が市区町村単位で公表されています。多くの団体は、総合戦略等で独自推計(社人研推計に政策効果や直近の社会増減を織り込んだもの)も持っており、庁内で公式に使う人口は、企画・政策部門に確認して統一します。章によって前提人口が違う資料は、それだけで信頼を失うからです。

 施策の対象者数は、将来人口に出現率を乗じて作ります。基本式は「対象年齢人口×出現率」です。出現率とは、該当年齢人口のうち制度の対象になる人の割合で、直近数年の実績(対象者数÷該当年齢人口)から算出します。たとえば、ある手当の対象者が現在1,200人、該当年齢人口が15,000人なら、出現率は8.0%。10年後の該当年齢人口が社人研推計で12,500人なら、出現率一定シナリオの対象者数は1,000人です。出現率自体が上昇傾向にある場合(認定率の上昇、制度の周知の進展など)は、直近の傾向を緩やかに延長した第二のシナリオを立てます。仮に年0.2ポイントずつ上昇して10年後に10.0%なら、対象者数は1,250人。この二本の線の間が、意思決定で使う「見通しの幅」になります。

第二段:需要を推計する

 対象者数が出たら、需要量(利用件数、申請件数、施設利用、相談件数)に変換します。基本式は「対象者数×利用率」です。利用率は過去実績から算出し、ここでも一定シナリオと傾向延長シナリオを併記します。制度改正や新サービスの登場など、利用率を大きく変えるイベントが見込まれる場合は、類似団体の先行事例の利用率を、第三の参照値として使うと、根拠のある仮定になります。

 この段階の要点は、掛け算の分解をすべて見せることです。「10年後の利用件数は約〇件と見込まれます」という結論だけの推計は、信用されません。「対象者数(A)×利用率(B)=件数、Aの根拠は社人研推計×直近3年平均の出現率、Bの根拠は過去5年の実績平均」という分解を示した推計は、前提のどこかに異論があっても、検証可能なたたき台として、議論の土台に載ります。前回まで述べた「深さ」とは、まさにこの分解を見せることでもあります。

第三段:コストを推計する

 最後に、需要をコストに変換します。基本式は「需要量×単価」で、単価は直近の決算値から実績単価(決算額÷件数)を割り出して使います。ここで、必ず組み込むべき視点が三つあります。

 第一に、単価の上昇です。人件費や委託料の単価を据え置いた推計は、ほぼ確実に過小推計になります。直近の労務単価や委託契約の改定率を参考に、控えめでも上昇率を織り込みます。第二に、更新費用の山です。施設・設備・システムには、経常コストとは別に、周期的に訪れる大規模更新の波があります。経常の線に更新の山を重ねたグラフは、将来負担の議論で最も説得力のある提示形式です。第三に、比較の軸です。「現状の水準を維持した場合」と「見直した場合(拡充・縮小・手法変更)」の二本のコスト線を引き、10年間の累計差額を示す。この累計差額こそ、施策の見直し論議に、決定的な数字を供給します。現状維持は、しばしば最も高くつく選択であることが、ここで初めて可視化されます。

感度分析とバックキャスティングで、一段深める

 三段の掛け算ができたら、二つの視点で一段深めます。一つは、感度分析です。複数の前提のうち、どれを動かすと結果が大きく変わるのかを見ておく。対象者数か、利用率か、単価か。結果を最も左右する前提が分かれば、議論すべき論点も、実績で重点的に追うべき指標も、自ずと定まります。感度の高い前提こそ、注記を厚くし、毎年の校正で優先的に見直すべきところです。

 もう一つは、バックキャスティングです。フォアキャスティングが「今の傾向を延ばすとこうなる」だとすれば、バックキャスティングは「望ましい将来から逆算すると、今から何が必要か」を問う視点です。「10年後にこの水準を保つには、いつ、どれだけの手を打つ必要があるか」。この問いは、現状維持の惰性を断ち、推計を、単なる予測から、計画のためのKPIへとつなげます。二つの視点を持つことで、推計は、受け身の見通しから、能動的な政策設計の道具に変わります。

前提条件シートが、推計の生命線

 推計の価値は、精度ではなく、透明性で決まります。だから、推計本体と同じ重みで、前提条件シートを作成してください。記載事項は、使用データの出典と年次(社人研〇年推計、△年度決算)、各係数(出現率・利用率・単価・上昇率)の設定根拠、シナリオの定義(何を変えた場合か)、考慮していない要素(制度改正の可能性、大規模開発による人口変動等)、そして次回更新の予定時期です。

 この一枚があるだけで、推計への質問の大半は「シートの〇番をご覧ください」で済みます。逆に、この一枚がない推計は、作成者の異動とともにブラックボックス化し、数年後には、誰も説明できない数字として資料に残り続けます。推計とは、数字の形をした論理です。論理は、書き残されて初めて、組織の資産になります。前提条件シートは、その論理を、次の担当者に手渡すための引継書でもあるのです。

よくある、四つの失敗

 推計づくりでつまずく典型を挙げておきます。第一に、単一の予測値で示すことです。一点で断定すれば、その値が当たるかどうかの不毛な議論に陥ります。必ず幅で示します。第二に、単価の据え置きです。人件費も委託料も上がっていく前提を入れないと、将来コストを過小に見せ、後年度の財政を誤らせます。第三に、前提を書き残さないことです。頭の中だけで組んだ推計は、翌年、作った本人ですら再現できなくなります。第四に、推計値と実績値の混同です。

 最後の点は、特に注意が必要です。推計の数字は、資料のどこに載せる場合も、必ず「推計」「見込み」と明記し、実績値と峻別してください。推計値が独り歩きして、実績のように引用される事故は、作成者の責任で防ぐべき品質管理です。これら四つを避けるだけで、推計の信頼性は大きく上がります。

推計を、説明の場で使う

 予算要求では、将来推計は「なぜ今か」と「効果」の両方を支えます。今年度着手した場合としない場合の将来差を示せば、先送り査定への最強の反論になります。議会答弁では、「将来はどうするのか」への答えとして、幅を持った見通しと、それを毎年更新する運用を示します。断定を避けつつ、空答弁にも逃げない、中間の誠実な答えが、推計によって初めて可能になります。

 公共施設や制度の見直し議論では、現状維持シナリオの累計コストが、感情的になりがちな議論に、共通の土俵を提供します。「変えるコスト」ではなく「変えないコスト」を数字で見せることで、議論は、好き嫌いから、費用と効果の比較へと移ります。将来推計は、最も答えにくい問いへの答えであると同時に、議論の質そのものを引き上げる道具なのです。

AI時代の、将来推計

 表計算やAIを使えば、掛け算の計算も、グラフ化も、シナリオの再計算も、格段に速くなりました。前提を一つ変えたときの再計算は、かつては手間でしたが、今は一瞬です。だとすれば、担当者の仕事は、計算の作業から、前提の設定と結果の解釈へと移ります。どの出現率を使うか、単価の上昇率をどう見込むか、どのシナリオを意思決定に載せるか。この判断は、制度と現場を理解した人間にしかできません。

 AIは、もっともらしい数字を速く出しますが、その前提が現実に合っているか、抜けている要素はないかを見抜くのは、人間の役割です。速く計算させ、前提と解釈で質を与える。将来推計もまた、AIと人間の役割分担が、そのまま当てはまる領域です。

コスト推計を、数値例で通す

 三段の掛け算を、一つの数値例で通してみます。ある事業の対象者が現在1,000人、一人あたりの年間サービス利用が平均2回、実績単価が1回あたり1万円だとすると、現在の事業費は、1,000人×2回×1万円で、年間2,000万円です。ここに、対象者数の将来推計を掛けます。10年後の対象者が社人研推計をもとに1,200人に増えると見込まれるなら、利用率と単価が変わらなくても、事業費は2,400万円へ。対象者数の増加だけで、2割の増です。

 さらに、単価の上昇を織り込みます。人件費や委託料が年1%ずつ上がると仮定すれば、10年で約1割の上昇となり、単価は1万円から約1万1千円へ。これを掛け合わせると、10年後の事業費は約2,640万円になります。対象者増と単価上昇が重なると、現状の水準を維持するだけで、事業費は3割超も膨らむ。この「維持するだけでかかる増」を数字で見せることが、コスト推計のいちばんの価値です。現状維持は、しばしば、無策ではなく、増え続けるコストを黙って引き受ける選択なのです。

推計を、一枚のグラフにする

 推計は、数字の表のままでは、意思決定者に届きません。一枚のグラフに変えて、初めて力を持ちます。基本形は、横軸に年次、縦軸に事業費やコストをとり、複数シナリオの幅を、上限と下限で挟んだ帯として示すものです。単一の線ではなく帯で示すことで、「幅を持った見通し」であることが、視覚的に伝わります。

 これに、二つの工夫を重ねます。一つは、経常的なコストの線に、施設やシステムの大規模更新の山を重ねること。平らに見えたコストが、更新の年に跳ね上がる様子が一目で分かり、将来負担の議論に決定的な材料を与えます。もう一つは、「現状維持の場合」と「見直した場合」の二本の線を引き、その差を塗り分けること。二本の線の間の面積が、見直しによって生まれる差であり、この面積こそが、見直し論議の核心になります。前回まで扱った数字の見せ方の技術が、推計の説得力を最終的に決めるのです。

人口以外の、効くドライバーを見落とさない

 推計というと人口に目が行きがちですが、結果を大きく動かすのは、人口だけではありません。制度改正は、対象範囲や給付水準を一気に変え、推計の前提を根底から動かします。単価の改定、とりわけ人件費や委託料の上昇は、対象者数が横ばいでもコストを押し上げます。利用率の変化も見逃せません。制度の周知が進んだり、オンライン化で利用のハードルが下がったりすると、同じ対象者数でも需要が伸びます。

 だからこそ、推計を作るときは、「この事業のコストを動かす要因は何か」を、人口以外まで含めて洗い出すことが大切です。そのうえで、感度の高い要因、つまり少し動かすと結果が大きく変わる要因を特定し、そこにシナリオの幅を厚く持たせる。人口推計をそのまま延ばすだけの機械的な推計は、制度改正や単価上昇という現実の変化を捉えられず、いざというときに外れます。効くドライバーを見極める目が、推計の質を左右します。

推計は、毎年育てる

 将来推計は、一度作って棚に置く文書ではありません。毎年、実績と突き合わせて更新する、生きた道具です。この、実績で校正しながら前提を更新していく運用を、ローリングと呼びます。今年の実績が出たら、昨年の推計とどれだけずれたかを確認し、ずれの理由(想定より対象者が増えた、単価が上がった等)を踏まえて、前提を修正する。これを毎年繰り返すと、推計は年を追うごとに精度を増していきます。

 ローリングには、もう一つの効用があります。「外れたらどうする」という批判を、あらかじめ無力化できることです。毎年校正する運用を宣言しておけば、多少のずれは、想定内の調整として扱えます。推計は、当たり外れを競うものではなく、実績で修正し続けることで、意思決定を支え続ける道具です。前回まで述べてきた、整理を組織の資産として引き継ぐという考え方は、推計にも当てはまります。前提条件シートとともに毎年更新される推計は、担当者が代わっても生き続ける、組織の見通しになります。

何から作り始めればよいか

 「では、何から手をつければよいか」と問われたら、答えは明確です。まず、自分の事業について、対象者数と利用率の、直近三年分を計算してみてください。対象者数÷該当年齢人口で出現率、需要÷対象者数で利用率。この二つの係数が、推計の最初の部品です。部品さえそろえば、社人研の将来人口を掛けるだけで、10年推計の初版は半日で組み上がります。完璧を目指さず、まず粗い一版を作ることが、将来を語れる担当者への第一歩です。

まとめ

 将来推計は、対象者数(将来人口×出現率)、需要(対象者数×利用率)、コスト(需要×単価、単価上昇と更新の山を織り込む)という三段の掛け算に分解すれば、担当者の手で、半日で初版が作れます。単一の予測ではなくシナリオの幅で示し、感度分析とバックキャスティングで深め、分解式と前提条件シートを開示し、毎年、実績で校正する。この作法で作られた推計は、「将来はどうするのか」という最難問への答えであると同時に、現状維持の隠れたコストを可視化し、組織の意思決定を一段引き上げる道具になります。

 AIが計算を速くする時代だからこそ、どの前提を置き、結果をどう読むかという人間の判断が、推計の価値を決めます。まずは自分の事業で、出現率と利用率の直近三年分を計算することから始めてください。それが、あなたの将来推計の、最初の一部品になります。

 ※本コンテンツは生成AIを活用して作成しています。文中の数値は計算構造を示すための例示です。推計に使用する統計は、必ず最新の公表値をご確認ください。

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